動画共有アプリ(動画シェア)を用いた児童ポルノのダウンロードの違法性
刑事|児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律|
目次
質問
私は,都内で公務員をしている20代男性です。
実は,動画共有アプリ「動画シェア」を用いて,10代前半の女子の性行為の様子が写っている動画をダウンロード購入したことがあります。最近,同アプリのパスコードを情報交換する掲示板で,私がダウンロードした動画について「児ポだから警察に通報しておいた」との書き込みがされていました。
仮にダウンロードした動画が児童ポルノだった場合,私も一斉摘発などで逮捕されてしまう可能性はあるのでしょうか。
回答
1 10代前半の女子の性行為の様子が写っているとなると,当該動画は,法律上の児童ポルノに該当する可能性が高いです。そのため,同画像をダウンロードして所持している場合には,児童ポルノ禁止法違反(単純所持)として刑事処罰を受ける可能性があります。
警察が捜査を開始するきっかけの詳細が明らかではありませんが,被写体となった児童の通報,動画アップロード側(販売者)の摘発のほか,通報がきっかけとなる可能性もあるようです。
2 仮に,あなたが警察の捜査対象となった場合の捜査手法としては,自宅の家宅捜索を実行することが多いといえます。その場合,事前の予告等は当然ありません。捜索で児童ポルノが発見された場合でも,逮捕に至る可能性は低いですが,罰金刑等の処分を受ける可能性は高いです。
3 既に画像や記録媒体を削除,破棄して処分していて,家宅捜索の時点で児童ポルノが発見されなければ,実際に刑事処罰を受ける可能性は低いでしょう。
4 警察に捜索を受ける前に,自主的に警察に出頭し,既に児童ポルノを破棄済みであることを示すことによって,捜索自体を回避できる場合があります。特に公務員の方や,ご家族とお住まいの方の場合,家宅捜索を受けたことが職場に発覚して懲戒処分を受ける危険性があります。
もし不安が尽きないようであれば,弁護士に相談した上で適切な対応を検討してください。参考事例集1946番など。事例集参照。
解説
1 児童ポルノ単純所持の違法性
児童ポルノについては,平成27年7月の法改正により,個人による自分のための所持でも処罰の対象となりました。
法律上,児童とは,18歳未満の者を言い(児童ポルノ禁止法2条),児童ポルノは,下記のようなものに定義されています。
(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下,「児童ポルノ規制法」といいます。))第2条
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
上記の「電磁的記録に係る記録媒体」には,HDDやSDカード等も含みみます。また,女児の裸が写っているもので,あえてインターネットで購入したものあれば,基本的には上の条文の三号に該当する可能性が高いです。
そのため,本件であなたがダウンロード購入した画像が18歳未満の児童のものであった場合,それを保存していたパソコンのHDDなどは,法律上の児童ポルノに該当する可能性が高いと言えます。
そして,児童ポルノを自己の意思に基づいて「自己の性的好奇心を満たす目的で」所持した場合には,一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられることになります(同法7条1項)。
児童ポルノに該当する以上,特殊な事情が無い限りは自己の性的好奇心を満たす目的での所持と推認されますので,本件でも,あなたがダウンロードし、所持していたことが認められれば,最終的に処罰を受ける対象となります。
2 児童ポルノ所持事件の捜査手法
⑴ 捜索差押の実施
自動ポルノの所持事案について,どのようなきっかけで警察が捜査を開始するのかは,明らかにされているものではありません。もっとも過去の事例を見るに,多くの場合は,まずは動画アップロード側(販売者)が摘発され,そこから記録が残っている購入者も捜査対象となるという流れが多いようです。加えて被写体となった女子児童が警察に通報したり,掲示板の閲覧者からの通報などがきっかけとなる場合もあります。
仮に,上記のような経緯により,あなたが警察の捜査対象となった場合は,警察があなたの自宅の家宅捜索を実行することが多いといえます。その場合,証拠隠滅を防ぐために事前の予告等は当然ありません。
この家宅捜索で児童ポルノ(画像や動画が記録された媒体)が発見された場合は,犯罪の証拠として押収(差押え)され,刑事捜査が進展することになります。多くの刑事事件の場合,家宅捜索と同時に逮捕令状も発布されていることが多いですが,児童ポルノの単純所持の容疑の場合には,逮捕まで至る可能性は低いといえます。
これは,所持を立証するためには,児童ポルノの現物の差押えが必要十分条件であること,すなわち押収が成功すればあえて逮捕して捜査する必要性は薄く,逆に押収できなければ逮捕しても起訴が困難となるためであると推測されます。
そのため,捜索を受けた後は,基本的に在宅事件として捜査が進むこととなり,警察や検察官から任意での出頭要請があった場合に,出頭して取り調べを受けることになります。
⑵捜索後の事件捜査
捜索の結果,児童ポルノが発見された場合でも,特に前科前歴などがなく,児童ポルノの単純所持のみであれば,罰金刑に処される可能性が高いでしょう。
児童ポルノが発見されなかった場合,犯罪として起訴や処罰をされる可能性は高くありません。
警察の捜索を受ける前に児童ポルノ画像やそれを保管したHDDなどを破壊する行為は,犯罪の証拠隠滅行為とみなされる危険もありますので,決して推奨いたしませんが,刑法上の証拠隠滅罪(刑法104条)の構成要件は,「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅」することです。そのため,自分の刑事事件の証拠を自分で隠滅することは,証拠隠滅罪には該当しません。
まずは,適切な対処につき弁護士に相談されることをお勧め致します。
3 家宅捜索回避のための対応方法
上記のように,児童ポルノ事件の捜査においては,自宅等の家宅捜索が実施されることが必然となりますが,このような突然の家宅捜索を回避する方法としては,警察が捜索に来る前に,自ら警察に出頭し,事情を説明することが考えられます。
警察が家宅捜索を実施するのは,児童ポルノ(が記録された媒体)の現物を押収することが目的ですから,既に差し押さえるべき物が破棄されてしまっている場合などについては,警察としても家宅捜索等をするのは徒労ですので,その後に摘発を受ける可能性は非常に低くなります。
もっとも,個人でいきなり警察に出頭しても,警察に取り合ってもらうことは難しいでしょう。また,捜索を回避するためには,購入した児童ポルノが現在どのような状態にあるか,破棄したのであればどのように破棄したのかの経緯の詳細を,捜査機関に説明して納得させる必要があります。場合によっては,破壊作業の証拠写真を用意した上で,破壊に至った経緯,日時場所などを,報告書などの書面にして提出する必要もあります。
また,警察に出頭する場合,どこの警察署に出頭するかが問題となります。この点,既に販売者側が摘発されており,報道等により捜査を実施している警察署が判明している場合には,その警察署宛てに出頭をすることになります。インターネットを通じた児童ポルノのダウンロードの場合,販売者側の捜査を担当した警察署がそのまま購入者側の捜査を実施することが多いためです。
そのような摘発の情報が入手できない場合には,最寄りの警察署に出頭するしかありません。その場合,最寄の警察署に出頭したとしても,それ以外の警察署(販売者側の捜査を実施した警察署)からの捜索を受ける可能性を完全に払拭することはできませんが,特に広範囲の購入者について捜査が行われる場合には主担当の警察本部が,捜索の実施等につき被疑者の最寄の警察署に捜査(捜索の実施)を割り振る場合もあります(いわゆる全国協働捜査方式の場合など)。
最寄の警察署に捜査が割り振られた時点で,既に児童ポルノを破棄していることが把握されていれば,その時点で捜索や刑事捜査が中止されることも期待できますので,最寄の警察署への出頭も一定の効果が見込めます。
このような点を考慮すると、現在の時点において,どのような対策を実施すべきか否かは,経験のある弁護士に相談した上で,慎重に協議した方が良いでしょう。
4 まとめ
児童ポルノ事案は,警察も摘発に力を入れている事件類型であり,社会的にも耳目を集めやすい事件です。不安なことがあれば,速やかに弁護士に相談し,適切な対応を指示してもらうことをお勧め致します。
以上