営業補償(都市再開発法97条1項)の算出方法|補償額の協議が整わない場合の手続の流れ
都市再開発法|一時移転に伴い支払われる営業補償額(通算補償)の算出方法|通損補償の金額について協議が整わない場合の手続の流れ
目次
質問
駅前で建物を賃借して喫茶店を経営しております。株式会社で運営しています。
このたび、駅前で再開発事業が行われるということで、準備組合が設立され、再開発計画の概要について説明会も開催されました。第一種市街地再開発事業により、4年間掛けて駅前に巨大なビルを建設するという計画のようです。大家さんと相談し、当社は一時的に移転して4年後に新しいビルに戻ってくる計画を立てています。
再開発準備組合からは、一時移転のための営業補償について概算の提示を受けていますが、営業補償は数百万円程の金額となっています。当社の喫茶店は駅前だからこそ経営が成り立っているのであり、駅前一帯が再開発に掛かる今回の建て替え期間には駅前から少し離れた場所に一時移転せざるを得ず、果たして4年間の経営が成り立つのか不安でたまりません。
この提示額は妥当なものでしょうか、当社の損失をきちんと補償してもらうにはどうしたらよいのでしょうか。
回答
1 都市再開発法について 都市再開発法では、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的として、権利変換の手法により、施工区域内の従来の権利をまとめて消滅させることで再開発による建て替えを促進しています。この際に生じる損失は総事業費の中に組み込まれ、再開発区域内の権利者が地積などに応じて平等に負担すべきことが規定されています(都市再開発法39条2項など)。
2 再開発に伴う損失補償の根拠規定 再開発に伴う損失補償は都市再開発法97条で規定され、「土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない」と規定されています。
ここで「通常受ける損失」と規定されているのは、最終的な損失額は再開発手続が全て終結しないと確定しませんが、明け渡しの時点では金額が未定であっても手続を進めることができるように、事前見積額の提示及び支払いで構わないとされているためです。
法97条は「通常受ける損失」を略して「通損補償」と呼ばれています。
3 通損補償の金額について協議が整わない場合の供託 通損補償の金額は、組合側の事前見積額の提示に基づいて当事者の協議により定めますが、当事者の協議が整わない場合、再開発組合は「組合に設置された3名以上の審査委員の過半数の同意を得た金額」を地方法務局に供託することにより、占有者に対して明け渡しを請求できる権限を取得できますので、明け渡しの仮処分申立(断行の仮処分)を経て、強制的に明け渡しを進行させることができます。
4 通損補償の金額について協議が整わない場合の裁決 また、通損補償の金額について協議が整わない場合、再開発組合は、審査委員の過半数の同意を得た金額を供託する方法のほかに、各都道府県の収用委員会に補償額を確定するために裁決の申請をすることができます(再開発法97条4項、土地収用法94条2項。審査委員の同意は協議が決まらない場合の明渡請求の前提要件にすぎませんから損失額を確定するという効力はありません)。
申請は組合、損失を受ける権利者側双方ができます。権利者側も通常の訴訟と同じように自らの損害を算定し、証拠書類を準備し、まずは交渉、裁決に備える必要があります。
これは行政機関による行政処分の一種ですが、裁判所の前審としての効力を有し、60日の不服申立期限内に裁判所への訴えがない場合、裁決は(損失補償額について)債務名義としての機能を有します。さらに収用委員会の裁決に不服がある場合は、裁判所に損失補償請求及び裁決取消請求訴訟を提起することができます。
通常は、組合側は審査委員会の過半数の同意を得て賠償金額を提示することになります。権利者側としては、手続き上この同意について異議を申し立てることはできませんから、収用委員会の裁決の申請をして賠償額を争うことになります。ただしその場合も、審査委員会の同意を得た金額を供託すれば仮処分の要件は満たすことになります。
しかし、実際上は裁決の申請があると仮処分を申し立てるということはないと予測されます。金額に争いがある以上は権利者の意向を無視して明け渡しまで強行することは組合側も差し控えるのが一般的と思われます。
5 営業補償の算定方法 再開発組合が提示する概算額は、いわゆる「用対連基準」に基づいて算出されています。これは、土地収用法に基づく損失補償の基準として定められた政令の一種である「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和37年6月29日閣議決定)」に基づいて、中央省庁、公団、公社などの関係機関により設立された用地対策連絡協議会が細目を定めた「公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)」のことを指します。
この基準に従って算出される限り、収用委員会の裁決も、裁判所の裁決取消訴訟も困難であると言えますが、これらの基準は一般的な事例について様々な実例調査に基づいて作成された基準に過ぎませんので、貴社の事例について実損害が大幅に基準と異なるということであれば、立証できる資料を組合側との交渉過程で周到に用意して、裁決申請を行い、取消訴訟も検討すべきでしょう。
お困りであれば、再開発手続に詳しい弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。
解説
第1 再開発手続における損失補償の位置づけ
第一種市街地再開発事業は、都市再開発法で定められた、権利変換方式を用いる再開発(建て替え)の手法です。ちなみに、第二種市街地再開発事業は、管理処分方式(用地買収方式)と言って、公共性の高い事業について、地方自治体などが主体となり、区域内の権利を全て取得し、その上で希望者に再入居させて、再開発を進める方式です。
第一種再開発事業は、従前建物の耐震性や耐火性を高め、商業施設などの利便性を高めるために、都市計画決定を経た上で、区域内の地権者5名以上で、区域内の宅地所有者及び借地権者の3分の2以上(面積及び人数)の同意により、組合を設立し、権利変換計画を定め、従来の土地建物の権利を、新しい建物の敷地権と区分所有権に変換させて、円滑に建て替えを進めるための事業です。都市機能の向上と安全性・防災性の向上は公共の福祉に役立つことであるので、ある程度私権を制限してでも手続を進めてしまうという制度趣旨です。
権利変換とは、組合が定めた計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の①~④の効力が生じるものです。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。
① 施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。
② 従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。
③ 施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。
④ 当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。
面積と人数で3分の2以上という多数の意思形成は必要ですが、逆に言えば、区域住民の大多数が同意できるような計画を提示できれば、多少の反対があっても事業を進めることができるように法令が整備されています。
都市再開発法第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)
第1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。
再開発の手続にあたって立ち退きなどに伴って生じる損失は総事業費の中に組み込まれ、再開発区域内の権利者が地積などに応じて平等に負担すべきことが規定されています(都市再開発法39条2項など)。総事業費の概算は、再開発組合が設立される時の事業計画案に含まれる要素となっています。
都市再開発法第39条(経費の賦課徴収)
第1項 組合は、その事業に要する経費に充てるため、賦課金として参加組合員以外の組合員に対して金銭を賦課徴収することができる。
第2項 賦課金の額は、組合員が施行地区内に有する宅地又は借地の位置、地積等を考慮して公平に定めなければならない。
第一種市街地再開発事業の認可基準を定めた都市再開発法17条4号では、「当該第一種市街地再開発事業を遂行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に遂行するために必要なその他の能力が十分」であることが求められており、事業計画案の経済的実現可能性が認可条件のひとつとされています。
具体的に言えば、事業計画案では事業費の収支均衡が求められ、かつ収入面において実現可能性が求められることになります。つまり、収入と支出が一致しており、再開発事業を遂行することに支障が無いと見込まれることが必要となっています。
都市再開発法第17条(認可の基準)
都道府県知事は、第十一条第一項から第三項までの規定による認可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その認可をしなければならない。
一号 申請手続が法令に違反していること。
二号 定款又は事業計画若しくは事業基本方針の決定手続又は内容が法令(事業計画の内容にあつては、前条第三項に規定する都道府県知事の命令を含む。)に違反していること。
三号 事業計画又は事業基本方針の内容が当該第一種市街地再開発事業に関する都市計画に適合せず、又は事業施行期間が適切でないこと。
四号 当該第一種市街地再開発事業を遂行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に遂行するために必要なその他の能力が十分でないこと。
第2 再開発手続における損失補償の根拠規定
再開発に伴う損失補償は都市再開発法97条1項で規定されています。
都市再開発法第97条(土地の明渡しに伴う損失補償)
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
ここで「通常受ける損失」と規定されているのは、最終的な損失額は再開発手続が全て終結しないと確定しませんが、明け渡しの時点では金額が未定であっても手続を進めることができるように、事前見積額の提示及び支払いで構わないとされているためです。また、この「通常」という定め方は、民法416条の債務不履行に基づく損害賠償責任の場面における損害賠償の範囲に関する規定と同じで、「相当因果関係」のある賠償責任を意味するものと解釈できます。
相当因果関係とは、原因行為と発生した損害との間に、社会通念上相当とされる程度の因果関係を要求する考え方です。都市再開発法97条の通損補償においては、再開発に伴う立ち退きと、損害の発生との間に、相当因果関係が要求されることになります。この「損失」には、実際に支出が必要となる積極損害の他、収入減少を填補する消極損害(あり得べし利益の賠償)も含まれると解釈されています。
都市再開発法では、都市機能の更新による公共の福祉の増進という公益目的はありますが、憲法が保障する私有財産権の保護(憲法29条1項)と、当事者の公平という観点で考えた場合、立ち退きをする者から見て、建替え前後で経済的損失を生じないように最大限保護されると考えることができます(完全補償説)。都市再開発法が裁決手続などで準用する土地収用法における損失補償の根拠規定、最高裁判例も引用します。
日本国憲法第29条
第1項 財産権は、これを侵してはならない。
第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
第3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。土地収用法第68条(損失を補償すべき者) 土地を収用し、又は使用することに因つて土地所有者及び関係人が受ける損失は、起業者が補償しなければならない。
最高裁昭和48年10月18日判決
土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する
結局、憲法29条も、土地収用法68条も、民法416条も、民法709条も、都市再開発法97条も、損失を賠償・填補するときの考え方は全て同じです。
土地収用法も都市再開発法も、公益目的で私権が制限されるという構造に違いはありません。当事者の公平を基礎として、社会通念上相当とされる範囲内の全ての損失を補償すべきことになります。
第3 通損補償額の決まり方と実際の明け渡し手続き
再開発手続における損失補償の考え方は前記の通りですが、個別事例において、具体的に通損補償額をどのように確定させていくのか、実際の明渡手続きがどのように進むのか、都市再開発法の手続を見てみましょう。
都市再開発法第97条
第2項 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
第3項 施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
第4項 第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項 の規定による補償額の裁決を申請することができる。第96条(土地の明渡し)
第1項 施行者は、権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるときは、施行地区内の土地又は当該土地に存する物件を占有している者に対し、期限を定めて、土地の明渡しを求めることができる。ただし、第九十五条の規定により従前指定宅地であつた土地を占有している者又は当該土地に存する物件を占有している者に対しては、第百条第一項の規定による通知をするまでは、土地の明渡しを求めることができない。
第2項 前項の規定による明渡しの期限は、同項の請求をした日の翌日から起算して三十日を経過した後の日でなければならない。
第3項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地を除く。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転しなければならない。ただし、第九十一条第一項又は次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第4項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地に限る。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地を引き渡し、又は物件を移転し、若しくは除却しなければならない。ただし、次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第5項 第九十五条の規定により建築物を占有する者が施行者に当該建築物を引き渡す場合において、当該建築物に、第六十六条第七項の承認を受けないで改築、増築若しくは大修繕が行われ、又は物件が付加増置された部分があるときは、第八十七条第二項の規定により当該建築物の所有権を失つた者は、当該部分又は物件を除却して、これを取得することができる。
第6項 第一項に規定する処分については、行政手続法第三章の規定は、適用しない。
まず、原則として、通損補償の具体的金額については、当事者(施工者と権利を有する者)が良く話し合う必要があります。施行者というのは市街地再開発組合のことで、権利を有する者というのが立ち退きをする者(占有者)のことです。
協議が成立した場合、施行者は、明け渡しの期限までに、通損補償額の支払いをしなければなりません(都市再開発法97条3項)。ここで明け渡し期限というのは、権利変換期日後、つまり占有者の権利が消滅した後で、施行者が事業を進めるために必要な場合に30日以上の猶予を定めて通知された明け渡しの期限のことです(都市再開発法96条2項)。
明け渡しの期限までに協議が整わない場合は、施行者(市街地再開発組合)は、審査委員の過半数の同意を得て定めた金額を支払えば足りることになります。
占有者が補償額を受領しない場合は、受領拒絶を理由として法務局に供託することができます(民法494条)。供託完了した場合、明け渡し期限までに損失を補償したことになり、組合側は、占有者に対して、法的に明け渡しを請求できる地位に立つことになります(都市再開発法96条1項)。
権利変換期日に占有者の建物所有権などは既に消滅していますから、明け渡しを求めることができるのは当たり前のようにも思えますが、権利変換手続きが占有者の同意なく権利を奪う手続きとなっていることから、法は元権利者である占有者の保護を重視しているのです。
審査委員は、再開発組合の総会決議で選任される専門家委員で、弁護士などの法律家や、不動産鑑定士や宅建士や建築士など不動産についての知識経験を有する者から3人以上選任されます(都市再開発法43条2項、同2項)。審査委員は組合毎に選任されます。
都市再開発法第43条(審査委員)
第1項 組合に、この法律及び定款で定める権限を行なわせるため、審査委員三人以上を置く。
第2項 審査委員は、土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者のうちから総会で選任する。
3 前二項に規定するもののほか、審査委員に関し必要な事項は、政令で定める。
権利変換期日が経過して、占有者の占有権原が消滅し、明け渡しの期限も経過した場合、実体法上は、施行者は、占有者に対して法的に明け渡しを請求できる地位に立つことになります。
都市再開発法に基づく権利変換期日を経過していることや、明け渡し期限を経過していることを示す資料を証拠として、明け渡し訴訟を提起することができ、勝訴判決を得て、明け渡しの強制執行をすることができます。
訴訟手続には時間が掛かるので、実務上はほとんどのケースで債務名義を取得する前に保全命令の申立を行い、明け渡し断行の仮処分命令を得て保全執行が行われるケースが多くなっています。
このように、都市再開発法97条の通損補償額が法的に確定していなくても、組合側は占有者に対して明け渡しの請求が出来る仕組みになっています。再開発手続きの障害とならないように、補償額の確定と明け渡しの可否が、法的に切り離されているということです。
第4 収用委員会の裁決、裁判所に対する裁決取消訴訟
施行者(組合)と明け渡しをする権利者(占有者)の間で補償額についての協議が成立した場合は、清算条項つきの合意書が取り交わされ、都市再開発法97条の補償額が当事者間で確定することになります。
施行者と明け渡しをする権利者との間で協議が成立しない場合は、施行者又は損失を受けた者は、各自治体の収用委員会に土地収用法第94条第2項の規定による補償額の裁決を申請することができます。これは組合提示の補償額が妥当かどうか、また、妥当でない場合は補償額をいくらにすべきか、行政委員会である収用委員会が決定する手続きです。
土地収用法
第94条
第1項 前三条の規定による損失の補償は、起業者と損失を受けた者(前条第一項に規定する工事をすることを必要とする者を含む。以下この条において同じ。)とが協議して定めなければならない。
第2項 前項の規定による協議が成立しないときは、起業者又は損失を受けた者は、収用委員会の裁決を申請することができる。
第3項 前項の規定による裁決を申請しようとする者は、国土交通省令で定める様式に従い、左に掲げる事項を記載した裁決申請書を収用委員会に提出しなければならない。
一号 裁決申請者の氏名及び住所
二号 相手方の氏名及び住所
三号 事業の種類
四号 損失の事実
五号 損失の補償の見積及びその内訳
六号 協議の経過
第4項 第十九条の規定は、前項の規定による裁決申請書の欠陥の補正について準用する。この場合において、「前条」とあるのは「第九十四条第三項」と、「事業認定申請書」とあるのは「裁決申請書」と、「国土交通大臣又は都道府県知事」とあるのは「収用委員会」と読み替えるものとする。
第5項 収用委員会は、第三項の規定による裁決申請書を受理したときは、前項において準用する第十九条第二項の規定により裁決申請書を却下する場合を除くの外、第三項の規定による裁決申請者及び裁決申請書に記載されている相手方にあらかじめ審理の期日及び場所を通知した上で、審理を開始しなければならない。
収用委員会は、法律、経済又は行政に関してすぐれた経験と知識を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者のうちから、都道府県の議会の同意を得て、都道府県知事が7名任命して組織される機関です(土地収用法52条)。普段は、道路買収事業など収用事業の事業認定や明渡裁決や補償裁決などの業務を行っています。
収用委員会の裁決は行政機関による行政処分の一種ですが、裁判所の前審としての効力を有し、不服申立期限内に裁判所への訴えがない場合は債務名義としての機能を有します(土地収用法94条10項)。
収用委員会の裁決に不服がある場合は、裁決書正本の送達を受けた日から60日以内に、裁判所に裁決取消請求訴訟を提起することができます(土地収用法94条9項)。
勿論、裁決の申請をせずに最初から訴訟提起することもできる仕組みになっていますが、ほとんどのケースでは、収用委員会による裁決手続きが先行しているようです。このようにして、都市再開発法97条の補償額が法的に確定していくことになります。
土地収用法抜粋
第94条
第7項 収用委員会は、第二項の規定による裁決の申請がこの法律の規定に違反するときは、裁決をもつて申請を却下しなければならない。
第8項 収用委員会は、前項の規定によつて申請を却下する場合を除くの外、損失の補償及び補償をすべき時期について裁決しなければならない。この場合において、収用委員会は、損失の補償については、裁決申請者及びその相手方が裁決申請書又は第六項において準用する第六十三条第二項の規定による意見書若しくは第六項において準用する第六十五条第一項第一号の規定に基いて提出する意見書によつて申し立てた範囲をこえて裁決してはならない。
第9項 前項の規定による裁決に対して不服がある者は、第百三十三条第二項の規定にかかわらず、裁決書の正本の送達を受けた日から六十日以内に、損失があつた土地の所在地の裁判所に対して訴えを提起しなければならない。
第10項 前項の規定による訴えの提起がなかつたときは、第八項の規定によつてされた裁決は、強制執行に関しては、民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)第二十二条第五号 に掲げる債務名義とみなす。
第11項 前項の規定による債務名義についての執行文の付与は、収用委員会の会長が行う。民事執行法第二十九条 後段の執行文及び文書の謄本の送達も、同様とする。
第5 損失補償基準
再開発組合が提示する概算額は、いわゆる「用対連基準」に基づいて算出されています。
これは、土地収用法に基づく損失補償の基準として定められた政令の一種(国土交通省訓令)である「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和37年6月29日閣議決定)」に基づいて、中央省庁、公団、公社などの関係機関により設立された用地対策連絡協議会が細目を定めた「公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)」のことを指します。現在では、国土交通省の「公共用地の取得に伴う損失補償基準」も策定され、ほぼ同じ内容となっております。
【参考】
・国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準
・国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準の運用方針
・国土交通省損失補償取扱要領
前記公共用地の取得に伴う損失補償基準の営業補償に関する項目を引用します。
第3節 営業補償
(営業廃止の補償)
第47条 土地等の取得又は土地等の使用に伴い通常営業の継続が不能となると認められるときは、次の各号に掲げる額を補償するものとする。
一 免許を受けた営業等の営業の権利等が資産とは独立に取引される慣習があるものについては、その正常な取引価格
二 機械器具等の資産、商品、仕掛品等の売却損その他資本に関して通常生ずる損失額
三 従業員を解雇するため必要となる解雇予告手当相当額、転業が相当と認められる場合において従業員を継続して雇用する必要があるときにおける転業に通常必要とする期間中の休業手当相当額その他労働に関して通常生ずる損失額
四 転業に通常必要とする期間中の従前の収益相当額(個人営業の場合においては、従前の所得相当額)
2 前項の場合において、解雇する従業員に対しては第68条の規定による離職者補償を行うものとし、事業主に対する退職手当補償は行わないものとする。(営業休止の補償)
第48条 土地等の取得又は土地等の使用に伴い通常営業を一時休止する必要があると認められるときは、次の各号に掲げる額を補償するものとする。
一 通常休業を必要とする期間中の営業用資産に対する公租公課等の固定的な経費及び従業員に対する休業手当相当額
二 通常休業を必要とする期間中の収益減(個人営業の場合においては、所得減)
三 休業することにより、又は店舗等の位置を変更することにより、一時的に得意を喪失することによって通常生ずる損失額(前号に掲げるものを除く。)
四 店舗等の移転の際における商品、仕掛品等の減損、移転広告費その他店舗等の移転に伴い通常生ずる損失額
2 営業を休止することなく仮営業所を設置して営業を継続することが必要かつ相当であると認められるときは、仮営業所の設置の費用、仮営業であるための収益減(個人営業の場合においては、所得減)等並びに前項第3号及び第4号に掲げる額を補償するものとする。(営業規模縮小の補償)
第49条 土地等の取得又は土地等の使用に伴い通常営業の規模を縮小しなければならないと認められるときは、次の各号に掲げる額を補償するものとする。
一 営業の規模の縮小に伴う固定資産の売却損、解雇予告手当相当額その他資本及び労働の過剰遊休化により通常生ずる損失額
二 営業の規模の縮小に伴い経営効率が客観的に低下すると認められるときは、これにより通常生ずる損失額
2 前項の場合において、解雇する従業員に対しては第68条の規定による離職者補償を行うものとし、事業主に対する退職手当補償は行わないものとする。
都市再開発に伴って、権利変換期日後に、営業者が立ち退きをする場合、次のような経過を辿り、補償額も計算されることになります。
① 権利変換期日後の退去(転居費用、営業休止補償)
② 約4年間の工事期間中の営業(一時減収する得意先喪失の補償)
③ 建物再築後の再入居(転居費用、営業休止補償)
④ 再入居後の営業再開に伴う減収補償(一時減収する得意先喪失の補償)
転居費用は移転実費であり、営業休止補償は、移転のために必要な休業日数に、1日あたりの営業利益を乗算した補償額となります。移転に伴って生ずる「商品、仕掛品等の減損」や「移転広告費」や「移転通知費」や「開店祝費」なども補償されます(【参考】用対連細則27別表第4、建物移転工法別補償期間表)。
得意先喪失補償額は、次の算式により計算されます。
得意先喪失補償額=従前の1か月の売上高×限界利益率×売上減少率
ここで、限界利益率は、限界利益を売上高で割り算した数値で、収入に伴って変動する変動費率を控除した数値となります。具体的には、固定費と利益を加算した限界利益を売上高で割り算した数値となります。
売上減少率は、過去の様々な収用事例において、営業所の移転に伴って実際に減少した売上高の統計などを参考として基準となる表が作成されていますが、ほとんどの業種で、50%から200%、つまり、半月分から2ヶ月分の補償に留まっています。この表によれば、喫茶店の場合は170%、つまり1.7ヶ月分の補償となっています(【参考】国土交通省損失補償取扱要領の第16条売上減少率表)。
実際に計算してみると驚くほど少額の補償となってしまうことが多いものです。建て替え期間に生ずる損害について客観的な基準に基づいて算出されますが、個別の営業における特殊事情は考慮されないことになります。また、2回転居して営業が継続できるだろうかという心理的不安に対する補償は一切ありません。
この基準に従って算出された提示を受けている場合、収用委員会の裁決も、裁判所の裁決取消訴訟も困難であると言えますが、これらの基準は一般的な事例について様々な実例調査に基づいて作成された基準に過ぎませんので、貴社の事例について実損害が大幅に基準と異なるということであれば、損益計算書や貸借対照表などの資料を用意して、裁決申請や取消訴訟も検討すべきでしょう。実際に退去した後に、移転先の店舗で営業して収入減少が生じている場合は、その減少している状況についても書証として裁判所に提出するべきでしょう。
お困りであれば、再開発手続に詳しい弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。
以上