相続分の譲渡と錯誤無効の主張の可否

相続|相続分の譲渡に応じた後に無効を主張することはできるか|改正民法95条|広島高裁松江支部平成2年9月25日決定

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

先日、私の父が死亡しました。相続人は、兄、姉、私でした。私は、兄から、「父の遺産は殆ど存在しない。借金もあるから、相続しない方が良い。100万円だけお前に渡しておく。」等と言われ、兄が準備した、100万円で私の相続分を兄に譲渡するという契約書にサインしてしまいました。

しかし、後に姉から聞いたところ、じつは実は父には多額3000万円程度の預金があり、借金も殆どないことが判明しました。

私は、今からでも本来貰えるはずだった相続分を請求することは可能でしょうか。

回答

1 相続分の譲渡の契約を、錯誤を理由に無効(平成29年法改正、施行日令和2年4月1日以後の意思表示では無効ではなく取消の主張となります。改正民法95条1項2号)の主張をすることにより、本来の相続分の請求をすることが可能です。

相続分の譲渡とは、被相続人の相続財産について、自分が有する法定相続分を他の人に移転する契約のことをいいます(民法905条)。

本件では、本来、あなた、兄及び姉がそれぞれ3分の1ずつの法定相続分を有していることになりますが、相談者の相続分が兄に譲渡されていますので、その後の遺産分割協議の中では、兄の相続分が3分の2、姉の相続分が3分の1として進められ、遺産分割により相続する権利はないことになります。

なお、相続分の譲渡をしたとしても、遺産に属する債務の移転については、債権者には対抗できないと考えられています。そのため本件では、あなたがお父様の借金の貸主から返済の請求を受けた場合、これに応じざるをえない可能性があります(負債について責任を逃れるには相続放棄の手続きが必要です。また相続放棄の場合は放棄した人の相続分は他の相続人に平等に移転することになります。ご相談の場合はお兄様とお姉さまの相続分が2分の1ずつということになります)。

2 しかし本件であなたは、「父の遺産は殆どない」と思い込んで譲渡をしたところ、実際には、実際には、3000万円程度の遺産があったとのことですので、相続分の譲渡が「錯誤」(民法95条)により無効であると主張することが考えられます。

裁判例においても、遺産の総額が、実際に存在していた遺産よりも少ないものと誤信した状態で行った相続分の譲渡が無効と判断された事例がございます。その裁判例では、相続分譲渡の対価が合理的に算定されたものであるか、譲渡時に遺産総額にどれだけ関心を示していたか(譲渡の理由、根拠が遺産総額についてのものか否か)、実際の遺産の金額と誤信した金額の差額が大きいか、等を主な判断のポイントとしています。

3 相続分の譲渡に一旦応じてしまった場合、それを無効とするのは容易ではありませんが(お兄様が相続分の譲渡が有効であると主張する場合、地方裁判所で相続分の譲渡が無効であったことの確認判決が必要です)、裁判所が無効と判断する際のポイントを理解し、法的手続きにおいて理論的に主張を行えば、本来の相続分を取り戻せる可能性は十分存在します。まずは、お近くの弁護士に相談してみることをお勧め致します。

4 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 相続分の譲渡の効果

相続分の譲渡とは、被相続人の相続財産について、自分が有する法定相続分(債権と債務とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分)を移転することをいいます(民法905条)。

相続分を譲渡した人は、基本的に相続人ではなくなりますので、遺産分割調停等にも参加する必要は無くなります。代わりに譲受人が、譲渡人の法定相続分をそのまま受け継ぎます。

本件の例でいうと、本来の相続分は、相談者、兄、姉がそれぞれ3分の1ずつの法定相続分を有していることになりますが、相談者の相続分が兄に譲渡されていますので、その後の遺産分割協議の中では、兄の相続分が3分の2、姉の相続分が3分の1として進められることになります。

譲受人は、他の共同相続人でも、第三者でも構いません。ただし、第三者が相続に介入することを避けたい場合、他の共同相続人は、その価額及び費用を第三者に償還して、その相続分を譲り受けることができる権利があります(民法905条2項)。

なお、相続分の譲渡をしたとしても、遺産に属する債務の移転については、債権者には対抗できないと考えられています。そのため本件では、あなたがお父様の借金の貸主から返済の請求を受けた場合、これに応じざるをえない可能性があります。

2 錯誤による無効の主張

(1) 錯誤(民法95条)の要件

ア 本件であなたは、兄から提示を受けた相続分譲渡の契約書にサインしてしまったとのことですので、基本的には、相続分譲渡は有効に成立しており、今から自己の法定相続分を主張することはできません。

しかし本件では、譲渡の意思表示に際して、兄から「父の遺産はほとんど無い。借金があるから、相続しない方が良い。」等と言われ、それを信じて譲渡に応じてしまっていたところ、実際には、3000万円程度の遺産があったとのことですので、相続分の譲渡が「錯誤」により無効であると主張することが考えられます。

やや講学上の説明となりますが、民法における錯誤(95条)とは、伝統的には内心的効果意思(一定の法律効果の発生を意図しているとみられる意思。言い換えれば、真意のことをいいます。)と表示行為から推測される意思(表示上の効果意思)の食い違いをいい、その食い違いを意思表示者が知らず、かつ、意思表示の重要な部分について食い違いがある場合、意思表示をした者が重過失によって錯誤に陥ったのでなければ、その意思表示は無効とされるのです。

そして、その錯誤は、法律行為の「要素」の錯誤であることが必要です。「要素」の錯誤であると言えるためには、その錯誤がなかったら当該意思表示をしなかったであろうという因果関係あり、それが通常人においても同様に認められるであろうという重要性を備えていることが必要です。

典型的なのが、表示上の錯誤です。表示上の錯誤とは、誤記や誤談のことであり(例えば契約書の購入代金の欄に「100万円」と記入しようと思ったが、うっかり「100万ドル」と書いてしまった場合)、示された表示と効果意思との間に齟齬があります。

イ これに対して、本件は、「相続分を兄に100万円で譲渡する」という点については、あなたの内心的効果意思も、表示された意思も一致しているため、表示錯誤には該当しません。

本件でずれがあるのは、相続分を譲渡するという効果意思を形成する動機、つまり「遺産は1000万円しかないと考えていたが、実際は3000万円近くの遺産があった」という食い違いであり、このようなケースは「動機の錯誤」と呼ばれます。

このような動機の錯誤について、実務上は、その動機が相手方に表示(明示・黙示を含む)されて意思表示の「要素」となっているときにかぎり、例外的に法律行為の内容の錯誤となり95条の適用があるとされています。錯誤とは、内心的効果意思と表示との不一致を表示者が知らないことであるから、動機は意思表示の内容となるものではないが、ただ、表示された動機は、意思表示の内容となり、その限りで錯誤の影響を受けること、また、表示を要求することによって、表意者本人の保護と取引の安全とを調和させることができることがその根拠として挙げられています。

そのため、本件でも、あなたが相続分の譲渡に応じた「動機」=(遺産の金額)が、相手方である兄に対して黙示的又は明示的に表示されており、意思表示の要素となっていれば、相続分の譲渡が無効であると主張できることになります。この点は、改正民法では95条1項2号で明文化されております。貴方の場合は、改正法施行前の意思表示ですので旧法が適用になります。

(2) 裁判例における検討

ア では、いかなる状況であれば、遺産の金額が意思表示の要素であったと認められるでしょうか。

この点、本件類似の事案で、錯誤を理由として相続分の譲渡の無効を認めた事例として、広島高裁松江支部平成2年9月25日決定があります。

同決定の事案は、純粋な相続分の譲渡の事案ではなく、遺産分割協議の名目で、実質的な相続分の譲渡が行われた事案です。この事案において、裁判所は、「遺産分割においては、その分割の対象となる遺産の範囲が重要な意義をもつことに鑑みれば、相続権の行使における意思表示においても、その前提となる遺産の範囲が重要な意義をもち、この点に関する錯誤は、特段の事情がない限り、要素の錯誤にあたるものというべきである。」として、遺産の金額に関する錯誤が、要素の錯誤に該当することを示しています。

そして、当該事案において、要素の錯誤と認められるか否かについて、 「もともと抗告人らの取得金額の決定が一定の合理的な算定基準によるものではなかつたこと、抗告人らにおいて、他の相続人らの取得額に関心をもつたと窺える形跡がみられないこと、また、抗告人らは、相手方Aに被相続人の祭祀の世話を委ねるため、法定相続分の全額までを要求する意思ではなかつたことが認められるけれども、一方において、抗告人らが、遺産である預金の総額を全く度外視して各自の取得金額を決定したといい切るだけの特段の事情は認められず、真実の預金額と抗告人らの誤信した預金額との差額も約534万円と大きいこと、抗告人らはいずれも各4分の1ずつのいわば大口の法定相続分を有する相続人であること」等の点を挙げ、相続分の処分に関する意思表示を無効としています(番号は、筆者付記)。

整理すると、同決定では、①そもそも相続分譲渡の対価が相続財産からして合理的な算定ではなかったこと、②遺産分割協議に加わりたくない何かの理由があるなど遺産となる預金の総額を無視して譲渡に応じたという事情はないこと、③実際の預金の金額と誤信した金額の差額が大きく相続分も大口であること、等の事情が、要素の錯誤の判断において重要と考えていると判断できます。

イ 反対に、相続分の譲渡における遺産総額の錯誤が、要素の錯誤に当たらないと判断した事例として、東京地裁平成28年2月15日の決定があります。同裁判例は次のように判示して錯誤による無効を認めませんでした。

(1) 原告は、Bの話から遺産がほとんどないと誤信して、本件相続分譲渡証書を作成し、被告に相続分を譲渡したもので、上記相続分譲渡は錯誤により無効である旨を主張する。

(2) 動機の錯誤により意思表示が無効となるのは、上記の動機が表示されて意思表示の要素となっている場合であるところ、前記前提事実及び上記認定事実によれば、原告が、本件相続分譲渡証書の作成に際して、遺産がほとんどないことを理由に相続分を譲渡するとの動機を表示していたものとは認められない。原告は、被告とFが遺産分割で揉めていることを聞いていたが、どの程度の遺産があるのかについては関心がなく、面倒なことに巻き込まれるのは嫌だと思っていた旨を述べており(原告本人)、本件相続分譲渡証書の作成に際しても、遺産の内容を確認することもせずに署名押印して返送し、返送時に同封した手紙に早期の解決を願うとの趣旨を記載していることは前記前提事実記載のとおりである。また、原告が、上記のとおり、被告とFが遺産分割で揉めていることを知っていたことからすれば、遺産の具体的な内容には無関心であっても、相応の遺産があることは推測することができ、遺産がほとんどないと誤信することは考えにくく、原告が被告に相続分を譲渡したのは、遺産分割をめぐる相続人間の揉め事に関わりたくないとの考えが主たる動機であったことが推認されるというべきである。

(3) 以上によれば、原告が、Aの遺産がほとんどないと誤信して、被告に相続分を譲渡したものと認めることはできず、仮にこれを前提としても、原告が上記の動機を表示し、これが被告に対する相続分譲渡の意思表示の要素となっていたものと認めることはできない。

この決定は、④原告(譲渡人)が相続分譲渡の書面に署名した際に、特段、遺産の総額について関心を示していなかったこと、⑤他の共同相続人が譲受人と遺産で紛争になっていたことを知った上で譲渡に応じていることなどから、相続分譲渡の主な動機は、遺産の総額が少ないことではなく、揉め事に関わりたくないという考えであると推認しています。そして、少なくとも⑥相続分譲渡の動機が遺産総額が少ないと考えている点であることを相手方に表示されていないとして、錯誤無効を否定しています。

3 本件で無効が認められるための主張の内容

以上を前提に、本件で、相続分の譲渡が無効であると認められるためにどのような主張を行うべきかについて検討します。

まず、上記裁判例で挙げられている①の要素について、本件では、そもそも相続分譲渡の対価を100万円とすることには合理的な理由がないため、この点では相続分の譲渡が無効とされる可能性がありますので、その不当性について積極的に主張する必要があります。

また③の実際の相続分との差額という点についても、遺産が3000万円であれば、あなたの法定相続分は1000万円となりますので、受け取った相続分譲渡の対価である100万円との差は大きく、十分に判断の要素と認められる差額であると言えます。

さらに、裁判所は、②、④、⑥で挙げたように、相続分の譲渡に応じた際に、遺産となる預金の総額についてどれだけ関心を示していたか、そしてそれを相手に表示していたかを重視していまので、本件でも、あなたが相続分の譲渡に応じた理由は、兄から遺産の金額がほとんど存在しないという説明を受けたからであることを主張・立証する必要があります。立証のためには、協議の経緯に関する手紙やメールのやり取りがあれば、動機を裏付ける有力な証拠となりますが、そのような客観証拠がない場合、当事者の供述が重要な証拠となります。そのため、相手方との交渉の際には、可能な限り、動機の表示があったという前提を固めるように策を講じる必要があります。相手方とうかつに交渉することは避け、可能な限り早急に弁護士に依頼して上で、無効を主張するための方法について相談することをお勧めします。

4 まとめ

相続分の譲渡に一旦応じてしまった場合、それを無効とするのは容易ではありませんが、裁判所が判断する際のポイントを理解し、法的手続きにおいて理論的に主張を行えば、本来の相続分を取り戻せる可能性は十分存在します。

まずは、お近くの弁護士に相談してみることをお勧め致します。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

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参照条文
民法

(錯誤)
第95条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

(改正民法)
第95条
1.意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

【附則】

(意思表示に関する経過措置)
第6条
1 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

(相続分の取戻権)
第905条
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。

参考判例
広島高裁松江支部平成2年9月25日決定

2 右によれば、抗告人らは、被相続人の遺産である預金の額が真実は約2434万円(元利合計)であるにもかかわらず、相手方加藤和弥の虚偽の説明によつて約1900万円であると誤信したうえ、本件相続権の行使につき、抗告人島田年次は550万円、同藤井政江は300万円を各取得し、その余の請求はしない旨の各意思表示に及んだことが明らかである。

遺産分割においては、その分割の対象となる遺産の範囲が重要な意義をもつことに鑑みれば、相続権の行使における意思表示においても、その前提となる遺産の範囲が重要な意義をもち、この点に関する錯誤は、特段の事情がない限り、要素の錯誤にあたるものというべきである。

これを本件についてみるに、もともと抗告人らの取得金額の決定が一定の合理的な算定基準によるものではなかつたこと、抗告人らにおいて、他の相続人らの取得額に関心をもつたと窺える形跡がみられないこと、また、抗告人らは、相手方加藤和弥に被相続人の祭祀の世話を委ねるため、法定相続分の全額までを要求する意思ではなかつたことが認められるけれども、一方において、抗告人らが、遺産である預金の総額を全く度外視して各自の取得金額を決定したといい切るだけの特段の事情は認められず、真実の預金額と抗告人らの誤信した預金額との差額も約534万円と大きいこと、抗告人らはいずれも各4分の1ずつのいわば大口の法定相続分を有する相続人であること等の諸点に照らせば、抗告人らの右各錯誤は要素の錯誤にあたり、抗告人らの右各意思表示は無効と解すべきである。

東京地裁平成28年2月15日決定

2 争点1(原告から被告に対する相続分譲渡の効力)について

(1) 原告は、Bの話から遺産がほとんどないと誤信して、本件相続分譲渡証書を作成し、被告に相続分を譲渡したもので、上記相続分譲渡は錯誤により無効である旨を主張する。

(2) しかしながら、原告の上記主張は、相続分譲渡の意思表示の動機に錯誤があったことを主張するもので、動機の錯誤により意思表示が無効となるのは、上記の動機が表示されて意思表示の要素となっている場合であるところ、前記前提事実及び上記認定事実によれば、原告が、本件相続分譲渡証書の作成に際して、遺産がほとんどないことを理由に相続分を譲渡するとの動機を表示していたものとは認められない。原告は、被告とFが遺産分割で揉めていることを聞いていたが、どの程度の遺産があるのかについては関心がなく、面倒なことに巻き込まれるのは嫌だと思っていた旨を述べており(原告本人)、本件相続分譲渡証書の作成に際しても、遺産の内容を確認することもせずに署名押印して返送し、返送時に同封した手紙に早期の解決を願うとの趣旨を記載していることは前記前提事実記載のとおりである。また、原告が、上記のとおり、被告とFが遺産分割で揉めていることを知っていたことからすれば、遺産の具体的な内容には無関心であっても、相応の遺産があることは推測することができ、遺産がほとんどないと誤信することは考えにくく、原告が被告に相続分を譲渡したのは、遺産分割をめぐる相続人間の揉め事に関わりたくないとの考えが主たる動機であったことが推認されるというべきである。

(3) 以上によれば、原告が、Aの遺産がほとんどないと誤信して、被告に相続分を譲渡したものと認めることはできず、仮にこれを前提としても、原告が上記の動機を表示し、これが被告に対する相続分譲渡の意思表示の要素となっていたものと認めることはできない。

したがって、原告の被告に対する相続分譲渡が錯誤により無効であるとの原告の主張は認められないというべきである。

(4) なお、原告は、Aの相続についてBから連絡があったのは平成25年が初めてで、平成21年に遺産分割協議の話は聞いておらず、したがって、関わりたくないから上記協議に欠席すると言ったこともない旨を述べるが(原告本人)、原告の記憶にはあいまいな点があり、平成25年の本件遺産分割協議及びこれに先立つ本件相続分譲渡証書の作成等の経過についても、当初、本件相続分譲渡証書を本件遺産分割協議の日に持参し、協議の前に被告に手渡した旨を主張していたものを、被告から本件相続分譲渡証書の郵便でのやり取りに関する主張や当時の封筒及び同封した手紙を書証として提出されたことを受けて、従前の主張を変更しており、原告の上記供述は信用性に乏しい。

その他、原告の供述は、前記認定を覆すに足りるものとは認められない。