マンション管理組合理事長解任手続

民事|区分所有法|マンション管理組合理事長を理事の決議で解任できるか|最高裁判所平成29年12月18日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

私は50戸あるマンションの一戸を区分所有し、管理組合の理事をしています。最近、理事長が管理会社の変更を提案していますが、管理組合の理事10人のほとんどが反対です。理事長を解任してでも、管理会社の変更は止めようと思っています。理事会の決議で、理事長を解任することができるのでしょうか。

当マンションの管理規約では、理事長の選任については「理事長は、理事の互選により選任する。」と規定しているだけで、理事による解任についての規定はありません。理事の解任については、総会の決議によるものとなっています。理事長の解任について規定はありません。

回答:

1 マンション管理組合の理事長を理事会の多数決で解任することができるかどうか、とのことですが、理事長解任について特に規定がない場合について、最高裁判所は、管理組合の規約により理事長は理事の互選により選任されたのだから、理事会の多数決で理事長を解任し、新たな理事長を選任することができると判断しています(最高裁判所平成29年12月18日判決)。区分所有者の集まりである管理組合は、私的自治の原則に支配される領域ですから管理規約の解釈において組合員の合理的意思を根拠とすることは妥当性を有するものと思われます。

2 最高裁の判断を前提とすると、ご相談者様の場合も、理事会の多数決で理事長を解任できると考えられます。

3 マンション管理組合に関する関連事例集参照。

解説:

第1 建物区分所有法と管理組合の役員の選任解任について

マンションのように、一棟の建物を区分して所有権の対象とする場合には、各所有権ごとの所有関係を定めるとともに、そのような建物およびその敷地等を共同して管理する必要があります。そのための法律が建物の区分所有等に関する法律です。

同法第3条では、区分所有者は、管理組合を構成し、集会を開き、規約を定め、管理者を置くことができるとしています。

『第三条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。』

また、区分所有者は管理者を選任することが出来る、と定められています。管理組合の理事長は、管理者として、総会により選任及び解任されると規定されています。

『第二十五条 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。』

ここ定められている管理者が、マンションの管理規約で定められている理事長に該当します。従って、原則として理事長は区分所有の集会によって選任、解任されることになります。しかし「規約により別段の定めがない限り」とりますから、管理者、理事長の選任について別の定めをすることも可能です。そこで、理事長は理事の互選により選任する、と規約で定めるのが一般的です。しかし、解任については、理事会で解任できるという規定はあまりないようです。そのため、理事長の解任は、規約に定められていない以上、原則に帰り集会の決議が必要ではないかという議論が出てきます。管理組合の理事長は、管理者として、総会により選任及び解任されると規定されています

第2 国土交通省「標準管理規約」と個別のマンションの管理規約について

具体的な管理規約について、国土交通省が「マンション標準管理規約」を公開しています。管理規約のひな形で、このとおり管理規約を定めなければならないという強制力があるわけではありませんが、以前から一般的なマンションにおいて採用されてきたもので、ご相談者様のマンションもこれを参考にして、適宜補充・修正しているものと思われます。

なお、標準管理規約は,単棟・団地・複合用途型とありますが,以下では本件に即して単棟型の規約を挙げています。

国土交通省HP「マンション管理について」

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

にある標準管理規約(単棟型)をご参照ください。

同規約35条、48条では、役員の選任・解任は総会の決議によりものとし、理事長の選任は理事の互選によるとしています。

『第35条 管理組合に次の役員を置く。

一 理事長

2 理事及び監事は、○○マンションに現に居住する組合員のうちから、総会で選任する。

3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。』

『第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。

十三 役員の選任及び解任・・・』

ご相談者様のマンションの規約も標準管理規約にのっとって、管理組合役員の選任・解任は総会の決議により、理事長の選任は理事によるものとしていると思われます。

第3 理事会により理事長の解任について

ご相談者様の相談内容は、理事長の解任を理事会でできるか、ということです。

ご相談者様のマンションの管理規約によると、理事の選任・解任は総会決議により、理事長の選任は理事の互選によるとしています。しかし理事会による理事長の解任については直接の規定がないということですから、区分法第25条1項により総会、集会で決めることが必要ではないか、という主張が考えられます。

理事会により理事長の解任ができるかどうかについて、大きく2つの意見にわかれます。一つは、理事会は理事長を選任できるとの規定しかなく解任については規定がないのだから、総会決議によるべきという見解です。他方は、理事会が理事長を選任できるのだから解任も理事会でできるという見解です。

この問題について、最高裁平成29年12月18日判決で、後者の見解を採用し、理事会により理事長を解任できるとしました。会社法における株式会社の代表取締役解任と同様に解釈しています。

次項で最高裁判決の内容を詳述します。

第4 最高裁判所平成29年12月18日判決

裁判所HP

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87311

判決文

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/311/087311_hanrei.pdf

【当事者】

X:前理事長。他の理事が反対する中で、管理会社の変更し、または競争入札により決定することを臨時総会の招集により強行しようとしたため、過半数の理事の決議により理事長を解任される。その後、理事会の解任決議は無効であるとして本件マンション管理組合(Y)を相手に訴訟を提起。第一審原告・被控訴人・被上告人。

Y:本件マンション管理組合。Xによる理事長解任決議無効の訴えの相手方。第一審被告・控訴人・上告人。

A:理事会により解任された前理事長Xの代わりに理事長に就任。

B:Aの後任者として理事長に就任。

C:Bの後任者として理事長に就任。

【事案の経過】

1 平成25年1月、本件マンションの臨時総会において、Xを含む役員10名が選任された。

平成25年3月、本件マンション管理組合の理事会において、理事の互選により、Xが理事長に選任された。

2 平成25年8月、本件マンションの通常総会において、上記1の役員10名に加え、新役員5名が選任された。

平成25年9月、本件マンションの理事会において、役員15名のうち13名出席の下、同年10月20日に新役員を含めた役員の役職決定を議題とする理事会を開催することが決定された。

3 平成25年10月10日、Xは、理事会決議を経ないまま、他の理事から総会の議案とすることを反対されていた案件を諮るため、理事長として臨時総会の招集通知を発した。

平成25年10月20日に開催された本件マンションの理事会において、Xを除く役員14名のうち11名(理事10名、監事1名)出席の下、本件規約40条3項に基づき、理事10名の一致により、AをXに代わる理事長に選任し、被上告人の役職を理事長から理事に変更する旨の決議(以下「本件理事会決議」という。)がされた。

4 平成26年5月18日、本件マンションの組合員は、X及びAに対し、本件

規約49条1項所定の割合の組合員の同意を得て、同項に基づきXを理事から解任すること等を会議の目的とする臨時総会の招集請求をした。

平成26年6月1日、Xは、理事長名義で会日を同月13日とする臨時総会の招集通知を発した。しかし、上記招集請求をした組合員は、上記招集通知が本件規約48条1項に違反して無効であると主張して、本件規約49条2項に基づき臨時総会を招集

した。

平成26年7月5日、上記組合員の招集により開催された本件マンションの臨時総会において、Xを理事から解任するなどの決議(以下「本件総会決議」という。)がされ、同日開催された上告人の理事会において、Bが理事長に選任された。

5 平成26年8月、Bの招集によりに開催された本件マンションの通常総会において、役員を選任する旨の決議がされ、同年9月に開催された上告人の理事会において、

Cを理事長に選任する旨の決議がされた(以下、上記の総会決議及び理事会決議を

併せて「その余の決議」という。)。

6 Xは、Yに対し、本件理事会決議、本件総会決議及びその余の決議の無効確認等を求めて訴えを提起した。本件理事会決議は、決議の内容及び手続の本件規約違反により無効であると主張している。

【本件マンションの管理規約】

ア 管理組合にその役員として理事長及び副理事長等を含む理事並びに監事を置く(40条1項)。理事及び監事は、組合員のうちから総会で選任し(同条2項)、理事長及び副理事長等は、理事の互選により選任する(同条3項)。役員の選任及び解任については、総会の決議を経なければならない(53条13号)。

イ 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括する(43条1項)。理事長は、区分所有法に定める管理者とする(同条2項)。

ウ 理事長は、通常総会を、毎年1回新会計年度開始以後3箇月以内に開催しなければならない(47条3項)。理事長は、必要と認める場合には、理事会の決議を経て、いつでも臨時総会を招集することができる(同条4項)。総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない(48条1項)。

エ 組合員が組合員総数の5分の1以上及び議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日を会日とする臨時総会の招集通知を発しなければならない(49条1項)。理事長が同項の通知を発しない場合には、同項の請求をした組合員は、臨時総会を招集することができる(同条2項)。

オ 理事は、理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当する(45条1項)。理事会は、理事長が招集する(57条1項)。理事会の招集手続については48条の規定を準用する(57条3項)。理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する(58条1項)。

カ (役員の選任および解任については、)総会の決議を経なければならない(53条13号)。

【争点】

本件規約は、区分所有法に定める管理者である理事長(43条2項)を理事の互選により選任する旨を定めている(40条3項)が、この本件規約40条3項を根拠にして理事により理事長の解任ができるかどうか。

【一、二審判決】

一、二審判決は、本件理事会決議、本件総会決議及びその余の決議の無効確認請求を認容すべきものとしました。理由は次のとおりです。

1 本件規約は、理事長を理事の互選により選任することを定めている(40条3項)

この規約は解任についての定めではない。

役員の解任は総会の決議事項と定めている(53条13号)。

これらのことにより、本件規約40条3項を理由に理事長を解任することはできないと解すべきである。

そうすると、Xの役職を理事長から理事に変更する旨の本件理事会決議は本件規約に反し無効である。

その後の総会決議、その余の決議もXにより手続がなされたものではないので、無効である。

このように一、二審判決は、Xを理事長から理事にするという本件理事会決議を無効としました。

【最高裁判決 平成29年12月18日判決】

これに対して、最高裁判決は、本件規約40条3項を根拠に理事長の職を解くこともできるとし、Xを理事長から理事にした本件理事会決議を有効としました。(以下、『 』の部分は判決文からの引用です。)

まず、判決は、区分所有法3条、25条1項は集会の決議以外の方法による管理者の解任を認めるか否か及びその方法について区分所有者の意思に基づく自治的規範である規約に委ねているもの、と解しています。

『(1)ア 区分所有法によれば,区分所有者は,全員で,建物等の管理を行うための団体を構成し,同法の定めるところにより,集会を開き,規約を定め,及び管理者を置くことができるとされ(3条),規約に別段の定めがない限り,集会の決議によって,管理者を選任し,又は解任することができるとされている(25条1項)。そうすると,区分所有法は,集会の決議以外の方法による管理者の解任を認めるか否か及びその方法について区分所有者の意思に基づく自治的規範である規約に委ねているものと解される。』

次に、判決は、本件規約は、理事の互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解されるとし、理事長の職を解き、別の理事長を定めることも理事に委ねる趣旨と解すべきとし、それが区分所有者の合理的意思に合致する、役員の解任が総会の議決事項とされていることは妨げにはならない、としています。

『イ そして,本件規約は,理事長を区分所有法に定める管理者とし(43条2項),役員である理事に理事長等を含むものとした上(40条1項),役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならない(53条13号)とする一方で,理事は,組合員のうちから総会で選任し(40条2項),その互選により理事長を選任する(同条3項)としている。これは,理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上,総会で選任された理事に対し,原則として,その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると,このような定めは,理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き,別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが,本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていることは、上記のように解する妨げにはならない。』

その結果、本件規約に基づいて、理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができるとしています。

『ウ したがって,上記イのような定めがある規約を有する上告人においては,理事の互選により選任された理事長につき,本件規約40条3項に基づいて,理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができると解するのが相当である。』

本件では、出席理事10名の一致により、理事長の職を解き、理事としても本件規約に違反するとは言えない、としました。

『(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件理事会決議は,平成25年10月20日に開催された上告人の理事会において,理事の互選により理事長に選任された被上告人につき,本件規約40条3項に基づいて,出席した理事10名の一致により理事長の職を解き,理事としたものであるから,このような決議の内容が本件規約に違反するとはいえない。』

第5 最後に

最高裁は以上のように、理事の過半数の決議により理事長を解任できるとしました。ただ理事長と他の理事との意見が対立している場合、理事長を解任しただけで問題が解決するとは限りません。理事長を別に選任したとしても、解任された理事長は理事の地位にはありますから場合によっては、理事会内部で意見が対立し、その結果管理組合の運営が混乱し、円滑な運営ができなくなることも考えられます。根本的な解決にはならない可能性もありますから、総会で理事の解、選任からやり直す必要がある場合も考えるべきでしょう。

どのような解決策が適切なのか、一度、専門家であるお近くの弁護士に相談に行くことをお勧めします。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文

建物の区分所有等に関する法律

(建物の区分所有)

第一条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

(区分所有者の団体)

第三条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。

(選任及び解任)

第二十五条 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。

2 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。

標準マンション管理規約については

国土交通省HP「マンション管理について」

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

第35条 管理組合に次の役員を置く。

一 理事長

二 副理事長 ○名

三 会計担当理事 ○名

四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。) ○名

五 監事 ○名

2 理事及び監事は、○○マンションに現に居住する組合員のうちから、総

会で選任する。

3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。

(理事長)

第38条 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各

号に掲げる業務を遂行する。

一 規約、使用細則等又は総会若しくは理事会の決議により、理事長の職

務として定められた事項

二 理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。

2 理事長は、区分所有法に定める管理者とする。

3 理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理

組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。

4 理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任

することができる。

(総会)

第42条 管理組合の総会は、総組合員で組織する。

2 総会は、通常総会及び臨時総会とし、区分所有法に定める集会とする。

3 理事長は、通常総会を、毎年1回新会計年度開始以後2ケ月以内に招集

しなければならない。

4 理事長は、必要と認める場合には、理事会の決議を経て、いつでも臨時

総会を招集することができる。

5 総会の議長は、理事長が務める。

(招集手続)

第43条 総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議

の目的が建替え決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及

び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない。

(組合員の総会招集権)

第44条 組合員が組合員総数の5分の1以上及び第46条第1項に定める

議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示

して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求が

あった日から4週間以内の日(会議の目的が建替え決議であるときは、2

か月と2週間以内の日)を会日とする臨時総会の招集の通知を発しなけれ

ばならない。

2 理事長が前項の通知を発しない場合には、前項の請求をした組合員は、

臨時総会を招集することができる。

(議決事項)

第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければなら

ない。

十三 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法

(理事会)

第51条 理事会は、理事をもって構成する。

2 理事会の議長は、理事長が務める。

(招集)

第52条 理事会は、理事長が招集する。

2 理事が○分の1以上の理事の同意を得て理事会の招集を請求した場合に

は、理事長は速やかに理事会を招集しなければならない。

3 理事会の招集手続については、第43条(建替え決議を会議の目的とす

る場合の第1項及び第4項から第7項までを除く。)の規定を準用する。

ただし、理事会において別段の定めをすることができる。

(理事会の会議及び議事)

第53条 理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことがで

きず、その議事は出席理事の過半数で決する。