都市再開発法
(審査委員)
43条 組合に、この法律及び定款で定める権限を行なわせるため、審査委員三人以上を置く。
2 審査委員は、土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者のうちから総会で選任する。
3 前二項に規定するもののほか、審査委員に関し必要な事項は、政令で定める。(市街地再開発審査会)
57条 地方公共団体が施行する市街地再開発事業ごとに、この法律及び施行規程で定める権限を行なわせるため、その地方公共団体に、市街地再開発審査会を置く。
2 施行地区を工区に分けたときは、市街地再開発審査会は、工区ごとに置くことができる。
3 市街地再開発審査会は、五人から二十人までの範囲内において、施行規程で定める数の委員をもつて組織する。
4 市街地再開発審査会の委員は、次の各号に掲げる者のうちから、地方公共団体の長が任命する。
一 土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者
二 施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者
5 前項第一号に掲げる者のうちから任命される委員の数は、三人以上でなければならない。
(権利変換を希望しない旨の申出等)
71条 個人施行者若しくは再開発会社の施行の認可の公告、第十九条第一項の公告又は事業計画の決定若しくは認可の公告があつたときは、施行地区内の宅地の所有者、その宅地について借地権を有する者又は施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者は、その公告があつた日から起算して三十日以内に、施行者に対し、第八十七条又は第八十八条第一項及び第二項の規定による権利の変換を希望せず、自己の有する宅地、借地権若しくは建築物に代えて金銭の給付を希望し、又は自己の有する建築物を他に移転すべき旨を申し出ることができる。
2 前項の宅地、借地権若しくは建築物について仮登記上の権利、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記若しくは処分の制限の登記があるとき、又は同項の未登記の借地権の存否若しくは帰属について争いがあるときは、それらの権利者又は争いの相手方の同意を得なければ、同項の規定による金銭の給付の希望を申し出ることができない。
3 施行地区内の建築物について借家権を有する者(その者がさらに借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)は、第一項の期間内に施行者に対し、第八十八条第五項の規定による借家権の取得を希望しない旨を申し出ることができる。
4 施行者が第十一条第一項の規定により設立された組合である場合においては、最初の役員が選挙され、又は選任されるまでの間は、第一項又は前項の規定による申出は、第十一条第一項の規定による認可を受けた者が受理するものとする。
5 第一項の期間経過後六月以内に第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(個人施行者が施行する第一種市街地再開発事業にあつては、次条第一項後段の規定による権利変換計画の認可。以下この項において同じ。)がされないときは、当該六月の期間経過後三十日以内に、第一項若しくは第三項の規定による申出を撤回し、又は新たに第一項若しくは第三項の規定による申出をすることができる。その三十日の期間経過後更に六月を経過しても第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始がされないときも、同様とする。
6 事業計画を変更して従前の施行地区外の土地を新たに施行地区に編入した場合においては、前項前段中「第一項の期間経過後六月以内に第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(個人施行者が施行する第一種市街地再開発事業にあつては、次条第一項後段の規定による権利変換計画の認可。以下この項において同じ。)がされないときは、当該六月の期間経過後」とあるのは、「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告又はその変更の認可の公告があつたときは、その公告があつた日から起算して」とする。
7 第一項、第三項又は前二項の申出又は申出の撤回は、国土交通省令で定めるところにより、書面でしなければならない。
(施設建築物の一部等)
77条 権利変換計画においては、第七十一条第一項の申出をした者を除き、施行地区内に借地権を有する者及び施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。
2 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。
3 宅地の所有者である者に対しては、その者に与えられる施設建築敷地に第八十八条第一項の規定により地上権が設定されることによる損失の補償として施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。
4 権利変換計画においては、第一項又は前項の規定により与えられるように定められる施設建築物の一部等以外の部分は、施行者に帰属するように定めなければならない。
5 権利変換計画においては、第七十一条第三項の申出をした者を除き、施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者(その者がさらに借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)に対しては、第一項の規定により当該建築物の所有者に与えられることとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。ただし、当該建築物の所有者が第七十一条第一項の申出をしたときは、前項の規定により施行者に帰属することとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。
88条 施設建築物の敷地となるべき土地には、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、施設建築物の所有を目的とする地上権が設定されたものとみなす。ただし、権利変換期日以後第百条の公告の日までの間は、権利変換計画の定めるところに従い、施行者がその地代の概算額を支払うものとする。
2 施設建築物の一部は、権利変換計画において、これとあわせて与えられることと定められていた地上権の共有持分を有する者が取得する。
3 第七十三条第四項の規定により借地権が存するものとして権利変換計画が定められたときは、当該借地権を有するものとされた者が取得した施設建築物の一部等は、その取得の際、その者から当該借地権の設定者とされた者に対し、当該借地権の存しないことの確定を停止条件として移転したものとみなす。
4 建物の区分所有等に関する法律第一条に規定する建物の部分若しくは附属の建物で権利変換計画において施設建築物の共用部分と定められたものがあるとき、権利変換計画において定められた施設建築物の共用部分の共有持分が同法第十一条第一項若しくは第十四条第一項から第三項までの規定に適合しないとき、又は権利変換計画において定められた施設建築物の所有を目的とする地上権の共有持分の割合が同法第二十二条第二項本文(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定に適合しないときは、権利変換計画中その定めをした部分は、それぞれ同法第四条第二項、第十一条第二項若しくは第十四条第四項又は第二十二条第二項ただし書(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定による規約とみなす。
5 施行地区内の建築物について借家権を有していた者(その者がさらに借家権を設定していたときは、その借家権の設定を受けた者)は、権利変換計画の定めるところに従い、施設建築物の一部について借家権を取得する。
6 第一項の規定による地上権の設定については、地方自治法第二百三十八条の四第一項及び国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)第十八条第一項の規定は、適用しない。
(建築工事の完了の公告等)
100条 施行者は、施設建築物の建築工事が完了したときは、速やかに、その旨を、公告するとともに、第八十八条第二項又は第五項の規定により施設建築物に関し権利を取得する者に通知しなければならない。
(借家条件の協議及び裁定)
102条 権利変換計画において施設建築物の一部等が与えられるように定められた者と当該施設建築物の一部について第七十七条第五項本文の規定により借家権が与えられるように定められた者は、家賃その他の借家条件について協議しなければならない。
2 第百条の公告の日までに前項の規定による協議が成立しないときは、施行者は、当事者の一方又は双方の申立てにより、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て、次の各号に掲げる事項について裁定することができる。この場合においては、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
一 賃借りの目的
二 家賃の額、支払期日及び支払方法
三 敷金又は借家権の設定の対価を支払うべきときは、その額
3 施行者は、前項の規定による裁定をするときは、賃惜りの目的については賃借部分の構造及び賃借人の職業を、家賃の額については賃貸人の受けるべき適正な利潤を、その他の事項についてはその地方における一般の慣行を考慮して定めなければならない。
4 第二項の規定による裁定があつたときは、裁定の定めるところにより、当事者間に協議が成立したものとみなす。
5 第二項の裁定に関し必要な手続に関する事項は、国土交通省令で定める。
6 第二項の裁定に不服がある者は、その裁定があつた日から六十日以内に、訴えをもつてその変更を請求することができる。
7 前項の訴えにおいては、当事者の他の一方を被告としなければならない。
(施設建築物の一部等の価額等の確定)
103条 施行者は、第一種市街地再開発事業の工事が完了したときは、すみやかに、当該事業に要した費用の額を確定するとともに、政令で定めるところにより、その確定した額及び第八十条第一項に規定する三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として、施設建築敷地、その共有持分若しくは施設建築物の一部等を取得した者又は施行者の所有する施設建築物の一部について第七十七条第五項ただし書の規定により借家権が与えられるように定められ、第八十八条第九項の規定により借家権を取得した者ごとに、施設建築敷地、その共有持分若しくは施設建築物の一部等の価額、施設建築敷地の地代の額又は施行者が賃貸しする施設建築物の一部の家賃の額を確定し、これらの者にその確定した額を通知しなければならない。
2 前項の規定により確定した地代の額は、当事者間に別段の合意がない限り、施設建築敷地について当事者の合意により定められた地代の額とみなす。ただし、その額に不服がある者は、前項の通知を受けた日から六十日以内に、訴えをもつてその増減を請求することができる。
3 前項ただし書の訴えにおいては、当事者の他の一方を被告としなければならない。
都市再開発法施行規則
(標準家賃の額の確定の補正方法)
36条 令第四十一条第二項の標準家賃の額の補正は、令第三十条の規定の例により定めた標準家賃の月額から、施設建築物の一部について借家権を与えられることとなる者が施行地区内の建築物について有していた借家権の価額を当該借家権の残存期間、近隣の同類型の借家の取引慣行等を総合的に比較考量して施行者が定める期間で毎月均等に償却するものとして算定した償却額を控除して行なうものとする。
都市再開発法施行令
(施設建築物の一部の標準家賃の概算額)
30条 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額は、当該施設建築物の一部の整備に要する費用の償却額に修繕費、管理事務費、地代に相当する額、損害保険料、貸倒れ及び空家による損失をうめるための引当金並びに公課(国有資産等所在市町村交付金を含む。)を加えたものとする。
2 前項の施設建築物の一部の整備に要する費用は、付録第二の式によつて算出するものとする。
3 第一項の償却額を算出する場合における償却方法並びに同項の修繕費、管理事務費、地代に相当する額、損害保険料及び引当金の算出方法は、国土交通省令で定める。
(施設建築物の一部等の価額等の確定)
41条 法第百三条第一項の規定による施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等若しくは個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権の価額又は施設建築敷地の地代の額の確定は、第二十八条から第二十九条までの規定の例により行わなければならない。
2 法第百三条第一項の規定による施設建築物の一部の家賃の額は、第三十条の規定の例により定めた標準家賃の額に、国土交通省令で定めるところにより、当該施設建築物の一部について借家権を与えられることとなる者が施行地区内の建築物について有していた借家権の価額を考慮して、必要な補正を行なつて確定しなければならない。
【参照判例】
東京地判平成27年9月30日判決
「第3 当裁判所の判断
1(1)前記前提となる事実によれば,被告は,原告が代表者を務めるVとの間で,その所有に係る本件建物2を賃借する旨の本件賃貸借契約を締結していたところ,Vが都市再開発法に基づく権利変換手続により本件再開発ビルの住居部分を取得することになったことから,本件賃貸借契約を変更した上で,これに基づき,本件再開発事業により原告が取得することとなる本件建物1を原告から賃借することとしたものであり,また,本件建物2の敷地については,原告がこれを所有し,Vとの間でこれについて賃貸借契約が締結されていなかったというのである。これらの事情に照らせば,平成25年3月1日時点における本件建物1の適正賃料については,同一の契約当事者間において本件賃貸借契約の契約条件が変更されることに伴って賃料を改定する場合の継続賃料を,不動産鑑定評価基準所定の方法を用いて算定するのが相当である。
(2)被告は,都市再開発法に基づく権利変換後の賃料を定めるに当たっては,賃貸人が施行者であるか否かにかかわらず,同法103条1項所定の算定方法を用いるべきであって,不動産鑑定評価基準所定の算定方法を用いるべきではない旨を主張する。
しかし,都市再開発法73条1項10号は,権利変換計画において,国土交通省令で定めるところにより,「施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額」を定めなければならない旨を定め,同法施行令30条は,その標準家賃の概算額の算出方法として,「当該施設建築物の一部の整備に要する費用の償却額に修繕費,管理事務費,地代に相当する額,損害保険料,貸倒れ及び空家による損失をうめるための引当金並びに公課(国有資産等所在市町村交付金を含む。)を加えたものとする」と定めている。そして,同法施行令41条2項は,同法103条1項により施行者が賃貸しする施設建築物の一部の家賃の額について,上記標準家賃の額に必要な補正を行って確定するものとする。これに対し,同法102条2項は,当事者間に家賃その他の借家条件について協議が成立しない場合,施行者はこれを裁定することができる旨を定め,同条3項は,この裁定をするときは,賃借部分の構造及び賃借人の職業,賃貸人の受けるべき適正な利潤並びに一般の慣行を考慮しなければならない旨を定めているものの,そのほかに算出方法を規定していない。そして,同条6項は,裁定に不服がある者は,訴えをもってその変更を請求することができる旨を定めるが,その訴えにおいて裁判所が適正な賃料を定めるに際して則るべき算出方法を規定していない。
このように,都市再開発法は,施設建築物の一部を賃貸する際の賃料額の定め方について,施行者が賃貸する場合とそうでない者が賃貸する場合とを明確に区別しているが,これは,前者の場合には,施行者が施設建築物の一部を複数の賃借人に対して賃貸することが想定され得ることから,特に賃借人間の公平を期すために,あらかじめ一定の基準となる賃料額を定め,これに基づいて画一的に賃料を算定することが要請されるのに対し,後者の場合には,基本的には,賃料額が賃貸人と賃借人との間の需給関係等を前提とした個別の合意によって定められるべきものであることによるものと解される。そうすると,施行者でない者が施設建築物の一部を賃貸する場合において,同法103条1項所定の算定方法を用いて賃料を定めることは,その趣旨に照らし,相当ではないといわざるを得ない。
したがって,同法に基づく権利変換後の賃料を定めるに当たり,賃貸人が施行者であるか否かにかかわらず,同法103条1項所定の方法を用いるべきである旨の被告の主張は,採用することができない。
2(1)前記前提となる事実,証拠(甲1~4,9,鑑定人P5による鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,平成25年3月1日時点における本件建物1の適正賃料は,月額179万2000円であるというべきである。
(2)鑑定人P5による鑑定(以下「本件鑑定」という。)は,平成25年3月1日時点の継続賃料について,不動産鑑定評価基準による継続賃料を求めるものとし,以下のとおり,差額配分法によると月額181万3100円,利回り法によると月額185万7100円,スライド法によると月額159万1500円になると試算した上,差額配分法及び利回り法による各試算賃料を関連付け,スライド法による試算賃料を斟酌して,月額実質賃料を180万0300円と算定し,敷金の運用利回りを考慮した月額支払賃料を179万2000円と算出したものである。
ア 差額配分法による試算
差額配分法の適用に当たっては,正常実質賃料(新規賃料)を算出する必要がある。そして,本件再開発ビルにおける平成25年3月1日時点の再調達原価を合計313億円と査定し,これに複合不動産に係る付帯費用93億9000万円を加算し(406億9000万円となる。),本件建物1の配分率を0.993%とみると,平成25年3月1日時点の積算価格(基礎価格)は4億0400万円となる。そして,月額支払賃料をXとおき,減価償却費,修繕費,維持管理費,公租公課等,損害保険料及び空室等による損失相当額等を考慮して必要諸経費等を査定すると,737万7932円+0.59X円となり,期待利回りを年利5.2%とすると,積算賃料は,248万2900円となる。その上で,本件建物1の特性,本件建物1が属する地域の特性等を考慮すると,上記積算賃料をもって本件建物1の正常実質賃料(月額新規賃料)とするのが相当である。
他方,実際の月額賃料は113万5000円であり,敷金が500万円であるから,敷金の運用利回りを年利2%とみると,実際の月額実質賃料は,114万3300円となる。
上記の正常実質賃料248万2900円と実際の月額実質賃料114万3300円の差額である133万9600円について,配分率を50%とみると,差額配分法による試算賃料は,月額181万3100円となる。
イ 利回り法による試算
平成13年1月1日時点の本件再開発ビルの積算価格(基礎価格)は,3億0200万円である。そして,同日時点の減価償却費,修繕費,維持管理費,テナント募集費用,公租公課等,損害保険料及び空室等による損失相当額等を考慮して必要諸経費等を算出すると,472万4181円となり,同日時点の実際実質賃料(年額)1372万円から上記必要諸経費等を控除すると,純賃料は899万5819円となり,基礎価格に対する純賃料の割合は,2.98%となる。すると,上記純賃料の割合と期待利回り5.2%(年利)の差は,2.22%となるが,平成13年1月1日から平成25年3月1日までの基礎価格の変動が大きく,類似不動産の賃貸借等の事例における利回り水準と比較すると低位にあることを考慮して,利回りの差の配分割合を20%と査定し,継続賃料の利回りを3.42%と補正する。その上で,必要諸経費等,敷金の運用益等を考慮して利回り法による試算賃料を算出すると,月額185万7100円となる。
ウ スライド法による試算
平成13年1月1日時点の純賃料は,899万5819円であり,消費者物価指数,国内企業物価指数,GDP,全産業活動指数,店舗賃料,武蔵小杉駅の乗降人員及び基礎価格といった各種指数を考慮して変動率を算出すると19.9%となるから,平成25年3月1日時点の純賃料は,1078万5987円と算出される。そして,必要諸経費等,敷金の運用益等を考慮してスライド法による試算賃料を算出すると,月額159万1500円となる。
エ 各試算賃料の調整
各方法により得られる試算賃料を再検討すると,差額配分法による賃料の算出の際は,資料収集の限界から賃貸事例比較法の適用を見合わせたものの,積算法を適用した上,豊富な市場データ等に基づき対象不動産の個別性と価格時点の市場性を適切に反映させており,差額配分法による得られる試算賃料は,客観的説得力を有している。
また,利回り法による賃料の算出は,最終合意時点における利回りを参考として最終合意時点から価格時点までの期間における基礎価格の変動の程度等を総合的に比較考量したほか,最終合意時点における純賃料割合を標準としつつ,当該割合と価格時点における期待利回りの格差の一部を配分して査定しており,最終合意時点までの契約締結の経緯及び賃料改定の経緯等の実質的内容が反映された利回り法による試算賃料には妥当性が認められる。
そして,スライド法による試算賃料は,武蔵小杉駅周辺において多くの再開発事業が施行され,全国的な指標と異なる傾向があることから,同駅の乗降人員を指標の一つとして使用しているが,その他の指数については,資料収集の限界から全国的な指数を使用するにとどまっており,同駅周辺における経済情勢等の変化を反映させるにはやや不十分な面も残る。
こうしたことから,差額配分法及び利回り法による各試算賃料を関連付け,スライド法による試算賃料を斟酌すると,月額実質賃料は180万0300円と算定され,敷金の運用利回りを考慮した月額支払賃料は,179万2000円と算出される。
(3)被告は,本件鑑定が,平成25年3月1日時点の本件建物1の基礎価格について,実額に基づかずに再調達価格を見積もり,その価額を基準として4億0400万円と算定しているから,これをもとに本件建物1の賃料を算出した本件鑑定は,合理性を欠く旨を主張する。
しかしながら,本件鑑定は,本件再開発ビルの敷地と同一需給圏内の代替競争不動産に係る類似性のある事例について,近隣の公示ポイント等の変動率等による時点修正,地域要因(街路条件,交通接近条件,環境条件,行政的条件等)による修正,個別的要因による修正を施して算出した価格に基づき,本件再開発ビルの敷地の比準価格を150万円/平方メートルと査定し,これをもってその更地価格と算定したものである。また,本件再開発ビルの建物については,その実際工事費から建築工事費を求め,これに一般財団法人建設物価調査会総合研究所「JBCI」に基づく再調達原価,建物鑑定評価実務研究会「建物の鑑定評価必携」における類似不動産の再調達原価,a等の類似不動産の再調達原価等を参酌して,本件再開発ビルの建物工事費を29万円/平方メートルと査定し,これに5%の設計監理料率を加算して,その再調達原価を30万5000円/平方メートルと算定したものである。そして,平成25年3月1日時点の本件再開発ビル全体(敷地及び建物)の再調達原価を313億円と算定し,30%の複合不動産に係る付帯費用93億9000万円を加算して,本件再開発ビル全体(敷地及び建物)の積算価格を406億9000万円と算定した。その上で,専有面積を基準に階層別効用比率,位置別効用比率を用いて算出した本件建物1に係る配分率0.993%を乗じて,平成25年3月1日時点の本件建物1の積算価格(基礎価格)を4億0400万円と算定したものである。
これらの算定経過に照らせば,その算定が実額に基づかない不合理なものであるということはできず,被告の上記主張は,採用することができない。
(4)また,被告は,本件鑑定において本件建物1の賃料を算出した基礎となる各数値を用いて,本件再開発ビルの共同住宅部分について現実の募集事例や成約実例と同水準の賃料額を算定する場合の期待利回りを逆算すると,本件建物1の賃料を算出する際に査定した期待利回りである5.2%を大きく下回る2.3%となるが,かかる結果は不合理であり,このことからも,本件鑑定を本件建物1の賃料を認定する上で用いるべきではない旨を主張する。
しかし,本件再開発ビルは新築物件であり,新築の共同住宅は分譲価格に比して賃料水準が低位にとどまることが多いために,期待利回りも低位な水準となることも多いほか,本件鑑定は,商業施設となる本件建物1の賃料を評価したものであって,共同住宅部分の賃料を評価したものではない。また,共同住宅部分の賃料を評価する場合には,それに沿う価格形成要因の分析が必要となり,その中で期待利回りを査定するものであり,被告が主張する数例の募集事例等からの逆算により共同住宅部分の期待利回りを算出しても,直ちに商業施設となる本件建物1の賃料の評価が不合理であるということが導かれるものではない。
したがって,この点に関する被告の主張も,採用することができない。
(5)本件鑑定における本件建物1の賃料の算定過程に格別不合理なところは見当たらず,他に本件鑑定の信用性を覆すに足りる事情は認められない。
3 以上によれば,原告の請求は,本件建物1の賃料が平成25年3月1日以降月額179万2000円であることを確認する限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。」