教員による数十年前の淫行

行政|公務員(教員)による20数年前の淫行と懲戒処分の是非|仙台高判平成28年11月30日|福島地判平成28年6月7日

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考判例

質問:

私は,都内の中学校に勤務する教員です。先日,校長から呼び出され,私が教員として勤め始めた20年以上前の、私と他校の女生徒との不適切な関係について問いただされました。

確かに20年以上前に何度か当該女生徒と関係をもったことはあるのですが、その当時は,何か処分等を受けてもいませんし,その後,現在に至るまで特に問題を起こしていません。その女生徒とは,現在全く連絡を取っていません。校長から問いただされた時は、正直記憶も薄れていたため,何も答えていませんが,校長からは,また呼び出すので思い出すように,と言われています。

20年以上前のことでも刑事処罰や懲戒処分の対象となるのでしょうか。どのような対応をするべきでしょうか。

回答:

刑事処分については,20年以上前の行為ということで、既に公訴時効が経過していると考えられるため,刑事事件化することはありません。もし時効が完成していないとすると、18歳未満の者との性交等については,東京都の場合(多くの他府県でも同様の規定がありますが),条例(青少年健全育成条例)で禁止されており,2年以下の懲役または100万円以下の罰金という罰則規定もありますから,いわゆる刑事事件となります。

しかし,懲戒処分、行政処分については,特に時効がないため,非違行為として教育委員会からの懲戒処分(行政処分)の対象となります。東京都の教育委員会が定める非行に対する処分量定においては,児童・生徒とのわいせつ行為は,懲戒免職処分が相当である,とされています。もちろん,各事案ごとに総合考慮して決せられる以上,免職処分より軽い処分がなされない,というものではないのですが,処分としてはかなり厳しい,という印象です。

他方で,本件は,20年という長期間の経過があります。行政処分について,たとえ20年以上前の事件であっても時効により処分の対象とはならないとは言えませんが、長期間の経過が上記厳しい行政処分にどのような影響を及ぼすものであるか,問題になります。長期間にわたり問題がないのであれば懲戒処分は不要とも考えられます。

しかし、高裁の裁判例の中には,20年以上前の教育公務員の淫行という本件類似の事件において,長期間の経過を有利に斟酌して懲戒免職処分の取り消しを認めた地裁の判断を覆し,懲戒免職処分を有効としたものがあります。

この裁判例からは,長期間の経過もあまり懲戒処分においては有利に斟酌されない,ということになります。

とはいえ、当該高裁の裁判例を前提としても,事態の進行状況においては,当該女性との和解等を含む早めの対応によって,懲戒処分を回避できる可能性があります。和解に際しては事件の特殊性を詳細に分析し事件が公になる前にこれを阻止することです。判例を読む限りその機会があったのにもかかわらずこれを見過ごした感があります。事件の特殊性から示談金の多寡にかかわらずそこに突破口を見つけることが肝要です。

本件では,今後,呼び出しがあるそうですが,呼び出される前に,経験ある弁護士に相談されることをお勧めします。

公務員の懲戒に関する関連事例集参照。

解説:

1 行為自体の評価と処分量定

(1) はじめに

後述のとおり,18歳未満の「青少年」との性交等は,(東京都)青少年健全育成条例に反する「淫行」に該当するものです。罰則もあるため,刑事処分を受け得る行為である,ということになりますし,当該行為に併せた懲戒処分も科されることになります(こちらも後述しますが,教育公務員の淫行への懲戒処分は,極めて厳しいものです)。

しかし,本件の特殊性は,当該「淫行」が20年以上前に行われた,という点です。このような特殊性が,上記の処分等に影響するのか,このような特殊性を踏まえて,どのような対応を採るべきであるのか,について,以下ではまず教育公務員(教員)が淫行をした場合の一般的に想定される評価(処分)を説明したうえで,20年の経過により,それにいかなる影響があるのか,具体的にどのような対応を採ることができるのか,について説明します。

(2) 刑事上の評価

まず,一般的な「淫行」の刑事上の評価について説明します。上記のとおり,東京都において(他府県にも同種の条例があります),18歳未満の者と「みだらな性交又は性交類似行為」をおこなうことは禁じられており(東京都青少年の健全な育成に関する条例18条の6),その罰則の法定刑は2年以下の懲役または100万円以下の罰金です(条例24条の3)。

なお,本件に関連して,直接の教え子等に対して,自らの教員という立場(事実上の影響力)を利用して行為に及んだ場合には,「児童に淫行をさせる行為」として児童福祉法34条1項6号に該当する可能性があり,その場合,さらに重い「十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金」(あるいはその両方)が科されることになります(児童福祉法60条1項)が,本稿では,青少年健全育成条例違反について検討します。

このような淫行については,一般に,条文にある「みだらな性交又は性交類似行為」とはいかなるものを指すのか,②当該「青少年」が18歳未満であったことを知らなかった場合には,故意がないため犯罪は成立しないが,どの程度の立証が要求されるか,が問題となります。

まず,①「みだらな性交又は性交類似行為」については,最高裁の判例が定義を設けており,「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為」がこれに該当し,「例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等」はこれに含まない,としています(最判昭和60年10月10日最高裁判所刑事判例集39巻6号413頁)。

「真摯な交際関係」はどの程度の立証により認められるものなのか,は難しいところですが,上記のとおり「婚約中」等,結婚を前提とした関係を指すのであれば,青少年側の親族(親権者である両親)の了解等があれば,認められる可能性が高まるといえます。

なお,「性交類似行為」については,基本的には「性交と同視し得る態様における性的な行為」であり,キス等は含まない,と解釈されています。

続いて,②当該「青少年」が18歳未満であったことについての認識の不存在についての立証の程度ですが,少なくともいわゆる「未必の故意」も故意に含めるので,「18歳未満であるかもしれないが,それでもかまわないと思って行為に及んだ」と評価されない程度には,「18歳未満ではないと思っていた」と証明することが求められます。そうすると,児童買春や児童福祉法違反において求められる,年齢についての過失の不存在の立証と被ることになります。本件では、他校の女生徒との交際ということですから18歳未満であったことについての故意は否定できませんが、一般的には少なくとも,免許証等の確認があれば,確認を求めた経緯等と併せて,上記未必の故意は否定できると思われますが,単に「見た目が18歳未満ではなかった」では未必の故意を否定するのは比較的困難であるとされています。

これらの争点については,当事務所ホームページ事例集1719番1753番等でも説明していますのでご確認ください。

(3) 懲戒処分における評価

ア あなたは公務員という立場にあるため,以上の刑法罰と併せて,懲戒処分の対象となります。

本件のように,①何らかの理由で,今回の件(懲戒処分の対象となる非違行為)を認知した学校長は,②まず市町村教育委員会に報告し,③報告を受けた市町村教育委員会が懲戒処分対象者から事情を確認し,④確認した情報をまとめて報告書を作成し,都道府県教育委員会に内申をする。⑤内申を踏まえて都道府県教育委員会が,必要に応じて懲戒処分対象者から事情を追加で聞いて,最終的な懲戒処分を決する,ということになります(東京都の場合は,市町村教育委員会と東京都教育委員会の2つがそれぞれ懲戒処分対象者から事情を聴く機会を設けているようです)。

イ 具体的な懲戒処分の内容ですが,地方公務員法29条1項3号は,「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」には,「懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。」と定めており,これを受けて東京都教育委員会は「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」を作成しています(https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/staff/personnel/duties/culpability_assessment.html)。

これによれば,「①非違行為の態様,被害の大きさ及び司法の動向など社会的重大性の程度」,「②非違行為を行った職員の職責,過失の大きさ及び職務への影響など信用失墜の度合い」,「③日常の勤務態度及び常習性など非違行為を行った職員固有の事情」のほか,「非違行為後の対応等も含め,総合的に考慮のうえ判断する」としたうえで,主な非行についての処分量定を定めています。

「主な非行」の中に,本件のような「淫行」についても挙げられています。そこでは,「同意の有無を問わず、性行為を行った場合」には,未遂の場合も含めて免職処分相当,とされています。

もちろん,上記のとおり総合的な判断であり,あくまでも原則的な処分量定を定めたものですが,免職と併記する形での停職等の記載もないので,教育公務員にとって「淫行」はかなり重い,ということになります。一般公務員について,東京都が示している処分量定は,淫行の場合「免職または停職」と,停職を併記していることからすると,18歳未満の者を主に指導する立場にある教育公務員による,18歳未満の青少年への淫行は厳しく罰する必要がある,という趣旨であると考えられるところです。

実務上の経験則からしても,教育公務員の場合,特別な事情等がない限りわいせつ等の淫行に対しては厳しいという印象です。

2 時間の経過による影響

(1) 以上が,いわゆる一般的な「教育公務員による淫行」に対する刑事処分及び行政処分(懲戒処分)上の評価です。

続いて,本件のような長期間が経過した場合,これらの刑事処分,懲戒処分にどのような影響があるか,という点について,順に説明いたします。

(2) まず,刑事上の評価ですが,青少年健全育成条例違反も刑事事件である以上,刑事訴訟法250条の適用もあるということになります。

上記のとおり「淫行」による青少年健全育成条例違反が認められたとしても,その法定刑は2年以下の懲役または100万円以下の罰金とされているところ,刑事訴訟法250条2項6号により,当該犯罪は3年で(基本的に)公訴時効にかかることになります。

公訴時効が経過すれば,検察官は公訴の提起ができなくなりますから,罪には問えないことになります。

本件では,20年以上は経過している,ということですから,刑事訴訟法255条(国外にいた期間がある場合)等の停止理由がない限り,既に刑事罰には問えない,ということになります。

(3) 他方,行政処分については,特に時効の定めはありません。そのため,上記刑事処分と異なり,長期間の経過によって自動的・強制的に処分が無くなる,ということはありません。

そのうえで,どのような影響があるか,という点ですが,この点についてまさに問題となったのが,参照判例①に挙げた,福島地判平成28年6月7日労働判例ジャーナル54号35頁と,参照裁判例①の控訴審である仙台高判平成28年11月30日労働判例ジャーナル60号76頁(下記参照裁判例②)です。

この事件は,懲戒処分対象者が,自らが顧問をしていた女子生徒との間で,約2年5か月間性的関係を持っていたところ,23年後の平成24年6月15日に懲戒免職処分を受けたため,この点について処分の取り消しを求めた,というものです(併せて,退職金の支給制限処分についても取り消しを求めています)。懲戒処分対象者は,「本件行為があってから本件懲戒免職処分まで20年以上が経過し,原告はその間教育公務員として良好な評価を得ていたことからすれば,時の経過により公務員関係の秩序も徐々に回復したというべきであり,この点を無視して懲戒免職処分という極めて重い処分を行う必要性は認められず,著しく妥当性を欠く処分である」等主張しています。

本件類似のこの事件において,まず福島地裁は,当該非違行為が懲戒自由事由に当たることを認定したうえで,「そもそも本件行為自体は、本件懲戒免職処分の23年以上前の事であり,原告は,本件懲戒免職処分を受けるまでの間,懲戒処分を受けることなく,福島県の教育に携わってきたものであることは,前記前提事実のとおりである。20年以上前の事情と現在又は直近の事情とを比較した場合に,後者の方が公務員に対する信頼等に与える影響は当然大きいものといえるのであるから,このような時の経過は,懲戒処分の必要性及びその程度に関する判断において,当然に考慮されるべき事情である」とし,非行行為からの時間の経過も,懲戒処分を決するにあたって参考とされるべきである,としました。

そのうえで,「本件行為は,教育公務員である原告が自ら指導する本件女子生徒と性的な関係を持ったというものであり,生徒,その保護者及び社会一定の混乱・波紋をもたらした事実は否定できないものの,原告が本件行為について反省し,事後的に本件女子生徒に対して一定の慰謝料を支払っていること及び本件行為から20年以上の月日が経過したことなどの諸事情,特に,本件行為から長期間経過したことは,処分行政庁において,処分の内容を量定するに当たり十分に考慮すべきであったというべきであるところ,これを十分に考慮したとは言い難いといえる。また,懲戒免職処分は,30年以上にわたり,被告の教育公務員として勤務しており,この間,特にスポーツ教育の分野において,一定の貢献をしてきた(甲1,甲6の1~15)原告の功績を全て否定することになることをも考慮すると,本件懲戒免職処分は,処分行政庁において,考慮すべき事項を十分に考慮せず処分を判断した結果,重きに過ぎて社会通念上著しく妥当性を欠いた処分であるといわざるを得ず,裁量権を濫用したものとして違法である」として,懲戒免職処分の取り消しを認めました。

つまり,福島地裁は,公務員に対する懲戒処分は,上記のとおり,本件のような非行行為が懲戒処分の対象となる,「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」であることは間違いないところであるとしたうえで,その後の長期間の経過によって,世間の当該公務員(ひいては公務員全体)に対する「信用失墜の度合い」が低くなり,その場合,最も重い処分である,懲戒免職処分が妥当しないというという判断をしたと考えられます。

しかし,これに対して福島県教育委員会が控訴をした仙台高裁は,「動機に酌量の余地は全くないし,公立学校における教育全般や教育に携わる公務員に対する県民の信頼を大きく損なったというほかはな」く,かつ「被控訴人本人尋問において,1か月に一度程度の性交渉にすぎないとか,本件女子生徒との性的な関係を現在も非常に真摯で真面目で良い思い出であったと認識していると述べるなど,本件非違行為の悪質性や重大性を真摯に受けとめているとは到底認め難い」とし,「被控訴人が平成2年頃本件女子生徒の母親に対し和解金として50万円を支払っていること,本件非違行為は,本件懲戒免職処分の23年以上前の事であり,被控訴人は,本件懲戒免職処分を受けるまでの間,懲戒処分を受けることなく,福島県の教育に携わってきたものであることなどを斟酌したとしても,上記のとおり,本件非違行為は極めて悪質であって,県民の学校教育に対する信頼を根底から覆す悪質極まりないものであるところ,福島県教育委員会に本件非違行為が発覚したのは平成24年2月であって,その後遅滞なく本件懲戒免職処分が行われていることからすれば,本件懲戒免職処分が社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえず,福島県教育委員会がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない」として,地裁の判断を変更し,教育委員会の免職処分を有効としています。

この仙台高裁の判断によれば,長期間の経過は,当該非違行為による公務員への信用失墜の度合いについてあまり影響しない,ということになります。ただし,23年以上前のことであることを「斟酌したとしても」処分は妥当だ,としているので,仙台高裁においても,まったく影響はない,とまでは判示していないことになりますが,その程度は不明です(少なくとも,参考裁判例①の福島地裁ほどは重く見ていない,ということになります)。

(4) 以上のとおり,上記参考裁判例②からすると,本件のような長期間の経過があっても,(あまり)影響はなく,処分は軽減されない,ということになってしまいます。

私見としては,公務員の信用を棄損したことに対するペナルティ(を科すことによって信用を回復する)という懲戒処分の趣旨からしても,20年以上の長期間の経過は,考慮要素としては大きく,結論として福島地裁の判断(参考裁判例①)の方が妥当する,とも思えるのですが,他に裁判例等がない以上,まずはこの参考裁判例②を前提として,今後の対応を検討しなければなりません。

3 具体的な対応

(1) まず,本件ではすでに事件が校長には知られていますが、20数年前の事件が問題となるのは、被害者からの被害の届け出がきっかっけとなっているといえます。そこで、被害者から被害届け出を出させないという対応が必要になります。

例えば,上記参考判例①・②では,当該行為をもった女生徒及びその母親から,懲戒処分者に対して,事前に高額な慰謝料請求があり,この請求の1月後に,女生徒から福島県の教育委員会に対して「告発」があった,という流れのようです。

そのため,女生徒及びその母親からの慰謝料請求に対して、交渉のうえ、事前に合意さえできていれば,そもそも福島県教育委員会に本件が認知されることはなく,問題になっていなかった,と考えられます。

「事前の合意」の具体的な内容はケースによるところですが,第三者への口外を禁じることを条件として,女生徒及びその母親に対してある程度の慰謝料を支払って許してもらう,というものになります。法律上,「慰謝料」の根拠となる不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)は3年で時効にかかる(同724条)ので,本来であれば「払う必要がない」ともいえます。しかし、損害賠償請求権の消滅時効は女生徒の民事上の請求権が消滅しているという女生徒との間の問題にすぎず、懲戒の問題は教師としての非違行為が公務員に対する信用を失墜させたか否かという問題ですから別の次元からの対応が必要になり、参考裁判例のようなケースでは,事実が明らかになってしまうと、懲戒処分の対象となってしまうためある程度の出捐をしてでも和解を締結し、事件を明らかにしたいことが一番適切な対応となります。

本件においては,既に校長先生に知られているようなので,上記対応は妥当しないところもありますが,ケースによっては,教育委員会に話がいかず,学校長の段階あるいは市区町村の教育委員会の段階で事態が終結する(学校長から教育委員会,市区町村から都教育委員会への報告をおこなわない)ということもありますし,下記のとおり,女性との和解(示談)はいずれにしても必要であるため,女性との当該女性の連絡先が明らかであれば,接触をして,和解をすることが必要です。

(2) また,そもそも本件においてどの程度の「非違行為」が認定できるか,という点も問題になり得るところです。

上記のとおり,刑事事件においては,事件ごとに異なりますが,一定の公訴時効が定められていますが,その理由として「一定期間経過後は,証拠が散逸してしまうから,適正な審理が不可能になる」ことを挙げる見解があります(訴訟法説)。

行政処分(懲戒処分)を科すにあたっても,当然,非違行為(本件淫行)の内容,すなわち,いつ,誰との間で,どのような行為が,いかなる経緯であったのか,が明確にならなければなりません。

その観点からは,そもそも本件のような20年前の事件において,非違行為を認定して,懲戒処分を科すことは困難であるはずです。

それにもかかわらず,参考裁判例①及び②で,非違行為が認定されているのは,女生徒本人からの申告があったことと,懲戒対象者が「事情聴取後,福島県教育委員会に対し,本件女子生徒と男女の関係を持ったことを一切否定しない旨が記載された「申立書」と題する書面を提出した」ことが主な理由です。

いくら証拠が散逸しているとしても,両当事者が事実関係を肯定すれば,事実の認定はある程度容易になってしまいます。

そのため,本件におけるあなたに対する事情聴取は,極めて慎重におこなう必要がある,ということになります。

また,上記のとおり,証拠がなければ懲戒処分を科すことはできない以上,やはり女性との和解は必要だ,ということになります。

(3) 上記2つの対応がうまくいかず,教育委員会において非違行為が認定される,ということなった場合ですが,通常の懲戒事件と同様,「標準的な処分量定」の記載に従い,あなたにとって有利な事情を挙げていくことになります。また,記載にはありませんが,淫行の場合,18歳未満の女性が(厳密な意味では異なりますが)「被害者」としているので,その女性の精神的苦痛がどの程度のものであったか,は斟酌されることになります。特に教育公務員における淫行等の事案においては,示談イコール懲戒免職処分回避ではありませんが,実際に参考裁判例①及び②のいずれにおいても,女生徒の母親と50万円で和解(示談)が成立していることが斟酌されるべき事情として挙げられています。

上記のとおり,懲戒処分は種々の事情を総合考慮して決せられるため,まずはできる限り多くの有利に斟酌されうる事情を集める,ということになります。

それでも,上記「淫行」に対する処分の重さを考えると,やはり,一番可能性が高いのは,上記のとおり,事態が顕在化する前に,穏便に終息させる,ということになります。

(4) 以上のとおり,本件は正式な懲戒処分の手続の対応をするのでは遅く,迅速に動くことが求められる事案です。速やかに弁護士に相談して,対応を協議することをお勧めします。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照判例・条文

【参考判例】

参考裁判例①福島地判平成28年6月7日の一部抜粋

「一方,原告は,前記認定事実のように,本件行為が発覚した以降の事情聴取において,本件女子生徒と性的な関係を持ったことについては素直に認めており,平成24年3月12日には,福島県教育委員会に対し,職を辞してお詫びしたい旨の上申書及び退職願を提出していること(甲30)からしても,本件行為の責任を感じ,反省をしていることがうかがえる。

また,原告は,平成2年頃,本件女子生徒の母親に対して,和解金として50万円を支払っており,自らがした本件行為の責任を一応は尽くそうとしたことが認められる。

この点に関し,原告が本件女子生徒との性的な関係を現在も非常に真摯で真面目で良い思い出であったと認識している等と述べていた(原告本人)としても,上記のように,原告は自らの行為の非を認め,退職願を提出し,金銭的な賠償にも一部は応じていることからすれば,自らの非違行為の責任を感じ,その反省をしていると認められる。

また,そもそも本件行為自体は、本件懲戒免職処分の23年以上前の事であり,原告は,本件懲戒免職処分を受けるまでの間,懲戒処分を受けることなく,福島県の教育に携わってきたものであることは,前記前提事実のとおりである。20年以上前の事情と現在又は直近の事情とを比較した場合に,後者の方が公務員に対する信頼等に与える影響は当然大きいものといえるのであるから,このような時の経過は,懲戒処分の必要性及びその程度に関する判断において,当然に考慮されるべき事情であるといえる。被告は,福島県教育委員会としては,本件行為を容易に知り得る立場になく,本件行為に対して認識しつつ処分をしなかったのではないから,時の経過により公務員秩序が回復したとは認められないと主張するが,上記述べたところに照らし,採用できない。

さらに,前記前提事実のとおり,原告が,本件女子生徒の母親に対して,平成2年頃に本件行為の和解金として50万円を支払ったこと,上記和解後,平成19年に至るまで,約17年間にわたり本件女子生徒又はその母親において,原告に対し,本件行為に関する要求等は行っておらず,本件女子生徒も,一旦は婚姻関係を結んでいたことからすると,本件行為が本件女子生徒に与えた影響も,本件懲戒免職処分時点においては一定程度回復していたことがうかがわれる。なお,本件女子生徒及びその母親が,平成19年以降,特に平成24年になって原告に対して再度金銭を要求をするようになった原因は本件証拠上必ずしも明らかではないが,上記認定の事実経過からすると,本件女子生徒が被告に原告を告発したことをもって,本件女子生徒に対する影響が全く回復していないとは認められない。

(4)以上のとおり,本件行為は,教育公務員である原告が自ら指導する本件女子生徒と性的な関係を持ったというものであり,生徒,その保護者及び社会一定の混乱・波紋をもたらした事実は否定できないものの,原告が本件行為について反省し,事後的に本件女子生徒に対して一定の慰謝料を支払っていること及び本件行為から20年以上の月日が経過したことなどの諸事情,特に,本件行為から長期間経過したことは,処分行政庁において,処分の内容を量定するに当たり十分に考慮すべきであったというべきであるところ,これを十分に考慮したとは言い難いといえる。また,懲戒免職処分は,30年以上にわたり,被告の教育公務員として勤務しており,この間,特にスポーツ教育の分野において,一定の貢献をしてきた(甲1,甲6の1~15)原告の功績を全て否定することになることをも考慮すると,本件懲戒免職処分は,処分行政庁において,考慮すべき事項を十分に考慮せず処分を判断した結果,重きに過ぎて社会通念上著しく妥当性を欠いた処分であるといわざるを得ず,裁量権を濫用したものとして違法であると解するのが相当である。

よって,本件懲戒免職処分は,裁量権を濫用したものであり,違法な処分であるため,取り消されるべきである。」

参考裁判例②仙台高判平成28年11月30日(①の控訴審)の一部抜粋

「上によると,被控訴人が平成2年頃本件女子生徒の母親に対し和解金として50万円を支払っていること,本件非違行為は,本件懲戒免職処分の23年以上前の事であり,被控訴人は,本件懲戒免職処分を受けるまでの間,懲戒処分を受けることなく,福島県の教育に携わってきたものであることなどを斟酌したとしても,上記のとおり,本件非違行為は極めて悪質であって,県民の学校教育に対する信頼を根底から覆す悪質極まりないものであるところ,福島県教育委員会に本件非違行為が発覚したのは平成24年2月であって,その後遅滞なく本件懲戒免職処分が行われていることからすれば,本件懲戒免職処分が社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえず,福島県教育委員会がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない。

したがって,本件懲戒免職処分は適法である。」

【参照条文】

地方公務員法

(懲戒)

第二十九条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。

一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合

二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

2 職員が、任命権者の要請に応じ当該地方公共団体の特別職に属する地方公務員、他の地方公共団体若しくは特定地方独立行政法人の地方公務員、国家公務員又は地方公社(地方住宅供給公社、地方道路公社及び土地開発公社をいう。)その他その業務が地方公共団体若しくは国の事務若しくは事業と密接な関連を有する法人のうち条例で定めるものに使用される者(以下この項において「特別職地方公務員等」という。)となるため退職し、引き続き特別職地方公務員等として在職した後、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合(一の特別職地方公務員等として在職した後、引き続き一以上の特別職地方公務員等として在職し、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合を含む。)において、当該退職までの引き続く職員としての在職期間(当該退職前に同様の退職(以下この項において「先の退職」という。)、特別職地方公務員等としての在職及び職員としての採用がある場合には、当該先の退職までの引き続く職員としての在職期間を含む。次項において「要請に応じた退職前の在職期間」という。)中に前項各号のいずれかに該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。

3 職員が、第二十八条の四第一項又は第二十八条の五第一項の規定により採用された場合において、定年退職者等となつた日までの引き続く職員としての在職期間(要請に応じた退職前の在職期間を含む。)又はこれらの規定によりかつて採用されて職員として在職していた期間中に第一項各号の一に該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。

4 職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定めなければならない。

東京都青少年の健全な育成に関する条例

(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)

第十八条の六 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。

(罰則)

第二十四条の三 第十八条の六の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第二十八条 第九条第一項、第十条第一項、第十一条、第十三条第一項、第十三条の二第一項、第十五条第一項若しくは第二項、第十五条の二第一項若しくは第二項、第十五条の三、第十五条の四第二項又は第十六条第一項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第二十四条の四、第二十五条又は第二十六条第一号、第二号若しくは第四号から第六号までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

刑事訴訟法

第二百五十条 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については三十年

二 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については二十年

三 前二号に掲げる罪以外の罪については十年

○2 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

一 死刑に当たる罪については二十五年

二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年

三 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年

四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年

五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年

六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年

七 拘留又は科料に当たる罪については一年