再開発における開発利益の評価方法

都市再開発法|再開発における開発利益の評価方法|東京高裁平成21年11月12日判決|東京高裁平成28年12月15日判決|地権者の利益確保の具体的方策

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集

質問

駅前にマンションを所有して居住しています。このたび駅前再開発の話が持ち上がり、再開発準備組合で駅前再開発の内容を話し合っているようです。すでに「再開発事業の都市計画決定」というものが市役所から発表され、もともとの容積率は400~600%だったのですが、区域内一帯が一律で容積率が800%とする容積率の緩和が認められました。しかし、再開発準備組合では、「従前資産の評価に容積率の緩和は加味されない」という方針で計画を立てていると聞きました。容積率の緩和は市役所から正式に発表され告示もされて容積率緩和の効力を生じて、新聞報道もされたものです。現に容積率の緩和が認められているのにこれが資産評価に加味されないということがあるのでしょうか。

回答

1、再開発事業における、従前資産の評価は、地権者、組合員にとって新築される建物についてどの程度の権利を取得できるかの判断基準となる重大な問題ですが、再開発による容積率の緩和を評価に加味するか否かについては、明確な定めはなく、加味しなくても違法とは言えないと、一般的には考えられているようです。しかし、評価基準日における従前資産の相当な価格を判断するには、近隣の土地の価格を基準に判断することになり、そこには当然容積率の緩和という要素が入り込んでいることになると考えられます。

2、都市再開発法に基づく市街地再開発事業は、区域内地権者の発意による第一種市街地再開発事業、いわゆる民間の都市開発と、地方自治体などが主導で行われる第二種市街地再開発事業があります。第一種市街地再開発事業では、再開発組合設立認可公告と、事業計画の認可公告の31日目の評価基準日における従前資産の評価額と同額の建て替えビルを「権利変換」という手法で移行させ、区域内建物の同時建て替えを促進する仕組みになっています。

3、従前資産の評価方法は、都市再開発法80条1項で、事業計画認可公告の31日目である評価基準日における、「近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額」とされています。

4、この「相当の価額」について、最高裁判例は未だ確立していませんが、下級審段階では、必ずしも容積率の緩和分を加味する必要はないと判断したものがあります。いくつか判例を御紹介致します。

5、他方、「容積率の緩和分」という意味ではなく、再開発区域外も含めた近隣の取引価格全般に与える地価上昇分については、裁判所も評価基準日に具体化した価値であるとして、これを評価に含めるべきであると判示しています。従前資産の評価とモデル権利変換により取得できる面積について組合と交渉する場合には、経験のある弁護士事務所に御相談なさり悔いのない再開発手続きを進められることをお勧めいたします。

6、その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1、都市再開発法による第一種市街地再開発事業

都市再開発法による市街地再開発手続きは、火災が延焼しやすい木造密集区域の建物をまとめて不燃建物に更新したり、不燃建物であっても建築基準法の耐震基準の改訂に伴って現行基準を満たさなくなってしまったいわゆる既存不適格の旧耐震建物を建て替えることにより、都市の防災機能を高め、商業機能を高めることにより国民経済の振興を図るという、公共目的のために、区域内建物の一体建て替え手続きを定めたものです。

都市再開発法第1条(目的) この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

都市再開発法では、民間主導の第一種市街地再開発手続きと、公共団体主導の第二種市街地再開発手続きが定められています。前記のような都市機能の更新が必要であるという事情は変わりませんが、第二種市街地再開発事業では、国際空港整備やオリンピックや国際万国博覧会のために一帯整備が必要であるなど特に公共性・緊急性の高い事業について、事業者となる地方自治体などが一旦すべての権利を取得して、施設建築物整備後に従前地権者に再度権利を割り当てる「管理処分方式」で建て替えが行われます。

都市再開発法第3条の2 都市計画法第十二条第二項の規定により第二種市街地再開発事業について都市計画に定めるべき施行区域は、次の各号に掲げる条件に該当する土地の区域でなければならない。 第2号のロ 当該区域内に駅前広場、大規模な火災等が発生した場合における公衆の避難の用に供する公園又は広場その他の重要な公共施設で政令で定めるものを早急に整備する必要があり、かつ、当該公共施設の整備と併せて当該区域内の建築物及び建築敷地の整備を一体的に行うことが合理的であること。

これに対して、第一種市街地再開発手続きにおいては、区域内地権者の発意と申請により再開発手続きを進めることができます。

民間の地権者が集まって再開発事業を進める第一種市街地再開発事業では、施行区域内の土地所有者や借地権者が5名以上集まって、事業計画を定め、施行区域内の宅地所有権者及び借地権者の面積と人数で、それぞれ3分の2以上の同意を得て、組合設立認可申請をすることができます。

都市再開発法第11条(認可)

第1項 第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。

第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)

第1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。

再開発組合の設立が認可されると、権利変換計画案を作成し、組合決議を経て認可申請をすることにより、権利変換期日に、施行区域内の従来の権利が全て消滅し、敷地所有権は一旦施行者である再開発組合に帰属することになり、複雑な権利関係を整理して、建て替えをすすめることができるようになります。

2、 再開発手続きにおける従前床の「評価」

都市再開発法では、「権利変換手続き」という手法を使って建物の建て替えを実現する仕組みになっています。

権利変換とは、組合が定めた計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の(1)~(4)の効力が生じるものです。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。

(1)施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。

(2)従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。

(3)施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。

(4)当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。

面積と人数で3分の2以上という多数の意思形成は必要ですが、逆に言えば、区域住民の大多数が同意できるような計画を提示できれば、3分の1に満たない反対があっても事業を進めることができるように法令が整備されています。

この、権利変換計画を定めるにあたって、従前床と新しい床の評価が「著しい差額が生じないように」定めなければならないとされており(等価原則)、また、「与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように」定めなければならないとされています(都市再開発法77条2項)。つまり、従前床の評価が高ければ、従後床の価値も高くなり(床面積が広くなり)、また、建設資金を分担する参加組合員に与えられる床面積も、従前床の評価額と保留床処分金の価額とを比較して算定されることになります。

都市再開発法77条第2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。

従って、再開発手続きにおいて、従前床の評価は各権利者にとって極めて重大な問題であると言えます。都市再開発法では、従前床の評価は、次の通り定められています。

都市再開発法第80条(宅地等の価額の算定基準)

第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。

第2項 第七十六条第三項の割合の基準となる宅地の価額は、当該宅地に関する所有権以外の権利が存しないものとして、前項の規定を適用して算定した相当の価額とする。

第81条(施設建築敷地及び個別利用区内の宅地等の価額等の概算額の算定基準) 権利変換計画においては、第七十三条第一項第四号、第九号、第十四号又は第十五号の概算額は、政令で定めるところにより、第一種市街地再開発事業に要する費用及び前条第一項に規定する三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として定めなければならない。

つまり、評価基準日(組合設立認可および事業計画認可公告から30日後)における、「近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額」により評価すべきとされています。

実際の再開発組合実務においては、再開発組合設立後に総会決議により「従前資産評価基準」を策定し、これに基づいて組合が従前権利者の権利を査定し、取得住戸選定手続きを経て、権利変換計画案が作成され、これが再開発組合の総会決議で承認されることにより、評価が定まることになります。権利変換計画が決議されると、2週間の期間、公共の縦覧に供されます(都市再開発法83条1項)。縦覧手続きでは、再開発組合事務所などにおいて関係図書を閲覧することができます。

都市再開発法第83条(権利変換計画の縦覧等)

第1項 個人施行者以外の施行者は、権利変換計画を定めようとするときは、権利変換計画を二週間公衆の縦覧に供しなければならない。この場合においては、あらかじめ、縦覧の開始の日、縦覧の場所及び縦覧の時間を公告するとともに、施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者にこれらの事項を通知しなければならない。

第2項 施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者は、縦覧期間内に、権利変換計画について施行者に意見書を提出することができる。

第3項 施行者は、前項の規定により意見書の提出があつたときは、その内容を審査し、その意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは権利変換計画に必要な修正を加え、その意見書に係る意見を採択すべきでないと認めるときはその旨を意見書を提出した者に通知しなければならない。

第4項 施行者が権利変換計画に必要な修正を加えたときは、その修正に係る部分についてさらに第一項からこの項までに規定する手続を行なうべきものとする。ただし、その修正が政令で定める軽微なものであるときは、その修正部分に係る者にその内容を通知することをもつて足りる。

第5項 第一項から前項までの規定は、権利変換計画を変更する場合(政令で定める軽微な変更をする場合を除く。)に準用する。

この権利変換計画に異議のある利害関係者(従前床の評価額が低すぎると考える組合員も含む)は、縦覧期間内に組合に対して意見書を提出することができます(法83条2項)。意見書が採用されなかった場合は、異議のある利害関係者は、各自治体の収用委員会に裁決の申請をすることができ(法85条)、収用委員会の裁決に不服がある場合は、国土交通大臣に対する審査請求や(土地収用法129条)、地方裁判所に行政訴訟を提起することができます(土地収用法133条1項)。

都市再開発法第85条(価額についての裁決申請等)

第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額について第八十三条第三項の規定により同条第二項の意見書を採択しない旨の通知を受けた者は、その通知を受けた日から起算して三十日以内に、収用委員会にその価額の裁決を申請することができる。

第2項 前項の規定による裁決の申請は、事業の進行を停止しない。

第3項 土地収用法第九十四条第三項 から第八項 まで、第百三十三条及び第百三十四条の規定は、第一項の規定による収用委員会の裁決及びその裁決に不服がある場合の訴えについて準用する。この場合において必要な技術的読替えは、政令で定める。

第4項 第一項の規定による収用委員会の裁決及び前項の規定による訴えに対する裁判は、権利変換計画において与えられることと定められた施設建築敷地の共有持分、施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権には影響を及ぼさないものとする。

土地収用法第129条(収用委員会の裁決についての審査請求)収用委員会の裁決に不服がある者は、国土交通大臣に対して審査請求をすることができる。

第130条(審査請求期間)

第1項 事業の認定についての審査請求に関する行政不服審査法 (平成二十六年法律第六十八号)第十八条第一項 本文の期間は、事業の認定の告示があつた日の翌日から起算して三月とする。

第2項 収用委員会の裁決についての審査請求に関する行政不服審査法第十八条第一項 本文の期間は、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して三十日とする。

第133条(訴訟)

第1項 収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第三項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は、裁決書の正本の送達を受けた日から三月の不変期間内に提起しなければならない。

第2項 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内に提起しなければならない。

第3項 前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。

3、「相当の価額」とは

都市再開発法80条1項の「相当の価額」について、条文上必ずしも明確ではありませんが、

(1) 従前床の評価額と、保留床処分金が、価額という同じ土俵で比較対照されうること。

(2) 区外転出の場合には、権利を失う対償として支払われる価額であること。

(3) 再開発手続きに反対している組合員でも、また、再開発組合の決議に関与できない借家権者でも、強制的に換価されてしまうこと。

(4) 都市再開発法85条1項で、評価額に異議がある場合に、土地収用法の裁決手続きを申請できると規定されていること。

これらの事情を考慮すると、土地収用手続きにおける完全補償説と同様に、評価は時価相当額によるべきと考えることができます。土地収用法に関して裁判所は、完全な補償が必要であるとの考え方を示しています。所有権の絶対、私有財産制の沿革からしても完全補償説が原則と考えられます。

最高裁判所昭和48年10月18日判決 「おもうに、土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。」

この判例で言及している昭和42年改正前の土地収用法72条は次のような規定でした。

土地収用法(昭和42年改正前規定) 第72条(土地の収用の損失補償)収用する土地に対しては、近傍類地の取引価格等を考慮して、相当な価格をもつて補償しなければならない。

対応する現行規定は、次の通りです。

土地収用法(現行規定) 第71条(土地等に対する補償金の額)収用する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。

この判例では、土地収用法における公共用地の収用が、道路工事や河川工事や砂防工事や運河工事など、特定の場所における個別の不動産を収用するものであって、農地改革の様に全国的に土地の利用関係を変更するものではなく、個別不動産に対して「特別の犠牲」を求める手続だから、原則として、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償が必要であるという考え方に立っています。この理屈は現行の土地収用法71条についても当てはまるものと考えることができます。

この完全補償説を、都市再開発手続きの場面で考えるのであれば、「再開発の前後を通じて、区域内地権者の財産価値を等しくならしめるような権利変換と明け渡し補償が必要である」という考え方に帰着することになります。この考え方をベースに都市再開発法のあらゆる規定を解釈することが必要です。

では、ご質問の様に、再開発によって地価が上昇するのだから、その開発利益も、「相当な価額」に含まれると考えることができるでしょうか。都市再開発法関連の参考判例がありますので御紹介致します。

※東京高裁平成21年11月12日判決

『(1) 控訴人らは,都市再開発計画により土地価格形成要因の変更が確実であれば,それを織り込んだ開発利益が既に発生しているともいえるから,市街地再開発事業の完成によって発生する開発利益が評価基準日に発生していなくても,土地の価額に加算すべきである旨主張する。

しかしながら,都市再開発法80条1項は,同法73条1項3号の従前資産の価額を,評価基準日における近傍類似資産の取引価格等を考慮して定める「相当の価額」とする旨定めており,これは,権利変換の前後を通じてその者の有する財産価値を等しくさせることを目的として算定される金額であって,権利変換計画の決定前の日である評価基準日の時点における近傍類似資産の取引価格その他の諸事情を考慮して定められるべきものと解するのが相当であり,評価基準日の後に発生する開発利益は加算すべきではないことは,原判決判示のとおりである。土地価格形成要因の変更が確実であることから,それを織り込んだ開発利益が既に発生しているということは擬制にすぎず,そうであるからこそ,本件取扱基準が開発利益を「加えた価格」を宅地の価格とする旨定めているのであり,真に現実化しているなら,加える必要自体がないことになる。

したがって,控訴人らの主張は採用できない。

(2) 控訴人らは,収用委員会の裁決に不服がある場合の訴えにおいては,開発利益を加算することが許されないとすると,二重の基準を設けることになり,市街地再開発組合が,自ら定めた従前資産の評価基準を無視した評価による権利変換計画を定めた場合,権利者が,裁決を申請し,裁決の変更を求める訴えを提起しても,その是正を図ることができないことになると主張する。

しかしながら,都市再開発法80条1項にいう「相当の価額」が上記のようなものと解すべきである以上,収用委員会も裁判所も,この「相当の価額」について認定判断すべきものであることは,同法の規定の当然に予定するところといわなければならない。そして,原判決が本件権利変換計画において定められた宅地の価格が開発利益も加算したものとなっていることにつき,直ちに違法となるものではないと判示したことを二重の基準を設けるものと非難しているが,これは,施行者である被控訴人が同法80条1項所定の評価基準と異なる取扱基準を用いたことにつき,違法とまではいえないが同法に根拠を有しない事実上の措置にすぎないとしているものであり,二重の基準とはいえない。

なお,このように,収用委員会及び裁判所においては,あくまで,都市再開発法80条1項の「相当の価額」の認定判断をするものであり,その範囲でのみ違法の是正を行うものであることからすると,施行者が事実上の措置として「相当の価額」に加算した額をもって宅地の価額としている場合には,是正された価額に同じ加算がされるように求めることはできないことになるが,それがあくまで事実上の措置である以上,裁決及び判決により救済を図ることは,同法の予定していないところといわざるを得ない。

したがって,控訴人らの主張は採用できない。』

この判例では、都市再開発法80条1項の「相当の価額」が、「評価基準日における近傍類似資産の取引価格その他の諸事情を考慮して定められるべきものと解するのが相当であり,評価基準日の後に発生する開発利益は加算すべきではない」と判断され、開発利益は相当価額に含まれないという立場を採用しています。

しかし、現実の不動産取引においては、当該不動産に関連する開発行為が予定されている場合には、それが実際に現実化する前から価格は上昇していくのが通例であり、その事情は、近傍類似資産の取引価格にも影響しうることから、この判例の論理は自己矛盾を含んだ理屈になっているとも言えます。完全補償説(収用の前後において対象資産に増減を生じさせない、つまり、当該物件の評価は完全に時価相場額で補償する)を徹底するのであれば、評価基準日における適正価額を算出する場合に、開発利益の一部が加算されると考えるのが妥当でしょう。

なお、この判例では、組合設立時の従前資産評価基準に、「宅地の価格(単価)は,地価公示価格,基準地価格,近傍類似の土地取引価格及び価格形成上の諸要因を考慮して求めた標準地の正常価格を基準として,これに各画地の接道条件,公法上の規制,形状,規模等の個別的要因による個別格差修正を行って求めた価格に,事業による評価の増加分(開発利益)を加えた価格とする。」と定めており、裁判所も、「施行者である被控訴人が同法80条1項所定の評価基準と異なる取扱基準を用いたことにつき,違法とまではいえないが同法に根拠を有しない事実上の措置にすぎない」としながらも組合が独自に開発利益を加味する従前資産評価基準を設けることを是認したと解釈できることも注目に値すると言えるでしょう。準備組合理事会の有志が発案し発議すれば、地権者の利益を確保できるように配慮した組合運営も可能であることを示唆するものです。

もうひとつ東京高裁の判例を御紹介致します。

※東京高裁平成28年12月15日判決

『ア 「開発利益」という用語は,都再法上の用語ではなく,実務において多義的に使用されているものであるところ,本件で証拠として提出されている文献等(甲1,17,25,乙3,4,12)において述べられているその意義を整理すれば,①再開発事業のもたらす全体の効用を指す概念であり,粗効用-(工事費+資本コスト+用地費)として捉えるもの,②個別の再開発事業において形成された従後資産の価値と事業の原価たる従前資産及び事業費の合計額との差額をいうとするもの,③再開発事業の施行地区内の土地の価値という観点から,再開発事業により土地が一体利用されることによる価値の増分をいうとするもの,④再開発事業の施行地区の近隣の土地の価値という観点から,再開発事業による市街地の活性化,利便性の向上等又はこれに対する期待に伴う価値の増分をいうとするもの,⑤再開発事業の施行地区内の土地の価値という観点から,都市計画等の見込み,決定等に基づく再開発事業の完成の期待に伴う価値の増分をいうとするものがある。そして,控訴人の主張する「開発利益」は,その主張内容に照らし,⑤に該当するもの(以下,これを「開発期待」と称する。)と解される。

イ 前記ア①ないし③の意味における開発利益は,その内容に照らし,再開発事業の完成によって生じるものであることが明らかであり,かかる意味の開発利益が「相当の価額」において考慮されるべきものに該当しないことは,「相当の価額」が評価基準日における価額であるとされていること(都再法80条1項)から明らかというべきである。

ウ 一方,再開発事業は,事業による市街地の活性化,利便性の向上等及びこれに対する期待から,評価基準日までに施行区域を含むその近隣の土地全体の地価を上昇させることがあり得る。「相当の価額」とは,従前土地を有する者が近傍において当該従前土地と同等の代替地を取得することを得るに足りる金額をいうことは前記2に説示したとおりであることか

らすると,上記のような近隣の土地全体の地価の上昇があるときには当該地価の上昇分を考慮しなければ,従前土地の所有者は近傍において当該従前土地と同等の代替地を取得することができなくなるから,その場合における「相当の価額」の算定に当たっては当該地価の上昇を考慮する必要があるというべきである。前記ア④の意味における開発利益は,このような意味の評価基準日までに生じた施行地区の近隣の土地の価格上昇をいうものであり,「相当の価額」の算定において考慮されるべきものであると解される。

エ 控訴人は,従前土地について,評価基準日までに生じた前記ア⑤の意味における開発期待による価格の上昇を「相当の価額」の算定において考慮されなければならないと主張する。

評価基準日までの期間において従前土地の処分に関する制限はないから,従前土地についても,再開発事業に参加することを希望する者との間で売買が成立することはあり得ることであり,その場合に再開発事業に参加したいと希望する者が開発期待を織り込んだ割増価格で買い受けることもあり得ると考えられる。しかし,当該割増分は,再開発事業に参加を希望する者が再開発事業に対して付加する価値であり,再開発事業の完成によって実現するものであるから,従前土地の売買時点における客観的価値とは異なるものであり,その性質上,従前土地の所有者に補償されるべきものとはいえないというべきである。

また,控訴人の主張する開発期待は,評価基準日の時点における従前土地の価格上昇分として把握するものであるから,権利取得者に限らず権利喪失者にも等しく及ぶことになると解されるところ,再開発事業は評価基準日から完成まで更に数年を要することが多く,本件再開発事業においても,本件評価基準日(平成24年3月11日)からその完成予定時期(平成28年10月頃。前提事実(5)キ)まで4年7か月余りの期間が予定されているところであり,その間には多くのリスクが存在し得ることに鑑みると,当該リスクを負担することがなくなる権利喪失者にまで,再開発事業が施行されて初めて実現する付加価値というべき期待に係る利益を,再開発事業が予定されることによって評価基準日までに施行地区及びその近隣の土地全体に等しく生じ得る地価の上昇分に加えて補償する必要があるとは解されず,また,再開発事業で行われる権利変換によって従前土地の所有者が被る特別の犠牲とは,本来,再開発事業が行われない従前の状態における所有権の価値であることからしても,前記ア④の意味の開発利益とは別に再開発事業が施行されるということにより従前土地に係る付加価値として生じるとする開発期待は,従前土地の価値に含まれると解することはできないというべきである。

さらに,「相当の価額」が評価基準日における価額であることに鑑みると,評価基準日までに現実に生じた地価の上昇分は加味されるべきであるということになるところ,前記ア④の意味における開発利益を「相当の価額」の算定に当たって考慮することは,従前土地の所有者に近傍において同等の代替地を取得せしめてその財産権の保障を実行ならしめるために

必要不可欠であり,また,都再法80条1項が「相当の価額」を近傍類似の土地の取引価格等を考慮して定めるものと規定することとも整合するのに対し,控訴人が主張する前記ア⑤の意味の開発期待は,上記のとおり,再開発事業の完成に期待して付加される価値であり,評価基準日の時点における従前資産の価値とは別個のものである上,多分に個別的要因の強いものであって,かかる付加価値分が施行地区内の土地全体に等しく妥当すると解する根拠を欠くものというべきであるから,「相当の価額」を構成する要因とするのは相当とはいえない。

オ 以上によれば,本件再開発事業を起因とする地価の上昇が,前記ア④の意味における評価基準日までに本件施行地区内の従前土地のみならずその近隣周辺において同等に生じるものは,「相当の価額」に含まれるべきものであるが,前記ア⑤の意味における従前土地が再開発事業の施行される土地であることにより生じる同事業完成の期待に伴う価値の増分は,評価基準日以降に生じる付加価値であり,個別的要因によって変動し得る不確定なものであって,施行地区内の土地全体に一般的,普遍的に及ぶ利益ではないから,「相当の価額」の算定において考慮されるべきものではないと解するのが相当である。』

この判例では、開発利益の意義について、つぎの5種類の意義があり得ると分析しています。

①再開発事業のもたらす全体の効用を指す概念であり,粗効用-(工事費+資本コスト+用地費)として捉えるもの,

②個別の再開発事業において形成された従後資産の価値と事業の原価たる従前資産及び事業費の合計額との差額をいうとするもの,

③再開発事業の施行地区内の土地の価値という観点から,再開発事業により土地が一体利用されることによる価値の増分をいうとするもの,

④再開発事業の施行地区の近隣の土地の価値という観点から,再開発事業による市街地の活性化,利便性の向上等又はこれに対する期待に伴う価値の増分をいうとするもの,

⑤再開発事業の施行地区内の土地の価値という観点から,都市計画等の見込み,決定等に基づく再開発事業の完成の期待に伴う価値の増分をいうとするものがある。

そのうえで、①ないし③の意味における開発利益は,再開発事業の完成によって生じるものであることが明らかであり,かかる意味の開発利益が「相当の価額」において考慮されるべきものに該当しないことは,「相当の価額」が評価基準日における価額であるとされていること(都再法80条1項)から明らかであると判示しています。再開発ビルが現実に竣工していないので、「再開発の効用」や「従後資産価値差額」や「価値増分」は観念できないとしています。これを「実現利益」とするならば、この部分についての判断は一定の合理性を有すると言えるでしょう。

さらに、都市再開発法91条の転出補償を念頭に置いて、「当該従前土地と同等の代替地を取得する」ためには、近隣区域内も含めて現に生じている④の開発期待価格は考慮すべきとしていますが、⑤の再開発区域内の具体的な開発期待価格(都市計画決定後の実際の取引価格事例)は、「当該割増分は,再開発事業に参加を希望する者が再開発事業に対して付加する価値であり,再開発事業の完成によって実現するものであるから,従前土地の売買時点における客観的価値とは異なるものであり,その性質上,従前土地の所有者に補償されるべきものとはいえない」として、「相当の価額」には含まれないと判断しています。

この裁判所の理論構成には疑問が残ると言わざるを得ません。現実に取引された価額が「客観的価値」とは異なると断じてしまったら、不動産鑑定評価基準でも主要な鑑定評価手法と認められている「取引事例比較法」を否定しているのと同じことになってしまうからです。前記完全補償説の立場を考慮すれば、不動産の鑑定評価の場面において現実の取引価格を無視することはできないと考えます。

また、同じ東京高裁の判例では、類似の理論構成で容積率の緩和部分についても、「相当の価額」に加味しなくても違法ではないと判示しています。

※東京高裁平成28年12月15日判決

『4 本件土地の「相当の価額」の算定において本件特区決定の存在を考慮することの可否(争点2)

(1) 控訴人は,建築物の容積率の規制を大幅に緩和する本件特区決定の存在は,本件再開発事業による開発期待を生じさせる重要な価格形成要因として,本件土地の「相当の価額」の算定に当たり考慮されるべきであると主張する(当事者の主張要旨1(3))。

(2)ア 前提事実(3)によれば,本件特区決定は,本件評価基準日の約2年8か月前である平成21年6月22日,本件再開発事業に係る本件都市計画決定と同時に,かつ,本件再開発事業の施行者である被控訴人の前身である本件準備組合の提案に基づいてされたものであり,その内容は,本件再開発事業に係る本件事業計画に沿って,本件施行地区における容積率の最高限度を1330%に緩和し,建築物の建ぺい率の最高限度を8/10,建築物の建築面積の最低限度を1000㎡と定めるとともに,本件施行地区を一体利用して建築される建築物の外壁又はこれに代わる柱は原判決別紙3-2「計画図」に示す壁面線を越えて建築してはならない旨の壁面の位置の制限等を課すものであることが認められる。

イ 以上認定のとおり,本件特区決定は,本件評価基準日前にされたものであり,これが本件施行地区の周辺の土地に影響を及ぼし,本件評価基準日までに当該周辺の土地の価格上昇をもたらした場合には,その価格上昇は,本件施行地区内の従前土地の価格にも影響を及ぼすものであるから,その場合における当該従前土地の「相当の価額」の算定に当たり考慮されるべきものであり,この意味における本件特区決定による影響が考慮されるものであることは,前記3で説示したとおりである。

ウ 他方,本件特区決定による本件施行地区内の従前土地についての容積率等の緩和自体は,本件再開発事業により建築される施設建築物を前提として壁面の位置の制限などとともに定められているのであるから,本件再開発事業が完成することでしか実現できないものである。

また,本件特区決定は,前記アのとおり,建築物の建ぺい率の最高限度を8/10,建築面積の最低限度を1000㎡と定めていることからすれば,本件土地(1173.43 ㎡(土地面積)×0.8(建ぺい率)=938.744 ㎡(建物建築面積)<1000 ㎡)はもとより,本件施行地区内のいずれの従前土地も単体では本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受けることはでき

ないものであり,これに壁面の位置の制限を併せみると,従前土地単体で適用されることは想定されていないということができる。

以上によると,本件特区決定それ自体が本件評価基準日前にされていたとしても,本件土地を含む本件施行地区内のいずれの従前土地も単体で本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受けることは想定されておらず,本件再開発事業の施行を離れて本件特区決定があることによる独自の価値増加は観念できない。そして,前記3において説示したとおり,本件再開発事業の成果として実現する価値は従前土地の「相当の価額」を算定する上で考慮されないものであるから,本件特区決定は従前資産たる本件土地自体の価格形成要因として考慮されるものということはできない。

また,本件特区決定が本件再開発事業の実現可能性を高めるものとして,その期待に対する地価の上昇が観念できるとしても,それは本件施行地区の近隣の土地について同様に及んだ地価の上昇を介して従前資産の評価に反映されることになるから,これに加えて,本件土地が本件特区決定の対象とされた本件施行地区内の土地であることを考慮して「相当な価額」

の算定をすべきことにはならない。

(3) 控訴人は,被控訴人の定めた従前資産評価基準5条1項は,権利変換又は取得する土地の価額は「正常な取引価格」によるものとし,従前資産評価基準細則第1が,土地の正常な取引価格は,標準価格比較法により評価するものとし,標準価格は不動産鑑定士が鑑定評価した価格によるものと定めているところ,本件特区決定による公法上の規制を考慮外とすることは,不動産鑑定評価基準に則っていないことになり,許されないと主張する。

しかしながら,本件土地を含む本件施行地区内の各従前土地は,前記(2)ウで説示したとおり,本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受け得ない土地であるから,結局のところ,本件土地の「相当の価額」を算定するに当たり本件特区決定による公法上の規制を考慮する余地がないことになる。

そうすると,被控訴人の定めた従前資産評価基準等に基づいて本件土地の「正常な取引価格」を評価する場合にも,本件特区決定による公法上の規制を考慮する余地がなく,これは同規制がない場合と同じことになるから,本件土地について同規制を考慮外として上記「正常な取引価格」を評価したことが不動産鑑定評価基準に則っていないということにはならない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができず,同主張が指摘する事由は,前記3の「相当の価額」の解釈及び本件土地の「相当の価額」を算定する際の本件特区決定の取扱いについての前記(2)の各説示を左右するものではない。』

この判例では、都市計画決定による容積率の緩和には、「建築面積の最低限度」や「壁面の位置の制限」などが同時に規制として課せられており、「従前土地単体で適用されることは想定されていない」ので、従前資産評価に考慮することはできないと判断しています。容積率を緩和する行政決定は出ているが、それには同時に最低建築面積などの規制も掛けられており、単独で建て替えすることはできない行政条件となっているので、当該画地の価額評価に用いることはできないという理屈です。

これもまた、現実に生じている容積率の緩和を一切考慮しないという点で、前記完全補償説の趣旨から逸脱した判断で疑問が残ります。いずれにしても、この論点について最高裁判所の判例が確立している状態ではありませんので、今後の議論や事例判断が注目されるところです。

4、地権者としての対応策

前記の通り、再開発組合設立後に提示された評価額に対して異議の申し立てをしても司法手続きで救済されることは困難な状況ですが、従前床の権利者としては、再開発組合設立前の段階で、準備組合の理事会と協議していくことが大切になります。具体的には、次の点に注意を払って、再開発組合設立決議に臨む必要があります。

(1)事業計画案における権利床と保留床の割合を計算し、権利床と保留床のバランスが相当範囲内に収まっているかどうかを再確認する。等価交換方式による建て替えであれば、地権者と工事業者の分け方は、地域によりますが5対5や、4対6ということも十分に可能性があります。一般に、保留床の割合が80%を超えているような場合には、無駄な工事が発生している可能性があります。保留床が80%を超えているということは、工事費を出しただけの参加組合員が完成ビルの床面積の8割以上を取得し、区域内の土地を供出している地権者が完成ビルの2割未満の床面積しか取得できないこと、また、地権者でもない参加組合員が開発利益の8割を取得してしまうことを意味します。このような場合には、地価と工事費に何等かのアンバランスを生じていると言わざるを得ないでしょう。事業計画の再検討が必要と考えられます。

(2)事業計画における、「延床面積」と「専有対象床面積」の比率を確認する。専有面積÷延床面積が7割を切っている場合は、無駄な工事が発生している恐れがあります。無駄な共用施設、共用宿泊室、共用ラウンジ、共用スポーツジム、機械式駐車場、駐輪場エレベーターなどが無いかどうか確認してください。特に機械式駐車場は、機械設備維持管理費と駐車場収入がほとんど同じになってしまい、完成ビルの管理組合にとって負の遺産となってしまうおそれが大きいものです。

(3)再開発組合の設立認可申請には、区域内地権者5名以上の申請人と、区域内敷地面積(所有権および借地権)および敷地地権者数(所有権者および借地権者)で3分の2以上の同意が必要とされています(都市再開発法14条1項「組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。」)。従前床面積に対する従後床面積の権利変換比率に同意できないと考える地権者の割合が、3分の1を超えられるように、区域内の知人などと意見交換してみましょう。同じ意見を持つ地権者が議決権の何割に相当するのか、集計してみることが必要です。

いずれにしても、再開発組合の設立決議がなされてしまうと、そこから評価などについて修正していくことは極めて困難となってしまいますので、可能な限り、再開発組合の設立前に、再開発準備組合の理事会が再開発組合の設立議案を策定する前に、準備組合の理事会と良く話し合うことが必要です。ご心配な場合は、再開発手続きに経験のある法律事務所に御相談なさると良いでしょう。

※参考条文

建築基準法第52条(容積率)

第1項 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。)は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める数値以下でなければならない。ただし、当該建築物が第五号に掲げる建築物である場合において、第三項の規定により建築物の延べ面積の算定に当たりその床面積が当該建築物の延べ面積に算入されない部分を有するときは、当該部分の床面積を含む当該建築物の容積率は、当該建築物がある第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域又は準工業地域に関する都市計画において定められた第二号に定める数値の一・五倍以下でなければならない。

一号 第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地域内の建築物(第六号に掲げる建築物を除く。)

十分の五、十分の六、十分の八、十分の十、十分の十五又は十分の二十のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの

二号 第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域内の建築物(第六号に掲げる建築物を除く。)又は第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域若しくは準工業地域内の建築物(第五号及び第六号に掲げる建築物を除く。)

十分の十、十分の十五、十分の二十、十分の三十、十分の四十又は十分の五十のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの

三号 商業地域内の建築物(第六号に掲げる建築物を除く。)

十分の二十、十分の三十、十分の四十、十分の五十、十分の六十、十分の七十、十分の八十、十分の九十、十分の百、十分の百十、十分の百二十又は十分の百三十のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの

四号 工業地域内の建築物(第六号に掲げる建築物を除く。)又は工業専用地域内の建築物

十分の十、十分の十五、十分の二十、十分の三十又は十分の四十のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの

五号 高層住居誘導地区内の建築物(第六号に掲げる建築物を除く。)であつて、その住宅の用途に供する部分の床面積の合計がその延べ面積の三分の二以上であるもの(当該高層住居誘導地区に関する都市計画において建築物の敷地面積の最低限度が定められたときは、その敷地面積が当該最低限度以上のものに限る。)

当該建築物がある第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域又は準工業地域に関する都市計画において定められた第二号に定める数値から、その一・五倍以下で当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計のその延べ面積に対する割合に応じて政令で定める方法により算出した数値までの範囲内で、当該高層住居誘導地区に関する都市計画において定められたもの

六号 特定用途誘導地区内の建築物であつて、その全部又は一部を当該特定用途誘導地区に関する都市計画において定められた誘導すべき用途に供するもの 当該特定用途誘導地区に関する都市計画において定められた数値

七号 用途地域の指定のない区域内の建築物

十分の五、十分の八、十分の十、十分の二十、十分の三十又は十分の四十のうち、特定行政庁が土地利用の状況等を考慮し当該区域を区分して都道府県都市計画審議会の議を経て定めるもの

建築基準法第68条の3(再開発等促進区等内の制限の緩和等)

第1項 地区計画又は沿道地区計画の区域のうち再開発等促進区(都市計画法第十二条の五第三項 に規定する再開発等促進区をいう。以下同じ。)又は沿道再開発等促進区(沿道整備法第九条第三項 に規定する沿道再開発等促進区をいう。以下同じ。)で地区整備計画又は沿道地区整備計画が定められている区域のうち建築物の容積率の最高限度が定められている区域内においては、当該地区計画又は沿道地区計画の内容に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるものについては、第五十二条の規定は、適用しない。

第2項 地区計画又は沿道地区計画の区域のうち再開発等促進区又は沿道再開発等促進区(地区整備計画又は沿道地区整備計画が定められている区域のうち当該地区整備計画又は沿道地区整備計画において十分の六以下の数値で建築物の建ぺい率の最高限度が定められている区域に限る。)内においては、当該地区計画又は沿道地区計画の内容に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるものについては、第五十三条第一項から第三項まで及び第六項の規定は、適用しない。

第3項 地区計画又は沿道地区計画の区域のうち再開発等促進区又は沿道再開発等促進区(地区整備計画又は沿道地区整備計画が定められている区域のうち二十メートル以下の高さで建築物の高さの最高限度が定められている区域に限る。)内においては、当該地区計画又は沿道地区計画の内容に適合し、かつ、その敷地面積が政令で定める規模以上の建築物であつて特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるものについては、第五十五条第一項及び第二項の規定は、適用しない。

第4項 地区計画又は沿道地区計画の区域のうち再開発等促進区又は沿道再開発等促進区(地区整備計画又は沿道地区整備計画が定められている区域に限る。第六項において同じ。)内においては、敷地内に有効な空地が確保されていること等により、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて許可した建築物については、第五十六条の規定は、適用しない。

第5項 第四十四条第二項の規定は、前項の規定による許可をする場合に準用する。

第6項 地区計画又は沿道地区計画の区域のうち再開発等促進区又は沿道再開発等促進区内の建築物に対する第四十八条第一項から第十二項まで(これらの規定を第八十七条第二項又は第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、第四十八条第一項から第十項まで及び第十二項中「又は公益上やむを得ない」とあるのは「公益上やむを得ないと認め、又は地区計画若しくは沿道地区計画において定められた土地利用に関する基本方針に適合し、かつ、当該地区計画若しくは沿道地区計画の区域における業務の利便の増進上やむを得ない」と、同条第十一項中「工業の利便上又は公益上必要」とあるのは「工業の利便上若しくは公益上必要と認め、又は地区計画若しくは沿道地区計画において定められた土地利用に関する基本方針に適合し、かつ、当該地区計画若しくは沿道地区計画の区域における業務の利便の増進上やむを得ない」とする。

第7項 地区計画の区域のうち開発整備促進区(都市計画法第十二条の五第四項 に規定する開発整備促進区をいう。以下同じ。)で地区整備計画が定められているものの区域(当該地区整備計画において同法第十二条の十二 の土地の区域として定められている区域に限る。)内においては、別表第二(わ)項に掲げる建築物のうち当該地区整備計画の内容に適合するもので、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるものについては、第四十八条第六項、第七項、第十一項及び第十三項の規定は、適用しない。

第8項 地区計画の区域のうち開発整備促進区(地区整備計画が定められている区域に限る。)内の建築物(前項の建築物を除く。)に対する第四十八条第六項、第七項、第十一項及び第十三項(これらの規定を第八十七条第二項又は第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、第四十八条第六項、第七項及び第十三項中「又は公益上やむを得ない」とあるのは「公益上やむを得ないと認め、又は地区計画において定められた土地利用に関する基本方針に適合し、かつ、当該地区計画の区域における商業その他の業務の利便の増進上やむを得ない」と、同条第十一項中「工業の利便上又は公益上必要」とあるのは「工業の利便上若しくは公益上必要と認め、又は地区計画において定められた土地利用に関する基本方針に適合し、かつ、当該地区計画の区域における商業その他の業務の利便の増進上やむを得ない」とする。

第9項 歴史的風致維持向上地区計画の区域(歴史的風致維持向上地区整備計画が定められている区域に限る。)内の建築物に対する第四十八条第一項から第十二項まで(これらの規定を第八十七条第二項又は第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、第四十八条第一項から第十項まで及び第十二項中「又は公益上やむを得ない」とあるのは「公益上やむを得ないと認め、又は歴史的風致維持向上地区計画において定められた土地利用に関する基本方針に適合し、かつ、当該歴史的風致維持向上地区計画の区域における歴史的風致(地域歴史的風致法第一条 に規定する歴史的風致をいう。)の維持及び向上を図る上でやむを得ない」と、同条第十一項 中「工業の利便上又は公益上必要」とあるのは「工業の利便上若しくは公益上必要と認め、又は歴史的風致維持向上地区計画において定められた土地利用に関する基本方針に適合し、かつ、当該歴史的風致維持向上地区計画の区域における歴史的風致(地域歴史的風致法第一条 に規定する歴史的風致をいう。)の維持及び向上を図る上でやむを得ない」とする。

※参考判例

東京高等裁判所平成21年11月12日判決

『第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は,本件控訴は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり訂正し,後記2のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決9頁25行目の「といえるが,」から同10頁3行目末尾までを「であり,同法の予定しないものである。」と改める。

(2) 同10頁10行目の「上記のとおり」から同11行目の「違法ではない以上,」を削る。

(3) 同12頁7行目の「仮に,」から同11行目末尾までを削る。

(4) 同17行目から同25行目までを次のとおり改める。

「確かに同法80条1項所定の相当の価額に開発利益の加算をする取扱いには,検討すべき問題があるが,そのことが本件における認定判断の対象を左右するものではない。」

2 控訴人らの主張にかんがみ,理由を付加する。

(1) 控訴人らは,都市再開発計画により土地価格形成要因の変更が確実であれば,それを織り込んだ開発利益が既に発生しているともいえるから,市街地再開発事業の完成によって発生する開発利益が評価基準日に発生していなくても,土地の価額に加算すべきである旨主張する。

しかしながら,都市再開発法80条1項は,同法73条1項3号の従前資産の価額を,評価基準日における近傍類似資産の取引価格等を考慮して定める「相当の価額」とする旨定めており,これは,権利変換の前後を通じてその者の有する財産価値を等しくさせることを目的として算定される金額であって,権利変換計画の決定前の日である評価基準日の時点における近傍類似資産の取引価格その他の諸事情を考慮して定められるべきものと解するのが相当であり,評価基準日の後に発生する開発利益は加算すべきではないことは,原判決判示のとおりである。土地価格形成要因の変更が確実であることから,それを織り込んだ開発利益が既に発生しているということは擬制にすぎず,そうであるからこそ,本件取扱基準が開発利益を「加えた価格」を宅地の価格とする旨定めているのであり,真に現実化しているなら,加える必要自体がないことになる。

したがって,控訴人らの主張は採用できない。

(2) 控訴人らは,収用委員会の裁決に不服がある場合の訴えにおいては,開発利益を加算することが許されないとすると,二重の基準を設けることになり,市街地再開発組合が,自ら定めた従前資産の評価基準を無視した評価による権利変換計画を定めた場合,権利者が,裁決を申請し,裁決の変更を求める訴えを提起しても,その是正を図ることができないことになると主張する。

しかしながら,都市再開発法80条1項にいう「相当の価額」が上記のようなものと解すべきである以上,収用委員会も裁判所も,この「相当の価額」について認定判断すべきものであることは,同法の規定の当然に予定するところといわなければならない。そして,原判決が本件権利変換計画において定められた宅地の価格が開発利益も加算したものとなっていることにつき,直ちに違法となるものではないと判示したことを二重の基準を設けるものと非難しているが,これは,施行者である被控訴人が同法80条1項所定の評価基準と異なる取扱基準を用いたことにつき,違法とまではいえないが同法に根拠を有しない事実上の措置にすぎないとしているものであり,二重の基準とはいえない。

なお,このように,収用委員会及び裁判所においては,あくまで,都市再開発法80条1項の「相当の価額」の認定判断をするものであり,その範囲でのみ違法の是正を行うものであることからすると,施行者が事実上の措置として「相当の価額」に加算した額をもって宅地の価額としている場合には,是正された価額に同じ加算がされるように求めることはできないことになるが,それがあくまで事実上の措置である以上,裁決及び判決により救済を図ることは,同法の予定していないところといわざるを得ない。

したがって,控訴人らの主張は採用できない。

(3) 控訴人らは,承継前控訴人ら以外の組合員については,開発利益の全額が配分されているのに,承継前控訴人らについては,土地価格と都市再開発法80条1項所定の相当の価額との間の差額(不足額)に開発利益が充当される結果,他の組合員と異なり,開発利益の一部しか配分されない結果となり,組合員間の実質的衡平を担保するために,訴訟による救済を認めるべきである旨主張する。

確かに,承継前控訴人らが,裁決及び判決によって是正を受けた「相当の価額」は権利変換計画に不服を申し立てなかった他の組合員の宅地の価額とされたものから開発利益として加算された額を控除したものと同等のものであり,他の組合員には加算される開発利益の加算が十分には受けられず,結局,裁決及び判決によって是正(増額)された価額の全部を受け取ることができない結果となることは,他の組合員との間の公平を欠くというべきである(被控訴人が不公平は全くないというのは,是正された価額と是正を求めなかった者の価額とが同等のものであることを看過する議論である。)。しかし,その救済までが本件訴訟において求められるものではないことは,既に判示したとおりである。なお,このことからすると,都市再開発法80条1項の定める「相当の価額」に事実上の取扱いによって開発利益等を加算する措置の適法性には,検討すべき問題があるといわざるを得ない。』

※東京高裁平成28年12月15日判決

『第4 当裁判所の判断

1 従前土地の価額を審理判断する方法

以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決19頁17行目冒頭から同頁21行目の「1項)」までを「本件訴えは,都再法85条3項において土地収用法133条が準用される従前土地の価額に係る裁決行政庁の裁決に関する訴えであるところ,従前土地の価額は「相当の価額」」と改め,同頁23行目の「上記」を削り,同頁25行目から26行目にかけての「都再法73条1項3号に掲げる宅地」を「従前土地」と改める。

(2) 原判決20頁7行目から同頁10行目までを以下のとおり改める。

「 ところで,裁決行政庁は,本件評価基準日における本件土地の価額は45億2943万9800円と評価するのが相当であると判断しつつ,都再法85条3項において準用する土地収用法94条8項により,被控訴人が意見書により申し立てた価額である95億3998万6000円が本件土地の価額について裁決をする上で下限の額となることから,同額をもって本件土地の「相当の価額」と定めている。(前記第2の4で引用する補正後の原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「3 前提事実」(以下,単に「前提事実」という。)(6)エ,カ)。そうすると,本件訴えにおいては,客観的に認定される本件土地の「相当の価額」が,本件裁決が定めた上記価額を上回らない限り,本件裁決を違法と判断することはできないと解される。」

2 「相当の価額」の意義

以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の2に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決20頁17行目の「権利変換計画」から同頁22行目の「再開発事業においては,」までを削る。

(2) 原判決21頁13行目の「その権利変換によって当該宅地の所有者」を「財産権の保障の見地から,当該再開発事業によって従前土地の所有者」と,同頁15行目から16行目にかけての「権利変換の前後を通じて当該所有者の」を「従前土地に関する権利変換の前後を通じて当該従前土地の所有者の保有する」と,同頁16行目の「当該宅地」を「従前土地」と,同頁17行目の「要すると解される。」を「要し,かつ,それで足りるというべきである(最高裁昭和48年10月18日第一小法廷・民集27巻9号1210頁参照)。」

とそれぞれ改める。

(3) 原判決21頁19行目の「同項は,」から同頁23行目末尾までを「この「相当の価額」とは,評価基準日において,従前土地の所有者がその近傍において当該従前土地と同等の代替地を取得し得る金額であることを要し,かつ,それで足りるものと解される。」と改める。

3 「相当の価額」の算定において開発利益を考慮することの可否(争点1)

(1) 控訴人は,再開発事業の対象となっている従前土地につき,その価格が同事業が予定されていることが原因となって評価基準日までの間に上昇した場合,その上昇分を「開発利益」として当該従前土地の「相当の価額」に反映すべきである旨を主張する(前記第3で引用する補正後の原判決の「第3 争点についての当事者の主張の要旨」(以下,単に「当事者の主張要旨」という。)の1(2))。

(2) 開発利益の概念等

ア 「開発利益」という用語は,都再法上の用語ではなく,実務において多義的に使用されているものであるところ,本件で証拠として提出されている文献等(甲1,17,25,乙3,4,12)において述べられているその意義を整理すれば,①再開発事業のもたらす全体の効用を指す概念であり,粗効用-(工事費+資本コスト+用地費)として捉えるもの,②個別の再開発事業において形成された従後資産の価値と事業の原価たる従前資産及び事業費の合計額との差額をいうとするもの,③再開発事業の施行地区内の土地の価値という観点から,再開発事業により土地が一体利用されることによる価値の増分をいうとするもの,④再開発事業の施行地区の近隣の土地の価値という観点から,再開発事業による市街地の活性化,利便性の向上等又はこれに対する期待に伴う価値の増分をいうとするもの,⑤再開発事業の施行地区内の土地の価値という観点から,都市計画等の見込み,決定等に基づく再開発事業の完成の期待に伴う価値の増分をいうとするものがある。そして,控訴人の主張する「開発利益」は,その主張内容に照らし,⑤に該当するもの(以下,これを「開発期待」と称する。)と解される。

イ 前記ア①ないし③の意味における開発利益は,その内容に照らし,再開発事業の完成によって生じるものであることが明らかであり,かかる意味の開発利益が「相当の価額」において考慮されるべきものに該当しないことは,「相当の価額」が評価基準日における価額であるとされていること(都再法80条1項)から明らかというべきである。

ウ 一方,再開発事業は,事業による市街地の活性化,利便性の向上等及びこれに対する期待から,評価基準日までに施行区域を含むその近隣の土地全体の地価を上昇させることがあり得る。「相当の価額」とは,従前土地を有する者が近傍において当該従前土地と同等の代替地を取得することを得るに足りる金額をいうことは前記2に説示したとおりであることか

らすると,上記のような近隣の土地全体の地価の上昇があるときには当該地価の上昇分を考慮しなければ,従前土地の所有者は近傍において当該従前土地と同等の代替地を取得することができなくなるから,その場合における「相当の価額」の算定に当たっては当該地価の上昇を考慮する必要があるというべきである。前記ア④の意味における開発利益は,このような意味の評価基準日までに生じた施行地区の近隣の土地の価格上昇をいうものであり,「相当の価額」の算定において考慮されるべきものであると解される。

エ 控訴人は,従前土地について,評価基準日までに生じた前記ア⑤の意味における開発期待による価格の上昇を「相当の価額」の算定において考慮されなければならないと主張する。

評価基準日までの期間において従前土地の処分に関する制限はないから,従前土地についても,再開発事業に参加することを希望する者との間で売買が成立することはあり得ることであり,その場合に再開発事業に参加したいと希望する者が開発期待を織り込んだ割増価格で買い受けることもあり得ると考えられる。しかし,当該割増分は,再開発事業に参加を希望する者が再開発事業に対して付加する価値であり,再開発事業の完成によって実現するものであるから,従前土地の売買時点における客観的価値とは異なるものであり,その性質上,従前土地の所有者に補償されるべきものとはいえないというべきである。

また,控訴人の主張する開発期待は,評価基準日の時点における従前土

地の価格上昇分として把握するものであるから,権利取得者に限らず権利喪失者にも等しく及ぶことになると解されるところ,再開発事業は評価基準日から完成まで更に数年を要することが多く,本件再開発事業においても,本件評価基準日(平成24年3月11日)からその完成予定時期(平成28年10月頃。前提事実(5)キ)まで4年7か月余りの期間が予定されているところであり,その間には多くのリスクが存在し得ることに鑑みると,当該リスクを負担することがなくなる権利喪失者にまで,再開発事業が施行されて初めて実現する付加価値というべき期待に係る利益を,再開発事業が予定されることによって評価基準日までに施行地区及びその近隣の土地全体に等しく生じ得る地価の上昇分に加えて補償する必要が

あるとは解されず,また,再開発事業で行われる権利変換によって従前土地の所有者が被る特別の犠牲とは,本来,再開発事業が行われない従前の状態における所有権の価値であることからしても,前記ア④の意味の開発利益とは別に再開発事業が施行されるということにより従前土地に係る付加価値として生じるとする開発期待は,従前土地の価値に含まれると解することはできないというべきである。

さらに,「相当の価額」が評価基準日における価額であることに鑑みると,評価基準日までに現実に生じた地価の上昇分は加味されるべきであるということになるところ,前記ア④の意味における開発利益を「相当の価額」の算定に当たって考慮することは,従前土地の所有者に近傍において同等の代替地を取得せしめてその財産権の保障を実行ならしめるために

必要不可欠であり,また,都再法80条1項が「相当の価額」を近傍類似の土地の取引価格等を考慮して定めるものと規定することとも整合するのに対し,控訴人が主張する前記ア⑤の意味の開発期待は,上記のとおり,再開発事業の完成に期待して付加される価値であり,評価基準日の時点における従前資産の価値とは別個のものである上,多分に個別的要因の強いものであって,かかる付加価値分が施行地区内の土地全体に等しく妥当すると解する根拠を欠くものというべきであるから,「相当の価額」を構成する要因とするのは相当とはいえない。

オ 以上によれば,本件再開発事業を起因とする地価の上昇が,前記ア④の意味における評価基準日までに本件施行地区内の従前土地のみならずその近隣周辺において同等に生じるものは,「相当の価額」に含まれるべきものであるが,前記ア⑤の意味における従前土地が再開発事業の施行される土地であることにより生じる同事業完成の期待に伴う価値の増分は,評価基準日以降に生じる付加価値であり,個別的要因によって変動し得る不確定なものであって,施行地区内の土地全体に一般的,普遍的に及ぶ利益ではないから,「相当の価額」の算定において考慮されるべきものではないと解するのが相当である。

したがって,控訴人の前記エの主張及びこれを前提とする本件施行地区内に存在する本件土地の「相当の価額」の算定に当たって本件再開発事業の成果に対する期待による価値の上昇分を考慮しなければならないことをいう控訴人の主張は,採用することができない。

4 本件土地の「相当の価額」の算定において本件特区決定の存在を考慮することの可否(争点2)

(1) 控訴人は,建築物の容積率の規制を大幅に緩和する本件特区決定の存在は,本件再開発事業による開発期待を生じさせる重要な価格形成要因として,本件土地の「相当の価額」の算定に当たり考慮されるべきであると主張する(当事者の主張要旨1(3))。

(2)ア 前提事実(3)によれば,本件特区決定は,本件評価基準日の約2年8か月前である平成21年6月22日,本件再開発事業に係る本件都市計画決定と同時に,かつ,本件再開発事業の施行者である被控訴人の前身である本件準備組合の提案に基づいてされたものであり,その内容は,本件再開発事業に係る本件事業計画に沿って,本件施行地区における容積率の最高限度を1330%に緩和し,建築物の建ぺい率の最高限度を8/10,建築物の建築面積の最低限度を1000㎡と定めるとともに,本件施行地区を一体利用して建築される建築物の外壁又はこれに代わる柱は原判決別紙3-2「計画図」に示す壁面線を越えて建築してはならない旨の壁面の位置の制限等を課すものであることが認められる。

イ 以上認定のとおり,本件特区決定は,本件評価基準日前にされたものであり,これが本件施行地区の周辺の土地に影響を及ぼし,本件評価基準日までに当該周辺の土地の価格上昇をもたらした場合には,その価格上昇は,本件施行地区内の従前土地の価格にも影響を及ぼすものであるから,その場合における当該従前土地の「相当の価額」の算定に当たり考慮されるべきものであり,この意味における本件特区決定による影響が考慮されるものであることは,前記3で説示したとおりである。

ウ 他方,本件特区決定による本件施行地区内の従前土地についての容積率等の緩和自体は,本件再開発事業により建築される施設建築物を前提として壁面の位置の制限などとともに定められているのであるから,本件再開発事業が完成することでしか実現できないものである。

また,本件特区決定は,前記アのとおり,建築物の建ぺい率の最高限度を8/10,建築面積の最低限度を1000㎡と定めていることからすれば,本件土地(1173.43 ㎡(土地面積)×0.8(建ぺい率)=938.744 ㎡(建物建築面積)<1000 ㎡)はもとより,本件施行地区内のいずれの従前土地も単体では本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受けることはでき

ないものであり,これに壁面の位置の制限を併せみると,従前土地単体で適用されることは想定されていないということができる。

以上によると,本件特区決定それ自体が本件評価基準日前にされていたとしても,本件土地を含む本件施行地区内のいずれの従前土地も単体で本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受けることは想定されておらず,本件再開発事業の施行を離れて本件特区決定があることによる独自の価値増加は観念できない。そして,前記3において説示したとおり,本件再開発事業の成果として実現する価値は従前土地の「相当の価額」を算定する上で考慮されないものであるから,本件特区決定は従前資産たる本件土地自体の価格形成要因として考慮されるものということはできない。

また,本件特区決定が本件再開発事業の実現可能性を高めるものとして,その期待に対する地価の上昇が観念できるとしても,それは本件施行地区の近隣の土地について同様に及んだ地価の上昇を介して従前資産の評価に反映されることになるから,これに加えて,本件土地が本件特区決定の対象とされた本件施行地区内の土地であることを考慮して「相当な価額」

の算定をすべきことにはならない。

(3) 控訴人は,被控訴人の定めた従前資産評価基準5条1項は,権利変換又は取得する土地の価額は「正常な取引価格」によるものとし,従前資産評価基準細則第1が,土地の正常な取引価格は,標準価格比較法により評価するものとし,標準価格は不動産鑑定士が鑑定評価した価格によるものと定めているところ,本件特区決定による公法上の規制を考慮外とすることは,不動産鑑定評価基準に則っていないことになり,許されないと主張する。

しかしながら,本件土地を含む本件施行地区内の各従前土地は,前記(2)ウで説示したとおり,本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受け得ない土地であるから,結局のところ,本件土地の「相当の価額」を算定するに当たり本件特区決定による公法上の規制を考慮する余地がないことになる。

そうすると,被控訴人の定めた従前資産評価基準等に基づいて本件土地の「正常な取引価格」を評価する場合にも,本件特区決定による公法上の規制を考慮する余地がなく,これは同規制がない場合と同じことになるから,本件土地について同規制を考慮外として上記「正常な取引価格」を評価したことが不動産鑑定評価基準に則っていないということにはならない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができず,同主張が指摘する事由は,前記3の「相当の価額」の解釈及び本件土地の「相当の価額」を算定する際の本件特区決定の取扱いについての前記(2)の各説示を左右するものではない。』

以上

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