マンション居室に対する器物(建造物)損壊と弁護活動(身柄開放活動)
刑事|器物損壊罪|建造物損壊罪|最決平成19年3月20日
目次
質問:
私の息子(23歳)が,器物損壊罪で逮捕・勾留されてしまいました。息子は友人と電話で激しい口論となり,友人のマンションの一室まで押しかけていったのです。その友人はマンションの一室を賃借しているとのことですが,エントランスにオートロックはなく,誰でもマンションの各居室前には行けるような構造になっています。そして,息子は,友人が出てこないことにいら立ち,友人のマンションのドアを蹴り飛ばし,ドアノブとドアの外側を凹ませるという行為に及んでしまいました。そうしたところ,友人より警察に110番通報がなされ,器物損壊の容疑で現行犯逮捕されてしまいました。息子は気が動転し,犯行について覚えていないと供述したようで,そのまま10日間の勾留がついてしまいました。現在は犯行を認めているようです。息子は現在会社に勤めており、このまま無断欠勤が続くと解雇になってしまう可能性も否定できません。何とか早く釈放してもらいたいのですが,どうしたらよいでしょうか。
回答:
1 息子さんが行ってしまったドアノブとドアの外側を損壊した行為は,判例によれば建造物損壊罪が成立する可能性が高いといえます。また,10日間の勾留がついてしまいましたので,勾留に対する準抗告を裁判所に申し立てて,早期釈放を求めていく必要があるでしょう。併せて,被害者との示談交渉を進め,不起訴処分を目指していくべきです。
2 勾留に対する準抗告においては,勾留の必要性に関する事情をしっかりと揃えて主張を行っていく必要があります。具体的には,被害者との示談、示談の時間がない場合は示談の具体的準備(示談金預かり証,示談の際に交付する謝罪文,不接近誓約書),身元引受人の確保,本人の出頭誓約,勾留による不利益が重大なものであること(特に仕事,家族の関係)といった事情を詳細に主張していきます。勾留の準抗告が認容された場合,在宅操作に切り替えられ,早期の釈放が可能となります。
3 被害者との示談交渉勾留に対する準抗告のためだけでなく刑事処分を軽くするためにも必須となります。今回はマンションのドア外壁とドアの部分の損壊行為ということで,前者は共用部分として管理組合(管理会社),後者は専用部分として区分所有者が示談の対象になりうるところですので,捜査機関に確認の上,適切な示談交渉を行っていく必要があるでしょう。示談の際には,修理費用の他に一定の謝罪金・慰謝料を交付することも検討したほうが良いでしょう。示談が成立した場合,本件を不起訴処分にすることも十分にあり得ます。
4 器物損壊・建造物損壊に関する関連事例集参照。
解説:
第1 成立する犯罪(建造物損壊,器物損壊)の検討
1 建造物損壊罪について
(1)「建造物」に該当するか
まず,あなたの息子さんが友人が賃借しているマンションの一室のドアの外側とドアノブを蹴り飛ばして凹ましてしまったという点について,成立しうる犯罪について検討していきます。マンションの部屋の玄関のドアが建造物損壊罪の建造物か単なる器物損壊罪の器物なのかという問題です。
まずは,建造物損壊罪(刑法260条)について検討していきます。
「建造物」といえるためには,壁または柱で支えられた屋根を持つ工作物であって,土地に定着し,少なくとも人がその内部に出入りできるものをいいます(大判大3年6月20日判決)。ドアについては,取り外しが可能ではあるので建造物に該当するのかが問題となりますが,裁判例においては必ずしもそうではなく,機能上の重要性も考慮して建造物に該当する場合もありうるとの見解を取っています。
具体的に,住居の玄関ドアは,外壁と接続し,外界との遮断,防犯,防風,防音等の重要な役割を果たしている場合には,適切な工具を使用すれば損壊せずに取り外しが可能であっても,建造物に該当するという判断を示しています(最決平成19年3月20日)。一方で,雨戸など,取り外すことが機能的にも予定されているものについては,建造物には該当せず,器物損壊罪の対象になり得るにとどまります。
ドア部分が「建造物」に該当すると判断された場合,通常の器物損壊罪(刑法261条)よりも法定刑が重い(前者は5年以下の懲役,後者は3年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金)ので,犯罪の成立の判断が重要になります。
(2)誰に対する建造物損壊が成立するか
次に,誰に対して建造物(器物)損壊罪が成立するか,が問題となります。なぜなら,建造物損壊罪のような個人的法益(他人の所有権その他財産権)を害する罪において,最終的な刑事処分を決めるにあたって,権利者への被害弁償(示談の成立)の有無が極めて重要な位置を占めることとなります。示談交渉の相手が誰なのかを確定するために必要となるのです。
建造物損壊における「他人の」という条文は,他人の所有に属することを意味します。すなわち,当該建造物,本件ではドア及びドアノブについて,誰が所有しているのかの判定が必要になります。
マンションは,(1)「専有部分」(区分所有権の目的たる建物の部分)と,(2)「共用部分」(専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び管理規約により共用部分とされた附属の建物)に分かれます。専有部分については,各区分所有者の所有権に属しますが,共用部分については,全区分所有者の共同所有に属するものとされています。
共用部分については,各マンションの管理規約によって定めることが可能です。この点,国土交通省がテンプレートとして挙げている標準管理規約が参考になります。
<参考> http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/07/070123_3/03-1.pdf
マンション標準管理規約
(定義)
第2条この規約において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 区分所有権 建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)第2条第1項の区分所有権をいう。
二 区分所有者 区分所有法第2条第2項の区分所有者をいう。
三 占有者 区分所有法第6条第3項の占有者をいう。
四 専有部分 区分所有法第2条第3項の専有部分をいう。
五 共用部分 区分所有法第2条第4項の共用部分をいう
第2章 専有部分等の範囲
(専有部分の範囲)
第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。
(共用部分の範囲)
第8条 対象物件のうち共用部分の範囲は、別表第2に掲げるとおりとする。
第3章 敷地及び共用部分等の共有
(共有)
第9条 対象物件のうち敷地及び共用部分等は、区分所有者の共有とする。
多くのマンションにおいて,標準管理規約を踏襲した共用部分の定めがなされています。上記規約8条によれば,玄関ドアのうち,錠部分(ドアノブ)については専用部分,外部塗装部分については,共用部分となっています。
したがって,ドアノブについては区分所有者(賃貸人)の負担において修理する必要があり,一方でドア外部部分については共用部分として区分所有者全体において修理する必要が出てくるものと考えられます。そして,共用部分の管理については,マンションの管理組合が決議によって決めることとなりますが,管理会社に実際の管理を任せることが通常です。
以上より,今回あなたの息子さんが行ってしまった建造物損壊行為については,ドアノブ部分についてはその部屋の所有者(賃貸人)に対し,ドアの外壁部分については管理組合と管理会社に対し示談交渉を行うことにより,被害弁償を行っていくことになると考えられます。
2 そのほかの成立しうる犯罪
上記の通り,ドア部分が建造物に該当するか否かは機能的一体性を考慮した総合的な判断であり,裁判所の認定も分かれうるところです。仮に建造物損壊罪が成立しない場合には,器物損壊罪(刑法261条)が成立することになるでしょう。なお,器物損壊罪は親告罪ですので,被害者から告訴の取消しを受けられれば,不起訴処分になります。
また,本マンションはエントランス部分においてロックがされておらず,誰でもあなたの友人宅前まで行けるとのことですが,仮に管理者の意思に反する立ち入りであると判断された場合には,別途住居侵入罪(刑法130条)が成立することとなります。
第2 具体的な弁護活動について(勾留・身柄釈放)
1 勾留に対する準抗告
(1)勾留に対する準抗告
以上,本件であなたの息子さんに成立し得る犯罪についてみていきました。次に,本件で具体的に行うことのできる弁護活動についてみていきます。
まず最も先に解決しなければならないのは,逮捕後認められてしまった勾留からの開放活動になります。検察官から勾留請求がなされ,裁判官が勾留決定してしまうと10日間は身柄拘束が継続してしまいますし,さらに10日間の勾留延長も可能となっています。このような長期の身体拘束が継続すれば,通常の社会人であれば長期の無断欠勤により,会社を解雇されてしまう可能性も十分に考えられるところです。
したがって,速やかに身柄の開放に向けた活動を行っていく必要があります。今回は既に裁判官が勾留決定をしてしまっているので,それを争うには勾留に対する準抗告(刑事訴訟法429条1項2号)を申し立てる必要があります。なお,勾留を争う手法としては,勾留取消の制度もありますが,検察の意見を聴取することが必要となる関係で時間がかかる,不相当の意見が述べられるなどの点で不利な点がありますので,準抗告を申し立てるのが一般的でしょう。これらの制度の違いについては,別の事例集(No.1430)などを参照してください。
勾留に対する準抗告は,管轄の裁判所(勾留決定をした裁判所)に対して,準抗告の申立書を提出することによって行います。準抗告の判断は,裁判体(3名の裁判官からなる)によって行われますので,公平な判断を期待することが可能です。
(2)勾留決定後の資料の提出
次に,準抗告の申し立てにおいて,適切な証拠・事情を集め,積極的な主張をしていくことが必要です。
この点,勾留に対する準抗告は,原勾留決定に対する事後審であり,事後審は原審の裁判資料により裁判をする制度であることから、勾留決定後に生じた事情については一切考慮しないという考え方もありうるところです。しかし,現在の裁判所実務では,決定後に生じた事情を基に,勾留の要件(勾留の理由,必要性)を判断することが通例になっています。勾留決定に対する準抗告が事後審か否かについては明文の規定はありませんし、不当な勾留決定に対する救済という点では勾留決定後に生じた事情についても考慮する必要があることは当然といえます。
(3)勾留の要件判断(特に必要性)
勾留の要件としては,勾留の理由(ア住居不定,イ罪証隠滅の恐れがあること,ウ逃亡の恐れがあること),に加え,勾留の必要性が必要とされています(87条1項)。
勾留の必要性とは,被疑者の身体拘束をしなければならない必要性と,拘束によって被告人の被る不利益・弊害を比較考量して,前者が弱い場合や公社が著しく大きい場合には,必要性を欠くものとして勾留は認められないというものです。相当性という学説もあります。住居不定である場合は、勾留の理由は認められますが、身元引受人がいる場合や事案が軽微な場合は勾留が被疑者にとって過酷なものとなる場合は、必要性がないといえます。
いったん裁判官が勾留を決定した場合,勾留の理由がないとして準抗告を認容するケースはあまりなく,勾留の必要性がないとして準抗告を認容するケースがほとんどです。必要性に関する事情は,検察官及び裁判官が積極的に拾ってくれるわけではありませんので,弁護人を通じて適切な資料・証拠の提出,主張を行っていく必要があります。
勾留の必要性に大きな影響を及ぼす要素としては,以下の事情があります。今回は勾留の必要性に関して記載しますが,その他勾留の要件に関する詳細については,別の事例集(No.1430)などを確認してください。
ア 被害者との示談交渉の予定(実際の示談成立)
本件は被害者のいる犯罪であることから,被害者に不当な働きかけをして罪証隠滅を図るおそれを減少させておく必要があります。また,被害者との示談交渉の予定があるのであれば,あえて身体拘束をした上で捜査をする必要はないといえますので,まずは示談交渉の準備をしっかり整えておくことが必要です。具体的には,弁護人に対する示談金を預けたことの証明(示談金預かり証),具体的な示談交渉経過に関する報告,示談の際に被害者に提示する資料(謝罪文,被害者に二度と接近しない旨の誓約書)の準備が整っていることなどの主張が有効であるといえます。
イ 適切な身元引受人の存在
同居している家族等が,釈放後に出頭させることを約束していること,今後厳しく監督していく旨の誓約書・身元引受書の提出が有効です。場合によっては,弁護人自身が身元引受人になることも検討すべきでしょう。
ウ 勾留による不利益(職場における不利益)が大きいこと
勾留による不利益が重大であることを積極的に主張していくことが必要です。特に現在の仕事の状況に関する主張が重要です。現在の仕事における地位,業種,待遇,今取り掛かっている案件の内容,勾留が継続することによってこれらにどのような影響が出るか,などと言った点について詳細に主張していくことが必要でしょう。
エ 終局処分が軽微なものが見込まれること
示談が成立する見込みがあるなどとして不起訴処分など軽い処分となる見込みが大きい場合には,勾留の必要性を低減させる事情となり得ます。
オ 本人が出頭,証拠隠滅,逃亡しないことを誓約していること
本人が事実関係を認め,在宅捜査切り替え後も出頭を制約する旨の書面の差し入れが重要です。
以上の事情をしっかりと揃えたうえで,裁判所に準抗告の申し立てを行います。申し立ての際には,裁判官との面接を希望して,改めて重要な点を主張することが有用です。
2 被害者との示談交渉
上記身体拘束の開放に並行して,被害者との示談交渉を進めていく必要があります。示談が実際に成立しない限り,勾留の必要性は残っているとして,準抗告を認容しない裁判体も比較的多く存在するところであるからです。
まずは,上記のとおり,専有部分か共用部分かについての判定が重要になります。検察官に対して示談交渉予定である旨を伝え,本件損壊部分の被害者(損害賠償請求権者)が誰なのかを確定する必要があります。共用部分に関する破損であれば,基本的には管理会社が示談交渉の相手方になります。一方で,専用部分に関しては,区分所有者において修理を行う必要があるので,所有者の確定が必要になってきます。ただ,所有者については実際に示談交渉の場に着くまで時間がかかることもありうるところですので,そのような場合,検察官に確認・了解の上,賃借人である友人に対して修理費用に関する支払いを行い,そこから所有者・管理会社に対して修理費用を支払ってもらう,という解決策もありうるところです。
示談交渉の際には,修理費用の実損に加え,今回刑事事件手続きに協力を強いることになってしまったことへの謝罪金や慰謝料も上乗せして,交付するとよいでしょう。
いずれにせよ,早期の示談交渉は必要不可欠となります。建造物損壊罪の場合,十分な被害弁償がなされた場合には不起訴処分も十分ありうるところです。お困りの場合,お近くの弁護士に相談されることをお勧めします。
以上