再開発における増し床の求め方|都市再開発法79条

都市再開発法|再開発の権利変換により床面積が減る場合の具体的な対応|増し床基準について|都市再開発法79条

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集

質問

再開発区域内で建物を所有して家族で居住しておりますが、再開発準備組合が設立され、これに加入しました。

先日、都市計画決定も出たということで、具体的なモデル権利変換の話も出始めていますが、どうやら我が家の建物は面積が1割程減りそうな見込みだということです。

それでは家族の居住に差し障りがあるので何とか面積を維持したいと思うのですが、どのような方法があるのでしょうか。今より面積を増やすことはできないでしょうか。

回答

1 権利変換計画案に記載された再開発後の床面積を増加させることを「増し床」と言います。増し床の処理方法については、都市再開発法79条で規定されています。増し床の処理は、増し床を希望する者と本組合の交渉による合意のもと、増し床契約書を締結して行われますが、準備組合の段階から増し床希望の旨を伝えて相談協議をすることが出来ます。具体的方法については解説6をご覧ください。

2 市街地再開発事業は、都市部の土地高度利用や建物の不燃化や耐震化などの公共目的を推進するために、建物の建て替えや明け渡しについて一括処理を可能とする権利変換という特例を認めた都市再開発法によるビルの建て替え手続です。

3 再開発区域内の建物に関する借家権は権利変換期日に全て消滅し、建物所有権は全て再開発組合に移転され、建物占有者は明け渡しに伴う損失補償の提供を受けて、ビルの建て替え期間の立退きをすべきことが法定されています。再開発ビルが建築されると、権利変換計画に記載された地権者(建物所有者)が、新しいビルの所有権を取得することができます。

4 一般に、再開発事業では、区域内の狭小敷地を合筆して大規模建物に建て替えるため、行政協議や都市計画審議会を経て容積率の緩和措置を受けることができる事例が多くなっており、緩和によって増えた床面積を、不動産デベロッパーに有償譲渡して分譲してもらうことにより、建物建設費などの事業費を賄うことになります。設計費や建物除却費や組合費の一部は、行政からの補助金が出る場合もあります。

5 権利変換計画に記載された、従後資産(建て替え後の建物)の床面積を従前資産(建て替え前の建物)の床面積で割った割合のことを権利変換比率(還元率)と言います。例えば再開発により1割の面積が減少してしまう場合は、権利変換比率90パーセントということになります。容積率の緩和などが大きい場合には権利変換比率が100パーセントを超えることも勿論ありますが、従前床面積よりも建て替え後に面積が減少してしまう事例も勿論有り得ることになります。権利変換計画案に記載された再開発後の床面積を増加させることを「増し床」と言います。都市再開発法79条で増し床の処理方法が規定されています。

6 増し床の具体的手続は、再開発組合の設立申請書類一式に含まれている規約類の中に、「増し床基準」「増し床ルール」というものが定められ、これに従って手続されることになります。増し床の希望申し出期間が定められ、希望者と組合との間で増床契約書が締結されます。

7 本組合設立前の段階であれば、準備組合理事会に連絡して、御自身の希望する増し床が可能となるような増し床基準を策定して頂けるように相談してみると良いでしょう。一般論ですが、従前床面積よりも権利変換計画案の従後床面積が少なくなってしまうような場合には、従前床面積同等までの増し床が認められることが多くなっています。従前床面積を超える増し床については、従前床面積に対して数パーセントなどの限度を設けて認める組合もありますし、原則として認めないという組合もあります。増し床を沢山認めてしまうと、再開発組合が参加組合員などの不動産デベロッパーに譲渡する保留床が大きく減少することになりますので、準備組合事務局を運営している参加組合員デベロッパーが積極的に認めたがらない傾向があります。

解説

第1 市街地再開発事業

市街地再開発事業は、都市部の土地高度利用(国民経済の発展)や、建物の不燃化や耐震化など、公共目的を推進するために、建物の建て替えや明け渡しについて一括処理を可能とする権利変換という特例を認めた都市再開発法によるビルの建て替え手続です。

都市再開発法第1条

都市再開発法第1条(目的)
この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

木造家屋を鉄骨鉄筋コンクリート造の建物などの耐震不燃建物に建て替えることにより、建物の不燃化と耐震性向上を図ることができ、都市の防災機能を向上させることができます。建物の防災機能が向上することにより、当該建物の所有者や賃借人だけでなく、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人の安全性も向上することになります。

商業区域においては、高層ビルの建設により床面積が増加すれば商業機能を高めることにより、土地の高度利用による国民経済の振興というメリットを享受することもできます。当該建物の商業機能が高まることにより、相乗効果により、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人も商業機能の高まったメリットを享受することができます。

土地建物は私有財産ですが、特に市街地においては単独で存在しているものではなく、区域一帯の中で隣地と共に存在し利用されており、ひとつの建物が倒壊したり火災になってしまうと、延焼類焼などにより、周りの住人にも被害を巻き込んでしまうおそれがありますし、区域一帯が商業ビジネスで発展しているときに一区画の地主だけが反対してビルの建て替えができないことになってしまうと区域全体の経済発展が阻害されてしまいます。

そこで、市街地の木造家屋密集地区を中心に、行政による「再開発促進区」の都市計画決定(都市計画審議会の議決)などを条件として、区域一帯の一括建て替えを促進する都市再開発法の権利変換手続が整備されることになったのです。自分が所有・賃借している土地建物だからと言って、公益性のある周辺一帯の建て替え手続に反対し続けることはできない仕組みになっているのです。

権利変換手続の概要を示します。

(1) 区域一帯の地権者5名以上で再開発組合の設立を準備する任意団体を設立する(市街地再開発勉強会、再開発協議会、再開発準備組合など)

(2) 参加組合員予定者となる不動産デベロッパーなどと協力し、行政協議を経て、都市計画審議会が審議する「再開発促進区」「市街地再開発事業」の原案を取りまとめる。

(3) 都市計画の行政決定(公告)後に、再開発事業計画案と、再開発組合の定款など規約類を用意して、準備組合総会において、再開発組合設立認可申請を行う決議を行い、都道府県知事に対して本組合(市街地再開発組合)設立認可申請を行う。

(4) 設立認可申請書類一式の審査を経て、市区町村が事業計画の縦覧を2週間行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、事業計画と組合設立の認可公告がなされる。

(5) 組合内において住戸選定会などを経て、権利変換計画の原案を作成し、2週間の縦覧を行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、権利変換計画の認可申請を行う。

(6) 行政の審査を経て、権利変換計画認可公告がなされる。通常、権利変換期日は認可公告の1~4週間後の期日が指定される。

第2 権利変換期日における権利の消長と明け渡し

再開発区域内の建物に関する占有権限(所有権、借家権)は、権利変換計画に従い、権利変換期日に全て消滅し、全ての占有者は、明け渡しに伴う転居費用など損失補償の提供を受けて、ビルの建て替え期間の立退きをすべきことが法定されています。

権利変換計画書には、従前建物の土地建物の特定と評価額が記載され、これに対応して割り当てられる(権利変換される)、建て替え後の建物の面積と評価額と、敷地利用権の特定と評価額が記載されます。

権利変換期日に、建物所有権は従前大家から再開発組合に移転し、建物賃借権は消滅することになります(都市再開発法87条2項)。

都市再開発法第87条

都市再開発法第87条(権利変換期日における権利の変換)
第1項 施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。この場合において、従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。
第2項 権利変換期日において、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者に帰属し、当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。ただし、第六十六条第七項の承認を受けないで新築された建築物及び施行地区外に移転すべき旨の第七十一条第一項の申出があつた建築物については、この限りでない。

権利変換期日に建物所有権が再開発組合へ移転すると、従前所有者は建物を占有し続ける法律上の根拠を失いますが、都市再開発法では、組合からの明け渡し請求を受けるまでは引き続き占有継続することができると規定されています(都市再開発法96条1項)。

組合からの明け渡し請求は、30日以上の猶予をあけて通知する必要があります(都市再開発法96条2項)。これは通常、内容証明郵便で通知されます。

都市再開発法第96条

都市再開発法第96条(土地の明渡し)
第1項 施行者は、権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるときは、施行地区内の土地又は当該土地に存する物件を占有している者に対し、期限を定めて、土地の明渡しを求めることができる。ただし、第九十五条の規定により従前指定宅地であつた土地を占有している者又は当該土地に存する物件を占有している者に対しては、第百条第一項の規定による通知をするまでは、土地の明渡しを求めることができない。
第2項 前項の規定による明渡しの期限は、同項の請求をした日の翌日から起算して三十日を経過した後の日でなければならない。
第3項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地を除く。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転しなければならない。ただし、第九十一条第一項又は次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第4項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地に限る。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地を引き渡し、又は物件を移転し、若しくは除却しなければならない。ただし、次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第5項 第九十五条の規定により建築物を占有する者が施行者に当該建築物を引き渡す場合において、当該建築物に、第六十六条第七項の承認を受けないで改築、増築若しくは大修繕が行われ、又は物件が付加増置された部分があるときは、第八十七条第二項の規定により当該建築物の所有権を失つた者は、当該部分又は物件を除却して、これを取得することができる。
第6項 第一項に規定する処分については、行政手続法第三章の規定は、適用しない。

組合が明け渡しを求める場合は、事前に「権利を有する者が通常受ける損失」を補償する必要があります(都市再開発法97条1項、同96条3項)。

都市再開発法97条

都市再開発法97条(土地の明渡しに伴う損失補償)
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
第2項 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
第3項 施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
第4項 第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項の規定による補償額の裁決を申請することができる。
第5項 第八十五条第二項及び第三項、第九十一条第二項及び第三項、第九十二条並びに第九十三条の規定は、第二項の規定による損失の補償について準用する。

この補償額は、当事者の協議により定めることができますが、当事者の協議が調わない場合は、審査委員の過半数の同意を得た金額を支払って明け渡しを求めることができます。

占有者がこの金額に同意せず、弁済手続に協力しない(組合提示額を受領拒否する)場合は、法務局に対する弁済供託をすることができます。法務局に供託されると、法的には被供託者に弁済したのと同じ効力を有することになりますので(民法494条)、組合は、民事保全法に基づき占有者に対して明け渡しを求める仮処分を申し立てて、強制執行により明け渡しを実現することができます。

この明け渡しに伴う損失補償は、一般の民事事件で適用される民法415条や709条の損害賠償方法である「実損害」ではなく、都市再開発法97条で「権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない」と定められています。言わば「見込み額」の補償で足りると法定されているわけです。この補償金は、明け渡しの前に受領することができますが、明け渡し後に実損害との差額が発生しても、これを別途請求することはできない仕組みになっています。このように都市再開発法97条が実損害の弁償を求めず、損失の見込み額の補償で足りると定めているのは、再開発の建て替え手続を簡素化し、一括処理することにより建て替えのスピードアップを図る趣旨であると考えられます。

民法415条他

民法415条(債務不履行による損害賠償) 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

民法709条(不法行為による損害賠償) 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

都市再開発法第97条(土地の明渡しに伴う損失補償)
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。

第3 再開発事業の事業費の仕組み

一般に、再開発事業では、区域内の狭小敷地を合筆して鉄筋コンクリート造などの大規模不燃建物に建て替えるため、行政協議や都市計画審議会を経て容積率の緩和措置を受けることができる事例が多くなっております。

再開発区域内の従前地権者には様々な経済状態の方々が含まれますから、再開発事業に伴う、建物除却費や、設計費や、建設費用の負担をすることが困難な地権者も含まれているのが一般的です。

そこで、再開発事業に伴う容積率の緩和により増加した床面積を引き受けて、建設資金の分担を行う不動産デベロッパーに参加組合員として加入して頂き、地権者と参加組合員が共同で事業を進めるのが一般的となっています。

都市再開発法第20条

都市再開発法第20条(参加組合員) 前条に規定する者のほか、住生活基本法第二条第二項に規定する公営住宅等を建設する者、不動産賃貸業者、商店街振興組合その他政令で定める者であつて、組合が施行する第一種市街地再開発事業に参加することを希望し、定款で定められたものは、参加組合員として、組合の組合員となる。

再開発事業の一般的な収入と支出を列挙します。

 収入
・保留床処分金(参加組合員分担金)
・行政からの補助金

 支出
・組合運営費
・補償費(91条補償、地区外退出者への金銭補償)
・補償費(97条補償、占有者への転居費用等補償)
・建物除却費
・設計費
・建設費

行政からの補助金は、総事業費の1~3割に達することがありますが、再開発事業後に私的所有権の対象となる建設費の部分には補助金が充てられることはありません。建設費以外の費用について補助金の給付を受けることができる場合があります。補助金の額は、区域内の私有地を都市計画道路に提供した場合や、図書館や公立学校や公立保育所などの公共施設を誘致する場合には増額されることもあります。

第4 権利変換比率(還元率)と増し床

権利変換計画に記載された、従後資産(建て替え後の建物)の床面積を従前資産(建て替え前の建物)の床面積で割った割合のことを権利変換比率(還元率)と言います。

例えば再開発により1割の面積が減少してしまう場合は、権利変換比率90パーセントということになります。容積率の緩和などが大きい場合には権利変換比率が100パーセントを超えることも勿論ありますが、従前床面積よりも建て替え後に面積が減少してしまう事例も勿論有り得ることになります。権利変換計画案に記載された再開発後の床面積を増加させることを「増し床」と言います。都市再開発法79条で増し床の処理方法が規定されています。

都市再開発法第79条他

第79条(床面積が過小となる施設建築物の一部の処理)
第1項 権利変換計画を第七十四条第一項の基準に適合させるため特別な必要があるときは、第七十七条第二項又は第三項の規定によれば床面積が過小となる施設建築物の一部の床面積を増して適正なものとすることができる。この場合においては、必要な限度において、これらの規定によれば床面積が大で余裕がある施設建築物の一部の床面積を減ずることができる。
第2項 前項の過小な床面積の基準は、政令で定める基準に従い、施行者が審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定める。この場合において、市街地再開発審査会の議決は、第五十七条第四項第一号(第五十九条第二項において準用する場合を含む。)に掲げる委員の過半数を含む委員の過半数の賛成によつて決する。
第3項 権利変換計画においては、前項の規定により定められた床面積の基準に照らし、床面積が著しく小である施設建築物の一部又はその施設建築物の一部についての借家権が与えられることとなる者に対しては、第七十七条並びに前条第一項及び第二項の規定にかかわらず、施設建築物の一部等又は借家権が与えられないように定めることができる。

第74条(権利変換計画の決定の基準)
第1項 権利変換計画は、災害を防止し、衛生を向上し、その他居住条件を改善するとともに、施設建築物、施設建築敷地及び個別利用区内の宅地の合理的利用を図るように定めなければならない。
第2項 権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払つて定めなければならない。

第77条
第2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。
第3項 宅地(指定宅地を除く。)の所有者である者に対しては、その者に与えられる施設建築敷地に第八十八条第一項の規定により地上権が設定されることによる損失の補償として施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。

第79条1項の「第七十七条第二項又は第三項の規定によれば床面積が過小となる」というのは、要するに、従前資産評価基準と権利床坪単価に従って計算された権利床の面積が過少床基準を下回るという意味です。過少床基準は、再開発事業ごとに定められますが、都市再開発法施行令27条にも規定があります。

都市再開発法施行令第27条

都市再開発法施行令
第27条(過小な床面積の基準)
法第七十九条第二項の政令で定める基準は、次に掲げるものとする。
一号 人の居住の用に供される部分については、三十平方メートル以上五十平方メートル以下
二号 事務所、店舗その他これらに類するものの用に供される部分については、十平方メートル以上二十平方メートル以下

都市再開発法79条は、1項で過少床基準を下回る場合の増し床の処理を規定し、2項で、過少床基準の決定方法を規定し、3項で、例外的に増し床基準を著しく下回る場合の「施設建築物の一部等又は借家権が与えられないように定める」権利変換計画を規定しています。79条3項により権利床が与えられない地権者は、「権利変換を希望しない旨の申し出(法71条1項の申し出)」をした地権者と同様に、法91条1項の補償金を受け取ることができます。

都市再開発法79条1項に定める過少床基準以下の床面積を過少床基準まで増加させる増し床を「法定増床」と言い、過少床基準を超えて増加させる増し床を「任意増床」と言います。過少床基準を超える任意増床については、事実上、組合と組合員との間で保留床の売買契約をしていることになります。

民間の再開発事業である第一種市街地再開発事業では、地権者の集まりである市街地再開発準備組合の理事会が、再開発組合いの定款規約書類の一部として、「増床基準」、その附属書式として「増床契約書」、「増床契約約款」を策定し、これに従って増し床の手続が進められることになります。増床契約書は、通常、権利変換計画案の承認決議後、権利変換計画認可申請前に締結されます。

第5 増床基準、増床契約書、増床約款

1 増床基準について

増床基準は組合ごとに策定されますが、概ね次のような内容となっております。

第1 増床基準の目的規定
増し床基準を定める目的。権利者間の衡平(法74条2項)と、「災害を防止し、衛生を向上し、その他居住条件を改善するとともに、施設建築物、施設建築敷地及び個別利用区内の宅地の合理的利用を図る」という法74条1項の趣旨が掲げられます。

第2 増床取得の優先順位
第一順位は、都市再開発法施行令27条の過少床基準により、権利変換計画で床面積を得ることができなくなる見込みの権利者が、施行令27条の最低基準まで面積を増加させる場合です。

第二順位は、過少床基準は満たしているものの、床面積が減少してしまい利用上の不都合を生じてしまう居住用建物を所有する地権者が従来面積同等まで面積を増加させる場合。

第三順位は、それ以外の地権者が権利変換計画で与えられる面積(共有床の場合は共有持分)を超えて床面積を取得する場合。

第3 増床面積の配分基準
第一順位については、権利濫用になる場合を除き、従前の使用状況に鑑みて、原則として必要な全面積の増し床を認める。

第二順位については、権利変換計画配置設計図において割り当て可能な場合に限り、最も近似している住宅標準面積までの増し床を認める。

第三順位については、再開発事業全体の収支、事業性に関わる事項であるので、再開発組合理事会が別に定める総増床面積の範囲内で、希望者の従前面積に応じた床面積の増し床を認める。増床面積が過少床基準を上回る場合は、別区画として住戸を取得することも認める。

第4 増床部分の床価格
第一順位、第二順位については、権利床と同価格による譲渡を認める。第三順位については、権利床価格以上、保留床価格以下の価格で、再開発組合理事会が別途定める価格により希望者に提示を行う。

第5 増床負担金の支払方法
増床契約締結時に10パーセントを組合に支払う。残り90パーセントの負担金は引き渡し時に支払う。但し、増床負担金が1000万円を越える場合は、権利変換期日までに敷地利用権価額を支払う。

2 増床契約書について

増床契約書は、「増床部分の面積」「増床図面」「増床の土地建物権利の特定」「増床代金価額」などが記載されている書面です。

3 増床契約約款について

増床契約約款は、増床契約書の附属書類で、増し床契約書と一体となって、契約内容を規定するものです。次のような事項が規定されることになります。

第1 増床価格の確定方法、契約価額との差額についての清算方法

第2 増床代金の支払い方法、振込先口座

第3 増し床の引き渡し時期、引き渡し方法。施設建築物の工事遅延がある場合の手続。

第4 増し床所有権の移転時期

第5 増し床の公租公課負担者

第6 増し床の表示登記および所有権保存登記手続

第7 増床代金等の支払い遅延の場合の損害金

第8 契約違反があった場合の解除条項

第9 増し床についての内装工事

第10 契約外事項(疑義事項)の処理

以上の内容は一例を示したものですので実際の再開発事案においてどのように策定されるかは、個々の再開発準備組合に問い合わせてみる必要があります。

第6 具体的手続

本組合設立前の段階であれば、準備組合理事会に連絡して、御自身の希望する増し床が可能となるような増し床基準を策定して頂けるように相談してみると良いでしょう。

一般論ですが、従前床面積よりも権利変換計画案の従後床面積少なくなってしまうような場合には、従前床面積同等までの増し床が認められることが多くなっています。

従前床面積を超える増し床については、従前床面積に対して数パーセントなどの限度を設けて認める組合もありますし、原則として認めないという組合もあります。

増し床を沢山認めてしまうと、再開発組合が参加組合員などの不動産デベロッパーに譲渡する保留床が大きく減少することになりますので、準備組合事務局を運営している参加組合員デベロッパーが積極的に認めたがらない傾向があります。

特に本組合設立前の段階であれば、増床基準の策定や実際の運用について、ある程度交渉の余地があることも事実です。そのような場合に御心配であれば、代理人弁護士を依頼して、「このままでは生活上の不都合を生じてしまう」ことについて主張して交渉してもらうことも検討なさると良いでしょう。

以上

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