再開発の税金
民事|再開発|租税特別措置法|所有権、賃借権等売却に関する5000万円控除の5要件
目次
質問:
都市再開発法に依る再開発手続きの区域内で建物を賃借して居住しています。手続きでは再入居を選択し、5年間の仮住まいを経て戻って来る予定です。先日、通損補償金の提示を受けました。確かに金額はある程度大きくなりますが、これは5年間の賃料や転居費用などが含まれているので、自分としては利益があるという気持ちではありません。これを受け取った場合、多額の税金を支払わなければならないのでしょうか。5千万円の控除が受けられる場合もあると聞きましたがどういう制度なのでしょうか。
回答:
1、再開発の建て替え手続きは、都市の防災機能や商業機能を高めるという公益目的から「都市計画事業」という公益事業として法令が整備されている区域内の一括建て替えの手続きです。特定の期日に一括で権利が移動する権利変換という仕組みを用いて建て替えが進行しますので、土地建物の権利が転出の場合でも、再入居の場合でも移動することになります。建て替えに伴う損失補償(都市再開発法97条1項)も、明け渡しの前に一括で受領することになります。税金が建て替えの支障にならないように税務上も様々な手当てが用意されています。
2、再開発における補償金の課税区分の一般的な考え方を説明します。土地建物や借家権などの権利を譲渡する対価として補償金を受領した場合は、譲渡所得として取り扱われます。ご相談では、再入居ということですから、権利の譲渡とはなりませんから譲渡所得は発生しません。
転居費用を受領し、実際に移転費用に支出した場合は、その支出した額については各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されませんが、転居費用が残った場合は、一時所得として総所得金額に算入されます(但し、自分の努力で転居費用が安くなったということであれば所得は発生しないとも考えられます)。再入居の場合、再建築後の建物への転居費用も補償されますが、それについては、支払は建物完成後になりますから、申請すれば、建物完成後に申告することが出来ます。
家賃については従前の家賃と転居先の家賃の差額が保障されますが、損失の補填を受けただけですので収入にならず、税金は発生しないのは、交通事故などの賠償金を受領した時と同じです。仮に転居後の実査の家賃が従前より安くなったとしても、それは損失の補償の範囲内で所得という扱いにはなりません。
3、補償金の5千万円特別控除は、租税特別措置法33条の4(個人)と65条の2(法人)で規定されているもので、土地建物や借家権を譲渡した対価を受領した場合に、対価補償金から取得費を控除した課税対象額から最大で5千万円を控除できるとする制度です。控除を受けるには組合が発行する証明書を添付して確定申告する必要があります。
4、なお、本稿は作成時点における弁護士事務所の一般的見解を記事にしたものです。具体的事件の取り扱いについては、所轄税務署と税務申告代理人の税理士と協議なさって手続きなさるようお願い致します。
5、最後にアドバイス致します。再開発手続きの権利変換を受けるかどうか、補償金の内容に合意するかどうかは、再開発の権利者として最も重要な意思決定になります。税金の控除が受けられるかどうかも重要なことですが、副次的な事項と考えるべきでしょう。これのみを原因として前記の意思決定をすることは本末転倒と言えます。本当にその権利変換や補償内容で良いのかどうか、現実の移転に不足が無いかどうか、経験のある弁護士にも御相談なさった上で意思決定なさることをお勧めいたします。
6、都市再開発に関する関連事例集参照。
解説:
1、再開発事業と税金
都市再開発法1条では「この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。」と規定されています。駅前密集地など、市街地の土地建物は、勿論私有財産制のもとで各個人や法人の財産権の対象となっているものですが、他方で、木造密集地が、いつまでたっても建て替えが進まず、細い路地がなかなか太くならなかったりすると、消防車が通ることもできず、また、大地震の際に、建物が倒壊したり火災の延焼が起きて、近隣住民の生命財産の危険を生じる恐れもあります。また、都市計画の改定により、市街地の発展に伴って容積率の緩和措置などが定められたとしても、個々の権利者の自己判断に任せていてはいつまで経っても建物の建て替えが進まず、駅前の商業機能を高めることができず、区域内住民全体の経済振興の障害になってしまうこともあります。
このような事情のもとで都市再開発法では、個々の地権者の任意の建て替え手続きや(全員同意)、建物の区分所有法の建て替え決議のような5分の4の多数決要件(区分所有法62条1項)によることなく、公益性が認められる事情がある場合に、都市計画審議会の答申を経て、区域内地権者の3分の2以上の同意があれば、行政の認可手続きを得ることにより、区域内の一括建て替えを可能としているのです。区域内地権者の発議による再開発組合が施行者となる第一種市街地再開発事業では、権利変換手続きにより、権利変換期日に、土地と建物の権利が一括して移動する法的効力を与えています。
都市再開発法87条(権利変換期日における権利の変換)1項 施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。この場合において、従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。
都市再開発法6条1項 市街地再開発事業の施行区域内においては、市街地再開発事業は、都市計画事業として施行する。
このように、公益性のある再開発事業は、都市計画事業として施行されることが法定されています。
都市計画法1条 この法律は、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。 都市計画法4条15項 この法律において「都市計画事業」とは、この法律で定めるところにより第五十九条の規定による認可又は承認を受けて行なわれる都市計画施設の整備に関する事業及び市街地開発事業をいう。
都市計画事業とは、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることにより、国土の均衡ある発展と公共の福祉を増進するために行われる、公益事業としての都市整備事業です。既存の建物を取り壊して、既存の道路区画も整理統廃合して、新たな建物や道路を整備することができます。都市計画事業では、土地収用法の手続きが援用されていますので、強制収用の手続きが認められている公共事業ということになります(都市計画法69条、土地収用法3条)。
このような公益性のある都市計画事業として施行される市街地再開発事業を円滑に進めるために、税金の課税関係が再開発手続きの支障となってしまわないように、税法上も様々な手当が施されています。主なものを御紹介致します。
(1)権利変換における権利移転の取り扱い
租税特別措置法33条の3第2項で、権利変換で従前資産を失い、再開発ビルを取得しても、「譲渡が無かったもの」とみなされますので、課税関係は発生しません(譲渡所得税の申告も不要です)。
租税特別措置法33条の3第2項 個人が、その有する資産につき都市再開発法による第一種市街地再開発事業が施行された場合において当該資産に係る権利変換により施設建築物の一部を取得する権利若しくは施設建築物の一部についての借家権を取得する権利及び施設建築敷地若しくはその共有持分若しくは地上権の共有持分(当該資産に係る権利変換が同法第百十条第一項又は第百十条の二第一項の規定により定められた権利変換計画において定められたものである場合には、施設建築敷地に関する権利又は施設建築物に関する権利を取得する権利)若しくは個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権を取得したとき、又はその有する資産が同法による第二種市街地再開発事業の施行に伴い買い取られ、若しくは収用された場合において同法第百十八条の十一第一項の規定によりその対償として同項に規定する建築施設の部分の給付(当該給付が同法第百十八条の二十五の三第一項の規定により定められた管理処分計画において定められたものである場合には、施設建築敷地又は施設建築物に関する権利の給付)を受ける権利を取得したときは、第二十八条の四、第三十一条若しくは第三十二条又は所得税法第二十七条、第三十三条若しくは第三十五条の規定の適用については、当該権利変換又は買取り若しくは収用により譲渡した資産(当該給付を受ける権利とともに補償金等を取得した場合には、当該譲渡した資産のうち当該補償金等の額に対応する部分以外のものとして政令で定める部分。次項及び次条第一項において「旧資産」という。)の譲渡がなかつたものとみなす。
(2)権利変換により取得する不動産の移転登記の登録免許税
登録免許税法5条7号で非課税とされます。登記申請手続きも組合が代行します。
登録免許税法5条7号 都市再開発法(昭和四十四年法律第三十八号)第二条第一号(定義)に規定する市街地再開発事業、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法(昭和五十年法律第六十七号)第二条第四号(定義)に規定する住宅街区整備事業又は密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(平成九年法律第四十九号)第二条第五号(定義)に規定する防災街区整備事業の施行のため必要な土地又は建物(当該住宅街区整備事業に係る土地又は建物にあつては、大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法(平成元年法律第六十一号)第十七条(大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法の特例)の規定により大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法第二条第一号に規定する大都市地域とみなされる区域内にある土地又は建物を除く。)に関する登記(政令で定めるものを除く。)
(3)不動産取得税
従前資産評価額について権利変換により土地建物を取得した場合は不動産取得税が非課税となります。
地方税法73条の14第7項 都市再開発法(昭和四十四年法律第三十八号)第七十三条第一項第二号若しくは第七号に規定する者又は同法第百十八条の七第一項第二号(同法第百十八条の二十五の三第三項の規定により読み替えて適用される場合を含む。)に規定する者が同法による市街地再開発事業の施行に伴い同法第七十三条第一項第三号若しくは第八号に規定する宅地、借地権若しくは建築物若しくは指定宅地若しくはその使用収益権又は同法第百十八条の七第一項第三号(同法第百十八条の二十五の三第三項の規定により読み替えて適用される場合を含む。)に規定する宅地、借地権若しくは建築物(第二号において「従前の宅地等」という。)に対応して与えられる不動産を取得した場合における当該不動産の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については、当該不動産の価格から、当該不動産の価格に第一号に掲げる金額に対する第二号に掲げる金額の割合を乗じて得た金額を控除するものとする。一 次に掲げる価額(都市再開発法第百三条第一項又は第百十八条の二十三第一項(同法第百十八条の二十五の三第三項の規定により読み替えて適用される場合を含む。次号において同じ。)の規定により確定した価額をいう。以下この号において同じ。)の合計額
イ 都市再開発法第七十三条第一項第四号に規定する施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の価額
ロ 都市再開発法第七十三条第一項第九号に規定する個別利用区内の宅地又はその使用収益権の価額
ハ 都市再開発法第百十八条の七第一項第三号に規定する建築施設の部分の価額
ニ 都市再開発法第百十八条の二十五の三第三項の規定により読み替えて適用される同法第百十八条の七第一項第三号に規定する施設建築敷地又は施設建築物に関する権利の価額
二 従前の宅地等の価額(都市再開発法第七十二条の権利変換計画において定められ、又は同法第百十八条の二十三第一項の規定により確定した価額をいう。)の合計額
(4)収用等の場合の5000万円の特別控除の特例(租措33条の4)
道路や空港整備などで土地を提供した土地収用の場合に認められている5千万円までの譲渡所得控除が、市街地再開発事業でも認められています。土地、建物の他、借家権を譲渡する場合の対価補償金から控除することができます。
租税特別措置法33条の4(収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除)1項 個人の有する資産で第三十三条第一項各号又は第三十三条の二第一項各号に規定するものがこれらの規定に該当することとなつた場合(第三十三条第四項の規定により同項第一号に規定する土地等、同項第二号若しくは第三号に規定する土地の上にある資産若しくはその土地の上にある建物に係る配偶者居住権又は同項第四号に規定する権利につき収用等による譲渡があつたものとみなされた場合、前条第三項の規定により旧資産又は旧資産のうち同項の政令で定める部分につき収用等による譲渡があつたものとみなされた場合及び同条第五項の規定により防災旧資産のうち同項の政令で定める部分につき収用等による譲渡があつたものとみなされた場合を含む。)において、その者がその年中にその該当することとなつた資産のいずれについても第三十三条又は第三十三条の二の規定の適用を受けないとき(同条の規定の適用を受けず、かつ、第三十三条の規定の適用を受けた場合において、次条第一項の規定による修正申告書を提出したことにより第三十三条の規定の適用を受けないこととなるときを含む。)は、これらの全部の資産の収用等又は交換処分等(以下この款において「収用交換等」という。)による譲渡に対する第三十一条若しくは第三十二条又は所得税法第三十二条若しくは第三十三条の規定の適用については、次に定めるところによる。
一 第三十一条第一項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から五千万円(長期譲渡所得の金額のうち第三十三条の四第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が五千万円に満たない場合には、当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額(」とする。
二 第三十二条第一項中「短期譲渡所得の金額(」とあるのは、「短期譲渡所得の金額から五千万円(短期譲渡所得の金額のうち第三十三条の四第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が五千万円に満たない場合には、当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額(」とする。
三 所得税法第三十二条第三項の山林所得に係る収入金額から必要経費を控除した残額は、当該資産の譲渡に係る当該残額に相当する金額から五千万円(当該残額に相当する金額が五千万円に満たない場合には、当該残額に相当する金額)を控除した金額とする。
四 所得税法第三十三条第三項の譲渡所得に係る収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除した残額は、当該資産の譲渡に係る当該残額に相当する金額から五千万円(当該残額に相当する金額が五千万円に満たない場合には、当該残額に相当する金額)を控除した金額とする。
(4)収用等の代替不動産取得の特例(租措33条1項)
再開発手続きにおいて都再法91条の権利変換を受けない旨の申し出を行った場合に受領する補償金により2年以内に代替不動産を取得した場合に、補償金から代替不動産価額を控除した金額までは譲渡所得税が掛からないとする特例です。これは上記の5000万円の特例とは併用できず、どちらか一方のみ適用できるものです。
租税特別措置法第33条(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例)1項 個人の有する資産(所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものを除く。以下この条、次条第二項及び第三十三条の四において同じ。)で次の各号に規定するものが当該各号に掲げる場合に該当することとなつた場合(次条第一項の規定に該当する場合を除く。)において、その者が当該各号に規定する補償金、対価又は清算金の額(当該資産の譲渡(消滅及び価値の減少を含む。以下この款において同じ。)に要した費用がある場合には、当該補償金、対価又は清算金の額のうちから支出したものとして政令で定める金額を控除した金額。以下この条において同じ。)の全部又は一部に相当する金額をもつて当該各号に規定する収用、買取り、換地処分、権利変換、買収又は消滅(以下第三十三条の四までにおいて「収用等」という。)のあつた日の属する年の十二月三十一日までに当該収用等により譲渡した資産と同種の資産その他のこれに代わるべき資産として政令で定めるもの(以下この款において「代替資産」という。)の取得(所有権移転外リース取引による取得を除き、製作及び建設を含む。以下この款において同じ。)をしたときは、その者については、その選択により、当該収用等により取得した補償金、対価又は清算金の額が当該代替資産に係る取得に要した金額(以下第三十七条の八までにおいて「取得価額」という。)以下である場合にあつては、当該譲渡した資産(第三号の清算金を同号の土地等とともに取得した場合には、当該譲渡した資産のうち当該清算金の額に対応するものとして政令で定める部分。以下この項において同じ。)の譲渡がなかつたものとし、当該補償金、対価又は清算金の額が当該取得価額を超える場合にあつては、当該譲渡した資産のうちその超える金額に相当するものとして政令で定める部分について譲渡があつたものとして、第三十一条(第三十一条の二又は第三十一条の三の規定により適用される場合を含む。第三十三条の四第一項第一号、第三十四条第一項第一号、第三十四条の二第一項第一号、第三十四条の三第一項第一号、第三十五条第一項第一号、第三十五条の二第一項及び第三十五条の三第一項を除き、以下第三十七条の八までにおいて同じ。)若しくは前条又は同法第三十二条若しくは第三十三条の規定を適用することができる。
一号 資産が土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)、河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)、都市計画法、首都圏の近郊整備地帯及び都市開発区域の整備に関する法律(昭和三十三年法律第九十八号)、近畿圏の近郊整備区域及び都市開発区域の整備及び開発に関する法律(昭和三十九年法律第百四十五号)、新住宅市街地開発法(昭和三十八年法律第百三十四号)、都市再開発法、新都市基盤整備法(昭和四十七年法律第八十六号)、流通業務市街地の整備に関する法律(昭和四十一年法律第百十号)、水防法(昭和二十四年法律第百九十三号)、土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)、森林法、道路法(昭和二十七年法律第百八十号)、住宅地区改良法(昭和三十五年法律第八十四号)、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法その他政令で定めるその他の法令(以下次条までにおいて「土地収用法等」という。)の規定に基づいて収用され、補償金を取得する場合(政令で定める場合に該当する場合を除く。)
2、補償金の課税区分
補償金を受領した場合の課税区分の一般的な考え方を説明致します。
※参照URLタックスアンサー3555番
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3555.htm
土地建物や借家権などの権利を譲渡する対価として補償金を受領した場合は、譲渡所得として取り扱われます。権利を取得してから5年以内の短期譲渡か、5年以上経過してから譲渡する長期譲渡かによって税率が変わりますが、譲渡所得税の申告を行うことになります。
事業補償や不動産賃料補償を受けた場合(収益補償金、経費補償金)は、事業所得、不動産所得又は雑所得の総収入金額に算入されます(ただし、建物の収用等を受けた場合で建物の対価補償金がその建物の再取得価額に満たないときは、収益補償金のうちその満たない部分を対価補償金として取り扱うことができます。)。営業補償を受領した場合は、営業の損失を受領しただけなのですが、それは営業収益を代替する金銭になりますので、税法上は、営業収益があったのと同じ扱いになります。
引っ越し費用などの移転補償金を受領し、実際に移転費用に支出した場合は、その支出した額については各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されませんが(所得税法44条)、補償金が残った場合は、一時所得として総所得金額に算入されます。
※所得税法44条(移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入)居住者が、国若しくは地方公共団体からその行政目的の遂行のために必要なその者の資産の移転、移築若しくは除却その他これらに類する行為(固定資産の改良その他政令で定める行為を除く。以下この項において「資産の移転等」という。)の費用に充てるため補助金の交付を受け、又は土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)の規定による収用その他政令で定めるやむを得ない事由の発生に伴いその者の資産の移転等の費用に充てるための金額の交付を受けた場合において、その交付を受けた金額をその交付の目的に従つて資産の移転等の費用に充てたときは、その費用に充てた金額は、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。ただし、その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額については、この限りでない。
※タックスアンサー1490番、一時所得の説明
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1490.htm
一時所得の課税所得=(所得額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円))÷2
3、五千万円の特別控除
上記のように、五千万円の特別控除は、再開発に伴って、区域内から転出し、土地建物所有権や、借地権や借家権を喪失した場合の譲渡所得税の軽減措置になりますので、再入居を予定している場合は適用を受けることができません。
転出する場合に権利変換を受けない旨の申し出を行って5千万円の特例を申請する場合でも、やむを得ない事情により転出していることが必要です(租税特別措置法33条1項3の2号)。
具体的に書きますと次の5条件のどれかを満たす必要があります。
一)建築物を建築した後に、都市計画法や建築基準法で用途制限が掛けられ用途制限により再入居することができない建物であったために地区外転出を選択した場合。
二)再開発区域内でガソリンスタンドなどの保安上危険な施設により事業を営んでいたために区域内に再入居することができず地区外転出を選択した場合。
三)再開発区域内で騒音や悪臭の大きい工場を運営していたなど、再開発ビルの入居者の生活又は事業に対し著しい支障を与える事業を営んでいたために再入居することができず地区外転出を選択した場合。
四)施行地区内において住居を有し、若しくは事業を営む申出人又はその者と住居及び生計を一にしている者が老齢(65歳以上など)又は身体上の障害のため施設建築物において生活し、又は事業を営むことが困難となる場合。
五)そのほか、施設建築物の構造、配置設計、用途構成、環境又は利用状況につき従前の生活又は事業を継続することを困難又は不適当とする事情がある場合。平置き駐車場事業など大規模な敷地を要する事業などを継続することが困難なために地区外転出をする場合。
※参照条文
租税特別措置法施行令22条11項(抜粋)
法第三十三条第一項第三号の二に規定するやむを得ない事情により都市再開発法第七十一条第一項又は第三項の申出をしたと認められる場合として政令で定める場合は、同号の第一種市街地再開発事業の施行者が、次に掲げる場合のいずれか(同条第一項又は第三項の申出をした者が同法第七十条の二第一項の申出をすることができる場合には、第一号に掲げる場合に限る。)に該当することを、同法第七条の十九第一項、第四十三条第一項若しくは第五十条の十四第一項の審査委員の過半数の同意を得て、又は同法第五十七条第一項若しくは第五十九条第一項の市街地再開発審査会の議決を経て、認めた場合とする。この場合において、当該市街地再開発審査会の議決については、同法第七十九条第二項後段の規定を準用する。
一 都市再開発法第七十一条第一項又は第三項の申出をした者(以下この項において「申出人」という。)の当該権利変換に係る建築物が都市計画法第八条第一項第一号又は第二号の地域地区による用途の制限につき建築基準法第三条第二項の規定の適用を受けるものである場合
二 申出人が当該権利変換に係る都市再開発法第二条第三号に規定する施行地区内において同条第六号に規定する施設建築物(以下この項において「施設建築物」という。)の保安上危険であり、又は衛生上有害である事業を営んでいる場合
三 申出人が前号の施行地区内において施設建築物に居住する者の生活又は施設建築物内における事業に対し著しい支障を与える事業を営んでいる場合
四 第二号の施行地区内において住居を有し、若しくは事業を営む申出人又はその者と住居及び生計を一にしている者が老齢又は身体上の障害のため施設建築物において生活し、又は事業を営むことが困難となる場合
五 前各号に掲げる場合のほか、施設建築物の構造、配置設計、用途構成、環境又は利用状況につき申出人が従前の生活又は事業を継続することを困難又は不適当とする事情がある場合
4、補償金の課税延期の規定
都市再開発法97条の補償金のうち、移転補償費や、経費補償費を受領した場合に、引っ越し費用など実際に支出するのが数年後に予定されている場合は、転出者については2年、再入居者については建物竣工して実際に支出する日までに交付の目的に従って支出することが確実と認められる部分の金額については、当該年度の総収入金額に算入したい旨を当該収用等のあった日の属する年分の確定申告書を提出する際に書面で申し出たときは、これを認められます。
※租税特別措置法通達33-33(経費補償金等の課税延期) 経費補償金若しくは移転補償金(33-13、33-14、33-15及び33-30により、対価補償金として取り扱うものを除く。)又は33-18に定める残地保全経費の補償金のうち、収用等のあった日の属する年の翌年1月1日から収用等のあった日以後2年(地下鉄工事のためいったん建物を取り壊し、工事完成後従前の場所に建築する場合等措置法令第22条第17項各号《代替資産の取得期限の特例》に掲げる場合に該当するときは、当該各号に掲げる期間)を経過する日までに交付の目的に従って支出することが確実と認められる部分の金額については、同日とその交付の目的に従って支出する日とのいずれか早い日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額に算入したい旨を当該収用等のあった日の属する年分の確定申告書を提出する際に、書面をもって申し出たときは、これを認めることに取り扱う。
また、97条補償金のうち、家賃減収補償などの収益補償金については、建物移転補償が再取得費に不足する場合は、不足する額を対価補償に振り替える(事実上課税されない)こととすることができ、残った収益補償金については、「収益補償金の課税延期」と「臨時所得の課税延期」の適用を受けることができます。
収益補償金の課税延期措置(租税特別措置法通達33-32)は、立ち退き前に補償金を受領していても、実際に立ち退きする日の属する年度の収入金に計上することを認める措置です。
臨時所得の課税延期措置(所得税法90条1項)は、建て替え補償期間が36ヶ月を超えている場合に、家賃減収補償を一括して受領した場合に、その金額が当該年度の総所得金額の20パーセント以上である場合には、増加した平均課税対象金額の5分の1を通常の所得に加算して算出した税額と同じ税率で、残りの5分の4の所得についても課税することを認めるというものです。当該年度だけの累進課税を回避できる措置です。確定申告をする際に「変動所得・臨時所得の平均課税の計算書」を提出する必要がありますので、顧問税理士などに御相談なさると良いでしょう。
※租税特別措置法通達33-32(収益補償金の課税延期) 収用等に伴い交付を受ける収益補償金のうち33-11によらない部分の金額については、その収用等があった日の属する年分の事業所得等の総収入金額に算入しないで、収用等をされた土地又は建物から立ち退くべき日として定められている日(その日前に立ち退いたときは、その立ち退いた日)の属する年分の事業所得等の総収入金額に算入したい旨を書面をもって申し出たときは、これを認めて差し支えない。収用等があった日の属する年の末日までに支払われないものについても、同様とする。※所得税法90条(変動所得及び臨時所得の平均課税)
1項 居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額(その年分の変動所得の金額が前年分及び前前年分の変動所得の金額の合計額の二分の一に相当する金額以下である場合には、その年分の臨時所得の金額)がその年分の総所得金額の百分の二十以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額は、次に掲げる金額の合計額とする。
一 その年分の課税総所得金額に相当する金額から平均課税対象金額の五分の四に相当する金額を控除した金額(当該課税総所得金額が平均課税対象金額以下である場合には、当該課税総所得金額の五分の一に相当する金額。以下この条において「調整所得金額」という。)をその年分の課税総所得金額とみなして前条第一項の規定を適用して計算した税額
二 その年分の課税総所得金額に相当する金額から調整所得金額を控除した金額に前号に掲げる金額の調整所得金額に対する割合を乗じて計算した金額
※参考URL(国税庁による変動所得・臨時所得の説明書)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/pdf/011.pdf
5、さいごに
最後にアドバイス致します。再開発手続きの権利変換を受けるかどうか、補償金の内容に合意するかどうかは、再開発の権利者として最も重要な意思決定になります。税金の控除が受けられるかどうかも重要なことですが、副次的な事項と考えるべきでしょう。これのみを原因として前記の意思決定をすることは本末転倒と言えます。組合担当者から、「いまこの書類にサインすれば5千万円の控除を受けられますよ」と言って、所有権についても借家権についても、地区外転出を勧めてくることがあります。
しかし、本当にその権利変換や補償内容で良いのかどうか、現実の移転に不足が無いかどうか、経験のある弁護士にも御相談なさった上で意思決定なさることをお勧めいたします。
以上です。