持続化給付金を不正受給してしまった場合の対応
刑事|給付金詐欺|刑事事件回避の方法
目次
質問
私の大学生の息子の相談です。息子は,大学の先輩から「良いバイトがある。身分証明書と通帳を準備すれば給付金がもらえる。」と案内され,書類の作成に協力し,国から100万円の給付を受けたそうです。その半額の50万円は,紹介料として先輩に支払ったとのことでした。
しかし後から,この支給は給付金の詐欺に該当するのではないかと思い直したそうです。通帳には,「持続化給付金」との振込名目が記載されていました。
私の息子の行為は,犯罪になるのでしょうか。警察に逮捕されたりしないためには,どう対応したら良いでしょうか。
回答
1 今回息子さんがしてしまった行為は,持続化給付金の不正受給として,刑法上は詐欺罪に該当する可能性があります。そのため,状況を放置した場合,逮捕される可能性は否定できません。
2 息子さんの逮捕等を避けるためには,捜査機関による捜査が開始する前に,給付金を返還した上で,警察に自首をすることが考えられます。自首の際には,息子さんとして給付金詐欺をする故意がなかったことなどをきちんと説明して主張した方が良いでしょう。
詳細な対応については,弁護士に現在の状況を詳しく相談した上で検討されることをお勧め致します。なお,現在は給付金の返還について,詐欺の案内をしている業者もあるため,ご注意下さい。
3 その他関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 持続化給付金の制度について
持続化給付金とは,国が,新型コロナウイルスという感染症拡大により,営業自粛等により特に大きな影響を受ける事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、事業全般に広く使える給付金を給付する制度のことです。
その給付の対象には,法人のみならず個人事業者も含まれており,必要な書類を揃えて申請すれば,個人でも最大100万円の給付金の支給を受けることができます。
給付を受けるための主な要件は,①2019年以前から事業により事業収入(売上)を得ており、今後も事業継続する意思があること,②2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月があること,とされています。
給付金の性質上,申請手続きは簡易迅速であり,2019年の確定申告書や,2020年以降の対象月の売上台帳,その他身分確認書類等の必要書類を提出すれば,給付金の受給を受けることが可能です。
しかし,その申請手続きの簡便さ故に,確定申告書や売上台帳を偽造して給付金の不正受給をする事例が生じています。
要件に該当しないことを知りながら給付金の申請をする行為は、詐欺罪の「人を欺い」たことに該当し、受給を受けた場合は,「財物の交付を受けた」ことにあたり、刑法上の詐欺罪(246条)に該当することになります。
本件で息子さんは大学生とのことですので,特段事業を継続して行っている者ではない以上,持続化給付金の要件に該当しないことは明白ですから,息子さんが給付金を申請受給した行為は,詐欺罪に該当する可能性が高いと言えます。
持続加給金の詐欺については,警察も積極的に捜査を進めているようであり,昨年の7月以降,多数の逮捕者が出ております。
2 今後の対応について
では,既に給付金を詐欺的に受け取ってしまった場合,どのように対応すべきでしょうか。
まずは,給付金の返還の手続きを取ることが考えられます。
給付金の受給詐欺が多発していることを受け,所管する中小企業庁では,給付金の返還を受け付ける窓口を設けています(https://jizokuka-kyufu.go.jp/news/20210201.html)。
不正受給をした場合,給付金の全額に、不正受給の日の翌日から返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金を加え、これらの合計額にその2割に相当する額を加えた額を支払う義務を負うとされています。もっとも,現在,中小企業庁では,自主的に返還をした場合には,延滞金の支払いを免除するとしています。このような記載からすると,進んで返還をすれば,刑事事件として捜査を受ける可能性は相当程度低くなると考えられます。代理人弁護士を通じて返還する方法もあります。
但し,一度不正受給をしてしまった以上,後に返還をしたとしても,詐欺罪が成立しなくなるものではありません。そのため,不正受給として詐欺罪に該当するような悪質性がある場合には,捜査機関となる警察へ自ら出頭することも検討する必要があります。
仮に刑事捜査の対象となる事案であっても,警察に自ら進んで出頭をした場合には,逮捕等の身柄拘束は回避できる場合が多いです。また,不正受給に至ってしまった経緯や,不正受給の指南をしている指南役の情報を提供することによって,その後の捜査においても有利な情状として酌量されることになります。特に出頭した時点でまだ警察の捜査や中小企業庁の捜査が開始していなければ,法律上の自首(刑法第42条1項)として減刑の対象となります。その点においても,早期の出頭が必要と言えます。
出頭の要否や,出頭の際にどのような準備をしたら良いかについては,刑事弁護に精通した弁護士に相談することをお勧め致します。弁護士が出頭に同行し,その身元を保証することで,逮捕等の身体拘束手続きを避けることができる場合も多く存在します。
3 まとめ
持続化給付金の不正受給は,比較的容易に実行されてしまうため,普通の大学生等が巻き込まれ,逮捕されてしまうケースも多数存在します。
思わぬ不利益を受けないためには,弁護士に相談した上で,適切な対処をとることをお勧め致します。
なお,現在は給付金の返還について詐欺の案内をしている悪質な業者もあるため,ご注意下さい。あなた自身が詐欺の被害に合わないためにも,資格を有する弁護士に相談するのが最も安心です。
以上