再開発で借家人が再入居した場合の継続賃料

民事|都市再開発法102条1項|賃料増減確認訴訟|権利変換の等価原則|東京地方裁判所平成27年9月30日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

駅前で建物を賃借して飲食店を経営しています。このたび駅前一帯の再開発計画が持ち上がり、準備組合が設立されたと聞きました。準備組合事務局という名刺を持つ担当者と、補償コンサルタント会社の担当者が当社を訪れ、「再開発ビルは賃料が倍以上になるので地区外退出した方が貴社の利益である」と言われ、「借家権消滅希望申出書」にサインするように言われています。本当に家賃が倍以上になることなどあるのでしょうか。再開発後の賃料はどのようにして決まるのですか?



回答:

1 再開発により新築されたビル内の建物の借家条件の詳細は、賃料を含めて原則として家主との協議により決まります(都市再開発法第102条第1項)。協議が成立しない場合は、再開発組合の裁定を求めることができ、裁定の結論に不満がある場合は、賃料確認訴訟を提起して確定することになります。

ですから、裁判をした場合に賃料がいくらになるかを予測して、まずは、家主と協議することになりますが、裁判の見込みとして家賃が2倍以上になるということはないといって良いでしょう。新築ビルは、建物が新しくなることや管理費等が値上がりするため、家賃の増額はやむを得ませんが、従来の家賃が倍以上に値上がりするという心配はありません(地裁の裁判例では、1.5倍となった例があります)。

2 民間の再開発事業である、第一種市街地再開発事業は、地権者が行政と協議しながら、都市計画決定を経て、区域一帯の一括建て替えを円滑に進める手続です。ある程度強制的に建て替えを進めるために、権利変換手続という手法を用いています。これは権利変換期日に従来の建物に関する権利が一括して消滅し、建物竣工後に、権利変換計画書に定められた通りに、従来の権利者が新たな建物の権利を取得するという手続です。

3 借家権の権利変換では、新たに取得する借家権の対象となる建物の区画が指定されるだけで、家賃などの借家条件の詳細は決まらない仕組みになっています。借家条件の詳細は、家主との協議か、再開発組合の裁定か、賃料確認訴訟によって確定することになります。

  賃料確定訴訟を行う場合の、賃料を定める準則は、一般の賃貸借における貸主と借主の間において賃料を決定するために用いられる「不動産鑑定評価基準」を用いる方法と、都市再開発法103条1項(都市再開発法施行令30条、41条2項)の算定方法を用いる方法と2種類あり、再開発手続の特殊性を重視するならば後者の算定方法を考慮に入れるべき事になります。下級審の判例がありますので御紹介いたします。この判例では従前賃料113万5千円、組合裁定141万2600円でしたが、賃貸人が組合裁定を不服として賃料確定訴訟を原告請求324万7千円で提起したところ、判決で認められたのは賃料179万2千円でした。

  このような賃料確定方法の細かい議論とは別に、都市再開発法の権利変換の制度趣旨を考えるならば、従来の権利を等価のままで新しい建物に移行させる手続ですので(都市再開発法77条2項、等価原則)、賃料が大幅に変動することは本来あり得ない事になります。賃料確定の手続に臨む場合は、この基本的な方向性に留意することが必要です。

4 関連事例集参照。

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解説:

1、第一種市街地再開発事業

第一種市街地再開発事業は、都市再開発法で定められた権利変換方式を用いる再開発(建て替え)の手法です。ちなみに第二種市街地再開発事業は、管理処分方式(用地買収方式)と言って、公共性の高い事業について、地方自治体などが主体となり、区域内の権利を全て取得し、その上で希望者に再入居させて、再開発を進める方式です。

第一種再開発事業は、従前建物の耐震性や耐火性を高め、商業施設などの利便性を高めるために、都市計画決定を経た上で、区域内の地権者5名以上で、区域内の宅地所有者及び借地権者の3分の2以上(面積及び人数)の同意により、再開発組合を設立し、権利変換計画を定め、従来の土地建物の権利を、新しい建物の敷地権と区分所有権に変換させて、円滑に建て替えを進めるための事業です。都市機能の向上と安全性・防災性の向上は公共の福祉に役立つことであるので、ある程度私権を制限してでも手続を進めてしまうという制度趣旨です。

権利変換とは、組合が定めた計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の(1)~(4)の効力が生じるものです。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。

(1)施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。

(2)従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。

(3)施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。

(4)当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。

面積と人数で3分の2以上という多数の意思形成は必要ですが、逆に言えば、区域住民の大多数が同意できるような計画を提示できれば、多少の反対があっても事業を進めることができるように法令が整備されています。

都市再開発法第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)
第1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。

権利変換計画において、従前の家主が取得する建物について、従来の借家人は、借家権を取得することができます。従来の家主が権利変換を希望しない旨の申し出を行い、金銭補償を受けて地区外退出をする場合、借家人は、施行者である再開発組合が取得する保留床に対して借家権を取得することになります。一般的論ですが、この保留床は借家権つき建物として、参加組合員である不動産デベロッパーに売却されることになります。

都市再開発法77条第5項 権利変換計画においては、第七十一条第三項の申出をした者を除き、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)に対しては、第一項の規定により当該建築物の所有者に与えられることとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。ただし、当該建築物の所有者が同条第一項の申出をしたときは、前項の規定により施行者に帰属することとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。

2、従前家主が権利変換を受ける場合の借家条件確定手続

上記のように権利変換計画においては、具体的な借家条件は定められませんので、再開発ビルの竣工が近くなってきますと、これを確定する手続が始まることになります。これは、都市再開発法102条が定める手続となります。

(1)当事者の協議

都市再開発法第102条(借家条件の協議及び裁定)

第1項 権利変換計画において施設建築物の一部等が与えられるように定められた者と当該施設建築物の一部について第七十七条第五項本文の規定により借家権が与えられるように定 められた者は、家賃その他の借家条件について協議しなければならない。

まずは、当事者の協議を行うことが必要です。この協議は、都市再開発法100条2項の工事完了公告の日まで継続することになります。協議は、面談にて行うこともできますが、その場合でも、できる限り相互に書面を交付する方法で、後日記録を確認できる方法で協議すると良いでしょう。

(2)再開発組合の裁定

都市再開発法第102条第2項 第百条第二項の規定による公告の日までに前項の規定による協議が成立しないときは、施行者は、当事者の一方又は双方の申立てにより、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て、次に掲げる事項について裁定することができる。この場合においては、第七十九条第二項後段の規定を準用する。

一 賃借りの目的

二 家賃の額、支払期日及び支払方法

三 敷金又は借家権の設定の対価を支払うべきときは、その額

第3項 施行者は、前項の規定による裁定をするときは、賃借りの目的については賃借部分の構造及び賃借人の職業を、家賃の額については賃貸人の受けるべき適正な利潤を、その他の事項についてはその地方における一般の慣行を考慮して定めなければならない。

第4項 第二項の規定による裁定があつたときは、裁定の定めるところにより、当事者間に協議が成立したものとみなす。

第5項 第二項の裁定に関し必要な手続に関する事項は、国土交通省令で定める。
都市再開発法施行規則

第35条(借家条件の裁定手続)

第1項 法第百二条第二項(法第百十八条の二十二第二項において準用する場合を含む。)の裁定の申立てをしようとする者は、別記様式第十六の裁定申立書を施行者に提出しなければならない。

第2項 施行者は、裁定前に当事者の意見をきかなければならない。

第3項 裁定は、文書をもつてし、かつ、その理由を附さなければならない。

第4項 施行者は、裁定書の正本を当事者双方に送付しなければならない。

建物が完成しても協議が整わない場合は、当事者の一方は、再開発組合に賃料を定める裁定を申し立てることができます。裁定では、当事者双方の意見を聞いて、専門家委員の多数決により組合としての裁定が下されることになります。

(3)賃料増減確認訴訟

都市再開発法第102条

第6項 第二項の裁定に不服がある者は、その裁定があつた日から六十日以内に、訴えをもつてその変更を請求することができる。

第7項 前項の訴えにおいては、当事者の他の一方を被告としなければならない。

組合の裁定に不服がある場合は、裁定のあった日から60日以内に裁判所に賃料確認の訴えを提起することができます。この時、102条3項の「前項の規定による裁定をするときは、賃借りの目的については賃借部分の構造及び賃借人の職業を、家賃の額については賃貸人の受けるべき適正な利潤を、その他の事項についてはその地方における一般の慣行を考慮して定めなければならない。」という規定がどのように解釈され、どのように適用されるのか、注意が必要となります。

3、従前家主が地区外退出した場合の賃料確定手続き

従前家主が権利変換を希望しない旨の申し出を行い、地区外退出を選択した場合には、組合を貸し主とする賃貸借契約が締結されることになりますが、この場合の借家条件は、協議ではなく、法令が定める計算方法によって決まることになります。

都市再開発法103条1項 施行者は、第一種市街地再開発事業の工事が完了したときは、速やかに、当該事業に要した費用の額を確定するとともに、政令で定めるところにより、その確定した額及び第八十条第一項に規定する三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等若しくは個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権を取得した者又は施行者の所有する施設建築物の一部について第七十七条第五項ただし書の規定により借家権が与えられるように定められ、第八十八条第五項の規定により借家権を取得した者ごとに、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等若しくは個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権の価額、施設建築敷地の地代の額又は施行者が賃貸しする施設建築物の一部の家賃の額を確定し、これらの者にその確定した額を通知しなければならない。

都市再開発法施行令

第30条(施設建築物の一部の標準家賃の概算額)

第1項 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額は、当該施設建築物の一部の整備に要する費用の償却額に修繕費、管理事務費、地代に相当する額、損害保険料、貸倒れ及び空家による損失をうめるための引当金並びに公課(国有資産等所在市町村交付金を含む。)を加えたものとする。

第2項 前項の施設建築物の一部の整備に要する費用は、付録第二の式によつて算出するものとする。

第3項 第一項の償却額を算出する場合における償却方法並びに同項の修繕費、管理事務費、地代に相当する額、損害保険料及び引当金の算出方法は、国土交通省令で定める。

第41条(施設建築物の一部等の価額等の確定)

第1項 法第百三条第一項の規定による施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等若しくは個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権の価額又は施設建築敷地の地代の額の確定は、第二十八条から第二十九条までの規定の例により行わなければならない。

第2項 法第百三条第一項の規定による施設建築物の一部の家賃の額は、第三十条の規定の例により定めた標準家賃の額に、国土交通省令で定めるところにより、当該施設建築物の一部について借家権を与えられることとなる者が施行地区内の建築物について有していた借家権の価額を考慮して、必要な補正を行なつて確定しなければならない。

都市再開発法施行規則

第36条(標準家賃の額の確定の補正方法)

令第四十一条第二項の標準家賃の額の補正は、令第三十条の規定の例により定めた標準家賃の月額から、施設建築物の一部について借家権を与えられることとなる者が施行地区内の建築物について有していた借家権の価額を当該借家権の残存期間、近隣の同類型の借家の取引慣行等を総合的に比較考量して施行者が定める期間で毎月均等に償却するものとして算定した償却額を控除して行なうものとする。

この都市再開発法施行令30条と41条と、施行規則36条の規定を見ますと、基本的に、かかった経費を基に、喪失する借家権価格と取得する借家権価格の差額分を含めて、その一定期間による償却額によって算定するとされています。これは再建築の経費を考慮しつつ、従前賃料額も考慮に入れて補正する趣旨の規定です。ここでは法102条3項に規定された「家賃の額については賃貸人の受けるべき適正な利潤」という条項は含まれず、いわば、「原価償却額で貸しなさい」というような借家人の保護に主眼を置いた規定になっていることが注目されます。

組合から通知された賃料額に不服がある場合は、法103条2項により、賃料増減確認訴訟を提起することができます。条文上は単に「地代」とされていますが、借家契約の賃料についても裁判所に確認を求めることができるでしょう。

都市再開発法103条第2項 前項の規定により確定した地代の額は、当事者間に別段の合意がない限り、施設建築敷地について当事者の合意により定められた地代の額とみなす。ただし、その額に不服がある者は、前項の通知を受けた日から六十日以内に、訴えをもつてその増減を請求することができる。

4、裁判例

未だ判例の集積も少なく、最高裁判決も出ていませんが、下級審判例がありますので、参考のために御紹介いたします。従前家主が権利変換を受けて新しい建物についても家主となっている事案についての裁判例です。

東京地方裁判所平成27年9月30日判決

『1(1) 前記前提となる事実によれば,被告は,原告が代表者を務めるVとの間で,その所有に係る本件建物2を賃借する旨の本件賃貸借契約を締結していたところ,Vが都市再開発法に基づく権利変換手続により本件再開発ビルの住居部分を取得することになったことから,本件賃貸借契約を変更した上で,これに基づき,本件再開発事業により原告が取得することとなる本件建物1を原告から賃借することとしたものであり,また,本件建物2の敷地については,原告がこれを所有し,Vとの間でこれについて賃貸借契約が締結されていなかったというのである。これらの事情に照らせば,平成25年3月1日時点における本件建物1の適正賃料については,同一の契約当事者間において本件賃貸借契約の契約条件が変更されることに伴って賃料を改定する場合の継続賃料を,不動産鑑定評価基準所定の方法を用いて算定するのが相当である。

(2) 被告は,都市再開発法に基づく権利変換後の賃料を定めるに当たっては,賃貸人が施行者であるか否かにかかわらず,同法103条1項所定の算定方法を用いるべきであって,不動産鑑定評価基準所定の算定方法を用いるべきではない旨を主張する。

しかし,都市再開発法73条1項10号は,権利変換計画において,国土交通省令で定めるところにより,「施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額」を定めなければならない旨を定め,同法施行令30条は,その標準家賃の概算額の算出方法として,「当該施設建築物の一部の整備に要する費用の償却額に修繕費,管理事務費,地代に相当する額,損害保険料,貸倒れ及び空家による損失をうめるための引当金並びに公課(国有資産等所在市町村交付金を含む。)を加えたものとする」と定めている。そして,同法施行令41条2項は,同法103条1項により施行者が賃貸しする施設建築物の一部の家賃の額について,上記標準家賃の額に必要な補正を行って確定するものとする。これに対し,同法102条2項は,当事者間に家賃その他の借家条件について協議が成立しない場合,施行者はこれを裁定することができる旨を定め,同条3項は,この裁定をするときは,賃借部分の構造及び賃借人の職業,賃貸人の受けるべき適正な利潤並びに一般の慣行を考慮しなければならない旨を定めているものの,そのほかに算出方法を規定していない。そして,同条6項は,裁定に不服がある者は,訴えをもってその変更を請求することができる旨を定めるが,その訴えにおいて裁判所が適正な賃料を定めるに際して則るべき算出方法を規定していない。

このように,都市再開発法は,施設建築物の一部を賃貸する際の賃料額の定め方について,施行者が賃貸する場合とそうでない者が賃貸する場合とを明確に区別しているが,これは,前者の場合には,施行者が施設建築物の一部を複数の賃借人に対して賃貸することが想定され得ることから,特に賃借人間の公平を期すために,あらかじめ一定の基準となる賃料額を定め,これに基づいて画一的に賃料を算定することが要請されるのに対し,後者の場合には,基本的には,賃料額が賃貸人と賃借人との間の需給関係等を前提とした個別の合意によって定められるべきものであることによるものと解される。そうすると,施行者でない者が施設建築物の一部を賃貸する場合において,同法103条1項所定の算定方法を用いて賃料を定めることは,その趣旨に照らし,相当ではないといわざるを得ない。

したがって,同法に基づく権利変換後の賃料を定めるに当たり,賃貸人が施行者であるか否かにかかわらず,同法103条1項所定の方法を用いるべきである旨の被告の主張は,採用することができない。』

この判例では、地区外退出を選択せず権利変換を受けた貸し主と従前借主との間で新しい建物についての借家条件を定める場合には、都市再開発法103条の組合が賃貸しする場合の計算方法ではなく、一般の賃料確定手続で用いられる「不動産鑑定評価基準所定の方法を用いて算定するのが相当である」と判断しています。都市再開発手続の特殊性は考慮に入らないようにも見える判決理由となっていますが、実際の判決内容は次の通りとなっています。

従前賃料113万5千円

組合裁定141万2600円

原告請求324万7千円

判決賃料179万2千円

裁判になった場合、不動産鑑定評価基準を用いるといっても、必ずしも原告の希望する金額には到達しない可能性が高いことが分かります。この分野はまだまだ判例の集積が少ない分野ですので、どのように定まるか不確定要素が大きいことになります。

※参考URL、国土交通省の不動産鑑定基準ページ
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk4_000024.html

5、まとめ

以上のような個別の議論はあるものの、都市再開発法の原点に立ち返れば、従来の権利をできる限り増減させずに、同じ価値のままに、新しい建物に移行させるという、次の規定が基本になっていることが分かります。

都市再開発法77条2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。

これは、従前資産と従後資産についての「等価原則」を定めたものと解されています。この規定を基本に考えるならば、賃料が2倍以上に変動することは本来あり得ない事になります。賃料確定の手続に臨む場合は、この基本的な方向性に留意することが必要です。2倍を超えるような継続賃料の変動は法律が予定していないことであると主張することができるのです。継続賃料の問題でお困りの場合は再開発手続に経験のある法律事務所に御相談なさると良いでしょう。

以上です。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

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参照条文

※都市再開発法

(借家条件の協議及び裁定)
第102条1項 権利変換計画において施設建築物の一部等が与えられるように定められた者と当該施設建築物の一部について第七十七条第五項本文の規定により賃借権が与えられるように定められた者は、家賃その他の借家条件について協議しなければならない。
2項 第百条第二項の規定による公告の日までに前項の規定による協議が成立しないときは、施行者は、当事者の一方又は双方の申立てにより、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て、次に掲げる事項について裁定することができる。この場合においては、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
一号 賃借りの目的
二号 家賃の額、支払期日及び支払方法
三号 敷金又は賃借権の設定の対価を支払うべきときは、その額
3項 施行者は、前項の規定による裁定をするときは、賃借りの目的については賃借部分の構造及び賃借人の職業を、家賃の額については賃貸人の受けるべき適正な利潤を、その他の事項についてはその地方における一般の慣行を考慮して定めなければならない。
4項 第二項の規定による裁定があつたときは、裁定の定めるところにより、当事者間に協議が成立したものとみなす。
5項 第二項の裁定に関し必要な手続に関する事項は、国土交通省令で定める。
6項 第二項の裁定に不服がある者は、その裁定があつた日から六十日以内に、訴えをもつてその変更を請求することができる。
7項 前項の訴えにおいては、当事者の他の一方を被告としなければならない。