保護入院の退院請求
行政|精神保健福祉法|高齢者虐待防止法|人身保護請求
目次
質問
母(85歳)は物忘れが多くなりましたが元気に一人暮らししていました。それなのに先日、兄が母を精神病院に医療保護入院させてしまいました。「認知症の検査に行く」と母を騙して連れて行ったようなのです。母の通帳とキャッシュカードは兄が管理しています。勝手にお金を引き出しているのではないかと懸念しています。病院に面会に行きましたが、「治療のため会わせられない」の一点張りでした。電話での通話もさせてもらえません。行政にも警察にも相談しましたが、「違法性は見られない」ということで解決できません。病院の対応は本当に合法的なものですか。医療保護入院って何ですか。母を退院させるにはどうしたら良いですか。
回答
1、医療保護入院は、精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)33条による精神病院の入院形式です。指定医の診察と家族等の同意があれば、本人の同意が無くても「強制的に」患者を入院させることができる手続きです。同法には他に措置入院と任意入院があります。措置入院は、都道府県知事による行政処分で、一定の要件のもと家族の同意がなくても強制的に入院させる手続きです。任意入院は本人の同意のもと入院する手続きです。
2、精神保健福祉法36条1項で精神病院の管理者は、入院患者の行動について制限をすることが出来ることになっていますから、一度入院すると、管理者が認めない限り退院はできないことになります。また、入院患者の処遇が規定されており、患者自身の行動制限に付随して、息子様でも御家族等との面会や電話などが制限されることがあります。トイレの設置された部屋に施錠されて閉じ込められ寝たきりにさせられて衰弱してしまう事例もあります。現在面会が出来ない、電話もできないということですが、行動制限は法定の措置ですので適法といえます。但し、同36条2項で例外措置があり、弁護士経由で連絡することは妨げられない決まりになっています。御心配であれば、弁護士に相談してみて下さい。
本人の意思を確認し退院を希望しているということであればお兄様と話し合って精神病院の管理者に退院の請求をするのが良いでしょう。しかし、お兄様は退院請求に同意しないということが考えられますから、その場合は、精神保健福祉法38条の4で定める都道府県知事に対する退院請求をすることになります。請求書は、都道府県知事に対して申請し、申請があると、各都道府県に設置された精神医療審査会の審査を経て、必要に応じて退院や処遇改善措置が命ぜられることになります。急を要する場合は、都道府県知事に対する退院請求をすることを精神病院に告知し、争う姿勢を示して、直ちに退院を認めなければ後日損害賠償の請求をする旨告げるなどして強く退院を要求することも検討する必要があります。具具体的理由としては、一般的に精神的障害の病的治療においては、患者の散歩、運動等のリハビリ等は行わず、事故回避のため病床で生活することが多くなりがちです。健康状態に異変がある場合(歩行困難、日常生活の異変)は、治療のため病院側の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の予告も必要になります。
3、お兄様がお母さまの預金通帳から無断で金銭をおろしているかも知れないという御心配がある場合は、成年後見人の選任の申し立てを家庭裁判所に行うこともできます。また、経済的虐待の懸念がありますから高齢者虐待防止法の虐待防止措置を市区町村に相談できる場合があります。甚だしい事例であれば市区町村役場に対する虐待通報も検討なさって下さい。但し、市区町村では、保護入院中の事案については慎重な取り扱いになってしまう傾向があり、急を要する場合は代理人弁護士による内容証明郵便で、無断で預金を下ろすことがないように通知することをご検討なさって下さい。
4、以上の手続きでも退院が認められない場合、人身保護法に基づく人身保護請求手続きもありますが、年間百件程度の僅少な手続きであり、大多数の事例が親権者である親から非親権者である親に対する子の引き渡し事例となっております。
5、入院期間が1か月以上になるなど、新たな治療効果が見込めない時期に差し掛かっているのであれば、精神保健福祉法38条の4による退院等の請求ができる場合があります。これも都道府県知事に申請する手続きです。お困りの場合は法律事務所に御相談なさると良いでしょう。
6、その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1、精神保健福祉法の各種入院手続き
(1)医療保護入院
医療保護入院は、精神保健福祉法33条1項による精神病患者の強制的な入院手続きです。患者自身の同意が無くても、指定医の診察により入院の必要が認められ、家族等の同意があれば、入院させられてしまいます。
精神保健福祉法33条(医療保護入院)第1項 精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。
一号 指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの
二号 第三十四条第一項の規定により移送された者
第2項 前項の「家族等」とは、当該精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者を除く。
一号 行方の知れない者
二号 当該精神障害者に対して訴訟をしている者又はした者並びにその配偶者及び直系血族
三号 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
四号 心身の故障により前項の規定による同意又は不同意の意思表示を適切に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
五号 未成年者
この医療保護入院の要件である、「指定医による診察の結果、精神障害者であり」、「医療及び保護のため入院の必要がある者」、「家族等のうちいずれかの者の同意」について解説致します。
「指定医」は、精神保健福祉法18条1項で定められた要件により厚生労働大臣からの指定を受けた精神科の専門医のことです。主な要件は、「5年以上の診断治療経験」、「3年以上の精神障害診断治療経験」、「統合失調症などのケースレポート5件」、「指定医の研修課程修了」です。入院設備を備えた精神科病院の医師のことです。
精神保健福祉法18条(精神保健指定医)第1項 厚生労働大臣は、その申請に基づき、次に該当する医師のうち第十九条の四に規定する職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者を、精神保健指定医(以下「指定医」という。)に指定する。
一号 五年以上診断又は治療に従事した経験を有すること。
二号 三年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること。
三号 厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること。
四号 厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修(申請前一年以内に行われたものに限る。)の課程を修了していること。
「精神障害者」とは、精神保健福祉法5条で、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいうとされ、精神疾患を患っていると診断されれば広く要件を満たすことになります。診断基準は米国由来のDSM5や、WHO世界保健機関由来のICDが使われます。ICDは、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」というもので、精神疾患を含む疾病全般の分類基準です。
精神保健福祉法5条(定義)この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。
「医療及び保護のため入院の必要がある者」は、家族等の同意が無くても入院できる精神帆家福祉法29条1項の「措置入院」の要件である、「自傷または他害のおそれ」までは認められなくても、これを予防するために入院の必要があると医師が認めたことを指します。
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第28条の2の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準(昭和63年厚生省告示第125号)(抜粋)第一
一 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)第29条第1項の規定に基づく入院に係る精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある旨の法第18条第1項の規定により指定された精神保健指定医による判定は、診察を実施した者について、入院させなければその精神障害のために、次の表に示した病状又は状態像により、自殺企図等、自己の生命、身体を害する行為(以下「自傷行為」という。)又は殺人、傷害、暴行、性的問題行動、侮辱、器物破損、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、放火、弄火等他の者の生命、身体、貞操、名誉、財産等又は社会的法益等に害を及ぼす行為(以下「他害行為」といい、原則として刑罰法令に触れる程度の行為をいう。)を引き起こすおそれがあると認めた場合に行うものとすること。
「家族等のうちいずれかの者の同意」は、精神保健福祉法33条2項の家族が同意することを指します。家族等には、患者の配偶者、親権者、扶養義務者及び後見人又は保佐人が含まれます。扶養義務者は、民法877条1項で、直系血族(親子関係、祖父母と孫など)及び兄弟姉妹が含まれます。御相談の事例では、兄様が同意すれば要件を満たしていることになります。
民法877条(扶養義務者)第1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
精神保健福祉法33条2項 前項の「家族等」とは、当該精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者を除く。
一 行方の知れない者
二 当該精神障害者に対して訴訟をしている者又はした者並びにその配偶者及び直系血族
三 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
四 心身の故障により前項の規定による同意又は不同意の意思表示を適切に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
五 未成年者
このように、医療保護入院は、患者自身の同意無く、家族の1名と指定医の診察だけで入院させられてしまう手続きですが、精神保健福祉法では、他に「措置入院」と「任意入院」も規定されていますので、対比のために御紹介致します。
(2)措置入院
「措置入院」は、指定医2名以上の診断により自傷他害のおそれがあると認められる場合に、本人の同意無く、家族の同意も要件とせず、都道府県知事の行政処分により入院させることができる手続きです(精神保健福祉法29条1項)。
精神保健福祉法29条(都道府県知事による入院措置)1項 都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2項 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、その指定する二人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
3項 都道府県知事は、第一項の規定による措置を採る場合においては、当該精神障害者に対し、当該入院措置を採る旨、第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
4項 国等の設置した精神科病院及び指定病院の管理者は、病床(病院の一部について第十九条の八の指定を受けている指定病院にあつてはその指定に係る病床)に既に第一項又は次条第一項の規定により入院をさせた者がいるため余裕がない場合のほかは、第一項の精神障害者を入院させなければならない。
措置入院の判定のために必要な指定医の診察は、精神保健福祉法22条1項の診察及び保護申請により行われます。同23条の警察官による通報も端緒となることがあります。22条1項の申請は自傷他害のおそれのある精神障害者を発見した者は誰でも申請できますが、事実上、家族親族からの申し出を受けた警察経由で手続きが進められることが多くなっています。
家族親族知人トラブルなどで警察に通報され、事情聴取を受けて事件性までは無いと判断された事案でも、当事者の受け答えの様子が尋常ではないと判断されると、自傷他害の恐れが認められ通報される危険があります。警察官には職務上の通報義務があるので一度手続きが始まってしまうと入院を回避するのは難しくなってしまいます。警察官が同行して指定医2名の診察を受けるために病院を2か所回ります。弁護士が関与する場合、起訴前の刑事弁護手続きから、措置入院の回避手続きに弁護活動が事実上移行していく事案もあります。
精神保健福祉法22条(診察及び保護の申請)1項 精神障害者又はその疑いのある者を知つた者は、誰でも、その者について指定医の診察及び必要な保護を都道府県知事に申請することができる。
2項 前項の申請をするには、次の事項を記載した申請書を最寄りの保健所長を経て都道府県知事に提出しなければならない。
一 申請者の住所、氏名及び生年月日
二 本人の現在場所、居住地、氏名、性別及び生年月日
三 症状の概要
四 現に本人の保護の任に当たつている者があるときはその者の住所及び氏名
第23条(警察官の通報)警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。
(3)任意入院
「任意入院」は、上記の保護入院や措置入院の要件を満たさない場合でも、指定医の診察により入院した方が良いとの勧めにより、本人の同意に基づき精神科病院に入院する手続きです(精神保健福祉法20条)。任意入院でも、入院者の行動制限などの処遇は措置入院や保護入院と同じですが、任意入院の場合には入院者からの申し出による退院が可能です(精神保健福祉法21条2項)。但し、指定医が必要と認める場合は患者の退院申出後3日間(72時間)は退院させない対応をとることができます(精神保健福祉法21条3項)。
精神保健福祉法20条 精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。第21条
1項 精神障害者が自ら入院する場合においては、精神科病院の管理者は、その入院に際し、当該精神障害者に対して第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせ、当該精神障害者から自ら入院する旨を記載した書面を受けなければならない。
2項 精神科病院の管理者は、自ら入院した精神障害者(以下「任意入院者」という。)から退院の申出があつた場合においては、その者を退院させなければならない。
3項 前項に規定する場合において、精神科病院の管理者は、指定医による診察の結果、当該任意入院者の医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めたときは、同項の規定にかかわらず、七十二時間を限り、その者を退院させないことができる。
4項 前項に規定する場合において、精神科病院(厚生労働省令で定める基準に適合すると都道府県知事が認めるものに限る。)の管理者は、緊急その他やむを得ない理由があるときは、指定医に代えて指定医以外の医師(医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十六条の六第一項の規定による登録を受けていることその他厚生労働省令で定める基準に該当する者に限る。以下「特定医師」という。)に任意入院者の診察を行わせることができる。この場合において、診察の結果、当該任意入院者の医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めたときは、前二項の規定にかかわらず、十二時間を限り、その者を退院させないことができる。
5項 第十九条の四の二の規定は、前項の規定により診察を行つた場合について準用する。この場合において、同条中「指定医は、前条第一項」とあるのは「第二十一条第四項に規定する特定医師は、同項」と、「当該指定医」とあるのは「当該特定医師」と読み替えるものとする。
6項 精神科病院の管理者は、第四項後段の規定による措置を採つたときは、遅滞なく、厚生労働省令で定めるところにより、当該措置に関する記録を作成し、これを保存しなければならない。
7項 精神科病院の管理者は、第三項又は第四項後段の規定による措置を採る場合においては、当該任意入院者に対し、当該措置を採る旨、第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
2、医療保護入院患者の処遇
精神保健福祉法36条と37条で入院患者の処遇が規定されており、患者自身の行動制限に付随して、御家族等との面会や電話などが制限されることがあります。
精神保健福祉法36条(処遇)1項 精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。
2項 精神科病院の管理者は、前項の規定にかかわらず、信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であつて、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない。
3項 第一項の規定による行動の制限のうち、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める患者の隔離その他の行動の制限は、指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。
第37条
1項 厚生労働大臣は、前条に定めるもののほか、精神科病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができる。
2項 前項の基準が定められたときは、精神科病院の管理者は、その基準を遵守しなければならない。
3項 厚生労働大臣は、第一項の基準を定めようとするときは、あらかじめ、社会保障審議会の意見を聴かなければならない。
この36条と37条に関連して重要なのは、37条1項の基準と、36条2項の例外事項です。少々長くなりますが、それぞれの基準規定を引用致します。
※精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(平一二厚告九七・題名追加、平一二厚告五三七・改称)第一 基本理念
入院患者の処遇は、患者の個人としての尊厳を尊重し、その人権に配慮しつつ、適切な精神医療の確保及び社会復帰の促進に資するものでなければならないものとする。また、処遇に当たつて、患者の自由の制限が必要とされる場合においても、その旨を患者にできる限り説明して制限を行うよう努めるとともに、その制限は患者の症状に応じて最も制限の少ない方法により行われなければならないものとする。
第二 通信・面会について
一 基本的な考え方
(一) 精神科病院入院患者の院外にある者との通信及び来院者との面会(以下「通信・面会」という。)は、患者と家族、地域社会等との接触を保ち、医療上も重要な意義を有するとともに、患者の人権の観点からも重要な意義を有するものであり、原則として自由に行われることが必要である。
(二) 通信・面会は基本的に自由であることを、文書又は口頭により、患者及びその家族等(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十三条第二項に規定する家族等をいう。以下同じ。)その他の関係者に伝えることが必要である。
(三) 電話及び面会に関しては患者の医療又は保護に欠くことのできない限度での制限が行われる場合があるが、これは、病状の悪化を招き、あるいは治療効果を妨げる等、医療又は保護の上で合理的な理由がある場合であつて、かつ、合理的な方法及び範囲における制限に限られるものであり、個々の患者の医療又は保護の上での必要性を慎重に判断して決定すべきものである。
二 信書に関する事項
(一) 患者の病状から判断して、家族等その他の関係者からの信書が患者の治療効果を妨げることが考えられる場合には、あらかじめ家族等その他の関係者と十分連絡を保つて信書を差し控えさせ、あるいは主治医あてに発信させ患者の病状をみて当該主治医から患者に連絡させる等の方法に努めるものとする。
(二) 刃物、薬物等の異物が同封されていると判断される受信信書について、患者によりこれを開封させ、異物を取り出した上、患者に当該受信信書を渡した場合においては、当該措置を採つた旨を診療録に記載するものとする。
三 電話に関する事項
(一) 制限を行つた場合は、その理由を診療録に記載し、かつ、適切な時点において制限をした旨及びその理由を患者及びその家族等その他の関係者に知らせるものとする。
(二) 電話機は、患者が自由に利用できるような場所に設置される必要があり、閉鎖病棟内にも公衆電話等を設置するものとする。また、都道府県精神保健福祉主管部局、地方法務局人権擁護主管部局等の電話番号を、見やすいところに掲げる等の措置を講ずるものとする。
四 面会に関する事項
(一) 制限を行つた場合は、その理由を診療録に記載し、かつ、適切な時点において制限をした旨及びその理由を患者及びその家族等その他の関係者に知らせるものとする。
(二) 入院後は患者の病状に応じできる限り早期に患者に面会の機会を与えるべきであり、入院直後一定期間一律に面会を禁止する措置は採らないものとする。
(三) 面会する場合、患者が立会いなく面会できるようにするものとする。ただし、患者若しくは面会者の希望のある場合又は医療若しくは保護のため特に必要がある場合には病院の職員が立ち会うことができるものとする。
第三 患者の隔離について
一 基本的な考え方
(一) 患者の隔離(以下「隔離」という。)は、患者の症状からみて、本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合に、その危険を最小限に減らし、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われるものとする。
(二) 隔離は、当該患者の症状からみて、その医療又は保護を図る上でやむを得ずなされるものであつて、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。
(三) 十二時間を超えない隔離については精神保健指定医の判断を要するものではないが、この場合にあつてもその要否の判断は医師によつて行われなければならないものとする。
(四) なお、本人の意思により閉鎖的環境の部屋に入室させることもあり得るが、この場合には隔離には当たらないものとする。この場合においては、本人の意思による入室である旨の書面を得なければならないものとする。
二 対象となる患者に関する事項
隔離の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、隔離以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。
ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合
イ 自殺企図又は自傷行為が切迫している場合
ウ 他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合
エ 急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合
オ 身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場合
三 遵守事項
(一) 隔離を行つている閉鎖的環境の部屋に更に患者を入室させることはあつてはならないものとする。また、既に患者が入室している部屋に隔離のため他の患者を入室させることはあつてはならないものとする。
(二) 隔離を行うに当たつては、当該患者に対して隔離を行う理由を知らせるよう努めるとともに、隔離を行つた旨及びその理由並びに隔離を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。
(三) 隔離を行つている間においては、定期的な会話等による注意深い臨床的観察と適切な医療及び保護が確保されなければならないものとする。
(四) 隔離を行つている間においては、洗面、入浴、掃除等患者及び部屋の衛生の確保に配慮するものとする。
(五) 隔離が漫然と行われることがないように、医師は原則として少なくとも毎日一回診察を行うものとする。
第四 身体的拘束について
一 基本的な考え方
(一) 身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする。
(二) 身体的拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限であり、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。
(三) 身体的拘束を行う場合は、身体的拘束を行う目的のために特別に配慮して作られた衣類又は綿入り帯等を使用するものとし、手錠等の刑具類や他の目的に使用される紐、縄その他の物は使用してはならないものとする。
二 対象となる患者に関する事項
身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。
ア 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合
イ 多動又は不穏が顕著である場合
ウ ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合
三 遵守事項
(一) 身体的拘束に当たつては、当該患者に対して身体的拘束を行う理由を知らせるよう努めるとともに、身体的拘束を行つた旨及びその理由並びに身体的拘束を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。
(二) 身体的拘束を行つている間においては、原則として常時の臨床的観察を行い、適切な医療及び保護を確保しなければならないものとする。
(三) 身体的拘束が漫然と行われることがないように、医師は頻回に診察を行うものとする。
第五 任意入院者の開放処遇の制限について
一 基本的な考え方
(一) 任意入院者は、原則として、開放的な環境での処遇(本人の求めに応じ、夜間を除いて病院の出入りが自由に可能な処遇をいう。以下「開放処遇」という。)を受けるものとする。
(二) 任意入院者は開放処遇を受けることを、文書により、当該任意入院者に伝えるものとする。
(三) 任意入院者の開放処遇の制限は、当該任意入院者の症状からみて、その開放処遇を制限しなければその医療又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合にのみ行われるものであって、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあってはならないものとする。
(四) 任意入院者の開放処遇の制限は、医師の判断によって始められるが、その後おおむね七十二時間以内に、精神保健指定医は、当該任意入院者の診察を行うものとする。また、精神保健指定医は、必要に応じて、積極的に診察を行うよう努めるものとする。
(五) なお、任意入院者本人の意思により開放処遇が制限される環境に入院させることもあり得るが、この場合には開放処遇の制限に当たらないものとする。この場合においては、本人の意思による開放処遇の制限である旨の書面を得なければならないものとする。
二 対象となる任意入院者に関する事項
開放処遇の制限の対象となる任意入院者は、主として次のような場合に該当すると認められる任意入院者とする。
ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に悪く影響する場合
イ 自殺企図又は自傷行為のおそれがある場合
ウ ア又はイのほか、当該任意入院者の病状からみて、開放処遇を継続することが困難な場合
三 遵守事項
(一) 任意入院者の開放処遇の制限を行うに当たっては、当該任意入院者に対して開放処遇の制限を行う理由を文書で知らせるよう努めるとともに、開放処遇の制限を行った旨及びその理由並びに開放処遇の制限を始めた日時を診療録に記載するものとする。
(二) 任意入院者の開放処遇の制限が漫然と行われることがないように、任意入院者の処遇状況及び処遇方針について、病院内における周知に努めるものとする。
※精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十六条第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める行動の制限(平一二厚告五三五・題名追加)
一 信書の発受の制限(刃物、薬物等の異物が同封されていると判断される受信信書について、患者によりこれを開封させ、異物を取り出した上患者に当該受信信書を渡すことは、含まれない。)
二 都道府県及び地方法務局その他の人権擁護に関する行政機関の職員並びに患者の代理人である弁護士との電話の制限
三 都道府県及び地方法務局その他の人権擁護に関する行政機関の職員並びに患者の代理人である弁護士及び患者又はその家族等(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十三条第二項に規定する家族等をいう。)その他の関係者の依頼により患者の代理人となろうとする弁護士との面会の制限
これらの規定は、どちらの精神病院でも遵守しなければならない法令規定となります。要するに弁護士であれば、どんな状況であっても患者本人との面会は制限できないということです。どうしても面会ができずお困りの場合は、弁護士を介して本人と連絡し、意思を確認して退院等請求の手続きに繋げていくことが考えられます。御心配であれば弁護士の連絡ができるかどうか法律事務所に相談してみましょう。
3、高齢者虐待防止法
高齢化社会の進展に伴って、高齢者の虐待事例が社会問題化したため、平成17年に高齢者虐待防止法が制定されました。第一条の目的規定を引用致します。
高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第1条(目的) この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。
これは当然ながら、日本国憲法13条の個人の尊厳、幸福追求権を具体化した法律です。日本国憲法13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」というものです。憲法に理想として定められた個人の尊厳を、生まれてから亡くなるまで、真に実効的に具体化し維持発展していくために、高齢期の人々の虐待防止についても国民が協力して尽力していかなければなりません。
この法律では、高齢者は65歳以上とされ、高齢者虐待の定義は次のようになっています(高齢者虐待防止法2条)。
高齢者虐待防止法第2条(定義等)※抜粋1項 この法律において「高齢者」とは、六十五歳以上の者をいう。
2項 この法律において「養護者」とは、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等(第五項第一号の施設の業務に従事する者及び同項第二号の事業において業務に従事する者をいう。以下同じ。)以外のものをいう。
3項 この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう。
4項 この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一号 養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
二号 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
同法2条4項1号のロでは「高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。」が虐待行為であると定義され、同法2条4項2号では、「養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。」が虐待行為として定義されております。これは特に経済的虐待と呼ばれるものです。
市区町村では、高齢者虐待を防止したり保護を行うために、高齢者及び養護者に対して相談、指導、助言を行うべきことが規定されています(高齢者虐待防止法6条)。
本件では入院者の状況が分かりませんが、入院者が寝たきりにさせられ衰弱し、財産を不当に処分されているということであれば、高齢者虐待防止法2条の虐待行為の疑いがあるということになります。
生命身体に重大な危険が及んでいる高齢者の虐待を発見した者は「誰でも」虐待行為の阻止及び回復のために、発見した事実を市町村長に通報しなければなりません(高齢者虐待防止法7条1項)。重大な危険とは言えない場合でも、「速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない」とされておりますし、この通報に関して、法令上、または契約上の守秘義務は免除されることが注意的に規定されています。困っている高齢者が居たら、万難を排して救助しなければならないという当たり前のことです。
高齢者虐待防止法6条(相談、指導及び助言)市町村は、養護者による高齢者虐待の防止及び養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護のため、高齢者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うものとする。(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第七条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。
御相談の事例のように、お母さまの財産をお兄様が許可なく自由に処分しているということであれば、経済的虐待のおそれがあります。高齢者虐待防止法6条に基づき、虐待防止措置を市区町村に相談できますし、甚だしい事例であれば市区町村役場に対する虐待通報も検討なさって下さい。但し、市区町村では、「病院で虐待があるはずは無い」という立場に立ち、保護入院中の事案については慎重な取り扱いになってしまう傾向があり、どうしても解決できない場合は代理人弁護士による内容証明郵便による通知をご検討なさって下さい。
4、退院等請求
精神保健福祉法38条の4では、入院者又は家族等からの退院請求・処遇改善請求の手続きが定められています。請求書は、都道府県知事に対して申請し、申請があると、各都道府県に設置された精神医療審査会の審査を経て、必要に応じて退院や処遇改善措置が命ぜられることになります。
精神保健福祉法38条の4(退院等の請求)精神科病院に入院中の者又はその家族等(その家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合にあつては、その者の居住地を管轄する市町村長)は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事に対し、当該入院中の者を退院させ、又は精神科病院の管理者に対し、その者を退院させることを命じ、若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じることを求めることができる。第38条の5(退院等の請求による審査)
1項 都道府県知事は、前条の規定による請求を受けたときは、当該請求の内容を精神医療審査会に通知し、当該請求に係る入院中の者について、その入院の必要があるかどうか、又はその処遇が適当であるかどうかに関し審査を求めなければならない。
2項 精神医療審査会は、前項の規定により審査を求められたときは、当該審査に係る者について、その入院の必要があるかどうか、又はその処遇が適当であるかどうかに関し審査を行い、その結果を都道府県知事に通知しなければならない。
3項 精神医療審査会は、前項の審査をするに当たつては、当該審査に係る前条の規定による請求をした者及び当該審査に係る入院中の者が入院している精神科病院の管理者の意見を聴かなければならない。ただし、精神医療審査会がこれらの者の意見を聴く必要がないと特に認めたときは、この限りでない。
4項 精神医療審査会は、前項に定めるもののほか、第二項の審査をするに当たつて必要があると認めるときは、当該審査に係る入院中の者の同意を得て委員に診察させ、又はその者が入院している精神科病院の管理者その他関係者に対して報告を求め、診療録その他の帳簿書類の提出を命じ、若しくは出頭を命じて審問することができる。
5項 都道府県知事は、第二項の規定により通知された精神医療審査会の審査の結果に基づき、その入院が必要でないと認められた者を退院させ、又は当該精神科病院の管理者に対しその者を退院させることを命じ若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じなければならない。
6項 都道府県知事は、前条の規定による請求をした者に対し、当該請求に係る精神医療審査会の審査の結果及びこれに基づき採つた措置を通知しなければならない。
※東京都立中部総合精神保健福祉センターの精神医療審査会説明ページ
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/chusou/seishiniryoshinsa/shinsakai.html
東京都の統計ですが、平成30年の退院等請求は次のように処理されました。
退院請求審査
退院を認める1件
退院は認められない 125件
(内訳)現在の入院形態継続 108件
(内訳)他の入院形態へ移行して継続17件
保留/再審査1件
取り下げ等79件
計206件
処遇改善請求審査
処遇は適当71件
処遇は不適当0件
保留/再審査2件
取り下げ等43件
計116件
統計上の数値では請求どおりの結果にはなっていないようにも見えますが、審査の過程で何等かの処遇改善があったり、話し合いによる任意で退院できる場合もありますので、決して効果の薄い手続きというものでもありません。
5、人身保護請求
入院手続き自体が全く違法で不当である場合は、人身保護法2条に基づいて人身保護請求を裁判所に申し立てる手段もあります。
人身保護法第1条 この法律は、基本的人権を保障する日本国憲法の精神に従い、国民をして、現に、不当に奪われている人身の自由を、司法裁判により、迅速、且つ、容易に回復せしめることを目的とする。第2条 法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。
2項 何人も被拘束者のために、前項の請求をすることができる。
第3条 前条の請求は、弁護士を代理人として、これをしなければならない。但し、特別の事情がある場合には、請求者がみずからすることを妨げない。
第4条 第二条の請求は、書面又は口頭をもつて、被拘束者、拘束者又は請求者の所在地を管轄する高等裁判所若しくは地方裁判所に、これをすることができる。
第5条 請求には、左の事項を明らかにし、且つ、疏明資料を提供しなければならない。
一 被拘束者の氏名
二 請願の趣旨
三 拘束の事実
四 知れている拘束者
五 知れている拘束の場所
第6条 裁判所は、第二条の請求については、速かに裁判しなければならない。
第7条 裁判所は、請求がその要件又は必要な疏明を欠いているときは、決定をもつてこれを却下することができる。
人身保護規則抜粋
第1条(この規則の趣旨) 人身保護法(以下法という。)による救済の請求に関しては、法に定めるものの外、この規則の定めるところによる。
第2条(救済の内容) 法による救済は、裁判所が、法第十二条第二項の規定により、決定で、拘束者に対し、被拘束者の利益のためにする釈放その他適当であると認める処分を受忍し又は実行させるために、被拘束者を一定の日時及び場所に出頭させるとともに、審問期日までに答弁書を提出することを命じ(以下この決定を人身保護命令という。)、且つ、法第十六条第三項の規定により、判決で、釈放その他適当であると認める処分をすることによつてこれを実現する。
第3条(拘束及び拘束者の意義) 法及びこの規則において、拘束とは、逮捕、抑留、拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい、拘束者とは、拘束が官公署、病院等の施設において行われている場合には、その施設の管理者をいい、その他の場合には、現実に拘束を行つている者をいう。
第4条(請求の要件) 法第二条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。
人身保護法は、憲法31条の適正手続き保障を担保する最後の砦と言われますが、刑事訴訟法や精神保健福祉法など、それぞれの法令で救済することが原則であり、それらの手続きでどうしても救済できない場合に補充的に適用すべきことが最高裁判所規則である人身保護規則第4条で「法第二条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる」と、定められております。著しい手続き違反とは、非親権者である親が親権者である親の同意無しに幼児を連れ去ってしまった場合などを指します。医療保護入院であれば、医療保護入院の手続き要件を満たさないのに無理やり入院させられてしまったような事例が当てはまるでしょう。いずれにしても日本全国で年間百件程度の極めて僅少な手続きですので、申し立てするかどうかも含めて慎重な検討が必要です。むしろ、病院などとの交渉の際の交渉材料として、このまま話し合いができない状態が続けば人身保護請求手続きを検討せざるを得ないなどと主張することの方が多いと言えるでしょう。
※参考判例、最高裁判所昭和37年4月12日判決、退院請求事件『上告人の上告理由第一点について。
家庭裁判所が、精神衛生法二〇条二項四号の規定に基づいて精神障害者の保護義務者を選任するには、精神障害者の扶養義務者のうちから選任すべきであるところ、所論Dは本件被拘束者たる被上告人の扶養義務者でなかつたことは、原審の確定した事実によつて明らかであるから、同人を被上告人の保護義務者に選任した所論家庭裁判所支部の審判は違法であり、その違法は顕著であるといわなければならない。されば、上告人が被上告人を拘束するにつき、たとえ右Dの同意を得た事実があつても、同人はもともと保護義務者となる資格を有しなかつたのであるから、上告人の本件拘束は、精神衛生法三三条に定める正当の手続によつたものでないことが明らかであり、従つて、被上告人の本件救済の請求は人身保護法二条及び人身保護規則四条所定の要件に適合するものというべきであるから、これを認容した原判決には所論の違法は認められない。それゆえ論旨は採用しがたい。』
このように、保護入院者が人身保護請求手続きで救済された事例もありますが、極めて珍しい手続きであることに留意が必要です。
6、まとめ
退院については、まずは入院を承諾したお兄様と相談し病院に退院を申し出ること、お兄様が退院について承諾しない場合は、まず単独で退院の要請を行い、それでも退院を認めない場合は都道府県知事に対して精神保健福祉法に基づく退院の請求をすることを告げ強硬な姿勢で退院を求め、それでも退院を認めない場合は、実際に内容証明郵便などにより都道府県知事に退院の請求手続きをすることになります。入院期間が1か月以上になるなど、入院当初の精神状態が沈静化し、新たな治療効果が見込めない時期に差し掛かっているのであれば、精神保健福祉法38条の4による退院等の請求ができる場合があります。これは都道府県知事に申請する手続きです。
まずは代理人弁護士を介して病院に交渉を開始することが必要です。お困りの場合は経験のある法律事務所に御相談なさると良いでしょう。
以上