マンション専有部分の共有状態の解消

民事|共有物分割|現物分割|換価分割(競売)|代償分割(全面的価格賠償方式)|共有者共同で任意売却|最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

マンションの1室を,兄と2分の1ずつの持分で共有しております。同マンションは,父が亡くなった時の遺産分割で共有にしたのですが,元々兄が両親と一緒に暮らしていたこともあり(母は父よりも前に死去),父の死後もそのまま兄が居住しております。兄とは,父の遺産分割を巡って衝突したことで折り合いが悪く,長期間没交渉です。

私としては,マンションの持分だけ持っていても意味がないので,出来ることなら兄に私の持分を買い取って欲しいと思っています。ただ,手紙を送っても無視され,話し合いになりません。

共有物分割訴訟という方法があると聞いたのですが、どのような裁判になるのでしょうか。またこのマンションは敷地も共有となっています。マンション敷地の共有持持分も分割する必要があると思いますが、その場合、敷地の共有者である他の区分建物の区分所有者も被告とする必要があるのでしょうか。

回答:

1 持分を買い取れという請求権はありませんが、共有物分割の請求が出来ます。共有物分割請求による分割としては、解説で説明するように現物分割(対象となるものを実際に分けてそれぞれ単独所有とする)、換価分割(物を競売で売却してその代金を共有持ち分に応じて分割する)

、代償分割(共有者の一人が他の共有者の持ち分を買い取る)

の三つの方法があります。共有物分割請求訴訟は,「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき」に提起できるとされている(民法258条1項)ことから,少なくとも,協議の申入れをした記録は保管しておくべきです。まずは、お兄さんに協議を申し出る手紙を送って、それでもお兄さんからの反応がなければ,共有物分割請求訴訟を提起することになります。

2 共有物の分割について三つの方法の内、具体的にどの方法によるかは、裁判所が判断することになります。マンションの1室は現物分割に馴染まないため,訴訟提起すれば,代償分割(全面的価格賠償方式)または換価分割のいずれかを命じる判決が言い渡されることになります。

最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁によれば,①分割方法を判断するにあたっては「共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮」すること,②全面的価格賠償の方法によるためには「共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情」が要求されること,の2点が読み取れます。

本件では、お兄さんはマンションに住んでいるということですから、一般的にはお兄さんが、あなたの持ち分を買い取る(代償分割)というのが妥当な結論といえます。しかし、資力がない、あるいはお金を出したくないという場合は、無理やりお兄さんに買い取らせることはできませんので、逆にあなたがお兄さんの持ち分を買い取るか、競売で売却して代金を分割するかいずれかの方法を定める判決が下されることになります。あなたが買い取っても、お兄さんを立ち退かせるという問題が残りますし、競売では、代金が相場より安くなってしまいますし、やはりお兄さんの立ち退きという問題も残り最終的な解決にはなりません。そのため、裁判所が、お兄さんを説得して何らかの最終的な解決(お兄さんに買い取らせる、あるいは一緒に売却する)となる和解案による解決を提案し、双方それに応じるという解決が望ましいといえます。

3 共有物分割請求訴訟は、必要的共同訴訟といって、他の共有者全員を被告とする必要があります。共有関係の解消が目的ですから共有者全員が訴訟の当事者となる必要があることは当然といえます。さらにマンション建物の共有物分割の場合、マンションが敷地権として登記されていないと、敷地も区分所有者全員の共有となっていますから、一見すると区分所有者全員を被告とする必要があるのではないかという疑問が生じます。しかし、この点については、建物区分所有者だけを被告とすれば足りる、とする裁判例があります。このような点も含め、ご自身で訴訟追行するのは容易でないことから,代理人弁護士への依頼を検討しても良いでしょう。

解説:

1 共有物分割の制度

民法は共有物の自由な分割を権利として認めています(民法256条1校本文)。所有権は物を排他的に支配する権利ですから、単独所有が原則です。何らかの事情によって共有となった場合、単独所有にする権利が共有者には認められているのです。分割の方法は,以下の3通りが考えられます。

⑴ 現物分割

まず,共有物を物理的に分けて共有状態を解消する,現物分割という方 法が挙げられます(民法258条2項)。現物分割が共有物分割の原則的形態です。

現物分割が念頭に置いているのは,基本的に土地についてです。土地は分筆登記をすることで容易に現物分割ができますが,建物は通常困難です。ただし,建物も,区分所有にする方法での現物分割という方法がないわけではありませんが(東京地判平成19年2月27日参照),本稿で詳細は割愛させていただきます。

いずれにせよ,マンションの1室を現物分割の方法で分割するのは現実的に困難といえます。

⑵ 換価分割(代金分割)

換価分割は,字義通り当該土地を売却(換価)して,その売却代金を分 割するという方法です。

共有物分割訴訟において換価分割が選択された場合は,判決で,「別紙物件目録記載の土地について競売を命じ,その売得金から競売手続き費用を控除した金額を」共有持分に従って分割するという命令が出ることになります。ここでいう競売は,債権者が弁済を受けるためのいわば実質的な競売ではないので,形式的競売(形式競売)と言います。

⑶ 代償分割(全面的価格賠償方式)

代償分割は,共有者の1人(あるいは複数人)が代償金を支払い,持分を買い取る方法です。

⑷ 小括

本件は,現物分割にはなじまないため,換価分割,あるいは代償分割を検討すべき事案です。具体的にどの方法によるかを決定するためには詳細な分析が必要です。

いずれにしても,方針決定の際には,事前に対象不動産の売却可能性,市場における査定価格,共有者であるお兄さんの経済状況(資力)を調査しておく必要があるでしょう。

2 協議による処分

⑴ 続いて,具体的な分割までの流れですが,共有物の分割の場合,必ず最 初に協議,すなわち話し合いから始める必要があります。これは,共有物分割訴訟の要件が,「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき」であるからです(民法258条1項)。いきなり訴訟を起こすことはできないことになります。

⑵ 協議による共有物分割の方法に制限はありません。どのような処分でも協議さえ整えば(合意が形成できれば)可能です。

協議の進め方は口頭でも書面でも問題ありませんが,上記のとおり協議の不調は訴訟要件ですから,協議の経過(協議があったこと,協議が不調に終わったこと)を記録に残しておくためにも,やり取りは書面で行うことが望ましいといえます。特に本件では,共有者である兄と没交渉ということですから,手紙を送ってみても返答がない,という事態も十分に予想されるところです。訴訟を見据えて,手紙の送付記録は確実に手元に残しておく必要があります。

3 訴訟による処分

⑴ 共有物分割請求訴訟の法的性質

ア 協議が整わなかった場合は,裁判手続に移行することになります。訴訟を起こす場合の管轄は,相手方である共有者の住所地(民事訴訟法4条1項)か,不動産の所在地(同法5条12号)となります。

共有物分割請求訴訟の法的性質として,固有必要的共同訴訟と呼ばれる訴訟類型であること,形式的形成訴訟であること,の2点を特色として挙げることができます。

イ 固有必要的共同訴訟

共有物分割請求訴訟は,共有者の全員が当事者となることが必要とされる,いわゆる固有必要的共同訴訟と呼ばれる訴訟類型です(大判大正12年12月17日大審院民事判例集2巻684頁)。

共有者全員の間で合一確定がされないと,紛争の解決に至らないからです。

この点,本件のように,区分所有マンションの1室の共有関係を解消しようとする場合,次の点が問題となり得ます。すなわち,敷地権化されたマンションの場合は,建物と土地の登記が一体化しているため,敷地利用権と一体となった区分所有建物(専有部分の建物)について共有物分割請求を行えば足りますが,古いマンションで敷地権化されていない場合は,建物と土地の登記が分離されている関係上,区分所有部分(建物)のみならず土地の共有持分の分割も求める必要が生じます。区分所有マンションは,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)22条1項により,規約に別段の定めがない限り,専有部分と敷地利用権の分離処分が禁止されるところ,専有部分の所有権の移転に伴い,専有部分に対応する土地の共有持分も当然に移転すると考えないと,同規定に違反する状態を生み出すことになってしまうからです。

では,敷地権化されていないマンションの場合,土地の共有持分権利者全員を被告とする必要があるのか,それとも,該当の区分所有部分に対応する土地共有持分権利者だけを被告とすれば足りるのでしょうか。1戸の専有部分に対応した土地共有持分についての共有物分割請求は,当該共有持分以外の土地共有持分権利者(他の専有部分の所有権者)との関係で,固有必要的共同訴訟の性質に反するのではないか,という問題意識です。

しかし,専有部分に対応した土地共有持分も「共有物」(民法256条1項)といえますし,マンションの1室についての共有関係を解消したい場合に,関係のない他の専有部分に対応する土地共有持分権利者全員を共同被告としなければならないというのは,明らかに訴訟不経済です。そもそも,固有必要的共同訴訟の制度趣旨は,合一確定が要請される点にあるところ,専有部分に対応した土地共有持分自体を一つの「共有物」と捉えれば,合一確定が要請されるのは,あくまでも当該専有部分に対応する共有持分権利者間だけであり,他の専有部分に対応した土地共有持分権利者は無関係といえます。

このことからすれば,該当の専有部分に対応する土地共有持分の分割を求めれば足り,他の専有部分に対応する土地共有持分権利者を共同被告とする必要はないというべきです。

なお,本件類似の事案で,専有部分に対応する土地共有持分についても,全面的価格賠償の方式での分割を認めた裁判例が存在し(東京地判平成30年9月5日),同様の考え方を採用しているものと思われます。

ウ 形式的形成訴訟

形式的形成訴訟とは,訴訟の形態を取っておきながら,裁判所に後見的な役割を認めることで,非訟事件のような性質を持ち合わせた訴訟類型です。①当事者の主張に裁判所の判断が拘束されない(弁論主義の適用がない),②裁判所は請求の棄却ができない,③控訴した場合,不利益変更禁止の原則が適用されないという特徴を有しており,共有物分割請求訴訟もこのような性質を持った形式的形成訴訟に分類されます。

共有物分割請求訴訟を提起する際に,原告は分割方法の特定を行う必要がなく,仮に特定したとしても,裁判所は当該分割方法に縛られずに,合理的な分割方法を判決で命じることができます。

とはいえ,実際の裁判実務では,裁判所が当事者の意向を無視して判決をするわけではなく,各共有者の意向を踏まえて判断をすることになりますので,不意打ちのような形で全く想定と違う分割方法が言い渡されるというような事態にはなりにくいと考えられます(ある程度の予測はできます)。

⑵ 裁判実務における判断要素について

民法は,258条2項で「共有物の現物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。」と定めるのみで,その他の分割方法についての定めはありません。

この規定からは,現物分割が競売による換価分割に優先することしか明らかになりません。

ただし,実務上は,共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし,これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法による分割(いわゆる価格賠償方式による分割)も広く認められています(最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁)。この判例は,代償分割,特に特定の1人が共有地を取得することになる全面的価格賠償という分割方法の可否について「当該共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し,当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ,かつ,その価格が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力があって,他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは,共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし,これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法による分割をすることも許される」と判示しました。

ここで重要なのは,①分割方法を判断するにあたっては「共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮」すること,②全面的価格賠償の方法によるためには「共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情」が要求されること,の2点です。

あくまでも全面的価格賠償の可否についての判断ですが,その他の分割方法についても参考になります。

⑶ 本件における裁判の進め方

本件は,現物分割にはなじまないため,代償分割(全面的価格賠償方式)または換価分割を検討すべき事案です。

代償分割については,当事者の希望と資力が重要です。共有者であるお兄さんが,持分の買取りを前提とする和解に応じるのであれば話は簡単ですが,お兄さんが買取りを拒否しているような場合,お兄さんが、単独所有を望まない、と判断され、あなたがお兄さんの持ち分を買い取るか、競売して代金を分配するかしか、裁判所としては判断するしかないことになります。

なお,代償金の金額(持分買取価格)についても,争点になる可能性があります。買い取る側は当然安く買い取ることを希望しますので,固定資産税評価額を基準とした主張をしてくるでしょうし,持分を売却する側は,少しでも高い金額での売却を実現するため,簡易査定や鑑定による不動産評価を実施して立証することになるでしょう。

代償分割が困難ということになれば,裁判所としては,判決で換価分割を言い渡すことになります。ただ,判決における換価分割は,民法258条2項の競売を意味します。競売による売却は,通常の売却と比較してある程度の減価がなされることが一般的ですから,協議による換価分割(民間の不動産会社等を通じて市場に売却する場合)と比して利益が少なくなる恐れが出てきます。そのため,訴訟の進行中,判決による換価分割が見込まれるような場合には,相手方であるお兄さんに共同での任意売却を持ちかけることも検討すべきでしょう。

以上です。

関連事例集

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参照条文

●民法

(共有物の分割請求)

第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。

2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。

第二百五十七条 前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。

(裁判による共有物の分割)

第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。

2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

≪参照判例≫

●大判大正12年12月17日大審院民事判例集2巻684頁

「共有物ノ分割ヲ為ス場合ニ於テハ各共有者ハ其ノ当事者トシテ孰レモ直接利害ノ関係ヲ有スルモノナレハ共有者中ノ或者ヲ除外シテ分割ノ手続ヲ遂行スルコトヲ得ス従テ共有物分割ノ訴ヲ提起スル者ハ他ノ共有者ノ全員ヲ被告トスルコトヲ要スルモノトス然レトモ此ノ要件ハ実体上ノ請求権ニ関スルモノナルヲ以テ訴訟ノ適法要件ニ属セス私権保護ノ要件ニ属スルモノト解スヘキモノニシテ私権保護要件ノ存否ハ口頭弁論終結当時ヲ標準トシテ之ヲ決スヘキモノトス原裁判所ハ論旨摘載ノ如キ理由ヲ以テ本件ノ訴ヲ不適法トシテ却下シタレトモ両訴ハ其ノ併合前ニ於テ孰レモ共有者中ノ或者ヲ被告ト為ササルヲ以テ私権保護条件ヲ具ヘサレトモ之ヲ不適法ト為スコトヲ得ス而シテ裁判所カ両訴ヲ併合シタル結果本件共有物分割ノ訴ニ於テハ共有者全員カ其ノ当事者トナレルヲ以テ其ノ併合ノ訴ハ前記私権保護要件ヲ具備スルニ至リタルモノト為ササルヘカラス然ラハ本件ノ訴ニ付テハ直ニ之ヲ不適法ノモノ若ハ私権保護要件ヲ具ヘサルモノトシテ之ヲ却下スルコトヲ得サルモノナリ然ルニ原判決カ之ヲ不適法トシテ却下シタルハ違法ニシテ全部破毀ヲ免レス」

●東京地判平成30年9月5日

主 文

1 別紙物件目録1,2記載の各土地に係る原告及び被告の持分並びに同目録3記載の建物を次のとおり分割する。

(1)別紙物件目録1,2記載の各土地に係る原告及び被告の持分並びに同目録3記載の建物を原告の所有とする。

(2)被告は,原告に対し,別紙物件目録1,2記載の各土地に係る被告持分10000分の203及び同目録3記載の建物に係る被告持分2分の1について,それぞれ共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。

(3)原告は,被告に対し,1990万円を支払え。

2 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 別紙物件目録1,2記載の各土地に係る被告持分を原告の持分とし,同目録3記載の建物を原告の所有とする。

2 被告は,原告に対し,別紙物件目録3記載の建物及び同目録1,2記載の各土地に係る被告持分について,それぞれ共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。

第2 事案の概要

本件は,元妻である原告が,元夫である被告との共有に係る区分所有建物及びその敷地持分について,被告に対し,民法258条に基づく共有物分割請求として,原告がこれらを単独で取得して被告の持分の価格を賠償するという,いわゆる全面的価格賠償の方法により分割するのが相当であるなどと主張して,その旨の共有物分割を求める事案である。

1 事実関係

原告の陳述書(甲17)その他後掲各証拠(枝番のある書証は,各枝番を含む。)等によれば,次の事実が認められる。

(1)原告(昭和56年○月○○日生)は,平成21年2月16日,中国の国籍を有する被告(昭和56年○月○○日生。その当時の氏名「C」)と婚姻し,平成22年○○月○○日,長女をもうけた。その後,被告は,平成25年9月2日,日本国籍を取得した。(弁論の全趣旨)

(2)被告は,平成25年8月20日,中古マンションである別紙物件目録3記載の区分所有建物及びその敷地である同目録1,2記載の各土地の共有持分10000分の406(以下,これらを一括して「本件マンション」という。)を買受けた。その際,被告は,上記代金3980万円のうち,3180万円を金融機関からの借入れにより調達し(以下,この借入金債務を「本件住宅ローン」という。),原告は,本件住宅ローンについて連帯保証をした。(甲7,8,弁論の全趣旨)

(3)その後,原告と被告は,本件マンションにおいて婚姻共同生活を送っていたが,平成28年11月15日,長女の親権者を母である原告と定めて離婚した。原告と被告は,上記離婚の際に取り交わした公正証書をもって,被告が原告に対して長女の養育費として同月から長女が満20歳に達する月まで1か月10万円を支払うとともに,長女が大学に入学する際の入学金及び大学在学中の学費は,原告と被告が折半して負担すること,被告が原告に対して財産分与として本件マンションに係る被告持分の2分の1を分与すること,本件住宅ローンに係る各月の弁済資金については,原告が1万円を,被告が残額全部を負担すること(ただし,長女が大学を卒業する月の翌月からは,原告と被告が折半して負担すること)などを合意した。本件マンションは,上記財産分与により,原告と被告において,別紙物件目録3記載の建物につき持分2分の1ずつ,同目録1,2記載の各土地につき,持分10000分の203ずつ共有する状態となり,その旨の登記がされた。(甲1ないし3)

(4)被告は,上記離婚に伴い,本件マンションに原告と長女を残して他所に転居したが,その後,原告との連絡を絶ち,長女の養育費も平成29年3月分から支払わなくなったほか,本件住宅ローンに係る弁済金についても同年4月分から支払わなくなったことから,それ以降,原告が,被告に代位して,その支払を行っている(同年10月末日時点の本件住宅ローンの残高は,2839万6886円である。)。(甲9,10,15,弁論の全趣旨)

(5)そこで,原告は,弁護士を通じて,被告の所在について調査した結果,被告が中国に出国した後,日本に帰国していないことが判明した。その上で,原告は,平成29年11月9日,本件訴訟を提起したところ,被告は,中国上海市の住所地に宛てて実施された領事館送達により適式の呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しない。(甲4ないし6,顕著な事実)

2 当事者の主張

(原告の主張)

原告は,現在も長女と共に本件マンションに居住しているが,本件住宅ローンについて,被告が分割弁済金を支払わなくなったことから,本件マンションについて競売が実施されることにより住居を失う事態となることを避けるため,連帯保証人である原告が被告に代位してこれらの支払をしているところ,これまで被告から一切連絡がないことを踏まえると,今後も原告においてその支払を継続しなければならない可能性が高い。これらによると,本件マンションについては,原告が単独でこれを取得し,被告の持分の価格を賠償するという全面的価格賠償の方法により,分割をするのが相当である。

この点,本件マンションの価格は,その購入時から変動がないとすると,購入代金に相当する3980万円となるが,他方で,被告は,次のとおり,原告に対して債務を負担しているところ,上記分割による価格賠償の額を算定するに当たっては,被告が原告に対して負担している上記債務を控除すべきであり,その債務額は,被告の持分の価格を上回るから,価格賠償の額は0円とするのが相当である。

(1)本件住宅ローンの残高(平成29年10月末日時点) 2839万6886円

(2)本件住宅ローンの代位弁済による求償金(平成29年4月分から同年10月分まで) 57万7195円

(3)未払養育費(平成29年3月分から同年10月分まで) 80万円

(4)将来養育費(平成29年11月分から平成42年12月分まで) 1580万円

(5)大学学費 250万円

(6)立替登記費用 15万6516円

(7)立替固定資産税 10万8500円

第3 当裁判所の判断

1 共有物分割の申立てを受けた裁判所としては,当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ,かつ,その価格が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力があって,他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても,共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは,共有物を共有者のうちの一人の単独所有とし,これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる,いわゆる全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されると解する(最高裁平成3年(オ)第1380号平成8年10月31日第一小法廷判決・民集50巻9号2563頁参照)。

2 これを本件についてみると,前記認定に係る従前の経過,本件マンションの利用状況,原告の意向及び被告の対応等に照らすと,本件マンションについては,今後も被告に代わって本件住宅ローンを返済しながら養育すべき子と共に居住することが見込まれる原告に単独取得させるのが相当であることは明らかである。本件マンションの適正な価格は,被告がこれを購入した際の代金3980万円を上回るというべき事情は見当たらず,同額をもって評価すれば,その持分を失うことになる被告に不利益はないものと認められる。他方、前記認定事実によれば,被告は,子の養育費や本件住宅ローンに係る弁済金の支払を怠っているものであり,今後もこれらの支払を継続することは見込まれないところ,原告に対し,将来にわたりこうした養育費や本件住宅ローンの代位弁済による求償債務が継続して発生するとともに,本件住宅ローンの残債務についても,被告において分割弁済金の支払を怠ることにより期限の利益を失うことになれば,連帯保証人である原告から事前求償を受けるべき地位にあるところ,このうち本件住宅ローンに係る求償の範囲が原告の負担部分(子の大学卒業までは1か月1万円)を超える部分に限られるとしても,これらの総額は,被告の持分に係る価格賠償の額を優に上回るものである。そうすると,原告は,将来にわたり被告に対して取得する上記各債権を自働債権として,その履行期到来の都度順次相殺することにより,被告に対する価格賠償債務を消滅させることができる地位にあるから,別途その支払能力を考慮する必要はないと解するのが相当である。

3 これらの事情を考慮すると,本件マンションについては,原告に単独取得させて,被告の持分の価格を賠償させるという全面的価格賠償の方法により分割するのが相当である。

4 この点,原告は,被告が原告に対して子の養育費や本件住宅ローンに係る求償債務等を負担しているところ,被告の持分に係る価格賠償の額を定めるに当たっては,これらの債務を控除すべきであり,その債務額は,被告の持分の価格を上回るものであるから,価格賠償の額は0円となると主張する。しかし,共有物分割において持分を取得する者が,持分を失う相手方に対して反対債権を有するとしても,前記のとおり,その履行期が到来した後に,共有物分割に係る判決の確定により相手方が取得することとなる価格賠償請求権と対当額で相殺しうるにとどまり,当該共有物分割訴訟において,相手方の持分に係る価格弁償の額を定めるに当たり,その額から相手方に対して有する反対債権の額を当然に控除すべき根拠はないのであり,原告の上記主張は失当である。

5 よって,本件マンションについて,これを原告の単独所有とした上で,原告に対し,被告の持分に係る価格賠償として1990万円を被告へ支払うよう命ずるとともに,被告に対し,共有物分割を原因とする原告への持分全部移転登記手続をするよう命じることとし(なお,前記事情に照らすと,上記の価格賠償金の支払と持分移転登記手続は,引換給付としないのが相当であると思料する。),訴訟費用の負担については,判決と請求との対比のほか,事案の内容等を考慮して,2分の1ずつの負担とすることとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第12部

裁判官 井出弘隆

●最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁

上告代理人二村満、同宮前隆文の上告理由について

一 民法二五八条二項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規定している。ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。

そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法(以下「全面的価格賠償の方法」という。)による分割をすることも許されるものというべきである。

二 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係の概要及び記録によって認められる本件訴訟の経過等は、次のとおりである。(1)第一審判決添付物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、登記簿上の地目はため池であるが、現況は草が繁茂している土地である。(2)本件土地は被上告人と上告人らの共有であって、その持分は、被上告人が二二八分の二二三、上告人らが各二二八分の一であり、登記簿上の面積一四六四平方メートルを基準にすると、上告人らの持分に相当する土地の面積は各六・四二平方メートルである。(3)被上告人は、上告人らとの間の分割協議が調わなかったため、本件土地の共有物分割等を求める本件訴えを提起し、本件土地の分割方法として、自らが本件土地を単独で取得する全面的価格賠償の方法による分割を希望している。(4)これに対し、上告人らは、その持分の合計に相当する部分の土地を上告人らの共有のままで残し、その余の部分の土地を被上告人の単独所有とする現物分割を希望している。(5)本件土地の価格の鑑定を依頼された不動産鑑定士は、平成六年六月二〇日時点における本件土地の価格について、近隣地域の類似地の取引事例との比較、公示価格との規準等を考慮し、一平方メートル当たり二万九七〇〇円(上告人らの持分に相当する価格は各一九万一〇〇〇円)と評価しており、右の評価が不合理であることをうかがわせる事情は存しない。

右の事実関係等によれば、上告人らの持分に相当する土地は、面積の合計が三二・一平方メートルにすぎず、本件土地の所在する場所等も併せ考えると、土地としての社会的、経済的効用が乏しいものといわなければならない。他方、持分の大部分を有する被上告人は、本件土地を競売に付することなく、自らがこれを単独で取得する全面的価格賠償の方法による分割を希望しているのであって、これらの事情を考慮すると、本件土地をすべて被上告人に取得させるのが相当であると認められる。そして、本件土地の価格は適正に評価されており、また、上告人らに支払われるべき賠償金の額からして、その履行が困難であるとは考えられないから、価格賠償の方法によっても共有者間の実質的公平が害されるおそれはないものと認められる。

そうすると、本件については全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情が存するものというべきであって、原審が、本件土地について現物分割又は競売による分割の方法を採ることなく、本件土地を被上告人の単独所有とした上、被上告人に対し、前記の評価額に従って上告人らの持分の価格の賠償を命ずべきものとしたことに、分割方法の決定についての裁量の範囲の逸脱があるということはできない。

三 以上によれば,所論の点に関する原審の認定判断は、いずれも正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、これと異なる見解に立って原審の右判断における法令の解釈適用の誤り及び原審の裁量に属する分割方法の決定の不当をいうか、又は原審の専権に属する事実の認定を非難するものであって、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。