【民事、東京地裁平成27年5月21日判決、大阪地裁平成29年3月3日判決】
質問: 私は,中小企業の社長をしています。近年,資金繰りが厳しく,また既に銀行等からは目いっぱい融資を受けている状況であったため,追加の融資を受けることもできませんでした。
そこで,インターネット等で,資金繰りの方法を探したところ,ファクタリングという方法を見つけました。これは,当社が有している債権をファクタリング業者に売却することで,債権を即座に現金化することができる,というものです。また,売却した代金の回収自体は,業者ではなくこちらが回収できる代理権限をもち,回収した金銭を業者に支払う,という形をとることで,売掛先にもばれずに資金調達が可能です。加えて,対象債権の弁済時期との関係で,債権自体の買戻しもよく行っていました。
この方法で,数年程資金繰りをしていたのですが,売掛先の倒産等もあり,次第にこの方法でもうまくいかなくなってしまいました。そうなってから確認したところ,業者に支払う手数料が高額で,業者から受け取った売却代金よりも,業者に対して支払った金額がはるかに多額になっていることが分かりました。どうにかならないでしょうか。破産するしかないのでしょうか。
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回答:
ご相談のファクタリング契約の具体的な内容によりますが、契約が実質上金銭消費貸借と認められる場合は、金銭消費貸借契約における制限,具体的には利息制限法の類推適用を認めて,払いすぎた手数料の返金請求を認めた裁判例もあります。
適用に際しての考え方は,下記解説で詳述しますが,端的には高額の手数料をかけることの根拠である「業者が債権の回収のリスクを負っていたか」という点が重要になります。
いずれにしても,難しい問題ですので,弁護士にすぐにご相談ください。なお,ファクタリング契約一般については,本ホームページ事例集353番,446番をご参照ください。
解説:
1 ファクタリング契約の概要
(1)本件を検討するにあたって,そもそも,ファクタリングとはどのようなものとなるか,について説明する必要があるため,簡単に概要を説明しておきます。
(2)ファクタリング契約の(本来の)内容は,顧客(企業)の有する売掛金(第三者への債権)のファクタリング業者への売却です。売却代金は,債権額から業者への手数料等を差し引いたものとなります(買取の際に差し引く手数料がファクタリング業者の利益ということになります)。
債権回収については,@債権を買い取ったファクタリング業者がおこなう場合(三社間ファクタリング),Aファクタリング業者ではなく,通常通り顧客企業がおこなう場合(二社間ファクタリング)があります(この違いについては,下記2で説明いたします)。
(3)このようなファクタリング契約については,顧客企業にとって,いくつかのメリットがあります。詳細は本ホームページ事例集353番及び446番にありますが,もっとも大きいメリットとしては,債権(売掛金)の弁済期を待たずして現金化が可能である,という点です。加えて,後述のとおり,ファクタリング契約は,「原則として」債権の譲渡であって金銭消費貸借契約ではないため,財務上も債務が増えることはない,というメリットもあるようです。
本来のファクタリング(三社間ファクタリング)においては,そのほかに,債権回収はファクタリング業者がおこなうため,売掛金回収の手間が省ける上,売掛先の倒産リスク等を回避できる,というメリットがあります。他方,二社間ファクタリングでは顧客企業自身が回収をおこなうため,これらのメリットは当てはまりませんが,債権の譲渡を売掛先に知られることがない,という点がメリットとなっています。
(4)このようなファクタリング契約については,上記メリットもあって,近年盛んにおこなわれていますが,手数料等の定め方や,契約の内容によっては,顧客企業に極めて不利益な契約内容になってしまっていることもあります。
本来であれば,事前に契約内容について(専門家のチェック等による)吟味をしたうえで利用するべきなのですが,本件のように既に利用してしまった後では,なかなか対応は困難です。
それでも,一部のファクタリング契約においては,契約の無効や,「払いすぎてしまった」手数料の返還請求等が可能になることもあります。実際にこれを認めた裁判例もありますので,以下,説明していきます。
2 ファクタリング契約の法律構成
(1)基本的な契約
上記のとおり,ファクタリング契約における核となる要素は,顧客企業が有する債権のファクタリング業者に対する譲渡です(そして,この譲渡は売買(民法555条)によることが一般的です)。
つまり,顧客企業を売主,ファクタリング業者を買主とする債権の売却による譲渡,ということになります。法律的には債権の売買契約と債権の譲渡という二つの法律行為から成り立っています。
債権の譲渡については,民法466条以下に規定があります。債権の譲渡自体は,(譲渡禁止の特約が付されている債権でない限り)譲渡人と譲受人の合意によって可能です(民法466条)。
他方で,譲渡された債権については@譲渡人の債務者への通知か,債務者の承諾がなければ,譲受人は債務者に対して債権譲渡を対抗(債権が譲渡された旨の主張)ができず(民法467条1項),Aこの通知または承諾が確定日付のある証書(内容証明等)でなければ,債務者以外の第三者に対抗できない(同条2項),とされています。
ただし,Aの対第三者への債権譲渡の証明(対抗)については,確定日付のある証書による承諾ないし通知のほかに,登記をすることによって対抗が可能です(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項)。後述のとおり,この登記の方法によれば,債務者に知られずに第三者への対抗が可能になり,(二社間)ファクタリング契約では良く用いられています。
以上が,ファクタリング契約における核である,債権譲渡に関する法律構成になりますが,その他の部分は,上記2つの契約類型によって異なりますので,それぞれ説明します。
(2)三社間ファクタリング契約
まず,ファクタリング業者が,売掛金を直接回収する三社間ファクタリングについて説明します。
ファクタリング業者が直接売掛先から債権を回収するためには,上記のとおり,民法467条1項によって,債権を譲り受けた,という事実について,売掛先の承諾(あるいは譲渡人である顧客企業の通知)が必要になります。
そのため,一般的な三社間ファクタリングにおいては,そもそもファクタリング契約をファクタリング業者及び顧客企業,売掛先の三社で締結し,これをもって「債務者の承諾」とするケースが多くみられます。
当然,債務者である売掛先は,顧客企業がファクタリングを利用して資金調達をしたことを知ることになります。
まとめると,この三社間ファクタリングにおいては,@顧客企業及びファクタリング業者,売掛先の三社がファクタリング契約を締結する(債権の譲渡について売掛先が承諾する),Aファクタリング業者が顧客企業に買い取った売掛金(債権)の代金を支払う(この時の代金は,売掛金額からファクタリング業者の利益となる手数料等を引いた額),B売掛先は,売掛金をファクタリング業者に支払う,という流れをたどることになります。
(3)二社間ファクタリング契約
他方で,二社間ファクタリング契約の場合は,二社間,すなわちファクタリング業者と顧客企業の二社のみで締結するものです。そのため,売掛先の承諾等はないことになります。
二社間ファクタリング契約においてはファクタリング業者が売掛先に対して売掛金の請求をすることはできず,顧客企業がそのまま売掛金を回収して,ファクタリング業者に支払う,という流れになります。通常の債権譲渡の場合は、債権を譲り受けた者が債権者になり自ら債務者に対して権利行使するのですが、ファクタリング契約においては譲渡した者が債務者に対して権利行使することになります。
債権の譲渡をした以上,顧客企業に売掛金の受領権限はないところですが,弁済期が来た時点で顧客企業がファクタリング業者から債権を再度買い戻したり,あるいはファクタリング業者から受領権限のみの委任を受けたりすることで,この問題をクリアしているようです。
まとめると,@ファクタリング業者と顧客企業間でファクタリング契約を締結する,Aファクタリング業者が顧客企業に買い取った売掛金(債権)の代金を支払う(この時の代金は,売掛金額からファクタリング業者の利益となる手数料等を引いた額で,通常三社間ファクタリングより高額になる),B顧客企業は,ファクタリング業者から売掛金を改めて買い取るか,業者から債権回収の代理権限を付与される(この時の買戻し金額は額面通り以上),C顧客企業は,売掛先から売掛金を回収し,代理権限を付与されている場合はファクタリング業者にそのまま支払う,という流れになります。
3 ファクタリング契約と利息制限法(過払金)
(1)ファクタリング契約の問題点
以上,各ファクタリング契約の法的構成を簡単に説明してきました。
これらを前提に,本件のようなファクタリング契約の落とし穴とその対応について説明していきますが,簡単にファクタリング契約の問題点について,具体例を挙げて説明いたします。
上記のとおり,ファクタリング契約において,よく問題になるのはファクタリング業者に支払う手数料の金額です。
例えば,弁済期を1年後とする1000万円の売掛金を有している顧客企業が,手数料を400万円(40%)とする二社間ファクタリング契約を締結した場合を考えると,顧客企業は1年後を待たずして600万円の現金を調達できる反面,1年後(買戻しの場合は,それよりも短い期間)には1000万円をファクタリング業者に支払う必要があります。
また,手数料名目以外にも調査費や管理費等で費用がかかることもありますが,実際の計算上は同じことになります。
(2)ファクタリング契約と利息制限法等
上記の例は,1年後に1000万円返済する約束で,今,貸金業者から600万円借りた,という消費貸借契約と類似しています。その場合,600万円借りて1年後に元本600万円と利息400万円を返すことになり、その利率は約66%という超高金利ということになります。
このような消費貸借契約の場合,15%を超える利率分は無効となりますから,1000万円支払ってしまった場合,15%の差額である310万円の返金を求めることができる,ということになります。
しかし,利息制限法は「金銭を目的とする消費貸借における利息の契約」の利率を制限している(利息制限法1条)ため,債権の売買であるファクタリング契約に適用されないのが原則です。
そのため,上記例でも有効になるのが基本的な考え方です。実質的な理由については後述しますが,利息制限法のような消費者保護の必要性による制約がない以上,基本的に契約の自由が妥当してしまう,ということになります。
(3)それでも,上記のとおり,特に二社間のファクタリング契約は,消費貸借契約とかなり類似しているようにも思えるため,一方のみが保護(制限)を受けるのは釈然としないところもあります。他方で,すべてのファクタリング契約において利息制限法の(類推)適用を認めることも,契約の自由を著しく害することになります(そもそも,後述のとおり,ファクタリング契約において手数料が高額になるのにも理由があります)。
近年出た裁判例の中で,ファクタリング契約における利息制限法の類推適用等が争点となり,それを認めたものがありますので,認めなかった裁判例と併せて挙げて,その基準について説明していきます。
4 裁判例の検討
(1)東京地判平成27年5月21日(参考判例@)
参考判例@では,顧客企業(控訴人)がファクタリング業者(被控訴人)との間で,複数の請負代金債権(の1部)を目的債権(取引の対象)としておこなったファクタリング契約が問題になりました。この契約も,本件と同様,顧客企業が売掛先から売掛金を回収して,ファクタリング業者に送金するという権限の付与(「代理受領委託」)をしていたことからすると,いわゆる二社間のファクタリング契約ということになります。
この契約において,顧客企業がファクタリング業者に対して,利息制限法上の上限利息を超えた支払い分の返金を求めたという事案(不当利得返還請求事件)です。
上記のとおり,このファクタリング契約における債権の譲渡が,利息制限法の(類推)適用を受ける消費貸借契約といえるか,という点が争点となりました。
この点について裁判所は,ファクタリング業者の主張を認め,この債権譲渡は,金銭の消費貸借契約ではない(売買契約である),と判示しました。
理由としては,下記参考判例@の下線部のとおり(下線・太字化は本稿筆者),顧客企業とファクタリング業者の契約書等における債権譲渡の記載が「売買」となっていることに加えて,「特に,被控訴人は,控訴人に対し,譲渡債権に関し泰成が債務の全部若しくは一部の不履行又は回収不能が確定したとしても,それを理由に本件の売買代金の償還請求はできない旨が明記されており,債務者である泰成の債務不履行の結果があっても債権売買の効力に影響がないことを特に確認していること」を挙げています。
(2)大阪地判平成29年3月3日(参考判例A)
続いて,参考判例Aです。基本的な事実関係は下記参考判例Aのとおりですが,この参考判例も,上記参考判例@と同様,二社間のファクタリング契約における債権譲渡の法的性質(利息制限法の適用があるか)が争点となりました。外形上(書類上)は売買契約であるとして債権の譲渡がなされている点も同一です。ただし,@と異なり,一旦「売買契約」によってファクタリング業者(被告)に譲渡した債権を顧客企業(原告)が買い戻している点も重要です。
裁判所は,当該取引について「金銭消費貸借契約であれば,貸主は,利息制限法所定の制限利率の限度でしか利息を収受することができず,債権の売買契約ということでこれを上回る利益を上げることが正当化されるとすれば,買主が,売買対象の債権につきある程度回収のリスクを負うなど,相応の理由があってしかるべき」としたうえで,「被告は,債権回収のリスクをほとんど負っていない」としました。
加えて「被告が上げた利益は,専ら原告との間で繰り返し授受された金員の差額によるものであり,債権を売買の対象としたとはいえ,その代金を一部しか支払わないで済むとか,債権のうち一定の金額分のみをあえて売買の対象とするなど,債権の額面とは無関係に金員の授受がなされていた」点,「原告が買戻しを行わなかった場合には,譲渡債権の全額が回収できたときに初めて債権譲渡代金全額の支払を受けるとか,債権の一定金額分のみの譲渡のために各債務者に債権譲渡通知が発送されてしまうといった不利益を受けるから,本件取引において原告は,買戻しを行わざるを得ない立場にあった」点を考慮して,「本件取引では,金銭消費貸借契約の要素たる返還合意があったものと同視することができる」と判示し,利息制限法の類推適用を認めました。
なお,同裁判では,公序良俗(民法90条)やファクタリング業者が貸金業者としての登録をしていないことを根拠とする契約全体の無効についても争われていますが,裁判所はこの点については認めていません。
(3)両者の比較
以上の両社の裁判例を比較すると,やはり債権譲渡という名目ではなくその実質に着目して判断していることが分かります。
そして,特に参考判例@の否定例をみると,一度譲渡した債権についての回収不能のリスクはファクタリング業者が甘受すること(その帰結として,額面どおりの買取金額ではなく手数料等がかかる仕組みになっていること)が,(利息制限法の適用をうける)金銭消費貸借契約類似の契約であるか否かの,大きな基準になっているように思われます。
目的債権の回収リスクを顧客企業が負うことになると、ファクタリング業者は回収のリスクを負うことがないため、実質的には、顧客企業に対する貸金と変わりがないことになるからです。目的債権の回収リスクを顧客企業とファクタリング業者のどちらが負担する形になるか,という問題が大きいと考えられるところです。
もちろん,実際に認めた参考判例Aによれば,その他の各事情,例えば同一債権の買戻しを実際上強要すること等も考慮されているため,結局のところは総合考慮ということになります。
5 本件における具体的な対応
以上を前提として,本件における具体的な対応を説明します。まず,あなたのお話では,仮に金銭消費貸借契約類似の契約であるとして利息制限法の適用があったとしても,支払い額を減免することができるか,過払金の返還請求が可能か,という点についてはいまだ不明なので,具体的な入金額及び支払い金額,債権額,支払い時期等を確認したうえで,計算する必要があります。
そのうえで,利息制限法の類推適用の可否を検討することになりますが,本件は,あなたの話の限りでは,上記二社間のファクタリング契約であり,売掛金の回収も買戻しや代理権によって業者ではなくあなたがおこなっていたようですから,目的債権の回収リスクはあなたが負担していたと考えられ類推適用が認められる可能性も十分にあり得るところです(特に,参考判例Aからすると,買戻しを頻繁におこなっていたことはプラスに働きます)。
他方で,単に業者に支払った金員の方が,業者から受領した金員よりもかなり高額である,というだけでは本件ファクタリング契約の無効(による返金)等に影響しないのは上記のとおりです。
上記のとおり,裁判例が総合的に考慮して判断している以上,具体的な契約の内容等の各事情を聴いての検討が必要になります。
検討の結果,利息制限法の類推適用の可能性があり,かつ減免や返金等が可能な計算結果であった場合には,ファクタリング業者に対して返金等を求めることになりますが,上記のとおりそもそも外形上は売買契約であり,利息制限法の類推適用の可否も判断が分かれるところですので,任意的に応じてもらえるかは疑問です。訴訟を念頭に置いた対応が必要です。
他方で,検討の結果,仮に上記の方向では進めることができない場合(契約自体に利息制限法の適用あるいは違反があるとはいえない)には,上記のような対応は取れないので,通常の資金繰りに行き詰ってしまった企業として,債務整理か破産を検討することになります。
いずれにしても,法的な知識が必要になりますので,弁護士にまずご相談ください。
【参考判例】
参考判例@ 東京地判平成27年5月21日(判例集未登載)・抜粋
「1 前提となる事実(証拠を付記したもの以外は,当事者間に争いがない。)
(1)被控訴人は,ファクタリング業務,担保不動産の調査及び評価業務,経理・財務・経営に関するコンサルティング業務等を行う株式会社である(甲14)。
(2)平成25年10月25日,被控訴人と控訴人との間において,被控訴人が控訴人から控訴人が第三者に対して有する請負代金債権合計572万0925円のうち497万7205円を控除した債権(差引計算をするとその債権額は74万3720円となる。)を52万8551円で買い取る旨の記載のある売買契約書が作成され(甲5),また,同買取債権に関し、被控訴人が控訴人に対して同債権を債務者から受領して被控訴人に送金する業務を委託し,控訴人がこれを受託する旨の記載のある代理受領委託契約書が作成された(甲8)。
同日,控訴人は,「本日契約の売掛金売渡し代金として」との名目で被控訴人から52万8551円を領収したとされる領収証を作成したが(甲17),そのうち5万円を登記費用として被控訴人に支払い,47万8551円を受け取った。
(3)同年11月11日,控訴人は,被控訴人の取引口座に74万3720円を振込送金した(甲16の2。以下,上記(2)及び(3)に係る控訴人・被控訴人間の金銭のやり取りを併せて「本件取引〔1〕」という。)
(4)同月15日,被控訴人と控訴人との間において,被控訴人が控訴人から控訴人が第三者に対して有する請負代金債権合計640万6155円のうち570万1478円を控除した債権(差引計算をするとその債権額は70万4677円となる。)を51万9338円で買い取る旨の記載のある売買契約書が作成され(甲6),また,同買取債権に関し,被控訴人が控訴人に対して同債権を債務者から受領して被控訴人に送金する業務を委託し,控訴人がこれを受託する旨の記載のある代理受領委託契約書が作成された(甲9)。
同日,被控訴人は,控訴人の取引口座に51万9338円を振込送金した(甲16の1)。
(5)同年12月10日,控訴人は,被控訴人の取引口座に70万4677円を振込送金した(甲16の1。以下,上記(4)及び(5)に係る控訴人・被控訴人間の金銭のやり取りを併せて「本件取引〔2〕」という。)。
(6)同月13日,被控訴人と控訴人との間において,被控訴人が控訴人から控訴人が第三者に対して有する請負代金債権合計193万9341円のうち153万2080円を控除した債権(差引計算をするとその債権額は40万7261円となる。)を30万6729円で買い取る旨の記載のある売買契約書が作成され(甲7),また,同買取債権に関し,被控訴人が控訴人に対して同債権を債務者から受領して被控訴人に送金する業務を委託し,控訴人がこれを受託する旨の記載のある代理受領委託契約書が作成された(甲10)。
同日,被控訴人は,控訴人の取引口座に30万6729円を振込送金した(甲16の3,乙1。以下,本項に係る控訴人・被控訴人間の金銭のやり取りを「本件取引〔3〕」といい,本件取引〔1〕から本件取引〔3〕までを併せて「本件各取引」という。)。
(7)平成26年1月29日,控訴人は,被控訴人に対し,内容証明郵便を送付し,本件各取引により控訴人は被控訴人に対する39万114円の過払金を有しており,これは被控訴人の不当利得に当たるなどと通知した(甲12)。」
「2 本件各取引の性質について
(1)上記認定事実によれば,本件各取引に係る取引明細書(甲2〜4)の「取引種別」が「売掛金売買」となっていること,本件各取引に係る売買契約書(甲5〜7)に控訴人の有する泰成を債務者とする債権の売買である旨の記載がされ,特に,被控訴人は,控訴人に対し,譲渡債権に関し泰成が債務の全部若しくは一部の不履行又は回収不能が確定したとしても,それを理由に本件の売買代金の償還請求はできない旨が明記されており,債務者である泰成の債務不履行の結果があっても債権売買の効力に影響がないことを特に確認していることなどに照らすと,本件各取引において,控訴人と被控訴人との間では,いずれも控訴人の泰成に対する代金債権の一部について被控訴人が買い取るとの内容の債権譲渡契約が成立したものと認めることができる。
すなわち,本件取引〔1〕は,平成25年10月25日,債権の売買代金額である52万8551円から登記費用5万円を控除した47万8551円を被控訴人が控訴人へ現金で渡し(前記第2の1(2)),後日,控訴人と被控訴人との間の代理受領委託契約に基づいて,控訴人が泰成から代理受領した譲渡債権に係る代金額である74万3720円を送金したもの(同(3))というべきである。また,本件取引〔2〕は,同年11月15日,債権の売買代金額である51万9338円を被控訴人が控訴人へ送金し(前記第2の1(4)),後日,控訴人と被控訴人との間の代理受領委託契約に基づいて,控訴人が泰成から代理受領した譲渡債権に係る代金額である70万4677円を送金したもの(同(5))というべきである。さらに,本件取引〔3〕は,同年12月13日,債権の売買代金額である30万6729円を被控訴人が控訴人に送金したものというべきである(前記第2の1(6))。
(2)この点につき,控訴人は,本件各取引は被控訴人から控訴人への貸金であったと主張する。しかしながら,甲15(Aらの陳述書)によると,本件取引〔1〕開始前の説明において,Dは,Aに対し,債権買取りの方法による資金の融通であることを告げていたものであって,控訴人も債権買取りの方法による資金の融通であることを知って本件各取引を行ったものと認められる。また,実質的にみても,上記1(3)ア(ウ)及び(4)のとおり,本件各取引に係る各売買契約書には,被控訴人は,控訴人に対し,譲渡債権に関し泰成が債務の全部若しくは一部の不履行又は回収不能が確定したとしても,それを理由に本件の売買代金の償還請求はできない旨が明記されており,債務者である泰成の債務不履行の結果があっても債権売買の効力に影響がないことを特に確認していることなどに照らすと,本件各取引は,借主が借入額と同額について返還義務を負う金銭消費貸借契約とは性質の異なるものである。
なお,本件各取引においては,譲渡対象債権額に比べて債権買取額が減額されたものとなっているが,これは,対象債権の支払期限までの利益が考慮されたことに加え,対象債権の債務者による支払がされない場合があるという危険を債権譲受人である被控訴人が負担することになることに基づき,債権買取額が減額となったものと考えられ,その差額の多寡についての当否は別として,これをもって本件各取引が法的に金銭消費貸借契約の締結であったことになるものではない。」
参考判例A 大阪地判平成29年3月3日(判例集未登載)・抜粋
「1 争点(1)について−本件取引の法的性質
(1)前提事実の外,証拠(取引一覧表掲記の書証,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件取引は,基本的な債権譲渡契約(甲2の1・2)が締結され,それに基づく債権譲渡及びその買戻しの形式に依っていたものの,対象となる債権は,本件債権のみであり,原告と被告とは,これをほぼ毎月のように反復して売買及び買戻しすることにより,金員を授受していた。また,上記債権譲渡契約に基づいて,債権譲渡登記手続が経由されるとともに,原告は,本件債権についての譲渡通知を作成して被告に預託していたものの,原告は,被告から当該債権についての代理受領権限を授与され,取引先である各債務者から従前どおり支払を受け,被告への支払その他の資金繰りに当てていた。
イ 本件取引において,債権の売買代金は決められるものの,平成26年6月までは,被告が原告に実際に支払う売買代金額はその一部だけで,残額は,被告が債権全額の弁済を受けることを条件として支払われることになっており,代金全額を支払うことはほぼ想定されておらず,本件取引の途中からは,譲渡された債権のうち破産等で回収不能となったものがあれば,さらに代金全額から減額することもできるとされた。同年7月以降は,そもそも弁済期で特定した本件債権の一部(一定の金額分)だけが譲渡の対象とされるようになった。
ウ また,支払うとされた売買代金額からさらに,別紙取引一覧表「支払明細書(甲3の1〜16,乙18)における費目」のとおり,調査料等が差し引かれることもあった。
エ そして,原告が受け取る売買代金額よりも,原告が被告に支払うべき買戻代金額の方が高額であり,その差額は,受け取った売買代金額を元本として利息制限法所定の制限利率により算定された利息額を上回るものであった。
(2)そこで検討するに,金銭消費貸借契約であれば,貸主は,利息制限法所定の制限利率の限度でしか利息を収受することができず,債権の売買契約ということでこれを上回る利益を上げることが正当化されるとすれば,買主が,売買対象の債権につきある程度回収のリスクを負うなど,相応の理由があってしかるべきであるが,上記認定事実によれば,被告は,債権回収のリスクをほとんど負っていない。また,被告が上げた利益は,専ら原告との間で繰り返し授受された金員の差額によるものであり,債権を売買の対象としたとはいえ,その代金を一部しか支払わないで済むとか,債権のうち一定の金額分のみをあえて売買の対象とするなど,債権の額面とは無関係に金員の授受がなされていた。加えて,原告が買戻しを行わなかった場合には,譲渡債権の全額が回収できたときに初めて債権譲渡代金全額の支払を受けるとか,債権の一定金額分のみの譲渡のために各債務者に債権譲渡通知が発送されてしまうといった不利益を受けるから,本件取引において原告は,買戻しを行わざるを得ない立場にあったものといえる。そうすると,本件取引では,金銭消費貸借契約の要素たる返還合意があったものと同視することができる。
被告は,本件取引は,原告の信用力でなく,あくまで債権の属性に着眼して代金額を設定しているから,金銭消費貸借契約でなく,債権の売買契約としての実質を有していたと主張する。しかし,原告に当該債権の代理受領権限があった本件取引においては,前記1(1)イのような取引の実態も踏まえると,債権の回収リスクは,原告の信用リスクと同じことであるから,被告の上記主張は,これまでの裁判所の判断を左右しない。
(3)以上によれば,本件取引は,金銭消費貸借契約に準じるものというべきであるから,利息制限法1条の類推適用を受けるものと解するのが相当である。したがって,被告の原告に対する売買代金等の支払を貸付けと捉え,原告の被告に対する買戻代金の支払を貸付けに対する弁済と捉えて,同条所定の制限利率を超えて支払われた部分を元本に充当して計算した結果,過払金が発生した場合には,不当利得としてその返還を求めることができるというべきである。」
【参照条文】
民法
(債権の譲渡性)
第四百六十六条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
(指名債権の譲渡の対抗要件)
第四百六十七条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
利息制限法
(利息の制限)
第一条 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一 元本の額が十万円未満の場合 年二割
二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分