労働者派遣契約の中途解約と派遣労働者の保護

労働法|労働基準法26条の責めに帰すべき事由の解釈|最判昭和62年7月17日判タ382号113頁

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

派遣労働者として工場で勤務しておりましたが,昨今の新型コロナウイルス感染防止のための自粛要請を受け,人員を減らす必要があるとのことで,派遣打ち切りを告げられました。

派遣元の会社に相談するも,不可抗力によるものだから何も助けてあげられない,すぐに新しい派遣先を紹介できる保証もないし,転職した方が良いのではないか,と言われてしまいました。

仕方のないことだとはいえ,何の補償も受けられないのは納得がいきません。派遣元に何らかの補償を求めることはできないでしょうか。

回答

1 派遣先から労働者派遣契約の中途解約の申出がされるに至った原因が,新型コロナウイルス感染防止のための自粛措置ということですから,中途解約が派遣元の過失によるものとはいえません。

しかし,だからといって派遣元との関係において,労働債務の履行不能が結論付けられるわけではありません。

2 派遣労働者であるあなたと雇用契約を結んでいる雇用主は派遣元であり,派遣元は,あなたに対し,仕事を紹介する法的義務を負っています。派遣元としては,派遣先の協力を仰ぎながら,新たな派遣先の紹介の可否を検討しなければなりません。紹介が容易であれば,そもそも労働債務の履行が不能という解釈はできないため,新たな仕事の紹介を行うと共に,所定の給与を支払わなければなりません。

また,新たな派遣先の確保が現実的に困難な場合は,可能な状態になるまで,労働基準法26条に基づく休業手当を支給することが求められます。

3 ただし,在宅勤務等による調整も職種的に不可能であり,新型コロナウイルスの感染防止のためには派遣先が休業を行うことが真にやむを得ないという場合であって,なおかつ,新たな派遣先の紹介が手段を尽くしても出来ないという場合は,労働債務の提供が不可抗力によって履行不能であると考えられる場合もございます。その場合は,労働基準法26条による休業手当の支給は必要ないという結論もあり得るところですが,極めて限定的な場合といえます。

4 派遣元との話し合いが上手くいかない場合は,労働基準監督署への相談,弁護士の利用等を検討しても良いでしょう。

5 その他の関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

第1 派遣労働者の雇用関係

労働者派遣とは,派遣元企業(派遣会社)が雇用する労働者を,派遣先企業の指揮命令の下で働かせることを意味します(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」といいます。)2条1号)。

他の企業の事業所内で別の企業の労働者が働く(アウトソーシング)形態は,この労働者派遣の他,請負契約や業務委託契約に基づき受託企業の業務を同受託企業の指揮命令の下に処理する事業場内下請が挙げられます。下請けといえるかどうかは,実質的に,受託企業内での独立した指揮命令関係が存在するかどうかで判断されますので,名目上は請負や業務委託となっていたとしても,労働者派遣とみなさる場合もあることは注意を要します。

雇用主は派遣元であるため,賃金支払義務等の労働契約上の基本的責任を負担するのも派遣元です。派遣先は派遣労働者とは直接の契約関係を持たず,派遣労働者に指揮命令し,その労務の提供を受ける関係にあります。

第2 派遣労働者に対する手当

1 労働者派遣契約が中途解約に至った場合の派遣労働者の保護

労働者派遣契約が派遣先の都合で中途解約に至った場合,派遣労働者はどのような保護を受けられるでしょうか。上記のとおり,派遣労働者の雇用主は派遣元であるため,基本的には,派遣元に対して対応を求めることになります。

(1) 新たな派遣先の確保

まず,派遣元に対して,新たな派遣先の紹介を求めることが考えられます。すぐに新たな派遣先が見つかれば,従前どおり労務の提供を行う対価として給与の支払いを受けることが可能となりますから,問題は解決されます。

(2) 賃金の補償

では,新たな派遣先の紹介を受けられるまでに時間を要する場合,あるいは紹介を行うこと自体を拒否されてしまった場合はどうでしょうか。新たな派遣先の紹介を受けるまでの間は,労働契約に基づく労務の提供が出来ない状態,すなわち履行不能の状態となります。

ここで,民法536条2項は,債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなった場合,債権者は反対給付の履行を拒むことができないと規定しています。派遣労働者が雇用契約を締結しているのは,派遣先ではなく,派遣元ですから,あくまでも使用者である派遣元の責めに帰すべき事由により労働義務が履行不能となった場合に,派遣元は,派遣労働者に対する賃金の支払いを拒絶できないことになります。

他方で,労働基準法26条は,使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に,使用者が労働者に対し,その休業期間中,平均賃金の6割以上の休業手当を支払うべき義務を課しております。なお,ここでいう「平均賃金」とは,算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を,その期間の総日数で除した金額を意味します(労働基準法12条1項)。

このように,両規定は,一見すると矛盾するようにも思えるため,民法536条2項と労働基準法26条の関係,すなわち両規定の「責に帰すべき事由」の解釈が問題となります。

まず,民法536条2項における「債権者の責めに帰すべき事由」は,債権者の故意・過失,又は信義則上これと同一視すべき事由を意味すると考えられています。

これに対し,労働基準法26条の解釈については,最判昭和62年7月17日判タ382号113頁が参考になります。同判例は,労働基準法26条が使用者の負担において労働者の生活を一定の限度において保障しようとする趣旨の規定であって,民法536条2項の適用を排除する趣旨の規定ではなく,競合し得ると判示しました。その上で,「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たっては,いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とすることから,労働基準法26条の規定は,「取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて,民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く,使用者側に起因する経営,管理上の障害を含むものと解するのが相当である。」と判示しました。

すなわち,上記判例は,労働基準法26条の定める「責に帰すべき事由」は,民法536条2項のそれより広いことを示しました。「責に帰すべき事由」という文言からは,使用者の側に何らかの過失が要求されると解するのが自然ですが,上記判例は労働者の生活保障という労働基準法26条の趣旨を踏まえて,使用者の過失とまではいえない使用者側に起因する経営,管理上の障害をも含むとし,天災地変もしくはこれに準ずる程度の不可効力による休業以外のものは,使用者の責に帰すべき休業に該当するとの判断を示したのです。

あらゆる手段を尽くしても回避できない事態が生じない限り,使用者側の「責めに帰すべき事由」が肯定されることになりますので,使用者側が休業手当を負担しなければならない範囲は極めて広いと考えられます。

以上を整理すると,労働義務の履行不能が派遣元の故意・過失,又は信義則上これと同一視すべき事由に基づく場合は,民法536条2項が適用され100パーセントの賃金を請求可能で,派遣元の帰責性が派遣元の過失とまでは断定できないような場合は,労働基準法26条により6割以上の休業手当を請求可能ということになります。そして,その判断にあたっては,労働者派遣契約の中途解約にあたって派遣元に何らかの落ち度があるか否か,また新たな派遣先の紹介の容易性が判断のポイントとなるでしょう。

ただし,派遣元に何らの落ち度もなく,手段を尽くしても新たな派遣先を確保できない等,不可抗力による履行不能といえる場合は,休業手当の支払義務が免責される場合もあります。ただし,これは極めて限定的な場合と考えられます。

なお,派遣先の都合により労働者派遣契約が中途解約されるに至った場合に,派遣元が派遣先に何らかの請求ができるかについては別途問題が残ります。この点については,以下で説明するとおり,新たな派遣先のあっせん要請に加え,負担しなければならなくなった休業手当等を請求できる場合があるでしょう。

(3) 派遣元と派遣先が講ずべき措置の指針について

派遣先事業者は,その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たっては,当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保,派遣元事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければなりません(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律29条の2)。

これを受け,厚生労働省は,派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号)と派遣元事業主が講ずべき措置の指針(平成11年労働省告示第137号)を告示しております。

すなわち,派遣先は,派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には,当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により,派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが求められます。また,これができないときには,少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行わなければなりません。例えば,当該派遣元事業主が当該派遣労働者を休業させる場合は休業手当に相当する額以上の額について,当該派遣元事業主がやむを得ない事由により当該派遣労働者を解雇する場合は,派遣先による解除の申入れが相当の猶予期間をもって行われなかったことにより当該派遣元事業主が解雇の予告をしないときは30日分以上,当該予告をした日から解雇の日までの期間が30日に満たないときは当該解雇の日の30日前の日から当該予告の日までの日数分以上の賃金に相当する額以上の額について,損害の賠償を行わなければなりません。

また,派遣元事業主は,労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には,当該労働者派遣契約に係る派遣先と連携して,当該派遣先からその関連会社での就業のあっせんを受けること,当該派遣元事業主において他の派遣先を確保すること等により,当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが求められます。新たな就業機会の確保ができない場合は,まず休業等を行い,当該派遣労働者の雇用の維持を図るようにするとともに,休業手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすことが求められると共に,やむを得ない事由によりこれができない場合において,当該派遣労働者を解雇しようとするときであっても,労働契約法の規定を遵守することはもとより,当該派遣労働者に対する解雇予告,解雇予告手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすことが求められます。

3 本件について

本件について検討しますと,まず,派遣先から労働者派遣契約の中途解約の申出がされるに至った原因が,新型コロナウイルス感染防止のための自粛措置ということですから,派遣元に落ち度があるという話にはならないでしょう。しかし,だからといって派遣元との関係において,労働債務の不可抗力による履行不能が結論付けられるわけではありません。あくまでも雇用主は派遣元であり,派遣元としては,派遣先の協力を仰ぎながら,新たな派遣先の紹介の可否を検討しなければなりません。紹介が容易であれば,そもそも労働債務は履行不能ではないため,新たな仕事の紹介を行うと共に,所定の給与を支払わなければなりません。また,新たな派遣先の確保が現実的に困難な場合は,可能な状態になるまで,労働基準法26条に基づく休業手当を支給することが求められます。

ただし,新たな派遣先の紹介が手段を尽くしても出来ないという場合は,労働債務の提供が不可抗力によって履行不能であると考えられる場合もございます。その場合は,労働基準法26条による休業手当の支給は必要ないという結論もあり得るところです。とはいえ,新型コロナウイルス感染症の影響に伴う経済上の理由により事業活動の縮小を余儀無くされた派遣元事業主が,派遣労働者の雇用の維持のために休業等を実施し,休業手当を支払う場合,雇用調整助成金が利用できる場合がありますので,可能な限り,休業手当の支給をするよう社会的にも求められているといえるでしょう。

以上を前提に,あなたとしては,派遣元に対し,まず早急に新たな派遣先の紹介をお願いすると共に,それが難しい場合は,紹介先が決まるまでの間,休業手当をしっかり払ってもらうよう請求することになります。この交渉が上手くいかない場合は,労働基準監督署への相談や弁護士の利用を検討しても良いでしょう。

以上

参照条文
●労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
(用語の意義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
二 派遣労働者 事業主が雇用する労働者であつて、労働者派遣の対象となるものをいう。
三 労働者派遣事業 労働者派遣を業として行うことをいう。
四 紹介予定派遣 労働者派遣のうち、第五条第一項の許可を受けた者(以下「派遣元事業主」という。)が労働者派遣の役務の提供の開始前又は開始後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者及び当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける者(第三章第四節を除き、以下「派遣先」という。)について、職業安定法その他の法律の規定による許可を受けて、又は届出をして、職業紹介を行い、又は行うことを予定してするものをいい、当該職業紹介により、当該派遣労働者が当該派遣先に雇用される旨が、当該労働者派遣の役務の提供の終了前に当該派遣労働者と当該派遣先との間で約されるものを含むものとする。

(労働者派遣契約の解除に当たつて講ずべき措置)
第二十九条の二 労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たつては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。

●労働基準法 第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
○2 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。
○3 前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。
一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
二 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間
三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間
四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第十項において同じ。)をした期間
五 試みの使用期間
○4 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
○5 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
○6 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。
○7 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
○8 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

●民法 (債務者の危険負担等) 第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
【参考裁判例】
●最判昭和62年7月17日判タ382号113頁

主 文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。

第一項の部分に関する控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

理 由

上告代理人福井富男、同神崎直樹の上告理由について 論旨は、本件ストライキによる休業が上告会社の責に帰すべき事由によるものであるとした原審の判断は、労働基準法二六条の解釈適用を誤つたものであり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。以下、判断する。

一 労働基準法二六条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の六割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として附加金や罰金の制度が設けられている(同法一一四条、一二〇条一号参照)のは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであつて、同条項が民法五三六条二項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである(最高裁昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六五六頁、同昭和三六年(オ)第五二二号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六八四頁参照)。 そこで、労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」と民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」との異同、広狭が問題となる。休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たつては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて、民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。

二 原審が適法に確定した事実関係は、おおむね次のとおりである。

1 上告会社は、民間定期航空運輸事業を営むアメリカ法人で、東京のほか大阪及び沖縄に各営業所を有している。被上告人らは、上告会社の従業員で、ノースウエスト航空日本支社労働組合(以下「本件組合」という。)に所属し、本件ストライキ当時原判決控訴人目録1ないし10記載の被上告人らは沖縄営業所に、同目録11ないし17記載の被上告人らは大阪営業所にそれぞれ勤務していた。
2 上告会社は、羽田地区においてグラウンドホステス業務及び搭載業務に訴外日本空港サービス株式会社(以下「ジヤスコ」という。)の労働者を従事させ、右労働者と自己の従業員とを混用していたが、本件組合は、かねてから右労務形態は労働者供給事業の禁止について規定した職業安定法四四条に違反するものであると非難しており、昭和四九年九月ころからはジヤスコ派遣のグラウンドホステスの正社員化と搭載課業務下請導入中止を要求するようになつた。
3 これに対し、上告会社は、グラウンドホステスの正社員採用については試験を経たうえで行う方針である旨回答したが、本件組合はあくまでも無試験全員採用を要求して、同年一〇月一六日から一八日までの間第一次ストライキを行つた(この件については、のちに上告会社が譲歩し、右グラウンドホステスは同年一二月三一日をもつて全員正社員として採用されることとなつた。)。
4 更に上告会社は、同年一〇月二二日、社内文書によつて「一一月一日より全搭載課員は一つのグループに統合する。」との改善案を発表し、右案の趣旨は、従来貨物課及び搭載課に配置されていたジャスコ派遣の搭載要員をそれぞれの課から除外し、それらの者は上告会社がジヤスコに売却する機材を使用して特定の便の搭載業務を請け負い、貨物課及び搭載課に配属されていた上告会社の従業員たる搭載係員を一つのグループに統合することを意味し、これによつて職業安定法違反はなくなると説明した。
5 しかし、本件組合は、右改善案によつても職業安定法違反の状態は除去されないとして、搭載係員の統合撤回と機材売却中止を要求したが、上告会社は同年一一月一日から右案を実施すると主張した。そこで、本件組合は、これを阻止するため、東京地区の組合員をもつて、右一一月一日から第二次ストライキ(本件ストライキ)を決行し、同組合員らは、羽田空港内の上告会社の業務用機材約七〇台をハンガー(格納家屋)に持ち去つて、これらを占拠した。本件ストライキは同年一二月一五日まで続いた。
6 上告会社においては、その当時の飛行便の運航予定は、旅客便については、西回り(アメリカから東京を経由して韓国・東南アジアへ向う便)及び東回り(右の逆)が毎日各四便で、そのうち大阪を経由するのは一日各一便、沖縄を経由するのは一週各三便であり、貨物便については、月曜日から土曜日までの間西回り及び東回りが毎日各一便で、そのうち大阪を経由するのは右の間各四便であつたが、組合員らによる前記機材占拠の結果羽田空港における地上作業が困難となつたため、予定便数の変更と路線変更のやむなきに至り、貨物便については同年一一月一日から全面的に運航を中止し、旅客便については同月中旬から主要路線の一日四便に減らし、その代わりに同年一二月一一日まで許可を得て、大阪・台北間の臨時便を追加運航することとした。
7 右運航スケジユール変更の結果、沖縄を経由するのは週一便のみとなつたが、その便も、運航時刻の関係及び沖縄の乗客の利用状況の点から、沖縄を経由しないこととなり、同年一一月一二日以降は沖縄を経由する便は全くなくなつた。そこで、上告会社は、管理職でない原判決控訴人目録1ないし10記載の被上告人らに対し、その就労を必要としなくなつたとして同月一四日から同年一二月一五日までの間休業を命じた。また、東京・大阪経由の旅客便は原則として大阪寄港をとり止めることとなり、前記大阪、台北間の臨時便も許可の期限を経過した同年一二月一二日以降は運航が許されなくなつた。そこで、上告会社は、管理職でない原判決控訴人目録11ないし17記載の被上告人らに対し、その就労を必要としなくなつたとして右同日から同月一五日までの間休業を命じた。

三 原審は、ストライキの発生について使用者の責に帰すべき事由があると認められ、かつ、ストライキの結果休業のやむなきに至るおそれのあることが予測されるときは、当該休業自体について使用者の責に帰すべき事由があるといわざるをえず、そして、帰責事由が使用者側と労働者側に併存している場合にも、使用者側の事由が無視しえない程度のものであれば、当該事由は使用者の責に帰すべき事由というを妨げないとしたうえで、右事実関係においては、本件ストライキはもともと上告会社がジヤスコから労働者の供給を受け、これを自己の従業員と混用していたという職業安定法四四条違反に端を発したのであるところ、上告会社としては、このようにストライキの発生を招いた点において過失があるばかりでなく、更に、本件休業の直前ジヤスコとの間で少なくとも形式的には職業安定法に抵触しない内容の業務遂行契約を締結しており、これを組合側に説明して、ストライキの早期解決を図るべきであつたのに、これを怠つた点においても過失があるというべきであり、結局これらの過失が本件休業という結果を招いたのであるから、右休業は上告会社の責に帰すべき事由によるものといわざるをえない旨判断した。これは、実質において、本件ストライキは、その経緯に照らし、一面において上告会社側に起因する事象ともいえるので、本件ストライキの結果上告会社が被上告人らに命じた休業は、上告会社の責に帰すべき事由によるものであるとするのと同旨であると解される。 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。すなわち、上告会社が従前グラウンドホステス業務及び搭載業務にジヤスコの労働者を従事させ、自己の従業員と混用していたことが職業安定法四四条に違反する疑いがあり、このことが本件ストライキの発生を招いたことは否定できないものの、上告会社は、ジヤスコ派遣のグラウンドホステスの正社員化と搭載課業務下請導入中止という本件組合の要求の趣旨を一部受入れて、ジヤスコ派遣のグラウンドホステスの正社員採用の方針を回答し、更にジヤスコの労働者を上告会社の従業員と分離し、これらの労働者には上告会社がジヤスコに売却する機材を使用して特定の便の搭載業務を請け負わせることとする改善案を発表し、これによつて職業安定法違反はなくなると説明していたのであり、右説明自体は、一つの見解としてそれなりに首肯しえないものではない。これに対し、本件組合は、上告会社とは異なつた見解に立ち、右改善案によつても職業安定法違反の状態は除去されないとして、あくまでも搭載係員の統合撤回及び機材売却中止という要求の貫徹を目指して本件ストライキを決行し、上告会社の業務用機材を占拠して飛行便の運行スケジユールの大幅な変更を余儀なくさせたというのであるから、本件ストライキは、もつぱら被上告人らの所属する本件組合が自らの主体的判断とその責任に基づいて行つたものとみるべきであつて、上告会社側に起因する事象ということはできない。このことは、上告会社が本件休業の直前ジヤスコとの間で締結した業務遂行契約の内容を組合側に説明しなかつたとしても、そのことによつて左右されるものではない。そして,前記休業を命じた期間中飛行便がほとんど大阪及び沖縄を経由しなくなつたため、上告会社は管理職でない被上告人らの就労を必要としなくなつたというのであるから、その間被上告人らが労働をすることは社会観念上無価値となつたといわなければならない。そうすると、本件ストライキの結果上告会社が被上告人らに命じた休業は、上告会社側に起因する経営、管理上の障害によるものということはできないから、上告会社の責に帰すべき事由によるものということはできず、被上告人らは右休業につき上告会社に対し休業手当を請求することはできない。 四 以上によれば、原審が、本件ストライキによる休業が上告会社の責に帰すべき事由によるものであつて、上告会社は右休業につき休業手当を支払うべきであるとしたのは、労働基準法二六条の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した事実関係及び右に説示したところによれば、被上告人らの予備的請求は理由がなく、これを棄却すべきことが明らかであるから、これと同旨の第一審判決は正当であり、したがつて、右の部分についての被上告人らの控訴は、これを棄却すべきである。 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 牧圭次 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 林藤之輔)

これらの結果として、大幅な減額が認められており、本件での反論を組み立てる上で参考になるでしょう。

第5 まとめ

以上のとおり、著作権の侵害を理由とする損害賠償請求の事案では、損害の算定方法が争点になりやすいといえます。原告の請求額を鵜呑みにするのではなく、適正な損害額を導くための適切な反論を加える必要がございます。知的財産権の分野は専門性の強い領域ですから、経験のある弁護士への相談をお勧めいたします。

以上

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