準強制性交における被害者の対応

刑事|準強制性交の被害に遭った場合の慰謝料請求について|民事事件と刑事事件の特殊性による対策

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 無料法律相談

質問

合コンで知り合った男性から強姦の被害を受け、民事上、最大限の責任追及をするためにどうしたらよいかという相談です。

加害者は、開業医をしている30代男性で、昨日、職場の女子社員たちと参加した合コンで初めて知り合いました。はじめは普通に食事をしていたのですが、2次会になると、男性陣からどんどんお酒を勧められ、嘔吐し、以降の記憶を失くすまでの状態になってしまいました。次に思い出せるのは、加害男性が私の体の上に馬乗りの状態になっていて、性行為をされている感触があったことですが、朦朧とする意識の中のことですので記憶は断片的です。

その後、気付いた時には、私の自宅マンションのベッドの上で下半身だけ裸の状態にされており、加害男性はトイレにでも行っていたのか、上半身はワイシャツ、下半身は裸の状態でちょうど部屋に入ってきたところでした。私が大声を出し、今すぐ家から出て行くよう強く言うと、男性は慌てた様子で服を着て出て行きました。食事の時は、とても感じの良い人だと思っていたのに、このような被害を受けることになって、とてもショックを受けていますし、加害男性に対しては許せない気持ちでいっぱいです。

私としては、加害男性に対して最大限の慰謝料を請求したいと考えているのですが、具体的にどのように行動すればよいでしょうか。

回答

1 伺った事情によれば、加害男性は、多量の飲酒によって酩酊状態となり、抗拒不能の状態となっているあなたに対して性交を行っているものであり、準強制性交罪(刑法178条2項)が成立しているものと考えられます。同罪は、その法定刑が5年以上の有期懲役とされる重罪であり、あなたは準強制性交事件の被害者という刑事上の地位を有するとともに、民事上も、加害男性に対して損害賠償請求権を有しています(民法709条)。

2 あなたとしては、加害男性に対して最大限の慰謝料を請求したい意向のようですが、民事上の請求のみを行っていたのでは、加害男性としては慰謝料を多く支払おうというインセンティブが働きませんし、むしろ慰謝料を低くするため、最大限争おうとする場合が殆どであると思われます。また、また、仮に民事裁判で準強制性交の事実が認定してもらえたとしても、裁判例上認容される慰謝料額は、200万円を下回るような低額のケースも多く、被害の重大性が必ずしも慰謝料額に反映されないのが現状です。

3 本件で加害男性から被害の実態に即した適正な賠償を受けるためには、捜査機関に本件を準強制性交事件として立件してもらうことが近道となるでしょう。本件が立件され、起訴された場合、加害男性としては実刑判決を受け、それに伴い医師免許取消の行政処分を受ける可能性が高く(医師法7条2項3号、4条3号)、かかる事態を回避する(不起訴処分を得る)ため、早期かつ適正額での被害弁償(示談申入れ)を行おうとする強力なインセンティブが生じることになります。ただし、捜査機関に刑事事件として立件してもらい、被害者の立場で捜査に協力するということは、いくら刑事手続上被害者の心情やプライバシー等に最大限配慮した対応が予定されているとはいえ、性犯罪という事案の性質上、被害者に対しても大きな精神的負担を強いる面があることは否定できないため、実際に刑事事件化すべきかは、この点も踏まえて判断しなければなりません。

4 もちろん、加害男性が不合理な弁解をする等して犯罪事実を争う可能性もなくはありません。しかし、被害者であるあなたの捜査機関での供述が信用性を有するものであれば、遅かれ早かれ、虚偽の弁解が通用しないことは理解することになると見込まれます。あなたとしては、供述の信用性に疑義が生じさせることのないよう、事前に信用性判断のポイント(詳しくは、解説を参照して下さい。)を把握し、これに沿って事実関係を十分に整理した上で取調べに臨まれることが望ましいといえます。そのためには、被害者供述の信用性判断のポイントを熟知し、かつ事実関係に沿って適正な評価と助言をなし得る弁護士に相談しながら、被害申告や取調べ対応、賠償に関する交渉等を進めて行くことが望ましいといえるでしょう。

5 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 準強制性交罪について

伺った事情を基にすると、加害男性は、多量の飲酒によって酩酊状態となり、身動きが取れないあなたに対して性交を行っているものであり、準強制性交罪(刑法178条2項)が成立しているものと考えられます。準強制性交罪は、人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じて、性交等をした場合に成立する犯罪であり、その法定刑は、5年以上の有期懲役という非常に重いものとなっています。同罪は、個人の人格的自由としての性的自由を保護法益としており、あなたは準強制性交罪の被害者という刑事上の地位を有するとともに、民事上も、加害男性に対して損害賠償請求権を有していることになります(民法709条)。

(準)強制性交罪は、一般的には(準)強姦罪という呼称で知られており、平成29年7月13日に性犯罪処罰規定の厳罰化等を盛り込んだ改正刑法が施行されるまでは、(準)強姦罪という名称で規定されていました。この法改正によって、罪名が変更されるとともに、処罰対象となる行為が「性交、肛門性交又は口腔性交」に拡大され、行為の客体も「女子」(旧刑法177条)に限られないこととなり、法定刑の下限も懲役3年から懲役5年に引き上げられるとともに、それまで親告罪(被害者の告訴がなければ起訴できない犯罪)としていた規定(旧刑法180条)が撤廃されて非親告罪とされる等の変更が加えられています。

2 民事上の請求のみを行う場合の問題点

ところで、あなたとしては、加害男性に対して民事上の損害賠償請求を行いたい意向である旨伺っております。実際には、代理人として選任した弁護士を通じて、請求の書面送付、交渉を行っていくのが一般的ですが、ここで懸念されるのが、加害男性が性行為自体を否認する、あるいは性行為自体はあったものの同意があった、といった主張がなされる可能性があることです(これらの場合、強制性交罪は成立せず、民事上の不法行為も成立しません。)。

加害男性からこのような類の主張がなされるケースは、経験上、非常に多いといえます。その場合、公開の法廷での審理となる民事訴訟を提起した上、あなたが抗拒不能の状態にあったこと、加害男性があなたに性交を行ったこと等を証拠によって立証しなければなりません(立証責任は、請求者であるあなた自身に課されることになります。)。

しかし、特に客観的証拠に乏しいような事案では、請求権を主張する当事者の立場でいくら詳細な事実関係を主張したとしても、事実関係を認定してもらうことは容易ではありません。また、仮に準強制性交の事実が認定してもらえたとしても、判決で認容してもらえる慰謝料の金額は、200万円を下回るようなケースも多く、事案の重大性や被害女性が実際に受けることになる精神的苦痛の大きさが必ずしも反映されていないのが現状です。民事上の請求のみを行っていたのでは、加害男性としては慰謝料を多く支払おうというインセンティブが働きませんし、むしろ慰謝料を低くするため、最大限争おうとする場合が殆どであると思われます。

したがって、本件では、単に民事上の手続きを進めていくのみでは、あなた自身の意向に沿った形での解決が実現できない可能性が高いと言わざるを得ないでしょう。

そこで、上記のような立証と金額の問題をカバーするために、本件を刑事手続化させることを検討する必要が出てきます。その前提として、加害男性が刑事手続上置かれている状況について確認しておく必要があるでしょう。

3 加害男性が置かれている法的状況について

本件が準強制性交罪被疑事件として立件された場合、警察としては、まず、被害者であるあなたの供述調書を作成し、必要な客観的証拠の収集を行った上、加害男性を逮捕しようとする可能性が高いといえるでしょう。前述のとおり、準強制性交罪の法定刑は5年以上の有期懲役と、非常に重く、同罪で起訴されて有罪となったケースでは、被害者との示談成立等の事情がない限り、基本的に実刑となることから、重罰回避のための逃亡のおそれや、被害者への働きかけ等の罪証隠滅のおそれが高いと類型的に判断され易く、加害男性の社会的地位等を考慮しても、逮捕の要件である逮捕の理由や必要性(刑事訴訟法199条2項、刑事訴訟規則143条の3)を満たす可能性が高いためです。そして、逮捕後は48時間以内の送検が(刑事訴訟法203条1項)、送検後は10日間ないし20日間の勾留がそれぞれ見込まれ(刑事訴訟法208条1項、2項)、この最大20日間の勾留期間中に、それまでの加害男性に対する取調べの結果や示談の成否等の事後的な事情を踏まえ、検察官によって、起訴、不起訴の決定がなされることになります(刑事訴訟法247条、248条)。

加害男性としては、準強制性交の事実を認めるのであれば、この時点までに、弁護人を通して、被害者であるあなたと示談を成立させることができなければ、起訴を回避することが非常に困難になります(前述のとおり、準強制性交罪は、旧強姦罪と異なり、非親告罪とされていますが、検察実務上、示談の成立によって不起訴の可能性が高まることにはなるため、加害男性としては、起訴を回避するためには示談の成立が必須となってきます。)。準強制性交罪で起訴された場合、たとえ初犯であっても実刑となることが殆どであり(準強制性交罪の法定刑は5年以上の有期懲役ですから、3年以下の懲役という執行猶予の要件を、特別に減刑が認められない以上は満たさないことになります)、起訴後に示談が成立した場合、執行猶予付き判決となる可能性が高まるものの、加害男性は医師とのことであり、有罪判決を受けた以上、その後の医道審議会で医師免許取消の行政処分を受ける可能性が高く(医師法7条2項3号、4条3号)、医師生命が断たれることになる見込みが大きい状況下に置かれることになります(なお、旧刑法下の強姦罪ないし準強姦罪の事案で、医師免許取消を回避できた例は、筆者が把握している限り不見当です。)。

したがって、加害男性としては、弁護人を通じて、何としてでも最大20日間の勾留期間中に示談を成立させたいという、非常に強力なインセンティブが働くことになります。

他方、加害男性が刑事手続においても、性交の事実を否認し、あるいはあなたの同意を主張するなどして無実を主張してくる可能性も考えられます。人間は、自己の刑事責任を追及される場面で、かつ、それが重大なものであるなど、真に追い込まれた状況に置かれると、嘘をつき、責任逃れを図ろうとするものです。実際、被疑者や被告人が、明らかに不自然、不合理な弁解を行い、責任逃れを図っているように見えるケースは、非常に多く目にします。その場合、検察官としては、その他の証拠関係から、加害男性を確実に有罪にできると判断すれば起訴し、そうでなければ嫌疑不十分で不起訴の処分をすることになります。ここで、嫌疑不十分で不起訴となる事態を回避するとともに、加害男性に無実主張が通らないことを理解させるためには、捜査機関でのあなたの供述の内容が非常に重要となってきます。

民事訴訟において、請求権を主張する当事者の立場で詳細な事実主張をしても、認定してもらうことが容易ではないという点は前述したとおりです。しかし、刑事手続(刑事裁判)においては、被害者は、訴訟追行の主体(検察官)ではなく、犯罪事実立証のための証言者、証人としての立場にあり、その証言の信用性は一般的に高いとされています。被告人が、被害者の供述調書や、証人として証言した被害者の証言と異なる主張をしても、被害者供述が信用できること、信頼できる被害者供述に反する被告人供述が信用できないことを理由に、被告人の主張が排斥されるケースが極めて多いのはこのためです。

ただし、加害男性の有罪を支える証拠の中心は、被害者であるあなたの供述となることから、その信用性に疑義が生じさせることのないよう、事前に信用性判断のポイントを把握し、これに沿って事実関係を十分に整理した上で取調べに臨まれることが望ましいといえます。この点については後述します。

4 具体的対応について

以上述べてきたとおり、本件で加害男性から最大限の賠償を受けるためには、捜査機関に、加害男性を準強制性交の被疑者として刑事手続を進めてもらい、その中で虚偽の弁解が通用しないこと、被害者であるあなたとの示談が成立しなければ起訴、さらには実刑や医師免許取消等の事態を避けられないことを加害男性に十分理解させることで、加害男性に示談(被害弁償)申入れの強いインセンティブを与え、加害男性の側から、本件による被害の実態に沿った適正な賠償額の提示をさせることが望ましいと考えられます。具体的には準強制性交罪として被害届け出書の提出、告訴をすることになります。かかる手順で交渉を進めることが、あなたにとって最も有利な条件での賠償を受け、かつ、早期解決に資することにもなるでしょう。

そして、かかる流れを確実なものとするためには、伺ったご事情の裏付けとなるような物的証拠など客観的証拠を捜査機関に提出できる形で保全しておくことが重要であることはもちろん、犯罪事実の立証の中心となるあなたの捜査機関での供述の信用性が鍵となってきます。被害者供述が、一般的に高い信用性が認められていることは前述したとおりですが、その信用性判断は、主として、(1)客観的証拠との整合、(2)供述内容の具体性、迫真性、合理性、(3)供述内容の変遷の有無(変遷がある場合、変遷理由の合理性)、(4)虚偽供述の動機の有無等の判例上確立した判断基準に従って判断されることになります。そして、これらの点であなたの供述の信用性に疑義が生じるような事態を避けるためには、捜査機関への被害申告や取調べに先立って、あるいはそれらと並行して、弁護士に相談し、十分な打合せを行い、詳細な事実関係の下で、いかなる事実が上記信用性判断の基準との関係でいかなる意味を持つものなのか、よく理解した上で供述されることが望ましいといえます。

特に、本件では、強制性交の事実の立証のためには被害状況に関するあなたの供述が一定の具体性、迫真性を有していることが重要である一方、酩酊状態に乗じて性被害を受けたという事案の特性上、具体性、迫真性を持たせようと事実を意図的に誇張した供述等をしようとすると、かえって供述内容が不自然なものと判断されてしまう可能性も考えられます。全体として信用性の高い供述を維持するためには、そのポイントを熟知し、かつ事実関係に沿って適正な評価をなし得る弁護士に相談しながら、被害申告や取調べ対応等を進めて行くのが望ましいといえるでしょう。

本件が刑事事件として立件され、加害男性が逮捕、勾留された場合、加害男性の弁護人を通じて示談申入れの連絡が来る可能性が非常に高いでしょう。賠償の具体的内容に関する交渉対応を含め、弁護士に相談しながら進めていくことをお勧めいたします。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文
民法

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

刑法

(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

刑事訴訟法

第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○4 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。

第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。

第二百四十七条 公訴は、検察官がこれを行う。

第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

刑事訴訟規則

(明らかに逮捕の必要がない場合)
第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

医師法

第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
三 罰金以上の刑に処せられた者

第七条
2 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し

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