接見禁止が付された被害者との示談

刑事|被害者が別の犯罪の被疑者として逮捕勾留、接見禁止が付されている場合における当該被害者との示談交渉の可否|接見禁止決定に対する一部解除の手続き

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

子供が逮捕監禁致傷容疑で逮捕勾留されています。被害者と示談したいのですが、被害者の方も、別の犯罪の被疑者ということで逮捕勾留され、接見禁止となっています。今すぐに示談をするにはどうしたらよいでしょうか。

子供の容疑の内容は、友人ら3人と共謀して、友人の1人との間で金銭トラブルのあった共通の知人男性に対して、懲らしめるために、地面に押し倒したり、髪の毛をつかんで引きずったりするなどした上、自動車の後部座席に押し込んで、約30分にわたり走行した、というものです。男性は一連の暴行で腕の骨折や全身打撲などの怪我をしているようで、息子と一緒に事件を起こした友人らも一緒に捕まっているようです。

この度、息子に就いた国選弁護人の弁護士が、息子の意向に従い、事実を認めた上、検察官を通じて被害男性に対する示談の申入れをしようとしたようなのですが、被害男性もこの件とは無関係な特殊詐欺の容疑で勾留され、接見や書類の授受が禁止されているとのことで、結局示談の話はできなかったようです。弁護士からは示談は諦めるしかないし、示談したところで不起訴にはならないから意味がないと言われています。

このような状況で示談できる術はないものでしょうか。息子の処分の見通しや釈放の可否についても教えて下さい。

回答

1 逮捕勾留されて接見禁止となっている被害男性との示談交渉としては、被害男性の弁護人に示談交渉の申し出をする、被害男性の接見等禁止決定に対する一部解除の申立てを行い被害男性と接見して示談の交渉をする、といった方法が考えられます。

2 息子さんの行為は逮捕監禁致傷罪(刑法221条、220条)の共同正犯(刑法60条)に該当すると考えられます。3月以上15年以下の懲役と、法定刑に幅がありますが、本件のように行為態様が執拗かつ危険性の高いものであり、被害結果も重大なケースの場合、たとえ被害男性との間で示談が成立したとしても、公判請求(正式裁判請求)を回避することは非常に困難と思われます。もっとも、示談の成立は、執行猶予付き判決を獲得できる可能性を高めるとともに、保釈が許可される可能性を高めるなど、息子さんの刑事手続上大きな意味を持つものであり、被害男性に対して謝罪と被害弁償の申入れをしないという選択肢は実際上考えられないものと思われます。

3 ところが、本件では被害男性も別件で逮捕、勾留され、かつ接見禁止等決定(刑事訴訟法207条1項、81条)が付されており、これが示談交渉の障害となっているとのことです。かかる状態の被害男性と示談交渉を行うための方法としては、被害男性の弁護人に示談を申し出る、被害男性の接見等禁止決定に対する一部解除の申立てを行う、といった方法が考えられます(解説で詳しく述べていますので参考にしてみて下さい。)。まずは息子さんの弁護人に対して、これらの取りうる手段を尽くしてもらうよう要請してみることをお勧めします。

4 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 逮捕監禁致傷罪の成立

はじめに、息子さんの被疑罪名について確認しておきたいと思います。息子さんの被疑事実は、友人ら3人と共謀の上、被害男性に対して、こもごも地面に押し倒したり、髪の毛をつかんで引きずったりするなどした上、自動車の後部座席に押し込んで走行し、一連の暴行により怪我を負わせたものとのことですが、かかる行為は、暴行によって被害男性の身体を直接的に拘束してその身体活動の自由を奪うものであるとともに、走行中の自動車内から脱出することを著しく困難にするものといえ、下記の逮捕監禁致傷罪(刑法221条、220条)の共同正犯(刑法60条)に該当するものと考えられます。

刑法

(逮捕及び監禁)
第二百二十条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

(逮捕等致死傷)
第二百二十一条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

息子さんたちは、被害男性に対してこもごも暴行を加え、怪我をさせていることから、傷害罪(刑法204条)の成否が問題になるようにも思えますが、逮捕、監禁の手段として行われる暴行は逮捕監禁罪に包含されているため(大判昭和11年5月30日)、別途傷害罪が成立することはありません。

また、息子さんたちは、被害男性に対して逮捕と監禁のいずれも行っていることから、逮捕罪と監禁罪の2罪が成立するようにも思えますが、両罪は同一構成要件内の行為態様の違いに過ぎず、逮捕に引き続いて監禁した場合は刑法220条の包括的一罪と解されていることから(最大判昭和28年6月17日)、本件では逮捕監禁致傷罪の1罪のみが成立することになります。

逮捕監禁致傷罪の法定刑は、傷害罪と比較して重い刑に処される結果、3月以上15年以下の懲役とされており(刑法221条、220条、204条)、法定刑にはかなりの幅がありますが、本件のように行為態様が執拗かつ危険性の高いものであり、被害結果も重大なケースの場合、処分相場上、たとえ被害男性との間で示談が成立したとしても、一般的には検察官が息子さんたちを不起訴処分にするとは考え難く、基本的には公判請求(正式裁判請求)されることを前提に考えていく必要があるでしょう。

2 示談交渉の必要性と問題点

上記のとおり、たとえ示談の成立によっても起訴の回避が困難だとしても、被害男性に対して加害行為を行い、事実大怪我をさせている以上、実際問題として謝罪や被害弁償を含めた示談に向けた活動を行わないという選択肢は採り得ないと思われます。

たとえ起訴されたとしても、被害男性に対して謝罪や被害弁償の措置をとっていることや、示談の結果、被害男性が加害者を宥恕する意思(刑事処分を求めない旨の意思)を示していることは、執行猶予付き判決の可能性を高め、宣告刑を軽くするなど、息子さんに対する量刑上有利に斟酌されることになりますし、後述するとおり、保釈が許可される可能性を高めるという意味でも大きな効果を持つことになります。

もっとも、本件では被害男性も別件の特殊詐欺容疑で勾留され、かつ接見等禁止決定が付されているとのことです。勾留された被疑者は、原則として、弁護人以外の者と法令の範囲内で接見し、書類や物の授受をすることができますが(刑事訴訟法207条1項、80条)、逃亡や罪証隠滅のおそれが疑われる場合、接見や書類等の授受が制限されることがあり(刑事訴訟法207条1項、81条)、その際に裁判官の決定により付されるのが接見等禁止決定です。

接見等禁止決定は、一般的に罪証隠滅のおそれが高い事件類型とされる否認事件や共犯事件、組織的な犯罪などの場合に付されることが多く、本件でも被害男性は特殊詐欺という多数人の組織的関与が強く疑われる事件であるが故に、関係者らへの働きかけをはじめとする罪証隠滅が強く疑われる結果、同決定がなされているものと考えられます。

たとえ弁護士であっても、勾留されている被害男性との関係で弁護人ないし弁護人になろうとする者でない以上、接見等禁止決定が付されている被害男性と示談交渉のために直接接見したり、示談書等の書類の授受はできないことになります。そこで、このような状態の被害者との示談交渉を行うための手段について考えてみたいと思います。

3 示談交渉のために考えうる手段

(1)被害男性の弁護人との交渉

はじめに考えられるのが、被害男性の弁護人と示談交渉を行い、当該弁護人に被害男性の代理人として示談合意書等の作成に応じてもらうか、被害男性本人に示談関係書類に署名押印等してもうよう働きかけを行うという方法です。被害男性の弁護人がこうした示談のやり取りに積極的に協力してくれるようであれば、示談交渉もスムーズに実現できる可能性があります。

もっとも、特殊詐欺容疑で取調べを受けている被害男性に必ずしも弁護人が就いているとは限りません。仮に弁護人が就いていたとしても、その弁護人は、あくまで特殊詐欺の刑事弁護を行うために活動する立場にあるものであり、本来、逮捕監禁致傷事件の被害者としての立場で行う示談交渉について被害男性のために活動すべき立場にはなく、そもそもこうした示談交渉について代理権が存在しません。

弁護士としては、本件示談交渉に関する代理人活動は、特殊詐欺の刑事弁護とは別途依頼を受けて(当然ながら弁護士費用が発生することになります。)初めて行うことになり、基本的に被害男性からの依頼の意向が示されない限り関与できないことになります。

また、仮に被害男性から弁護人に対して、示談交渉についても別途依頼の意向が示されたとしても、当該弁護人が国選弁護人であった場合、国選弁護人に選任された事件について、名目のいかんを問わず報酬その他の対価を受領してはならない、とする刑事弁護に関する規律(弁護士職務基本規程49条1項)への抵触が疑われかねない事態が生じることで、受任を躊躇する可能性も考えられるでしょう。詳しくは『国選弁護人は再逮捕回避のための弁護活動をできるか』をご覧ください。

代理人としてではなく、単なる事務連絡の仲介であれば問題ないように思われるかもしれませんが、事務連絡の仲介のみの関与のつもりであっても、実質的に代理人的な立場で交渉を行うのと変わらない状況が生じることが容易に想定できるため、被害男性の弁護人に善意での協力を求めることが酷な面もあります。仲介協力を断られる可能性も十分あり得るように思われます。

(2)接見等禁止処分の一部解除の申立て

被疑者が接見禁止等決定を受けている場合の一般的な対抗策としては、①裁判所に対する準抗告の申立て(刑事訴訟法429条1項2号)と呼ばれる不服申立の手続き、②裁判官に対する接見等禁止処分について、弁護士との接見や示談関係書類等の授受を制限の対象から除外するよう、一部解除の申立てを行うこと、が考えられます。もっとも、本件では、息子さんの弁護人(弁護士であっても被害男性の弁護人ではない)の立場でかかる申立てが可能かどうかという問題が生じることになります。

結論から申し上げますと、①接見等禁止決定に対する準抗告を行うことはできないものの、②接見等禁止決定に対する一部解除の申立ては可能です。準抗告は接見等禁止決定という裁判に対する不服申立であるため、申立の主体が被疑者本人かその弁護人に限られることになりますが、一部解除の申立てについては、単に裁判官の職権発動を促すものに過ぎず、そもそも解除を申し立てる権利というものが観念されないため(被疑者本人やその弁護人であっても、一部解除を申し立てる権利があって手続きしているわけではありません。)、申立ての主体に法律上の制限はないと解されるためです。

息子さんの弁護人としては、息子さんの刑事手続の状況や示談交渉の必要性、接見の目的等についての詳細な説明書類を準備した上、一部解除の申立てを行うべきことになるでしょう。示談交渉を目的とした特殊詐欺とは無関係な弁護士との接見や示談関係書類の授受による罪証隠滅のおそれなど実際上考えられないため、一部解除を申し立てれば、認められる可能性は十分あると思われます。

4 その他の対応、見通しについて

上記のとおり、接見等禁止決定の一部解除の申立てによって示談交渉できる可能性がありますので、まずは同申立てを行ってもらうよう息子さんの弁護人に要請して頂くことをお勧めいたします。

もし理由なくこうした活動を拒まれたり腰が重い等、弁護活動に対する熱意が感じられないような場合、弁護人を替えることも選択肢の1つでしょう。弁護人を変える方法としては、私選弁護人を選任するしかありません。国選弁護人は裁判所が選任するため、解任も裁判所が行うことになり、被疑者本人が解任することはできませんし、解任には法で定めされている理由が必要となり、接見禁止決定の一部解除の申し立てをしないというだけでは、解任の理由には該当しないと考えられます。国選弁護人に辞任してもらうという方法もありますが、再度選任された国選弁護人の意見もどうなるかは不明ですので、接見禁止の一部解除申したてを行うことを了解している私選弁護人を選任するのが良いでしょう。私選弁護人が選任されると裁判所は国選弁護人の必要がなくなったことから、当然に国選弁護人を解任します。

起訴後は、身柄の早期解放のため、速やかに保釈(保釈保証金の納付を条件として、勾留の執行を停止する裁判)の申立てをすべきことになります(刑事訴訟法88条1項)。ただし、このタイミングで示談が成立していることは保釈の相当性判断の上で有利に働く事情となる一方、息子さんの事件は共犯事件かつ被害者も共通の知人の重大事案とのことで、口裏合わせや働きかけ等による罪証隠滅のおそれ(これは権利保釈除外事由に該当することになります。刑事訴訟法89条4号)が高いと判断される可能性が高いため、事案の詳細や証拠の内容等によっては保釈が認められない事態も考えられるところです。起訴後すぐの段階で認められなかったとしても、検察官請求証拠の取調べの終了等、罪証隠滅のおそれが低下した状況下で再度申し立てることで保釈が認容される可能性が十分ありますので、諦めないことです。

なお、息子さんが起訴された場合、被害者男性も時間的に起訴されている可能性があり、接見禁止は起訴される前の処分ですから起訴後は弁護人や弁護士でなくても被害男性が拒否しない限り拘置所等で面会して示談の話をすることは、法律的には可能ですし、保釈になれば誰でも面談は可能となりますから、ご自分で示談交渉をすることは可能ですが、示談の方法等弁護士に依頼して行うのが現実的でしょう。

本件は行為態様が危険かつ被害結果も重大ではありますが、被害男性との示談が成立していることで、執行猶予付き判決を得られる見込みは非常に高まることになるでしょう。刑事裁判における審理までの時間(示談交渉できる時間)は有限であるため、執行猶予を得られる可能性を高めるためにも、示談交渉をスタートできる状況を作り出すための活動を早期に開始することが望ましいといえます。

以上

関連事例集

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参照条文
刑法

(共同正犯)
第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(逮捕及び監禁)
第二百二十条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

(逮捕等致死傷)
第二百二十一条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

刑事訴訟法

第八十条 勾留されている被告人は、第三十九条第一項に規定する者以外の者と、法令の範囲内で、接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。勾引状により刑事施設に留置されている被告人も、同様である。

第八十一条 裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第三十九条第一項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる。但し、糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押えることはできない。

第八十八条 勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。

第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。