複数回の児童買春事件の併合処罰について
刑事|児童買春の初犯ではあるが余罪が複数ある場合の併合処理の要請|児童買春の罪数と再逮捕を回避するための方策
目次
質問
私は、SNSで援助交際を募集している女子高生(16歳)と連絡を取り、現金3万円を交付して性行為をしたという児童買春の容疑で警察に逮捕されてしまいました。現在は釈放され、自宅で処分を待っておりますが、実は私は、逮捕されている件以外にも、他の県で女子高生(15歳から16歳)と児童買春行為を何回か行っていました。この事実は、携帯電話にも記録が残っておりますので、警察にも話しております。警察の方からは、「他の県のことについてはウチが管轄じゃないから知らないけど、今回の件については罰金になるだろう。」と言われています。
仮に、今回の件で罰金刑となった場合、他の余罪については逮捕や処罰はされないのでしょうか。余罪について逮捕や処罰を回避するにはどうしたら良いでしょうか。
回答
1 児童買春の罪は、買春行為1件ごとに別個に1罪ずつ成立します。そのため、現在捜査を受けている件の捜査が終結して罰金を支払った後に、別の児童に対する事件で再度逮捕・勾留される可能性は否定できません。特に余罪が別の都道府県の場合には、警察間で情報共有がされておらず、数か月後に別の警察により再度逮捕される、ということもあります。
2 これを避けるためには、現在の捜査機関に対して、余罪の件についても詳細に自白するなどして事件として係属させ、本件と同時に処分するように要請することが考えられます。
3 もっとも、複数の児童買春罪について同時に処分されると、処分結果が重くなり、罰金で済まずに公判請求(正式な裁判)等になる危険性も高まります。現在の捜査機関に余罪の同時処分をどこまで請求するかは、余罪の件数、証拠関係、その他の犯情を踏まえた処分の見通し、及び今後に余罪で再逮捕される危険性の多寡とその不利益の程度を、総合的に考慮して判断する必要があります。その判断は非常に難しい側面がありますので、同種事案の経験の多い弁護士に相談することをお勧め致します。
4 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 児童買春罪の罪数について
あなたは、1件(被害児童一人について1回の買春行為)の児童買春罪について捜査を受けているとのことですが、児童買春罪を複数人の別の児童に対して実行している場合、その回数の分だけ、児童買春罪が成立することになります。
そして、捜査機関の行う逮捕、勾留といった処分は、原則として、ある罪1個につき1回行うことが可能です。そのため、数個の児童買春罪が存在する場合には、その数だけ逮捕や勾留の処分を行うことが可能となります。
この点、余罪についても同じ捜査機関が捜査を進めている場合には、一度釈放されている段階で、罪証隠滅や逃亡のおそれが存在しないと判断されていることが前提となりますから、余罪について再度逮捕や勾留の処分を行うことは法律上は可能ですが、実際には多くありません。
一方で、捜査機関は、基本的に各都道府県警察の管轄内でしか捜査情報を共有していないことも多く、例えば、さいたま県警で本件の捜査を受けている間に、別途千葉県警でも別の児童に対する児童買春事件を捜査している、ということはしばしば存在します。特に児童買春事件は、相手児童の補導等をきっかけに事後的に遡及して捜査が開始されることが多く、現行犯の立件が主である窃盗、痴漢、盗撮等の事案に比べて、事後の再逮捕も比較的多い類型の事案であるといえます。
そのため、例え一度釈放された後でも、余罪について再度逮捕される危険性は軽視できるものではありません。
なお、仮に本件について罰金等により刑事処罰が下された後でも、この余罪捜査の危険性は存在します。児童買春罪は、それぞれ相手児童毎に別個に成立する罪であり、法律上は併合罪(刑法45条)となります。そしてこの併合罪にある複数の罪については、例えその内の一つについて裁判により罰金処分が決定したとしても、別の罪について更に処断することが可能です。そのため、一度処罰が下された後でも、余罪が未処理で残存している限り、やはり再逮捕の危険性は存在することになります。
2 再逮捕を回避するための方法
(1)併合処理の要請
以上のような、今後の再逮捕の危険を回避する方策としては、現在捜査を受けている捜査機関に対して事実関係を告白し、同時に処分するように要請する手段が考えられます。この場合、捜査機関からは、「別の件は他の県警の管轄だから関係ない」等と言われて捜査を拒絶される場合もありますが、弁護人から正式に自首と言う形で書類等を提出すれば、事件として受理を拒否することは原則としてできません(別の捜査機関がすでに捜査に着手している場合は法律上の刑の減軽事由としての自首には該当しませんが、当該捜査機関としては自主として受理することを拒否することはできません)。
同じ捜査機関が捜査を進めており、しかも積極的に自白している事件については、現時点での逮捕勾留事実に加えて余罪として処理される場合が多く(捜査の必要上、勾留延長となる可能性は高くなりますが)再度の逮捕勾留に至ることは少ないですし、一度事件として処分を受けてしまえば、同じ事件につき再度捜査を受けることはないため、事件終結後に再度逮捕される危険性はなくなります。
(2)併合処理、別件処理の場合の比較について
一方で、余罪について自白して併合処分を要請するとなると、複数個の罪に対して処罰を受けることになりますので、1個の罪について処罰を受ける場合に比べて、当然、その刑罰は重くなってしまうことが予想されます。
例えば、初犯で児童買春罪1件であれば、特段の悪質性等の事情が無い限り、50万円程度の罰金刑で終わることが多いと言えますが、児童買春罪を3件程度まとめて処罰するということになると、罰金刑では納まらず、正式な裁判(公判請求)となり、懲役2年・執行猶予4年等の重い処罰となる可能性が高いです。これ以上に余罪があるとなると、実刑の可能性も高まります。
そのため、余罪の件数や罪質によっては、現在の捜査機関が特段捜査をしていない(立件の予定がない)余罪についてまで積極的に併合処理を求めることはせず、単独で処罰を受けた方が良い(余罪については、必要に応じて先回りして示談をするなどして備えるに留める)というケースもあります。
(3)事件の見通しについて
今回のあなたのようなケースで、余罪について積極的に併合処理を要請すべきか否かは、非常に難しい問題です。余罪の程度によっては量刑についてよっては、併合して処理してもらい、今後の逮捕の可能性を摘み取って安心するという利益の方が大きいでしょうが、場合によっては、捜査中の事件についてのみ単独で処分を受けて、余罪については立件された場合に事後的に対応する、という方が良い場合もあります。
もっとも、量刑の見通しについては、単純に判断できるものではありません。上記はあくまで一般的な基準であり、実際の量刑は、犯行の悪質性、被害者との示談の成否、前科・前歴の有無、被告人への社会的制裁、その他の様々な事情も含めて判断されますので、単純に罪の個数で判断できるものではありません。
また次項で述べるように、児童買春罪は、状況や検察官の考え方によって示談の効力が大きく変わってくることも多い類型の事案です。
そのため、どのような方針で事件を進めるのがあなたにとって最も利益が大きいのかを判断するためには、弁護人においてよく事案を検討し、類似事例に関する先例等とも比較した上で、担当検察官と協議し、余罪の立件の可能性をも探る必要があります。
このような判断は、同種事案の経験が多い弁護士でないと不可能でしょう。
(4)示談について
なお、児童買春罪の場合、示談が量刑に与える影響は、必ずしも大きくないケースはあります。例えば、児童買春罪1件の場合、示談が成立したとしても不起訴処分となる可能性は、それほど高くはありません。一方で、複数個の児童買春罪が存在する場合にそのうちのいくつかで示談が成立すると、有意に量刑が引き下げることが可能なケースは多いです。
具体的には、本来ならば公判請求相当の事案が罰金となる、罰金の金額が大幅に下がる、示談が成立している事件については不起訴となる、等、示談が量刑において大きく考慮されることは多いです。
これは、検察官の判断として、事件が1件のみの場合に不起訴処分としてしまうと、刑事処罰が存在しない結果となり、処分として軽きに過ぎる結果となるが、複数個の事件がありそのうちの一つで刑事処罰を科すことが可能なのであれば、その余の件については示談の成立を量刑に反映させて不起訴処分としても、総合的な処分として軽すぎる結果とはならない、という考慮があると推測されます。
どこまで示談が量刑上考慮されるかは、担当検察官による違いも大きく、この点は弁護人がよく担当検察官と協議して見極める必要があります。
4 まとめ
刑事手続きの対処は、逮捕による報道・身柄拘束等の重大な不利益に関わります。本件のように複数の余罪が存在する場合、その対応によってその後の手続きが大幅に変わるところ、事件処理方針の正確かつ適切な判断は、類似事案に精通した弁護士でないと不可能です。
思わぬ不利益を受けないためにも、よく弁護士に相談することをお勧め致します。
以上