新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1844、2018/10/02 17:16 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、権利保釈と外国人の特殊性に対応する具体的対策、住所不定、逃走のおそれ、身元引受】

外国人の保釈請求


質問:
 ベトナム国籍の男性・22歳です。先日、ディスカウントショップで化粧品十数点を万引きしてしまったことで逮捕、勾留され、本日起訴(公判請求)されました。警察に捕まるのはこの件が初めてです。起訴を受けて、私に付いている国選弁護人に保釈の申請を頼んだところ、あなたは外国人だから申請しても保釈は認められないよ、と言われました。外国人というだけの理由で本当に保釈は認められないものでしょうか。また、公判請求されていますが罰金刑にはならないのでしょうか。



回答:

1. 保釈とは、勾留されている被告人について、保釈保証金の納付等を条件に、勾留の執行を暫定的に停止する手続きのことです(刑事訴訟法88条以下)。保釈には大きく分けて、法定の除外事由がない限り保釈を許さなければならない権利保釈と、裁判所が適当と認めるときは職権で保釈を許すことができる裁量保釈の2種類が規定されていますが、いずれにおいても被告人が外国人であることそれ自体が保釈判断に不利益に働くことはありません。外国人の被告人に保釈を認めている例は多数存在します。したがって、あなたの弁護人の説明は正確とはいえません。

2. ただし、外国人の場合、本国に帰国してしまうなどして、公判への出頭が確保できない可能性が懸念されるため、この点につき何かしらのフォローができていないと、逃亡のおそれが高いと判断され、保釈判断に不利に働くことになります。また、日本国内に家族や親族がいない外国人の場合、保釈許可に必要となる身元引受人の確保が困難な場合がありますし、観光目的の短期滞在者等、日本国内に定まった住居を持たない外国人の場合、保釈を通すためには確かな住居の確保が必須となります。これらの点関する具体的対応について、解説中で述べていますので、ご参照下さい。

3. なお、ご相談のケースでは、公判での量刑に関し、懲役刑の回避(罰金刑の適用)を主張できる可能性があるように思われます。罰金刑が選択された場合、仮に保釈が認められなかったとしても、未決勾留日数を金銭に換算して罰金刑に算入する「満つるまで算入」と呼ばれる措置がとられることがあり、その場合、未決勾留日数によっては、実際には罰金を納める必要がなくなることになります(刑法21条)。あなたの在留資格や日本国内での生活状況等によっては、罰金刑か懲役刑かによって、思わぬ不利益を受ける場面が想定されることから(在留資格の更新の可否等)、保釈の許否にかかわらず、公判では懲役刑の適用回避に向けて最大限の主張を行うべきことになるでしょう。

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解説:

1.保釈とは

 保釈とは、勾留されている被告人について、保釈保証金の納付等を条件に、勾留の執行を暫定的に停止する手続きのことです。あなたは、ディスカウントストアでの万引き行為につき、窃盗罪(刑法235条)で逮捕、勾留された後、公判請求されたことに伴い、起訴後勾留といわれる身柄拘束の措置が執られている状態です(刑事訴訟法60条1項)。刑事訴訟法上、起訴後勾留は原則2か月間とされていますが、例外が認められるケースが非常に幅広く、基本的には裁判が終わるまでの間、身柄拘束が継続されることになります(刑訴法60条2項)。公訴事実に争いがなく、1回の審理で結審する事案でも、裁判所の期日調整等の関係で判決まで2か月近く要することが多いので、かかる長期の身柄拘束を回避するためには、保釈の請求を行い(刑事訴訟法88条1項)、これを認めてもらう必要があります。保釈が許可され、所定の保釈保証金を納付すれば、勾留の執行が停止される結果、身体拘束が解かれる(釈放される)ことになります。

 保釈には、大きく分けて、権利保釈と裁量保釈の2種類があります。権利保釈とは、法定の除外事由がない限り保釈を許さなければならないとされているものであり(刑事訴訟法89条)、必要的保釈ともいわれます。裁量保釈とは、裁判所が適当と認めるときは職権で保釈を許すことができるとされているものであり(刑事訴訟法90条)、職権保釈ともいわれます。それぞれ次のように規定されています。

刑事訴訟法
第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

 ここで、あなたが起訴された窃盗罪(刑法235条)の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされており、刑事訴訟法89条1号に該当するものではありません。また、あなたに前科があったり余罪がある、といった事情がなければ、同条2号、3号にも該当せず、同条5号の証人威迫のおそれ等についても、特段の事情がなければ通常問題となることはありません。

 権利保釈除外事由該当性で最も問題となることが多いのは、同条4号の罪証隠滅のおそれの有無についてです。ここでの罪証隠滅のおそれは、実務上、非常に広く解されており、保釈請求が却下される場合、ほぼ全てと言ってよいくらいの多くのケースで罪証隠滅のおそれが認定されています。本件でも、釈放後、被害店舗に訪問、電話、その他の手段で接触し、被害店舗関係者らに威迫、懇願等による働きかけを行うことが可能である、といった理由で罪証隠滅のおそれが認定されてしまう可能性が高いと思われます。また、もしあなたが日本に定まった住居を有しない場合(在留資格が短期滞在等の外国人の場合、定まった住居がないことが殆どだと思われます。)、89条6号にも該当することになります。
権利保釈除外事由が存在する場合、裁量保釈の可否が検討されることになりますが、その検討過程では、保釈後の罪証隠滅のおそれの程度や逃亡のおそれの程度が考慮されることになるため(刑事訴訟法90条)、保釈の請求に際しては、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれを低下させるようなフォローと証拠資料の準備が必須となります。

2.外国人であることの特殊性 

 被告人が外国人であることは権利保釈除外事由ではなく、外国人であることそれ自体が裁量保釈の判断に直接影響を及ぼすものではありません。しかし、外国人の場合、公判への出頭確保という見地から最も懸念されるのが、被告人が本国に帰国してしまう可能性があるということです。この点につき何かしらのフォローができていないと、逃亡のおそれが高いと判断されることになるでしょう。

 また、個々の外国人の属性が逃亡のおそれの有無等の判断に影響を及ぼすことは当然あり得ます。例えば、永住許可を取得し、あるいは配偶者ビザ(日本人の配偶者がいる)で日本国内に生活の本拠地がある外国人と、観光等の目的で短期滞在ビザで来日し、ホテルで寝泊まりしているような外国人とでは、逃亡のおそれ(本国に帰国してしまう等)の程度が全く異なるといえますし、権利保釈除外事由の1つである刑事訴訟法89条6号(住居不定)該当性についても異なる判断がなされることになるでしょう(ホテルは定まった住居とは認められません。)。住居不定の場合、通常、逃亡のおそれが高く、被告人の公判への出頭を確保できない危険性が高いと判断されるため、裁量保釈も認められないことが非常に多く、保釈を認めてもらうためのハードルは相当高いものとなります。

 さらに、外国人の場合、身元引受人の確保が問題となるケースが多くあります。身元引受人とは、保釈中の被告人の生活を責任を持って監督し、裁判所等への出頭を確実なものとするための人のことをいい、この身元引受人なくして保釈が許可されることはありません。通常は、被告人の家族や親族が身元引受人になることが多いですが、外国人の場合、日本国内に家族や親族はおろか、友人、知人すらいないことも珍しくありません。

 なお、外国人の場合、保釈が許可された後の現実的な問題として、裁判所から指定された保釈保証金を捻出できるのかどうかが問題となることが多くあります。特に、逃亡のおそれが比較的高いと判断された被告人に対する保釈保証金は、通常(どんなに軽微な事件でも、通常、150万円を下回ることはありません。)よりも高めに設定されることになるため、保釈金の額は切実な問題です。弁護人等を通じて、本国にいる家族や親族を通じて保釈金を用立ててもらうこともありますが、日本と物価が大きく乖離している国の場合、保釈金の準備ができず、最終的に保釈を諦めざるを得ないケースもまま見受けられます。

3.具体的対応

(1)パスポートの管理

 外国人に対する保釈の請求を行う場合、被告人の海外渡航を困難にする見地から、裁判が終わるまでの間、弁護人において被告人のパスポートを預かっておくよう、裁判所から求められることが通例です。具体的には、弁護人において被告人のパスポートを預かる旨の上申書を裁判所に提出するとともに、保釈の可否を判断する裁判官との面接を求め、実際に預かったパスポートを裁判官に提示することで、逃亡のおそれが存在しないことを示すことになります。本邦に在留する外国人には、原則としてパスポートの携帯が義務付けられていますが、中長期在留者については在留カードを携帯していれば足りるとされているため(出入国管理及び難民認定法23条1項、2項)、かかる外国人について弁護人がパスポートを預かることは同法に抵触するものではありません。ただし、在留カードを持たない短期滞在者について同様の対応をとることはできないため(同法76条1項により罰則も規定されています。)、その場合、携帯可能なセキュリティボックスにパスポートを入れて被告人に携帯させ、その鍵を弁護人が預かる、といった対応が必要となります。

(2)身元引受人の確保

 日本国内に居住している家族や親族がいない場合、身元引受人としての適任者の確保が問題となります。例えば、日本語学校等への留学生であれば、その担任、技能実習や就労ビザでの滞在者であれば、その就業先の責任者などに身元引受人になってもらうことが考えられますが、誰が身元引受人として最も適任かは、結局のところ、個々人ごとに検討していく他ありません。上記のとおり、身元引受人は被告人に対する指導者、監督者としての資質が求められますので、単なる友人、知人というだけでは、保釈許可に向けて裁判所を動かすことは難しいでしょう。どうしても適任者がいない場合、被告人との確実な連絡手段が整っている等、実効性のある監督が可能な状況であれば、弁護人が身元引受人になるということも1つの選択肢といえるでしょう。

(3)住居の確保

 日本国内に定まった住所を持たない短期滞在者等に対する保釈請求の場合、制限住居の指定との関係で、まず住居を確保しないことには始まりません。身元引受人などが被告人を自宅に受け入れて同居するような場合、その旨の被告人の誓約書や弁護人の上申書の他、当該住所の表示がされている公的な書類(当該身元引受人の運転免許証や住民票等)を資料として裁判所に提出することになります。被告人を同居人として受け入れてくれる協力者が得られない場合、被告人名義で外国人対応のウィークリー・マンスリーマンションを契約するなどして住居を確保する必要があります。

(4)保釈が認められなかった場合の対応

 あなたの外国人としての属性や身元引受人等協力者の有無、資力状況等によっては、以上のような対応を尽くしても結果として保釈に至らないこともあり得るでしょう。その場合、判決までの間、身柄拘束が継続することになる代わりに、公判での量刑に関し、罰金刑の選択(懲役刑の回避)を求めた上で、未決勾留日数を金銭に換算して罰金刑に算入するよう主張することが可能になると思われます(刑法21条参照)。これは「満つるまで算入」と呼ばれるもので、罰金刑の言渡しはされるものの、勾留されていた期間が1日あたり5000円といった形で金銭に換算されて罰金刑を受け終わった扱いとするため、未決勾留日数によっては、実際には罰金を納める必要がなくなることになります。

 通常、万引きの事案で公判請求される場合、犯情が悪質である等の理由で、罰金刑を前提とした略式起訴に止めるのは不相当であるとの検察官の判断の下、懲役刑の求刑を前提として正式裁判とされるのことが殆どですが、検察官が罰金相当の事案と考えているものの、罰金を納めるには被疑者の資力が不十分である等の理由で、罰金刑求刑を前提に正式裁判とする場合もあり得なくはありません。あなたのケースでも、前科前歴なしで、被害額が多額である等の事情がないようであれば、満つるまで算入の適用可能性も十分見込まれる事案と思われます。

 最終的な判決が罰金刑か、執行猶予付きであれ懲役刑かによって、在留資格の更新の可否等、思わぬ不利益を受ける場面が想定されることから、保釈の許否にかかわらず、懲役刑の適用回避に向けて最大限の主張を行うべきことになるでしょう。


≪参照条文≫
刑法
(未決勾留日数の本刑算入)
第二十一条 未決勾留の日数は、その全部又は一部を本刑に算入することができる。
(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
第八十八条 勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。
第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

出入国管理及び難民認定法
(旅券等の携帯及び提示)
第二十三条 本邦に在留する外国人は、常に旅券(次の各号に掲げる者にあつては、当該各号に定める文書)を携帯していなければならない。ただし、次項の規定により在留カードを携帯する場合は、この限りでない。
一 第九条第五項の規定により短期滞在の在留資格及び在留期間を決定された者 特定登録者カード
二 仮上陸の許可を受けた者 仮上陸許可書
三 船舶観光上陸の許可を受けた者 船舶観光上陸許可書
四 乗員上陸の許可を受けた者 乗員上陸許可書及び旅券又は乗員手帳
五 緊急上陸の許可を受けた者 緊急上陸許可書
六 遭難による上陸の許可を受けた者 遭難による上陸許可書
七 一時庇護のための上陸の許可を受けた者 一時庇護許可書
八 仮滞在の許可を受けた者 仮滞在許可書
2 中長期在留者は、法務大臣が交付し、又は市町村の長が返還する在留カードを受領し、常にこれを携帯していなければならない。
3 前二項の外国人は、入国審査官、入国警備官、警察官、海上保安官その他法務省令で定める国又は地方公共団体の職員が、その職務の執行に当たり、これらの規定に規定する旅券、乗員手帳、特定登録者カード、許可書又は在留カード(以下この条において「旅券等」という。)の提示を求めたときは、これを提示しなければならない。
第七十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、十万円以下の罰金に処する。
一 第二十三条第一項の規定に違反した者
二 第二十三条第三項の規定に違反して旅券、乗員手帳、特定登録者カード又は許可書の提示を拒んだ者


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