銃刀法違反の起訴前弁護
刑事|銃刀法|ナイフ携帯の正当な理由|軽犯罪法との関係|最判平成21年3月26日判決
目次
質問
先日,都内で車を運転していたところ警察官に呼び止められ,所持品検査を求められました。私は急いでいたので拒否したかったのですが,警察官から執拗に迫られたため,仕方なく所持品を見せたところ,所持していたカード型のナイフ(クレジットカードと同じ大きさのカードを折りたたむとナイフになるもの)が,銃刀法違反になると言われました。
現在は釈放されていますが,今後,私への処罰はどうなるのでしょうか。処罰を回避することはできないでしょうか。
回答
1 一定の刃物(刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物)を所持することは,銃砲刀剣類所持等取締法22条違反の罪が成立する可能性があります。本件であなたが所持していた物品は,カードを折りたたんでナイフになる形式とのことですが,そのような物品は,銃刀法施行令37条2号により規制対象の例外となる場合もありますので,まずその点を確認する必要があるでしょう。
2 仮に規制対象となる刃物であっても,携帯に「業務その他正当な理由」が認められれば,銃刀法違反とはなりません。いかなる理由が「正当な理由」に該当するかについては,「職務上又は日常生活上の必要性から,社会通念上,相当と認められる場合をいい,これに該当するか否かは,当該器具の用途や形状・性能,隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係,隠匿携帯の日時・場所,態様及び周囲の状況等の客観的要素と,隠匿携帯の動機,目的,認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断」されます。
本件の所持理由を上記判断基準によって適切に主張すれば,銃刀法違反が不成立となることも考えられます。
3 銃刀法違反は,比較的軽微な犯罪ですが,罰金刑を科されて前科となると思わぬ不利益となることも考えられます。まずは弁護士に相談して適切に対処することをお勧めいたします。
4 その他関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 銃刀法違反の要件について
⑴ 刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物の携帯の禁止
一定の長さ以上の刃物を所持することは,銃砲刀剣類所持等取締法22条違反の罪が成立する可能性があります。銃刀法22条では,まず原則として,刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物の携帯を禁止しています。
刃体の長さはの測定方法は,銃刀法施行規則101条に規定されており,原則としては,刃物の切先(切先がない刃物又は切先が明らかでない刃物にあつては、刃体の先端。)と柄部における切先に最も近い点とを結ぶ直線の長さを計ることとされています。
また,ここでいう「携帯」は,自宅又は居室以外の場所で刃物を手に持ち、あるいは身体に帯びる等して、これを直ちに使用し得る状態で身辺に置くことをいい、かつ、その状態が多少継続することをいうとされています。車に搭載している場合なども,直ちに使用可能な状態であれば,「携帯」に該当するとされますが,鍵付きの箱に入れている場合などは,携帯とはみなされない場合もあります。
⑵ 規制対象の例外
また,銃刀法では,刃体の長さが六センチメートルをこえる場合であっても,以下の例外に該当する場合には,規制の対象とはなりません。
銃刀法施行令(刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物で携帯が禁止されないもの)
第三十七条 法第二十二条ただし書の政令で定める種類又は形状の刃物は、次の各号に掲げるものとする。
一 刃体の先端部が著しく鋭く、かつ、刃が鋭利なはさみ以外のはさみ
二 折りたたみ式のナイフであつて、刃体の幅が一・五センチメートルを、刃体の厚みが〇・二五センチメートルをそれぞれこえず、かつ、開刃した刃体をさやに固定させる装置を有しないもの
三 法第二十二条の内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが八センチメートル以下のくだものナイフであつて、刃体の厚みが〇・一五センチメートルをこえず、かつ、刃体の先端部が丸みを帯びているもの
四 法第二十二条の内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが七センチメートル以下の切出しであつて、刃体の幅が二センチメートルを、刃体の厚みが〇・二センチメートルをそれぞれこえないもの
本件であなたが所持していた物品は,カードを折りたたんでナイフになる形式とのことですので,上記第二号に該当する可能性があります。問題は,「開刃した刃体をさやに固定させる装置」の有無ですが,この点につき解釈上の明確な定義はありません。一般的なキャンプ用の折りたたみナイフなどのように,刃を使用できる程度に固定できれば該当するとされますが,本件はカード型でさやの場所も不明確なものですので,具体的な形状によっては,本条により規制の例外となる場合もあります。
さらに銃刀法では,刃体の素材などにも決まりがありますので,これらの点を含めて,まずは銃刀法の規制の対象となるのかを重点的に確認する必要があるでしょう。
⑶ 軽犯罪法の規制
なお,仮に銃刀法違反が成立しない場合であっても,軽犯罪法違反として処罰される可能性があります。軽犯罪法第1条第2号では,「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」について,拘留又は科料に処すると規定しています。
そのため,所持していた物の形状によっては,軽犯罪法違反にも該当しないことを主張することが必要です。
2 ナイフ携帯の「正当な理由」
仮に規制対象となる刃物であっても,携帯に「業務その他正当な理由」が認められれば,銃刀法違反とはなりません。いかなる理由が「正当な理由」に該当するかについては,明確な判例がありませんが,実務上は,銃刀法違反と同じく正当な理由のない刃物の所持を禁止している軽犯罪法での「正当な理由」の判断基準に関する判例を参照していることが多いです。
すなわち,正当な理由の判断は,「職務上又は日常生活上の必要性から,社会通念上,相当と認められる場合をいい,これに該当するか否かは,当該器具の用途や形状・性能,隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係,隠匿携帯の日時・場所,態様及び周囲の状況等の客観的要素と,隠匿携帯の動機,目的,認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断」されます(最判平成21年3月26日判決)。
具体的な例でいうと,喧嘩の際の護身用としてナイフを携帯するような場合はこれらに当たりませんが,社会通念上,刃物を携帯することが当然に認められるような場合である(例えば、包丁を購入して持ち帰る場合や登山者が登山用ナイフを携帯する場合)などは,正当な理由があると判断されます。ただし,正当な理由関する事実関係については,ある程度客観的な状況や証拠を示すことが必要となる場合も多いです。例えばキャンプ場の予約の履歴や,包丁の購入領収証などです。
これらの正当な理由を,合理的な根拠資料と合わせて適切に主張すれば,銃刀法違反が不成立となることも考えられます。
3 まとめ
銃刀法違反は,比較的軽微な犯罪ですが,罰金刑を科されて法律上の前科となってしまう場合もあります。前科が科されることにより将来的に思わぬ不利益となることも考えられます。まずは弁護士に相談して適切に対処することをお勧めいたします。
以上