企業買収における買収資金の送金手続
商事|企業買収・組織再編の手続の概要|買収資金の送金先|平成29年8月4日東京高裁判決
目次
- 質問
- 回答
- 解説
- 関連事例集
- 参照条文
質問
飲食業の会社を経営しており、支店を増やしたいので、既存飲食店の会社を買収したいと思い、コンサルタント会社にM&A仲介を依頼しました。買収会社の候補が決まり、契約締結と代金決済を予定していますが、決済手続は具体的にどのようにしたら良いでしょうか。
回答
1 企業買収M&Aは、株式譲渡や、吸収合併や完全子会社化などの手法により行われますが、M&A仲介会社に依頼した場合、決済に際して買収資金をM&A仲介コンサルタント会社に送金することを求められるケースもあります。
2 しかしながら、コンサルタント会社にM&A資金を送金したにも関わらず、企業買収の手続が完遂できなくなってしまうという詐欺被害・横領被害の事案もあります。このような不都合を回避するために、企業買収の資金決済は、M&Aコンサルタントに送金する方法ではなく、買収先に直接送金する方法で行うことを推奨致します。また、送金する直前に、弁護士か司法書士が、買収先企業の役員変更登記申請や経営権取得及び業務遂行に必要な書類等一式の交付を受けていることを確認することが必要です。
3 このような手順を踏まずに送金してしまうと後日のトラブルになってしまう場合があります。裁判となった事案を御紹介致しますので御参考になさってください。
解説
1 企業買収M&Aの種類と決済方法
1 株式譲渡
これは、被買収会社(買収される会社)の株式を、買収する会社が購入して取得する方法の企業買収です。株主が誰であるかということは商業登記簿の登記事項ではありませんので、株式が譲渡され株主の異動があっただけでは登記申請をする法的な必要性はありませんが、通常は株主の異動と同時に経営権の引き渡しも行われますので、役員変更登記を同時に申請します。特に法人の代表権を有する代表取締役の変更登記を完了することは、「法人の経営権を取得した」ということを公示する意味がありますので、重要な手続になります。
作成する契約書株式譲渡契約書
株式譲渡契約書の記載事項
(1) 契約当事者の特定
(2) 譲渡株式の特定
(3) 譲渡対価の特定
(4) 経営権の引き渡しに関する事項
決済手続
仲介する弁護士又は司法書士に対して、被買収会社の役員が、登記申請委任状を含む、役員変更登記申請に必要な書類、及び会社経営に必要な書類等の全てを交付し、この確認が取れた時に、被買収会社の株主に対して、株式譲受人が株式譲渡代金を送金し、着金確認後に領収書を受領する。
会社経営に必要な書類等は、法人の印鑑カード、実印、銀行印、銀行通帳、銀行キャッシュカード、法人の貸借対照表に含まれる資産の根拠となる取引基本契約書などです。
2 吸収合併
これは、被買収会社(買収される会社)の法人格を消滅させ、その権利義務の全てを合併存続会社に承継させる手続です(会社法750条)。被買収会社の株主には、合併比率で計算された合併存続会社の株式や現金などが交付されます。
作成する契約書
合併契約書
合併契約書の記載事項(会社法749条)
(1)株式会社である吸収合併存続会社及び吸収合併により消滅する会社の商号及び住所
(2)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して株式会社である吸収合併消滅会社の株主又は持分会社である吸収合併消滅会社の社員に対してその株式又は持分に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての定め(株式、社債、金銭の総額についての定め)
(3)吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して金銭等を割当てる場合の割り当て(合併比率)に関する事項
(4)吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行しているときは、これに代えて金銭等を交付するときは、当該金銭等についての定め(株式、社債、金銭の総額についての定め)
(5)吸収合併消滅株式会社の新株予約権者に対して金銭等を割当てる場合の割り当て(合併比率)に関する事項
(6)吸収合併がその効力を生ずる日(効力発生日)
合併契約書の備え置き(会社法794条)
(1) 合併契約書一式を本店に備え置き、株主及び債権者からの閲覧謄写請求に応じる。
(2) 備え置き開始日は、合併承認株主総会の2週間前。
(3) 備え置き終了日は、合併効力発生日から6ヶ月後。
合併契約の承認決議(会社法795条)
(1) 合併効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議(3分の2以上決議)で承認を得る必要があります。
(2) 但し、合併交付金等の合計額が、会社純資産(自己資本)の5分の1未満である場合には、簡易合併と言って株主総会決議を省略することができます(会社法796条)。
債権者保護手続(会社法799条)
(1) 吸収合併存続会社は、吸収合併すること及び債権者の異議を述べることができる旨を1ヶ月以上の申し出期間を定めて官報公告および知れている債権者への個別通知をします。
(2) 異議を申し出た債権者に対して、債務の弁済をする必要があります。
決済手続
仲介する弁護士又は司法書士に対して、吸収合併消滅会社の役員が、登記申請委任状を含む、合併による変更登記申請に必要な書類、及び会社経営に必要な書類等の全てを交付し、この確認が取れた時に、吸収合併消滅会社の株主に対して、吸収合併存続会社が合併対価を送金する。
会社経営に必要な書類等は、法人の印鑑カード、実印、銀行印、銀行通帳、銀行キャッシュカード、法人の貸借対照表に含まれる資産の根拠となる契約書などです。
3 株式交換
これは、2つの株式会社が株式交換契約を締結し、株式交換完全子会社の株主に対して、株式交換完全親会社の株式を交付することにより、両当事者の間に100%親子会社の関係を生じさせる手続です。株式交換完全子会社の株式と完全親会社の株式が交換される形になることから株式交換と呼ばれますが、株式交換契約書で定めることにより、株式交換完全子会社の株主に対して株式交換完全親会社の株式以外の資産、現金などを交付することも可能です。
作成する契約書
株式交換契約書
株式交換契約書の記載事項(会社法768条)
(1)株式交換をする株式交換完全子会社及び株式交換完全親会社の商号及び住所
(2)株式交換完全親株式会社が株式交換に際して株式交換完全子会社の株主に対してその株式に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての定め(株式、社債、金銭の総額についての定め)
(3)株式交換完全子会社の株主に対して金銭等を割当てる場合の交換比率に関する事項
(4)株式交換完全子会社が新株予約権を発行しているときは、これに代えて金銭等を交付するときは、当該金銭等についての定め(株式、社債、金銭の総額についての定め)
(5)株式交換完全子会社の新株予約権者に対して金銭等を割当てる場合の交換比率に関する事項
(6)株式交換がその効力を生ずる日(効力発生日)
株式交換契約書の備え置き(会社法794条)
(1) 株式交換契約書一式を本店に備え置き、株主及び債権者からの閲覧謄写請求に応じる。
(2) 備え置き開始日は、株式交換承認株主総会の2週間前。
(3) 備え置き終了日は、株式交換効力発生日から6ヶ月後。
株式交換契約の承認決議(会社法795条)
(1) 株式交換効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議(3分の2以上決議)で承認を得る必要があります。
(2) 但し、株式交換の対価合計額が、会社純資産(自己資本)の5分の1未満である場合には、簡易株式交換と言って株主総会決議を省略することができます(会社法796条)。
債権者保護手続(会社法799条)
(1) 株式交換において株式交換完全子会社の株主に対して、株式交換完全親会社の株式ではなく金銭を交付する場合、株式交換完全親会社は、株式交換すること及び債権者の異議を述べることができる旨を1ヶ月以上の申し出期間を定めて官報公告および知れている債権者への個別通知をします。
(2) 異議を申し出た債権者に対して、債務の弁済をする必要があります。
決済手続
仲介する弁護士又は司法書士に対して、株式交換完全子会社の役員が、登記申請委任状を含む、役員変更登記申請に必要な書類、及び会社経営に必要な書類等の全てを交付し、この確認が取れた時に、株式交換完全子会社の株主に対して、株式交換完全親会社が株式交換対価を送金します。
会社経営に必要な書類等は、法人の印鑑カード、実印、銀行印、銀行通帳、銀行キャッシュカード、法人の貸借対照表に含まれる資産の根拠となる契約書などです。
第2 判例紹介
企業買収の決済金送金が問題となった事件の控訴審判決で、原判決の事実認定を引用した部分を御紹介致します。
この事件では、企業買収資金を合併コンサルタント会社名義の口座に送金させたことが業務上横領罪であるとして起訴された事案でした。
※平成29年8月4日東京高裁判決
原判決は、罪となるべき事実として、要旨、「被告人A1は企業合併に関するコンサルティング等を目的とするC1社及びC2社の各代表取締役、被告人A2はC1社取締役、被告人A3はC1社従業員兼C2社取締役であるが、被告人ら3名は、C1社がC3社との間で締結したコンサルタント顧問契約に基づき、C3社の出納経理及びC3社名義の銀行預金口座の出納等の業務に従事し、C3社の銀行預金を業務上預かり保管中、第1、被告人A1及び同A3は、その一部を、ほしいままに、C1社の資金等に流用しようと考え、共謀の上、平成22年7月2日、当時のC1社事務所に設置されたC3社管理部において、情を知らないD1をして、インターネットバンキングシステムを介して、株式会社E1銀行F1支店に開設されたC3社名義の普通預金口座(以下、「C3社E1銀行F1支店口座」という。)から、本件C2社口座に1億円を振込送金させ、第2、被告人3名は、その一部を、ほしいままに、C1社の資金等に流用しようと考え、共謀の上、平成22年10月4日、E1銀行F2支店において、情を知らないD2をして、同支店に開設されたC3社名義の普通預金口座(以下「C3社E1銀行F2支店口座」という。)から、本件C2社口座に2億8000万円を振込送金させ、もってそれぞれ横領した」という事実を認定した。
第3 さいごに
以上のように、企業買収の手続には様々なステップがあり、買収金額が高額となる場合もありますので、間違いの無いように遂行するために、弁護士などの専門家を介在させる必要があります。
本稿では御紹介しておりませんが、被買収企業の資産査定(デューデリジェンス)が適切に行われているかどうかも大事な問題です。御心配の場合は一度お近くの法律事務所に御相談なさると良いでしょう。
以上
参照条文
会社法第749条(株式会社が存続する吸収合併契約)
第1項 会社が吸収合併をする場合において、吸収合併後存続する会社(以下この編において「吸収合併存続会社」という。)が株式会社であるときは、吸収合併契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。
第一号 株式会社である吸収合併存続会社(以下この編において「吸収合併存続株式会社」という。)及び吸収合併により消滅する会社(以下この編において「吸収合併消滅会社」という。)の商号及び住所
第二号 吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して株式会社である吸収合併消滅会社(以下この編において「吸収合併消滅株式会社」という。)の株主又は持分会社である吸収合併消滅会社(以下この編において「吸収合併消滅持分会社」という。)の社員に対してその株式又は持分に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項
イ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該吸収合併存続株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項
ロ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
第三号 前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社を除く。)又は吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続株式会社を除く。)に対する同号の金銭等の割当てに関する事項
第四号 吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行しているときは、吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる当該吸収合併存続株式会社の新株予約権又は金銭についての次に掲げる事項
イ 当該吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して吸収合併存続株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ロ イに規定する場合において、イの吸収合併消滅株式会社の新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、吸収合併存続株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して金銭を交付するときは、当該金銭の額又はその算定方法
第五号 前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する同号の吸収合併存続株式会社の新株予約権又は金銭の割当てに関する事項
第六号 吸収合併がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。)
第2項 前項に規定する場合において、吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社であるときは、吸収合併存続株式会社及び吸収合併消滅株式会社は、吸収合併消滅株式会社の発行する種類の株式の内容に応じ、同項第三号に掲げる事項として次に掲げる事項を定めることができる。
第一号 ある種類の株式の株主に対して金銭等の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類
第二号 前号に掲げる事項のほか、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容
第3項 第一項に規定する場合には、同項第三号に掲げる事項についての定めは、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社並びに前項第一号の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(前項第二号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて金銭等を交付することを内容とするものでなければならない。
第750条(株式会社が存続する吸収合併の効力の発生等)
第1項 吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。
第2項 吸収合併消滅会社の吸収合併による解散は、吸収合併の登記の後でなければ、これをもって第三者に対抗することができない。
第3項 次の各号に掲げる場合には、吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員は、効力発生日に、前条第一項第三号に掲げる事項についての定めに従い、当該各号に定める者となる。
一 前条第一項第二号イに掲げる事項についての定めがある場合 同号イの株式の株主
二 前条第一項第二号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの社債の社債権者
三 前条第一項第二号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権の新株予約権者
四 前条第一項第二号ニに掲げる事項についての定めがある場合 同号ニの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者
第4項 吸収合併消滅株式会社の新株予約権は、効力発生日に、消滅する。
第5項 前条第一項第四号イに規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者は、効力発生日に、同項第五号に掲げる事項についての定めに従い、同項第四号イの吸収合併存続株式会社の新株予約権の新株予約権者となる。
第6項 前各項の規定は、第七百八十九条(第一項第三号及び第二項第三号を除き、第七百九十三条第二項において準用する場合を含む。)若しくは第七百九十九条の規定による手続が終了していない場合又は吸収合併を中止した場合には、適用しない。
第768条(株式会社に発行済株式を取得させる株式交換契約)
第1項 株式会社が株式交換をする場合において、株式交換完全親会社が株式会社であるときは、株式交換契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。
第一号 株式交換をする株式会社(以下この編において「株式交換完全子会社」という。)及び株式会社である株式交換完全親会社(以下この編において「株式交換完全親株式会社」という。)の商号及び住所
第二号 株式交換完全親株式会社が株式交換に際して株式交換完全子会社の株主に対してその株式に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項
イ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交換完全親株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項
ロ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
第三号 前号に規定する場合には、株式交換完全子会社の株主(株式交換完全親株式会社を除く。)に対する同号の金銭等の割当てに関する事項
第四号 株式交換完全親株式会社が株式交換に際して株式交換完全子会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該株式交換完全親株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権についての次に掲げる事項
イ 当該株式交換完全親株式会社の新株予約権の交付を受ける株式交換完全子会社の新株予約権の新株予約権者の有する新株予約権(以下この編において「株式交換契約新株予約権」という。)の内容
ロ 株式交換契約新株予約権の新株予約権者に対して交付する株式交換完全親株式会社の新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ハ 株式交換契約新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、株式交換完全親株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
第五号 前号に規定する場合には、株式交換契約新株予約権の新株予約権者に対する同号の株式交換完全親株式会社の新株予約権の割当てに関する事項
第六号 株式交換がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。)
第2項 前項に規定する場合において、株式交換完全子会社が種類株式発行会社であるときは、株式交換完全子会社及び株式交換完全親株式会社は、株式交換完全子会社の発行する種類の株式の内容に応じ、同項第三号に掲げる事項として次に掲げる事項を定めることができる。
第一号 ある種類の株式の株主に対して金銭等の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類
第二号 前号に掲げる事項のほか、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容
第3項 第一項に規定する場合には、同項第三号に掲げる事項についての定めは、株式交換完全子会社の株主(株式交換完全親株式会社及び前項第一号の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(前項第二号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて金銭等を交付することを内容とするものでなければならない。
第769条(株式会社に発行済株式を取得させる株式交換の効力の発生等)
第1項 株式交換完全親株式会社は、効力発生日に、株式交換完全子会社の発行済株式(株式交換完全親株式会社の有する株式交換完全子会社の株式を除く。)の全部を取得する。
第2項 前項の場合には、株式交換完全親株式会社が株式交換完全子会社の株式(譲渡制限株式に限り、当該株式交換完全親株式会社が効力発生日前から有するものを除く。)を取得したことについて、当該株式交換完全子会社が第百三十七条第一項の承認をしたものとみなす。
第3項 次の各号に掲げる場合には、株式交換完全子会社の株主は、効力発生日に、前条第一項第三号に掲げる事項についての定めに従い、当該各号に定める者となる。
第一号 前条第一項第二号イに掲げる事項についての定めがある場合 同号イの株式の株主
第二号 前条第一項第二号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの社債の社債権者
第三号 前条第一項第二号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権の新株予約権者
第四号 前条第一項第二号ニに掲げる事項についての定めがある場合 同号ニの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者
第4項 前条第一項第四号に規定する場合には、効力発生日に、株式交換契約新株予約権は、消滅し、当該株式交換契約新株予約権の新株予約権者は、同項第五号に掲げる事項についての定めに従い、同項第四号ロの株式交換完全親株式会社の新株予約権の新株予約権者となる。
第5項 前条第一項第四号ハに規定する場合には、株式交換完全親株式会社は、効力発生日に、同号ハの新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する。
第6項 前各項の規定は、第七百八十九条若しくは第七百九十九条の規定による手続が終了していない場合又は株式交換を中止した場合には、適用しない。
第794条(吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)
第1項 吸収合併存続株式会社、吸収分割承継株式会社又は株式交換完全親株式会社(以下この目において「存続株式会社等」という。)は、吸収合併契約等備置開始日から効力発生日後六箇月を経過する日までの間、吸収合併契約等の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
第2項 前項に規定する「吸収合併契約等備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。
一 吸収合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の二週間前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)
二 第七百九十七条第三項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日
三 第七百九十九条の規定による手続をしなければならないときは、同条第二項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日
第3項 存続株式会社等の株主及び債権者(株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合(第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合を除く。)にあっては、株主)は、存続株式会社等に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該存続株式会社等の定めた費用を支払わなければならない。
一 第一項の書面の閲覧の請求
二 第一項の書面の謄本又は抄本の交付の請求
三 第一項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
四 第一項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって存続株式会社等の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
第795条(吸収合併契約等の承認等)
第1項 存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
第2項 次に掲げる場合には、取締役は、前項の株主総会において、その旨を説明しなければならない。
第一号 吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社が承継する吸収合併消滅会社又は吸収分割会社の債務の額として法務省令で定める額(次号において「承継債務額」という。)が吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社が承継する吸収合併消滅会社又は吸収分割会社の資産の額として法務省令で定める額(同号において「承継資産額」という。)を超える場合
第二号 吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社が吸収合併消滅株式会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員又は吸収分割会社に対して交付する金銭等(吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社の株式等を除く。)の帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合
第三号 株式交換完全親株式会社が株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等(株式交換完全親株式会社の株式等を除く。)の帳簿価額が株式交換完全親株式会社が取得する株式交換完全子会社の株式の額として法務省令で定める額を超える場合
第3項 承継する吸収合併消滅会社又は吸収分割会社の資産に吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社の株式が含まれる場合には、取締役は、第一項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない。
第4項 存続株式会社等が種類株式発行会社である場合において、次の各号に掲げる場合には、吸収合併等は、当該各号に定める種類の株式(譲渡制限株式であって、第百九十九条第四項の定款の定めがないものに限る。)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は、この限りでない。
第一号 吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等が吸収合併存続株式会社の株式である場合 第七百四十九条第一項第二号イの種類の株式
第二号 吸収分割会社に対して交付する金銭等が吸収分割承継株式会社の株式である場合 第七百五十八条第四号イの種類の株式
第三号 株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式である場合 第七百六十八条第一項第二号イの種類の株式
第796条(吸収合併契約等の承認を要しない場合等)
第1項 前条第一項から第三項までの規定は、吸収合併消滅会社、吸収分割会社又は株式交換完全子会社(以下この目において「消滅会社等」という。)が存続株式会社等の特別支配会社である場合には、適用しない。ただし、吸収合併消滅株式会社若しくは株式交換完全子会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員又は吸収分割会社に対して交付する金銭等の全部又は一部が存続株式会社等の譲渡制限株式である場合であって、存続株式会社等が公開会社でないときは、この限りでない。
第2項 前条第一項から第三項までの規定は、第一号に掲げる額の第二号に掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を存続株式会社等の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。ただし、同条第二項各号に掲げる場合又は前項ただし書に規定する場合は、この限りでない。
第一号 次に掲げる額の合計額
イ 吸収合併消滅株式会社若しくは株式交換完全子会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員又は吸収分割会社(以下この号において「消滅会社等の株主等」という。)に対して交付する存続株式会社等の株式の数に一株当たり純資産額を乗じて得た額
ロ 消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社等の社債、新株予約権又は新株予約権付社債の帳簿価額の合計額
ハ 消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社等の株式等以外の財産の帳簿価額の合計額
第二号 存続株式会社等の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額
第3項 前項本文に規定する場合において、法務省令で定める数の株式(前条第一項の株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が第七百九十七条第三項の規定による通知又は同条第四項の公告の日から二週間以内に吸収合併等に反対する旨を存続株式会社等に対し通知したときは、当該存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
第799条(債権者の異議)
第1項 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、存続株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
一 吸収合併をする場合 吸収合併存続株式会社の債権者
二 吸収分割をする場合 吸収分割承継株式会社の債権者
三 株式交換をする場合において、株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合以外の場合又は第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合 株式交換完全親株式会社の債権者
第2項 前項の規定により存続株式会社等の債権者が異議を述べることができる場合には、存続株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
一 吸収合併等をする旨
二 消滅会社等の商号及び住所
三 存続株式会社等及び消滅会社等(株式会社に限る。)の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
第3項 前項の規定にかかわらず、存続株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。
第4項 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該吸収合併等について承認をしたものとみなす。
第5項 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べたときは、存続株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該吸収合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。