再開発における過小床の権利変換

民事|都市再開発法|権利変換|東京地裁平成20年12月25日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文・判例

質問:

私は約10年前から駅前のビルの一角に面積は3坪(約10㎡)を賃借して宝石等の販売をしております。

この度,そのビルがある地区が市街地再開発事業の対象となったのですが,再開発組合の担当者からは,「店の面積が,都市再開発法に基づいて決められた最小床面積の基準を下回る過小床となっているため,再開発後の建物には権利が認められない。そのため,借家権消滅の申出書を出して欲しい。」などと言われています。

私としては,駅前の立地は魅力ですので,再開発で建物が新しくなった後も,同じ場所での営業を再開したいと考えていますが,法律上,私の希望は認められないのでしょうか。

再開発終了後も同じ場所で営業を再開するためには,どうしたら良いでしょうか。

回答:

1 市街地再開発事業が実施される場合,従前の建物は全て取り壊され,その建物に付随する権利は全て消滅する代わりに,従前の権利者に対しては,新しい建物(施設建築物)に従前の権利に対応した新しい権利が割り当てられることになります。これを権利変換といいます。

この権利変換により,旧建物を賃借していた借家権者に対しては,再開発により建造される新建物に借家権が与えられ,新建物への再入居を認めるのが原則です。

2 しかし,都市再開発法上,政令で定める一定の面積の基準に照らし,床面積が著しく小である借家権に対しては,新建物の借家権が与えられないように計画を定めることができる。と規定されています(都市再開発法79条3項)。

そのため,あなたの場合も,同条文を根拠に,同じ場所での営業の再開(権利変換による再入居)を拒否されてしまう可能性はあります。

3 もっとも,都市再開発法の解釈・適用としては,過小な床面積については与えられる床面積を増やして(増床)対応することが原則であり,上記条文を適用して新建物への借家権の付与を拒否できるのは,事業妨害などの不当な意図のもとで過小な床面積を生じさせたような場合に限られるとの考え方が有力です。その旨を示唆した裁判例もあります。

そのため,あなたの店のように10年間も営業を継続してきた店舗について,上記条文を適用して借家権を与えないとする組合の対応は,違法な可能性があります。

組合に対しては,上記条文の適切な解釈を主張し交渉することで,増床により新しい建物への再入居が認められる可能性は十分に考えられます。

4 再開発組合は,新建物の高収益利用のために,従前の借家人の再入居を可能な限り拒絶しようとして,法律の不適切な解釈に基づいた説明を実施する場合があります。

あなた自身の権利利益の確保のためには,弁護士に相談して正しい法律の適用を求めることをお勧め致します。

5 関連事例集 参照。

Yahoo! JAPAN

解説:

1 権利変換の原則について

市街地再開発事業が実施される場合,従前の建物は全て取り壊され,その建物に付随する権利は全て消滅する代わりに,従前の権利者に対しては,新しい建物(施設建築物)について,従前の権利に対応した新しい権利が割り当てられることになります。これを権利変換といいます(都市再開発法73条)。

この権利変換の対象となる権利には,土地建物の所有権だけでなく,建物を借りている人の権利(賃借権)も含みます(法77条5項)。つまり,再開発前の建物の一室を借りて営業をしていた会社には,権利変換により,再開発後に同じ程度の広さの部屋の賃借権を割り当てられ,そこに入居して得営業することが認められています)。

一方,借家人の側において,この権利変換による再入居を希望しない場合には,再開発組合にその旨(借家権を消滅させる旨)を申し出ることもできます(法71条)。この申し出をした場合には,従前の権利の内容に対応した権利の補償を受けて,そのまま退去することとなります(法91条)。

この権利変換を希望しない旨の申出をするか否かは,借家人において決めることができます。すなわち,いくら再開発組合から「権利変換を希望しない,借家権を消滅させる旨の申出をして欲しい。」と言われても,それを賃借人において拒否すれば,再開発組合としては,権利変換の上で再入居を認めなければなりません。

この点,再開発組合や賃貸人としては,従前の権利者に権利変換を認めて借家権を継続するよりも新規に賃借人を募集した方が利益となることが多いため,借家人に対して権利変換を希望しないよう説得してくる傾向があります。具体的には,「再入居をしたとしても家賃が高くなるから損だ。」「借家権を消滅させた方が,その分補償が受けられるから利益になる。」など説明して,借家人に対して借家権消滅の申出をするように説得してくる場合があります。しかし,従前の権利が借家権である場合,その権利の価値(借家権価格)が金銭的に高く評価されることはあまりありません。裁判例では,借家権の評価をゼロとするものもあります(詳細は事例集1823等を参照)。また,賃料についても,再開発後の建物について,同条件の他の物件の水準よりは賃料が低額となる傾向があります。

このように,再開発組合の説明は不正確である場合も多く,再入居を希望した方が賃借人の利益となることの方が多いため,再開発組合の説得を受けた場合でも,権利変換を希望しない旨(借家権の消滅)の申出は慎重に判断する必要があります。

2 床面積が過小な場合の処理について

⑴ 増床の原則

もっとも本件では,賃借面積が約10㎡とのことです。権利変換は,あくまで従前と同じ程度の権利を再開発後の建物に与える手続きですので,従前の部屋の面積が狭い場合,再開発の施設建築物に与えられる借家権の面積も同程度に狭くなることになります。一方,再開発の施設建築物は,現在の法規制に合わせる等の観点から,極小の面積の部屋区域が設定されることは少なく,これにより従前と同じ狭い面積の部屋の借家権の権利変換をすることが困難という場合が生じます。

このように床面積が過小な場合の処理について,都市再開発法では以下のように規定されています。

(床面積が過小となる施設建築物の一部の処理)

第七十九条 権利変換計画を第七十四条第一項の基準に適合させるため特別な必要があるときは、第七十七条第二項又は第三項の規定によれば床面積が過小となる施設建築物の一部の床面積を増して適正なものとすることができる。この場合においては、必要な限度において、これらの規定によれば床面積が大で余裕がある施設建築物の一部の床面積を減ずることができる。

2 前項の過小な床面積の基準は、政令で定める基準に従い、施行者が審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定める。この場合において、市街地再開発審査会の議決は、第五十七条第四項第一号(第五十九条第二項において準用する場合を含む。)に掲げる委員の過半数を含む委員の過半数の賛成によつて決する。

3 権利変換計画においては、前項の規定により定められた床面積の基準に照らし、床面積が著しく小である施設建築物の一部又はその施設建築物の一部についての借家権が与えられることとなる者に対しては、第七十七条並びに前条第一項及び第二項の規定にかかわらず、施設建築物の一部等又は借家権が与えられないように定めることができる。

都市再開発法79条1項では,床面積が過小な権利については,権利変換後に与える施設建築物の面積を増して適正なものとすることができる,としています。つまり,権利変換の際に厳密に等価交換をするのではなく,従前の床面積よりも広い床面積を与えることを認めているのです。これを増床の原則といいます。

この条項が適用される床面積の基準は,法79条2項により政令で定めるとされています。この過小床の基準を定めた政令が,都市再開発法施行令27条です。

(過小な床面積の基準)

第二十七条 法第七十九条第二項の政令で定める基準は、次に掲げるものとする。

一 人の居住の用に供される部分については、三十平方メートル以上五十平方メートル以下

二 事務所、店舗その他これらに類するものの用に供される部分については、十平方メートル以上二十平方メートル以下

これにより,本件のような商業用物件では10平米以上20平米以下で基準を定めることが可能となります。本件のあなたの建物の面積は10平米以下とのことですので,再開発組合が政令の範囲内でどのように基準を定めていたとしても,過小な床に該当することになります。

そのため,原則としては,法79条1項の適用を主張して,増床により従前よりも広い面積を権利変換により割り当ることを求めることが可能となります。

⑵ 借家権を与えない処理

しかし都市再開発法は,過小床について,増床の処理の例外として,法79条3項を設けています。

同条項は,再開発組合が権利変換計画を策定するに際して,権利変換の原則(法77条)並びに増床の原則(79条3項)の規定に関わらず,借家権を与えられないように定めることができるとしています。

これはすなわち,例え借家人において(増床の原則の適用を主張して)権利変換を希望したとしても,再開発組合の一方的な計画により,権利変換を与えない処理を認めていることになります。

そのため,本件のような過小床については,再開発組合より上記の79条3項の規定の適用を主張され,借家権を与えない(権利変換による再入居を認めない)との主張がされることが多いです。

本件もまさにそのような事例であると考えられます。

⑶ 本件での対応

では,あなたとしては,組合が権利変換計画において借家権を与えないと定めた場合,それに従うしかないのでしょうか。

この点,確かに条文上は,法79条3項により借家権を与えないと定めることについては,特に制限などが設けられていないため,再開発組合の権利変換計画の策定は法律に違反しないとも考えられます。

しかし,過小床につき借家権を与えない処理は,あくまで例外であって,条文の構造上も,原則としては増床によって処理するものと定められています。そもそも,79条3項が設けられた趣旨は,増床の原則のみが規定されていた場合,事業妨害のため故意に過小な床面積を生じさせるような場合に対処しきれなくなるので,増床の原則を法定した反射として,施行者に施設建築物の一部や借家権を与えないという権限を付与する点にあります。

過去の事例としても,法的な判断として法79条3項により権利変換を認めなかった事例は,再開発事業の都市計画決定がなされた後に,持ち分を合計62名の者に分けて贈与して意図的に多数の過小床を生じさせた、権利濫用が疑われる事例でした(平成20年12月25日東京地方裁判所判決)。同裁判例は,法79条3項による処理を適法と判断した事例ですが,その理由として,「原告P1は,本件事業認可に先立つ平成17年1月11日,P1が共有持分を有していた公衆用道路の一部を39600分の2ずつ合計62名の者に贈与し(その残余が本件私道持分である。),多数の過小床を生じさせる行為をしていたこと,また,原告P1は,本件再開発事業都市計画決定がされた後である平成15年5月に本件景品交換所建物を新築していたことに照らすと,施行者である都市再生機構が,法79条3項に基づいて,本件共有持分及び本件景品交換所建物に対応する建築物の一部を配分しないことにしたことは適法であると解すべきである。」としています。

この判示からすると,このような意図的に過小床を生じさせたような事情が無い限り,従来より継続して普通の店舗を営業していただけの事案では,法79条3項を適用すべきではなく,強引に同条項による処理を強行した場合には,その権利変換手続きが違法と判断されることも十分考えられるところです。

そのため,あなたが再開従後施設建築物への再入居を希望するのであれば,組合による借家権消滅の申出の打診を拒否した上で,上記の79条3項に関する先例や解釈論を引用し,法律上,同条項による処理が違法である旨を主張することが考えられます。法的主張を証拠に残すために内容証明郵便で通知することも検討してください。場合によっては,後日,再開発組合が定めた権利変換計画に対して,意見書の提出(法83条2項)や,権利変換処分に対する審査請求,行政訴訟(取消訴訟)の提起等の準備をすることも必要です。

このような法的な主張をもとに協議をすることによって,増床による対処を獲得し,再開発後の新築ビルに再入居が認められることは多いです。また,再入居対応の代わりに,金銭的な解決の提示を受けることも多くあります。

これらの交渉をする際には,再開発事業の進行の度合いや,再開発施設建築物の設計状況,さらには賃貸人の権利取得状況,再開発組合の事業構成(参加組合員の構成)と参加組合員による区域内の権利の取得状況,権利変換計画の内容の精査分析する必要があります。例えば,賃貸人が施設建築物の床面積を多数取得していることなどを指摘すれば,増床による処理が容易に認められる場合もあります(権利変換により賃借権は消滅しますが、従前の賃貸人、所有者が権利変化により取得する建物に、再度賃借権が認められるのが原則です)。

ご本人での交渉は困難かと存じますので,経験のある弁護士に相談することをお勧め致します。

4 まとめ

以上のように,例え過小床に該当する場合であっても,適切な法的主張を行うことで,権利変換の対象となることを主張可能な場合もあります。

当初の対応によってその後の反論の可否も変わってきますので,速やかに弁護士に相談されることをお勧めします。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

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参照条文・判例

(都市再開発法)

(権利変換を希望しない旨の申出等)

第七十一条 個人施行者若しくは再開発会社の施行の認可の公告、第十九条第一項の規定による公告若しくは事業計画の決定若しくは認可の公告(第六項において「施行認可の公告等」という。)又は前条第六項の規定による公告があつたときは、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について所有権若しくは借地権を有する者又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者は、その公告があつた日から起算して三十日以内に、施行者に対し、第八十七条又は第八十八条第一項及び第二項の規定による権利の変換を希望せず、自己の有する宅地、借地権若しくは建築物に代えて金銭の給付を希望し、又は自己の有する建築物を施行地区外に移転すべき旨を申し出ることができる。

2 前項の宅地、借地権若しくは建築物について仮登記上の権利、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記若しくは処分の制限の登記があるとき、又は同項の未登記の借地権の存否若しくは帰属について争いがあるときは、それらの権利者又は争いの相手方の同意を得なければ、同項の規定による金銭の給付の希望を申し出ることができない。

3 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)は、第一項の期間内に施行者に対し、第八十八条第五項の規定による借家権の取得を希望しない旨を申し出ることができる。

4 第一項の期間経過後六月以内に第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(個人施行者が施行する第一種市街地再開発事業にあつては、次条第一項後段の規定による権利変換計画の認可。以下この項において同じ。)がされないときは、当該六月の期間経過後三十日以内に、第一項若しくは前項の規定による申出を撤回し、又は新たに第一項若しくは前項の規定による申出をすることができる。その三十日の期間経過後更に六月を経過しても第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始がされないときも、同様とする。

5 事業計画を変更して従前の施行地区外の土地を新たに施行地区に編入した場合においては、前項前段中「第一項の期間経過後六月以内に第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(個人施行者が施行する第一種市街地再開発事業にあつては、次条第一項後段の規定による権利変換計画の認可。以下この項において同じ。)がされないときは、当該六月の期間経過後」とあるのは、「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告又はその変更の認可の公告があつたときは、その公告があつた日から起算して」とする。

6 前条第三項の規定による決定があつた場合においては、同条第六項の規定による公告があつた日から起算して三十日以内に、施行認可の公告等があつた場合又は新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告若しくはその変更の認可の公告があつた場合において行つた第一項又は第三項の規定による申出を撤回することができる。

7 第一項又は第三項から前項までの規定による申出又は申出の撤回は、国土交通省令で定めるところにより、書面でしなければならない。

8 前条第八項の規定は、第一項又は第三項の規定による申出について準用する。

(権利変換計画の内容)

第七十三条 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 配置設計

二 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

三 前号に掲げる者が施行地区内に有する同号の宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

四 第二号に掲げる者に前号に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びそれらの価額の概算額

五 第三号に掲げる宅地、借地権又は建築物について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する。)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

六 前号に掲げる者が施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に有することとなる権利

七 指定宅地又はその使用収益権を有する者の氏名又は名称及び住所

八 前号に掲げる者が有する指定宅地又はその使用収益権及びそれらの価額

九 第七号に掲げる者に前号に掲げる指定宅地又はその使用収益権に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地又はその使用収益権の明細及びそれらの価額の概算額

十 第八号に掲げる指定宅地又はその使用収益権について担保権等の登記に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

十一 前号に掲げる者が個別利用区内の宅地又はその使用収益権の上に有することとなる権利

十二 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について賃借権を有する者(その者が更に賃借権を設定しているときは、その賃借権の設定を受けた者)又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者から賃借権の設定を受けた者で、当該賃借権に対応して、施設建築物の一部について賃借権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

十三 前号に掲げる者に賃借権が与えられることとなる施設建築物の一部

十四 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者(その者が賃借権を設定している場合を除く。)で、当該配偶者居住権に対応して、施設建築物の一部について配偶者居住権を与えられることとなるものの氏名及び住所並びにその配偶者居住権の存続期間

十五 前号に掲げる者に配偶者居住権が与えられることとなる施設建築物の一部

十六 施設建築敷地の地代の概算額及び地代以外の借地条件の概要

十七 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要

十八 第七十九条第三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

十九 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額

二十 組合の参加組合員に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所

二十一 第五十条の三第一項第五号又は第五十二条第二項第五号(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する特定事業参加者(以下単に「特定事業参加者」という。)に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその特定事業参加者の氏名又は名称及び住所

二十二 第四号、第九号及び前二号に掲げるもののほか、施設建築敷地又はその共有持分、施設建築物の一部等及び個別利用区内の宅地の明細、それらの帰属並びにそれらの管理処分の方法

二十三 新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項

二十四 権利変換期日、土地の明渡しの予定時期、個別利用区内の宅地の整備工事の完了の予定時期及び施設建築物の建築工事の完了の予定時期

二十五 その他国土交通省令で定める事項

2 宅地(指定宅地を除く。)について所有権又は借地権を有する者が当該宅地の上に建築物を有する場合において、当該宅地、借地権又は建築物について担保権等の登記に係る権利があるときは、これらの宅地、借地権又は建築物は、それぞれ別個の権利者に属するものとみなして権利変換計画を定めなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

一 担保権等の登記に係る権利の消滅について関係権利者の全ての同意があつたとき。

二 宅地と建築物又は借地権と建築物とが同一の担保権等の登記に係る権利の目的となつており、かつ、それらの全ての権利の順位が、宅地と建築物又は借地権と建築物とにおいてそれぞれ同一であるとき。

3 借地権の設定に係る仮登記上の権利(指定宅地に係るものを除く。)があるときは、仮登記権利者が当該借地権を有する場合を除き、宅地の所有者が当該借地権を別個の権利者として有するものとみなして、権利変換計画を定めなければならない。

4 宅地又は建築物(指定宅地に存するものを除く。)に関する権利に関して争いがある場合において、その権利の存否又は帰属が確定しないときは、当該権利が存するものとして、又は当該権利が現在の名義人に属するものとして権利変換計画を定めなければならない。ただし、借地権以外の宅地(指定宅地を除く。)を使用し、又は収益する権利の存否が確定しない場合にあつては、その宅地の所有者に対しては、当該権利が存しないものとして、その者に与える施設建築物の一部等を定めなければならない。

(床面積が過小となる施設建築物の一部の処理)

第七十九条 権利変換計画を第七十四条第一項の基準に適合させるため特別な必要があるときは、第七十七条第二項又は第三項の規定によれば床面積が過小となる施設建築物の一部の床面積を増して適正なものとすることができる。この場合においては、必要な限度において、これらの規定によれば床面積が大で余裕がある施設建築物の一部の床面積を減ずることができる。

2 前項の過小な床面積の基準は、政令で定める基準に従い、施行者が審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定める。この場合において、市街地再開発審査会の議決は、第五十七条第四項第一号(第五十九条第二項において準用する場合を含む。)に掲げる委員の過半数を含む委員の過半数の賛成によつて決する。

3 権利変換計画においては、前項の規定により定められた床面積の基準に照らし、床面積が著しく小である施設建築物の一部又はその施設建築物の一部についての借家権が与えられることとなる者に対しては、第七十七条並びに前条第一項及び第二項の規定にかかわらず、施設建築物の一部等又は借家権が与えられないように定めることができる。


※東京地裁平成20年12月25日判決

イ 本件私道部分等を過小床として処理したことの適否

原告X1は,都市再生機構が,本件私道持分と本件景品交換所建物につき,法79条のいわゆる過小床であるとして金銭補償をしたことは,同条の適用を誤ったものである旨主張する。

この点,法79条1項は,権利変換後の居住条件の改善を図る趣旨から,権利変換の対象となる宅地等が狭小であり,等価原則によって権利床を定めるとそれが過小となるときは,その床面積を増して適正なものとすべきことを定めたものと解される。他方,同条3項は,このような増床の原則のみを規定しておくと,事業妨害のため故意に過小な床面積を多数生じさせることがあり,その場合,増床だけでは対処しえなくなることを考慮し,例外的に,床面積が著しく過小となるときは,増床を行わず,権利床を与えないことができる権限を施行者に与えたものと解される。

ところで,前記認定したところによれば,本件事業において事務所,店舗等の用に供される部分の過小な床面積の基準は10m2と定められ,また,Ⅲ102の1m2当たりの単価は50万円を超えるのに対し,本件私道持分の価額は58万2000円,本件景品交換所建物の価額は228万2000円であるというのであるから,これに対応する権利床の面積は10m2を大きく下回るのであって,これらは,法79条3項所定の「床面積が著しく過小」な場合に当たるということができる。そして,証拠(甲5,丙16)によれば,原告X1は,本件事業認可に先立つ平成17年1月11日,X1が共有持分を有していた公衆用道路の一部を39600分の2ずつ合計62名の者に贈与し(その残余が本件私道持分である。),多数の過小床を生じさせる行為をしていたこと,また,原告X1は,本件再開発事業都市計画決定がされた後である平成15年5月に本件景品交換所建物を新築していたことに照らすと,施行者である都市再生機構が,法79条3項に基づいて,本件共有持分及び本件景品交換所建物に対応する建築物の一部を配分しないことにしたことは適法であると解すべきである。したがって,原告X1の上記主張は採用することができない。