【民事、住宅宿泊事業法、東京高判昭和53年2月27日】
質問:
私は,50戸程度の小規模マンションの管理組合の理事をしています。ここ数か月,区分所有者からゴミ出しのルールを守らず,深夜までうるさく騒いでいる不特定多数の人がいる,という苦情が複数ありました。どうやら,区分所有者の一人が,「民泊」をはじめてしまったようです。管理組合として,どのように対処すれば良いのでしょうか。「民泊用」にマンションの管理規約を変更・追加等もしていませんが,何か組合としてできることはあるのでしょうか。
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回答:
1 民泊を禁止する方向での対処としては、管理規約の変更により、民泊の禁止を明記することが必要です。規約の変更の具体的内容については,国土交通省が出している標準管理規約が改正されたため参考になります。
なお、民泊に関する住宅宿泊事業法は,平成30年6月15日に施行される予定ですが,住宅宿泊事業法が施行され,民泊事業を始めてしまっている区分所有者がいる場合,区分所有法上,その区分所有者の承諾がない限り,民泊を禁止する管理規約の変更ができない場合が生じることも考えられることから,同法施行以前の規約の改正が望ましいといえます。
2 すでに管理規約によって民泊の禁止が定められている,というケースであれば(標準管理規約の規定を参考に管理規約を作成していることを前提に),理事会の承認があれば,民泊行為の差し止め訴訟等を含む対応が可能です。
管理規約上,直接的な民泊の禁止条項がないという場合に民泊行為を止めさせるためには,区分所有法によって,行為の停止請求等をすることになりますが,民泊の具体的な態様(使用方法)が他の区分所有者の「共同の利益に反する行為」といえる必要がありますし,訴訟には理事会ではなく総会の決議が必要です。
3 いずれにしても,証拠の収集や訴訟前の交渉(勧告等を含む)には,事案ごとの柔軟性が求められます。規約変更等には時間的制限もありますし,早急に弁護士に相談されることをお勧めします。
解説:
1 初めに(「民泊」について)
いわゆる「民泊」とは,宿泊料をもらって住宅に人を宿泊させることを指し,法律上は「住宅宿泊事業」といいます(住宅宿泊事業法1条)。例えば,自分の住んでいるマンションに,自分の留守中,お金をもらって旅行者を住まわせること等が典型例です(他にも,自分の持っているマンションでこれを行うことも民泊です)。
宿泊者を紹介する仲介業者も多く存在し,現在では一つの宿泊手段として広く認知されている状態です。
これらの民泊は,従前は旅館業法との関係で,特別に認められた地区以外では基本的に違法だったのですが,平成30年6月15日から施行される住宅宿泊事業法において,安全性等の確保や特定の管理業者への委託等の各条件を満たした場合には,届出によって民泊(をすること)が可能になりました。
しかし,民泊は始まってから一貫して周辺住民の間でトラブルを生んでいます。特に,マンションの一室を利用する形での民泊は,不特定多数の利用を前提とする以上,本件のようにゴミ出しや騒音の点でトラブルが多発している状態です。
そこで,以下では,本件のような事案において,民泊を否定する方向で,管理組合のできる対応等について,説明いたします。
2 民泊に関する管理規約の変更
(1) まず,管理組合側の対応の前提となるのは,管理規約です。後述しますが,管理規約にどのような定めがあるか,具体的には直接的に民泊を禁止する条項が入っているか,つまり当該マンションにおいて,民泊が管理規約違反となっているかに否かよって,対応のハードル(実現可能性)が異なることになります。
(2) 具体的な管理規約の内容については,国土交通省から参考となる「マンション標準管理規約」が出されています。規約案なので,このとおり管理規約を定めなければならないという強制力があるわけではありませんが,従前から一般的なマンションにおいて採用されてきたもので,(特別の事情がなければ)本件マンションもこれを参考にしていると思われるものです(標準管理規約は,単棟・団地・複合用途型とありますが,以下では本件に即して単棟型の規約を挙げています)。
この「マンション標準管理規約」が,上記住宅宿泊事業法の施工に伴い,平成29年8月29日付で改正されました。
従前の標準管理規約は,専有部分(各部屋)の使い方について,「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」(単棟型・第12条)とのみ規定されていました。この規約のみでは,民泊としての使用が「専ら住宅として使用」していない「他の用途」に該当するか,解釈が分かれるところでした。
そこで,改正された標準管理規約では,第12条の2項として,民泊(住宅宿泊事業を禁ずる場合)「区分所有者は、その専有部分を住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用してはならない。」との条項が追加されています。
管理規約との関係では,この第12条2項の規定(と同旨の規定)を設けることで,民泊が「管理規約違反」であることが明確になる,ということになります。
なお,国土交通省が出している各標準管理規約には,民泊をマンションとして認めるための管理規約の変更案についても示されています。本稿では省略しますが,民泊を導入されるという場合は,ご参照ください。
(3) 上記のとおり,標準管理規約第12条2項(のような)条項を入れる規約の改正をするためには,総会を開いて,規約の改正について決議をする必要があります。総会ついて必要なのは,区分所有者および議決権の4分の3以上の賛成です(区分所有法31条1項。)。
決議における議決権の行使は,書面(いわゆる委任状)でも可能(区分所有法39条1項)ということもあり,それだけであれば,区分所有者間の意思統一が特別できない事情がない限りは,規約の改正は不可能ではないところです。
(4) ただし,この規約の改正については,上記住宅宿泊事業法施行時期と絡んで,もう一つ問題があります。
住宅宿泊事業法は,上記のとおり平成30年6月15日に施行される予定ですが,当該法律上で住宅宿泊事業の要件となる,各区分所有者による届け出はそれより前に行われることになります。
仮に,規約の改正が区分所有者による届け出(あるいは実際の民泊事業の開始)に間に合わなかった場合,規約の改正について,届け出を出した(民泊をしている)区分所有者の承諾を要するのではないか,という問題が出てきます。
区分所有法31条は,「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」には,その区分所有者の承諾がなければ管理規約の変更ができない旨を定めるものです。これは,特定の区分所有者にのみ不利益な規約を,他の多数の区分所有者により定めるといった不公平な結果を回避するための規定です。
すなわち,「既に民泊を始めている区分所有者にとっては,開始した後で民泊の禁止する旨の規約が作られることは,その区分所有者にとって「特別の影響」を及ぼすものであるから,その承諾を必要とするのではないか」という理屈です。仮に,承諾が必要だ,ということになれば,承諾を得られる可能性を考えると,スムーズな規約改正は望めません。
この点,直接の裁判例はないのですが,「特別の影響」の解釈については,最高裁判決があります。下記参考裁判例@では,駐車場の使用料の増額を定める規約の改正について,従前から駐車場を使用してきた区分所有者の承諾のない改正の有効性が争われたのですが,最高裁は「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合」であるとしています。
他にも,参考裁判例Aは,参考裁判例@よりも前の高裁裁判例ですが,ペットの禁止を定める規約改正について,従前からペットを飼っていた区分所有者の承諾のない改正の有効性が争われた事案で,具体的な双方の不利益や改正案の内容等に鑑みて,単なるペットを飼っている区分所有者に対しては「特別の影響」を及ぼす変更ではない,と判示しています。
これらの裁判例からは,単に規約改正によって「損をする」区分所有者がいる場合イコール区分所有法31条によって承諾が必要,という訳ではないことが分かりますが,上記のとおり,民泊に関してはその区分所有者がおこなう民泊自体は,住宅宿泊事業法によって(一定条件下で)適法になることからすると,仮に適法な民泊(事業)を始めていて,一定の設備投資等をしている場合,やはり「特別の影響」がある者に該当する,という判断がなされることは十分にあり得るところです。実際に各地方公共団体等は,住宅宿泊事業法の施行前の規約の改正を推奨しています。
3 具体的な組合としての対応
以上を踏まえて,管理組合としての具体的な対応ですが,上記のとおり規約によって民泊が禁止されている場合とそのような規約がない場合によって採り得る手段が異なるため,分けて説明します。
(1) まず,民泊を直接禁止する管理規約がある場合の対応ですが,標準管理規約67条には,区分所有者が管理規約等に即した場合,管理組合の理事長が,管理組合の理事会の決議を経て「その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる」(1項)旨及び「行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること」(3項)旨が定められています。
そのため,(標準管理規約67条と同種の管理規約があることを前提とすれば)まずは理事会の決議を経て民泊の事業を止めるように勧告あるいは警告を出したうえで,それでも応じない場合には行為の差し止めを求める訴訟(仮処分を含む)を提起する,という流れになります(その先,区分所有法58条以下の措置については,要件が厳しくあまり現実的ではないため省略します)。
また,標準管理規約には,規約違反や不法行為があった場合には「弁護士費用及び差止め等の諸費用」も違約金として別途請求できる旨の規定もあります(標準管理規約67条4項)。なお,参考裁判例Bでは,違法な民泊をしていたケースにおいて,具体的な使用態様の問題を挙げたうえで,管理規約違反(及び不法行為)に該当するとして,弁護士費用の支払い請求を認めています。
(2) 次に,民泊を直接禁止する規約が存在しない場合の,管理組合としての対応です。
ア なお,上記のとおり直接禁止する規定がなくても,民泊は標準管理規約第12条の「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない」という条項に反するとした上で,上記管理規約違反があった場合の対応を採る,ということも一応考えられるところです。もっとも,内容が一義的に決まらない標準管理規約の内容(「専ら住宅として使用しなければならない」)を元に,行為の差し止め訴訟が可能か,またそもそも住宅宿泊事業法が施行され,それに伴う標準管理規約の改正があった後も,民泊としての使用が「専ら住宅として使用」に反しているか,という点で疑問です。
したがって,基本的には民泊そのものが規約に反している,という形ではなく対応する必要がある,ということになります。
この点については,当該民泊が住宅宿泊事業法の要件を充たしている場合,充たしていない場合に分けて考えることができます(ただし,後述のとおり結論はほぼ同じです)。
イ まず,要件を充たしていない場合ですが,その場合は,いわゆる「違法民泊」ということになり,民泊事業をしていること自体が「法令に反する」ということになりますから,少なくとも上記標準管理規約67条1項の「是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告」は理事会の決議を経て理事長ができる,ということになります。
他方で,行為の停止(差し止め請求)については,「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法6条1項)である場合に限って可能であり,訴訟を提起する場合には,総会(理事会ではなく)の決議を経なければならない,とされています(区分所有法57条)。「共同の利益に反する行為」は,裁判例上「共同の利益に反する行為にあたるかどうかは、当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の様態、程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである」(東京高判昭和53年2月27日)とされていますから,基本的には「違法な民泊」であることのみをもって差し止め等ができるわけではない,ということになります。結局のところ,参考裁判例Bのように,具体的な使用態様から,他の区分所有者への不利益を主張する必要がある,ということです。
ウ 次に,民泊が要件を充たしている場合ですが,民泊自体が違法ではない以上,標準管理規約67条1項の勧告等をすることはできません。
したがって,この場合には,上記区分所有法6条1項及び同法57条にしたがって,「共同の利益に反する行為」であることを示したうえで,訴訟をする場合には,総会の決議を経る必要がある,ということになります。
(3) 以上が,具体的な対応の大まかな流れとなります。
もっとも,標準管理規約67条の「勧告」等や区分所有法6条1項に定める訴訟に至らない行為の停止請求についても,その具体的な内容(どのような書面にするか)はケースによって様々ですし,上記のとおり,(直接禁止する規約がない場合は特に)具体的な当該区分所有者の使用態様の問題を主張する必要がありますので,事前の証拠確保(ゴミ出しの態様等を写真に撮っておく等)も必要となります。
そもそも,上記の説明は,本件のマンション管理規約についてある程度「標準管理規約」を採用している,ということを前提にしています。早急に弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。
【参照条文】
住宅宿泊事業法(施行日は平成30年6月15日)
(目的)
第一条 この法律は、我が国における観光旅客の宿泊をめぐる状況に鑑み、住宅宿泊事業を営む者に係る届出制度並びに住宅宿泊管理業を営む者及び住宅宿泊仲介業を営む者に係る登録制度を設ける等の措置を講ずることにより、これらの事業を営む者の業務の適正な運営を確保しつつ、国内外からの観光旅客の宿泊に対する需要に的確に対応してこれらの者の来訪及び滞在を促進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「住宅」とは、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する家屋をいう。
一 当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備その他の当該家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める設備が設けられていること。
二 現に人の生活の本拠として使用されている家屋、従前の入居者の賃貸借の期間の満了後新たな入居者の募集が行われている家屋その他の家屋であって、人の居住の用に供されていると認められるものとして国土交通省令・厚生労働省令で定めるものに該当すること。
2 この法律において「宿泊」とは、寝具を使用して施設を利用することをいう。
3 この法律において「住宅宿泊事業」とは、旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第三条の二第一項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が一年間で百八十日を超えないものをいう。
4 この法律において「住宅宿泊事業者」とは、次条第一項の届出をして住宅宿泊事業を営む者をいう。
5 この法律において「住宅宿泊管理業務」とは、第五条から第十条までの規定による業務及び住宅宿泊事業の適切な実施のために必要な届出住宅(次条第一項の届出に係る住宅をいう。以下同じ。)の維持保全に関する業務をいう。
6 この法律において「住宅宿泊管理業」とは、住宅宿泊事業者から第十一条第一項の規定による委託を受けて、報酬を得て、住宅宿泊管理業務を行う事業をいう。
7 この法律において「住宅宿泊管理業者」とは、第二十二条第一項の登録を受けて住宅宿泊管理業を営む者をいう。
8 この法律において「住宅宿泊仲介業務」とは、次に掲げる行為をいう。
一 宿泊者のため、届出住宅における宿泊のサービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
二 住宅宿泊事業者のため、宿泊者に対する届出住宅における宿泊のサービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
9 この法律において「住宅宿泊仲介業」とは、旅行業法(昭和二十七年法律第二百三十九号)第六条の四第一項に規定する旅行業者(第十二条及び第六十七条において単に「旅行業者」という。)以外の者が、報酬を得て、前項各号に掲げる行為を行う事業をいう。
10 この法律において「住宅宿泊仲介業者」とは、第四十六条第一項の登録を受けて住宅宿泊仲介業を営む者をいう。
区分所有法
(区分所有者の権利義務等)
第六条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3 第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
(規約事項)
第三十条 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
3 前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
4 第一項及び第二項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。
5 規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により、これを作成しなければならない。
(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
(議事)
第三十九条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
2 議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。
3 区分所有者は、規約又は集会の決議により、前項の規定による書面による議決権の行使に代えて、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)によつて議決権を行使することができる。
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第五十七条 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。
(使用禁止の請求)
第五十八条 前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
3 第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第三項の規定は、第一項の訴えの提起に準用する。
(区分所有権の競売の請求)
第五十九条 第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3 第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。
マンション標準管理規約(単棟型)
住宅宿泊事業を可能とする場合の12条
(専有部分の用途)
第12条 区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
2 区分所有者は、その専有部分を住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用することができる。
住宅宿泊事業を禁止する場合の12条
(専有部分の用途)
第12条 区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
2 区分所有者は、その専有部分を住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用してはならない。
(理事長の勧告及び指示等)
第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
2 区分所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。
3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
二 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること
4 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。
5 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。
6 理事長は、第3項の規定に基づき、区分所有者のために、原告又は被告となったときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第43条第2項及び第3項の規定を準用する。
【参照判例】
参考裁判例@
最判平成10年10月30日民集52巻7号1604頁 抜粋
「(二)そして、法三一条一項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、右の「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。これを使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。
そして、増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情、例えば、(1)当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、(2)分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、(3)この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、(4)専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、(5)マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して判断すべきものである。
(三)さらに、本件のように、直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議により管理費等に関する細則の制定をもって使用料が増額された場合においては、法三一条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。
(四)しかるに、原審は、使用料増額に関する前記集会決議が上告人らの専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものではないとする理由として、区分所有者相互間における駐車場利用の公平化・適正化と増設駐車場の使用料額との均衡を図るために使用料が増額されたことを挙げるのみであって、前記のような観点から、月額七〇〇円から月額四〇〇〇円等への増額が社会通念上相当なものか否か、さらには、もし月額四〇〇〇円等が相当な額と認められない場合には幾らへの増額であれば相当といえるかについて、所要の審理判断を尽くしていないといわなければならない。なお、この点に関し、原審は、分譲業者は区分所有者全員ないし管理組合の受任者としての地位において専用使用権を分譲すべきものであるとの前提に立ち、上告人らが分譲を受けた専用使用権の性質等が不明確であり、譲渡の効力自体にも疑義があるなどというが、これは増額を正当化する理由となるものではない。」
参考裁判例A
東京高判平成6年8月4日 高等裁判所民事判例集47巻2号141頁 抜粋
「三 規約改正決議の手続の効力について
控訴人は、本件規約等の改正決議の手続が無効であるとして、その理由につき、白紙委任状による議決権行使が無効であること、動物飼育の全面的禁止への規約改正は理事らの高圧的な姿勢により条件付飼育許可の意見を無視する不公正な方法で行われたもので無効であること等を主張するが、原判決挙示の関係証拠によれば、本件規約改正決議の手続及びこれに至る過程において控訴人の主張するような瑕疵ないし無効事由の存在を認めるに足りないとした原判決の理由説示は是認でき、当審における証拠調べの結果によっても、右結論を動かすに足りない。
四 規約改正と区分所有法三一条一項の「特別の影響」について
控訴人は、本件マンションにおける動物の飼育の全面的禁止を定める本件規約改正は控訴人の権利に特別の影響を及ぼすから、区分所有法三一条一項により控訴人の承諾が必要であり、右承諾なくして行われた本件規約改正は無効であると主張する。
しかしながら、マンション等の集合住宅においては、入居者が同一の建物の中で共用部分を共同利用し、専用部分も相互に壁一枚、床一枚を隔てるのみで隣接する構造で利用するという極めて密着した生活を余儀無くされるものであり、戸建ての相隣関係に比してその生活形態が相互に及ぼす影響が極めて重大であって、他の入居者の生活の平穏を保障する見地から、管理規約等により自己の生活にある程度の制約を強いられてもやむを得ないところであるといわねばならない。もちろん、飼い主の身体的障害を補充する意味を持つ盲導犬の場合のように何らかの理由によりその動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する特段の事情がある場合には、たとえ、マンション等の集合住宅においても、右動物の飼育を禁止することは飼い主の生活・生存自体を制約することに帰するものであって、その権利に特段の影響を及ぼすものというべきであろう。
これに対し、ペット等の動物の飼育は、飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものというわけではない。そもそも、何をペットとして愛玩するかは飼い主の主観により極めて多様であり、飼い主以外の入居者にとっては、愛玩すべき対象とはいえないような動物もあること、犬、猫、小鳥等の一般的とみられる動物であっても、そのしつけの程度は飼い主により千差万別であり、仮に飼い主のしつけが行き届いていたとしても、動物である以上は、その行動、生態、習性などが他の入居者に対し不快感を招くなどの影響を及ぼすおそれがあること等の事情を考慮すれば、マンションにおいて認容しうるペットの飼育の範囲をあらかじめ規約により定めることは至難の業というほかなく、本件規約のように動物飼育の全面禁止の原則を規定しておいて、例外的措置については管理組合総会の議決により個別的に対応することは合理的な対処の方法というべきである。
これを本件についてみるに、控訴人の原審における本人尋問の結果によれば、控訴人は昭和五八年一〇月ないし一一月ころから本件犬を飼育していたが、昭和六〇年三月三〇日本件犬を伴なって本件マンションに入居したこと、控訴人の家族構成は控訴人夫婦、長女及び長男の四人であって、本件犬は家族の一員のような待遇を受けて可愛がられていたことは認められるが、控訴人一家の本件犬の飼育はあくまでペットとしてのものであり、本件犬の飼育が控訴人の長男にとって自閉症の治療効果があって(控訴人は入居当初このことを管理組合に強調していた)、専門治療上必要であるとか、本件犬が控訴人の家族の生活・生存にとって客観的に必要不可欠の存在であるなどの特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件規約改正は控訴人の権利に特別の影響を与えるものとはいえない。」
参考裁判例B
大阪地判平成29年1月13日 抜粋
(同種事案のようですが,裁判例時点では住宅宿泊事業法前です。また,使用の停止については,既に当該区分所有者が区分所有権を売却していたことから,請求の対象とならない,と判断されています)
「2 争点(2)(弁護士費用請求に係る不法行為の成否及び原告の権限の有無)
(1)事実の認定
前提事実、証拠(個別に記載する。)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実を認めることができる。
ア 被告は、平成26年11月頃、仲介業者を通じて旅行者に、1日当たり1万5000円(保証人及び敷金はなし。)で本件建物を賃貸する営業を開始し、その営業は、少なくとも平成28年8月上旬ころまでの約1年9か月間続いた(証拠、略、被告)。
イ 上記の賃貸利用者は、エアビーアンドビー等のインターネット上のサービスを通じて申し込んだ、2人から7人の外国人グループがほとんどであり、利用期間は長くても9日程度であった(証拠、略)。
ウ 本件建物は、3LDKの間取りで、居住用のマンションに一般的に備えられている設備(水道、トイレ、浴室、給湯設備、ガスコンロ、エアコン等)を備えているほか、ベッド(フレーム及びマットレスのみ)も備付けられいる(証拠、略)。
エ 上記アの期間中、本件建物の利用者により、次のような問題が生じた。
(ア)被告は、本件建物の利用者のために、本件マンションの東隣の建物の金綱フェンスにつり下げられたキーボックス(約10cm×15cmの大きさで、4桁のダイヤルキーで開け閉めできるもの)の中に、本件建物の鍵を置き、本件建物の利用者に対し、「エアビーアンドビー」からの案内メールを通じてキーボックスの所在を知らせるなどして各利用者に本件建物の鍵を扱わせた(証拠、略)。
(イ)本件建物の鍵は、本件マンションの玄関のオートロックを解除する鍵でもあり、本件建物の利用者が、鍵を持たない者を内側から招き入れることもあった(証拠、略)。
(ウ)被告による営業のため、本件マンションの居住区域に、短期間しか滞在しない旅行者が入れ替わり立ち入る状況にある。
(エ)本件建物を旅行者が多人数で利用する場合にはエレベーターが満杯になり他の居住者が利用できない、利用者がエントランスホールにたむろして他の居住者の邪魔になる、部屋を間違えてインターホンを鳴らす、共用部分で大きな声で話す、本件建物の使用者が夜中まで騒ぐといったことが生じている(証拠、略、原告)。
(オ)大型スーツケースを引いた大勢の旅行者が、本件マンション内の共用部分を通るため、共用部分の床が早く汚れるようになり清掃及びワックスがけの回数が増えた(証拠、略)。
(カ)ごみを指定場所に出さずに放置して帰り、後始末を本件マンション管理の担当者が行わざるを得ず、管理業務に支障が生じている。また、ゴミの放置により害虫も発生している。(証拠、略、原告)
(キ)本件建物およびエレベーターの非常ボタンが押される回数が、月10回程度と多くなっている(証拠、略)。
オ 被告は、本件マンションの元居住者でもあり、管理規約改正の前後を通じて、管理規約12条1号の内容を知っていた。
カ 被告は、本件管理組合から、注意や勧告等を受けた(前提事実(5)イ、オ、カ)が、上記アの期間中は、あえて本件建物を旅行者に賃貸する営業を止めなかった。
キ 管理規約63条3項では、理事長は、区分所有者の管理規約違反行為、区分所有者もしくは第三者の共用部分等に関する不法行為について差止請求、必要な措置又は費用償還もしくは損害賠償請求できる旨定められている。
(2)検討
ア 管理者は、規約又は集会の決議によりその職務に関し区分所有者のために原告又は被告となることができる(法26条1項、2項、4項)。
また、上記(1)キのとおり管理規約違反の行為に対する差止請求等について、費用償還ないし損害賠償を求めることもできる旨定められている。
したがって、損害賠償請求に関する原告の主張は、被告の管理規約違反の行為に関する主張をしていることが明らかであるから、原告に、本件訴訟における損害賠償請求の当事者適格を認めることができる。
イ 前提事実及び上記(1)の認定事実からすると、被告の行っていた賃貸営業は、実質的には、インターネットを通じた募集の時点で不特定の外国人旅行者を対象とするいわゆる民泊営業そのものであり、約1年9か月の営業期間を通じてみると、現実の利用者が多数に上ることも明らかである。これについては、旅館業法の脱法的な営業に当たる恐れがあるほか、改正の前後を通じて本件マンションの管理規約12条1項に明らかに違反するものと言わざるを得ない。
原告の営業が賃貸借の形式をとっているとしても許容されるものではなく、そのような被告の主張は採用できない。
ウ そして、すべてが不法行為に当たるとまで言えるかはともかく、被告の行っていた民泊営業のために、上記(1)に記載したような区分所有者の共同の利益に反する状況(鍵の管理状況、床の汚れ、ゴミの放置、非常ボタンの誤用の多発といった、不当使用や共同生活上の不当行為に当たるものが含まれる。)が現実に発生し、原告としては管理規約12条1項を改正して趣旨を明確にし、被告に対して注意や勧告等をしているにもかかわらず、被告は、あえて本件建物を旅行者に賃貸する営業を止めなかったため、管理組合の集会で被告に対する行為停止請求等を順次行うことを決議し,弁護士である原告訴訟代理人に委任して被告に対する本件訴訟を提起せざるを得なかったと言える。
そうすると、被告による本件建物における民泊営業は、区分所有者に対する不法行為に当たると言え、被告は弁護士費用相当額の損害賠償をしなければならない。
本件の経緯等にかんがみると、被告が本件建物を売却したことは被告に有利な事情とは言えず、弁護士費用としては50万円が相当である。
被告は、本件管理組合の理事や理事会の好みで区分所有者の経済活動が不当に制限されてはならないと言うが、上記のような事情の下では、被告の本件建物における民泊営業は、正当な経済活動の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、被告の主張は採用できない。
エ したがって、原告の損害賠償請求(請求の趣旨2項)には理由がある。」