児童福祉法28条の審判対応|児童福祉施設等への入所の承認
家事|児童虐待を疑われた場合の対応・手続|水戸家裁平成30年5月28日審判
目次
質問
私は、夫と10歳になる子どもの3人で暮らしていました。
約2か月前、夫が子どもを虐待している、ということで、子どもが児童相談所に一時保護されてしまいました。しつけとはいえ、夫が子どもに暴力を振るったことは確かなので、今後、夫とは離婚を前提として別居し、私は実家で子どもと生活しようと思っていました。
2か月で子どもは戻ってくると思っていたのですが、児童相談所の人から「児童養護施設に入所させたいので、その旨同意してもらえないか」という話がありました。
これはどういう意味なのでしょうか。私はどうすれば子どもと生活できるのでしょうか。
回答
1 児童相談所から「児童養護施設に入所させたいので、その旨同意してもらえないか」と求められたということですから、児童相談所は虐待等が認められ著しく子供の福祉を害するため児童養護施設への入所が必要と判断し、あなたに同意を求めていることになります。この同意があった場合、児童相談所は、あくまでも「一時」的な措置である一時保護ではなく、児童養護施設等への入所措置等をすることができるようになります(児童福祉法27条1項3号、28条)。
仮に同意をしなかった場合、児童相談所が必要と判断した場合は同意に代わる「家庭裁判所の承認」を求めて審判申立てをすることが出来ます。この審判手続においては、児童相談所の調査結果や、家庭裁判所の調査官による調査を基礎として、あなたの意見陳述等を踏まえ、①虐待等の事実の有無、②対象となる子どもの意見、③精神科医の診断、④親権者の態度(反省状況)を含む環境改善の内容(その具体性)等の要素を総合考慮して、承認の要件である「保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」に該当するかの判断がなされることになります。
2 入所を回避したいのであれば、家庭裁判所に対して、上記のような要素を考慮しながら、説得的な主張(後述のとおり、単に主張をするだけでは足りず、具体的な環境調整をいかにできるかが重要です。単に子供と一緒に生活したいというだけでは足りず、子供があなたと一緒に生活したとしても、子供の福祉が著しく害されないという環境を作り出す必要があります)をすることが不可欠です。
ただし、この審判の期間は通常の訴訟とは異なり短く、児童相談所は一時保護の時点(あるいはそれ以前)から十分な準備をしていることになりますので、一刻も早い対応(本件においては別居や離婚を含む環境調整)をすることが必要です。そのためにも、早急に弁護士にご相談ください。
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解説
第1 総論
ご相談の件ですが、現在あなたは、お子様について、児童福祉法27条1項3号に規定されている措置のうち「児童養護施設」への入所についての同意を求められている状態です。この同意をした場合、お子様は施設への入所措置が取られることになります。同条による入所措置には期間が定められていませんが、少なくとも、現在の一時保護(原則として2か月、延長できるとはいえ一時的なもの)とは異なり、長期間の入所措置が考えられるところです(ただし、一般的に入所中の面会等はできるので、入所=会えなくなるというものではありません)。
他方で、強制的に行われる一時保護(児童福祉法33条)とは異なり、児童養護施設等への入所措置には親権者等の「同意」が必要です。
仮に、このままあなたが同意をせずにいた場合、児童相談所は強制的に児童養護施設に入所させることはできません。もっとも、親権者等の同意が得られない場合、入所措置の同意に代わって、家庭裁判所の承認の審判があれば足りる、とされています(児童福祉法28条1項)。
なお、この承認の審判がなされた場合の入所措置については、上記同意による入所と異なり、最長2年間の期間制限があります(同条2項)。ただし、後述する一定の要件のもとでは、改めて家庭裁判所の審判を受けることで、さらなる延長が可能です(同条2項)。
以上の通り、児童養護施設への入所措置を回避するためには、同意をしないだけでは十分ではなく、(児童相談所側が申し立てるであろう)審判について、却下審判を得る必要がある、ということになります。
以下では、かかる審判について説明したうえで、具体的な主張内容等について説明していきます。
第2 児童福祉法28条の審判について
以下では、当該審判について説明していきます。
1 審判の統計
最高裁判所事務総局家庭局の統計(参考:親権制限事件及び 児童福祉法28条事件の概況)によれば、平成29年における児童福祉法28条1項の申立件数は288件で、終結事件数は277件です。終結した277件のうち、入所措置が承認されたのは207件、却下審判が16件、取下げが52件となっております(そのほかの2件は、移送等がなされたケースです)。このうち「取下げ」の中には、審判が係属しているうちに、入所措置をとることについて親権者が同意したようなケースを含むと考えられるため、却下決定を得るためのハードルは高いといえます。
2 審判の申し立て
家庭裁判所に審判を申し立てるのは、都道府県(の知事から委任された児童相談所所長)です(児童福祉法27条、同28条、同32条)。
申立先の裁判所は、お子様の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法234条)。
家庭裁判所は、28条1項による承認の審判、同条2項による措置の期間延長の審判のいずれの場合においても、親権者等の陳述の機会を設ける必要があります(家事事件手続法236条)。この陳述の機会に際して、親権者は自らの主張をすることになりますが、利害関係参加人(家事事件手続法42条)として審判に参加することも考えられるところです。いずれにしても、この審判手続内で、28条1項の承認の要件を充たさない、ということを示す必要があります。
また、審判申立て後に、家庭裁判所の調査官が改めて事実等の調査をおこないます。
3 承認の要件
具体的な承認の要件ですが、法28条1項は、「その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」に、承認を得て施設等への入所措置をとることができる、と定めています。どのような状況が「保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」に該当するか、については具体的な裁判例を挙げて後述します。
4 審判の期間
なお、この審判ですが、上記統計によれば、平成29年に終結した277件のうち、10件が1か月以内、40件が1か月から2か月以内、56件が2か月から3か月以内、75件が3か月から4か月以内、45件が4か月から5か月以内、14件が5か月から6か月以内と、その大部分が半年以内に集結している、ということになります。これは、一般的な裁判等に比べて短期間であるといえます(事案の性質上、裁判所は早急に結論を出しているといえます)。
そのため、後述する主張についても、時間的な余裕のないところで準備する必要がある、ということになります。
第3 具体的な主張
1 裁判例の動向
以上を踏まえた上で、具体的な主張の内容についてですが、裁判例が参考になります。
(1)水戸家審平成30年5月28日
例えば、水戸家審平成30年5月28日では、「児童心理治療施設」への入所を承認する審判をしています。この審判では、①(虐待であるとまではいえないものの)親権者等による「つねったり、事件本人に正座させるなどのこと」が「しつけの目的を有するにしても、身体的苦痛を与えることを基礎とするもので問題で」ある上、親権者等が児童相談所で子どもと面会した際に正座をさせる等の極端な行動や、その際の言動も圧迫を感じさせるものであったこと、②その結果「事件本人は、家庭裁判所調査官との面接でも、利害関係参加人Cとの面会でも怒られてばかりであるとの印象を有し、今後の生活については、家にいたら地獄にしかならない、どちらかというと施設に行きたいとの意向を示す」に至っていること、③精神科嘱託医から「自閉症スペクトラムの傾向はあり、長期の支援が必要で、将来的には在宅の支援が基本である、現在は二次障害を起こしている状態であり、事件本人の特性を理解してもらい、事件本人が安心・安全を実感できる方法で支援していくのが原則である、基本方針は緊急避難的にいったん保護的環境(施設)に入所し、その後家庭復帰を目指す、入所施設は、児童心理治療施設を選択するのが基本である」という診断がなされていること、④親権者等が提出した陳述書において、子どもの「家庭裁判所調査官に対する供述は、家出をしたことを怒られることを恐れて、自己防衛のために自らの行動を正当化しているものだという見解に固執しており(平成30年5月14日付け陳述書)、事件本人が感じている恐怖感に向き合っていない」こと、といった要素を挙げて、「現状で利害関係参加人らに事件本人を監護させることは、事件本人が安心・安全を実感できる方法による支援とはならず、著しく事件本人の福祉を害するもの」と判示しています。
(2)熊本家審平成21年8月7日
また、熊本家審平成21年8月7日は、「事件本人は、これまで2回(平成18年×月と平成21年×月×日(以下平成21年×月×日の誤飲を「本件誤飲」という。))にわたり、事件本人親権者母B(以下「実母」という。)が服用していた精神薬を誤飲もしくは実母による投与により服薬し、いずれも救急車で搬送された。主治医の所見では、実母の代理ミュンヒハウゼン症候群の疑いがあるとされ、仮に故意の投薬でないとしても、薬の管理についての監護能力が疑われる。また、実母は△△県□□児童相談所(以下「□□児相」という。)と関わり、精神的不安定さから事件本人の一時保護を繰り返した後、事件本人は施設入所となり、○○へ来てからもショートステイを複数回利用するなどしており、安定した養育環境とはいえない。そこで○○児童相談所(以下「○○児相」という。)は、事件本人を児童養護施設へ入所させることを決定した。これに対し、実母は、施設入所に同意せず、児童相談所に対し、異議を述べたので、申立人は、児童福祉法28条に基づき、事件本人を児童養護施設に入所させることを承認する旨の審判を求め」た、という事案です。
これについて「現在に至るまで、実母の体調不良のためしばしば、事件本人は養護施設などに一時保護され、実母の体調不良が事件本人の養育に支障を来しており、一度平成18年×月本件誤飲した薬物に含まれているベンゾジアゼピンとバルビツール系の中毒を起こして、当時関係者から薬物の管理について注意指導を受け、実母自身も反省したと述べており、薬物の管理には十分注意しなければならないことは実母も認識していたはずであるにもかかわらず、前件事故と同様に事件本人について誤飲が生じており、実母の薬物管理には問題があるといわざるを得ず、これは、「保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」に当たるというべきである。」として児童養護施設への入所措置を承認する審判をしています。
この審判では、「薬物の保管について十分な注意が足りなかったことを認めて反省し、現在は薬物は金庫に入れて保管している」、「事件本人に薬を投与したり、煙草の吸引を強制した事実は一切なく、自宅内を安全な環境にするため整理整頓している」といった反論が親権者(実母)からなされていますが、「実母が薬物管理の不十分さを率直に反省し、現在薬物の保管を厳重にし、自宅を整理整頓していることは評価できるが、薬物事故は今回で二度目であり、実母が今後薬物保管を厳重にし、自宅内を整理整頓するという意思の表明だけでは薬物事故が事件本人に生命健康に重大な危険を及ぼす可能性があること、事件本人が満4歳という幼少であって薬物事故に対し無防備であることなどを総合考慮すると、実母の上記反論の中で事件本人と実母を離すことで生じる問題点や心配、懸念といったことを考慮しても、事件本人を危険な状況においたままにすることは相当でない」と判断されています。
2 考慮すべき事項
児童福祉法28条1項の審判事件については、当然各家庭環境ごとに異なる点が争点とされますから、「主張するべき事案」が決まるわけではありません(例えば、大阪高決平成29年12月26日は、虐待の事実が認定できないことから、承認申立てを却下しています)。また、どれか一つの事実ではなく、各事情を総合的に考慮していることも分かります。
他方で、各裁判例からは、①虐待等の事実の有無、②対象となる子どもの意見、③精神科医の診断、④親権者の態度(反省状況)を含む環境改善の内容(その具体性)等が重要になっているのが分かります。
3 本件における具体的検討
本件においては、あなたがどのような形で虐待にかかわっていたのか、虐待の程度、お子様がどのように考えているか、ということが不透明なので、見通しは明確ではありませんが、少なくとも、現時点で、虐待の原因となっている夫との別居や離婚が実現していないことが気になります。上記の通り「意思の表明だけ」ではあまり説得的ではありませんし、早急に環境を整える(別居や離婚を実施し、)必要があると考えられます。
第4 審判後の対応とまとめ
この承認の審判については、2週間以内に即時抗告という形で不服の申立ができます(家事事件手続法238条)。ただし、当然判断が変わるためのハードルは高いですから、まずは入所措置を回避するよう児童相談所と協議をする、審判においては、上記の要素を意識しながら、環境調整や、それを踏まえた意見の陳述をおこなう必要がある、ということになります。
上記の通り、家庭裁判所に承認の審判申立てがなされてから終結(結論がでる)までの期間は短いですし、そもそも申立人たる児童相談所は、その前の一時保護の時点で十分に申立ての準備をしていることになります(上記審判例の通り、その間の親権者の振る舞いや言動も、審判を決める要素になります)。
そのため、とにかく早い段階で、弁護士に相談されることをお勧めします。
以上