再開発準備組合における平組合員および借家人の法的地位
都市再開発法|準備組合の平組合員および借家人に記録等の閲覧謄写権はあるか|再開発準備組合の法的位置づけ
目次
質問
駅前で建物を賃借して飲食店を経営しています。最近「再開発準備組合」が設立されたと聞いたので連絡してみたところ、「あなたは単なる借家人なので準備組合に加入することはできない」と言われてしまいました。
私は、店舗の行く末が心配なので、再開発計画の詳細を検討したいので、再開発事業概要の資料について開示と謄写をして欲しいと連絡しました。しかし、組合事務局から「未だ検討中で決まったものは無いし、そういうものは外部にお出ししていない」ということで断られてしまいました。
当店の大家さんにも相談したところ、大家さんは準備組合に加入しているのですが、理事などの役員ではない平組合員ということでやはり資料は見せて貰えないということです。
準備組合の内部資料の閲覧や謄写を求めることは法的にできないのでしょうか。
回答
1 「再開発準備組合」は、都市再開発法に規定された再開発手続を進めるための「市街地再開発組合」の前身となる組織ですが、都市再開発法にはなんら根拠規定が無く、組合契約に基づく民法上の任意組合という位置づけとなります。任意の組合ですから、組合員の要件等は組合で自由に決めることが可能ですし、組合員にならない自由も認められます。また、再開発に関する勉強会や協議会などの任意団体と同様、法人格を有しない団体です。
2 しかし再開発の手続では、都市計画案や、事業計画概要や、モデル権利変換など、再開発に関する重要な事項のほとんどが再開発準備組合の段階で決まる仕組みになっています。実務上準備組合は、都市再開発手続の要件となっている都市計画決定の原案を定めるための住民意見を取りまとめて行政に連絡する機能を有しており、事実上、都市再開発法に規定された「市街地再開発組合」と同様の規約により運営されていることが多くなっています。
そこで、同法に規定された「市街地再開発組合」における平組合員と借家権者の法的地位を検討しますと、平組合員は日常の組合業務には参加できず、総会における議決権行使が主な権限となり、借家人は市街地再開発組合の組合員ではありませんので、日常の組合業務だけでなく総会における意思決定にも参加することもできません。
3 このように、借家人は市街地再開発組合の意思決定に関与することはできませんから、準備組合の意思決定にも関与することはできないと考えられます。しかし、準備組合は、地権者の意見をとりまとめて行政に連絡し、都市計画決定の原案に関与するという公共的機能があり、準備組合の運営が適正に行われているかどうかは、都市計画行政を行っている行政機関にとっても一定の関心がある事項となります。従って、準備組合に対して再開発に関する情報の開示を求め、開示されなければ行政に事情を説明するなどの活動をすることは効果があると考えられます。例えば平組合員や借家権者が、各々の権利を保全するために弁護士を依頼して、計画の検討状況などについて交渉を行った場合、何らかの成果が得られることも期待できると考えられます。御心配であれば、一度経験のある弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。
解説
第1 再開発準備組合とは
再開発準備組合は、都市再開発法に規定された再開発手続を行う準備のために、再開発予定区域内の地権者が任意に組織する団体で、都市再開発法に規定された「市街地再開発組合」(いわゆる本組合)の前身となる団体です。
再開発準備組合の段階では、都市再開発法の正式な手続は何も始まっていない段階となります。地権者が都市再開発法の適用を目指して、再開発の手続を勉強したり、行政に相談したりするという意味で、「再開発勉強会」、「再開発協議会」と同じ位置づけになります。準備組合は、組合契約に基づく民法上の組合であり、「法人格なき組合」、「任意組合」と呼ばれている団体です。
民法667条(組合契約)
第1項 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。
第2項 出資は、労務をその目的とすることができる。
都市再開発法では、5名以上の地権者が区域内の権利者の3分の2以上の同意を得て市街地再開発組合の設立認可申請をすることができると規定されています。
都市再開発法第11条1項
第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。
この「第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して」というのが、一般に再開発準備組合の理事が該当することになります。
「第一種市街地再開発事業」というのは、都市計画決定において定められた民間の都市計画事業ですが、これも勿論、区域地権者達による再開発準備組合の意見集約を受けて行政が決定しているものです。
都市計画法第12条第
第1項 都市計画区域については、都市計画に、次に掲げる事業を定めることができる。
第四号 都市再開発法による市街地再開発事業
この都市計画決定は、区域地権者等の意見集約を受けて、市区町村と都道府県の都市計画審議会が審議して答申し、知事による都市計画決定がなされ、これが公告され効力を生じます。
通常、地方自治体の都市計画課に対して、この都市計画の原案を定めるための事前意見を提供するのが、市街地再開発準備組合になります。勿論、都市計画の原案作成に際して都市計画法16条の公聴会も開かれますし、地域住民であれば誰でも行政に対して意見を提出することはできますが、区域地権者の多数が参加している準備組合が議論を経て意見集約した意見であれば行政としても一定の参考にするというのが通常の対応になります。
準備組合は法人格を持たない団体ですので、再開発に関する勉強会や、協議会などと同じ任意団体ということになります。一般的に、再開発に関する任意団体は、次のような順序で組織名を変えていきます。
「まちづくり勉強会」→「まちづくり協議会」→「再開発推進協議会」→「再開発準備組合」
いずれにしても任意団体ですので、団体の運営方法は、発起人らが定めた規約に従い、誰をメンバーに加えて、誰を加えないのか、また、日常の業務執行はどのように決めるのか、団体の書面管理はどうするかなど、全て、内部の自治的な決定に委ねられていることになります。
一般的には、区域内の有力地主と参加組合員候補者であるデベロッパーが共同して団体の理事会を組織して運営されることが多くなっています。団体の業務執行権限は、理事会に集約されており、平組合員や、組合員では無い借家権者には、何も権限が与えられていないことも珍しくないことになります。
第2 市街地再開発組合(本組合)
このように再開発準備組合は、都市再開発法に規定のない任意団体で法人格を与えられることはありませんが、都市再開発法に規定された本組合である、「市街地再開発組合」は、行政の認可を得て初めて法律上の団体として法人格を付与されることになります(都市再開発法8条1項)。
都市再開発法第8条
第1項 市街地再開発組合(以下「組合」という。)は、法人とする。
第2項 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第四条及び第七十八条の規定は、組合について準用する。
法人格を付与されるということは、各種法律行為の主体として有効に契約書を作成したり(銀行口座を開設したり、所有権移転登記を受けたり)、裁判を起こす原告になったり被告になったりすることもできるようになるということです。
再開発準備組合は、この再開発組合の前身である団体ですが、容積率が定められた都市計画決定や、事業計画案や、モデル権利変換など、再開発にまつわる重要な事項のほとんどが、再開発準備組合の段階で事実上決まることになります。
実務上準備組合は、都市再開発手続の要件となっている都市計画決定の原案を定めるための住民意見を取りまとめて行政に連絡する機能を有しており、事実上、都市再開発法に規定された「市街地再開発組合」と同様の規約により運営されていることが多くなっています。様々な場面において、準備組合の運営は、本組合の運営手続が踏襲されていると言って間違いありません。
そこで、「市街地再開発組合」に関する都市再開発法の規定を確認してみたいと思います。
・規約について
都市再開発法第9条(定款)
組合は、定款をもつて次の各号に掲げる事項を定めなければならない。
一号 組合の名称
二号 施行地区(施行地区を工区に分けるときは、施行地区及び工区)に含まれる地域の名称
三号 第一種市街地再開発事業の範囲
四号 事務所の所在地
五号 参加組合員に関する事項
六号 費用の分担に関する事項
七号 役員の定数、任期、職務の分担並びに選挙及び選任の方法に関する事項
八号 総会に関する事項
九号 総代会を設けるときは、総代及び総代会に関する事項
十号 事業年度
十一号 公告の方法
十二号 その他国土交通省令で定める事項都市再開発法施行規則
第1条の11(定款の記載事項) 法第九条第十二号の国土交通省令で定める事項については、第一条の八の規定を準用する。この場合において、第一条の八第三号中「規準又は規約」とあるのは「定款」と読み替えるものとする。
第1条の8(規準又は規約の記載事項) 法第七条の十第十号の国土交通省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
一号 審査委員に関する事項
二号 会計に関する事項
三号 事業計画において個別利用区が定められたときは、法第七十条の二第二項第三号の規準又は規約で定める規模
準備組合の定款は、平組合員であっても配布されるのが一般的です。紛失した場合は、組合員の地位で定款写しの交付を求めることができるでしょう。
・構成員について
都市再開発法第20条(組合員)
第1項 組合が施行する第一種市街地再開発事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、すべてその組合の組合員とする。
第2項 宅地又は借地権が数人の共有に属するときは、その数人を一人の組合員とみなす。ただし、当該宅地の共有者(参加組合員がある場合にあつては、参加組合員を含む。)のみが組合の組合員となつている場合は、この限りでない。
第21条(参加組合員) 前条に規定する者のほか、住生活基本法第二条第二項に規定する公営住宅等を建設する者、不動産賃貸業者、商店街振興組合その他政令で定める者であつて、組合が施行する第一種市街地再開発事業に参加することを希望し、定款で定められたものは、参加組合員として、組合の組合員となる。
準備組合員の構成員も、本組合に準じて、区域内の宅地所有者と借地権者(土地賃借権者)と、不動産デベロッパーなどの参加組合員で構成されることになります。地権者が理事や理事長になり、参加組合員である不動産デベロッパーから派遣された担当者が組合事務局員として実際の事務作業を行う形式が多くなっております。
準備組合は任意団体ですので区域地権者には加入しない自由が認められていますが、本組合になると区域内の地権者は強制的に組合員とされますので加入しない自由はありません。
・機関について
都市再開発法第23条(役員)
第1項 組合に、役員として、理事三人以上及び監事二人以上を置く。
第2項 組合に、役員として、理事長一人を置き、理事の互選によりこれを定める。第24条(役員の資格、選挙及び選任)
第1項 理事及び監事は、組合員(法人にあつては、その役員)のうちから総会で選挙する。ただし、特別の事情があるときは、組合員以外の者のうちから総会で選任することができる。
第2項 前項本文の規定により選挙された理事若しくは監事が組合員でなくなつたとき、又はその理事若しくは監事が組合員である法人の役員である場合において、その法人が組合員でなくなつたとき、若しくはその理事若しくは監事がその法人の役員でなくなつたときは、その理事又は監事は、その地位を失う。第25条(役員の任期)
第1項 理事及び監事の任期は、五年以内とし、補欠の理事及び監事の任期は、前任者の残任期間とする。
第2項 理事又は監事は、その任期が満了しても、後任の理事又は監事が就任するまでの間は、なおその職務を行なう。第26条(役員の解任請求)
第1項 組合員は、総組合員の三分の一以上の連署をもつて、その代表者から、組合に対し、理事又は監事の解任の請求をすることができる。
第2項 前項の規定による請求があつたときは、組合は、ただちに、その請求の要旨を公表し、これを組合員の投票に付さなければならない。
第3項 理事又は監事は、前項の規定による投票において過半数の同意があつたときは、その地位を失う。
第4項 前三項に定めるもののほか、理事及び監事の解任の請求及び第二項の規定による投票に関し必要な事項は、政令で定める。
・意思決定について
都市再開発法第29条(総会の組織) 組合の総会は、総組合員で組織する。
第30条(総会の決議事項) 次の各号に掲げる事項は、総会の議決を経なければならない。
一号 定款の変更
二号 事業計画の決定
三号 事業計画又は事業基本方針の変更
四号 借入金の借入れ及びその方法並びに借入金の利率及び償還方法
五号 経費の収支予算
六号 予算をもつて定めるものを除くほか、組合の負担となるべき契約
七号 賦課金の額及び賦課徴収の方法
八号 権利変換計画
九号 事業代行開始の申請
十号 第百三十三条第一項の管理規約
十一号 組合の解散
十二号 その他定款で定める事項
この、法30条10号の管理規約は、再開発ビルの管理規約を意味します。
・機関の運営について
都市再開発法32条(総会の議事等)
第1項 総会は、総組合員の半数以上の出席がなければ議事を開くことができず、その議事は、この法律に特別の定めがある場合を除くほか、出席者の議決権の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第2項 議長は、総会において選任する。
第3項 議長は、組合員として総会の議決に加わることができない。ただし、次条の規定による議決については、この限りでない。
第4項 総会においては、前条第六項の規定によりあらかじめ通知した会議の目的である事項についてのみ議決することができる。
・組合の管理・運営について
都市再開発法第27条(役員の職務)
第1項 理事長は、組合を代表し、その業務を総理する。
第2項 理事は、定款の定めるところにより、理事長を補佐して組合の業務を掌理し、理事長に事故があるときはその職務を代理し、理事長が欠けたときはその職務を行う。
第3項 定款に特別の定めがある場合を除くほか、組合の業務は、理事の過半数で決する。
第4項 監事の職務は、次のとおりとする。
一号 組合の財産の状況を監査すること。
二号 理事長及び理事の業務の執行の状況を監査すること。
三号 財産の状況又は業務の執行について、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、総会又は都道府県知事に報告をすること。
四号 前号の報告をするため必要があるときは、総会を招集すること。
第5項 組合と理事長との利益が相反する事項については、理事長は、代表権を有しない。この場合においては、監事が組合を代表する。
第6項 理事長は、事業年度ごとに事業報告書、収支決算書及び財産目録を作成し、監事の意見書を添えて、これを通常総会に提出し、その承認を求めなければならない。
第7項 前項の監事の意見書については、これに記載すべき事項を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして国土交通省令で定めるものをいう。)の添付をもつて、当該監事の意見書の添付に代えることができる。この場合において、理事長は、当該監事の意見書を添付したものとみなす。
第8項 理事長は、毎事業年度、通常総会の承認を得た事業報告書、収支決算書及び財産目録を当該承認を得た日から二週間以内に、都道府県知事に提出しなければならない。
第9項 理事長は、組合員から総組合員の十分の一以上の同意を得て会計の帳簿及び書類の閲覧又は謄写の請求があつたときは、正当な理由がない限り、これを拒んではならない。
第10項 監事は、理事又は組合の職員と兼ねてはならない。
この条文によれば、理事及び監事及び理事長は、業務を遂行するために、組合のあらゆる書類を閲覧し、謄写をすることもできると考えられます。他方、平組合員や、組合員ではない借家人には、組合の意思決定や監督権限はありませんので、事務局に対して、内部資料の閲覧謄写を求める法的権限は無いと考えられます。
法27条9項に帳簿閲覧および書類閲覧謄写請求権が規定されていますが、これは会計帳簿に関する閲覧謄写権限であり、事業計画の検討資料などは含まれないと解釈されています。
第3 借家権者であっても主張できること
このように、再開発組合および準備組合の運営について、組合の理事長、理事が主体となって運営され、意思決定は組合の総会で行うという形式になっています。そのため借家権者には、具体的には何も主張できることが無いようにも考えることができますが、実際には再開発に関して利害関係を有する者として様々な主張をしていくことが可能です。
それは、都市再開発手続が、公益目的により個人の権利を強制的に変形させる性質を有する手続だから、手続全体が、適正、公平、適法に遂行されることが必要となっているためです。再開発手続により、強制的に権利が消滅させられたり、権利が変換させられたり、立退きさせられたりする利害関係人として、借家権者は、組合と行政に対して権利主張できると考えることができます。
根拠となりうる規定をいくつか列挙してみます。
都市再開発法第1条(目的)
この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。都市再開発法第17条(認可の基準)
都道府県知事は、第十一条第一項から第三項までの規定による認可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その認可をしなければならない。
一号 申請手続が法令に違反していること。
二号 定款又は事業計画若しくは事業基本方針の決定手続又は内容が法令(事業計画の内容にあつては、前条第三項に規定する都道府県知事の命令を含む。)に違反していること。
三号 事業計画又は事業基本方針の内容が当該第一種市街地再開発事業に関する都市計画に適合せず、又は事業施行期間が適切でないこと。
四号 当該第一種市街地再開発事業を遂行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に遂行するために必要なその他の能力が十分でないこと。都市再開発法第74条(権利変換計画の決定の基準)
第1項 権利変換計画は、災害を防止し、衛生を向上し、その他居住条件を改善するとともに、施設建築物、施設建築敷地及び個別利用区内の宅地の合理的利用を図るように定めなければならない。
第2項 権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払つて定めなければならない。都市再開発法第97条(土地の明渡しに伴う損失補償)抜粋
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
第2項 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
第1条では、都市再開発手続全体の理念「都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与すること」が掲げられています。これに反する再開発手続はできないということになります。公共の福祉が目的ですから、一部の地権者や参加組合員の利益のために手続を行うことが許されないことは言うまでもありません。
第17条では、本組合の設立認可の基準が法定されています。この条文では、「申請手続が法令に違反していないこと」、「定款又は事業計画若しくは事業基本方針の決定手続又は内容」が法令に違反していないことが要件として求められています。準備組合の段階で、平組合員や借家権者に対する対応に問題があった場合などには、手続の適法性に問題があると主張することも考えられるところです。
第74条では、再開発手続で最も大切な権利変換計画の内容について認可の基準が法定されています。特に第2項の「権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払つて定めなければならない」という規定が重要です。特定の組合員を優遇し、組合員間の不平等を生じるような権利変換計画は認可されるべきではないという主張が可能となります。
第97条1項では、再開発に際して建物の明け渡しをする占有者には「通常受ける損失」を補償すべきことが規定され、同2項では、「補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない」と規定されています。再開発区域内の建物の賃借人も占有者として、法97条1項の通損補償を受けることができますので、組合員ではありませんが組合から補償を受ける権利がありますし、法的にも協議すべきことが義務づけられております。組合は、賃借人との協議をしなければなりません。
この通損補償の協議を不要にしようとして、組合事務局よりあらかじめ「借家権消滅希望申出書」にサインを求められる事例があります。中には、「損失補償の協議をするには借家権消滅希望申出書にサインすることが必要」とか、「再入居の協議をするためには借家権消滅希望申出書にサインすることが必要」など、虚偽説明と疑わしき説明をして借家権を予め消滅させようとしてくる悪質な事例も見られます。民事上、詐欺取消や錯誤無効の法的主張が考えられますし、損害を受けた場合は民事不法行為による損害賠償請求ができる可能性もあります。
準備組合は、地権者の意見をとりまとめて行政に連絡し、都市計画決定の原案に関与するという公共的機能があり、組合の運営が適正に行われているかどうかは、都市計画行政を行っている行政機関にとっても一定の関心がある事項となります。
例えば平組合員や借家権者が、各々の権利を保全するために弁護士を依頼して、計画の検討状況などについて交渉を行った場合、何らかの成果が得られることも期待できると考えられます。
御心配であれば、一度経験のある弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。
以上