児童福祉施設入所措置の更新
行政|児童福祉法|秋田家審平成21年3月24日|大阪高決平成21年3月12日
目次
質問
私たち夫婦には、5歳の子どもがいるのですが、暴力を振るった、ということを理由として、児童相談所に連れていかれてしまいました。一時保護の後、審判で負けてしまったので、現在は児童養護施設に入所していました。入所からもうすぐ2年近くになります。
今回、児童相談所から、児童養護施設の入所を継続したいとの連絡がありました。最初に子どもが児童養護施設に入ってからも、頑張って児童相談所と協議しながら改善していったのに、継続は認めたくありません。どうすれば良いのでしょうか。
回答
1 本件のように、児童養護施設等への入所に反対したことで、家庭裁判所の承認の審判を経て入所措置がとられたようなケースの場合、入所の期間は2年間が原則です。
2 ただし、児童福祉法上、「当該措置に係る保護者に対する指導措置(第二十七条第一項第二号の措置をいう。以下この条並びに第三十三条第二項及び第九項において同じ。)の効果等に照らし、当該措置を継続しなければ保護者がその児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他著しく当該児童の福祉を害するおそれがあると認めるとき」には、家庭裁判所の承認を経ることで入所措置の継続が可能とされています。
3 本件でも、仮に児童相談所がこのまま入所措置の継続を企図する場合は、(親権者である相談者の明確な反対がある限り)家庭裁判所の審判に移行することになりますから、審判の場で、上記要件を充たさない具体的な事情を主張する必要があります。後述のとおり、審判においては、入所後から現在までの2年間に行われていた児童相談所からの指導にどのように対応してきたか(具体的にはその指導にきちんと服してきたか)が重要な点のひとつとして考えられているようです。
4 いずれにしても、審判は短期間で行われますし、可能であれば審判に移行する前に、児童相談所と協議をして、2年間で入所措置を終了させたいところです。そのためにも、特に急いで弁護士に相談されることをお勧めいたします。
5 その他の関連事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。
解説
1 児童養護施設等への入所措置とその継続(更新)
本件は、児童福祉法27条1項3号の規定により、お子様に対する児童養護施設への入所措置を採られてしまったケースです。
本件のように、親権者(両親)が入所措置に同意しなかった場合、児童相談所は、家庭裁判所に対して、入所の措置を承認してもらうための審判を申し立てることになります。
児童養護施設等への入所の期間については、「満二十歳に達するまで」(法31条2項)以外の制限はないのですが、本件のように、入所措置について反対の意思を示したこと(措置を採ることが「意に反するとき」といえること)によって、承認審判によって入所措置が決まった場合(法28条1項1号)には、入所期間は原則2年間に制限されます(法28条2項)。
なお、ここでいう反対の意思を示す(「意に反するとき」)とは、「入所措置に同意していない」という消極的な反対では足りず、積極的な反対の意思を示す必要があると考えられていますが、逆に施設等への入所について同意したとしても、「意に反するとき」と判断された例外的なケースもある(後述の参考裁判例②)ため、事案ごとの判断が必要です。
他方、上記の原則2年間の入所期間については、一定の要件もとで、家庭裁判所の承認を受けることで、期間の継続(更新)が可能になっています(法28条2項)。
本件のご相談は、この入所措置期間の継続が問題になっているようです。以下では、いかなる場合に入所措置が継続(更新)されてしまうのかを踏まえて、その争い方・対応について説明いたします。
2 入所措置継続の要件
法28条1項による、児童養護施設等への入所措置が取られた場合の入所期間の継続の要件は、同条2項に規定があります。
これによると、「当該措置に係る保護者に対する指導措置の効果等に照らし、当該措置を継続しなければ保護者がその児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他著しく当該児童の福祉を害するおそれがあると認めるとき」には、家庭裁判所の承認を経て継続が可能、とされています。
この入所措置の継続の要件のうち、後半部分(「著しく当該児童の福祉を害するおそれがあると認めるとき」)は、親権者の意に反する児童養護施設等への入所措置の要件と同一です。したがって、①虐待等の事実の有無、②対象となる子どもの意見、③精神科医の診断、④親権者の態度(反省状況)を含む環境改善の内容(その具体性)等を踏まえた事例ごとの判断ということになろうかと思います。詳細は『児童福祉法28条の審判対応|児童福祉施設等への入所の承認』をご覧ください。
入所措置の際の要件にはない、継続の場合の独自の要件は法28条2項の前半部分です。「当該措置に係る保護者に対する指導措置の効果」のうち「指導措置」とは、法27条1項2号の措置「児童又はその保護者を児童相談所その他の関係機関若しくは関係団体の事業所若しくは事務所に通わせ当該事業所若しくは事務所において、又は当該児童若しくはその保護者の住所若しくは居所において、児童福祉司、知的障害者福祉司、社会福祉主事、児童委員若しくは当該都道府県の設置する児童家庭支援センター若しくは当該都道府県が行う障害者等相談支援事業に係る職員に指導させ、又は市町村、当該都道府県以外の者の設置する児童家庭支援センター、当該都道府県以外の障害者等相談支援事業を行う者若しくは前条第一項第二号に規定する厚生労働省令で定める者に委託して指導させること」を指します。要するに「入所措置が決まってから2年間の、児童相談所から親権者(及び児童本人)に対する指導の効果」ということになります。
例えば、秋田家審平成21年3月24日は、「母は、○○児童相談所や○○学園に対して批判的な言動をしつつも、(1)原審判時以前における自らの事件本人に対する対応の仕方に行きすぎた部分があったこと、これを改める必要性、事件本人の養育方法について児童相談所ほかの関係機関の関与を受け入れる必要性を各認識していること、(2)母が事件本人のための居室を準備し、経済的にも事件本人を受け入れることが可能な状況にあること、(3)事件本人が母との同居を強く望んでいることがそれぞれ認められる。以上の各事情からすると、原審判に基づく措置を継続しなければ母が事件本人を虐待し、著しくその監護を怠るなどして著しく事件本人の福祉を害すると認めることはできない。」として入所措置の継続の承認申立てを却下した事例です。
ここで挙げられている(1)から(3)の要件のうち、(2)及び(3)が上記要件のうちの後半部分((2)が④、(3)が②)、(1)が要件のうちの前半部分ということになります。
また、入所措置の延長申立てを却下した原審を取り消し、延長を認めた大阪高決平成21年3月12日は、「父は、前件審判後、本件児相に頻繁に電話をかけ、数回ではあるが本件児相を訪問し、その際、事件本人の安否を尋ね、事件本人への贈り物を持参する一方で、事件本人の施設入所に対して不満を示し、本件児相の職員等に対する脅迫的な発言をなすことがあり、このような父の対応は原審判後も続き、本件児相の職員に対し、それまでのような脅迫的な発言をしたのに加え、事件本人の引取りをめぐって自暴自棄な発言にも及ぶなど、事件本人の施設入所や引取りをめぐる父の心情は、なお穏やかなものではないというべきである。」、「父は、前件審判のころから約6か月間措置入院となり、退院して高齢者住宅に入居した後も他の入居者への暴力等により入居の継続が難しく、平成20年×月中旬ころから任意入院しているところ、今後も投薬の必要があり、退院後に高齢者住宅等に入居することが見込まれるが、日常生活の援助が必要な状態であるなど、その健康状態や生活状況が安定したものとはいえない。他方、事件本人は、父に対して手紙や贈り物をするなど、以前に比べると父に対する心情は緩和しているが、父との同居を希望するまでには至らず、今後も本件施設で生活し、同施設から高校に通うことを希望している。」と判示しています。結論は上記秋田家裁とは逆になりますが、やはり判断の際に挙げている事情の要素は共通しており、入所措置後の児童相談所との関係、児童相談所への対応も重視されていることが分かります。
3 入所措置更新の争い方
続いて、入所措置の延長を争う具体的な方法について説明いたします。
上記のとおり、入所措置の際、審判による承認を受けた場合の、入所期間の継続は、家庭裁判所の承認の審判が必要です。
この承認の審判は、児童の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てられ(家事事件手続法234条)、申立てが不適法な場合や理由がないことが明らかな場合を除き、事前に親権者らの陳述を聞くことが義務付けられています(法236条1項)。
そのため、まずはこの陳述によって、上記入所措置の継続の要件を充たさない旨の主張をすることになります。
この審判の結果に不服がある場合には、即時抗告という不服申し立てができます(家事事件手続法85条1項)。即時抗告は、審判の告知を受けた日から2週間以内にしかできませんから、審判の告知をうけてからできる限り早急に判断する必要があります。
4 本件における具体的な対応
以上を踏まえた本件における具体的な対応ですが、まず、前提として、入所措置について同意を得られた(=期間の継続についても承認の審判は不要である)と判断されないように、児童相談所に対して、明確に「入所措置の継続に反対する」意思を示すことが必要です。
その上で、家庭裁判所の承認の審判において、入所措置の継続の要件を充たさない旨主張(陳述)することになります。本件においては、具体的な事情が分からないところですが、上記のとおり、要件のうち「当該措置に係る保護者に対する指導措置の効果」が重要な要素になっていますから、入所措置後の2年間、過去を踏まえて児童相談所の指導にしたがってきた、その結果状況が改善した(指導措置は奏功していた)という具体的なエピソードを踏まえた主張をすることが大切です。
5 まとめ
以上が入所措置の継続に関する説明になります。
ただ、本件のような一時保護から始まるケースでは、「入所措置の継続」までの間に①一時保護措置及びその延長(法33条)と②児童養護施設入所措置の承認のための審判(法28条)を経ることになっています。
本来であれば、これらの各段階において、早期帰宅を目指すべきであったと言えます。これらの各段階については、本ホームページ事例集『児童福祉法28条の審判対応|児童福祉施設等への入所の承認』、『児童福祉法33条による一時保護とその解除に向けた活動』、『児童福祉法違反|再婚相手と子の性的関係』等をご参照ください。)。
さらに、児童相談所との協議によって、仮に入所措置が取られてしまったとしても、2年間の入所期間中に入所措置解除(あるいは停止)、2年間の期間到来の時点での帰宅も考えられる場合があります。
いずれにしても、審判手続になることが見込まれますし、要件に従った具体的な事情に基づく主張が必要になります。実際に児童相談所に審判を申し立てられてしまうと、審判までの期間は短いですから、早急に弁護士に相談されることをお勧めします。
以上