専属マネジメント契約を中途解約できるか

民事|専属マネジメント契約の法的性質および労働基準法の適用の有無|東京地判平成28年3月31日判タ1438号164頁他

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照判例

質問

私はとある芸能プロダクションX社に所属するタレントです。X社との間で,3年間の自動更新条項付き専属マネジメント契約を締結し,1年間芸能活動を行ってきましたが,X社に対する信頼が薄れてしまい,他のプロダクションに移籍したいと考えています。

そのことを先日X社の人事担当者に伝えたところ,あなたとの契約は専属芸術家契約であって,労働基準法の適用を受ける労働契約ではないのだから,少なくとも契約期間満了までは在籍してもらう必要があること,仮に契約期間満了前に契約を一方的に解約するのであれば,損害賠償請求を行わざるを得ないことを告げられました。

私はあと2年間X社に在籍し続ける他ないのでしょうか。

回答

1 あなたと芸能プロダクションとの専属マネジメント契約が、労働契約(労働基準法13条)なのか否かをまず検討する必要があります。

労働基準法の適用される労働契約であれば,3年間という契約期間であってもいつでも退職することができます。但し1年間についてはやむを得ない事情がないと退職により使用者、会社に損害が生じるとその賠償が問題となる可能性があります(労働基準法附則137条)。

労働契約に該当しない場合は,個別具体的な事情のもとで信頼関係の破壊を理由とする解約が可能かどうか,が問題となります。

2 芸能プロダクションとタレントとの契約は、タレントが労務の提供をする契約ですが、労働契約なのかそれ以外の契約に該当するかどうかは,仕事の依頼に対する諾否の自由の有無,業務遂行過程における指揮命令服従性の有無,労務提供の代替性の有無,報酬の性格(賃金か出来高か),事業者性の有無等によって判断されます。

裁判例をみると,多くの事案で専属マネジメント契約が労働契約であると判断されておりますが,中には労働契約ではないとした裁判例もあり,専属マネジメント契約が必ず労働契約に該当するというわけではないことには留意が必要です。

3 あなたが、プロダクションへの信頼を失い移籍したいということであれば,労働基準法の適用を受ける労働契約である旨主張し,弁護士を通じた交渉を検討しても良いでしょう。

仮に労働契約ではないとしても信頼関係が失われ、これ以上仕事を続けることができないと認められる場合は将来的に契約を解除することも可能です。

交渉で解決に至らない場合,相手プロダクションが雇用契約であることを認めるのであれば労働審判による解決も考えられますが,雇用契約ではないと主張する場合は訴訟を検討することになります。

解説

第1 労務提供契約と中途解約の可否

1 労務提供契約の種類

労務を提供するのと引き換えに対価としての報酬を与えることを約する労務提供契約には種々の形態がありますが,民法は典型契約として,雇用契約(民法623条),請負契約(民法632条),有償の委任契約(648条1項,643条)を定めております。その他,契約自由の原則から,これらの契約類型にとらわれない非典型契約も存在し得るところです。

2 中途解約に関する民法上の規定

労務提供者側から契約を解除(解約)する場合の規律について,民法の規定を整理すると以下のようになります。

(1) 雇用契約

期間の定めのない雇用契約(いわゆる正社員)は,いつでも解約の申入れが可能で,解約申入れの日から2週間を経過することによって雇用契約が終了するものとされています(民法627条1項)。

期間の定めのある雇用契約は,雇用期間が5年を超える時は5年経過後いつでも解除可能で(民法626条1項),その他の場合でも,やむを得ない事由がある時は直ちに契約の解除が可能(ただし,当該事由が当事者の一方の過失による時は損害賠償責任を負う)とされています(民法628条)。

(2) 請負契約

仕事の完成を目的とする以上,仕事の完成前に請負人が契約を一方的に解除するという事態は基本的に想定されず,仮にそのような自体になった場合は担保責任や債務不履行の問題となります。

(3) 委任契約(準委任契約)

委任契約はいつでも解除可能ですが(民法651条1項),当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは,やむを得ない事由がない限り,相手方の損害を賠償しなければなりません(同条2項)。

これらの中で、純粋に労務を提供して対価を得るという契約は雇用契約になります。請負も委任も労務は提供しますが、本質は仕事の完成でありいくら労務を提供しても仕事が完成しなければ対価は得られません。雇用契約であれば、労務の提供具体的には指示された仕事に従事していれば対価である給料は発生します。

3 労働基準法による修正

民法による規律は上記のとおりですが,あくまでも独立した対等な当事者間の合意を前提とした規律ということができます。

一方で,労務提供契約のうち特に雇用契約は,労働力を提供して給料を得て生活するしかない労働者と交渉力に歴然たる格差のある企業との間で締結されるために,労働者にとって劣悪な条件をもたらしがちであるという懸念から,企業と労働者の関係を規律し労働者の地位を保護するべく,労働基準法が定められております。民法上の雇用契約とは別に「労働契約」という契約概念が用いられ(労働基準法13条),労働者の地位を強化する様々な規定が設けられております。

労働契約とは,当事者の一方(労働者)が相手方(使用者)に使用されて労働し,相手方がこれに対して賃金を支払うことを合意する契約です(労働基準法9条)。

民法が定める雇用契約,請負契約,有償委任契約,あるいはその他の非典型契約が労働契約に該当するか否かは,仕事の依頼に対する諾否の自由の有無,業務遂行過程における指揮命令服従性の有無,労務提供の代替性の有無,報酬の性格(賃金か出来高か),事業者性の有無等によって判断されます。ただし,雇用契約に関しては,裁判実務上,労働契約という言葉と必ずしも区別して用いられてはおらず,実際上はほとんど同義と考えて良いでしょう。

労働基準法の関連規定に焦点を当てると,期間の定めのある労働契約において,労働者側から契約期間満了前に退職する場合の規律に関して,民法628条の規定の例外が設けられております。

民法では、期間の定めがあってもやむを得ない事情があればいつでも退職でき、過失がない限りは会社に損害が生じても賠償責任はないとされていますが、労働基準法では具体的には,期間の定めのある労働契約の契約期間を最大3年間とする(労働基準法14条1項)一方で,期間の定めのある労働契約を締結した労働者は,民法628条の規定にかかわらず,当該労働契約の期間の初日から1年を経過した後は損害賠償等の責任は一切負わないことになっています(労働基準法附則137条。ただし,労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間の暫定的規定。)。

4 中途解約の可否に関する判断枠組み

以上をまとめると,労務提供契約の中途解約の可否の判断方法は次のとおり考えることができます。

まず,問題となっている労務提供契約が労働基準法の適用を受ける労働契約(雇用契約)に該当するか否かを検討します。その上で,労働契約に該当するのであれば,やむを得ない事情を理由にいつでも解約でき,期間の定めのある契約であってもは1年経過後は、会社に対する損害賠償の責任は一切なくにいつでも退職できることになります。

労働契約には該当しないと判断される場合は,個別具体的に検討する他ありません。たとえば,当事者間の信頼関係が極めて重要な意味を有する契約であることを前提に,契約の合理的意思解釈として,一方に信頼関係を破壊する行為があった場合は契約を解約できる場合があることを認めた裁判例があります(後述の参考裁判例③)。

第2 専属マネジメント契約の法的性質と中途解約の可否

1 専属マネジメント契約の法的性質

芸能活動を行う者とそのプロデュース業務等を行う芸能プロダクションとの間で取り交わされる契約は,多くの場合「専属マネジメント契約」「専属芸術家契約」等の表題が用いられ,更新を前提に数年単位の契約期間を定めることが多いようです。

芸能活動は個人の才覚において行われるという性質を有し,指揮命令になじまないという側面があることや,その報酬が芸能活動の結果に応じて左右されがちであるといった特質から,労働契約に該当するのかどうかということがよく問題とされます。

前述のとおり,期間の定めのある労働契約に該当すると判断される場合,契約締結後1年経過していれば自由に退職できる一方で,労働契約に該当しないと判断される場合は,そう簡単にはいかないことになります。これが,労働契約該当性が問題とされる大きな理由といえます。

2 裁判例の状況

(1) 「専属マネジメント契約」「専属芸術家契約」といった芸能プロダクションとの間の契約について,期間満了前に退職することの可否が問題となった裁判例の多くでは,契約が労働契約と認定され,契約期間満了前の退職が認められています。

たとえば参考裁判例①(東京地判平成28年3月31日判タ1438号 164頁)では,「被告は原告を通じてのみ芸能活動をすることができ,その活動は原告の指示命令の下に行うものであって,芸能活動に基づく権利や対価は全て原告に帰属する旨の本件契約の内容や,実際に被告が原告の指示命令の下において,時間的にも一定の拘束を受けながら,歌唱,演奏の労務を提供していたことに照らせば,本件契約は,被告が原告に対して音楽活動という労務を供給し,原告から対価を得たものであり,労働契約に当たるというべきである。」として労働契約と認定しました。

また,参考裁判例②(東京地判平成28年7月7日労判1148号69頁)では,「被告Bは,原告の指揮監督の下,時間的場所的拘束を受けつつ,業務内容について諾否の自由のないまま,定められた労務を提供しており,また,その労務に対する対償として給与の支払を受けているものと認めるのが相当である。したがって,本件契約に基づく被告Bの原告に対する地位は,労働基準法及び労働契約法上の労働者であるというべきである。」としてやはり労働契約と認定しました。

これらの裁判例は,仕事の依頼に対する諾否の自由が事実上なく,業務の内容や遂行の仕方についてプロダクション側から事実上指揮命令を受けるという実態が重視されたものと考えることができます。

(2) しかし他方で,労働基準法の適用を受ける労働契約とはいえないとした裁判例もあり(参考裁判例③:東京地判平成28年9月2日判時2355号19頁),芸能プロダクションとの間の契約が必ず労働契約に該当するというわけではありません。

参考裁判例③は,「このような被告のタレントとしての芸能活動の一切を原告に専属させる内容のタレント所属契約は,雇用,準委任又は請負などと類似する側面を有するものの,そのいずれとも異なる非典型契約の一種というべきである。」「原告と被告の間の契約は,雇用契約そのものではないから,期間の定めのある労働契約に関する同条をそのまま適用することはできないというべきである。」として,労働基準法の適用を認めませんでした。

プロダクションが指定したテレビ番組等への出演や広告宣伝活動を行わなければならず,かつ,他社を通じての芸能活動は禁じられ,報酬はプロダクション側が一方的に決定し,さらに,出演によって制作されたものについての著作権等はすべてプロダクションに帰属することになっていたことからすると,仕事の依頼に対する諾否の自由はなく,プロダクションから指揮命令を受ける関係にあったと言えそうですが,雇用契約そのものではないという理由で労働基準法の適用が否定されています。参考裁判例①や②との相違がどこにあるのか,と問われるとなかなか難しいところです。

雇用契約そのものではない非典型契約だから,労働基準法の適用はない,というのは少し乱暴な認定のような気もしますが,芸能関係の仕事を始めるにあたって契約を締結する際は,実際にそのような裁判例も存在するということを念頭に置いておく必要があるでしょう。

なお,参考裁判例③は,労働基準法の適用を否定したものの,「芸能活動は,単に使用者の指揮命令によって提供する労務と異なって,タレント自身の人格とも深く結びついた業務であり,タレントがそのような業務の一切を所属先に委ねるものである以上,原告と被告の間の契約のようなタレント専属契約においては,当事者間の信頼関係が極めて重要な意味を持つものといわなければならない。」とした上で,当事者間の契約の合理的意思解釈として,プロダクション側に信頼関係を破壊する行為があった場合は,タレント側から将来に向かって契約を解約できるとしました。労働基準法の適用がない場合でも,中途解約が一切できないというわけではないことの一例でもあり,注目すべき裁判例といえます。

(3) また,一般論として,知名度の高いタレントは,プロダクションから指揮命令を受けることなく自由に仕事を選別することが可能かもしれませんが,反対に無名(駆け出し)タレントは,プロダクションからの指揮命令を受けながら指定された仕事をこなす他ない立場であることが多いといえます。前者の場合は,労働者性を否定されやすいため,注意が必要といえるでしょう。

3 本件について

あなたとプロダクションとの間の契約が労働基準法の適用を受ける労働契約といえるかどうかについても,仕事の依頼に対する諾否の自由がないこと,業務遂行過程における指揮命令服従性が強いこと,労務提供の代替性が認められること,報酬の性格が労務提供に見合っていること,事業者性がないこと等によって総合的に労働契約と判断されることになります。労働契約に該当する場合は,既に1年経過している以上,自由に退職出来るという結論になり,そうでない場合は,信頼関係の破壊を理由とする解約の可否等,事案に即した個別具体的な検討が必要となります。

もっとも,これはあくまでも裁判にまで発展した際の裁判所の事実認定の問題ですから,結局のところは,プロダクションとの交渉如何によってすぐに退職できるかどうかが決まってくることになります。

労働契約に該当することを前提とした交渉をしてみて,解決に至らない場合は,訴訟での解決を目指すことになります。

第3 まとめ

いかなる法的根拠によるにせよ,芸能プロダクションとの契約を解消しようと考えた場合に,プロダクション側がこれを拒否してきたり,損害賠償請求を行う等の脅迫を加えてくることが少なからずあります。今後も芸能界での活動を考えるのであれば,なるべく遺恨を残さないようにしたいものですが,合意解約という形で奇麗に終わりにできるとも限りません。交渉が難航しそうであれば,代理人弁護士の選任も検討すべきでしょう。

以上

関連事例集

参照判例
① 東京地判平成28年3月31日判タ1438号164頁

『被告は原告を通じてのみ芸能活動をすることができ,その活動は原告の指示命令の下に行うものであって,芸能活動に基づく権利や対価は全て原告に帰属する旨の本件契約の内容や,実際に被告が原告の指示命令の下において,時間的にも一定の拘束を受けながら,歌唱,演奏の労務を提供していたことに照らせば,本件契約は,被告が原告に対して音楽活動という労務を供給し,原告から対価を得たものであり,労働契約に当たるというべきである。
前記第2,1(2)エ(ア)のとおり,本件契約の契約期間は2年間であり,被告が労働基準法14条1項各号に規定する労働者に当たらないことは明らかであるから,本件契約には労働基準法附則137条が適用され,労働者である被告は,当該労働契約の期間の初日である平成26年4月1日から1年を経過した日以後においては,使用者である原告に申し出ることにより,いつでも退職することができる。そうだとすると,前記1(3)のとおり,被告は,平成27年3月22日頃,原告に対し,本件契約について同月31日をもって終了させる旨の意思表示をしているから,被告は,同月31日をもって原告を退職し,本件契約は終了したというべきである。
(2)この点,原告は,各種出演業務について,事前に被告の承諾を求めており,原告が被告にイベント出演を強制したことはないと主張する。
しかしながら,被告が提供する業務が歌唱,演奏業務であることからすると,原告が被告に対して予め出演業務についての打診をすることは業務の円滑な遂行のために必要な行為であって,実際には被告が原告の依頼を断ることなく出演していたことからすると,各当事者の認識や本件契約の実際の運用においては,被告は原告の提案に応ずべき関係にあり,諾否の自由はなかったものとみるのが相当である。したがって,原告が事前に被告の承諾を求めていたことをもって労働契約としての性質が否定されるとはいえない。』

② 東京地判平成28年7月7日労判1148号69頁

1 争点(1)(被告Bの労働者性)について

(1)前記前提事実に後掲の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア 被告Bは,平成25年,原告のプロモートするアイドルグループであるaのメンバーの一員になりたいとして,そのオーディションを受け,これを通過した後,aの11期生見習いとしての活動を開始し,同年9月1日,小学校5年生(当時11歳)のときに,aの正式メンバーとして活動することを主たる目的として,被告Cら両親の承諾の下,本件契約を締結した。被告Bは,原告におけるタレント活動としては,aのメンバー以外としてのものはほとんどなく,オーディションを受けに行くことがあっただけである。
(前提事実,弁論の全趣旨)
イ 被告Bは,Dの芸名により,もっぱら学校が休みの土日祝日に,原告の企画するaのイベント等に出演し,他のメンバーと共に集団で歌唱やダンスを披露するライブ活動を行ったり,aのファンとの交流として,前記前提事実(2)のアないしエに記載のとおりの活動に従事したりしていた。なお,aのメンバーの中には,イベント出演よりファンとの交流活動等の方が多いとの不満をもつ者もあった。
(前提事実,乙69,弁論の全趣旨)
ウ 被告Bは,aのメンバーとしての活動に関し,出演先のイベント,集合する時間・場所その他,タレントとしてのスケジュールなどについて,原告のメール等による指示に基づいてその業務に従事していた。そのため,被告Bが午後8時以降に原告の業務に従事したことは,平成26年4月26日から本件申出がされた平成27年5月24日より前までの1年余の間に限っても,その数は50回を超えていた。
(前提事実,乙3~49,弁論の全趣旨)
エ 原告での活動に基づく被告Bらaのメンバーの収入については,歩合給を前提とする給与体系がとられており,イベント等における当該メンバーに係る売上げの30パーセントが給与として加算され,その他関連するグッズ等の売上げについても一定の割合で算定され加算され,1か月ごとに給与明細書に算定された給与額が記載され,その際,源泉徴収も行われていた。
(甲1~3,乙1,2,弁論の全趣旨)

(2)上記(1)の認定事実によれば,被告Bは,原告の指揮監督の下,時間的場所的拘束を受けつつ,業務内容について諾否の自由のないまま,定められた労務を提供しており,また,その労務に対する対償として給与の支払を受けているものと認めるのが相当である。したがって,本件契約に基づく被告Bの原告に対する地位は,労働基準法及び労働契約法上の労働者であるというべきである。』

③東京地判平成28年9月2日判時2355号19頁

(3)ところで,争点2(原告と被告の間の契約の解除の成否)について判断する前提として,原告と被告の間での契約,すなわち,Z4被告間契約の法的性質が問題となる。
Z4被告間契約の内容は前記第4,1(1)の認定事実のとおりであるから,これを承継した原告と被告の間の契約についても,被告は、原告の指定したテレビ番組等への出演や広告宣伝活動を行わなければならず,かつ,他社を通じての芸能活動は禁じられ,また,被告の出演によって制作されたものについての著作権等はすべて原告に帰属することになっている。
このような被告のタレントとしての芸能活動の一切を原告に専属させる内容のタレント所属契約は,雇用,準委任又は請負などと類似する側面を有するものの,そのいずれとも異なる非典型契約の一種というべきである。

3 争点2(原告被告間の契約の解除の成否)について
(1)被告は,原告と被告の間の契約が,Z4被告間契約を承継したものである場合,これが雇用契約であることを前提として,労働基準法附則137条に基づき,いつでも解除することができる旨主張する。しかし,上記2(3)のとおり,原告と被告の間の契約は,雇用契約そのものではないから,期間の定めのある労働契約に関する同条をそのまま適用することはできないというべきである。
(2)被告は,さらに,原告と被告の間の契約が雇用契約ではないとしても,正当な理由がある場合には解除が認められると主張する。
前記2(3)のとおり,原告と被告の間の契約は,契約期間中の芸能活動の一切が原告に専属し,被告が行う芸能活動のすべてが原告の指示に服するというものである。しかし,芸能活動は,単に使用者の指揮命令によって提供する労務と異なって,タレント自身の人格とも深く結びついた業務であり,タレントがそのような業務の一切を所属先に委ねるものである以上,原告と被告の間の契約のようなタレント専属契約においては,当事者間の信頼関係が極めて重要な意味を持つものといわなければならない。
そして,これを原告と被告の間の契約(Z4被告間契約と同一)についてみると,契約上明文の定めがある被告が社会的信用の失墜をきたすような行為を行った場合その他被告の行為によって契約の存続が困難になった場合の原告の契約解除権(認定事実(1)キ)だけでなく,原告が社会的信用の失墜をきたすような行為を行うなど原告と被告の信頼関係を破壊するような事由が原告にある場合の被告による契約の将来に向かっての解除権についても,原告と被告の間の契約の合理的意思解釈により認められるというべきである。
被告の主張は,このことをいうものとして採用できる。

(3)そこで,原告の行為によって原告と被告の間の信頼関係が破壊されたか否かについて判断する。なお,原告の設立から平成23年1月31日までの間,Z2は原告の役員ではないが,原告はZ2が全額出資した会社であり,Z2がその実質的経営者であったことは同人自身認めるところであるから(甲第28号証),上記判断との関係ではZ2の行為をも原告の行為と評価することとする。

(4)認定事実(4)ウのとおり,Z2は,平成21年8月25日,法人税法違反容疑で逮捕され,被告はそれから相当期間経過後に,原告への移籍(Z4から原告への契約上の地位の移転)を黙示に追認したものであるが(前記2(2)),そのころ以降,Z2は,起訴により刑事被告人となり,懲役2年6月の有罪判決を受けるに至っている。しかも,その犯罪事実たる脱税の内容は,タレントの移籍を装うなどして約11億円もの所得隠しを行い,約3億4500万円を脱税した極めて悪質なものであった。
タレントにとって,その所属先の実質的経営者が,タレントの移籍等を装うことによる巨額の脱税で有罪判決を受けるということは,タレント自身のイメージにも大きく影響する事実であるというべきであり,本件においても,原告の実質的経営者であるZ2が悪質かつ巨額な脱税事件により有罪判決を受けたという事実は,被告にとって,被告のこれまで積み重ねてきたイメージを毀損しかねないものであり,以後,原告の下で芸能活動を続けていくことについて大きな不安を与える事実であったというべきである。
したがって,平成22年3月にZ2が有罪判決を受けた事実は,原告の行為により,原告と被告の間の信頼関係を破壊する大きな事情であるといえる。
なお,被告は,Z2が有罪判決を受けた後も,原告の下で業務を遂行しているものの,原告に対する契約終了通知を出した平成22年11月26日までの間に,原告との間の信頼関係が回復したと認められる事情はなく,同日時点においても,なお原告との間の信頼関係は破壊された状態であったというべきである。』