債権者からの破産申立てへの対応
破産|債務整理|債権者破産への対応|民事再生の申し立て等
目次
質問:
当社は,数年前から資金繰りが厳しくなり,現在,複数の債務者への支払いが滞ってしまっております。先日,そのうち特定の債権者から,裁判所に破産の申立てをされてしまいました。
当社としては,出来ることならば破産を回避して,会社を存続させたいのですが,手を尽くしても回避できないのであれば,破産はやむを得ないと考えております。
今後の手続きについて教えてください。
回答:
1 破産手続開始の申立ては,債務者のみならず,債権者もすることができますが(破産法18条1項),実務上はそのほとんどが債務者申立てによるものです。しかし,稀に債権者から債権回収や損金処理のために申立てがなされることがあります。
2 破産を回避するためにあなたが採り得る手段としては,まず,①破産手続きの中で,破産手続開始の原因となる事由を欠くという主張を行い,破産手続開始決定の阻止を目指すことが考えられます。債権者申立の場合,裁判所は,債権者及び債務者への双方審尋を行う運用をとっており(破産法13条,民事訴訟法87条2項),まずは当該審尋の中で破産手続開始決定の阻止を試みることになります。その後,開始決定が出た場合は,当該決定に対して即時抗告をすることが出来ますので(破産法9条),その中で破産手続開始の原因となる事由を欠くことを主張することになります。
これに加えて,②民事再生への切り替えを目指して,再生手続開始の申立てを行うことも考えられます。破産手続きと民事再生手続きが競合する場合,再生手続きが優先することになります。再生計画案が可決される可能性があるのであれば,民事再生の申立てを行うことで,会社の消滅を前提とする破産を阻止できる可能性が出てきます。迅速性のある私的整理の申し込みも方法として考えられます。
3 債権者申立てに際して,債権者は高額な予納金を納付しなければならず,それでも破産申立てに至ったということは,多額の負債の支払いが滞っていることが推測されます。そのため,破産を回避するのは簡単なことではありません。しかし,上記の活動で破産を免れることが出来る場合もありますので,破産に強い抵抗がある場合は,一度弁護士に相談してみると良いでしょう。
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解説:
第1 債務整理の概要
債務超過状態に陥ってしまった場合には,期限内に全ての債務の弁済を行うことは困難となります。このような場合,債務整理が必要となるわけですが,債務の圧縮,分割弁済等の方法で会社の再建を図っていく再建型の債務整理と,会社が保有している財産を債権者に平等に分配して会社を終結させるという清算型の債務整理のいずれかを選択することになります。
また,債務整理は,裁判所を介して行うか否かによって,任意整理と法的整理に分類されます。法的整理のうち,再建型債務整理が民事再生や会社更生,清算型債務整理が破産手続ということになります。
まずは各債権者との間の任意の交渉により分割弁済の合意を取り交わす,任意整理を検討することになります。任意整理が期待できない場合は,法的整理を検討することになり,収益を生み出す基礎となる財産を維持しつつ,債務者を経済的に再建する民事再生手続をとるか,それも難しいほどにまで債務が多大で財産が僅少である場合には,破産手続をとることになります。
第2 破産の申立権者
裁判所が申立てにより破産手続開始決定を発令するのは,債務者が「支払不能」にあるときです(破産法15条1項)。
破産手続開始の申立ては,債務者のみならず,債権者もすることができます(破産法18条1項)。上記のとおり,債務整理は,基本的に債務者側が債務超過の問題に直面することで検討することになるため,実務上はそのほとんどが債務者申立てによるものですが,稀に債権者から破産申立てがされることもあります。
債権者申立ては,多くの場合,①債権回収を図る目的,②税務上損金処理(貸倒損金算入)を行う目的のいずれかで利用されているようです。本件もそのような理由から債権者による破産手続開始の申立てがなされたと考えられます。
第3 債務者側の対抗手段
では,債権者から破産手続開始の申立てがなされた場合,債務者である会社が破産を回避する手段はないでしょうか。
通常,債権者がわざわざ高額な予納金を納付してまで破産の申立てをするとなると,多額の債務の支払いが滞っていることが強く予想され,破産を回避するのは簡単ではありません(予納金の金額は、裁判所、負債の金額、債権者の数等によって異なります。一般的に50人程度の債権者で、負債が数億円という場合は100万円程度と考えておいてよいでしょう。債権者申立の場合は、50万円程度高くなるようです。債権者は予納金の他弁護士の費用も負担しなくてはなりませんし、予納金は破産の手続きで優先的に回収できますが、弁護士の費用は破産手続きでは回収できません。また、債権があることを明らかにする必要があり一般的には勝訴判決等の債務名義が必要になりますから、勝訴判決得るための弁護士費用も必要になります。)しかし,事情次第では,破産を回避するための手段がないわけではありません。
1 破産の要件を争う方法
⑴通常の債務者申立の破産の場合は,書面審理のみで破産手続開始決定が発令されるのですが,債権者申立の場合には,通常,裁判所は,申立債権者及び債務者への双方審尋を行う運用となっています(破産法13条,民事訴訟法87条2項)。これは,債権者申立てが債務者の意に反して行われることが多い点に鑑み,裁判所としても,その判断を慎重にする必要があるという配慮によるものです。また、債権者申立の場合は、支払停止や債務超過を主張立証することは困難ですので、一般的には支払停止(破産法15条2項)を主張立証して支払不能が推定されるという理由で申し立てることが多いので、推定に対する債務者の反論が必要になります。
破産手続きは,債務者が支払不能(破産法2条11号)の状態と認められる場合に開始することになります。
債務者としては,審尋の際に,支払不能の要件を満たさないとの主張を行い,あるいは債権の存在自体を争う等して,自己に破産手続開始の原因となる事実が存在しない旨の反論を行うことが考えられます。
⑵ 破産手続開始決定後
仮に破産手続開始決定が発令された場合,債務者は当該決定に対して即時抗告を行うことができます(破産法9条)。即時抗告期間は,破産手続開始決定が官報に公告された日から起算して2週間です(同条)。
ただし,破産手続開始決定に対する即時抗告の申立てには執行停止効がありません。そのため,破産手続開始決定と同時に選任された破産管財人は,即時抗告の申立てがなされても,通常どおり管財業務を行うことが出来てしまいます。具体的には,破産財団に属する財産の価値が劣化するのは防ぐために,換価処分できる財産がある場合には換価処分を進めていくことになります。
抗告審で破産開始の事由が存在しないことを主張しつつ,管財人との間でも,可能な限り,手続きを待ってもらうよう交渉をしていく他ありません。
2 民事再生への切り替えを狙う方法
⑴ 概要
破産手続開始の原因となる事実が存在しないという消極的な防御活動に加え,再建型債務整理である民事再生への切り替えを狙うという積極的防御活動も考えられます。
民事再生手続きでは,民事再生を申し立てた再生債務者(通常は会社の代表者)が会社財産の管理権を持ったまま,事業の再生を目指すことができます。会社を維持したままで再生を目指せる点が,破産との大きな違いです。
ここで,破産手続きと民事再生手続きが競合するとどうなるのかという疑問が生じます。この点については,再生手続開始決定が出ると,以後,破産手続の申立てをすることはできなくなり,既に係属している破産手続は当然に中止することになります(民事再生法39条1項)。すなわち,破産手続きと民事再生手続きが競合する場合,再生手続きが優先することになります。再生計画案が可決される可能性があるのであれば,民事再生の申立てを行うことで,会社の消滅を前提とする破産を阻止できる可能性が出てきます。
なお,民事再生の申立てに際しては,弁済禁止の保全処分命令の申立ても併せて行うのが通常です。弁済禁止の保全処分とは,民事再生を申し立てた再生債務者に対して,民事再生申立ての前日までに発生した借金等の返済を禁止して,債務者の財産が減ることを防ぐためのものです。これにより,借金の返済を一時停止することが可能となり,再生計画にしたがった弁済に向けて余裕を持ちながら準備を進めることが可能となります。
⑵ 民事再生手続きの流れ
民事再生の手続きの流れは以下のとおりです。
民事再生の申立て(再生手続開始申立書,弁済禁止の仮処分命令申立書の提出,予納金納付),②裁判所による監督委員の選任,③債権者説明会の開催(債権者に対して再建の方針を説明),④裁判所による民事再生手続開始決定,⑤各債権者からの再生債権の申し出(債権届の提出),⑥再生債務者からの財産状況の報告(会社の財産目録や貸借対照表等の提出),⑦再生債務者からの債権認否書の提出(負債総額の確定),⑧再生債務者による再生計画案の作成,⑨債権者集会における再生計画案の決議(債権者集会に出席した議決権者の過半数の同意に加え,議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(民事再生法172条の3第1項)),⑩裁判所による再生計画の認可,⑪再生計画の遂行(監督委員による3年間の監督)と整理できます。
⑶ 民事再生を利用する前提条件
民事再生の利用を検討する前提として,①会社が継続して収益を上げる見込みがあること(そうでないと再生計画が実現できない),②一定の費用(予納金,監督委員の報酬,弁護士費用等で総額数百万円,さらに当面の運転資金)を準備できること,③再生計画案との関係で,一般債権者への返済資金を十分に確保できる見込みがあること(税金や給与・退職金等の優先債権の支払いが圧迫していないこと),④再生計画案の可決に至る見込みが存在すること(民事再生法172条の3第1項により,債権者数の過半数の同意に加え,負債総額の過半数の同意が必要)がそれぞれ必要といえます。
なお,事業承継などができるスポンサーがいるケースでは,事業が滞ったり収益性が下がったりする懸念を回避することができるので,再生計画案も可決されやすいと言えるでしょう。
これらを踏まえた上で,本件で民事再生の利用可能性があると判断できる場合は,民事再生への切り替えを目指すのも一つの選択肢でしょう。
以上
【参照条文】以上