保護者が関与する淫行・児童ポルノ製造罪の弁護活動
刑事|中学生の裸体を撮影した場合に成立する罪責および刑事処分の見通し|製造した児童ポルノ画像の消去の是非、自首の要否|母親の承諾を得て中学生の娘の裸体を撮影した事案
目次
質問
私は、都内の団体に勤務する職員です。実は、インターネットで知り合った知人の貧困女性にお願いし、3~4回ほど、その女性に現金数万円を渡し、中学生の娘の裸の写真の撮影会をさせてもらっていました。撮影会は、私と娘の二人きりでホテルの部屋等で行っていましたが、その際、娘さんの陰部に触るなどの行為をしたこともありました。この度、その母娘のところに児童相談所が介入することになったようです。
私の行為は、どのような犯罪として、どのような処罰が下されることになるのでしょうか。なお、撮影した写真データは、今すぐ消した方が良いのでしょうか。私としては、母娘への生活の援助のつもりでしたが、今では深く後悔しています。虫の良い話ですが、処罰を軽くすることはできるでしょうか。
回答
1 あなたの行為は、中学生の娘の裸の写真を撮影したことで「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」の児童ポルノ製造罪、対価として母親に現金数万円を渡し娘さんの陰部に触るなどしたことで同法の児童買春罪、さらに「青少年の健全な育成に関する条例」違反、そして「児童福祉法」における児童淫行罪として処罰される可能性があります。
これらの罪は、それぞれ成立要件が異なりますし、法定刑や実際の量刑の相場も大きく異なります。最も重い児童福祉法違反で処罰される場合、たとえあなたに前科前歴が存在しない初犯であっても、実刑になる可能性は十分考えられますが、軽微な条例違反として処罰されれば、起訴猶予や略式起訴による罰金刑の可能性もあります。
どの罪が成立するかについては、弁護人の立場から、本件の具体的な事情や過去の裁判例・処分事例を踏まえて、きちんと法律論を展開して検察官に主張することによって、大きく判断が変わり得るポイントでもあります。
2 画像の消去の是非についてですが、一般論として、証拠となる児童ポルノ画像が消去されて存在しない場合には、児童ポルノ製造として起訴することが困難となります。
もっとも本件では、児童ポルノ製造以外にも淫行条例違反等で処罰される可能性は高いですし、児童ポルノが記録されたHDD等は、当然、これらの犯罪に関する重要な証拠ですので、これを消去することは、証拠隠滅行為となります。
証拠隠滅行為を行うことは、自己の刑事事件に関する証拠であれば証拠隠滅罪(刑法第104条)には該当しませんが、後日起訴された場合に非常に悪質な情状と評価されることになりますし、仮に、今後逮捕、勾留となった場合に、早期に身体拘束から解放することいが非常に困難となってしまう危険性があります。どのような対応を取るべきかは、弁護士に相談することをお勧めします。
3 本件では、現在のところ、あなた自身が警察から捜査を受けているというわけではないとのことですが、今後、捜査が開始された場合には、当然、警察が逮捕などの手続きを取ることも考えられます。そのため、逮捕や勾留による身柄拘束や、事件の報道を回避するために、場合によっては、警察による捜査が開始される前に、自ら警察署に出頭し、事情を説明するということも考えられます。
4 本件は、事実関係が複雑であり、適用される法律やその量刑にも幅が大きい事案です。初犯でも実刑となってしまうことも、初期対応や弁護活動によって、略式起訴による罰金刑や起訴猶予で済むケースもあります。まずは、経験のある弁護士に早急に相談してみることをお勧めします。
5 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 あなたの行為が該当する犯罪
(1)児童ポルノ製造
まず、あなたの行為は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」 に違反する犯罪となる可能性が高いです。具体的には、同法7条4項の「児童ポルノの製造」に該当するものとして、処罰の対象となりえます。
同法における児童とは18歳未満の者を指します。「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいます。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
本件であなたが撮影したのは、中学生の裸の写真とのことですので、基本的には児童ポルノに該当する可能性が高いといえます。そして、撮影会として、相手児童に裸を露出させて撮影をしているのであれば、同法7条4項における「姿態をとらせての製造罪」に該当する可能性が高いです。
仮に、同条項に違反した場合、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処される可能性があります(同法7条4項、2項)。なお、撮影していた写真をインターネット等で提供していた場合、同条7項により、さらに罪が重くなる可能性があります。
(2)青少年健全育成条例違反
さらにあなたは、撮影の際に、相手児童の陰部を触る等の行為をしているとのことです。これは、各都道府県のいわゆる青少年健全育成条例における「淫行」の罪として、処罰の対象となる可能性があります。
東京都の場合、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」において、「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。」と規定しています。児童の陰部に触れる行為は、その態様にもよりますが、性交類似行為に該当するものとして、処罰の対象となる可能性は高いです。 同条例違反で処罰される場合、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処されることになります。
なお、この条例違反の罪と、前述の児童ポルノ製造の罪は、法律以上別個の行為に対する罪となりますので、両方の罪が成立する場合、併合罪(刑法)として、刑が過重されて処罰されることになります。
また、本件では、相手児童と複数回、同様の行為をしているとのことですが、健全育成条例違反の淫行の罪は、複数回にわたり行為を行っている場合でも、包括して一つの罪として評価されることがあります。これは、健全育成条例違反は、児童の健全な成長を保護法益としているところ、同一犯意の下に同一の青少年に対して継続的に反復して犯行に及んでいる場合には、これを包括的に観察して一罪とすべきであるためです。包括一罪とされれば、併合により刑が加重されることはありませんので、この点はきちんと検察官に主張する必要があります。
(3)児童買春
さらに本件であなたは、相手児童の保護者(母親)に対して現金を渡していたとのことですので、「児童買春」として処罰を受ける可能性もあります。
児童買春・児童ポルノ禁止法では、児童やその保護者に対し、対償を供与し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。)をすることをいいます。
本件では、あなたは児童の陰部を触っていたとのことですが、保護者に対償(現金)を渡していたのは写真撮影の対価としてとのことであり、実際にあなたが児童陰部に触れていたことを母親知らなかったのであれば、性交等に対する対償の供与とは認められず、同条項の「性交等」には該当しない(児童買春には該当しない)ことになります。
しかし、母親のやり取りや当日の状況、児童の供述などからして、実質的には渡していたお金が性交等(陰部に触れる)の対価と認められてしまう場合には、児童買春として処罰される可能性も十分考えられます。
児童買春の法定刑は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金であり(法4条)、上記の条例違反や児童ポルノの製造よりも重い処罰です。
(4)児童福祉法違反
さらに本件では、児童の家庭が貧困で窮している状況であったことや、保護者との共同関係のもとで行為に及んでいることから、「児童福祉法」における児童淫行罪(同法34条1項6号)として処罰される可能性もあります。同条項では、「児童に淫行をさせる行為」が禁止されていますが、この「淫行を『させる』」の意味については、次の2点が問題となります。
①淫行の対象が別の第三者の場合に限られるのか、行為者自身に淫行させる場合も含むのか。
②(行為者自身に淫行させる場合も含むのなら)前記健全育成条例違反との違いは何か。
この2点につき、東京高裁平成8年10月30日判決は、以下のとおり判示しています。
①の点について、「『児童に淫行させる行為』とは、行為者が児童をして第三者と淫行をさせる行為のみならず、行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為をも含むものと解するのが相当である。」としています。
②の点について、「淫行を「させる行為」とは、児童に淫行を強制する行為のみならず、児童に対し、直接であると間接であると物的であると精神的であるとを問わず、事実上の影響力を及ぼして児童が淫行することに原因を与えあるいはこれを助長する行為をも包含するものと解される」
「同号が、いわゆる青少年保護育成条例等にみられる淫行処罰規定(条例により、何人も青少年に対し淫行をしてはならない旨を規定し、その違反に地方自治法14条5項の範囲内で刑事罰を科するもの)とは異なり、児童に淫行を「させる」という形態の行為を処罰の対象とし、法定刑も最高で懲役10年と重く定められていること等にかんがみれば、行為者自身が淫行の相手方となる場合について同号違反の罪が成立するためには、淫行をする行為に包摂される程度を超え、児童に対し、事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ、その結果児童をして淫行をするに至らせることが必要であるものと解される。
つまり、行為者自身が淫行の相手方である場合にも児童福祉法違反が成立するが、条例による処罰との均衡上、児童福祉法違反となるためには、「児童に対して事実上の影響力を行使すること」が必要とされています。具体的には、学校の教師と生徒や、アルバイト先の上司と部下のように、その関係からして事実上の有形無形の影響力(上下関係)が認められる場合には、児童福祉法違反に該当する危険性が高いと言えるでしょう。
本件では、貧困家庭に経済的援助という影響力を行使しているため、事実上の影響力が認められる可能性が存在します。また、児童の親(保護者)は、基本的に児童淫行罪の主体となる立場ですので、母親の児童淫行罪の共犯関係として処罰される可能性もあります。
児童淫行罪に対しては10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金と言う非常に重い罰則が定められています。
2 刑事処分の見通し
本件では、上記のように各種の罪名が成立する可能性があるため、その見通しは難しいところがあります。
仮に(4)児童福祉法違反の児童福祉法違反(児童淫行罪)で処罰される場合、たとえあなたに前科前歴が存在しない初犯であっても、実刑になる可能性は十分考えられます。
(3)児童買春の罪だけで初犯であれば、罰金以下の刑罰に留まる可能性もありますが、単なる援助交際事案ではなく、親という児童にとって非常に影響力が大きい者と共同して犯行に及んでいる点は、悪質性が強い事情として評価されますので、やはり正式な裁判(公判請求)となり、執行猶予付きの懲役刑となる可能性は高いです。
(2)の青少年健全育成条例違反の罪であれば、単独で公判請求の可能性はそこまで高くはありませんが、相談内容によれば、児童ポルノの製造と併せて複数の犯罪事実が存在するとのことですので、これらを合わせて処罰されてしまうと、やはり公判請求となってしまう危険性は十分にあります。
以下では、今後、処罰を軽減するためにはどのような対応をとることが考えられるかについて説明致します。
3 処罰を軽減するための対応
(1)画像の処分
まず、あなたが製造してしまった児童ポルノを消去することの是非についてです。
一般論として、児童ポルノの製造罪で起訴し刑事処罰を科すためには、実際に製造された児童ポルノが証拠として存在することが前提となります。その証拠が存在しない場合には、起訴することが困難となります。
一方で、データの消去方法によっては、捜査機関により画像の復元が行われたりする場合もありますし、被害児童の供述等により起訴される可能性もありますし、本件では、児童ポルノ製造以外にも淫行条例違反等で処罰される可能性は高いです。
児童ポルノが記録されたHDD等は、当然、これらの犯罪に関する重要な証拠ですので、これを消去することは、証拠隠滅行為となります。自分の刑事事件についての証拠ですからその隠滅行為は犯罪にはなりませんが、証拠隠滅行為を行うことは、起訴された場合に非常に悪質な情状と評価されることになりますし、仮に、今後逮捕、勾留となった場合に、早期に身体拘束から解放することいが非常に困難となってしまう危険性があります。そのため、あなたが単独で消去行為を行うことはお勧めできません。場合によっては、下記の自首対応も含めて捜査機関に報告の上で消去するなどの対応をとった方が良い場合もあります。
どのような対応を取るべきか弁護士に相談することをお勧めします。
(2)自首について
本件では、現在のところ、あなた自身が警察から捜査を受けているというわけではなく、相手児童の家庭に児童相談所が介入した状況であるとのことですが、児童相談所は、児童から生活状況含めて詳細な事情の聴き取りを行いますので、あなたとの行為が伝わってしまう可能性は非常に高いと思われます。
児童相談所が当該事実を確認した場合、警察に通報し、刑事捜査が開始されることになります。警察としては、相手児童の供述等からは、あなたに上記の各種犯罪が成立する疑いがあると考えた場合には、当然、逮捕などの手続きを取ることも考えられます。逮捕に先立って任意での事情聴取が先行することもありますが、当然、突然警察が来て逮捕されるという場合もあります。
これらの可能性を考慮すると、場合によっては、警察による捜査が開始される前に、自ら警察署に出頭し、事情を説明するということも考えられます。仮に法律上の自首が成立する場合には、処罰される場合に刑が減刑される理由の一つとなり得ますし(刑法42条1項)、自ら出頭した事実は、逮捕や勾留による身柄拘束や、事件の報道を回避(報道は身柄拘束が前提になると実務上言われていますのでお勤め先の関係でとても重要です。)できる可能性をかなり高めます。
さらに、前科がなければ、担当官にもよりますが、微妙な犯罪態様の認定に特別な配慮も考えられることが予想されます。自首には法的手続き(書面でなく口頭による場合は自首調書が作成されます。刑訴245条、241条2項。)が必要なので弁護士と同伴していくことが肝要です。捜査機関の対応、取り扱い方法により事実上自首と認定されない可能性があり(本来調書作成は自首の成立要件ではない。)被疑者に著しく不利益となる場合があるからです。詳しくは『未成年美人局事案の児童買春と自首の問題』をご覧ください。
もっとも、警察に対して、どの段階で、どこまで事情を説明すべきかは、犯罪の成否も含めて非常に判断が難しい問題でもあり、また、逮捕や勾留による身柄拘束、事件報道を避けるためには、捜査機関への法的な意見陳述、交渉が不可欠です。そのため、まずは、具体的な対応につき、弁護士に相談することをお勧めします。
(3)その他弁護活動について
最後に、終局的な処分に向けた弁護活動についてご説明いたします。
通常の青少年健全育成条例違反等の場合、被害児童の親への謝罪や、示談活動を行うことにより、処罰が軽減又は回避できる場合もございます。しかし、本件の場合、本来であれば示談の相手方となるべき保護者も加害者となる可能性が高い事案ですので、示談により処分を回避するというのは現実的ではありません。むしろ、再犯の防止のために、医療機関において性依存症の治療を受けたり、示談に代えて公益団体への贖罪寄付を行うことなどの活動が必要となります。
また本件では、事案によって、健全育成条例違反から児童福祉法違反まで、様々な罪が成立する可能性があります。これらの罪は、法定刑も量刑上の相場も大きくことなりますので、どの罪で起訴されるかは、非常に重要な問題です。
この点は、弁護人の立場から、本件の具体的な事情や過去の裁判例・処分事例を踏まえて、きちんと法律論を展開して、検察官に主張することによって、大きく判断が変わり得るポイントでもあります。思いがけず厳しい法律で処罰を受けることを回避するためにも、初期段階から弁護人とよく協議して、弁護活動をしてもらうことをお勧めします。
4 まとめ
本件は、事実関係が特殊であり、適用される法律やその量刑にも幅が大きい事案です。初犯でも実刑となってしまうことも、初期対応や弁護活動によって、略式起訴による罰金刑や起訴猶予で済むケースもあります。まずは、経験のある弁護士に早急に相談してみることをお勧めします。
以上