強制性交罪、準強制性交罪について
刑事|平成29年刑法改正(性犯罪厳罰化)による影響と対策|わいせつ罪の非親告罪化
目次
質問:
私は,都内の広告会社に勤務する会社員です。先日,友人らとの飲み会(いわゆる合コン)の後,私と友人の二人で酔いつぶれた女性を友人の家に連れ込み,性的な行為をしてしまいました。お恥ずかしい話なのですが,詳しく言うと,友人が女性と性行為をしており,私も女性の口に自分の性器を押し当てて咥えさせようとしたところ,女性が目を覚まし,怒って家を出ていきました。
今になって考えると,私と友人のしたことは犯罪に該当するような気がします。女性が警察に行った場合,私達は処罰されてしまうのでしょうか。最近ニュースで刑法が改正されて性犯罪に厳しくなったと聞き,非常に不安です。
回答:
1 あなたと友人が行った行為は,酩酊状態で女性が抗拒不能な状態を利用して性的な行為を行った行為であるといえます。その為,刑法上の準強制性交罪(刑法178条)により処罰を受ける可能性が高いといえます。なお,同種の行為について,平成29年の刑法改正前は「準強姦罪」と呼ばれていましたが,改正により罪名が変わっています。
2 準強制性交罪の対象となる性的な行為は,条文上,「性交,肛門性交又は口腔性交(性交等)」と規定されています。その為,性交をしたあなたの友人は,準強制性交罪の処罰範囲に含まれます。あなたの「女性の口に自分の性器を押し当てて咥えさせようとした」行為については,口腔性交に該当するか判断が難しいところですが,いずれにせよ,友人との共同正犯として,共に準強制性交罪が成立します。
3 刑法改正により,準強制性交罪等の性犯罪については,親告罪(被害者が告訴しなければ公訴を提起できない犯罪)ではなくなりました。その為。仮に被害者と示談が成立した等の理由で被害者が告訴を行わなかったとしても,起訴されて処罰を受ける可能性はあります。
もっとも,準強制性交罪のような個人的法益を保護するための犯罪類型においては,被害者との示談が成立しているという事実は,検査官が不起訴処分と判断する大きな理由の一つとなることには変わりありません。いずれにせよ,速やかに被害者への謝罪と賠償を行い,示談協議を行うべきでしょう。
4 刑法改正により,上記の非親告罪化のほか,法定刑の下限の引き上げ等,性犯罪の厳罰化が進んでおります。強制性交罪の法定刑は,従前より2年引き上げられ,5年以上の有期懲役となりました。準強制性交罪についても同様です。単に刑期が長くなったということだけでなく、減刑されない限り執行猶予がつけられなくなったことが重要です。改正直後ということもあり,事件が以前に比して大々的に報道されてしまう危険も高いでしょう。速やかに専門家に相談し,適切な対処を行うことをお勧めいたします。
5 強制性交罪に関する関連事例集参照。
解説:
1 本件で成立する犯罪
(1)準強制性交罪について
あなたと友人が行った行為は,酩酊状態で女性が抗拒不能な状態を利用して性的な行為を行った行為であるといえます。その為,刑法上の準強制性交罪(刑法178条)により処罰を受ける可能性が高いといえます。なお,同種の行為について,平成29年の刑法改正前は「準強姦罪」と呼ばれていましたが,改正により罪名が変わっています。以下では,改正後の条文を前提に開設を行います。
(2)準強制性交罪の対象について
準強制性交罪が成立するのは,「①人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、②性交等をした(刑法178条)」場合です。
①「心神喪失・抗拒不能」について
まず心神喪失とは,精神的な障害によって正常な判断能力を失った場合をいいます。抗拒不能とは,心理的又は物理的に抵抗ができない状態を意味します。
酒に酔って酩酊状態にある場合に,抗拒不能と認められるか否かについては,事案によって判断されるところですが,完全に心神喪失・抗拒不能とまでなっている必要はなく,社会通念上,抵抗することが困難と認められる場合には,比較的緩やかに抗拒不能が認定される傾向にあります。
また,本件のように,行為中に意識を取り戻した女性が直ぐに拒否の姿勢を示している場合等は,性行為に同意があったとは認められず,女性の抗拒不能を利用して行ったものと推認されてしまう可能性が高いでしょう。
なお,本罪においては,積極的に飲酒させる等して,女性の心神喪失状態を自ら積極的に作出することまでは要件とされておらず,酔い潰れた結果を利用しただけで も, 本罪は成立することになります。
②「性交等」について
ここでいう「性交等」とは,「性交、肛門性交又は口腔性交」を意味します(刑法177条)。
平成29年の改正前は,いわゆる(準)強姦罪の対象範囲となる行為は,姦淫(男性器を女性器に挿入する行為)に限定されておりましたが,改正により,処罰対象となる範囲が広まりました。これにより,肛門性交や口腔性交等の,従来であれば強制わいせつ罪で処罰されてきた行為についても,強制性交罪として重い処罰が下されることになりました。
なお,本件であなたは,男性器を女性の口に押し当てたとのことですが,当該行為だけを取れば,処罰対象となる「口腔性交」には該当しないと考えられます。法制審議会においても,「口腔性交」は,あくまで男性器を被害者の口の中に入れる行為であり,従来用いられてきた「口淫」(男女問わず性器を舐める行為等を含む)よりも狭い概念であることが前提とされています(http://www.moj.go.jp/content/001199101.pdf)。その為,あなたの行為が単に女性の口に性器を押し付けるに留まるものであれば,準強制性交罪の対象とはなりません。
一方で,同罪の未遂に該当する可能性は高いといえます。しかし現場において共同で性的な行為に及んでいる以上,あなたと友人は共同正犯(刑法60条)の関係にあると考えられるため,あなたが実際に女性と性交をしていなくとも,準強制性交罪の正犯として処罰される可能性が高いといえます。
なお,刑法の改正前は,複数人が現場で共同して強姦行為を行った場合には,集団強姦罪として,4年以上の有期懲役という重い処罰が規定されていました。しかし法改正により強制性交罪自体の刑の下限が5年以上とそれ以上の重く改正されたため,集団強姦罪の規定は削除されました。もっとも,集団強姦罪の規定が存在していた趣旨からすれば,単独による強制性交罪の場合より,複数人での共犯事案の場合の方が量刑として重く評価される危険は高いと言えるでしょう。
いずれにせよ,本罪では,あなたも準強制性交罪として処罰されてしまう可能性が非常に高い事案であることはほぼ間違いが無いため,女性が被害を届け出た場合に備えて,適切な対応の準備をしておく必要があるといえます。
(3)被害者による被害届・告訴の要否について
(準)強姦罪等の性犯罪について,改正前は,親告罪(被害者による告訴が無ければ告訴を提起して処罰することができない犯罪)と規定されていました。
しかし,平成29年の刑法改正により,準強制性交罪等の性犯罪については,親告罪とする規定が削除されため,被害者による告訴が無くとも,起訴されて処罰を科すことができるようになりました。
この改正は,従前,性犯罪が親告罪であるが故に,警察等が,被害者の告訴の意思を強固でない限り捜査に速やかに着手しなかったり,告訴の意思が強固であるか確認する為に被害者に対して威迫的な事情聴取を行ったりすることが多く,それゆえ告訴をすることが被害者の大きな負担になっていたことから行われたものです。
非親告罪化することにより,被害者の負担が減り,捜査機関としても公訴の提起が容易となることから,今後は性犯罪の捜査がこれまで以上に迅速化することが予想されます。
被害者にある程度の処罰の意思があれば,以前よりも速やかに逮捕等に至るケースもより多くなるかもしれません。本件のようなケースの場合,被害者が警察に被害届を提出すれば,数日で逮捕手続きが行われる可能性も考えられます。
そのため,本件でも,逮捕等を回避するためには,改正前よりもよりスピーディな対応が求められることになります。
(4)法定刑について
改正により,強制性交罪の法定刑は,従前より2年引き上げられ,5年以上の有期懲役となりました。準強制性交罪についても同様です。これにより,下限で言えば殺人罪とも同じとなり,非常に重い処罰が予定された犯罪となっています。また、法定刑の下限が5年以上ということで、「刑の減軽」がない限り執行猶予の3年以下の懲役という要件を欠くことになり原則として執行猶予ができないことになります。その為,警察等の捜査機関の捜査も,それに従った非常に厳しいものとなることが予想されます。
2 行うべき弁護活動について
以上を前提に,本件で行うべき弁護活動について説明します。
まず,最も重要なのは,やはり被害者との間で示談を成立させることです。
上述のとおり,本件のような事例の場合,被害者が警察に被害を申告し,捜査機関がある程度信用性に足りると判断すれば,数日で逮捕等の強制捜査手続きに移行してしまう可能性もあります。特に刑法改正直後は,報道等されてニュースになってしまう危険性も大きいでしょう。
ただし,本件のような個人間の性犯罪については,被害者が警察に被害深刻を行わない限りは,警察が事件を認知することはありませんから,事件として捜査が開始されることもありません。その為,被害者の方が警察に行く前に示談が成立すれば,ほぼ確実に刑事処罰を回避できることとなります。
また,仮に被害者が警察に被害深刻を行った場合でも,示談が成立していれば,公訴を提起されて処罰を受ける可能性は著しく低下するといえます。
なお,平成29年の改正により,性犯罪が非親告罪化されている為,示談が成立して被害者が告訴権を放棄したとしても,改正前のように法律上確実に公訴を回避できることにはなりません。
しかし,準強制性交罪のような被害者の性的自由という個人的法益を保護するための犯罪類型においては,被害者との示談が成立しているという事実は,検査官が不起訴処分と判断する大きな理由の一つとなることには変わりありません。また,仮に公訴を提起することになれば,被害者は捜査機関による供述調書の作成や,公判での証言等に協力する必要が生じてしまいます。非親告罪化の主な趣旨が,上記で述べたような被害者による告訴の負担の軽減という点にあることからすれば,示談が成立している場合にまで,あえて公訴を提起することは,まさに本末転倒というべきであり,やはり示談が成立した場合には,従前どおり不起訴処分となる可能性が非常に高いといえるでしょう。
そうは言っても,法定刑が非常に重く改正されており,犯罪として厳罰化の傾向が著しい以上,示談が成立したとしても,それで不起訴が確実とは言えません。
その為,事件化している場合には,示談の成立の他にも,心療内科への通院等の再犯防止の取り組み,親族等の協力による指導監督の環境構築等,を行い,捜査機関に認知させることが必要となります。
いずれにせよ,まずは速やかに被害者への適切な謝罪と賠償の準備をすることが何よりも大切です。
3 まとめ
今回の刑法改正は,性犯罪について厳罰化の方針を明確に打ち出したものです。改正直後ということもあり,性犯罪については世間の注目度も増しており,事件が発覚した場合,以前に比して大々的に報道されてしまう危険も高いでしょう。
万が一,該当する行為を行ってしまった場合には,対応の遅れが命取りになる場合もあります。速やかに専門家に相談し,迅速かつ適切な対処を行うことをお勧めいたします。
以上