検索結果の削除依頼|検索エンジンとの交渉および削除仮処分の申立て
民事|検索結果の削除方法|検索エンジンに対する削除交渉および検索結果削除仮処分の可否|プライバシーの権利と知る権利・表現の自由の比較考量|最高裁判所平成29年1月31日決定
目次
質問
3年ほど前に私は迷惑防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)で逮捕されてしまいました。
その後、被害者と示談が成立して不起訴処分となったのですが、逮捕された際に報道がなされてしまい、インターネット上に多数の記事が残ってしまっています。新聞社の報道以外にも、匿名の第三者による掲示板への投稿、個人が作成しているブログなど多数に渡っております。
個別の削除交渉もしてきましたが、削除をしてくれないところが多く困っております。これらの記事についてインターネットの検索結果に出てこないようにできないでしょうか。
回答
1 検索エンジンの提供する検索結果ページは、リンク先のURL、表題のみならずスニペットというリンク先ページ内容の抜粋が記載されており、検索エンジン側にも権利侵害の主体になり得るところです。検索エンジンが犯罪歴を公表することは、名誉権・プライバシー権の侵害となりますので、あなたは人格権に基づく差止請求権として、各検索エンジンに対して検索結果削除の権利を有することになります。
他方で、検索結果ページの提供は、表現の自由として保護されるため、プライバシーの侵害が重大であり表現の自由の制限もやむを得ないと認められる場合にしか削除が認められません。そのため、削除の対象となる刑罰の内容、時の経過の程度、侵害を受ける権利の重要性、自己が公益性の高い人物ではないことなどの事情を詳細に主張する必要があります。なお、検索エンジンに対する検索結果の削除請求に関しては、最高裁判所の決定が出ましたので、実務上の扱いに重大な影響が出ることが想定されます。最高裁決定に十分に配慮の上、主張を行うべきといえます。
2 削除の方法としては、任意の交渉、それが十分でない場合には、裁判所に仮処分命令を申し立てる必要があります。任意の削除交渉の場合には、各検索エンジンのフォームに従って削除交渉を行うこととなります。その場合、各検索エンジンが削除のガイドラインを設けている場合がありますので、その判断基準にも配慮した主張を行うこととなるでしょう。
仮処分を申し立てる場合には、詳細な申立書を準備し、権利侵害が明らかであること、違法性阻却事由がないことに加え、保全の必要性(削除を求める緊急性が高いことなど)をしっかりと主張する必要があります。また、仮処分を申し立てる場合には、一定の担保金が必要になります。
最高裁判所の決定の基本的な判断基準は、(1)当該逮捕関連記事を公表されない法的利益(プライバシー保護)と、(2)当該情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して決するというものになります。ただ、最高裁は、前者の利益が後者を「優越することが明らか」な場合に限って、削除を求めることができるものとしており、運用として削除が認められる場合がかなり限定的なときになってしまう可能性があります。
検索エンジンとの交渉・仮処分については専門的な知識・経験が必要になるところですので、お困りの場合には当該問題に精通した弁護士への相談を強くお勧めします。
3 その他関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
第1 検索エンジンに対する削除交渉の可否
1 検索エンジンの内容
今回は検索エンジンに対する検索結果を削除することができるかという相談ですので、まず、簡単に検索エンジンの内容についてみていきます。
検索エンジンとは、「インターネットに存在する情報(ウェブページ、ウェブサイト、画像ファイル、ネットニュースなど)を検索する機能およびそのプログラム」のことをいいます。検索エンジン自体は多数存在していますが、日本において代表的なものは、グーグル及びヤフーの2社になります。検索エンジンは、インターネット上の情報にアクセスするために極めて重要な地位を占めております。
ある特定の文字列を検索窓に入れると、その文字列に関連するウェブページの一覧を表示した検索結果ページが出てきます。検索エンジンによる検索結果は、次のような構成となっています。
- 当該ウェブページの表題(タイトル)
表題をクリックすると、そのサイトに移動することができ、容易に情報の取得が可能となっています。 - URL
- スニペット
当該ウェブページの内容の抜粋が表題の下に表示されます。検索キーワードと当該ウェブページが関連していることを、検索結果自体から把握することが可能となっています。
2 名誉権侵害・プライバシー権侵害
本件のような犯罪歴に関する情報が検索結果ページに表示された場合、その検索結果自体を権利侵害と捉え、検索エンジンに対して検索結果を削除するように求めることが可能かが問題となります。
法的な請求としては、名誉権・プライバシー権といった人格権に基づく差止請求権の行使として、検索結果の削除を求めていくこととなりますが、検索エンジンの提供する検索結果ページ自体が名誉権・プライバシー権といった法的権利を侵害していないかが問題となります。検索エンジンは検索結果を提供しているに過ぎず(名誉棄損の前提となる「事実の適示」をしていない)、権利を侵害しているのはリンク先の個別のウェブページであるため、検索エンジン自体が権利侵害をしているわけはないと判断することも可能なためです。
以下、名誉権とプライバシー権について検討していきます。
(1)名誉権について
名誉権とは、当該個人の社会的な評価を指します。社会的評価を公然と低下するような表現をした場合には、名誉毀損となります。
そして、犯罪経歴があることは人の評価を左右する重大な事項であり、これを公表された場合には、名誉毀損になり得るというのが現在の裁判所の運用になっております。
また、検索結果を提供しているに過ぎず、事実の適示がないという点については、上記のとおりスニペットなど当該ウェブページの概要を記載していることをもって、事実の適示があると捉えることが可能といえます。
この点、検索エンジンに対する検索結果の削除を認めた札幌地方裁判所平成27年12月2日決定は犯罪経歴と検索エンジンの責任について、以下のとおり判旨を述べています。
本件検索結果のうち、本件スニペット等を表示する行為は、本件検索サイトにおいて債権者の氏名を検索キーワードとして検索した者の普通の注意と読み方をもって検討すると、債権者に関する本件犯罪経歴を摘示しているというべきである。
そうすると、一般に犯罪経歴を摘示することは、摘示された者にとってその社会的評価を低下させるものということができるから、本件スニペット等の表示行為は債権者の社会的評価を低下させるものであり、同人の名誉権を侵害しているというべきである。
(2)プライバシー権について
また、犯罪歴に関する情報は個人に関わる情報で、かつ、通常人であれば公開を欲しない情報であるので、プライバシー権にも該当し得るところです。
この点につき、上記札幌地方裁判所決定は、以下の理由からプライバシー権侵害を認定しています。
一般に、ある者に関する犯罪経歴は、その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりにこれを公表されないことについて法的保護に値する利益(プライバシー)を有するというべきである(最高裁昭和52年(オ)第323号同56年4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁)。
そうすると、前記アのとおり、本件スニペット等は、債権者の本件犯罪経歴等を債務者の意にかかわらず公表するものであるから、同人のプライバシー権を侵害しているというべきである。
以上のとおり、本件でも迷惑防止条例違反により逮捕された旨の記事は、検索エンジンにおいて名誉権・プライバシー権侵害となり得るのです。
(3)検索事業者の表現行為に対する配慮(最高裁決定)
近年、本件のような検索結果の削除に関する最高裁判所の決定が出ました(最高裁平成29年1月31日決定)。今後、検索結果の削除の運用に関する重要な指標となるもので、削除を請求する場合にはこの決定を意識した主張を行う必要があるでしょう。
本最高裁決定は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律に違反し、罰金刑を処せられた人物の逮捕記事の検索結果削除を請求した事案です。検索結果の削除に関しては、プライバシーの保護と表現の自由が問題となりますが、まずプライバシーの保護について同決定は、「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきである」として、検索結果の提供による逮捕された事実の公表は、主にプライバシー侵害として法的保護に値すると判断しています。
一方で、検索エンジンによる検索結果の作成については、以下の通り一定の表現の自由の保護の対象になるとしています。
検索事業者は、インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し、同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し、利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが、この情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。
また、検索事業者による検索結果の提供は、公衆が、インターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。
そして、検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ、その削除を余儀なくされるということは、上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
すなわち、検索結果の提供は表現行為であるので、表現の自由(憲法21条1項)に対する配慮が必要であり、無制限に削除が認められるべきでないという判断を行っています。以下、具体的な削除の判断基準についてみていきます。
3 具体的な削除の判断基準・主張すべき事項
(1)名誉権について
上記のとおり、名誉権・プライバシー侵害が認められる場合であっても、表現の自由との関係で、一定の要件を満たす場合には違法性阻却事由ありとして、差し止め請求が認められない場合があります。
ある表現が名誉毀損になるとしても、「同表示行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるときは、違法性が阻却され、不法行為は成立しない(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。」とされています。
本件についても、これらの要件を満たさないことを積極的に主張する必要があります。
この点について、上記札幌高裁決定は以下のとおり述べています。
本件検索結果について検討するに、本件犯罪経歴が、●●●に反したものであることに鑑みれば、一般論としては、その違反に関する事実について明らかにすることについて公共性があるというべきであり、このことは、単に同条違反の法定刑が罰金刑のみであるからといって直ちに否定されるべきではない。
しかし、本件犯罪経歴について個別具体的に検討するに、債権者は、公務員であったり、その社会的活動に対する批判ないし評価を受けるべき立場にあったりするような者とは認められない。また、債権者は、同条違反の犯罪事実によって罰金20万円の略式命令を受け、その執行も終えたものであるところ、罰金刑はその執行が終わり5年を経過すれば、刑の言渡しが効力を失うことに鑑みれば(刑法34条の2第1項)、債権者が逮捕されてから12年以上経過した現時点において、本件犯罪経歴をインターネットという世界中からアクセスのできる場所において明らかにすることが公共の利害に関する事実を摘示するものであるとはいえない。
ここでは、罰金刑の執行を終えてから5年が経過し、刑の言渡しが効力を失ったことが重視されています。
(2)プライバシー権侵害について
プライバシー権についても、違法性阻却事由の有無が問題となります。
確立した裁判例によれば、ある表現行為が、「債権者のプライバシー権を侵害するとしても、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する(最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁参照)とされています。上記最高裁決定も、逮捕記事を検索結果として提供することは、名誉権というよりは、プライバシー権侵害の問題として主に捉えている立場と考えられます。
プライバシー侵害の点について、まず、同札幌裁判所決定は以下のとおり述べています。
前記(1)のとおり、本件犯罪経歴は、●●●法違反という一般的には公共性の高い犯罪行為について明らかにするものであるが、債権者の社会的地位等に鑑みれば同人が逮捕されてから12年が経過した現時点において、債権者の実名と共に本件犯罪経歴を公表しておく必要性や社会的意義は相当程度低下しているというべきである。
そして、債権者は、本件検索結果が表示されることによって、世界中の者から本件犯罪経歴を容易に知られるようになっており、同犯罪経歴にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を害されていると認められる。
また、本件スレッドの投稿内容を検討しても、本件犯罪経歴について公益的、社会的な観点から議論をしているというよりも、本件犯罪経歴に関する報道が紹介されたことを契機に債権者を茶化すような内容であり、本件犯罪経歴を本件検索結果の表示行為によって明らかにすることが相当であるともいえない。
そうすると、本件検索結果の表示行為によって本件犯罪経歴を明らかにする利益が、これを公表されない法的利益を上回っているとはいえないので、同表示行為によるプライバシー権の侵害について、違法性阻却事由がないというべきである。
ここでは、逮捕時から12年もの期間が経過していること、現在の生活状況からして更生を妨げられない利益が重要であること、記事自体も逮捕者を茶化すような内容であり要保護性が低いことなどが考慮されています。
(3)最高裁決定の基準及び主張すべき事項
上に述べたとおり、近年検索結果の削除に関する重要な最高裁判所の決定が出ました。今後、裁判所に対して仮処分命令を申し立てる場合や、裁判所を介さない削除の交渉の際にも重大な指標となるものです。以下、最高裁平成29年1月31日決定の判断基準について見ていきます。
ア 最高裁の判断基準
上記のとおり、検索事業者(検索エンジンの運営業者)による検索結果の提供行為は、表現の自由(憲法21条1項)として保護されるものですから、その調整が必要となります。裁判所は、この点について以下の通り述べています。
検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると、検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
基本的な基準としては、(1)当該逮捕関連記事を公表されない法的利益と、(2)当該情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して決するというものになります。ただ、最高裁は、前者の利益が後者を「優越することが明らか」な場合に限って、削除を求めることができるものとしており、運用として削除が認められる場合がかなり限定的なときになってしまう可能性があります。
上記最高裁決定は、削除を認める場合をかなり狭めてしまう可能性があり賛同しがたい部分もありますが、最高裁決定が出た以上は、当該基準に従った主張を行う必要があります。
イ 具体的な判断
上記の裁判所(札幌、最高裁)の決定において共通しているのは、犯罪歴の公表自体は一定の公益性が認められるとの立場を取りつつも、個別の事情を斟酌して判断する必要があるとするものです。
札幌地方裁判所の決定で重要視されたのは、刑の消滅(刑法34条)の要件を満たしていること、逮捕時点から相当期間が経過していること、削除を求める者について社会的活動に対する批判ないし評価を受ける立場にないこと、更生を妨げられない利益を保護する必要性が高いこと、などといった事情となります。当該人物及び犯罪の内容・時の経過が重要な考慮要素となるでしょう。
一方、最高裁は、検索結果の削除を認めない判断をしました。その理由としては、「児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また、本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると、本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。」ことから、「以上の諸事情に照らすと、抗告人が妻子と共に生活し、前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても、本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」というものです。
児童買春という社会的に特に強い非難の対象となること(犯罪の性質)、検索対象が氏名及び県名を入れた際の検索結果の一部に過ぎないことから(対象範囲の限定)、検索結果の削除を否定しました。後者については、氏名及び都道府県名で検索することは容易であり、対象範囲の限定としては十分なものとはいえないものと評価できますが、「明らかに優越する」とまではいえないと判断するのはやむを得ないともいえます。当該事案も、刑の消滅(刑法34条)、さらに時が経過したなどの事情が追加されるとまた判断が異なってくる可能性もあります。
ウ 具体的な主張
以上、具体的に主張する際には、最高裁の示した考慮要素にしたがい削除の必要性が検索結果として提供する必要性等を「明らかに優越する」と整理したうえ行う必要があるでしょう。
・当該事実の性質及び内容
当該事案の内容が軽微であること(社会的に大きな非難を受けるものではない、被害結果が軽微、示談が成立しているなど)、刑事処分の結果が軽微なものであること(不起訴処分、刑の消滅の効力が生じているなど)といった事情を示す必要があります。
・当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度
例えば氏名のみなど容易に検索できるような方法で記事にたどり着けるような場合には、伝達の範囲が広いことになります。また、現在の生活状況からして記事が公開されることによる具体的な不利益(仕事上、日常生活上)を詳細に主張する必要があります。
・その者の社会的地位や影響力
当該記事の対象者の人的属性について、政治家など特別の非難の対象とはならない一般人であれば、有利な事情となり得ます。
・上記記事等の目的や意義
検索結果に出ているような記事の目的・意義なども重要になります。例えば、報道機関が出している逮捕記事などには一定の公共目的があり削除は認められにくい方向になるでしょう。一方で、個人のブログなどのうち、記事の対象者を茶化すような内容の場合には削除は認められやすい方向になると思われます。記事の内容に即して具体的に主張を行うべきでしょう。
・上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要
上記の事項とも関連しますが、逮捕記事に関しては逮捕当時は一定の公益目的、公表の必要性が認められやすいところといえます。したがって、一定の期間の経過(最も望ましいのは刑の消滅などが生じていることといえます)により現在は更生していること、期間がかなり経過しておりこれ以上公表する必要性はないことなどの事情を積極的に主張していく必要があります。
エ 小括
以上、債権者との交渉については、上記の法律上の要件・趣旨を十分に吟味しながら主張を行うことが必要ですので、専門的経験を有する弁護士へ相談されることをお勧めします。
第2 具体的な削除方法
1 検索エンジンとの法的手続外交渉
以上のとおり、検索エンジンの提供する検索結果ページそれ自体が犯罪歴を公表されない法的利益を侵害しており、人格権に基づく差止請求権として、検索結果の削除を求めることができることを検討してきました。
各検索エンジンに対しては、まずは訴訟等の法的手続を利用しない交渉を行うことが考えられます。
例えば、大手検索エンジンのヤフーについては、検索結果の非表示に関して以下のとおり方針を設けており、一定の場合には任意の削除を認める方向のようです。削除の申請フォームその他の窓口から、申告を行うことになります。
【参考】Yahoo 検索結果の非表示に関する方針について2 プライバシー侵害に関する判断
ヤフーは、被害申告者が非表示を求める情報について、その情報を公表されない被害申告者の法的利益とその情報を公表する理由との比較衡量を行います。個別の事案に応じて考慮する事情としては、被害申告者の属性(公職者か否か、成年か未成年かなど)、記載された情報の性質、当該情報の社会的意義・関心の程度、当該情報の掲載時からの時の経過等を考慮します。なお、被害申告者の属性、記載された情報の性質についての考え方は概ね以下のとおりです。
(1)被害申告者の属性
①公益性の高い属性(「表現の自由」の保護の要請が高い属性)
・公職者(議員、一定の役職にある公務員等)
・企業や団体の代表・役員等、芸能人、著名人
②プライバシー保護の要請が高い属性
・未成年者
(2)記載された情報の性質
①プライバシー保護の要請が高い情報
・性的画像
・身体的事項(病歴等)
・過去の被害に関する情報(犯罪被害、いじめ被害)
②公益性の高い情報(「表現の自由」の保護の要請が高い情報)
・過去の違法行為 (前科・逮捕歴)
・処分等の履歴 (懲戒処分等)
③文脈等に依存する情報
・出生やそれに伴う属性
削除を求める場合には、上記考慮要素に十分な配慮をしつつ、権利侵害の明白性、違法性阻却事由が存在しないことを説得的に主張する必要があります。上に述べた通り、最高裁判所も一定の考慮要素を示しているところですので、当該考慮要素に従い、本件において削除を認める必要性が記事を公表することの必要性を明らかに優越していることを詳細に主張する必要があります。
3 検索エンジンに対する検索結果削除仮処分
仮に、任意の交渉においてそもそも削除全般に応じない場合や一部の削除しか応じないような場合には、裁判所を介した手続を行うことが必要となります。
もっとも迅速な手続としては、人格権に基づく差止請求権として、検索結果の削除を求める仮処分命令を申し立てることが必要です。
(1) 仮処分の申立て
仮処分の申し立てに際しては、上記の実体的要件(名誉権・プライバシー権が法的に保護されること、違法性阻却事由が存在しないこと)を申立書において詳細に記載し、適切な主張を行うことが必要となります。
実体的な要件に加え、仮処分においては「保全の必要性」が要求されています。
すなわち、訴訟をしていたのでは間に合わない切迫した事情が存在していることが必要となります。保全の必要性は個々人で事情が異なりますが、裁判所を説得できるだけの詳細な主張が必要でしょう。
この点、上記札幌地方裁判所の決定では
本件検索結果は、誰からも利用可能なネットワークであるインターネット上で本件スレッドの投稿内容のうち本件犯罪経歴に関する部分を表示したり、同スレッドへのアクセスを容易にしたりしていること等に鑑みれば、同検索結果による名誉権又はプライバシー権の侵害の危険は、現に存するか急迫しており、これを避けるために、本件検索結果を仮に削除する必要があるというべきである。
なお、債務者は、任意削除に応じる可能性があると述べるが、具体的な内容やスケジュールが明らかになっておらず、本決定日時点において、保全の必要性を左右するには至っていない。
として、保全の必要性を肯定しています。最高裁の立場によっても、保全の必要性は詳細に主張しておく必要があります。犯罪歴の内容が検索結果によって明らかになっているのであれば、誰の目にも触れる可能性があることとなり、保全の必要性は肯定されやすい方向になるでしょう。その他生活上の不利益などを詳細に主張すべきです。
(2) 審尋期日における対応
仮処分を申し立てた場合には、審尋期日が開かれますので、その際に裁判所に申立書記載の事実が正当性を有することを積極的に主張する必要があります。
なお、検索エンジン側も権利侵害の明白性、違法性阻却事由の有無などについて反論を行う可能性がありますので、この点は再度の反論を行う必要があります。また、検索エンジン側も和解を検討し、任意の削除に応じる可能性もあります。
交渉の際には、記事の内容(報道機関かそれに準じる機関の記事か、それ以外)、当該記事対象者の属性(政治家、公務員などかそれ以外か)、逮捕記事の内容・経過(犯罪類型、処分結果が軽微か、刑が消滅しているかなど)、その後の時間の経過などによって、削除に応じる記事と応じない記事が出てくる可能性がありますので、その点は検索結果の内容と早期解決の観点から判断を行う必要があります。
また、仮に任意の削除に応じる場合であっても、記事を検索結果から完全に排除する提案もあるか、それとも一部だけの削除をする提案か(例えば、スニペットのみを削除)、記事内容によっては分かれてくる可能性があります。その際は、一部の削除のみで本当に現在の状況を改善できるのか、事案ごとに判断する必要があるでしょう。
以上の点、ケースバイケースの判断になりますので、依頼している弁護士と相談されながら進めることをお勧めします。
(3) 担保金の納付
なお、仮処分の申し立てを行う場合には、債務者である検索エンジン側の損害を填補するため、一定の担保金を納める必要があるので注意が必要です。相場的には約30万から50万円程度が通例ですが、事案によってはさらに高額になる可能性もあります。
以上、検索結果からの削除を希望される場合は専門的知見が必要となりますので、ネット削除に精通した弁護士に相談・依頼することを強くお勧めします。
以上