SNSなりすまし加害者の特定手続き

民事|プロバイダ責任制限法|発信者情報開示請求|東京高裁平成30年6月13日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文・判例

質問:

インスタグラム(写真や動画を自分のWebサイトページに投稿する事)上で,とある人物が,私の名前と顔写真を用いて私になりすまし,私の知られたくない過去の風俗店勤務に関する情報を面白おかしく投稿したり,私に対する誹謗中傷を投稿したりしている事実が発覚しました。そのせいで,友人や会社関係者の間で変な噂が広がってしまい,毎日辛い思いをしています。

投稿の削除の申請はどうすればよいのでしょうか。また、犯人のことが絶対に許せないので,犯人に損害賠償請求を行うために,犯人を特定したいと思いますが,可能でしょうか。

回答:

1 SNS(登録された利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービスのことです。)上で本人になりすましたアカウントを作成して投稿を行う事例が後を絶ちません。なりすまし行為はインスタグラムの利用規約で禁止されておりますので,利用規約違反を理由に,専用フォームから削除申請を行うことが可能で,アカウントの削除に応じてもらえる場合が比較的多いでしょう。

しかし,アカウントの削除をするだけでは,犯人の特定に繋がりません。

2 発信者を特定するためには,サイト管理者及びプロバイダ業者に対して発信者情報開示請求を行う必要があります。

まずはインスタグラムの運営者であるFacebook,Inc.に対して,投稿が行われた前後のログイン時のIPアドレスの開示を求める仮処分命令の申立てを行い,開示を受けられた場合は,当該IPアドレスから判明したプロバイダ業者(経由プロバイダ)に対して,契約者の氏名・住所の開示を求める訴訟を提起することになります。

これらの発信者情報開示請求は,単になりすましの事実を疎明・立証するだけでは認められず,あくまでも,自身の権利(名誉権,プライバシー権,肖像権等)が侵害されたことを疎明・立証する必要があります。本件では,プライバシー侵害,名誉権侵害,肖像権侵害の各事実が疎明・立証できると思われ,発信者情報開示請求が認められる可能性が十分にあると考えられます。

ただし,SNS特有の問題として,サイト管理者は,投稿が行われた際のIPアドレス情報を記録しておらず,ログイン時のIPアドレス情報しか記録・保管していない,という問題があります。そのため,違法な投稿が行われた際のIPアドレスの開示を求める仮処分命令の申立てを行なって開示決定が出たとしても,現実問題として,ログイン時のIPアドレスしか開示を受けることができません。

その結果,経由プロバイダに対しては,違法な投稿の前後ログインが行われた時点で当該IPアドレスが割り当てられていた契約者の住所氏名について,開示を求める他ありません。この請求が認められるか否かについては,ログイン者と投稿者の同一性を推認できるかどうか,という視点で考えることになります。開示を受けたIPアドレスとタイムスタンプの情報如何によって結論が変わりますので,裁判例の結論も区々です。

このことから,特定が可能と安易に判断することはできず,やってみないと分からないというのが現状です。

3 複数回の法的手続きを経る必要がありますし,時間的な制限もありますので,事実上,弁護士でないと対応は難しいでしょう。

4 その他の関連事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

解説:

第1 アカウントないし投稿の削除請求

SNSの利用規約には,なりすまし行為を禁止する規定が設けられていることが多いため,なりすましの被害を受けたアカウントを削除してもらいたいという場合は,利用規約違反を理由に専用フォームから削除申請を行うことで,削除に至るケースが多いでしょう。

サイト運営側が削除の要請に応じない場合は,自身の権利(名誉権,プライバシー権,肖像権等)が侵害されたことを理由に,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)3条1項を根拠とする送信防止措置依頼書の送付を行い,それでも削除に応じない場合は,裁判所に対して削除の仮処分命令申立てを行うことになります(民事保全法23条2項)。本件では,利用規約違反が明らかである以上,専用フォームを通じて通報すれば,削除されることになると思われますので,法的手続きについては割愛いたします。

第2 発信者情報開示請求

1 概要

投稿の削除をしたとしても,再度同様の投稿がなされる可能性があり,削除だけでは本質的な解決とならないことも想定されます。

そこで,発信者を特定した上で,当該発信者に対して投稿を控えるよう忠告する通知書を送付したり,あるいは不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)を行ったりすることが考えられます。

この発信者を特定するための手続きが,プロバイダ責任制限法4条1項が規定する発信者情報開示請求の手続きとなります。同条項は,①権利侵害が明らかであること,②損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること,の2つの要件を満たす場合に開示請求が出来ることとしております。

その上で,開示請求の相手方をどのように考えるかが問題となります。発信者は,通常インターネット通信事業者(経由プロバイダ)とプロバイダ契約を締結し,当該経由プロバイダを通じてインターネットに接続します。そして,インターネット上でコンテンツを提供しているサイト運営者等のサーバと通信を行う方法で掲示板等にアクセスしているのです。

そのため,発信者を特定するためには,原則として,最初にサイト運営者(本件でいえば,インスタグラムを運営している会社であるFacebook,Inc.)に対して,発信者のIPアドレス(ウェブサイトに投稿をする際に,投稿を行うパソコンやスマートフォン1台1台に対して割り当てられる識別符号)とタイムスタンプ(Webサイトに記事の投稿をした時刻に関する記録)の開示を請求し,その情報をもとに,発信者が投稿時に利用した経由プロバイダ(インターネットへの接続サービスを提供する事業者)に対して発信者の氏名と住所の情報開示を請求する,という手順を踏む必要があります。

2 IPアドレス及びタイムスタンプの開示請求

⑴ 概要

サイト運営者に対してIPアドレスとタイムスタンプの開示を請求する方法ですが,削除の時と同様に,一般社団法人テレコムサービス協会(TELESA)が公表する発信者情報開示請求書の雛型を利用して,任意の開示を求める方法と,裁判所に仮処分命令の申立てを行う方法があります。

ただし,プロバイダ責任制限法4条4項は,特定電気通信役務提供者が開示請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については,「故意又は重大な過失がある場合でなければ,賠償の責めに任じない。」と規定し,余程の事情がない限り,開示請求に応じなくても損害賠償責任を負わないことが保証されています。これは,発信者情報開示請求の1つ目の要件である「権利侵害の明白性」は個々の事業者が容易に判断できることではなく(名誉棄損の成立要件と違法性阻却事由の要件の判断は簡単ではない。),裁判所からの命令を待って対応するという事業者の判断を尊重する趣旨の規定ということができます。そのため,発信者情報の任意開示に応じる事業者は少ないというのが現状です。

任意開示に応じてもらえない場合あるいは初めから見込みが薄いと考えられる場合は,裁判所に対し,開示命令の仮処分申立てを行うことになります。Facebook,Inc.も仮処分決定がなければ開示に応じない運用をとっておりますので,仮処分命令の申立てを行う必要があります。

⑵ 仮処分命令の申立て

ア 管轄

債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所が管轄裁判所となります(民事訴訟法第4条1項)。本件のように日本法人を有する海外法人を債務者とする場合,海外法人を直接債務者にする必要があります。

民事訴訟法第3条の3第5号は,日本において事業を行う者に対する訴えについては日本の裁判所が管轄と定めており,同法第10条の2,民事訴訟規則6条の2により,東京都千代田区を管轄する裁判所,すなわち東京地方裁判所が管轄裁判所になります。

イ 要件について

仮処分命令の申立てを行う際は,被保全権利の存在(名誉権,プライバシー権,肖像権等)と保全の必要性を申立書に記載すると共に,証拠によって疎明(裁判官が確からしいと判断する程度の立証で,訴訟で要求される証明よりは確信の程度が低くても良いとされています。)する必要があります(民事保全法13条)。

まず,被保全権利の疎明については,プロバイダ責任制限法4条1項から,①債務者が,侵害情報が流出することとなった特定電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)に該当すること,②債務者が開示請求に係る発信者情報を保有すること,③各投稿につき,権利侵害が明らかであること,④発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること,の4点の疎明が必要です。

このうち,③権利侵害の明白性要件との関係では,不法行為が成立し,それを阻却する事由(通常は違法性阻却事由)の存在を窺わせる事情も存在しないことを疎明する必要があります。本件では,肖像権侵害,プライバシー侵害,名誉棄損の疎明が問題なく出来ると思われ,違法性を阻却するような事情もなさそうですから,問題ないでしょう。

④正当な理由要件との関係では,発信者に対して損害賠償請求を予定している,という程度の記載で足ります。

次に,保全の必要性は,著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とすることの疎明が必要です(民事保全法23条2項)。一般的に,経由プロバイダはアクセスログを概ね3~5カ月程度しか保存していないために,債務者(Facebook,Inc.)から早期にアクセスログ(IPアドレスとタイムスタンプ)の開示を受けないと,発信者に対する損害賠償請求等の権利行使が不能となるおそれがある,という点を主張することで,実務上は保全の必要性が認められる扱いになっております。

ウ 開示を求める対象について

インスタグラム等のSNS特有の問題として,サイト管理者は,投 稿が行われた際のIPアドレスとタイムスタンプの情報を逐一記録しておらず,投稿前後のログイン又はログアウトに関するIPアドレスとタイムスタンプの情報しか記録・保管していない,という問題があります。

上記②の保有要件との関係で,保有していない情報の開示を求めることは出来ませんので,開示を求める情報(発信者情報目録)は,「該当アカウントについて,近似のログイン及びログアウトに関する年月日,時刻並びにIPアドレス。ただし,当該情報が入手可能であるものに限る。」との記載にする必要があります。

エ 発令段階

裁判所が仮処分命令(開示命令)を出す際は,事前に担保金10万円程度を法務局に供託する必要があります(なお,削除の仮処分時は30万円程度)。

開示の仮処分命令が出れば,サイト運営者はその判断に従うのが通常です。

3 経由プロバイダの特定とログの保存の申入れ

IPアドレスとタイムスタンプが判明したら,発信者が問題の投稿を行った際の経由プロバイダを特定します。たとえば,以下のリンク先でIPアドレスとタイムスタンプを入力することで,経由プロバイダを特定することができます。

(参考URL:https://www.cman.jp/network/support/ip.html

その上で,経由プロバイダに対して,投稿者の特定に必要なアクセスログの保全を申し入れます。というのも,経由プロバイダのアクセスログの記録は,一般的には3~5ヶ月程度で自動的に消去されてしまうことが多いため,後述の発信者情報開示請求訴訟を提起したとしても,経由プロバイダ側で記録が消えてしまっていて開示不能な状態に陥るリスクが想定されるのです。それでは意味を為さないので,早急にアクセスログの保存を申し入れます。

任意に応じてもらえない場合は,ここでも仮処分の申立てが必要となります(発信者情報消去禁止仮処分命令の申立て)。

4 契約者情報の開示請求

最後に,経由プロバイダに対して,契約者情報(住所,氏名,メールアドレス)を開示させるために,裁判所に発信者情報開示請求訴訟の提起を行います。契約者情報は重要な個人情報ですので,開示させるには必ず訴訟提起が必要とされており,仮処分で開示を受けることは出来ません。

管轄裁判所は,被告住所地を管轄する裁判所です(大体は東京地裁になるでしょう)。

ただし,上記のとおり,ログイン型投稿を前提とするインスタグラム等のSNS特有の問題として,サイト管理者が,投稿が行われた際のIPアドレス情報を記録しておらず,ログイン時,ログアウト時のIPアドレス情報しか開示を受けられない結果,経由プロバイダに対しては,違法な投稿の前後でログインとログアウトが行われた時点で当該IPアドレスが割り当てられていた契約者の住所氏名について,開示を求める他ありません。

この請求が認められるか否かについては,プロバイダ責任制限法4条が開示の対象としている「当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)」の解釈に委ねられることになります。

「権利の侵害に係る発信者情報」を字義どおりに捉えると,まさに違法な投稿を行なった時点におけるIPアドレスがこれに該当することとなり,前後のログイン時のIPアドレスは関係がないということになりそうです。他方で,ログインを行なった人物とその後の投稿を行った人物が異なるという可能性は一般的に極めて低いと考えられ,同一人物が使っていることに疑いを持たせる特段の事情がない限りは,ログイン時に当該IPアドレスが割り当てられた契約者の情報(氏名・住所等)も「権利の侵害に係る発信者情報」に含まれると解釈できそうです。

この点については,地裁や高裁で判断が分かれており,最高裁判例は存在しません。ログイン情報を送信した際に把握される発信者情報であっても,法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得ると判示した高裁の裁判例(参考裁判例①:東京高判平成30年6月13日判例時報2418号3頁)がある一方で,これを真正面から否定した高裁の裁判例もあります(参考裁判例②:知財高判平成30年4月25日判例時報2382号24頁)。

地裁レベルでも判断が分かれており,錯綜しておりますが,比較的最近の裁判例を見ると,ログイン者と投稿者の同一性を推認できるような場合は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断する傾向にあるようです(参考裁判例③:東京地判令和2年1月22日TKC25570898,参考裁判例④:東京地判令和2年2月20日TKC25570831,参考裁判例⑤:東京地判令和2年2月25日TKC25570796)。同一性の推認過程では,ログインの時期と投稿の時期の時間的近接性を中心として,様々な要素が考慮されており,結局のところ,IPアドレスとタイムスタンプの開示を受けてみないと立証が可能かどうかは分からない,ということになります。

このことから,SNSの場合は,発信者の特定が可能と安易に判断することは危険である考えられます。

また,これとは別の問題として,発信者情報開示請求訴訟で開示を受けられるのは,あくまでも経由プロバイダの契約者情報であり,契約者ではない者が投稿を行った可能性を否定できないケースでは,実際の投稿者の特定のために,さらに追加の調査が必要となる場合があります。たとえば,インターネットカフェで行われた投稿は,インターネットカフェの利用者履歴を開示してもらえない限り,発信者の特定は難しいでしょう。

5 小括

このように,発信者情報の開示は,原則として裁判所に何度も申立てを行うことが必要であり,非常に手間が掛かる手続きです。また,特定自体非常に困難な場合もあります。ITに精通した弁護士に一任してしまうことをお勧めいたします。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)

(損害賠償責任の制限)

第三条 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。

一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。

二 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。

2 特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。

一 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。

二 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下この号及び第四条において「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

(発信者情報の開示請求等)

第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。

一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。

二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

2 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。

3 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。

4 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。
参照判例
①東京高判平成30年6月13日 判例時報2418号3頁

本件IPアドレスから把握される発信者情報が、侵害情報である本件プロフィール等の投稿者のものと認められるか否かを検討する。

この点、前記前提となる事実、証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、本件アカウントは平成二七年一二月に開設されたものであるのに対し、本件IPアドレス等は、上記開設時から一年以上も後の平成二九年一月二八日から同年三月二八日まで(日本時間)のものであること、被控訴人の保有する本件IPアドレス等は、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプの一部にすぎず、本件IPアドレス以外にも、相当数、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプが存在することが認められる。

しかしながら、一般に、同一人が、複数のプロバイダからのIPアドレスを割り当てられながら、一年以上同じアカウントにログインを続けることは、珍しいことではない。そして、上記のとおり、ツイッターの仕組みは、設定されたアカウントにログインし(ログイン情報の送信)、ログインされた状態で投稿する(侵害情報の送信)、というものであるから、時的な先後関係にかかわらず、ログイン者と投稿者は同一である蓋然性が高いことが認められる一方、本件アカウントは、後記二のとおり、控訴人本人になりすました本件プロフィール等をトップページに表示し続けながら、ツイートを非公開として使用されてきたもので、法人が営業用に用いるなど複数名でアカウントを共有しているとか、アカウント使用者が変更されたとか、上記の同一性を妨げるような事情は何ら認められない。

このような事実からすると、本件IPアドレスを割り当てられてログインした者は、本件プロフィール等を投稿した者と推認するのが相当であるから、本件IPアドレス等から把握される発信者情報は、侵害情報である本件プロフィール等の投稿者のものと認めるのが相当である。

(4)そうすると、被控訴人は、控訴人の権利の侵害に係る発信者情報を保有しているということができる。

②知財高判平成30年4月25日 判例時報2382号24頁

控訴人は,省令の解釈上最新のログイン時IPアドレス等の開示が認められないのであれば省令はプロバイダ責任制限法による委任の趣旨に反し違法である旨主張する。しかし,侵害情報の発信者の特定に資する情報であっても開示の対象とならないものがあることはプロバイダ責任制限法4条1項の上記規定が予定するところであって,省令の規定が同項による委任の趣旨に反するということはできない。

これを本件についてみると,前記前提事実に加え,証拠(甲4の1・3・6・7)及び弁論の全趣旨によると,本件アカウント1が開設されたのは平成25年4月1日であり,本件プロフィール画像設定行為がされたのは遅くとも平成27年1月21日であること,本件ツイート行為2がされたのは平成26年12月14日であること,本件ツイート行為3~5がされたのは平成26年12月14日頃であることが認められる。なお,控訴人が札幌地方裁判所に本件訴えを提起したのは平成27年3月25日である。

そうすると,控訴人が開示を求める最新のログイン時IPアドレス及びタイムスタンプは,本件において侵害情報が発信された上記各行為と無関係であり,省令4号及び7号のいずれにも当たらないというべきである。したがって,別紙発信者情報目録記載2及び3についての控訴人の被控訴人米国ツイッター社に対する請求は理由がない。

③東京地判令和2年1月22日 TKC25570898

2 争点2(本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報であるか)について

(1)弁論の全趣旨によれば,ツイッターは,利用者においてパスワード等を入力することにより登録されているアカウントにログインしなければ利用できないサービスであると認められるから,ログインした者と投稿者は同一人である蓋然性が高いということができる。また,ログインした者と投稿者が同一人であれば,一般的に,投稿の直前のログインに係るアクセスによって当該投稿がされたと認めるのが相当である。

そこで,本件についてみると,前記第2の2(2)及び(3)のとおり,本件投稿1及び2は,それぞれ,令和元年7月4日午後2時34分(日本標準時。以下同じ。)及び同日午後7時44分にされたものであるのに対し,それらの前にされた本件アカウントへの最後のログインは,同日午前8時49分6秒にされたものであり(以下,このログインを「本件ログイン1」という。),本件投稿3は,同月6日午前10時57分にされたものであるのに対し,その前にされた本件アカウントへの最後のログインは,同日午前9時27分2秒にされたものであったこと(以下,このログインを「本件ログイン2」という。),本件ログイン1及び2は,いずれも本件IPアドレスからされたものであり,被告を経由プロバイダとするものであったことが認められる。他方,本件アカウントへのログイン状況(甲3の2)や本件記事の内容等に照らしても,本件アカウントが複数人で共有されているといった上記の同一性を妨げるような事情は認められない。

以上に照らせば,本件IPアドレスを割り当てられた者により,本件ログイン1及び2に係るアクセスによって本件投稿がされたものと推認するのが相当である。

④東京地判令和2年2月20日 TKC25570831

本件ログイン(1)ないし(3)は,本件各投稿行為より時間的に後になされたものであり,当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われるということはそもそも不可能である。

イ 他方,本件ログイン(4)ないし(13)は,本件各投稿行為より時間的に先行してなされているから,当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われた可能性は認められる。しかしながら,上記各ログインに関しても,前記第2の1(3)のとおり,本件サイトにおいては,同一のアカウントに対し,複数の端末からのログイン状態の併存が可能であることからすれば,いずれのログイン状態を利用して本件各投稿行為がなされたのか不明であり,ひいては,当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われたと認めるには至らないといわざるをえない。また,本件においては,本件各投稿行為がなされた日からさかのぼって36日間(本件投稿行為1の場合)ないし46日間(本件投稿行為2の場合)の期間内に,本件ログイン(4)ないし(13)のとおり,複数のIPアドレスによるログインがあるものであって,投稿行為に用いられたアカウントに,投稿日から過去にさかのぼる相応の期間,唯一特定のIPアドレスによるログインしかなかったというような場合に当たるものでもない。これらによれば,本件各ログインの発信元のIPアドレス(本件IPアドレス)相互の関係が証拠上不明であることを考慮するまでもなく,本件は,上記(1)で説示した場合には当たらないというほかない。

ウ 以上からすれば,本件ログイン(1)ないし(13)につき,当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われたことの証明がなされているとはいえない。

したがって,本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるとは認められないというべきである。

⑤東京地判令和2年2月25日 TKC25570796

(1)争点2-1(本件発信者情報1は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について

原告は,本件投稿動画が投稿されたことにより原告動画に係る原告の公衆送信権又は送信可能化権が侵害されたと主張しているところ,本件発信者情報1は,本件投稿行為から約1年8か月が経過した,平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定世界時)に本件サイトにログインした者の情報であり,このログイン時に本件投稿行為が行われたものではないから,法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないことは明らかである。