児童ポルノを単純所持した場合の警察による捜索可能性|AVマーケット摘発事件
刑事|児童ポルノ画像・動画をダウンロードした場合の警察による捜索の可能性と弁護活動|児童ポルノであることの故意について
目次
質問
私は、関東県内に住む成人男性です。妻と子供と同居しています。実は、以前インターネットサイト「AV Market(エーブイ・マーケット)」にて10代前半の女子の裸が写っている動画や画像をダウンロード購入したことがあります。
最近、そのサイトが摘発されたというニュースを見たのですが、同サイトで画像を購入した私も刑事処罰を受ける可能性があるのでしょうか。
私が購入した画像には、「18歳以上年齢確認済」との表示がありましたが、これでも処罰対象となるのでしょうか。また、家に警察が来て家族に発覚するのも怖いですが、避けることはできるでしょうか。
回答
1 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律、いわゆる児童ポルノ規制法では、18歳未満の者を「児童」として、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激する」映像を児童ポルノとして、児童ポルノを自己の意思に基づいて「自己の性的好奇心を満たす目的で」所持した場合には、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられることになります(同法7条1項)。
10代前半の女子の裸が写っているとなると、当該画像は、法律上の児童ポルノに該当する可能性が高いです。そのため、同画像を所持している場合には、児童ポルノ禁止法違反(単純所持)として刑事処罰を受ける可能性があります。
なお、以前に実施された類似のアダルトサイトの例では、サイト摘発の直後から半年程度で警察の捜査を受けた購入者が多かったようです。
2 購入した画像に「18歳以上年齢確認済」との表記があったのであれば、児童ポルノであることの認識がなかったとして、犯罪の故意を否定できる可能性はあります。しかし、たとえそのような表記を信じたとしても、10代前半の女子の写真で、18歳以上とは見られない場合は児童ポルノの認識がなかったとは言えないでしょう。
3 既に画像や記録媒体を削除、破棄して処分している場合は、あなたが画像を所持のしていたことの証明が困難となるため、刑事処罰を受ける可能性は低くなります。画像の削除、破棄は証拠隠滅行為ともなり得ますので推奨は全く致しませんが、被疑者本人には適法行為の期待可能性がないという理由等により証拠隠滅罪の適用はありません。
4 例え画像や媒体を破壊したとしても、警察が突如として訪問し、その場で家宅捜索、差押が実施されることはあります。
もっとも、既に破棄済みであることや、破棄の状況等を警察に事前に報告し協議することによって、捜索を回避することができる可能性もあります。可能であれば、弁護士を通じて警察と協議した方が良いでしょう。
自首と捜査機関の対応は管轄の捜査機関、検察庁の担当者により異なる場合があります。自首と職場退職、贖罪寄付(例えば、退職金を全額寄付する。)等の手続きにより大きく処分が変わる場合があります。
刑法の目的は、処罰を与えるというよりも、行為後法秩序を守り再度違法行為をさせないという教育刑的目的も存在しますので、弁護士の検察官との交渉も方法、手続きを間違うと逮捕、起訴(略式手続等)という場合も考えられます。2次的影響である、家庭崩壊、再就職の可能性、資格はく奪を防止するためにも慎重な手続きが必要な事案です。全てをなげうって更生を図るという決意が打開策の基本と思われます。
5 不安なことがあれば、まずは弁護士に相談し、適切な対応を指示してもらうことをお勧め致します。
解説
1 児童ポルノ単純所持の違法性
児童ポルノについては、平成27年7月の法改正により、個人による自分のための所持でも処罰の対象となりました。法律上、児童とは、18歳未満の者を言い(児童ポルノ禁止法2条1項)、児童ポルノは、下記のようなものに定義されています。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下、「児童ポルノ規制法」)
第2条第3項 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
上記の「電磁的記録に係る記録媒体」には、HDDやSDカードやUSBメモリ等も含みます。また、女児の裸が写っているもので、あえてインターネットで購入したものあれば、基本的には上の条文の三号に該当する可能性が高いです。
そのため、本件であなたがダウンロード購入した画像が18歳未満の児童のものであった場合、それを保存していたパソコンのHDDなどは、法律上の児童ポルノに該当する可能性が高いと言えます。
そして、児童ポルノを自己の意思に基づいて「自己の性的好奇心を満たす目的で」所持した場合には、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられることになります(同法7条1項)。児童ポルノに該当する以上、特殊な事情が無い限りは自己の性的好奇心を満たす目的での所持と推認されますので、本件でも、あなたがDVDを購入して所持していたことが認められれば、最終的に処罰を受ける対象となります。
2 児童ポルノであることの認識
あなたがダウンロード購入した画像は、「18歳以上確認済み」との記載があったとのことです。その場合、例え画像が児童ポルノであったとしても、あなた自身は児童ポルノであるとは認識していなかったとして、児童ポルノ禁止法違反の「故意」がなかったと認められる可能性があります。
もっとも「18歳以上確認済み」との記載があれば、無条件で故意が否定できるものではありません。犯罪の要件としての行為には、それが児童ポルノであることを実際に購入した画像が明らかに児童のものであれば、故意が認められてしまうこととなるでしょう。
どのような内容の画像であれば、「明らかに児童ポルノである」として故意が認められてしまうかは、明確には説明することはできません。
捜査機関は、タナー法(性的身体的な特徴から年齢を推測する方法です)等の手法により、当該画像が児童ポルノであるか否かを判別して、捜査対象者を絞っていると思われます。特に、公務員、教員、公的立場などで法令の順守義務が求められる地位にある方は注意が必要です。
3 画像の消去と記録媒体の破壊
児童ポルノ禁止法違反で処罰するためには、当該画像を「所持」していたことの立証が必要となります。この所持の事実は、過去の時点の所持について対象となり得ますので、ダウンロードした画像を消去したり、記録媒体を破壊したりしたとしても、それで児童ポルノ禁止法違反が不成立となるものではありません。
もっとも、現在の捜査実務としては、警察が被疑者の自宅を捜索し、その場で児童ポルノの現物(保存されたHDDなど)が発見されたり、押収したHDDから消去した児童ポルノ画像が復元されたりしない限りは、単純所持罪で処罰されることはほぼありません。その理由は、サイトの購入履歴だけでは、過去の所持の事実を立証することにやや不安が残るためであると推測されます。
そのため、警察の捜索を受ける前に、児童ポルノをダウンロードしたHDDなどを破壊した場合には、刑事処罰を受ける可能性は低くなります。
なお、児童ポルノ画像やそれを保管したHDDなどを破壊する行為は、犯罪の証拠隠滅行為とみなされる危険も十分ありますので、決して推奨いたしません。
刑法上の証拠隠滅罪(刑法104条)の構成要件は、「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅」することですので、自分の刑事事件の証拠を自分で隠滅することは、証拠隠滅罪には該当しませんが、以下で述べる捜索の回避の際には、購入した児童ポルノをどのように処分したのかの説明が必要となる可能性もあります。
まずは、処分をする前に、適切な対処につきお近くの弁護士に相談されることをお勧め致します。
4 想定される捜査と捜索差押の回避
本件の捜査については、平成29年に摘発された類似の児童ポルノ販売サイト(厳選DVDショップありす)の捜査の経緯が参考になると思われます。報道等で確認された事情ですと、同サイトについては、平成29年5月に管理者が摘発され、購入者リスト約7000名分が押収され、そこから約1年程度の間に、購入者に対する捜査が実施されています。その多くは、管理者の摘発から半年程度で実施されたようです。
捜査の手法としては、購入して所持していただけの方で逮捕されることは基本的にはなく、殆どは家宅捜索の上で、在宅事件(警察の呼出しに応じて、任意に警察署に出頭して事情聴取を受ける方式)で実施されています。
上記のとおり、児童ポルノの単純所持の事案は、原則として現行犯でないと処罰が難しいため、警察としては、事前に証拠を隠滅(児童ポルノを破棄)されることを避けるために、当然、予告なしで家宅捜索がされます。
このような突然の家宅捜索を回避する方法としては、警察が捜索に来る前に、自ら警察に出頭し、事情を説明することが考えられます。特に、既に児童ポルノ画像が破棄されてしまっている場合などについては、警察としても、現行犯での摘発が不可能な事案に家宅捜索等をするのは徒労ですので、その後に摘発を受ける可能性は非常に低くなります。
もっとも、個人でいきなり警察に出頭しても、警察に取り合ってもらうことは難しいでしょう。また、捜索を回避するためには、購入した児童が現在どのような状態にあるか、破棄したのであればどのように破棄したのかの経緯の詳細を、捜査機関に説明して納得させる必要があります。場合によっては、画像やHDDを破棄した経緯などを、報告書などの書面にして提出する必要もあります。
そのため基本的には、弁護士に相談した上で、対処した方が良いでしょう。
5 まとめ
児童ポルノ事案は、警察も摘発に力を入れている事件類型であり、社会的にも耳目を集めやすい事件です。
まさに現在一斉捜査が進行中の事件ですので、不安なことがあれば、速やかに弁護士に相談し、適切な対応を指示してもらうことをお勧め致します。
以上