大麻所持の共同正犯と否認
刑事|大麻取締法違反(大麻取締法24条の2第1項)と無罪を主張する場合の取り調べ対応、共犯者供述の信用性の弾劾|共同正犯の成否
目次
質問
都内の大学に通う大学生(23歳)です。深夜、友人と友人の車でクラブに遊びに行く途中、駐車場に停車したところで警察官の職務質問を受け、車内に置いてあった大麻が発見されたことで、友人共々逮捕されてしまいました。
警察官から大麻であるとの指摘を受けた友人は、自分のものではない、私が持ってきたものではないかなどと弁解していましたが、実際は、友人がインターネット上の掲示板や携帯電話で密売人と連絡して購入し、保管していたもので、私たちが乗っていた自動車も友人のものですし、大麻の保管場所を知っていたのも友人だけでした。
実のところ、私と友人は、過去に、クラブに行く途中の駐車場で一緒に大麻を吸う、ということを何度かしたことがあります。いずれの際も、友人が密売人から購入した大麻を分けてもらって使っており、今回も事前に一緒に大麻を吸おうといった具体的なやり取りはなかったものの、車内で大麻を分けてもらって一緒に吸うことは友人との暗黙の了解のようになっていました。
私はこのまま友人と一緒に起訴され、処罰されてしまうのでしょうか。取調べにどのように対応すれば良いのかもよく分からず、大変不安です。
回答
1 あなたには、大麻所持罪の共同正犯(大麻取締法24条の2第1項、刑法60条)の嫌疑がかけられていると考えられます。共同正犯とは、他人が実行した犯罪行為についても正犯者(自己の犯罪を行った者)としての刑事責任を問われ得る地位にあることを意味します。伺った事情によれば、逮捕の際には大麻の保管場所を知らなかったとのことですが、あなたと友人との間に共謀、すなわち大麻所持という犯罪を共同遂行する旨の意思連絡があったと認定されてしまった場合、例えばクラブに着く前に、大麻を吸おうと約束していた場合など、あなたも大麻所持罪の共同正犯として罪責を負うことになります。
2 共謀の有無は、様々な事実関係から間接的に認定されることになりますが、本件では主に、あなた自身が犯罪の結果を欲していたか、その結果の利益を自ら享受する意思があったかどうか、犯罪の遂行に向けた重要な役割を果たしたといえる事情があったかどうか、という点が共謀認定の重要なポイントになってくるものと考えられます。
3 あなたとしては、弁護人を通じて、共謀の裏付けとなるような事情やそれを示す証拠が存在しないことを主張することで、嫌疑不十分による不起訴処分の獲得を目指すべきことになるでしょう。そのためには、あなた自身も、弁護人との打ち合わせを通して、共謀認定の上であなたにとって有利な事情、不利な事情をそれぞれ把握した上で、適切に取調べ対応(不利な事情については黙秘権を行使する等)できるようになっておく必要があります。また、友人の供述状況に照らせば、弁護人を通じて友人の供述の信用性を弾劾する(検察官に友人の供述が信用できないことを説得し、理解してもらう)ための活動も必須といえるでしょう。これらの活動の詳細について解説で述べているので参考になさって下さい。
4 より詳細な事情次第ではありますが、伺った限りの事情の下では、本件で不起訴処分を獲得できる可能性も十分あり得ると考えられます。ただし、そのためには弁護人において、捜査機関との密な折衝や、あなたとの日々の接見、打合せや、いわゆる弁面調書の作成、検察官に対する法的意見書の作成、提出等の活動を尽くすことが必要となり、弁護人には相応の熱意と経験が求められることになります。弁護人の選任にあたっては、可能な限り適任者を選定されることをお勧めいたします。
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解説
1 被疑罪名について
あなたには、大麻所持の共同正犯の嫌疑がかけられているものと考えられます。はじめに被疑罪名について確認しておきたいと思います。
(1)大麻所持罪(大麻取締法24条の2第1項)
大麻をみだりに(法律上の正当事由なく)所持した場合に成立する犯罪です。本罪は法定刑に罰金の定めのない重い犯罪であり(法定刑は5年以下の懲役のみ)、また、社会的法益に対する犯罪としての性質を有するものであることから、検察官が有罪を立証できるだけの十分な証拠があると判断した事案については、大麻がごく微量である等の場合の他は、ほぼ確実に公判請求される運用となっています。自己使用目的の個人的な単純所持の場合、初犯であれば、有罪となっても執行猶予付き判決となることが殆どです。
なお、大麻取締法は、大麻の所持を犯罪として規制しているものの、覚せい剤等とは異なり、大麻の使用については特段の罰則を設けていません。本件では、あくまで大麻の所持が問題とされていることに注意が必要です。
(2)共同正犯
本件では、実際に大麻を購入、保管していた友人のみならず、同乗していたあなたも一緒に逮捕されているとのことですから、あなたに対する嫌疑の内容は、友人と共謀の上、みだりに大麻を所持したもの、すなわち、大麻所持の共同正犯(刑法60条)であると考えられます。
共同正犯とは、2人以上が共同して犯罪を実行した場合に成立する関係を指し、他人が実行した犯罪行為についても正犯者(自己の犯罪を行った者)としての刑事責任を問われ得る地位にあることを意味するものです。
判例は、「2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の犯罪を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した」場合、互いに他人の行為を利用し、全員協力して犯罪事実を発現せしめた関係にあることを根拠に、直接実行行為を行っていない者であっても、生じた犯罪結果の全部について責任を負うことになる、としています(最大判昭和33年5月28日参照)。ここで言う謀議は、必ずしも明示的になされることを要するものではなく、共同実行の意思連絡が暗黙になされた場合であっても共同正犯は成立し得ます(最決平成15年5月1日参照)。
本件では、友人との間で事前に一緒に大麻を吸おうといった具体的なやり取りはなかったとのことですが、仮に、たとえ黙示的であれ、友人との間で共同して大麻を所持する旨の意思連絡があったと認定された場合、大麻を保管し、所持していたのがあなたではなかったとしても、友人ともども大麻所持罪の共同正犯が成立することになります。
2 共同正犯の成否について
上記のとおり、本件で大麻所持の共同正犯が成立するかどうかは、大麻所持という犯罪を共同遂行する旨の意思連絡があったかどうかという法的評価によって判断されることになり、その有無は、様々な事実関係から間接的に認定されることになるため、本件で伺った限りの事情のみで共同正犯の有無を判断することは困難です。
もっとも、過去の判例の蓄積等から、共同正犯成否の判断にあたって重要と思われるポイントが存在します。刑事手続の帰趨が左右される可能性があるため、今後捜査機関による取調べに対応していくにあたっては、かかるポイントについてしっかり理解しておくことが重要です。
(1)正犯意思の有無
第1に、犯罪の結果を欲していたか、その結果の利益を自ら享受する意思があったかどうかという点です。本件でいえば、友人が所持していた大麻を使用することによる薬理効果をあなた自身も期待していたかどうか、ということになります。
かかる事情は、あなた自身が大麻所持という犯罪の遂行に積極的であり、その結果に利害関係を有していたことを示すという意味で、自己の犯罪の遂行に向けた共謀の成立が認められやすい方向に働くことになります。
あなたの場合、過去にクラブに行く途中の駐車場で友人と一緒に大麻を吸う、ということをこれまでも何度かしたことがあるとのことですが、その回数や頻度、態様等によっては、本件でも、あなた自身が大麻所持を欲し、その薬理効果を期待していたとの推認が働く危険性が考えられるところです。
(2)犯罪における重要な役割
第2に、犯罪の遂行に向けた重要な役割を果たしているかどうかという点です。あなたと友人とのように、直接の実行行為者といわば対等な関係にあったということであれば、一方的な主従関係、支配関係があったような場合と比較して、実行行為者の犯罪遂行に向けた心理的影響力が低い分、犯罪遂行のためのある程度重要な役割を担って、はじめて共同して自己の犯罪を行ったと考えることができ、裏を返せば、何ら重要な役割を担った事実がないということであれば、共謀の成立を否定する方向に働くことになります。
逆に、例えば、密売人を紹介した、大麻の購入資金を提供した、その他友人の大麻所持を手助けしたような事情があった場合、共謀の成立が認められやすい方向に働くことになります。
(3)刑事処分の見通し
これらの観点から、大麻所持についてのあなたと友人との共謀を認定できるに足りる事情と、それを裏付ける十分な証拠があると検察官が判断した場合、あなたは起訴される可能性が高く、その場合、裁判所の判断も有罪となる可能性が高いといえるでしょう。
他方、こうした事情や証拠が不十分であると判断された場合、嫌疑不十分による不起訴処分(公訴を提起しない処分)となり、その場合、身体拘束も解かれることになります。すなわち、共謀を推認させるような事情が存在しないか、存在したとしても裏付けとなる十分な証拠が存在しない(起訴したとしても無罪となる可能性がある)ことを検察官に理解してもらうことができれば、本件で不起訴処分を獲得できる可能性が十分見込まれることになります。
3 本件での具体的対応について
以上を踏まえた、本件における具体的対応について考えてみたいと思います。
(1)取調べ対応
証拠不十分での不起訴処分を目指す以上、当然ながら、共謀の裏付けとなり得る証拠(共謀の裏付けとなり得る事情を自認する内容の供述調書当)を不用意に作出させないことが重要となります。そのためには、あなた自身が前述した共謀認定のポイントについて十分理解した上で、本件における事実関係に照らして、如何なる事情がどのように有利、不利に働くことになるのか、把握しておくことが不可欠といえます。早い段階で弁護人を選任し、詳細な事実関係について情報共有した上で打合せを重ねておく必要があります。
その上で、共謀の裏付けとなり得る事情については、黙秘権(日本国憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)を積極的に行使する等して対応するとともに、万が一、不利益な事実を認める内容の供述調書への署名・指印を求められても、調書の訂正申立権(刑事訴訟法198条4項)や署名押印拒否権(刑事訴訟法198条5項)の適切な行使により、実際の供述と異なる内容の供述調書を作成させないよう気を配る必要があります。
また、共謀の成立を否定する方向の事情については、取調時に可能な限り供述し、供述調書の内容に反映してもらうようにする必要があります。被疑者を追及する立場にある捜査機関としては、被疑者が自身に有利な事情を供述したところで、様々な理由をつけて供述調書に記載してくれない、ということも考えられますが、そのような場合は、早い段階で、弁護人の方であなた自身の事実認識を記載した供述調書(弁面調書)を作成してしまい(捜査機関が取調べで行っているのと同じ活動をすることになります。)、捜査機関に提出する、という対応が有効です。弁面調書を作成する場合、その供述に信用性を持たせるため、供述内容の具体性、迫真性、合理性、一貫性、といった点に留意しながら内容を検討していくことになります。
(2)友人の供述の信用性の弾劾
本件では、職務質問時に大麻所持を指摘された際、友人が、自分の物ではい、あなたの物ではないか、などと内容虚偽の弁解をしていたとのことですが、まずはこの点が真実に反することをしっかり主張しなければなりません。友人が密売人と何時どのように連絡を取って購入し、その後どのように保管していたのか等、友人が大麻所持に至った経緯についてあなたが知っていることは積極的に供述すべきでしょう。捜査機関としても、友人のパソコンや携帯電話のアクセス記録、通話記録等は、捜査の過程で当然に精査すると考えられるため、大麻の所持者が友人であることの裏付けとなる証拠が出てくるようであれば、あなたの供述を排斥することが困難になるはずです。
友人が今後の取り調べ等を経て、事実関係を認める供述に転ずる可能性は当然考えられるところですが、その場合に懸念されるのが、過去にあなたと一緒に何度か大麻を吸ったことがあること、本件であなたと一緒に大麻を吸うことについて暗黙の了解があったことなど、あなたとの共謀の成立が認定され得る方向の事実関係についてまで明らかにされる可能性があるという点です。
この点については、主に弁護人から検察官に対して、友人の供述の信用性を争う主張を行うことが考えられるでしょう。供述者が誰であれ、供述証拠が事実認定に用いられる際は、必ずその信用性が吟味されることになるため、友人の供述内容が信用性に欠けると判断される場合、検察官や裁判所が供述内容をそのまま認定することはありません。
本件では、主に友人が当初内容虚偽の供述をしていたこと(供述経過や供述態度)、あなたを事件関係者に引き込むことで自己の刑責の軽減を図り、あるいは捜査過程で受ける不利益を避けようとする動機があること等を主張し、友人の供述の信用性判断に慎重を期すよう求めていくことになるでしょう。これらは、あなたに共謀が成立していない旨の主張と合わせて、意見書等の形で提出すべきことになります。
これらの活動は、弁護人において、捜査機関(特に検察官)との密な折衝を重ねることで、その時々の友人の供述状況を把握できて、初めて可能となります。万が一起訴されてしまった場合の不利益の大きさを考えると、弁護人としては、否認事件だからといって被疑者をただ黙秘させるだけでなく、被疑者にとって不利益な証拠としてどのようなものが存在するのか、存在するとすればその信用性をどのように争っていくべきか、捜査段階から積極的に把握に努め、最大限の主張を行っていく、という姿勢が求められるといえるでしょう。
検察官は、本件が検察庁に事件送致された後(逮捕から48時間以内。刑事訴訟法203条1項)、最大20日間の勾留期間中にあなたを起訴するか釈放するかを決定することになるため(刑事訴訟法208条1項・2項)、弁護人としては、同期間中に集中的に活動していく必要があります。
4 最後に
本件は、不起訴処分を獲得するためには弁護人による助力が不可欠である一方、弁護士の熱意や経験によって弁護活動の内容に大きな差が出る事案と思われます(あなたに黙秘だけさせて他に特段の活動を行わないという弁護士も一定数存在すると思われます。)。弁護人を選任する場合、事件のポイントや見通しに対する考えのみならず、その弁護士が何をどこまでしてくれるのか確認するなどして、可能な限り適任者を選定した上、活動開始してもらうことをお勧めいたします。
以上