再開発の反対運動の組織

民事|行政|再開発|権利変換率|還元率|組合側の横暴に対する対応手続き|東京地裁昭和60年9月26日権利変換処分取消請求事件判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

駅前商店街で戸建て店舗を所有して飲食店を経営しています。十数年前から駅前再開発の噂はありましたが、昨年、商店会長を含む数名の商店街役員と不動産デベロッパーが合同で再開発協議会を設立し、準備組合を設立すると言ってきました。そこで、再開発がどうなるのか内容を尋ねましたが、「商店街の店舗の全てが再開発ビルの1階に路面店として入居できるわけではない」、「再開発ビルの割り当て面積は未定だが100パーセントを維持できるように努力する」などと抽象的な事を話しており、大変不安になりました。現在商店街に面した1階の店舗で何とか経営を成り立たせているものですから、路面店を取得できるか、床面積が維持できるかどうかは死活問題です。再開発ビルに入居すると、面積に応じて管理費や修繕積立金も必要になると聞きます。近隣の商店主も同様の不安を口にしており、反対運動をやりたいと話していますが、具体的にどのような団体を組織して主張していったら良いのでしょうか。

回答

1 再開発の準備組合ということですから、都市再開発法に基づく市街地再開発事業と考えられます。この事業には、二種類あり区域内地権者の発意による第一種市街地再開発事業、いわゆる民間の都市開発と、地方自治体などが主導して行われる第二種市街地再開発事業があります。第一種市街地再開発事業では、再開発組合設立認可公告と、事業計画の認可公告の31日目の評価基準日における従前資産の評価額と同額の建て替えビルを「権利変換」という手法で権利を移行させ、区域内建物の一括建て替えを促進する仕組みになっています。

2 数名の商店街役員と不動産デベロッパーが準備組合を設立するということですから民間が主体となって行われる第一種市街地再開発事業による再開発と考えられます。この手続きは、区域内住民が主体となって、地権者による再開発組合を組織して、その多数決による意思決定で、事業計画や再開発ビルの設計を決議して進めていく手続きです。都市再開発法に依らない場合、区域内の地権者の全員の同意がない限り、従来の権利者の権利を排してビルを建てることはできませんが、地権者の多数決による意思決定で再開発を進めることが出きる手続きです。そのため、区域内地権者が自分達の意見を再開発事業に反映させていくためには、再開発協議会や、再開発準備組合や、再開発組合に、役員を送り込んで、組合の定時総会や臨時総会でも、一定割合の議決権を行使して、賛否を主張できる勢力を形成する必要があります。

3 この多数決における議決権行使は、国や地方自治体の議会における、会派や政党と同じことで、ある程度共通の意見を標ぼうして、綱領を作成し、定期的に会合し、自分達の意見を取りまとめて、連名で再開発準備組合や再開発組合に提出する必要があります。単独で組合に対して意見を述べても無意味です。総会や臨時総会における議決権の過半数や、3分の1以上の議決権、あるいはそれに近い議決権を握ることにより、初めて組合運営に関する発言権を得るのです。この反対運動を行う組織は、法人形式を取ることは難しいですが、通常の住民サークルのような、「勉強会」、「協議会」、「対策会」、「第二組合」などの形式を取ることになります。法的には「組合」または「権利能力なき社団」となります。定期的に会報を発行し、定期的に会合を行い、定期的に準備組合に対して通知連絡を行うことになります。会費の徴収も必要でしょう。いずれにしても、会合の運営の適正化と公正性を担保するために、会の規約を作成し、会計規則と会計書類を整備し、適切に運営していく必要があります。地権者として当然の懸念を主張しているだけですから、怒鳴ったり、威嚇したりする必要はありません。正々堂々と書面で、自分達の意見を主張すると良いでしょう。

4 反対運動の是非について判断しているものではありませんが、反対運動があった事例に関する下級審判例がありますので御紹介致します(東京地裁昭和60年9月26日判決)。お困りの場合は、法律事務所に御相談なさりながら、反対運動を組織し、組合に対して意見主張されると良いでしょう。法の支配の理念から、組合側の横暴については法的手続きの場面で(断行の仮処分等)裁判所の意見をかならず求めましょう。

5 関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1、都市再開発法による第一種市街地再開発事業

都市再開発法による市街地再開発手続きは、火災が延焼しやすい木造密集区域の建物をまとめて不燃建物に更新したり、不燃建物であっても建築基準法の耐震基準の改訂に伴って現行基準を満たさなくなってしまったいわゆる既存不適格の旧耐震建物を建て替えることにより、都市の防災機能を高め、商業機能を高めることにより国民経済の振興を図るという、公共目的のために、区域内建物の一体建て替え手続きを定めたものです。

都市再開発法第1条(目的) この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

都市再開発法では、民間主導の第一種市街地再開発手続きと、公共団体主導の第二種市街地再開発手続きが定められています。前記のような都市機能の更新が必要であるという事情は変わりませんが、第二種市街地再開発事業では、国際空港整備やオリンピックや国際万国博覧会のために一帯整備が必要であるなど特に公共性・緊急性の高い事業について、事業者となる地方自治体などが一旦すべての権利を取得して、施設建築物整備後に従前地権者に再度権利を割り当てる「管理処分方式」で建て替えが行われます。

都市再開発法第3条の2 都市計画法第十二条第二項の規定により第二種市街地再開発事業について都市計画に定めるべき施行区域は、次の各号に掲げる条件に該当する土地の区域でなければならない。

第2号のロ 当該区域内に駅前広場、大規模な火災等が発生した場合における公衆の避難の用に供する公園又は広場その他の重要な公共施設で政令で定めるものを早急に整備する必要があり、かつ、当該公共施設の整備と併せて当該区域内の建築物及び建築敷地の整備を一体的に行うことが合理的であること。

これに対して、第一種市街地再開発手続きにおいては、区域内地権者の発意と申請により再開発手続きを進めることができます。

民間の地権者が集まって再開発事業を進める第一種市街地再開発事業では、施行区域内の土地所有者や借地権者が5名以上集まって、事業計画を定め、施行区域内の宅地所有権者及び借地権者の面積と人数で、それぞれ3分の2以上の同意を得て、組合設立認可申請をすることができます。

都市再開発法第11条(認可)

第1項 第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。

第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)

第1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。

再開発組合の設立が認可されると、権利変換計画案を作成し、組合決議を経て都道府県知事に対して権利変換計画認可申請をすることにより、権利変換期日に、借家権や借地権など施行区域内の従来の権利が一旦全て消滅し、敷地所有権は一旦施行者である再開発組合に帰属することになり、複雑な権利関係を整理して、建て替えを円滑にすすめることができるようになります。そのうえで、再開発ビルの竣工後に、土地建物の従来の権利者に対しては、それぞれの従前権利の価額に対応する、新しい建物の権利が割り当てられることになります。地権者から見ると、権利変換期日に「組合に権利を取られる」ことになりますが、地権者は組合の構成員である組合員でもありますから、権利の直接単独保有から、組合を通した間接的な共有に姿を変えると考えることができます。

2、多数決で進められる再開発手続き

(1)都市計画案の策定手続き

前記の再開発組合の設立に先立って、都市計画法に基づいて都市計画審議会の答申を経て再開発促進区を定める都市計画決定が都道府県知事によって行われ、告示され効力を生じます。この都市計画案は、区域住民の意見をベースに作成されることがあり、通常は、「再開発準備組合」が行政協議を通じて都市計画の素案を作成して、提出することになります。これを都市計画法21条の2の計画提案と言います。

※都市計画法21条の2(都市計画の決定等の提案)

1項 都市計画区域又は準都市計画区域のうち、一体として整備し、開発し、又は保全すべき土地の区域としてふさわしい政令で定める規模以上の一団の土地の区域について、当該土地の所有権又は建物の所有を目的とする対抗要件を備えた地上権若しくは賃借権(臨時設備その他一時使用のため設定されたことが明らかなものを除く。以下「借地権」という。)を有する者(以下この条において「土地所有者等」という。)は、一人で、又は数人共同して、都道府県又は市町村に対し、都市計画(都市計画区域の整備、開発及び保全の方針並びに都市再開発方針等に関するものを除く。次項及び第七十五条の九第一項において同じ。)の決定又は変更をすることを提案することができる。この場合においては、当該提案に係る都市計画の素案を添えなければならない。

2 まちづくりの推進を図る活動を行うことを目的とする特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項の特定非営利活動法人、一般社団法人若しくは一般財団法人その他の営利を目的としない法人、独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社若しくはまちづくりの推進に関し経験と知識を有するものとして国土交通省令で定める団体又はこれらに準ずるものとして地方公共団体の条例で定める団体は、前項に規定する土地の区域について、都道府県又は市町村に対し、都市計画の決定又は変更をすることを提案することができる。同項後段の規定は、この場合について準用する。

3 前二項の規定による提案(以下「計画提案」という。)は、次に掲げるところに従つて、国土交通省令で定めるところにより行うものとする。

一 当該計画提案に係る都市計画の素案の内容が、第十三条その他の法令の規定に基づく都市計画に関する基準に適合するものであること。

二 当該計画提案に係る都市計画の素案の対象となる土地(国又は地方公共団体の所有している土地で公共施設の用に供されているものを除く。以下この号において同じ。)の区域内の土地所有者等の三分の二以上の同意(同意した者が所有するその区域内の土地の地積と同意した者が有する借地権の目的となつているその区域内の土地の地積の合計が、その区域内の土地の総地積と借地権の目的となつている土地の総地積との合計の三分の二以上となる場合に限る。)を得ていること。

都市計画の変更案策定には、この都市計画法21条の2の計画提案は必須ではありませんが、通常の市街地再開発事業では、「再開発準備組合」が、区域内地権者の3分の2以上の同意(都市計画法21条の2第3項2号)を集めて行政協議を経て都市計画案が策定され、都市計画審議会に付議され、都市計画決定へと進んでいくことになります。

再開発促進区を定める都市計画の素案では、再開発事業を行う区域の「区割り」や、建築物の「容積率の最高限度」が定められます。これは、自分の土地が区域内に含まれるかどうか、従来の指定容積率からどれくらいの緩和措置が認められるのかが決まるので、区域内住民には大きな利害関係があることになります。この時の手続きにおいても多数決によって区域内住民の意思が反映されていることになります。

(2)事業計画案の策定手続き

再開発促進区を定める都市計画決定に続いて、第一種市街地再開発事業を定める都市計画決定も同じ様に再開発準備組合の計画提案により、都市計画審議会に付議され、行政決定がなされることになります。

第一種市街地再開発事業を定める都市計画決定に続き、都市再開発法11条1項により、市街地再開発組合(準備組合に対して、本組合と呼ばれます)の定款と事業計画案が策定され、認可申請が行われますが、この時にも都市再開発法14条1項で、区域内住民の人数と面積で3分の2以上の同意が必要とされています。

都市再開発法11条(認可)

1項 第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。

2項 前項に規定する者は、事業計画の決定に先立つて組合を設立する必要がある場合においては、同項の規定にかかわらず、五人以上共同して、定款及び事業基本方針を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。

3項 前項の規定により設立された組合は、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて事業計画を定めるものとする。

4項 第七条の九第二項の規定は前三項の規定による認可に、同条第三項の規定は第一項又は第二項の規定による認可について準用する。この場合において、同条第二項中「施行地区となるべき区域」とあるのは、「施行地区となるべき区域(第十一条第三項の規定による認可の申請にあつては、施行地区)」と読み替えるものとする。

5項 組合が施行する第一種市街地再開発事業については、第一項又は第三項の規定による認可をもつて都市計画法第五十九条第四項の規定による認可とみなす。第七条の九第四項ただし書の規定は、この場合について準用する。

第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)

1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。

2項 第七条の二第五項の規定は、前項の規定により同意を得る場合について準用する。

事業計画案には、再開発ビル(施設建築物)の延床面積や、専有面積や、総事業費や、参加組合員分担金などの資金計画も定められ、地権者が取得する権利床と、参加組合員が取得する保留床の割合が定められることになります。区域内地権者にとっては自分達が取得できる床面積の総計が決まってしまう重大な場面ですが、この時の手続きにおいても多数決によって区域内住民の意思が反映されていることになります。やはり区域内地権者の3分の2以上の多数決が必要であり、3分の1を超える反対意見があると進めることができない仕組みになっています。

(3)権利変換計画の策定手続き

本組合設立後、再開発組合では、再開発ビルの詳細設計を進めると同時に、地権者が具体的にどこの部屋の権利を割り当てられるのか、意向確認や調整などが行われ、権利変換計画案が作成されます。

※権利変換計画書の様式はこちらを御確認下さい

https://www.shinginza.com/kenrihenkan.pdf

権利変換計画書の記載事項は都市再開発法73条に規定されていますが、これを策定する場合には、都市再開発法30条8号で、再開発組合の総会で過半数の決議が必要です。

都市再開発法第30条(総会の決議事項)

次の各号に掲げる事項は、総会の議決を経なければならない。

一 定款の変更

二 事業計画の決定

三 事業計画又は事業基本方針の変更

四 借入金の借入れ及びその方法並びに借入金の利率及び償還方法

五 経費の収支予算

六 予算をもつて定めるものを除くほか、組合の負担となるべき契約

七 賦課金の額及び賦課徴収の方法

八 権利変換計画

九 事業代行開始の申請

十 第百三十三条第一項の管理規約

十一 組合の解散

十二 その他定款で定める事項

また、法定要件ではありませんが、多くの再開発組合では、権利変換計画案の認可申請時に3分の2以上の多数の同意書を添付して申請が行われることが多くなっています。これは、再開発会社が施行者となる再開発事業における都市再開発法50条の4第1項の要件を事実上踏襲しているものと思われます。この同意書は実務上印鑑証明書付きで集められています。

都市再開発法50条の4(宅地の所有者及び借地権者の同意)

1項 第五十条の二第一項の規定による認可を申請しようとする者は、規準及び事業計画について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。

2 第七条の二第五項の規定は、前項の規定により同意を得る場合について準用する。

権利変換計画には、個々の地権者の従前資産評価額と、割り当てられる再開発ビルの従後床面積や部屋番号が特定されており、地権者にとって重大な利害関係のあるものですが、この時の手続きにおいても多数決によって区域内住民の意思が反映されていることになります。

以上のようにして、区域内住民主導の民間再開発である第一種市街地再開発事業においては、手続きの節目ごとに区域内地権者の多数決要件が定められており、全て多数決の意思確認によって進められる手続きであることが分かります。自分たちの不動産の従前資産評価額や、保留床処分価格や、権利床と保留床の割合など、再開発事業の主要事項について、不満がある、変更したいということであれば、これらの多数決意思決定の場面で、議決権を行使して、原案の修正を求めていくことが必要になります。

上記の都市計画案や、事業計画案や、権利変換計画案は、準備組合や本組合の事務局と、区域内住民代表者である組合理事(通常20名以内)が共同して策定していくものです。この意思決定が密室内で行われ、一部の地権者や参加組合員のみ優遇しているものであると批判されることがあります。これらの原案に反対であれば、区域内地権者の有志が、準備組合や本組合とは別の組織を形成して、意見を提出していくことが必要となります。

3、反対運動の組織

以上のように、第一種市街地再開発事業は、区域内住民の一部が不動産デベロッパーと共同して進めていく手続きですが、この計画に反対であれば、区域内地権者が別の団体を組織して、意見を取りまとめて、手続きを進めている準備組合や本組合に対して具体的に提言していくことが必要です。通常、個別の地権者が準備組合や本組合に対して意見を述べても、手続きの趨勢に一切影響しないため、黙殺ないし無視されてしまうことになってしまいます。

反対運動は、もちろん個々の権利者の行動による運動ですが、準備組合に対抗するためには、再開発の「第二組合」や、「権利能力なき社団」の形式で社団を形成して意見集約していく必要があります。

組合契約・・・ 準備組合や本組合と同じで、定款を作成し、理事会や総会を組織し、会計を整備して運営していくことになります。

民法667条(組合契約)

1項 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。

2項 出資は、労務をその目的とすることができる。

権利能力なき社団・・・ 学生サークルや町内会のような法人格を取得しない会合のことで、法令の根拠がありませんが、民事訴訟法29条で裁判の当事者能力が認められ、判例でも規約が整備された団体に一定の行為能力を認めています。上記の組合と同じで、定款を定め、代表者や役員の選出方法や、総会における多数決の原理や、会計の方法などが明確化されていればよいことになります。

最高裁判所昭和39年10月15日判決

『法人格を有しない社団すなわち権利能力のない社団については、民訴四六条(引用者注、現行民訴法29条)がこれについて規定するほか実定法上何ら明文がないけれども、権利能力のない社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならないのである。しかして、このような権利能力のない社団の資産は構成員に総有的に帰属する。そして権利能力のない社団は「権利能力のない」社団でありながら、その代表者によつてその社団の名において構成員全体のため権利を取得し、義務を負担するのであるが、社団の名において行なわれるのは、一々すべての構成員の氏名を列挙することの煩を避けるために外ならない(従つて登記の場合、権利者自体の名を登記することを要し、権利能力なき社団においては、その実質的権利者たる構成員全部の名を登記できない結果として、その代表者名義をもつて不動産登記簿に登記するよりほかに方法がないのである。)。』

民事訴訟法29条(法人でない社団等の当事者能力) 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。

このようにして組織された反対運動団体は、定期的に会報を作成配布し、役員会や総会を開催し、意見集約した成果を、再開発準備組合や本組合や行政に対して届け出していくことになります。

4、区域内運動の事例

区域内地権者が手続きの瑕疵を主張して権利変換計画の取り消しを求めた裁判例で、請求棄却されたものがありますが、その中で、当事者の主張部分ではありますが区域内運動の様子が分かるものがございますので御紹介したいと思います。区域内運動の内容を箇条書きで御紹介致します。これは裁判所の事実認定を経たものではなく、あくまで当事者の主張部分を御紹介するものです。

※東京地裁昭和60年9月26日権利変換処分取消請求事件判決

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=35879

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/879/035879_hanrei.pdf


・都道府県知事が施行者となって第一種市街地再開発事業が計画され、再開発事業の都市計画決定がなされた。

・これに対し、区域内の地元商店街は、この事業の計画に対応すべく〇〇地区再開発対策会を結成し、事業の遂行について地元商店街の窓口として施行者(都道府県)と折衝を重ねるなどしてきた。

・対策会の活動は、対策会役員の地位を独占する特定の者達にとつて都合の良いように進められてきたという主張があった。

・対策会の役員は、権利変換の処分により入居する権利者が少なければ少ないほど自己の権限を思うように行使して自己の利益を追求できると考え、なるべく多くの地元権利者を追い出そうとした。このため、右グループは対策会として再開発ビル完成後の駐車場の申込みを受け付けると称して地元権利者の家を廻り、一台分四五〇万円という法外な値段を呈示し、また、再開発ビルの管理は対策会が行うと称して管理費は一坪一万円はかかると吹聴したため、地元権利者のうちかなりの数の者が再開発ビル入居後の生活設計に不安をいだいて、施行者の先行買収に応じ地域外に移転していった。

・対策会役員グループの運営方法は、専ら同グループに属する者の利益を図る目的に出たものであつて、形式上、会合を開くものの、彼らの意に沿わぬ出席者に対しては本件事業についての情報は全く知らせなかつたし、彼らの意に反する発言をする者に対しては威圧的にそれ以上の発言を封じるなどした。

・会員の意思に基づく投票による役員改選が行われ、その結果Dが新会長に当選した。するとAらは同原告宅を訪れ、ささいなことを取り上げて会長辞任を迫り、同原告がこれを拒否するや翌五二年二月対策会総会において対策会の解散を決議させるに至つた。Aらはその上で同月中旬ころ原告ら及び他のかなりの数の権利者を排除し約一五名の権利者をもつて入居促進会なるものを結成し Aがその会長となつた。

・そして、その後右入居促進会の名称を再び〇〇地区再開発対策会と変更し地元権利者を代表するとして被告側と交渉に当たるようになつた。このため、原告らは〇〇年〇月以降本件事業計画の進行については何ら知らされずに推移した。

・〇〇年ころ対策会内部にシヨツピングセンター研究会(SC会)を設置し、再開発ビルの店舗部分の配置計画案作成に乗り出し、これとともに、対策会は、〇〇年〇月Nを店舗配置設計のコンサルタントとして参画させるよう被告に要望し、被告は同年〇月ころ右要望を入れてNに対し店舗配置設計のコンサルタントを依頼した。

・SC会は当初は対策会の一部会にすぎず、実質的には役員グループが牛耳る会員わずか一〇名の組織で到底関係権利者を代表するものではなかつたにもかかわらず、次第にその権限を強化し、被告及びNとの交渉は実質的にはSC会が担当し、被告と関係権利者との間で、店舗配置設計が正式に決定される以前に、裏で実質的合意をなし、SC会のメンバーが他の権利者に先だち自己の欲する位置の店舗を取得してしまつた。

・対策会会長Aは、被告の先行買収に応じ、多額な補償と融資を得て既に施行地区外に移りクリーニング店を経営しているにも拘らず、その後施行地区内の自己のアパートの一室に極めてそまつなクリーニング受付所を設けて営業しているとの形式をととのえていたところ、被告は右Aに対し不当にも場所のよい床面積の広い店舗を権利変換計画で割り当てており、このような措置によつて右Aと原告らとの間に不均衡を生じさせていた。

・対策会の他、本件事業の実施そのものに反対する者約三〇名で構成する〇〇共栄会との二派に分かれて、本件都市計画に対処する住民団体が結成された。そして、二つの会は、それぞれの会の設立の趣旨に沿つた申入れを被告に行つた。

・被告は、〇〇年〇月から測量調査をはじめとして各種調査を行い、〇〇年〇月には第一回の権利変換の試算発表を行つた。これと併行して、〇〇年当初に「公共事業の施行に伴う移転資金貸付条例」の制定により、再開発事業にもこれが適用されることになつたことから、都市計画法五六条に基づく土地の買取り申出をする関係権利者が多数にのぼり、〇〇年度までに八七件(八六二〇平方メートル、施行地区内の民有地の約七五・七パーセント)の先行買収を行つた。この先行買収により本件事業の実施そのものに反対していた共栄会の構成員たる権利者のほとんどが、本件事業区域外に転出し、事実上右会は〇〇年度で消滅した。


 以上の主張は、あくまでも裁判記録の中に現れた当事者の主張部分を書き出したものですので、裁判所の事実認定を経たものではございませんので御了解下さい。ただ、実際の再開発手続きで、区域住民が様々な立場で様々な主張を行い、各自の権利を拡大させようと様々な努力をしていたことが分かります。何もしなければ原案通りに進んでしまう事は間違いありません。再開発の原案に異論がある、自分の権利を主張したいという考えがある場合は、仲間を募って意見を提出していく努力が必要になります。弁護士は区域住民ではなく法律専門家ですので、住民運動に参加することはできませんが、都市計画法や都市再開発法の手続きについて法的アドバイスをすることはできます。御心配であれば、法律専門家のアドバイスを受けながら住民活動をなさることを御検討なさって下さい。

以上

関連事例集

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参照条文
都市再開発法73条(権利変換計画の内容)

1項 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 配置設計

二 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

三 前号に掲げる者が施行地区内に有する同号の宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

四 第二号に掲げる者に前号に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びそれらの価額の概算額

五 第三号に掲げる宅地、借地権又は建築物について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する。)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

六 前号に掲げる者が施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に有することとなる権利

七 指定宅地又はその使用収益権を有する者の氏名又は名称及び住所

八 前号に掲げる者が有する指定宅地又はその使用収益権及びそれらの価額

九 第七号に掲げる者に前号に掲げる指定宅地又はその使用収益権に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地又はその使用収益権の明細及びそれらの価額の概算額

十 第八号に掲げる指定宅地又はその使用収益権について担保権等の登記に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

十一 前号に掲げる者が個別利用区内の宅地又はその使用収益権の上に有することとなる権利

十二 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について賃借権を有する者(その者が更に賃借権を設定しているときは、その賃借権の設定を受けた者)又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者から賃借権の設定を受けた者で、当該賃借権に対応して、施設建築物の一部について賃借権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

十三 前号に掲げる者に賃借権が与えられることとなる施設建築物の一部

十四 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者(その者が賃借権を設定している場合を除く。)で、当該配偶者居住権に対応して、施設建築物の一部について配偶者居住権を与えられることとなるものの氏名及び住所並びにその配偶者居住権の存続期間

十五 前号に掲げる者に配偶者居住権が与えられることとなる施設建築物の一部

十六 施設建築敷地の地代の概算額及び地代以外の借地条件の概要

十七 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要

十八 第七十九条第三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

十九 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額

二十 組合の参加組合員に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所

二十一 第五十条の三第一項第五号又は第五十二条第二項第五号(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する特定事業参加者(以下単に「特定事業参加者」という。)に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその特定事業参加者の氏名又は名称及び住所

二十二 第四号、第九号及び前二号に掲げるもののほか、施設建築敷地又はその共有持分、施設建築物の一部等及び個別利用区内の宅地の明細、それらの帰属並びにそれらの管理処分の方法

二十三 新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項

二十四 権利変換期日、土地の明渡しの予定時期、個別利用区内の宅地の整備工事の完了の予定時期及び施設建築物の建築工事の完了の予定時期

二十五 その他国土交通省令で定める事項

2項 宅地(指定宅地を除く。)について所有権又は借地権を有する者が当該宅地の上に建築物を有する場合において、当該宅地、借地権又は建築物について担保権等の登記に係る権利があるときは、これらの宅地、借地権又は建築物は、それぞれ別個の権利者に属するものとみなして権利変換計画を定めなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

一 担保権等の登記に係る権利の消滅について関係権利者の全ての同意があつたとき。

二 宅地と建築物又は借地権と建築物とが同一の担保権等の登記に係る権利の目的となつており、かつ、それらの全ての権利の順位が、宅地と建築物又は借地権と建築物とにおいてそれぞれ同一であるとき。

3項 借地権の設定に係る仮登記上の権利(指定宅地に係るものを除く。)があるときは、仮登記権利者が当該借地権を有する場合を除き、宅地の所有者が当該借地権を別個の権利者として有するものとみなして、権利変換計画を定めなければならない。

4項 宅地又は建築物(指定宅地に存するものを除く。)に関する権利に関して争いがある場合において、その権利の存否又は帰属が確定しないときは、当該権利が存するものとして、又は当該権利が現在の名義人に属するものとして権利変換計画を定めなければならない。ただし、借地権以外の宅地(指定宅地を除く。)を使用し、又は収益する権利の存否が確定しない場合にあつては、その宅地の所有者に対しては、当該権利が存しないものとして、その者に与える施設建築物の一部等を定めなければならない。