【刑事、交通事故、最高裁平成20年10月16日決定】
質問:
交通事故を起こした息子(24歳・フリーター)のことで相談させてください。1週間ほど前の深夜、アルバイト先から自動車で帰宅中、奥の青信号に気を取られ、手前の赤信号に気付かずに交差点に進入してしまい、左側道路から青信号に従って直進してきた原付車に衝突させる事故を起こしてしまったようで、路上に転倒した被害者のために救急車だけは呼んだものの、怖くなってその場を走り去ってしまったようです。以降、息子は友人宅を転々としているようで、私と同居している自宅に帰ってきておらず、警察に出頭すべきかどうか、電話で相談を受けています。息子の話では、事故直後の被害者は頭から血を流していたものの、自力で歩くことが出来、意識もはっきりしていて、重い怪我をしているようには見えなかったとのことですが、実際の負傷状況は定かではありません。息子は逮捕されたり刑事裁判にかけられたりすることを怖がっているようですが、してしまったことは仕方ないですから、私としては、早めに出頭してほしいと思っています。一方で、息子のために親としてできることがあれば協力してやりたいとも思っています。今後どのように対応していけばよいのか、お知恵をお貸しください。
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回答:
1. 息子さんには、過失運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)、救護義務違反の罪(道路交通法117条、72条1項前段)、報告義務違反の罪(道路交通法119条1項10号、72条1項後段)の3罪が成立していると考えられ、本件が起訴された場合、15年以下の懲役又は150万円以下の罰金の範囲内で刑が量定されることになります(刑法45条、47条)。
2. ただし、本件事故は、息子さんが赤信号の交差点に侵入したことで発生しているため、捜査機関としては、過失運転致傷罪よりも重い危険運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条5号)の適用事案ではないかとの疑いを持つものと考えられます。本罪の要件として規定されている「信号を殊更に無視し」とは、およそ赤信号に従う意思を積極的に欠くことを意味するものであり、息子さんのように、単なる信号の見落としに過ぎない場合は含まれないので、お聞きした事情の下では危険運転致傷罪は成立しないことになります。
3. ただし、かかる内心の意思は取調官による誘導等によってこれを認める内容(「交差点への進入時、信号が赤であることを認識していました」、「手前の信号が何色であっても、減速することなく進行するつもりでした」等)の供述調書が作成されてしまった場合、容易に認定されてしまう危険があるので注意が必要です。息子さんとしては、今後捜査機関の取り調べを受けるに際しては、捜査官の誘導等への迎合は厳に回避する必要があり、万が一にも事実に反する供述調書に署名、押印することのないよう細心の注意を払う必要があります。そのためには、危険運転致傷罪の適否にあたって如何なる事情が有利あるいは不利になりうるのか、弁護士から詳細なアドバイスを受け、そのポイントを良く理解しておかなければなりません。
4. 息子さんは逮捕を恐れているとのことですが、ひき逃げ事案では警察の捜査によって容易に犯人に辿り着くケースが殆どであり、息子さんが逮捕されるのは時間の問題と思われます。むしろ、逃亡の末に逮捕されるよりも、自発的に出頭して逮捕や取調べ等に素直に応じた方が、当然ながら情状としては有利ですし、被害者感情に影響しうる事情という意味で、被害者との示談の成否にも間接的に影響してくることになります。
5. ひき逃げ事案、特に赤信号の見落とし等、過失の程度や危険性が大きい事案においては、処分相場として、不起訴処分の獲得は非常に困難であると言わざるを得ません。しかし、被害者との示談の成否(被害弁償の有無、宥恕の有無等)によっては、公判請求を回避し、比較的低額の罰金刑での略式起訴にとどめることができる可能性が残されています。同種事案の示談交渉の経験が豊富な弁護人を早期に選任し、速やかに活動開始してもらうことをお勧めいたします。
6. その他、本件における必要な対応について解説で述べていますので、ご参照ください。関連事例集1689番、1612番、1463番、1303番、1115番参照。
解説:
1.(成立する犯罪について)
(1)過失運転致傷罪
はじめに、息子さんに成立する罪名について確認しておきたいと思います。
息子さんは、自動車の運転中、赤信号を見落として交差点に進入してしまったとのことですが、交差点に進入するに際しては、信号機の信号表示に留意し、その表示に従って進行すべき自動車運転上の注意義務があるところ、息子さんはこれを怠って交差点に進入した点で過失が認められることになります。そして、かかる過失により本件事故を起こし、被害者を負傷させていることから、自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人に傷害を負わせたものとして、過失運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)が成立していると考えられます。過失運転致傷罪の法定刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金とされています。
(2)救護義務違反の罪
交通事故を起こしてしまった場合、当該事故にかかる車両等の運転者は、直ちに運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等の必要な措置を講じる義務を負うことになり(道路交通法72条1項前段)、かかる措置を怠った場合、救護義務違反の罪(道路交通法117条、72条1項前段)が成立することになります。当然ながら、単に救急車を呼んだだけではこれらの措置を尽くしたとはいえませんので、息子さんには救護義務違反の罪が成立していることになります。同罪の法定刑は10年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされています。
(3)報告義務違反の罪
息子さんは、本件事故について何ら警察に連絡していないようですが、交通事故を起こしてしまった場合、当該事故にかかる車両等の運転者は、当該交通事故が発生した日時及び場所、負傷者の数や負傷の程度、損壊した物及び損壊の程度、当該事故について講じた措置等の定められた事項を、直ちに警察に報告すべき義務を負うことになり、かかる措置を怠った場合、報告義務違反の罪が成立することになります(道路交通法119条1項10号、72条1項後段)。同罪の法定刑は、3月以下の懲役または5万円以下の罰金とされています。
過失運転致傷罪は、救護義務違反の罪及び報告義務違反の罪と併合罪の関係に立つため(刑法45条)、息子さんがこれらの罪名で起訴された場合、15年以下の懲役又は150万円以下の罰金の範囲内で刑が量定されることになります(刑法47条)。
2.(危険運転致傷罪の適否について)
ところで、息子さんの運転は、客観的に見ると、赤信号の交差点に減速することなく侵入しているため、捜査機関としては、捜査の過程で、過失運転致傷罪よりも重い危険運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条5号「五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」)の適用の可否を検討することになると考えられます。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
(危険運転致死傷)
第2条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
第5号 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
危険運転致死傷罪は、死傷の結果を生じさせた交通事故のうち、特に悪質かつ重大な危険を有する危険運転行為について、重く処罰する趣旨で規定されている犯罪であり、その法定刑の上限は、致傷にとどまる場合であっても15年の懲役とされており、過失運転致傷罪(法定刑の上限は7年の懲役)と比べて、刑の重さが際立っています。
本件で問題となる5号の「信号を殊更に無視し」とは、およそ赤信号に従う意思を積極的に欠くことを意味するものであり、息子さんのように、単なる信号の見落としに過ぎない場合は含まれないものの、@赤信号であることを分かっており、停止線で停止することが十分可能であるにもかかわらず、これを無視して進行する場合のほか、A信号の規制自体に従うつもりがないため、その表示を意に介することなく、たとえ赤信号であってもこれを無視する意思で進行するような場合にも、本罪が適用されることになります(最高裁平成20年10月16日決定参照)。
ただし、かかる内心の意思は、取調官による誘導等によってこれを認める内容の供述調書が作成されてしまった場合、容易に認定されてしまう危険があるため、息子さんにおいても、今後捜査機関の取り調べを受けるに際しては、万が一にも事実に反する供述調書に署名、押印することのないよう細心の注意を払う必要があります。この点については項目を改めて詳述することにします。
なお、本条の「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、現場の具体的状況に照らし、当該速度で信号を無視して運転すれば重大事故に発展しうるような速度を意味し、その該当性は交差する道路を信号表示に従って進行する車両の存在等を加味して判断されるため、赤信号の交差点を青信号時の速度で進行した息子さんのケースではあまり問題にならないと思われます。参考までに、信号無視の事案では、時速20キロ程度の比較的低速であっても「重大な交通の危険を生じさせる速度」に該当するとした判例が存在します(最高裁平成18年3月14日決定)。
3.(予想される刑事手続について)
ひき逃げ事案においては、警察の捜査によって加害車両が容易に特定されることが殆どであり、被害者から警察に対して被害申告がされていると考えられる本件では、捜査機関が息子さんに辿り着くのは時間の問題と思われます。
そして、ひき逃げ事案の場合、基本的には逮捕等の身柄拘束の措置が執られることになります。被疑者を逮捕するためには、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(逮捕の理由)の他、明らかに逮捕の必要がない(被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及びその態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ、罪証隠滅するおそれがないこと等。刑事訴訟規則143条の3)とはいえないこと(逮捕の必要性)が必要とされていますが(刑事訴訟法199条2項)、息子さんが事故後、実際に現場を走り去ってしまっていること、自宅に帰ってきていないこと、定職に就いていないこと等の事情に照らせば、逃亡のおそれ等が高いと判断されてしまうことは致し方ないところでしょう。
逮捕後は、事件が検察庁に送致され、10日ないし20日間勾留された上、その間の取調べ等の捜査の結果を踏まえ、検察官によって終局処分(起訴するか、不起訴処分とするか)が決されることになります(刑事訴訟法203条1項、205条1項、208条、246条、248条)。見込まれる刑事処分についてですが、ひき逃げ事案の中でも、被害者の負傷の程度が軽く、示談が成立し、被害者の処罰感情が解消されているような場合、不起訴処分となることもあり得ますが、本件では、軽い過失運転致傷罪が適用されたとしても、赤信号を見落とすという息子さんの過失の大きさやその危険性を考えると、たとえ事後的に被害者と示談が成立する等の事情があったとしても、略式起訴の回避までは困難であると思われます。
とはいえ、本件のように過失が大きく、本格的に逃亡してしまっているケースでは、必要な活動を何ら行わずに放置するとなれば、公判請求される可能性が非常に高くなってきます。また、不用意に取調官の誘導に迎合する等、取調べでの対応を誤ると、重い危険運転致傷罪によって起訴される危険もあります(この場合、公判請求された上、判決で懲役刑の言渡しがなされることになります。)。そのため、公判請求の回避をより確実なものとし、刑事処分を最大限軽減するためには、今からでも、まずは警察に自発的に出頭した上、速やかに弁護人を選任し、必要な活動を尽くしてもらうことが必須となってきます。
本件で必要と考えられる対応については、項目を改めて解説いたします。
4.(具体的対応について)
(1)早期の出頭
上記のとおり、まずは息子さんが警察に自発的に出頭することが必須でしょう。人として当然のことですし、終局処分の量定の見地から見ても、このまま逃亡を続ける中で逮捕されたとなると、情状が非常に悪いものとなり、終局処分の決定にあたって不利益にしか働かなくなってしまいます。逆に、事後的にではあれ、任意に出頭し、取調べや逮捕等に素直に応じたような場合、それらは息子さんの反省や捜査機関への協力的姿勢を示す事情として考慮されることになります。ご相談者様としては、息子さんに対して、是非この点の説得を尽くして頂きたいところです。
(2)取調べ対応
息子さんとしては、取調べや実況見分等の捜査に対しては、可能な限り協力的姿勢を示す必要があります。取調べにおいては、事故前後の状況、信号機の表示に関する認識やその時点、事故後どのような考えのもとでいかなる行動をとったか等、具体的かつ詳細に供述することが、事件に対する真摯な姿勢を示すことに繋がります。
ただし、前述した通り、本件では信号無視による危険運転致傷罪の適用が問題となる余地があるため、捜査官の誘導等への安易な迎合は禁物です。赤信号を殊更無視して進行したことの裏付けとなるような内容(例えば、「交差点への進入時、信号が赤であることを認識していました」、「手前の信号が何色であっても、減速することなく進行するつもりでした」等)の供述調書が作成されてしまう危険があるためです。
供述調書は一度署名指印してしまうと、後からその内容を争うことは非常に困難となります。したがって、取調べの際は、調書の訂正申立権(刑事訴訟法198条4項)や署名押印拒否権(刑事訴訟法198条5項)を適切に行使する等して慎重に対応する必要があります。そのためには、危険運転致傷罪の適否にあたって如何なる事情が有利あるいは不利になりうるのか、ポイントを良く理解していなければなりません。そして、有利な事情については、可能な限り供述調書に反映してもらうことが重要です。当然ながら、交差点侵入時に赤信号であることを認識していなかったとの供述は一貫させておく必要があります。
かかる対応を十分に行うことができるようにするためには、早期に弁護人を付け、具体的事情の下でアドバイスを受けさせることが重要といえるでしょう。
(3)危険運転致傷罪の適用回避のための活動
息子さんの話では、奥の青信号に気を取られ、手前の赤信号に気付かずに交差点に進入してしまったとのことですが、弁護人としては、信号機の位置関係や現場の見通し等の状況等から、そのようなことがあり得るのか、実際に現場に赴き、検証してみることが有用といえます。実際に現場に足を運ぶことで分かること、気付くことが必ずあるものです。もし現場の状況が息子さんの主張を裏付けるようなものであれば、息子さんの赤信号殊更無視を否定する方向の重要な証拠となり得ます。弁護人としては、検察官に対する写真撮影報告書や意見書等の形で、本件事故が赤信号の見落としによるものであって、危険運転致傷罪は成立し得ないことを主張立証していくべきことになります。
(4)示談交渉
本件は、過失運転致傷については被害者がいる犯罪であり、終局処分の決定にあたっては、示談の成否、特に被害弁償の有無や被害者の処罰感情(厳重処罰を求めているか、宥恕しているか)が重視されるため、刑事処分軽減のためには被害者との示談が必須となってきます。
他稿でも度々述べているところではありますが、ここでの示談は、保険会社を通じて行われる被害弁償金の支払いのみを内容としたものでは不十分であり、宥恕や被害届の取り下げ合意等、刑事手続に即した示談合意書を作成し、署名してもらう必要があります。そのため、保険会社による対応とは別個に、弁護人を通じての示談交渉が必須であり、弁護人としては、終局処分決定の時点までに被害者に謝罪金ないし被害弁償金等の名目で金銭を受領してもらうとともに、被害者の宥恕を得られるよう、保険会社とも協議しながら交渉を進めていくべきことになります。
一般的に、ひき逃げ事案では被害者の処罰感情が強いことが多く、特に本件では息子さんが故意に信号無視の危険運転行為を行ったと誤解されている可能性も考えられ、かかる被害者を説得して宥恕を得られるか否かは弁護人の力量に左右される面も大きいといえます。本件でいえば、示談の成否は公判請求回避の可否を大きく左右する重要な事情となってくるため、同種事案の示談交渉の経験が豊富な適任者を弁護人に選任することをお勧めいたします。
≪参照条文≫
刑法
(併合罪)
第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
(有期の懲役及び禁錮の加重)
第四十七条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
道路交通法
(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
第百十七条 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
十 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項後段に規定する報告をしなかつた者
刑事訴訟法
第百九十八条
○3 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
○4 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
○5 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
第二百五条 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
○2 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
刑事訴訟規則
(明らかに逮捕の必要がない場合)
第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。