民法改正|瑕疵担保責任と契約不適合責任について
民事|債権法改正後の契約不適合責任の要件と法的効果
目次
質問
私は半年前に中古マンションを3000万円で購入したのですが、購入後に雨漏りや腐食が発覚しました。この事実を隠していた前の所有者に対し、私は何かできることはありますか。
回答
1 売買契約において、目的物に問題があった場合、本件中古マンションのように目的物が特定物(その物の個性に着目した物)であれば、これまでの民法であれば瑕疵担保責任の規定に基づき、隠れた瑕疵があった(購入の時点において、買主であるあなたに雨漏りや腐食についての認識はなく、認識できなかったことについて過失がなかった)といえるケースに限って解除あるいは損害賠償請求の可否を検討していました。
2 令和2年4月1日施行の改正民法においては、この瑕疵担保責任は「契約不適合責任」と大幅に内容が変わりました(新民法562条以下)。後述のとおり、改正法では買主側の認識は問われないことになりましたし、修補(修繕)等の追完請求や代金の減額請求もできる規定が設けられ、解除できる場合の範囲も広がりました。損害賠償請求についても、請求できる範囲が広がりました。本件においても、雨漏り等の程度によって修補請求だけではなく、解除や損害賠償請求もできる可能性もあります。いずれにしても、改正後でまだ解釈が固まっていないところもありますし、早い段階で弁護士にご相談ください。
3 また、仲介業者が間に入っている場合には、仲介業者に対する請求もできる可能性があります。これについては、『風俗用マンションの売買と瑕疵担保責任』をご参照ください。
4 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 はじめに
令和2年4月1日に施行された改正民法以前の民法(以下改正前の民法を「旧民法」、改正後の民法を「新民法」といいます。)においては、本件のような問題が生じた場合は、瑕疵担保責任(旧民法570条及び566条)によって処理されてきました。
しかし、新民法においては、瑕疵担保責任という概念は「契約不適合責任」(新民法562条以下)に変わりました。
この改正によって、表記だけではなく、その要件や効果(買主側ができること)についても違いが生じています。
以下では、改正前後の法的性質の変化から、改正後の要件を踏まえながら、本件のようなケースでどのように対応するべきかを説明します。
2 瑕疵担保責任と契約不適合責任の法的性質
改正前後による要件や効果の違いは、そもそも旧法下の「瑕疵担保責任」と新法下の「契約不適合責任」の法的性質の違いから生じていると考えられています。順に説明します。
(1)改正前の瑕疵担保責任
もともと、瑕疵担保責任は、民法上の債務不履行責任ではなく、特別の法定責任であると解するのが通説でした。
前提として、売買の対象を特定物と不特定物に分け「特定物売買において、瑕疵ある特定物の給付も、瑕疵のない完全な履行である」という考え(「特定物ドグマ」)があり、この考え方によれば、どのようなものを売却したとしても、売り主には責任がないという結論(「この物」を売る契約をして「この物」を売っているのであるから「この物」に問題があっても売主の債務は、この物を引き渡すという債務であり、債務としてはそれ以上の責任を負うことはないという結論)になってしまい、買主に著しく不利益が生じることになります。
これを是正するために、民法が認めた特別の法定責任が「瑕疵担保責任」でした(この「瑕疵担保責任」についての通説的な考え方を法定責任説といいます)。
(2)改正後の契約不適合責任
他方で、新民法における「契約不適合責任」は、上記瑕疵担保責任とは異なり、特別の法定責任ではなく、債務不履行責任であるとしています。
これは、上記「特定物ドグマ」の考え方ではなく、特定物売買においても、当事者間で「瑕疵のない「この物」を売り渡すこと」を売り主の義務とする契約をすることはできることを前提として、その契約に反して「瑕疵のある「この物」」を給付した売主には債務不履行責任が認められる、という考え方です。
3 契約不適合責任の各要件
以上のとおり、改正に伴い、売主の責任についての法的性質の解釈が変わりました。これを前提として、各要件にも違いが生じています。
(1) 請求の前提として、旧民法570条は、「売買の目的物に隠れた瑕疵」があった場合としていましたが、新民法では、「隠れた瑕疵」ではなく「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(契約不適合)としています。
旧民法における「瑕疵」の意味を明確したものが「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」と考えられているため、この部分には実質的な違いはありません。
もっとも、新民法においては「隠れた」という要件が削除されました。一般に、「隠れた瑕疵」とは、瑕疵について買主が善意無過失であることと解されていましたが、削除によって契約不適合について買主の認識が問われなくなりました。
(2) 旧民法における瑕疵担保責任は、上記のとおり特定物の売買における不都合(特定物ドグマ)を解消するための法定責任と考えられていた以上、当然、特定物に限られていました。
他方で、新民法においては、法定責任ではなく債務不履行責任と考えられているため、旧民法と異なり、特定物・不特定物の区別なく、契約不適合責任を問うことができることになります。
(3) 旧民法における瑕疵担保責任では、やはりその法的性質から、「瑕疵」は原始的瑕疵、つまり契約締結時典において既に生じていた瑕疵に対してのみ責任追及が可能である、とされていましたが、新民法においては、契約の内容に適合しない履行をしたことに対する債務不履行責任ですから、契約の履行時までに生じたものに対して責任追及が可能になりました。
(4) 旧民法においては、瑕疵担保責任に基づく各請求は、「買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない」とされています(旧民法570条、同566条3項)。具体的な請求の内容ですが、損害賠償請求については、買主において「具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある」とするのが判例です(最判平成4年10月20日民集46巻7号1129頁)。
これに対し、新民法では、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合」の責任追及について、「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知」すれば足りることになりました(新民法566条)。そのため、1年以内に不適合の事実のみを通知することで足り、瑕疵の内容を具体的に特定するとともに、損害賠償請求の場合には損害額の根拠を明らかすることまでは求められなくなりました。
他方で、債務不履行責任の一般的規律に従うため、権利を行使することができる時(目的物の引き渡し時)から10年を経過した場合には、消滅時効が成立することになります(新民法166条1項2号)。
4 契約不適合責任の法的効果(買い主の取り得る行為)
以上の一般的な要件を踏まえて、本件のようなケースでは売主(前所有者)に対してどのような対応が可能なのか順に説明していきます。改正後は採り得る手段が増えています。
(1) 旧民法においては、売買契約における瑕疵担保責任の内容として、瑕疵の修補請求(追完請求)は認められていませんでした(旧民法570条及び同566条)。しかし、新民法においては、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を求めることができるようになりました(新民法562条)。これも法的性質を債務不履行責任と設定したことの帰結です。
追完は、契約不適合の原因が買主にある場合(買主の帰責事由による場合)以外に請求でき(新民法562条2項)、その追完方法(目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡し)は、まず買主が選択することができます(同条1項)が、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法で追完することが可能です(同項ただし書)。
(2) 旧民法のもとでは、権利の一部移転不能や数量不足の場合(旧民法563条、565条)を除き、代金減額請求は認められていませんでした。
しかし、新民法においては、履行の追完を催告して、催告期間内に履行の追完がない場合(新民法563条1項)、あるいは①履行の追完が不能であるとき、②売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき、③契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時また一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき、④その他買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかである場合(新民法563条2項各号)に代金減額請求ができるようになりました。
なお、上記追完請求の場合と同じく、契約不適合が買主の帰責事由による場合には代金減額請求はできません(同条3項)。
(3) 旧民法においては、買主は、瑕疵によって「契約をした目的を達することができないとき」にのみ契約を解除することができました(旧民法570条、同566条1項)。
これに対して、新民法においては、契約不適合責任は債務不履行責任として捉えられているため、解除については特別の規定を置かず、債務不履行の一般的規律により解除できることになりました(新民法564条、同540条以下)。そのため、一般的に催告が必要になった(新民法541条)反面、目的の不達成が要件ではなくなりました。
新民法においても、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除ができない(新民法541条ただし書)のですが、軽微ではないが、契約の目的達成はできる、というケースでは解除ができることになったので、解除できる範囲が広がったといえます。例えば、本件のような雨漏りの場合であれば、その程度が修繕可能であったとしても軽微とはいえないものであれば、新民法においては催告等の上解除ができるということになります。
(4) 旧・新民法のいずれについても損害賠償請求が可能ですが、本改正によってその内容が変わりました。旧民法においては、法定責任と考えられていたため、瑕疵を知らなかったことによって買主が被った損害分(信頼利益)のみ請求ができると解されていました(例えば、転売によって得られたであろう利益等は請求できないとされていました)。債務不履行責任と考えられる新民法においては、解除の場合と同じく、契約不適合であった場合における買主の損害賠償請求権については、特別の規定ではなく損害賠償請求の一般規定(新民法415条)に基づくことになります。
したがって、一般の債務不履行責任に基づく損害賠償請求と同様、履行利益(本来の履行がなされていれば得られていたであろう利益)まで請求するできることになりました。したがって、旧民法に比して損害賠償請求が認められる範囲が広がりました。
5 まとめ
本件のようなケースでは、まずは雨漏り等の修補を求めることが考えられるところですが、雨漏りの程度によっては解除や損害賠償請求も考えられるところです。損害賠償請求ができる場合の金額も改正によって変わりましたし、上記要件・効果については裁判例の蓄積がなく不透明なところがあります(例えばどの程度の「軽微」さであれば解除ができないのかなど)。まずは弁護士にご相談なさると良いでしょう。
以上