違法アップロードと著作権侵害

民事|著作権侵害における損害額の算定方法|著作権法114条3項

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

私はブログを運営しています。2年ほど前,自分のブログに市販されているアニメの一部を自分のブログにアップロードしました。そうしたところ,先日になって突然,アニメの管理をしている会社から,違法アップロードであるとして,損害賠償を求める訴状が届きました。

動画は既に削除したのですが,かなりの高額を請求されています。これは支払わなければならないのでしょうか。

回答

厳密には,元のアニメ動画とあなたのアップロードしてしまった動画を確認しない限り,そのアップロード行為が「違法アップロード」すなわち著作権侵害に該当する行為かは判断できません。

しかし、無許可でインターネット上に動画をアップロードした場合,著作者が有している送信可能化権を侵害したとして著作者が有している送信可能化権を侵害した,と評価されてしまう可能性が高いところです。

著作権侵害に該当する場合,著作権法上,本件のように損害賠償請求を受ける地位に立つことになります。具体的な損害賠償請求額の算定においては,著作権法に算定のための推定等の規定がありますが,後述のとおり適用される規定の妥当性や要素となる数字の合理性等から,減額が可能なケースも多くあります。例えば,本件では動画の「一部」のアップロードであるとすると,フルボリュームでアップロードした場合よりも減額が認められるケースもあります。

他方で,著作権侵害に該当する場合には,著作権法上刑事罰も設けられているため,この点からの配慮も必要になってきます。

いずれにしても,難しい訴訟になるため,急いで弁護士に相談されることをお勧めいたします。

解説

1 本件行為の問題について

(1) まず,あなたの今回の行為が法的にどのような評価を受けるものなのか,受けた損害賠償請求の根拠は何なのかを説明する必要があります。

厳密には内容を確認する必要があるのですが,市販されているアニメの動画は,著作権法上,「映画の著作物」として取り扱われます(著作権法10条1項7号)。 この「映画の著作物」の著作者(法29条)は,送信可能化権(法23条1項)を有しています。この権利は,簡単にいうと公衆に対して自動的に送信できる状態に置く(法2条1項9号の5)権利です。

(2) これを前提として,今回のあなたの行為ですが,無許可でインターネット上に動画をアップロードした,というものですから,まさに著作者が有している送信可能化権を侵害した,と評価されてしまう可能性が高いところです。

なお,今回のご相談によれば,アップロードしたのはあくまでも「動画の一部」とのことですが,「動画の一部」であっても(きわめて時間が短く,そもそも著作物には該当しないといった特別な事情を除いて)上記「映画の著作物」に該当しますから,少なくとも本件行為が著作権侵害に当たり得る行為であることに変わりはありません。ただし,後述のとおり,実際の損害賠償の場面では影響があります。

(3) 厳密には,元の動画とアップロードした動画を確認しないと判断ができませんが,上記のとおり,あなたの行為は著作権侵害に当たり得る可能性が高いといえます。

仮に著作権侵害に当たる,となった場合には,(アニメ動画のアップロードという場面で故意・過失がなかったということは基本的に想定されないため)不法行為が成立するため,損害賠償請求(民法709条)を受け得る立場ですし,また「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という刑事罰も規定されています(著作権法119条1項)。

そのほか,主なものとして,著作権者は差止請求も可能なのですが(著作権法112条1項),自主的に削除されたようなので以下では,まず損害賠償請求への対応について説明します。

2 本件行為についての損害賠償について

(1) 上記のとおり,本件のアップロード行為が送信可能化という著作権侵害に当たり得る場合,民法上の不法行為責任に基づく損害賠償請求(民法709条)が可能です。

問題は,その際の金額です。不法行為責任に基づく損害賠償請求は,「損害」の補填を認めるものなので,請求者において「損害額」の立証が必要ですが,著作権侵害の場合,その損害額の算定について著作権法114条各項に規定があります。

(2) 例えば,著作権法114条1項は,著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合には,①その侵害の行為によって作成された物を譲渡し,又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合は送信可能化を含む)を行ったときは,その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物の数量に,②著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を,著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において,著作権者等が受けた損害の額とすることができる,と定めています。

また,著作権法114条2項は,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,当該著作権者,出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定することができる,と定めています。

もっとも,この第1項及び第2項の規定は,著作権者が実際に著作物(本件だと動画)を販売(配信)していることが前提ですが,本件のように動画配信においては,メーカー(著作権者)と販売者(例えば有料動画配信サイト運営者)は異なるため,これらの規定は妥当しないことになります。また,第1項の場合だと「その侵害がなければ販売することができた物」,第2項の場合だと侵害者が得た利益の立証が難しい,という問題もあります。

(3) そこで,著作権者がライセンス料を得ることで利益を上げるようなビジネスモデルのケースで用いられている規定が,著作権法114条3項です。 同項は,「その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる」と定めています。 要するに,本件のような映画の著作物の公衆送信権(送信可能化権)侵害においては,アップロードした動画の再生回数に,再生回数ごとのライセンス料を乗じた額を損害の額と「することができる」ということになります。

なお,上記第1項・第2項とは異なり,第3項の規定は,損害の最小限度を定めたものと考えられており,被請求側において「実際の損害額」を主張して減額されることはない,と考えられています。これは,第3項の規定が,第1項のように限度を定めることなく,「(損害額と)推定する」のではなく「損害の額として,その賠償を請求することができる」となっていることからもわかります。

3 具体的な反論について

(1) 上記のとおりですから,本件においても,損害賠償請求が著作権法114条3項に基づいてなさる可能性が最も高いと言えます。そこで以下では,同項に基づく損害賠償請求における,具体的な反論について説明します。

(2) 例えば,下記の参考裁判例①は,映画の著作物の違法アップロードの事案で,著作権法114条3項に基づく損害額の計算について,①アップロードしたサイト上の再生回数について,動画の数秒のみが流れる無料会員による再生と,通常再生される有料会員による再生を区別できないこと,②正規のストリーミング配信価格からすると,原告の主張する使用許諾の対価よりも高額であること,③原告の主張から実際の原告の収入(ライセンス料)が認定できなかったことを総合考慮して,原告の著作権法114条3項に基づく損害額を大幅に減額しました。

また,参考裁判例②は,①アップロードされた動画がもとの著作物の一部であったこと,②正規配信のライセンス料は,1週間のストリーミング配信を前提としたものであって,1回の再生回数を元にしたものではないこと,を理由として,「正規の利用料金に収録時間の割合を乗じ、さらにこれを3分の1とした額」を損害額としました。

これらのとおり,本件のようなケースにおいて,著作権法114条3項の規定により算定された損害賠償請求を受けた場合,その損害額について反論する際には,「実際の損害額(が無い/少ない)」ということではなく,同項に基づく算定方法の誤り(不合理性)や算定のもととなる数字の誤りを主張する必要がある,ということになります。

なお,その主張に奏功した場合の損害額ですが,参考裁判例①及び②等からすると,裁判所はかなり大まかに判断しているようです(著作権法114条の5)。

(3) これまで,本件のような動画(映画の著作物)のアップロードの場合の損害賠償請求について説明してきましたが,上記のとおり,著作権侵害には刑事罰が規定されています。映画の著作物の場合,実際に被害届を出され,刑事処分を受けている例もありますから,こちらについても考慮に入れる必要があります。

例えば本件においては,既に訴状が届き民事訴訟が係属していることからすると,同訴訟においては,刑事事件化の回避を目的とした和解の必要性も出てくることになります。その場合の和解条項も,単に民事上の解決を図るのではなく,刑事事件も視野に入れたものにすることになります。

4 まとめ

上記説明では省略していますが,そもそも著作権侵害に該当するかは,元の著作物とアップロードした動画を確認する必要がありますし,損害賠償請求への対応も,上記のとおり事案ごとに反論の内容が変わります。 既に訴訟が係属しているようですし,著作権法の問題であれば弁護士が事実上必須です。まずはお近くの弁護士にご相談ください。

以上

関連事例集

参照条文

民法

(不法行為による損害賠償) 第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

著作権法

(公衆送信権等) 第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。 (損害の額の推定等) 第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。 2 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
4 著作権者又は著作隣接権者は、前項の規定によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し損害の賠償を請求する場合において、その著作権又は著作隣接権が著作権等管理事業法(平成十二年法律第百三十一号)第二条第一項に規定する管理委託契約に基づき同条第三項に規定する著作権等管理事業者が管理するものであるときは、当該著作権等管理事業者が定める同法第十三条第一項に規定する使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定により算出したその著作権又は著作隣接権に係る著作物等の使用料の額(当該額の算出方法が複数あるときは、当該複数の算出方法によりそれぞれ算出した額のうち最も高い額)をもつて、前項に規定する金銭の額とすることができる。
5 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。 (相当な損害額の認定) 第百十四条の五 著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。

第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、同条第四項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第五項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第六項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 一 著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者(第百十三条第四項の規定により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。) 二 営利を目的として、第三十条第一項第一号に規定する自動複製機器を著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となる著作物又は実演等の複製に使用させた者 三 第百十三条第一項の規定により著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者 四 第百十三条第二項の規定により著作権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者
3 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、録音録画有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 民事訴訟法 (損害額の認定) 第二百四十八条 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。

参照判例

①東京地判平成28年4月21日(判例時報2316号97頁)・抜粋

2 著作権法114条3項に基づく損害額について

(1)後掲証拠(書証の枝番の記載は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア 本件動画サイトがストリーミング配信する動画には,無料動画と会員向けの有料動画(会費は1か月当たり1000円又は1年当たり6000円)がある。本件動画サイトにおいては,配信される動画ごとに「再生数」が表示されている。
本件著作物1は,平成25年10月5日に本件動画サイトに有料動画としてアップロードされ,同月6日時点における「再生数」は1万3292回と表示されていた。本件著作物2は,同月4日に本件動画サイトに有料動画としてアップロードされ,同年11月29日時点における「再生数」は2万4539回と表示されていた。
本件動画サイトの会員でない者が有料動画を視聴しようとするとサンプル動画が数秒間再生されるところ,上記の「再生数」にはこのサンプル動画の再生数も含まれる。本件著作物1及び2に係る「再生数」の内訳は不明である。 被告がアップロードした本件著作物1及び2のデータは,平成26年3月頃までに本件動画サイトから削除された。 (甲4,5,乙3,8,12)
イ 本件著作物1は,動画配信サイト「DMM.com」にて有料でインターネット配信されており,その価格は,平成25年10月5日時点において,HD版ダウンロードとHD版ストリーミングのセットが2480円,ダウンロードとストリーミングのセットが1980円,HD版ストリーミング(7日間)が390円であった。また,本件著作物2も同様に配信されており,その価格は,同年11月29日時点において,HD版ダウンロードとHD版ストリーミングのセットが2980円,ダウンロードとストリーミングのセットが2480円,DVDトースターが2800円であった。
インターネット配信の上記各価格は,配信時期やキャンペーンの実施等によって変動し,本件著作物1に係る平成28年1月15日時点のHD版ストリーミング(7日間)が273円,本件著作物2に係る平成27年9月28日時点のHD版ストリーミング(同)が300円となっていた。(甲2,3,13,乙2,15)
ウ 原告(変更前の商号は株式会社北都)は,取引先との間で,コンテンツ提供基本契約を締結し,取引先に対して原告の映像等のコンテンツの配信を許諾しているところ,ある取引先との契約では,原告がその対価として●(省略)●を受け取ることが定められている。

(2)原告は,〔1〕本件著作物1及び2が本件動画サイトにおいて上記「再生数」に記載の回数配信され、〔2〕これらが正規に配信された場合の価格はそれぞれ372円,2362円であり,〔3〕この場合原告は●(省略)●を受領できたとして,著作権法114条3項に基づく損害賠償を請求する。しかし,上記の事実関係によれば,〔1〕上記「再生数」の正確性を裏付ける証拠が何ら提出されていない上,全体の再生回数のうち有料のストリーミング配信の回数は,事柄の性質上,無料のサンプル動画の再生回数より大幅に少ないと考えられる。また,〔2〕本件著作物1及び2のストリーミング配信の正規の価格は時期等によって変動するがおおむね1本当たり270~390円程度であり,さらに,〔3〕原告は自らが使用許諾をした場合の対価につき契約条項の大半を抹消した契約書の写し(甲17)を提出するのみであり,現実にいかなる収入を得ていたかは明らかでない。本件におけるこれらの事情を総合すれば,被告による本件著作物1及び2の公衆送信権の侵害に対して原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額は,それぞれ50万円とするのが相当である。」

②大阪地判平成30年1月23日・抜粋

2 争点(2)について

(1)原告は、被告による上記著作権侵害行為により受けた損害の額を,本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金を基準に,原告が本件著作物について利用許諾する場合の料率38%を乗じ,さらに被告アップロード著作物が「FC2アダルト」において再生された回数,すなわち公衆に自動送信された回数に乗じることにより,著作権法114条3項の規定に基づき請求している。

(2)しかし,同項の規定に基づく損害額を算定するに当たり,利用許諾の料率を原告の通常の場合と同様の38%とし,被告アップロード著作物が「FC2アダルト」において再生された回数,すなわち公衆に自動送信された回数を用いることは適切であるが,本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金を基準とすることは高きに失するというべきである(なお,著作権法114条3項の趣旨に照らし,被告アップロード著作物の視聴が無料である事情は,その再生回数をもって視聴が有料である本件著作物の損害額算定の根拠に用いることを妨げないものと解する。)。すなわち,原告も予備的に主張するとおり,被告アップロード著作物はいずれも本件著作物の一部でしかなく,その収録時間は被告アップロード著作物1で本件著作物1の約37%,被告アップロード著作物2で本件著作物2の約14%,被告アップロード著作物3で本件著作物2の約27%にすぎない。また原告の主張する正規の利用料金を負担した場合,ストリーミングで1週間見放題になるというのであるから,正規の利用料金は,1週間という利用期間を前提に設定されているものであって,これを「FC2アダルト」における公衆への自動送信1回ごとの料金の基準とすることは合理的ではない。
したがって,上記事情を勘案すれば,被告の行為が原告に無断でなされたことを考慮したとしても,被告アップロード著作物の自動送信1回の損害額の基準となる額は,正規の利用料金に収録時間の割合を乗じ,さらにこれを3分の1とした額が相当であり,この計算によれば,被告アップロード著作物1については自動送信1回につき49円,被告アップロード著作物2については自動送信1回につき14円,被告アップロード著作物3については自動送信1回につき27円として算定するのが相当である。

(3)以上より,著作権法114条3項に基づき原告の受けた損害の額を算定すると,以下のとおりであって合計85万6546円と認められる。 ア 被告アップロード著作物1 49円×38%×3万3019回=61万4813円 イ 被告アップロード著作物2 14円×38%×2万2533回=11万9875円 ウ 被告アップロード著作物3 27円×38%×1万1877回=12万1858円

3 以上によれば,原告の被告に対する請求は,85万6546円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成26年1月20日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。