仮釈放と被害者に対する対応
刑事|仮釈放制度の概要|被害者がいる事案での仮釈放
目次
質問
私の息子は、強制性交等罪で3年の実刑判決を受けました。現在、収監から2年が経過しています。仮釈放を希望しているのですが、具体的にどのような準備をする必要がありますか。
回答
更生保護法に定める仮釈放は、対象者が収容されている刑事施設の長(刑務所長)が、地方更生保護委員会(更生保護法16条以下)へ「仮釈放を許すべき旨の申出」をし、(法34条1項)、この「申出」を受けた地方更生保護委員会が、評議を経て、仮釈放を許す旨の決定をして認められます(法39条)
刑事施設の長は、仮釈放の要件が満たされている場合、地方更生保護委員会へ仮釈放を許すべき旨の申し出をする義務を負っていますが(法34条1項)、後述のとおり、その他の方法による仮釈放の審査の開始は実務上用いられていないこと、また「申出」がなされたにも関わらず仮釈放の決定が出されていないケース(棄却率)が低いことからすれば、刑事施設の長に対して、本件について仮釈放の要件を充たしていることを説得することがまず重要ということになります。
仮釈放の具体的要件については、下記解説で詳述しますが、検討が必要なのは、本件が被害者のいる犯罪である、という点です。犯罪被害者支援の一環として、仮釈放に際して、被害者等の意見を聞くことができる旨法定されています。後述のとおり、仮釈放の趣旨からすると、被害者の生の意見を取り入れることには疑問の余地もあるのですが、法定されている以上、これを踏まえて対応するべきですし、誠実な謝罪と示談の申し入れは、この点を除いた仮釈放の要件においてもプラスに働きます。
ただし、具体的な謝罪の方法、例えばこの仮釈放のタイミングで改めて示談を申し入れるべきか、(申し入れるとして)どのような提案をするべきか等については、過去(当該刑事事件が継続していた際)の謝罪・示談の経過や成否、被害者の当時の意向や意見によって変わるところです。
本件については過去の経緯について不明ですが、本件をはじめとして、実刑になっている事案であることを考えれば、示談についても慎重になる必要があります。まずはお近くの弁護士に相談することをお勧めいたします。
その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 仮釈放とは
仮釈放とは、刑務所等の矯正施設に収容されている人を、収容期間(刑期)の満了前に釈放して、「社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ」「改善更生することを助ける」(更生保護法1条)制度です。
平成30年度の犯罪白書によれば、平成29年次において、収容期間の満期まで釈放されなかった人が9238人、仮釈放制度によって収容期間満了前に釈放された人が1万2760人で、仮釈放率が58%となっています。
個別の事案を考慮しない総数なので、大まかな指針ですが、仮釈放は収監されている人が誰でも受けられるものではないことが分かります。
そこで以下では、仮釈放の流れ(手続)と要件について概説したうえで、本件のように被害者がいる犯罪における特殊な制度と、仮釈放との関係について説明します。なお、手続と要件についての詳細については、本ホームページ事例集『仮釈放の要件と手続|弁護人との協議』をご覧ください。
2 仮釈放の手続
(1) 具体的な仮釈放の手続の流れですが、実質的な「仮釈放の手続」のスタートは、刑事施設の長(刑務所長)による、地方更生保護委員会(更生保護法16条以下)への「仮釈放を許すべき旨の申出」です(法34条1項)。この「申出」を受けた地方更生保護委員会が、評議を経て、仮釈放を許す旨の決定をすることになります(法39条)。
なお、申出がなくても、地方更生保護委員会は、独自に仮釈放の決定をすることができるのです(法35条)が、実際はあまり実施されていません。
そのため、この刑事施設の長による申出が、現在の実務上の仮釈放の端緒ということになります。
(2) この「仮釈放を許すべき旨の申出」は、「前条の期間が経過し、かつ、法務省令で定める基準に該当すると認めるとき」にしなければならない、とされています(法34条1項)。「期間の経過」と「法務省令で定める基準」とは、後述のとおり、仮釈放の要件を指します。
要するに、刑務所長が「仮釈放の要件を充たすと認めるとき」には申出がなされる(しなければならない)ということです。
(3) そして、平成30年度の犯罪白書によれば、平成29年次において、申出があったにもかかわらず仮釈放が認められなかった割合(棄却率)は4.4%でした。
以上からすると、刑事施設の長から地方更生保護委員会に対してなされる申出の重要性が高いことが分かりますし、仮釈放の実現のためにしなければならないことは、まず、仮釈放の要件を充たしていることについて、刑務所長を説得する、ということになります。
3 仮釈放の要件
続いて、仮釈放の要件ですが、大きく形式的要件と実質的要件に分けることができます。
(1)形式的要件
まず、形式的要件ですが、刑法28条に規定のある、期間の経過です。有期刑についてはその刑期の3分の1、無期刑については10年が、同法に規定する期間になっています。
この期間が経過していれば、仮釈放の形式的な要件を充たすということになるのですが、(有期刑の場合)3分の1経過してすぐに仮釈放が認められることは稀です。
平成30年の犯罪白書によれば、平成29年において、本件のような3年以下の刑期における刑の執行率(仮釈放が許可された人の執行すべき刑期に対する出所までの執行期間の比率)は、執行率90%以上が34.3%、執行率90%未満80%以上が44.8%、執行率80%未満70%以上が19.5%、執行率70%未満が1.4%です。
つまり、刑期の3分の1(=執行率33.3%)での仮釈放は1.4%で、おおよそ刑期の3分の2以上の経過があってからが重要、ということになります。
なお、そうだからと言って、3分の2以上の経過を待つ、という必要はありません。形式的要件を充たした場合には、刑務所長から地方更生保護委員会への通告が義務付けられている(法33条)ことからも、少なくとも刑務所長への働きかけを始めることは無駄になるものではありません。
(2)実質的要件
続いて、実質的な要件ですが、刑法28条の「改悛の状」がこれに当たります。その具体的な内容は、「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」28条に記載があり、同規則では「悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない。」としています。
これを分けると、①悔悟の情と改善更生の意欲があること、②再犯のおそれがないこと、③保護観察に付することが改善更生のために相当であること、という積極的要件と、④社会の感情がこれを是認すると認められない場合でないことという消極的要件となります。
各要件の詳細については、本ホームページ事例集『仮釈放の要件と手続|弁護人との協議』をご参照いただければと思いますが、中心となるのは、①の悔悟の情と改善更生の意欲の要件であり、これが他の実質的要件に先んじて判断されます。
そして、①悔悟の情と改善更生の意欲があれば、通常は②再犯のおそれはないといえるため、この②の要件は、①の要件を充たしたことによる再犯のおそれの不存在を否定するような事情の不存在ということになります。
なお、③の保護観察に付することが改善更生のために相当であることという要件も、①の充足によって推認されるものではありますが、①と②の要件の充足を充足したうえでの総合的な要件(①と②を包括する要件)として、総合的・実質的に判断されることになっています。
消極的要件である④社会の感情ですが、これは社会正義(社会通念上の正義)、帰住地感情、被害者感情を指すとされています。これらは抽象的・観念的なものと考えられているため、①(及び②・③)の要件を充足することで一応推認されると考えられています。
他方で、このうち被害者感情については、後述とおり特別な制度が設けられています。
4 仮釈放手続における被害者のかかわり
(1) 以上が、仮釈放の手続と要件なのですが、本件のように被害者がいる犯罪の場合、もう一点考慮しなければならない要素があります。それが、更生保護法38条に定める、被害者等の意見等の聴取の制度です。
(2) この制度は、仮釈放審理の段階で、被害者等(①犯罪被害者、②その法定代理人、③被害者が死亡した場合等の配偶者、直系親族または兄弟姉妹)が、地方更生保護委員会に対して、仮釈放に関する意見や被害に関する心情について述べることができる、という制度です。
法38条からすると、被害者等からの「申出」があった場合に限られているのですが、実務上は、地方更生保護委員会から該当の被害者に対して、制度の概要を説明する書面を送付することで通知している運用になっているようです。
(3) そもそも、仮釈放の要件中の「社会の感情」に被害者感情が含まれることがあるとしても、上記のとおりここでいう「被害者感情」は、本来は抽象的・観念的なものであり、事案によって必ずしも被害者本人の意見ではなく、事案の性質や受刑者の態度から導かれるものが想定されていました。
しかし、この被害者等の意見聴取制度は、被害者の意見そのものを聴取する制度であるため、地方更生保護委員会の評議に与える影響は無視できません。
平成30年の犯罪白書によれば、平成29年の意見聴取は、延べ334件実施されています。数としては多くない印象ですが、やはり考慮しないわけにはいかない、ということになろうかと思います。
5 具体的な対応
(1) それを踏まえての具体的な対応としては、やはり被害者との間での、改めての謝罪と示談を検討する、ということになります。
誠実な謝罪と示談の申し入れは、直接的に仮釈放の要件にも影響します。適切な謝罪と示談の意向を示すこと自体は、①悔悟の情と改善更生の意欲を示すことにもなりますし、上記のとおり④「社会の感情」としての抽象化された被害者感情にも影響しうるところです。
(2) 具体的な謝罪の方法については、刑事事件中の謝罪(示談)の成否や内容によるところです。上記のとおり、被害者意見聴取の制度からすると、このタイミングでの改めての謝罪は必要ですが、過去の合意の内容ややり取りによっては、無理に示談等の申し入れをすることは不要である可能性もあります(その場合、過去の合意の事実をしっかりと刑務所長に示すことが求められます)。
(3) いずれにしても、本件が実刑になっていることからすると、難しい謝罪・示談になることは確実です。刑務所長への申し入れを含め、当人やご家族だけで行うことは難しいところですから、弁護士に相談されることをお勧めします。
以上