No.1846|養育費について

再婚による養育費の減額|義務者側(支払う側)の再婚

家事|義務者側の再婚を理由に公正証書で定めた養育費を減額することはできるか|養育費の計算式および調停の進め方|福島家庭裁判所昭和46年4月5日家庭裁判月報24巻4号206頁他

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

私は,前の妻と5年前に離婚しました。子どもは1人いて,現在は15歳になっています。離婚する際に,公正証書を作っており,その中で,養育費についても決めています。

その後,ずっと支払いを続けていたのですが,この度,新しく結婚することになりました。実は,新しく結婚する人は,私との子どもを妊娠しており,3か月後には生まれる予定です。新しい妻は,現在産休中なので,私が生活を支えることになりますが,将来が不安です(私の収入は頭打ちで,当時から変わっていません)。公正証書で取り決めをしている場合でも,現在支払っている養育費を減らすことは出来るでしょうか。

回答

公正証書で養育費を定めたとしても,その当時に予見ができない事情の変更によって,当時定めた養育費の維持が難しくなった場合には,養育費の減額が認められる傾向にあります。

しかし、養育費の金額について合意した当時に予見ができない事情の変更があったことが要件となりますし、公正証書で定めている養育費の減額であることに鑑みても,おそらく協議で減額についての合意を得ることは難しいため,調停(場合によってはいきなり審判)を申立てることになります。

また,ご相談のようなケースでの減額請求については,再婚相手との子どもを減額の事情に含めるためには,養育費の減額が(再婚相手と)子どもに対する扶養義務から導かれることからすると,子どもが生まれてからする必要があるところです。

計算についての考え方は下記のとおりですが,ポイントとなるのは,再婚相手の収入(ご相談の件でいうと産休がいつ終了するか)と,過去に定めた際の金額とその趣旨です。

再婚相手の産休の終了が,比較的近い時期で,かつ復職後の収入がある程度見込める場合には,計算上,再婚相手の生活費をあなたが負担しない,ということになりますし,再婚相手とのお子様の生活費については一部再婚相手が負担することになることから,減額の幅は小さくなります(後述する裁判例では,復職後の減額を認めていません)。

また,過去の公正証書で定めた養育費が,実務で用いられている算定方法を用いた場合の養育費よりも高額であった場合,その合意の趣旨が減額時にも影響する,とした裁判例もあります。

いずれにしても,減額自体は認められるにしても,本件のようなケースでは,具体的な養育費の計算は複雑です。相手方によって,協議や調停・審判のいずれを選択するか等の問題もありますから,現時点でお近くの弁護士に相談されることをお勧めいたします。

解説

第1 はじめに

1 養育費の意義

離婚後の養育費は,民法877条1項に規定する扶養義務,あるいは同法766条1項の「子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項」として義務付けられています。この扶養義務は,いわゆる「生活保持義務」(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)とされています。

例えば,大阪高決平成6年4月19日家庭裁判月報47巻3号69頁は,「親の未成熟子に対する扶養義務は,親に存する余力の範囲内で行えば足りるようないわゆる生活扶助義務ではなく,いわば一椀の飯も分かち合うという性質のものであり,親は子に対して自己と同程度の生活を常にさせるべきいわゆる生活保持義務なのである」としています。

2 養育費の算定表

とはいえ,現在の裁判実務においては,上記考え方の下で,具体的な養育費の算定式(標準算定方式・判例タイムズ1111号285頁)と,それを基礎にした「算定表」という表を用いて,養育費を計算しています(【参考】東京家庭裁判所 養育費・婚姻費用算定表)。この表は,東京と大阪の裁判所が作成したもので,権利者・義務者の年収と所得の内容(給与所得・事業所得)と子どもの年齢・人数だけ分かればおおよその養育費が算出できるようになっています。

本稿では,本件のような事情のもとで,事前に公正証書によって養育費の定めをしている場合に,養育費の減額が可能であるのか,その進め方と併せて説明していきます。

第2 減額の可否とその要件,計算方法等

1 養育費の減額自体は可能

前提として,一度定めた養育費を減額することができるか,という点ですが,その根拠についての見解はいくつかある(民法880条の類推や同法766条3項等)ものの,減額可能であるという点については一致しています(例えば東京家庭裁判所も減額が可能であることを前提として,養育費減額の申立書を作成して掲示しています)。

2 減額の要件

そして,その要件ですが,上記減額の根拠とされる民法880条(類推)や同法766条3項が,「協議又は審判があった後事情に変更を生じたとき」(民法880条),「必要があると認めるとき」(同法766条3項)と定めていること,また子どもの生活費という養育費の性質から求められる「法的安定性」を鑑みて,養育費を定めた時点では予見できなかった事情(の変更)で,かつその事情の変更が当時定めた養育費を維持することが困難であること,が求められると考えられています。

例えば,養育費の増額の場面ですが,福島家庭裁判所昭和46年4月5日家庭裁判月報24巻4号206頁は,「事件本人が学齢期に達すれば就学し、その教育費を含めて養育費が多少増加する程度のことは、調停の際、十分斟酌してなされたものであるから、申立人も負担を承知していたものであつて,その費用は上記相手方の予定した負担に含まれないと解するのが相当であり、かつ、申立人の生活程度が普通以上で事件本人の日常生活に事欠くようなことがなく、本件申立も経済的需要が臨時または恒常的に著しく増大したことを理由とするものでないから、相手方に事件本人の生活費負担の能力があるとしても、結局、上記調停成立後現在まで、事情の変更があつたとは認め難い」として,子どもの就学による教育費の増加を,「事情の変更」として認めませんでした。

他方で,本件のような再婚と出産については,後述の審判例等からみても,事情の変更として認められる傾向にあります。

なお,権利者側の再婚については,当事務所事例集『養育費の権利者が再婚した場合の養育費の減額』『離婚した妻が再婚した場合に養育費の変更が出来るか』をご参照ください)。

3 減額の算定式

減額が認められる場合の具体的な計算ですが,義務者(払う側・本件でいう相談者)の再婚と再婚相手の出産の場合の養育費は,上記の算定表にはないため,算定表のもととなっている標準算定方式を用いて計算することになります。

そして,現在の実務では,義務者が再婚して再婚相手に子どもが生まれた場合は,義務者,養育費を払う対象の子ども(元配偶者である権利者との子ども),再婚相手,再婚相手との子どもが全員同居している,と仮定して「権利者との子どもに支払うべき生活費」を計算し,権利者と義務者の収入比から義務者が分担する額を決める,という方法で算出しています。

この計算でよく生じる問題としては,再婚相手の収入です。仮に再婚相手に十分な収入がある場合には,義務者が生活費を負担する必要はなくなるため,上記の計算方法を変更し,「義務者と権利者との子ども,再婚相手との子どもが全員同居している」という仮定で算定することになります。

さらに,再婚相手の収入によっては,再婚相手との子どもの生活費についても,再婚相手が一部負担するべき,という考えから,「再婚相手との子どもにかかる生活費」を義務者と再婚相手の収入比で按分する,という計算が用いられることもあります(正確には,「生活費指数」という世帯の収入を,その構成員間でどのように割り振るかを示す指数を按分することになります)。

この「再婚相手の収入」は,現在無収入であるが,過去に就労実績があるような場合も問題となります。むしろ,本件のような減額請求の流れを考えると,仮に再婚相手が就労していたとしても,その時点では産休・育休を取得していることが多いため,この点をどう考えるか,が重要です。

この点,例えば福島家庭裁判所会津若松支部審判平成19年11月9日家庭裁判月報60巻6号62頁では,公正証書で養育費を定めた時点で具体化していなかった義務者の再婚と子どもの出生について,「本件養育費条項が合意された平成16年4月×日時点では,相手方が再婚し,子をもうけることは抽象的には想定されるものの,具体的な事情として存在していたとは認められず,現実に予想することはできないから,申立人が,平成19年×月×日,Dと婚姻し,同年×月×日,Eをもうけたという事情は,本件養育費条項を変更すべき事情に当たる」としながらも,「前記認定のとおり,Dの育児休業期間は平成20年4月×日まであり,その後はDもEの養育費を負担できるようになることが予想されるから,本件で本件養育費条項の減額を認める期間は,同月までとし,その後必要があれば申立人において再度減額等の申立てをするのが相当である」とし,再婚相手の育休期間と育休期間明けを分けて,育休期間経過後の養育費減額を認めませんでした。

現在は保育園への入園のハードルも高く,またそもそも上記の計算からすると,養育費の減額を認めないという判断の妥当性にも疑問は残りますが,再婚相手の産休・育休の期間についても,減額を求める側からは注意して主張をする必要がある点ということになります。

4 計算の修正

以上が基本的な計算ですが,事前に決めた養育費の額によっては,計算をさらに修正する必要が出てきます。

東京高決平成28年7月8日判例タイムズ1437号113頁は,本件のように,公正証書で養育費を定めて離婚した後,義務者が再婚し,新たに子どもが生まれたため減額の審判を求めた,という事例です。この事件では,上記の通り,義務者の再婚と子どもの誕生が,養育費を減額(変更)することのできる「事情の変更」に該当する,と判断していますが,この事件の特殊性は,公正証書によって定めた養育費が,上記「算定表」で計算した場合に比して5万5000円高い金額であった,という点にあります。

この5万5000円について,東京高裁は「認定事実によれば、本件公正証書における養育費の合意額は客観的に見て標準算定方式により算定される額に月額五万五〇〇〇円を加えた額であったことを認めることができ、現在における養育費の額の算定においてもこの合意の趣旨を反映させるべきである。もっとも、上記合意は、未成年者ら以外に相手方が扶養義務を負う子を未成年者らより劣後に扱うことまで求める趣旨であるとまで解すことはできないから、上記加算額を、未成年者らと、相手方とその再婚相手との間の子に、生活費指数に応じて等しく分配するのが相当である。」と判示しました。単純に,減額を求めた時点での養育費を算定するだけではなく,当時の合意の趣旨を反映させる必要がある,と判示したことになります。

いかなる場合も,当初の合意が反映されるわけではないと思われますが,養育費の減額の請求を検討する際には,当時の合意の趣旨に遡って検討する必要が生じる,ということになります(この決定からすると,そもそも養育費の決定については,最初から弁護士に相談する等して慎重におこなうべき,ということになります)。

第3 本件における進め方

1 減額手続の進め方

以上を前提とした,本件の進め方について説明いたします。

養育費の減額については,①双方の話し合いで新たな(減額後の)養育費を定める方法,②養育費の減額を求める調停を申立てる方法が考えられます。

ただし,一般的に本件のような養育費の減額の場合,相手方(権利者側)の理解は得られがたいところですし,調停でも基本は話し合いになることから,②調停の申立てをしてしまった方がかえって早期解決に資する,という印象です。なお,調停を飛ばして審判を申立てることも可能ですが,裁判所から調停に付される可能性もありますから(家事事件手続法274条),およそ「話し合いにならない」事情がなければ,調停から始めることを考えることになります(それでも,調停でまとまらない場合は,そのまま審判に移行します)。

また,仮に相手方の性格等から①協議による早期解決が見込める場合であっても,現時点での養育費を公正証書で定めている以上,公正証書で明確化するのが望ましいと思われます(ただし,公正証書によらない合意書であっても有効であるため,「気が変わらないうちにできるだけ早く合意を固める必要がある」というケースではむしろ公正証書化を避けて双方で作成する合意書にとどめる,ということも考えられます)。

2 調停申立てのタイミング

減額を求めるタイミングですが,上記の通り,再婚とその妻との間の子の誕生は養育費の減額事由になり得るものの,「胎児の生活費(養育費)」という概念がない(胎児に対する扶養義務は生じない)以上,お子様の出生前に調停をしても,「お子様が生まれたこと」による養育費の減額は見込めません。そのため,基本的にはお子様が生まれてからの調停申し立て,ということになります。

また,①お子様が生まれたことを考慮せず,再婚のみを理由とした養育費の減額をおこない,②お子様が生まれてから再度養育費の減額を求める,という方法は,上記の通り,養育費の減額の要件が「養育費を定めた時点では予見できなかった事情の変更」であることから,①の養育費の減額が決まった時点で,妊娠が明らかであった場合,出生は「予見できた事情」であったとして,②の減額が認められない,という可能性も否定できません。

実際に,名古屋高決平成28年2月19日判例タイムズ1427号116頁では,最初の養育費を決める調停の際に妊娠を知っていたことから,その後の出生が「予見し得た事情にとどまる」との主張がなされています(ただし,当該決定では,調停成立時に妊娠を認識していたとはいえない,という理由で主張を排斥しています)。

3 調停の進め方

具体的な調停の進め方ですが,当然相手方によって対応は変わるため,当然一般化はできませんが,上記2のとおり,あなた,権利者との子ども,再婚相手,再婚相手との子どもの全員が同居した,と仮定して,上記算定式に基づいた計算をして主張することになります。

その場合のポイントも,上記2のとおり,再婚相手の収入と,過去の養育費の合意の趣旨です。

本件の場合は詳細が不明ですが,減額を求める側としては,いかに調停の場(あるいは協議の場)で,再婚相手の稼働能力がないか(収入を得る見込みがないか)を事実に即して主張する必要がありますし,また公正証書による合意の金額によっては,この合意の趣旨について,上記東京高裁決定に配慮した説明が必要になることも出てくるところです。

4 終わりに

以上のとおり,養育費は機械的に決まるようでいて,具体的な事例の下では,種々の調整がなされることになります。少なくとも,本件のように算定表で「自動的に」算定されないようなケースでは,早めにお近くの弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

参照条文

民法

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

(扶養義務者)
第877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。