公務員による児童ポルノの単純所持|捜索の可能性と懲戒処分の回避
刑事|児童ポルノの単純所持を犯した場合における家宅捜索の可能性と対応方法|公務員の懲戒処分・職場への連絡阻止
目次
質問
私は,関東県内の役所に公務員として勤務している成人男性です。
実は,以前インターネット上のDVDショップで,10代前半の女子の裸が写っているDVDを購入したことがあります。最近,そのDVDショップが摘発され,購入者が捕まったというニュースを見たのですが,私もそうならないか不安です。そこで相談ですが、
① 今後,私のもとに警察が来る可能性はあるでしょうか。家宅捜索をされると家族にばれてしまうので,それだけは絶対に避けたいです。
② DVDは、破棄してしまって良いのでしょうか。破棄する前に警察が来てDVDが押収されてしまった場合、どのような処分を受けるのでしょうか。逮捕されてしまうことはあるのでしょうか。
③ もしこの件で処罰される場合,勤務先から懲戒処分を受ける可能性が高いと思いますが,免職だけは避けたいと思います。どのように対応したら良いでしょうか。
回答
1 10代前半の女子の裸が写っているとなると,当該DVDは,法律上の児童ポルノに該当する可能性が高いです。平成27年7の法改正により,児童ポルノを自己の性的好奇心を満たす目的で所持することが処罰の対象となっています。
そのため,本件でもあなたが同法違反の被疑者として,捜査を受ける危険性はあります。既に児童ポルノを処分してしまっている場合,逮捕・起訴されて有罪になる可能性は高くはありませんが,予告無しに家宅捜索等が行われることはあります。このような突然の捜索は,事前に弁護士と一緒に警察に出頭し,児童ポルノを購入・処分した経緯等について説明する等により回避できることも多いです。
2 仮に児童ポルノを処分する前に家宅捜索が行われてしまった場合,逮捕される可能性は高くはありませんが,起訴されて有罪となる見込みは非常に高いです。
初犯であれば,数十万円程度の罰金刑が予想されるところですが,自ら反省と贖罪の意思を示し,公益団体への贖罪寄付等を行うことによって,不起訴処分となることもあり得ます。相談者様のように,公務員としてはたら罰金刑の前科が付くと懲戒処分を受けてしまう危険のある場合には,不起訴を目指した弁護活動を行う必要性が高いでしょう。
3 公務員の方が刑事事件を起こした場合,原則として警察から勤務先への報告が為されてしまいます。しかし,弁護士を通じて警察と交渉を行うことにより,軽微な刑事事件については報告を回避することが可能な場合があります。
仮に報告されてしまった場合には,勤務先において,懲戒免職処分は重すぎる旨の意見書等を提出し,免職を回避できる場合があります。
4 不安なことがあれば,まずは弁護士に相談し,適切な対応を指示してもらうことをお勧め致します。
解説
第1 児童ポルノ単純所持の違法性
児童ポルノについては,平成27年7月の法改正により,個人による自分のための所持でも処罰の対象となりました。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
第2条第3項 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一号 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二号 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三号 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
上記の「電磁的記録に係る記録媒体」には,DVD等を含みます。また,児童の裸が写っているものであれば,基本的には上の条文の三号に該当することになりますので,本件であなたが所持していたDVDは,法律上の児童ポルノに該当する可能性が高いと言えます。
そして,児童ポルノを自己の意思に基づいて「自己の性的好奇心を満たす目的で」所持した場合には,一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられることになります(同法7条1項)。
児童ポルノに該当する物である以上,特殊な事情が無い限りは自己の性的好奇心を満たす目的での所持と推認されますので,本件でも,あなたがDVDを購入して所持していたことが認められれば,最終的に処罰を受ける対象となります。
第2 本件での捜査|家宅捜索の可能性と回避方法
1 想定される捜査
では,本件の捜査は,どのように進むでしょうか。
本件のように,インターネットを通じて児童ポルノを購入してしまった場合,その購入者名簿や購入履歴からあなたが被疑者として特定され,捜査の対象となるということは考えられますし,実際にも捜査の端緒多いパターンです。警察が,名簿に記載されているどの範囲まで実際に摘発するかは不明ですが,近年の厳罰化の傾向を考えると,購入が確認できる対象者については,可能な限り摘発を行うことは否定できません。
仮に,あなたが被疑者となった場合,捜査機関としては,あなたの自宅等を家宅捜索することが多いです。
児童ポルノの単純所持の事案は,原則として現行犯でないと処罰が難しいため,警察としては,事前に証拠を隠滅(児童ポルノを破棄)されることを避けるために,当然,予告なしで家宅捜索がされることになるでしょう。
家宅捜索の結果,児童ポルノが発見されなければ,現行犯とはならないため,逮捕されたり,その後処罰を受けたりするという可能性は高くはありません。もっとも,購入履歴等から所持を立証することが完全に不可能というものでもありませんので,保証はできません。児童ポルノが発見されなくても,購入者名簿に名前があり家宅捜索があった以上被疑者として詳細な事情聴取等の捜査は行われることになります。
2 突然の家宅捜索を回避する方法
上記のような突然の家宅捜索を回避する方法としては,警察が捜索に来る前に,自ら警察に出頭し,事情を説明することが考えられます。
もっとも,個人でいきなり警察に出頭しても,警察が取り合ってくれることはまずありません。インターネットを通じて児童ポルノを入手した場合,捜査を担当している警察署が遠方である場合も多く,特定は困難です。そのため基本的には,弁護士に相談した上で,きちんと児童ポルノを入手・処分した経緯を説明する書面を作成し,証拠として残る形で,警察署に提出する必要があります。
警察としても,すでに児童ポルノが破棄された後では現行犯での摘発が不可能な事案として家宅捜索等をするのは徒労ですので,このような方法により,自ら既に児童ポルノを処分してしまったことを警察に伝えれば,その後に摘発を受ける可能性は非常に低くなります。
不安を解消し,家族等への発覚を未然に防ぐためには,弁護士に相談することをお勧め致します。
第3 児童ポルノが発見された場合の手続きと対応
仮に児童ポルノを処分する前に家宅捜索が行われ,現行犯として逮捕されてしまった場合,起訴されて有罪となる見込みは高いです。
所持を認めており,特段,罪証隠滅のおそれ等をうかがわせる事情がなければ,逮捕に至るということは少なく,在宅事件として事情聴取等の捜査が行われることが多いといえます。
捜査終結後,検察官が処分を決定することになりますが,初犯であれば,通常は数十万円程度の罰金刑が予想されるところです。
もっとも,児童ポルノの単純所持の事案の場合,自ら反省と贖罪の意思を示し,弁護士会等の公益団体への贖罪のための寄付等を行うことによって,不起訴処分となることもあり得ます。
相談者様のように,公務員としてはたら罰金刑の前科が付くと懲戒処分を受けてしまう危険のある場合には,不起訴を目指した弁護活動を行う必要性が高いでしょう。
第4 勤務先への対応
1 連絡・報道の阻止
万が一,公務員の方が刑事事件を起こした場合,原則として,警察から勤務先への報告が為されてしまいます。報告がなされるタイミングは,事案にもよりますが,捜査開始直後すぐに連絡がされるケースもあれば,事件を検察庁に送致する際に連絡がされるケースもあります。
また,公務員の方や大会社の社員の方の場合,事件が新聞などにより報道されてしまう可能性も一定程度存在します。
しかし,弁護士を通じて警察と交渉を行うことにより,軽微な刑事事件については職場への連絡や,報道機関への情報提供を回避することが可能な場合があります。
具体的には,①有罪となる見込み(贖罪寄付等により不起訴処分となる可能性が高いこと),②本人の役職等級(管理職でなければ,責任の度合いが小さい),③その他の事情(家庭の経済状況等)を含めた詳細な上申書面を警察に提出することによって,連絡報道を回避できる場合があります。
これらの活動は,事件発覚ご早急に行う必要がありますので,捜査を受けた場合には,至急弁護士に相談することをお勧め致します。
この点については,事例集『公務員の2度目の万引きと職場連絡阻止対策』もご参照ください。
2 免職処分の回避
仮に,事件が勤務先の知るところとなってしまった場合には,勤務先において,懲戒処分を受ける可能性が高いと言えます。
国家公務員の懲戒処分の基準ですと,児童ポルノについて明確な処分基準は定められていませんが,18歳未満の児童との淫行については,免職又は停職の処分と定められていますので,児童ポルノ禁止法違反についても,淫行と同じ種類の事例として,免職処分を受けてしまう可能性があります。
もっとも,法律上は,特定児童との淫行と比較すれば,児童ポルノの単純所持は悪質性が低いと言えますし,また処分指針上も,痴漢行為等のわいせつ事案は停職以下の処分とされていることと比較すれば,法律上,免職処分は違法な処分であると評価される可能性は高いといえます。
それにも関わらず,勤務先からは,「このままだと懲戒免職処分になるから,依願退職しなさい」「本当だと懲戒免職だけど,今直ぐに退職すれば依願退職扱いにできる」等と,事実とことなる内容を告げて退職を強要されることも多いのが実態です。
退職を回避するためには,勤務先における事情聴取で,自分に不利益な事実を認めてしまったり,退職を認めるような上申書の言質を相手に取られたりしないことが重要です。
不当に重い処分を回避するためにも,対応について早急に弁護士に相談することをお勧め致します。
この点については,事例集『公務員が退職する必要のない罪名』もご参照ください。
第5 まとめ
児童ポルノ事案は,警察も摘発に力を入れている事件類型であり,社会的にも耳目を集めやすい事件です。不安なことがあれば,まずは弁護士に相談し,適切な対応を指示してもらうことをお勧め致します。
以上