男女間トラブルの事案における勾留阻止活動

刑事|男女間トラブルを発端とする刑事事件|示談ができなくても準抗告が通るか|建造物損壊と器物損壊罪|最決平成19年3月20日

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

別れ話をされたことに腹を立てた息子(一人暮らし)が,交際相手が居住するマンションの一室のドアを無理矢理こじ開けようとしてドアノブを変形させてしまいました。すぐに警察が来て,息子はその場で逮捕されたようです。

単なる男女間のトラブルですし,勾留されずにすぐに釈放されるであろうと,甘く見ていたのですが,本日勾留決定が出てしまい,しばらく会社を欠勤する必要が出てきてしまいました。警察の人の話では,罪名は器物損壊ということのようです。

近所の弁護士さんに相談したところ,マンションの管理者や交際相手との間で示談が成立しない限り,出てくることはできないとのことでした。しかし示談となると,先方の都合もあるでしょうから,息子が釈放されるまでに時間が掛かってしまい,会社にも怪しまれてしまいます。何とか息子を早期に釈放させる手段はないでしょうか。

回答:

1 示談前でも勾留決定に対する不服申立ての手続きである準抗告の申立て(刑訴法429条1項2号)を行うことで,勾留決定が取り消され,釈放される可能性がありますから、弁護士に準抗告の申し立てを依頼してください。

息子さんは,マンションの一室のドアノブを変形させたということで,器物損壊罪(刑法261条)の嫌疑で捜査対象となっているようです。ただし,ドアその物を損壊させた者には建造物損壊罪の成立を認めるのが判例の立場ですので,検察官が被疑罪名を建造物損壊罪(刑法260条)に変更する可能性も僅かながらあり得るところです(損壊部分がドアノブだけであれば,その可能性は低いとは思います。)。

2 その上で,裁判官が息子さんに対する勾留を認める決定を出していますので,最大で20日間の身柄拘束が予想されます(刑訴法208条1項,216条)。

勾留の要件は,勾留の理由(罪を犯したと疑うに足りる相当な理由に加え,住居不定,罪証隠滅のおそれ,逃亡のおそれのいずれかが認められること。刑訴法207条1項,60条1項。)と勾留の必要性(事案の軽重,勾留による不利益の程度,捜査の実情等を総合的に判断し,被疑者を勾留することが実質的に相当でない場合は,勾留の必要性を欠き,勾留請求が却下されるという消極的要件。刑訴法207条1項,87条1項参照。)であり,息子さんが勾留されてしまったということは,裁判官にこれらの要件を満たすと判断されてしまったことを意味します。

3 ただし,上記要件を否定する資料を揃えた上で,勾留決定に対する不服申立ての手続きである準抗告の申立て(刑訴法429条1項2号)を行うことで,勾留決定が取り消され,釈放される可能性が出てきます。

この点,被害者との間で示談を成立させることが,罪証隠滅や逃亡のおそれを否定する強力な事情となることは間違いありませんが,一刻を争うような状況の場合は,被害者と接触をして示談の話し合いをしている暇が無いこともあります。しかしそのような場合でも,被害者に対する示談申入れの意向を有していること,釈放後に被害者への接触可能性がないこと,家族らの監督の実効性が高いこと等について,客観的資料を添えて弁護人から説得的に主張すれば,示談未了のままでも準抗告が認められる可能性は十分にあります。

示談未了のまま準抗告が認容される可能性がございますので,本件でも早期の身柄解放をご希望される場合は,被害者に接触する前の段階から積極的に準抗告の申立てを行うべきでしょう。

4 とはいえ,準抗告が棄却される可能性を見越した活動も当然必要となってきます。準抗告を申し立てるのと並行して,被害者と連絡を取り,なるべく早急に面会の機会を取り付けるべきです。万が一準抗告が棄却されたとしても,被害者との間で示談が成立すれば,再度準抗告を申し立てることで,高い確率で釈放されます。

5 最後に本件の終局処分の見通しですが,器物損壊罪は告訴がなければ訴追できない親告罪ですので(刑法264条),被害者との間で示談が成立して告訴が取り消されれば,不起訴となります。他方で,示談が成立しなければ罰金の可能性が高いといえます。なお,本件の被害者は,原則的にはマンションの所有者・管理者ということになりますが,判例は被害者の範囲を所有者に限定していない(最判昭和45年12月22日)こと,交際相手にも一定の迷惑を掛けてしまっていること等から,両名との示談を検討する必要があるでしょう(実際には,検察官と協議しながら進めることになります。)。

いずれにせよ,早期の身柄釈放と終局処分の軽減のいずれの観点からも,示談は必須といえます。

以上の一連の動きをスピーディーに行う必要がございますので,刑事弁護に精通した弁護士にご相談されることをお勧めします。

6 準抗告と勾留取消の関連記事1396番参照。その他、勾留阻止に関する関連事例集参照。

解説:

第1 本件で成立する犯罪

1 他人の物を損壊した場合,器物損壊罪(刑法262条)が成立することになり,法定刑は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料と規定されております。「損壊」の意味ですが,広く物の効用を害する行為を意味し,破損させたり変形させたりする行為は当然これに含まれます。なお,似たような犯罪として,他人の建造物を損壊した場合に成立する建造物損壊罪があり(刑法260条),法定刑は5年以下の懲役と規定されております。

2 今回のように,建造物の構成部分を壊してしまったような場合,いずれの犯罪が成立することになるのか問題となりますが(建造物損壊罪の法定刑の方が格段に重いため,重要な関心事と思われます。),判例は,「建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは,当該物と建造物との接合の程度のほか,当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべき」との見解を採用しています(最決平成19年3月20日)。すなわち,容易に取り外し可能な部分を損壊した場合は,建造物の一部という評価にはならず,他人の所有物を損壊したに止まると評価されやすいものの,機能的に見て,建造物の中で重要な役割を果たしていると評価できる部分を損壊した場合は,たとえ当該部分が容易に取り外し可能であっても建造物損壊罪の対象と判断される場合があるということです。

その上で,上記判例は,ドアその物を破壊した行為について機能的重要性を指摘して建造物損壊罪の成立を肯定しています。

3 本件について検討するに,ドアノブを曲損させる行為は,ドアその物の破損行為と同様の行為であるから,建造物損壊罪が成立する,との考えもあり得なくはないかもしれません。しかし,私見としましては,ドアその物の効用を害したと評価するには論理の飛躍があるように感じますし,検察官が罪名をあえて建造物損壊に変更する可能性は低いように思われます。

なお,器物損壊罪は親告罪とされており(刑法264条),被害者の告訴がないと訴追出来ません。少なくとも,本件で被害届が出されているのは間違いないでしょう。

4 これ以外にも,交際相手のマンションへの立ち入りが意思に反する不法な立ち入りと評価されて,住居侵入罪(刑法130条前段)が被疑罪名に追加される可能性があり,また息子さんが交際相手の女性から連絡を拒絶されているにもかかわらず,これを無視して連絡・接触をし続けていたような事情があれば,ストーカー規制法違反の罪も観念できますが,これらについては割愛します。

第2 勾留の要件について

1 本件において,息子さんは,警察官による現行犯人逮捕に引き続いて,検察官から勾留を請求され,裁判官が勾留決定を出しました(刑訴法207条1項,60条1項)。

勾留とは,被疑者もしくは被告人を刑事施設に拘禁する旨の裁判官もしくは裁判所の裁判,または当該裁判に基づき被疑者もしくは被告人を拘禁することをいいます。勾留期間は原則10日間ですが(刑訴法208条1項),「やむを得ない事由」が存在する時は,更に10日間延長することが可能とされています(刑訴法208条2項)。逮捕から最大で23日間も拘束される危険があり,その社会生活上の不利益は甚大です。

2 以下,勾留の要件を説明しながら,本件で息子さんに対する勾留が認められた理由を検討していきます。

勾留が認められるためには,勾留の理由と勾留の必要性が必要です。

(1) 勾留の理由?

ア 一般論

勾留の理由があるというためには,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(刑訴法60条1項柱書)があると共に,同条項各号(住居不定,罪証隠滅のおそれ,逃亡のおそれ)のいずれかを満たす必要があります。

イ 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由

本件では,目撃者(交際相手,マンション内の他の住人,駆け付けた警察官等)の供述,防犯カメラの映像等の証拠が存在すると思われ,罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると判断されたことはやむを得ないでしょう。

ウ 各号該当性

次に,各号該当性です。息子さんは定まった住居を有していることから(1号),本件では2号(罪証隠滅のおそれ)と3号(逃亡のおそれ)が問題となります。

息子さんは現在1人暮らしということですから,第三者による監督が及ばずに,逃亡したり,あるいは交際相手やマンションの所有者・管理者へ接触したりする可能性が高いとの判断が働き,2号及び3号の双方を満たすと判断されたのだと思われます。

(1) 勾留の必要性

勾留の理由が認められても,事案の軽重,勾留による不利益の程度,捜査の実情等を総合的に判断し,被疑者を勾留することが実質的に相当でない場合は,勾留の必要性を欠き,勾留請求が却下される可能性があります(刑訴法87条1項参照)。

しかし検察官は,裁判所に対して勾留請求する際,勾留による被疑者の社会生活上の不利益の程度について積極的に述べてくれるわけではないため,勾留決定が出る前の段階で,弁護人が勾留の必要性を否定する事情を裁判官に積極的に伝えなければ,そういった事情を無視して勾留の要件を判断されてしまうのです。特に,本件のような知人間の刑事トラブルについては,類型的にみて,被疑者が被害者に再度接触する危険が高いと判断され易く,弁護人から積極的な働きかけがない限り,勾留の必要性を否定する判断にはならないでしょう。

第3 身柄釈放に向けた弁護活動(勾留決定に対する準抗告の申立て)

1 勾留を事後的に争う手段について

裁判所が勾留決定をした場合には,管轄する地方裁判所に対して,不服申立ての手続きとして,準抗告を申し立てることができます(刑事訴訟法429条1項2号)。準抗告の申立てにおいて,勾留の理由と必要性がないことを説得的に主張し,それが認められれば,元の勾留決定は取り消され,息子さんは無事釈放されることとなります。

準抗告審は,3人の裁判官による合議体で判断されますので,慎重な判断が期待できますが,勾留の理由と必要性の要件を充足しないことを説得的に主張する必要がありますので,準抗告に対する経験が豊富な弁護人を選任する必要があるでしょう。

なお,この準抗告という手続き以外に,原裁判後に生じた勾留の要件を否定する事情(示談成立による被害届の取下げ等)を用いて勾留の取消請求をするという手段もありますが(刑訴法207条1項,87条1項),裁判官が勾留を取り消す決定をするにあたっては,原則的に検察官の意見を聴かなければならないとされており(刑訴法92条2項・1項,207条1項,87条1項),準抗告の場合よりも判断が遅れる傾向にあります(特に,休日を挟むような場合は顕著です。)。

そうであれば,準抗告を申し立てれば良いのではないか,ということになりますが,準抗告審という事後審的な手続きにおいて原裁判後に生じた事情を斟酌してもらうことができるのか,という点が法律論として問題となり得ます。結論から言えば,勾留決定後の事情が準抗告において考慮された先例(函館地決平成13年3月24日)をみても分かるように,実務上は原裁判後に生じた事情も斟酌される傾向にありますので,勾留決定を事後的に争う場合の手続きは,基本的に準抗告を選択すべきでしょう。詳しくは事例集1396番等を参照してください。

2 準抗告において主張すべき事情

(1) 罪証隠滅のおそれを否定する事情

ア 被疑事実に関連する証拠(罪証)に対して不当な働きかけをする危 険がない,ということを説得的に主張する必要があります。罪証隠滅のおそれは,客観的可能性と主観的可能性という2つの視点から判断されます。

イ 罪証隠滅の客観的可能性とは,被害品等の物的証拠や目撃者の証言等の人的証拠に対して,働きかけを行うことが客観的に可能かどうか,ということです。客観的に不可能であることをどれだけ説得的に主張できるかが重要となります。

具体的には,被害品が既に捜査機関に収集されており,働きかけが不可能であることや,関係者の供述が既に供述調書化されており,息子さんが釈放後に関係者らに不当な働きかけをする意味が全くないこと等を主張する必要があります。

ウ 次に,罪証隠滅の主観的可能性とは,被疑者自身が証拠に不当な働きかけをする意思がないことを意味します。

罪証隠滅の主観的可能性を否定する最も強力な事情が,被害者との間で示談が成立していることです。被害者との間で円満に和解が成立し,被害届の取下げ等に至れば,もはや被疑者において被害者等の事件関係者に接触を試み,何らかの働きかけをする動機を持ち得ないためです。

しかし,被害者との示談を行うためには,被害者の特定,連絡先の入手,被害者との面会の日程調整等,ある程度手順を踏む必要があり,時間が掛かってしまうケースが多いでしょう。この点,息子さんのような会社員の方の場合,欠勤が続くと勤務先から怪しまれてしまい,場合によっては懲戒処分の危険すら出てきてしまうため,一刻も早い身体拘束からの解放が必要です。そのため,被害者とすぐにでも面会可能な場合はさておき,取り急ぎ示談交渉の準備が具体的に整っていることを示す客観的資料(弁護人の示談金預かり証)を準備して準抗告に備えるべきで,それだけでも十分に意味があります。

この点について補足すると,従来の実務上の傾向として,知人間の刑事トラブルについては,示談が成立しない限り釈放は難しいという風潮がありました。しかし,近年の身柄解放に関する弁護活動の活性化の流れを受け,勾留という長期の身体拘束が社会生活に及ぼす不利益の重大さが広く認識されるようになり,裁判所における勾留の却下率,準抗告認容率も増加傾向にあるとされています。示談未了のまま準抗告が認容された例がございますので,本件でも早期の身柄解放をご希望される場合は,被害者に接触する前の段階から積極的に準抗告の申立てを行うべきでしょう。

その他,示談の際に被害者に交付する予定の書類として,被害者に対して今後二度と接近・連絡しないことを約する不接近誓約書(特に,本件事案の下では,交際相手との交際関係を終了させることを誓約しておくこと無難でしょう。)や被害者に宛てた謝罪文等を準備している事情も,重要な要素となってきますし,捜査機関による取調べにおいて一貫して犯行を認めている事情も考慮の対象となります。

(2) 逃亡のおそれを否定する事情

逃亡のおそれとは,被疑者が刑事訴追や執行を免れる目的で裁判所に対して所在不明になるおそれのことをいいます。

逃亡のおそれを否定する事情として,家族(本件ではご両親)が責任をもって被疑者本人の身柄を引き受け,監督を行うことを誓約していることが重要な事実となります。家族が厳格な生活指導,監督をすることによって裁判所や検察庁へ本人を出頭させることを確約しているのであれば,裁判所としても逃亡のおそれは低いものと認定しやすくなるのです。

家族の誓約内容については,身元引受書という形で裁判所に提出すると効果的です。家族による身元保証に加え,弁護人による身元引受書の提出も裁判所を説得する上では有効といえます。

なお,本件のように被疑者本人が一人暮らしをしているような場合,家族の監督にも限界があるのではないか,という疑問を裁判所に持たれてしまう危険があります。その点をフォローするために,たとえば事件終結まではご実家でご両親と生活を共にすることを息子さんに誓約させる等の工夫が必等な場合もあります。

その他,本件において予想される終局処分が重いものではないという事情も主張する必要があります。現在進行形で示談の申入れを行っており,示談が成立すれば不起訴処分が強く見込まれるため,重い処罰をおそれて逃亡などするはずがない,といった主張です。示談の準備を具体的に進めているという事情は,罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれの双方を否定するために極めて重要な事情となってくるのです。

(3) 勾留の必要性を否定する事情

勾留の理由を否定する事情に加え,勾留の必要性を否定する事情も積極的に主張する必要があります。

前述のとおり,たとえ勾留の理由が認められるとしても,事案の軽重,勾留による不利益の程度,捜査の実情等を総合的に判断し,被疑者を勾留することが実質的に相当でない場合は,勾留の必要性を欠き,勾留は認められないことになります(刑訴法87条参照)。

罪証隠滅や逃亡のおそれの高さと,勾留によって受ける不利益の大きさを比較して,後者がより大きいという主張を行うことになりますが,上記罪証隠滅や逃亡のおそれが低いという主張は,勾留の理由を否定する事情と共通しますから,ここで主に論じるべきなのは,勾留によって受ける社会的な不利益が大きいことについてです。

個々人の置かれた状況によって主張すべき事情も異なってきますが,会社勤めをしている方であれば,連日の欠勤が会社内で不利益に取り扱われる(懲戒処分等)危険は指摘するべきでしょう。その他,どうしても外せない重要な予定があること,持病の関係で長期間の勾留に耐えられないこと等,個別の事情に応じた主張を説得的に展開することになります。

これら総合的事情を書面化して裁判官に面接を求め裁判官の疑問点を聞き出してさらにそれを補充する手続きが必要です。東京地裁等関東周辺では一般的に面接も可能になっています。具体的には、誓約書の形式の修正、示談金の追加、身元引受の人数、方式等を積極的、具体的に提案し勾留の要件、必要性がないことを交渉過程で見いだす必要があります。弁護人側提案の熱意を汲んでくれる場合もありますから諦めないことです。

3 裁判官面談の必要性

以上の事情を網羅する準抗告申立書を裁判所に提出することになりますが,その際に,裁判官との面接を希望すれば,担当の裁判官と直接対面の上,当方の事情を聴いてもらう機会が与えられます。裁判官も人ですから,こちらの真剣さの度合い等を伝えるためには,直接会って話をすることが極めて重要となります。

時折,勾留の理由と必要性を否定する事情として足りない部分を示唆してくれる裁判官もおり,これを敏感に受け取り,速やかに当該部分を補充することで準抗告が認容されるケースもあります。

第4 終局処分の軽減に向けた活動

以上,身柄の早期解放に向けた弁護活動についてご説明いたしましたが,最終的な終局処分を可能な限り軽減させるためには,被害者との間で示談を成立させることが必要不可欠です。

本件の被害者は,原則的にはマンションの所有者・管理者ということになりますが,判例は被害者の範囲を所有者に限定していない(最判昭和45年12月22日)ことから,占有者である交際相手も被害者として観念できると思われます。少なくとも,交際相手にも一定の迷惑を掛けてしまっていることは間違いないですから,両名との示談を検討する必要があるでしょう(実際には,検察官と協議しながら進めることになります。)。

その上で,器物損壊罪は告訴がなければ訴追できない親告罪ですので(刑法264条),被害者との間で示談が成立して告訴が取り消されれば,不起訴となります。他方で,示談が成立しなければ罰金の可能性が出てきます。その他,被疑罪名が建造物損壊に変更されたり,住居侵入罪が追加されたりする可能性もありますが。いずれにせよ,示談が成立すれば不起訴の可能性が高いでしょう。

第5 まとめ

以上述べてきたとおり,準抗告を申し立てることで,息子さんの身柄を早期に解放できる可能性は十分に残されていますし,終局処分についても不起訴を十分に狙えます。時間との勝負ですので,機敏に動ける体制が整った法律事務所にご相談されることをお勧めいたします。

以上

以上

関連事例集

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※参照判例・条文

①建造物損壊,公務執行妨害被告事件

最高裁判所平成19年3月20日決定

主 文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中60日を本刑に算入する。

理 由

弁護人小嶋章予の上告趣意は、単なる法令違反の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

所論にかんがみ,本件建造物損壊罪の成否について,職権で判断する。

1 原判決の認定によれば,本件ドアは,5階建て市営住宅1階にある居室の出入口に設置された,厚さ約3.5cm,高さ約200cm,幅約87cmの金属製開き戸であり,同ドアは,上記建物に固着された外枠の内側に3個のちょうつがいで接合され,外枠と同ドアとは構造上家屋の外壁と接続しており,一体的な外観を呈しているところ,被告人は,所携の金属バットで,同ドアを叩いて凹損させるなどし,その塗装修繕工事費用の見積金額は2万5000円であったというのである。

2 所論は,本件ドアは,適切な工具を使用すれば容易に取り外しが可能であって,損壊しなければ取り外すことができないような状態にあったとはいえないから,器物損壊罪が成立するにすぎないのに,原判決が建造物損壊罪の成立を認めたのは法令の解釈適用を誤っているという。

しかしながら,建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは,当該物と建造物との接合の程度のほか,当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきものであるところ,上記1の事実関係によれば,本件ドアは,住居の玄関ドアとして外壁と接続し,外界とのしゃ断,防犯,防風,防音等の重要な役割を果たしているから,建造物損壊罪の客体に当たるものと認められ,適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしても,この結論は左右されない。そうすると,建造物損壊罪の成立を認めた原判断は,結論において正当である。

よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

②器物損壊被告事件

最高裁判所昭和45年12月22日判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人清家栄の上告趣意のうち、判例違反をいう点について。

所論は、原判決が、刑法二六一条の罪の告訴権者について、「告訴権者を所有者だけに限定して解することは必ずしも当を得たものではない。けだし、所有者以外の者であつても、たとえば賃借人等の如く適法な占有権原に基づいて当該物件を占有使用している者は、これを使用収益することによつて、当該物件の利用価値、即ち効用を享受しているのであるから、右のような用益権者が適法に享受する利益もまた所有権者のそれとは別個に保護されて然るべきであり、刑法上ことさらこれを保護の対象から除外すべき根拠はない。このことは、刑法二六二条が物の賃借人等の利益を独立して保護の対象としていることからみても明らかである。」と判示したのが、引用の明治四五年五月二七日の大審院判例(刑録一八輯六七六頁)に相反するというのである。

よつて案ずるに、右大審院の判例は、所論告訴権者について、「刑法第二百六十一条ノ毀棄罪ノ被害者ハ毀棄セラレタル物ノ所有者ニ外ナラサレハ告訴権ヲ有スル者ハ其所有者ニ限レルモノトス」と判示しているのであるから、原判決は、右大審院の判例と相反する判断をしたことになり、刑訴法四〇五条三号に規定する,最高裁判所の判例がない場合に大審院の判例と相反する判断をしたことにあたるものといわなければならない。

しかし、刑訴法二三〇条は、「犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。」と規定しているのであるから、右大審院判決がこれを毀棄された物の所有者に限るとしたのは、狭きに失するものといわなければならない。そして、原判決の認定したところによると、告訴をしたSは、本件ブロツク塀、その築造されている土地およびその土地上の家屋の共有者の一人であるMの妻で、右家屋に、米国に出かせぎに行つている同人のるすを守つて子供らと居住し、右塀によつて居住の平穏等を維持していたものであるというのであつて、このような事実関係のもとにおいては、右Sは、本件ブロツク塀の損壊により害を被つた者として、告訴権を有するものと解するのが相当である。

そこで、刑訴法四一〇条二項により、前記大審院の判例を変更して原判決を維持することとする。

その余の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、上告適法の理由にあたらない。

また、記録を調べても刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

③保釈許可決定に対する準抗告申立事件

函館地裁平成13年3月24日決定

『しかしながら、上記のとおり、原裁判後において、未だ受訴裁判所による許可決定を受けていないとはいえ、検察官が上記内容の訴因等の変更請求をしている現段階においては、準抗告審裁判所としては、窃盗未遂の事実に関する上記罪証隠滅のおそれも、未だ本件公訴事実そのものとはなっていないものの、本件の重要な情状事実には該当するに至っている事実に関するものとして、考慮すべきものと解される。そして、本件の手続の経緯や関係証拠に照らしても、このように解することを不当とすべき点は見当たらない。

そうすると、被告人には、同法八九条四号の事由もあると認められる。また、この窃盗未遂の手口は常習性、営利性が顕著に窺われる態様のものであって、未遂であることを考慮しても、犯情ははなはだ芳しくない上、被告人は、本件発覚時に逃走を試みてもいるから、上記訴因等の変更請求がされたことによって、逃亡のおそれも原裁判時より格段に高まったものと認められる。

そうすると、現時点においては、上記の諸事情を最大限考慮しても、裁量によって本件保釈を許可するのは相当でないと認められる。』

【参照条文】

〇刑法

(住居侵入等)

第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

(建造物等損壊及び同致死傷)

第二百六十条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

(器物損壊等)

第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

(親告罪)

第二百六十四条 第二百五十九条、第二百六十一条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

〇刑事訴訟法

第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。

一 被告人が定まつた住居を有しないとき。

二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

○2 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。

○3 三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。

第八十七条 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。

○2 第八十二条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。

第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

○2 前項の裁判官は、勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨を告げ、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に対しては、貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。

○3 前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、勾留された被疑者は弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。

○4 第二項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。

○5 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。

第四百二十九条 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。

一 忌避の申立を却下する裁判

二 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判

三 鑑定のため留置を命ずる裁判

四 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判

五 身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判

○2 第四百二十条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。

○3 第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。

○4 第一項第四号又は第五号の裁判の取消又は変更の請求は、その裁判のあつた日から三日以内にこれをしなければならない。

○5 前項の請求期間内及びその請求があつたときは、裁判の執行は、停止される。