未成年の美人局事案|児童買春と自首の問題
刑事|未成年の美人局と刑事処罰を回避する方策|児童買春法違反の刑事処分の見通し
目次
質問
私は、35歳の会社員です。先日、ツイッターで知り合った自称17歳の女子高生と、金銭の支払いを約束して、性行為をしてしまいました。
そのときはそのまま別れたのですが、後日、当該女子高生の彼氏を名乗る男から連絡があり、「俺の彼女に何している。慰謝料を支払え。さもなければ警察に言うぞ」と言われました。警察に言われたら困るので、慰謝料を支払った方が良いように思えるのですが、いくら払うべきかわかりませんし、一度払ってしまうと、このままずるずる請求されそうで怖いです。
悪いことをした自覚はありますし、いっそのこと、自分から警察に言おうかとも思いますが、刑事事件になっても今後が不安になります。私は一体どうすればよいでしょうか。
回答
女性と交際した後に女性と口裏を合わせた男性から高額な金銭を請求されるというのは、いわゆる「美人局(つつもたせ)」による不当な金銭請求であり、本来であれば請求に応じる必要はありませんし、請求している側には恐喝等の犯罪も成立し得るところです。
他方で、本件の場合、金銭支払いの約束があり、仮に本当に女性が17歳であった場合、あなたは児童買春禁止法違反として、刑事処分を受け得る立場にある、ということになります。本件が「美人局」であったことは女性側にも積極的な働きかけがあったという事情として情状考慮される可能性はあるものの、児童買春禁止法違反の罪の成立には直接関係しないため、注意が必要です。
児童買春禁止法違反は、逮捕率、公判請求率(懲役刑の求刑となる割合)も低くはない罪ですから、本来的には刑事事件化の回避を目指すべきところです。ただし、その場合であっても、「彼氏」の要求に応じることは避けるべきですし、仮に当該女性(あるいはその親権者)との示談に奏効したとしても、発覚から逮捕や刑事処分に至るリスクは残ります。
そのため、事案や前科等によりますが、本件のような事案の場合、発覚に先んじて捜査機関に本件を申告する、つまり自首することも考える必要があると思います。少なくとも、自首をすることで、準備をしないまま突然逮捕されること、「彼氏」からの不当な請求をされることを回避することは可能です。
ただし、法律上の自首を成立させるためには、要件に従った対応が必要ですし、自首した後の逮捕や公判請求の可能性を下げるためには、事前の準備も必要です。自首の時期も相手方の対応(刑事事件にすることを望まないことがあるかもしれません。)、貴方の社会生活上の立場を考慮しなければいけません。
また、本件のような児童買春(それもいわゆる援助交際からの美人局)においても、当該女性(実際はその親権者)に対する損害の補填、すなわち金銭支払いを伴う示談は必要ですがそもそも、被害者が親権者への連絡を希望しないことも考えられますし、親権者の事件に対する動向(捜査機関への積極的申告をするなど)も予測が難しい面があります。
いずれにしても、難しい交渉や対応が必要なので、一刻も早く(捜査機関に発覚したり不当な請求に屈してしまう前に)弁護士に相談することをお勧めします。
その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 未成年の美人局について
今回のような、いわゆる「美人局」による金銭請求は、様々な類型があり、比較的よくある手口であるといえます。当然、相手方の請求の金額や態様によっては、あなたは恐喝あるいは恐喝未遂(刑法249条及び同250条)の被害者になりますし、不当な請求に対応する必要もないところです。
他方で、仮に当該女子高生が17歳であった場合、あなたは「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(以下では単に「児童買春禁止法」といいます。)違反者という立場に置かれることになります。これは、現在あなたが受けている金銭請求とは別に問われる問題です。相手方及び「彼氏」の言動によって、児童買春禁止法違反が消滅するものではありません。
そこで以下では、児童買春禁止法についてその成立と量刑等を説明したうえで、考えられるいくつかの具体的な方法、特に逮捕・公判請求(ひいては懲役刑)を避ける、という観点で順に検討していきます。
2 児童買春禁止法違反について
(1) まず、児童買春禁止法違反ですが、本件のように「対償を供与し、又はその供与の約束」をして、18歳未満である「児童」と「性交等」をした場合、「児童買春」に該当することになります(児童買春禁止法1条)。児童買春の法定刑は5年以下の懲役または300万円以下の罰金(同法4条)です。
2015年度の法務省の検察統計によれば、児童買春よりも軽い児童ポルノ所持等の罪を含む、児童買春禁止法違反の罪に問われたのは、2015年度で4077件、そのうち起訴されたもので公判請求は430件、略式命令請求は998件(合計1428件)、不起訴は、起訴猶予が454件、嫌疑不十分が172件(合計626件)となっています(その余は検察庁間の移送約1500件等)。
この資料からすると、児童買春に限って考えれば、不起訴もあり得るものの、起訴される可能性の方が高く、また略式命令請求(略式起訴)されることもあるが、公判請求、すなわち正式裁判になる、という犯罪であることが分かります。罰金がある罪で、略式命令ではなく公判請求された場合、原則として懲役刑(執行猶予付きを含む)になりますから、決して軽い罪ではない、ということになります。
他方で、児童買春の回数や前科にもよりますが、上記の統計(及び実務上の運用)からすると、不起訴処分や、起訴されたとしても略式命令にとどまる(公判請求を回避できる)可能性がある類型のため、慎重かつ迅速な対応が求められる、適切な対応によって結果が出る類型の犯罪、ということになります。
(2) また、あなたは会社員ということですが、児童買春禁止法違反は、逮捕率(身柄を拘束して捜査する割合)も低くありません。上記統計によれば同罪で起訴された事件の内、逮捕されたものが(警察段階で釈放された23件を含めて)838件、逮捕されていないものが1696件となっています。上記のとおり、この統計は児童ポルノ所持等を含むものですから、一般的にそれよりも重い罪である児童買春単体ではさらに逮捕の可能性も無視できない、ということになります。
(3) なお、本件において、相手は「自称」17歳ということですが、仮に18歳以上であった場合、たとえ金銭の支払って性行為をおこなったとしても、特に刑事処分はありません。売春防止法上も、買春は違法であるとしながらも、特に刑事罰を規定していません。そのため、本件ではそもそも相手方が本当に17歳であるのか、という点も気になるところです(この点については後述します)。
ちなみに、本件のようなケースでは、相手の主張が、いわゆる合意に基づくものではない、すなわち強姦であったというものに変わることも良くあります。その場合の対応については、本ホームページ事例集『強制性交等罪(強姦罪)の無罪主張』等をご参照ください。
3 刑事事件化の回避とそのリスクについて
(1) 以上のとおり、本件のような児童買春は、仮に前科等が無くても決して軽い処分が確定しているものではなく、逮捕のリスクも高い犯罪です。
そのため、本件の段階(捜査機関に本件が発覚していない段階)では、まず捜査機関に発覚する前に解決を図る、つまり刑事事件化することを避ける、ということを考えることになります。(行為自体の倫理的な問題はともかくとして)、捜査機関に発覚しなければ、そもそも処分を受けることは100%ありませんし、当然逮捕等されることもありません。
(2) その場合、まずは相手方と接触し、相手方との間で和解、つまり一定の金銭の支払いによる示談を試みることになります。
ただし、ここでいう「相手方」とは、女性の「彼氏」ではなく、女性の親権者(法定代理人)である両親ということになります。仮に、女性が本当に未成年者であった場合、和解(示談)は法律行為である以上、未成年者単独ではできない(のちに取り消し得る)ことになってしまうからです(彼氏の存在は法的には女性の代理人ということになりますが、未成年者ですから法的に有効な代理人とは言えませんから和解の相手とはなりえません)。
なお、女性が18歳未満ではなかった場合、上記のとおり、そもそも刑事事件にはならないため、和解(示談)の必要は基本的にありません。いずれにしても、本件で「彼氏」と和解交渉をすることに、法律上は意味がない、ということになります(他のケース、特に強姦等の主張がされている場合は、そうせざるを得ない場合もあるため、あくまでも原則となります)。
また、和解においては、その後の追加請求や事件化を避けるために、しっかりとした示談書を作成し、その中で、①本件についてあなたを許し、問題にしないこと、②捜査機関を含む第三者に対して本件を申告しないこと、③今後を含め、この示談書記載のもの以外の金銭支払い義務はない旨(いわゆる清算条項)を定めることは必須です。
なお、児童買春事件について、示談をする意味・効果については後述いたします。
以上の交渉、すなわち①交渉相手を「彼氏」から両親に切り替え、②清算条項等を含む示談合意書を作成すること、については、そもそもの相手方の属性を考えると、かなり難しい交渉となります。状況から考えても、弁護士を入れて交渉に当たることをお勧めします。
(3) しかし、この対応については、仮に上記のように弁護士等を入れても、かなりのリスクが残ります。
まず、児童買春禁止法違反は、親告罪ではないため、仮に女性(親権者を含む)との間でうまく示談を成立させていたとしても、捜査機関に本件が発覚した場合、刑事事件として取り扱われる可能性は十分にある、ということになります(後述のとおり、その場合でも示談が無意味、というものではありません)。
発覚は、①親が捜査機関に申告する、②女性が補導、あるいは児童買春禁止法違反や売春防止法違反等の別の犯罪で検挙され、捜査を受けた際に携帯電話等に残る履歴から発覚する等が考えられます。
また、上記のような清算条項があったとしても、それが破られた場合のペナルティは基本的にできないため、今後の請求や脅しの可能性を0%にすることはできません。相手方(「彼氏」を含む)に恐喝罪が成立したとしても、そもそも本件について捜査機関に発覚しないようにする、ということからすると、万が一このような請求があった場合、「拒否する」以外の対応がないことになります。
4 自首について
(1) 以上のとおり、本件のようなケースで、刑事事件化の回避を目的として、相手の請求に(ある程度)応じて示談することには、一定程度のリスクを伴います。
そこで、もう一つの方法として、こちらから捜査機関に対して本件について申告をしたうえで、逮捕を回避し、不起訴処分を得られるように活動をする、ということが考えられます。
つまり、いわゆる「自首」をしたうえで、刑事処分の軽減(回避)を目指す、ということになります。
(2) この方法は、一定程度の刑事処分(逮捕を含む)のリスクを負う代わりに、①捜査機関を介入させることで、相手方からの不当な請求を排除でき、②捜査機関が独自に事件を認知した場合に比して、自首は逮捕の回避や不起訴処分の獲得という場面で有利に働く、というメリットがあります。
つまり、どのような活動によっても、発覚のリスクがある以上、自ら申告する(自首する)ことで発覚時のダメージを抑える、ということになります。
本件のように、現在不当な請求を受けているという点も考慮すれば、自首は十分検討に値する対応、ということになります。
(3) なお、「自首」といっても、法律上の「自首」(刑事訴訟法245条、刑法42条1項)を成立させるためには、自首の要件(①犯罪事実か犯人が捜査機関に発覚する前に、②自分の処分を求めて申告すること)をみたすことはもちろん、その仕方にも注意が必要です。
単に、最寄りの警察署に行って、事件について伝えるだけでは、法律上の「自首」は成立せずに、単に捜査機関が本件を認識するきっかけを作っただけ、という結果になってしまいかねません。例えば、法律上の自首は「自首調書」を作成しなければならない(犯罪捜査規範64条1項)ため、自首調書が作成されていなければ、法律上の「自首」は成立しない疑いが生じるところです。そのような展開を避けるためには、事前に警察署に連絡して、打ち合わせや日程の調整をしたうえで、弁護士同伴で出頭する等の対応が必要です。
また、逮捕を回避するためには、事前の準備や資料提供も必要です。例えば、事前に本件の経緯をまとめた「調書」を(上記捜査機関が作る自白調書とは別に)作成したり、女性とのやり取りで使用した携帯電話を自主的に提出したりすることで、逮捕の要件である「罪証隠滅のおそれ」、「逃亡のおそれ」を低下させることが考えられます。
5 本件の具体的な対応
(1) 以上を踏まえた、本件の具体的な対応ですが、まず、女性本人と接触することを検討することになります。
仮に自首を選択するにしても、上記のとおり、そもそも女性の年齢を確認する必要がありますし、主張が強姦等より重いものに変化しないように現時点での主張を押さえておくことや、その後の捜査機関へ提出する資料とすることにもなります。
その際に重要なのは、上記のとおりいかに部外者である「彼氏」を排除するか、ということになります。
(2) それと並行して、自首をするのであれば、上記準備を進める必要があります。上記のとおり捜査機関に本件が発覚してしまえば、(一定程度の効果はあるものの)「自首」の成立はありませんから、女性との交渉や接触の状況によっては、接触前に自首することや、速やかに捜査機関に自首をすることが求められます。
その際には、捜査機関(警察)に対して、逮捕をしないように求めると共に、「逮捕できない」(逮捕の要件を充たさない)と思わせる程度の資料提供等を併せてすることが効果的です。
(3) 自首した後は、改めて女性の親権者との示談をすることになります。捜査機関の介入後については、基本的に、当該女性本人と交渉をするべきではなく、当該女性の親権者と話をすることになります。連絡先については、捜査機関と交渉して仲介してもらうことで、開示を試みることになります。
開示を受けることができれば、いわゆる示談を目指して交渉することになります。
なお、本件のような児童買春の事件で、当該児童である女性(親権者含む)に対して金銭の支払いを伴ういわゆる「示談」をすることは、結果的に「援助交際」をした者に対して金銭の支払いをすることになるため、刑事上の効果がないのではないか、という疑問も生じるところですが、児童買春禁止法1条の目的は、「心身に有害な影響を受けた児童の保護」と「児童の権利の擁護」ですから、同法違反で侵害された権利が帰属する「被害者」である児童に対しての損害の補填(金銭の支払い)が必須であることが分かります。
実際に裁判例等でも、被害の補填(示談金の支払い)について良い事情(量刑判断において有利に働く事情)として挙げている(例えば水戸地判平成28年9月12日、札幌家庭裁判所小樽支部平成18年10月2日判決等)ため、示談を試みることは、極めて重要である、ということになります。
(4) その上で、不起訴処分にするよう、担当の検察官と交渉していくことになります。
いずれにしても、本件のような児童買春、それもいわゆる美人局が疑われるような事案では、初動から対捜査機関を含む難しい交渉や、法律上の要件を踏まえた対応等が求められます。「脅されている」状況から脱することと、自らの刑事処分の軽減・回避を考えるのであれば、早急に弁護士に依頼し、対応を協議することをお勧めします。
以上