映画無断転載による著作権侵害と損害額について
民事・知的財産権|著作権法114条3項に基づく請求|映画の無断アップロードを理由に映画会社から損害賠償請求を受けた事案|大阪高判平成30年6月29日
目次
質問
無料動画サイトに、ある映画作品の一部(全体の再生時間2時間の5%に相当する約6分)を無断でアップロードしていたところ、サイト運営会社により動画が凍結されてしまいました。一般社団法人日本レコード協会より配信停止とファイル削除依頼が届いたことが理由とのことです。
その後、著作権者を名乗る映画会社から、著作権の侵害を理由とする損害賠償を請求する通知書が届き、非常に高額であったことから怖くなって無視をしていたところ、今度は裁判所から損害賠償請求訴訟の訴状が届いてしまいました。
私は、今回の無断転載によって利益を得ていたわけではないのですが、それでも著作権侵害ということになってしまうのでしょうか。
また、先方は、本来であれば動画再生1回につき少なくともストリーミング料金1000円(1週間の視聴期間あり)にライセンス許諾料30%を乗じた金額である300円を受領できたという前提のもと、サイトに表示されていた再生回数2万回分を乗じた600万円が損害額であると主張していますが、私は本編作品2時間分を無断転載したのではなく、あくまでもごく一部6分間転載したに過ぎないことから、この計算方法には納得がいきません。本件訴訟についてどのように対応すべきでしょうか。
回答
1 2時間の映画についてその一部6分間の部分を無断でアップロードしたあなたの行為は、著作権者である映画会社の公衆送信権を侵害するものであり(著作権法23条1項)、著作権侵害の事実自体を争うのは困難でしょう。
2 とはいえ、その損害額については、著作権者の請求から十分に減額が可能と思われます。本件と類似の事案において、①配信した著作物の収録時間に応じて使用料相当額を算定すべきこと、②1週間という利用期間を前提に設定されているストリーミング配信の料金を動画サイトにおける公衆への自動送信1回ごとに対応する対価とすることは合理的でなく、本件著作物の利用者が、3分の1を乗じるのが相当であること、を判示した裁判例(大阪高判平成30年6月29日)があり、参考になります。
3 知的財産権の分野は専門性が高い領域ですから、経験のある弁護士へのご相談をお勧めいたします。
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解説
第1 著作者と著作権者について
1 原則
「著作者」とは、著作物を創作する者と定義され(著作権法(以下単に「法」といいます。)2条1項2号)、「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものと定義されています。
その上で、著作者は、公表権、氏名表示権、同一性保持権といった「著作人格権」(法19条1項、20条1項)と複製権、上演権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利といった「著作権」(法21条から28条まで)を享有するものとされます。すなわち、原則的には、著作者は著作権者と一致します。
2 映画の場合の例外
ところが、映画については、著作者と著作権者が一致しない(財産権たる著作権と人格権たる著作者人格権が、原始的に別個の法人格に帰属する)著作物とされます。
映画の著作物の場合、職務著作物(従業員等が職務上作成する著作物)を除き、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」が著作者とされます(法16条)。いわゆる監督やプロデューサーといったモダンオーサーが著作者となるのですが、形式的に「監督」「プロデューサー」といった肩書が付いているだけで著作者となるわけではなく、創作面において実質的に製作過程を統括することが必要です。
一方で、「映画の著作物(第15条第1項、次項又は第3項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」とされます(法29条1項)。
「映画製作者」とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」と定義され(法2条1項10号)、通常は、映画製作のために経済的リスクを負担する映画会社やプロダクションがこれに該当することになります。映画監督やプロデューサーは、職務著作物となる場合を除けば、通常は映画会社との契約により映画製作に参加することになりますので、当該映画の著作権は映画会社に帰属することになるのです。
本件に即していえば、アップロードの対象となった映画作品の監督等が著作者、映画会社(プロダクション)が著作権者ということになります。そのため、損害賠償の請求主体が映画制作会社となっているのです。
第2 本件行為の評価について
法23条1項は著作権者が公衆送信権を享有することを規定しています。
「公衆送信」とは、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うこと(法2条1項7号の2)と定義されています。
動画のアップロードは、公衆に自動送信しうる状態に置く行為といえ、この「公衆送信」にあたることになります。厳密には動画のアップロードだけでは公衆に送信したことにはなりません。ダウンロードされて初めて送信されたことになります。
しかし、自動送信が可能な状態に置く行為は公衆送信と同視されます。そして、著作物である映画作品を著作権者の許諾を得ることなく動画サイトでアップロードする行為は、たとえ一部であったとしても、著作権者の公衆送信権(法23条1項)を侵害する行為といえます。
そのため、本件で、この著作権の侵害自体を争うことは困難でしょう。
第3 著作権侵害に対する対応
著作権侵害行為に対しては、民事上の救済として、侵害行為等の差止めを求めること(法112条)、損害賠償を請求すること、不当利得の返還を請求すること、名誉回復のための措置等(法115条)を求めることが可能です。
また、刑事事件として告訴し(法119条以下)、刑事罰の適用を求めることもできます。
本件は、損害賠償請求を受けている事案ですから、以下では、損害賠償請求における損害額の点に絞って解説いたします。
第4 損害について|著作権法114条
1 損害額の算定規定
(1) 著作権法114条の趣旨
著作権侵害を理由とする損害賠償を請求するにあたり、損害額の立証は困難なことが多いため、著作権者から侵害者に対する損害賠償請求を容易にする趣旨で、損害額に関する算定規定が設けられています(法114条)。
ただし、侵害行為について過失が存在したことに関する推定規定はありませんので、侵害者の故意・過失については、権利者の側で証明しなければなりません。
(2) 114条1項について
まず、法114条1項は、著作権侵害により、著作権者が自己の受けた損害の賠償を請求する場合において、著作権侵害者が侵害の行為によって作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信を行ったときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物の数量(譲渡等数量)に、著作権者がその侵害がなければ販売することができた物の単位数量あたりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者の販売等を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができると規定しています。ただし、譲渡等数量の全部または一部を著作権者等が販売することができない事情があるときは、その事情に相当する数量に応じた額を控除することになっています。
例えば、著作権侵害者が、著作物の海賊版を1万個販売し、著作権者の単位数量あたりの利益の金額が500円だとすれば、これらを乗じた500万円を著作権者が受けた損害の額と出来る場合があるということになります。ただ、著作権者の販売能力がこれを下回るときや、代替品の存在、侵害者の営業努力等があれば、減額される場合もあります。
(3) 114条2項について
次に、法114条2項は、著作権等侵害行為により侵害者が利益を受けている場合は、その利益の額が損害の額と推定されることを規定しています。例えば、侵害者が1000個の著作物の海賊版を販売した場合において、100万円の利益を受けているときは、その額が権利者の損害として推定されます。
ただし、この規定は推定規定に過ぎないため、権利者が受けた損害の額がもっと少ないことを侵害者側が立証することで、推定が覆される可能性があります。
例えば、侵害者が1000個の著作物の海賊版を販売した場合において、100万円の利益を受けているときは、その額が権利者の損害として推定されます。
(4) 114条3項について
最後に、法114条3項は、著作権者が著作権侵害者に対し、その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができると規定しています。いわゆるライセンス料相当額を損害額として請求出来るという規定であり、この規定は、損害額の最低限を法定した規定と考えられております。そのため、侵害者が実際の損害額がこれより小額であることを主張して損害賠償を減額させることはできません。
例えば、侵害者が、著作物の海賊版を販売して月額1000万円を売上げた場合において、権利者のライセンス料率の相場が売上高の10%であれば、著作権者の損害は月額100万円とすることができます。
2 本件における損害額について
本件において原告側は、法114条3項の規定に基づき、本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金(1週間のストリーミング配信料金)を基準に、本件著作物について利用許諾する場合の料率30%を乗じ、さらに無断アップロードされた著作物が動画サイトにおいて再生された回数(すなわち公衆に自動送信された回数)を乗じる方法で損害を算定しています。
しかし、この算定方法には次の2点の問題があります。すなわち、①あなたがアップロードした著作物は、本件著作物の極一部である(時間にして収録時間の5パーセント)のに、本件著作物全体を正規に視聴する場合の料金を基準にすることが適切であるか否か、②公衆への自動送信1回ごとのライセンス料相当額を算定する上で、1週間のストリーミング配信料金を基準とすることが適切であるか否か、といった疑問が生じます。
この点について、同種の裁判例(大阪高判平成30年6月29日)は、①の点に関し、「本件著作物を自動公衆送信により得ることのできる金銭は、視聴できる時間(上映時間、ストリーミングの時間)に大きく影響されることが推認される。」「被告アップロード著作物の配信1回につき、これに対応する本件著作物の1回分の使用料額をそのまま、本件著作物にかかる著作権等の行使につき受けるべき金銭とすることは相当とはいえない。」とした上で、「配信した著作物の収録時間に応じて使用料相当額を算定するのが相当である。」と判示しました。
また、②の点に関し、「本件著作物の利用者は、ストリーミングで1週間見放題になるというのであるから、本件著作物の配信を受ける対価は、1週間という利用期間を前提に設定されているものであって、これを「FC2アダルト」における公衆への自動送信1回ごとに対応する対価とすることは合理的でない。本件著作物の利用者が、1週間に数回視聴することを前提とし、更に3分の1を乗じるのが相当である。」と判示しました。
これらの結果として、大幅な減額が認められており、本件での反論を組み立てる上で参考になるでしょう。
第5 まとめ
以上のとおり、著作権の侵害を理由とする損害賠償請求の事案では、損害の算定方法が争点になりやすいといえます。原告の請求額を鵜呑みにするのではなく、適正な損害額を導くための適切な反論を加える必要がございます。知的財産権の分野は専門性の強い領域ですから、経験のある弁護士への相談をお勧めいたします。
以上