未成年と性行為した場合の真摯な交際とは
刑事|青少年保護育成条例、児童福祉法、児童買春における「淫行」の解釈|最高裁判所平成28年6月21日判決|名古屋地方裁判所平成22年2月5日判決|解釈の基準
目次
質問:
私は30代の上場企業社員です。相席居酒屋で知り合った女性と知り合ったその日にラブホテルに行き性行為しましたが、後日女性の親御さんから女性は17歳であり青少年保護育成条例(淫行条例)違反で被害届を出すと言われてしまいました。確かに少し若いなと思いましたが、彼女はお酒を普通に飲んでおり成人女性と思っていました。私は、18歳未満であることを知らなかった、真剣な交際であったと主張しましたが、聞き入れてもらえません。知人から、青少年保護育成条例は成人男性による18歳未満女性との交際を一律禁止しているものではなく、真摯な交際であれば適用されないと教わりましたが、具体的にどのような場合に「真摯な交際」と言えるのでしょうか。
回答:
1 各都道府県の条例で制定されている青少年保護育成条例(いわゆる淫行条例)は、各都道府県の地域の実情に合わせ、未婚の未成年者に淫らな性行為または性交類似行為をさせる行為を処罰するものです。各都道府県により正式名称は異なり、例えば東京都では、東京都青少年の健全な育成に関する条例として制定されています。この条例の条文では
第18条の6(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止) 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。 第24条の3 第18条の6の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
と規定されています。また、青少年とは18歳未満の者と規定されています。そこで条例違反の成立については18歳以上の成人と思って性行為を持った場合、犯罪の故意が認められるか問題となります。さらに、すべての性行為を禁じているのではなく「みだらな性交又は性交類似行為」をしたことが犯罪ですから、みだらなと言えるのはどのような場合か問題となります。この点から、真剣な交際(の結果としての性行為)であれば、みだらとは言えないので条例違反にはならないということになります。
平成30年の民法改正で成年が18歳と改正され、婚姻適齢も男女で18歳に統一され、令和4年4月1日から施行されていますが、法改正前は、男女の心身の発達の違いや、それまでの社会通念慣習に鑑みて、女性の婚姻適齢は16歳とされてきました。18歳未満の女性にも人格権や性的な自己決定権はあると考えられます。この法改正が行われる前でも、法改正後でも、18歳未満の女性と年上の男性が真剣に(真摯に)交際し、例えば婚約するなどして、婚姻の前段階として一緒に生活(同棲)したり、性行為をすることは十分考えられることです。
2、 他方、18歳未満の児童、生徒、青少年は、学業に従事していたり、仕事を始めていても見習い段階であり、心身の発達段階の途中にあると考えられ、判断能力も十分とは言えず、社会全体で見守り保護して共同して育てていくべき対象と考えられており、社会経験や経済的に上の立場にある成人が、18歳未満の男女を誘惑するなどして一時の性行為の満足のために淫らな行為をさせることは、地域社会の養育環境を悪化させることになるため、条例で刑事罰の対象とされ規制されています。民事上も、職場の労働契約を解雇されるなど不利益を受け得る行為となります。
しかし、みだらな性交、「真摯な交際」というのは抽象的な要件であり、なかなか分かりにくいことが問題となります。裁判例では、みだらな性行為とは「青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいう」とされています。従って、①青少年の未成熟に乗じ不当な手段を用いて行われた性行為又は②青少年を自己の性的欲望を満足させる対象として扱った性行為という二点からみだらかな否かが判断されることになります。とはいえ、この二つの基準も必ずしも明確とは言えないのではという疑問も残ります。みだらな性行為、淫行の法的責任に関して事例判決があり、限界事例として参考になりますので解説で御紹介致します。
なおご相談のように相席居酒屋で知り合ってその日のうちにラブホテルに行って性行為をした、という場合は一般的には真摯な交際とは認められないでしょう。
3 お困りの問題がある場合は、自分だけで悩むより法律専門家である弁護士に至急ご相談なさることをお勧めいたします。弁護士と一緒に最善の対応策を考えてください(18歳未満か否かの認識は犯罪の成立の要件となる故意の問題ですが、本稿では、その点の説明は省略します)。
4、淫行条例に関する関連事例集参照。
解説:
1、青少年保護育成条例、淫行条例
刑法では、13歳未満の者と性交または性交類似行為をしたものは同意の有無に関わらず強制性交罪で処罰の対象とされています。13歳未満で形式的に同意したとしても、その行為により妊娠すれば出産や子育てに繋がることになり、人生全体、将来に渡って影響し得る行為であることを理解できるとは考えられないためです。
刑法177条(強制性交等)十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔(くう)性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
また、児童福祉法34条1項6号では、18歳未満の児童に「淫行をさせる行為」を10年以下の懲役または300万円以下の罰金に処すると規定しています。この「させる」という行為は、事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかける行為とされています。成人と児童の上下関係に基づく命令指導などが想定されるところです。
児童福祉法第34条1項 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。6号 児童に淫行をさせる行為
第60条 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
最高裁判所平成28年6月21日判決
『児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」とは,同法の趣旨(同法1条)に照らし,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当であり,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,同号にいう「淫行」に含まれる。 そして,同号にいう「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。』
児童買春禁止法4条では、児童買春をした者を5年以下の懲役または300万円以下の罰金に処すると規定しています。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第4条(児童買春)児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。2条2項 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一号 児童
二号 児童に対する性交等の周旋をした者
三号 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
このように、法律では、刑法、児童福祉法、児童買春禁止法による児童との性行為の規制があるわけですが、これらの法律の全てを順守すれば、未成年と性行為をしても法的に問題が無いということなのでしょうか。
これを各都道府県の議会で議論して制定されたのが、青少年保護育成条例(いわゆる淫行条例)です。この条例では、18歳未満の児童に対して、同意を得て(刑法の強制性交罪を除外)、影響力を行使せず(児童福祉法を除外)、対価を交付せず(児童買春禁止法を除外)に性行為したとしても、地域社会で禁止すべきと考えられる行為態様を条例違反で処罰しているのです。条例の刑事罰は地方自治法14条で懲役2年までと規定されていますので、淫行処罰規定は、上限懲役2年と規定されることが多くなっています。例えば東京都では、「二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」と規定されています。
東京都青少年健全育成条例第18条の6(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止) 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。
第24条の3 第18条の6の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
東京都の淫行条例について、警視庁のホームページの解説がありますので、御紹介します。
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/higai/kodomo/inkoj.html青少年(18歳未満の者をいう)に対する反倫理的な性交等から青少年を保護するため、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」が平成17年6月1日から施行されました。条文(第18条の6)
何人も青少年とみだらな性交又は性交類似行為をしてはなりません。
違反した場合は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。
みだらな性交又は性交類似行為とは、
青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいいます。
なお、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある場合は除かれます。
これは、次の最高裁判例を説明しなおしているものと考えられます。
最高裁昭和60年10月23日判決
『本条例一〇条一項,一六条一項の規定(以下,両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は,一般に青少年が,その心身の未成熟や発育程度の不均衡から,精神的に未だ十分に安定していないため,性行為等によつて精神的な痛手を受け易く,また,その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ,青少年の健全な育成を図るため,青少年を対象としてなされる性行為等のうち,その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて,右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると,本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは,広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく,青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。』 『なお、本件につき原判決認定の事実関係に基づいて検討するのに、被告人と少女との間には本件行為までに相当期間にわたつて一応付合いと見られるような関係があつたようであるが、当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情に照らすと、本件は、被告人において当該少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかないから、本件行為が本条例一〇条一項にいう「淫行」に当たるとした原判断は正当である。』
2、判例紹介、名古屋地方裁判所平成22年2月5日判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/085/080085_hanrei.pdf『昭和60年大法廷判決は,福岡県青少年保護育成条例10条1項,16条1項(淫行処罰規定)の趣旨について「一般に青少年がその心身の未成熟や発育程度の不均衡から,精神的に未だ十分に安定していないため,性行為等によって精神的な痛手を受け易く,また,その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ,青少年の健全な育成を図るため,青少年を対象としてなされる性行為等のうち,その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたもの」であるとし,同条例10条1項の規定における「淫行」とは,「広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく」,①「青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為」のほか,②「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である」と判示している(以下,①②をそれぞれ「第1形態の性行為」,「第2形態の性行為」ということがある。)。』『ア 原告とA子の年齢等
原告は,本件性行為時,31歳の会社員であり,平成15年6月27日に結婚した妻と1歳になる子供がおり,妻は妊娠していた。原告は,A子とはじめて性行為をした後,平成18年6月終わりころ,妻が妊娠した事実を知った。
A子は,本件性行為時,17歳9か月の高等学校の生徒であって,あと3か月を待たずに18歳になり,原告と初めて性行為をするより前にも,性行為の経験があった。
イ 性行為に至るまでの経緯,付合いの態様
(ア) 原告は,平成18年2月,勤務するB社が経営する飲食店(以下「本件店舗」という。)に副店長として異動になった際,本件店舗でアルバイトをしていたA子と知り合った。
原告は,平成18年4月ころ,勤務の空いた時間にA子と話す機会が多くなり,A子は,原告に対し,仕事や学校の話をしたり,A子の母が2回離婚し,当時,別の男性と交際していること,母とけんかをして,施設に入ったらとか,出て行けなどといわれたこと,A子の昔の彼氏の話や,当時,A子にしつこくつきまとっている男性の話など,様々な悩みを話したり相談したりなどするうちに,次第に親しくなっていった。
原告は,当初は,A子に対し,特別な感情を有していなかったものの,A子の顔も雰囲気も自分の好みのかわいい子であり,A子の仕事ぶりを見たり,話をして親しくなるうちに,A子を次第に好きになっていった。
A子は,はじめは原告と性行為をするような関係になることには抵抗があったが,原告が一緒にいて楽で,波長が合うタイプであったため,自然に惹かれていった。
(イ) 原告は,平成18年5月ころ,A子が見たい映画があるという話になり,2人で映画を見に行くことになって,携帯電話のメールアドレスを交換して,後日映画を見に行く日を決めた。
原告は,その1~2週間後の仕事が休みの平日,A子が学校を終わった後,A子の家の近くまで車で迎えに行き,2人で,映画を見に行った。
原告は,映画の後,A子を車で送って帰る途中で,A子に対し了解を求めたうえで,A子とはじめてキスをした。
なお,A子は,同月はじめころ,A子の母に対し,原告から付き合ってほしいと言われていることを話し,A子の母は,単なる友達として付き合うのなら問題ないと考え,普通に友達として付き合うのはいいけど,肉体関係になってはだめよと述べていた。
(ウ) その後,原告は,A子も原告のことが好きな様子であったので,以下のとおり,A子との交際を深めていった。
原告とA子は,携帯電話のメール交換により,今度いつ会うといった連絡のほか,仕事の些細な話や趣味の合った音楽の話などを通じて,お互いの感情を伝え合うようになり,メールの回数も徐々に増えていった。
原告とA子は,ドライブデートなどを重ね,キスの回数も多くなり,お互いに好きだという話をして,感情が盛り上がっていって体を触れ合うこともあった。
原告とA子は,休みがなかなか合わなかったため,A子がアルバイトの日を削ったりして2人で会う時間を作っていた。
また,同年6月に入ったころには,A子は,原告の話ばかりするようになり,A子の母がもしかしたらA子が原告のことが好きになり,原告と肉体関係になっているのではないかと心配するようになった。
(エ) 原告は,何回もデートをして自分としては付き合っているつもりでおり,気持ちが高ぶってA子に対し性行為をしないのかメールで尋ねたところ,まだ早いとの返事があった。
原告が,A子から話しかけられた際,A子にその真意を聞くと,まだ正式に付き合っていないからとのことであったので,付き合っているつもりでいると言ったところ,A子は性行為することを了解し,日程を調整し,平成18年5月末か6月初旬ころ,ホテルに行ってA子と性行為をした。
その後,原告とA子は,遊びに行くようなときは,特に何も言わなくてもいつも同じホテルに行って,性行為を持つことが多くなり,本件性行為も含め少なくとも4回から5回,A子と性行為をした。原告とA子は,性行為を持つようになった後も,性行為をするだけではなく,ドライブや映画に行くなどのデートをし,ホテルに行った帰りに食事をすることもあり,2人でディズニーランドに行くという約束もしていた。
原告とA子は,性行為をする際に,直ぐに性行為をするのではなく,30分くらいテレビを見たり話をしたりして,その後,1時間くらい性行為をしていた。原告とA子は,性行為が終わった後も,他愛もない会話をし,ホテルを出ると,途中で食事をするなどして,原告は,A子をA子の自宅まで送っていた。
(オ) 原告は,平成18年7月24日にA子と会って本件ホテルに行く約束をしていたため,本件店舗の仕事のシフトを調整した。
原告は,平成18年7月24日午後7時ころ,A子と待ち合わせて,車で迎えに行き,直ぐに本件ホテルに向かい,同日午後8時30分ころ,本件ホテルの210号室において,性行為をした(本件性行為)。
原告とA子は,本件性行為の後,本件ホテルを出て,A子は,同日午後10時30分ころ,A子の母に,原告と遠くまでドライブをしているので帰りが遅くなる旨のメールを入れ,A子の母は,A子に電話してすぐに家に帰ってくるように言い,原告は,A子をA子の自宅に送っていった。
(カ) 原告は,職務上,A子と知り合った当初から,A子が17歳であることを知っており,A子も,原告に妻と子供1人がいることを知っていた。
A子は,原告とは,年齢も離れているし,原告が結婚して妻もいることを知っていたので,結婚することは考えていなかったし,原告も,妻や子供と別れてA子と結婚することまでは考えていなかったし,A子に対しても妻と離婚するつもりはないことを告げていた。
原告は,A子に対し,性行為の対価として,金銭を渡したことはなかった。また,原告とA子が性行為を持つに至ったことについて,原告が,本件店舗における職務上の地位を利用したり,A子を騙したりしたことはなかった。
(2) 以上によると,本件性行為時に,A子は既に17歳9か月であり,あと3か月を待たずに18歳になること,A子は,原告と性行為を持つより前に,性行為の経験を有していたこと,A子が,原告に対し,様々な悩みを話したり相談したりし,自然に惹かれていくようになって,原告とA子は交際に至ったこと,はじめての性行為に至るまでに,原告とA子は携帯電話のメール交換を介してお互いの感情を伝え合い,映画やドライブなどの数回のデートを重ね,2か月程度が経過したところで性行為に至っていること,はじめて性行為をした後も,性行為をするだけでなく,ドライブなどのデートをする関係にあり,原告とA子の関係が性行為のみを目的とする関係ではなかったことが認められる(原告とA子との関係は,原告に妻子がおり,原告が妻と離婚してA子と結婚するつもりはなかったということを除けば,いわゆる恋人同士の関係と全く異なるところはないものである。)。
そうすると,昭和60年大法廷判決が掲げる「当時における両者のそれぞれの年齢,性交渉に至る経緯,その他両者間の付合いの態様等の諸事情」を考慮して,健全な常識を有する一般社会人の立場で判断すれば,本件性行為について,原告が,A子を「単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない」ものではないことが明らかである。
なお,原告が結婚するつもりもないのに,妻と別れて結婚すると言っていたのであれば,A子を騙し,自己の性的欲望を満足させるためにのみ性行為を行ったことにもなり得るが,原告は,そのようなことはなく,妻と離婚するつもりがないことをA子に告げて,それでも性行為を持つことをA子に了解してもらっていたのであるから,このことからも,原告がA子を単に自己の性的欲望を満足させる対象として扱っていたものではないことが明らかである。
(3)ア 被告国は,昭和60年大法廷判決は,「『真摯な交際関係』を『婚約中の青少年又はこれに準ずる』ものとし,このような意味での『真摯な交際関係』を処罰の対象としないと判示されている」として,「妻子がおり,A子との結婚を前提としていない原告とA子との関係を,婚約に準じるような関係と評価し,処罰の対象とならない」とするのは,同判決に抵触する旨主張する。
しかし,昭和60年大法廷判決は,「『淫行』を広く青少年に対す性行為一般を指すものと解するときは」,「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等,社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこと」になるとして,明らかに当罰性が認められない行為として,「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為」を例示しただけであり,処罰の対象とならない場合を「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある」場合に限定したものでないことは文言上も明らかであり,被告国の上記主張は,昭和60年大法廷判決の判示する内容を曲解し,処罰の範囲を恣意的に拡張しようとするものであり,到底採用できないものである。
イ また,被告国は,原告は,積極的にA子に働きかけて性行為に及び,その後は,A子と性交する目的で,自分とA子のシフトを調整してA子と会う機会を作り,A子と性交を重ねる一方,妻とも性交をし,妻子と別れる意思も全くなかったから,第2形態の性行為に該当することは明白であり,また,A子を不倫関係に巻き込み,原告の妻に対する不貞行為に荷担させた行為は,明らかに社会通念上非難に値するものであるなどと主張する。
しかし,被告国は,原告には妻子がおり,妻が妊娠していたという事情を殊更に強調し,本件店舗の副店長であった原告がアルバイトであったA子をデートに誘った事実,原告がA子と会うためにシフトを調整したという事実等を恣意的に選択して援用し,性交するだけの目的の第2形態の性行為であると主張するもので,本件条例の目的を逸脱した拡張解釈をするものであり,昭和60年大法廷判決が具体的判断要素としてあげている原告とA子の性交渉に至る経緯や性行為以外の付合い方に関する事情などを全く無視しているもので,到底採用する余地のないものである。
前記1(2),(3)のとおり,昭和60年大法廷判決が「淫行」を「単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは,犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れない」として,不倫や不純というような抽象的,多義的な用語を避け,条例の規定の文理から合理的に導き出されうる解釈として,特に第2形態の性行為について,青少年の育成・保護の精神に背馳し,一般の社会通念に照らし到底許容できない類型として,「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような」との限定解釈をしているのに,被告国がこのような本件条例の趣旨や規定から離れて,妻子ある者との不倫行為に当たることを殊更に強調することは,昭和60年大法廷判決の限定解釈を全く理解しないものであり,現時点においてもこのような主張をしていること自体,被告国の違法な姿勢を露呈するものであって,被告国の上記主張が理由のないものであることは明らかである。』
この裁判例は、下級審判例ですが、昭和60年最高裁判決の再提示と具体的事件における事実関係の解釈適用において非常に参考になるものです。淫行条例違反で起訴されたが無罪判決を受けた事例です。この裁判例から、いくつかの基準となり得る事項を抽出してみたいと思います。
(1)当事者の年齢
・・・淫行をする者と、淫行された者の年齢がどうなっているか。例えば、17歳11か月と18歳1か月の男女の交際であれば、普通の自由恋愛の事件と解釈される可能性が高くなるでしょう。5歳や、10歳程度離れていても結婚して夫婦になっているカップルも多いところです。では、例えば、年齢が倍位離れていたり、20歳以上離れていたり、少女の両親よりも年上の男性との交際であったらどうでしょうか。少年少女の自己決定権、心身の成熟は日々高まっていますから、18歳となり淫行条例が適用されなくなる年齢に向かって、少しずつ判断能力の高まりに応じて、淫行条例の適用可能性も低減していくものと解釈することができます。(2)少年少女の性行為の経験
・・・当該性行為の以前にも性行為の経験があったかどうか。初めての性行為相手だったのか、2回目の相手だったのか、3回目の相手だったのか。経験人数によって、性行為の持つ意味合いが変わって来ることになります。当然、性行為の経験が少ない少年少女との性行為は淫行の可能性が高まることになります。(3)知り合った時の当事者間の立場の違い
・・・職場の上司と部下で知り合ったのか、学校で教員と生徒として知り合ったのか、サークルなどの同輩として知り合ったのか、上下関係の有無が淫行に影響することになります。上下関係があったからと言って必ず淫行になってしまうということではなく、対等な恋愛関係に至るような当事者間の関係性が築かれていたかどうか。社会的な上下関係に関する話題の他に、プライベートな話を相互にしていたかどうかなどが影響するものと思われます。(4)知り合ってから交際するまでの経緯と期間
・・・交際開始の機会をどちらが誘ったのか。年長者側が最初にデートなどに誘ったのかどうか。見ず知らずの異性に街で話しかけ、いわゆるナンパ行為をして知り合って、当日のうちに交際を開始するという場合もありますが、職場や学校など社会的関係で知り合った場合は身の上話をするなどして、デートするなど交際するまで数か月の期間を要するのが一般的です。知り合ってから、交際するまで数か月以上経過していた場合は、通常の恋愛関係の可能性が高まりますし、ナンパして当日ホテルに行ったということであれば、通常の恋愛関係であるという弁解も難しいことになります。(5)交際内容、連絡内容
・・・当事者間がお互いの名前(本名)を知っているか、電話番号を知っているか、住所を知っているか、年齢生年月日を知っているか、メールアドレスを知っているか。これらの事項を知らない場合には、真摯な交際ではない可能性が高まることになります。デートでは、映画を見に行ったり、ドライブに出かけたり、テーマパークに出かけたり、アウトレットなどのショッピングに出掛けるなど、通常のカップルの交際内容に近い行動があったかどうか。(6)交際してから性行為するまでの期間
・・・交際開始してから性行為するまでの期間に標準的な期間というものはありませんが、交際開始当日に性行為したとか、翌日に性行為したというのは早すぎることになり、淫行の可能性が高まることになります。当該判例は1~2か月程度の交際期間で性行為に至った事例でした。(7)性行為してからの交際内容
・・・ホテルなどで性行為する前後の行動や、性行為を伴わないデートをしているかどうかも、淫行の成否に影響します。会うときは必ず性行為して、それ以外の行動は共にしないということであれば、淫行の可能性が高まることになります。(8)年長者の婚姻など
・・・年長者側が結婚しているかどうか。婚約者がいるかどうか、他の交際相手が居たかどうか。また、これらの事項について、少年少女に嘘をついていないかどうか。年長者側が婚姻している場合は、夫婦関係についてどのような説明をしていたか。3、判例紹介、東京地方裁判所平成27年2月18日判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/447/085447_hanrei.pdf『原告は,4月5日,本件女性を原告の自宅マンションに宿泊させ,本件女性と性行為をしたことを内容とする本件非違行為2を自認しているところ(前記認定事実(1)イ),37歳の成人男性として相応の社会経験を有し,本件学校の教員として,基本的かつ常識的な価値観を本件学校の生徒に教え,その模範となるべき立場である原告が,本件学校の生徒と同年代である17歳の本件女性と性行為に及んだことは,前記のとおり,原告において,本件女性が18歳未満であると認識していたことを認めるに足りる証拠はなく,本件非違行為2について都条例18条の6に違反する犯罪が成立すると認めることができないとしても,他方で,原告が本件女性の年齢を十分に確認したことを認めるに足りる証拠もないことに照らせば,本件非違行為2は,極めて不適切で,倫理的,道義的に非難されるべきものであり,被告の教員としての適格を欠くことを示す行為であるというべきである。これに対し,原告は,本件女性と真剣な交際をしていたと主張し,これに沿う供述をするとともに陳述書(甲17)にも同旨の供述部分があるが,原告が平成22年から交際していた女性と平成25年3月15日に婚姻しており(前記認定事実(7)ウ),D副校長に対して本件女性とカラオケに行ったことの根拠として,原告の自宅マンションには同棲している女性がいたと弁解していたこと(前記認定事実(4)ア),C弁護士が,検察官に対する申入書(甲18)中で,原告が本件女性の電話番号や住所などの連絡先を知らないことを指摘していることに照らしても,原告の上記供述及び供述部分を信用することができないのであって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。また,原告は,本件非違行為2は,都条例18条の6違反の犯罪ではなく,倫理的にも問題がないものであるから,生徒や保護者に不快感を与えるものではない旨主張するが,およそ採用することができない。
(3) そして,結果として不起訴処分となっているが,原告が本件非違行為2を行ったこと自体は事実であり,そのことにより,原告が逮捕されたことがマスコミ報道され,被告がマスコミ対応に追われたほか,本件学校の保護者及び生徒等に謝罪をし,インターネット上に開設する本件学校のホームページにも謝罪文書を掲載することを余儀なくされている(前記認定事実(5)ウ)。
これに対し,原告は,本件被疑事実について,嫌疑不十分を理由として不起訴処分を受けており,警察の逮捕及び報道が誤っていたのであるから,被告に生じたとする損害は容易に回復し得るとも主張する。しかし,原告が本件非違行為2を行ったこと自体は事実であり,一旦傷つけられた被告の信用や名誉を回復することは容易なものではないといえるから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
それにもかかわらず,原告は,インターネット上に,本件訴訟で被告に勝訴した等の虚偽の事実を掲示するなど(乙54の1及び2,乙55の1及び2,乙57の1から3まで),更に被告の信用や名誉を傷つける行為を行っており,原告が以前にも,当時交際していた20歳の女子大学生との別れ話を巡るトラブルとなり,女性の父親らしき者から被告に対して抗議と善処を求める手紙が送られるなど(乙1の1及び2),その行状について芳しくない側面もうかがわれる。このような原告が被告の教員としての適格を欠くことを示す事情も加味すれば,原告と被告との間の信頼関係は,本件雇用契約の継続を困難とする程度に破壊されていると評価するほかない。』
この判例は、淫行の民事責任に関する事例です。教員が学校外の淫行について、諭旨解雇を受けて後日普通解雇も受けたという事案でしたが、裁判所は、諭旨解雇は無効とし、普通解雇を有効としました。
(1)18歳未満であることの認識、年齢確認の努力
・・・女性が18歳未満であると認識していたことを認めるに足りる証拠はなくても,本件女性の年齢を十分に確認したことを認めるに足りる証拠もないことに照らせば,本件非違行為は極めて不適切で,倫理的,道義的に非難されるべきとされた。30代男性と17歳女性の性行為において、18歳未満の可能性があるのに年齢の確認を怠っていること自体が法的非難に値する場合があります。(2)同棲女性、婚約女性の有無
・・・事件の2年前から交際し同棲していた女性が居り、事件の11か月後に入籍していた事案で、真摯な交際とは言えないと判断した。(3)相手の連絡先
・・・女性の電話番号や住所などの連絡先を知らないことは真摯な交際とは言えない事情となり得る。ナンパして知り合いスマホのSNSの連絡アカウントしか知らない間柄では真摯な交際とは言えない可能性が高いことになります。(4)事件後のネット書き込み
・・・事件後にインターネット上に自らの主張を掲載したが、事実に反する内容が含まれていた。(5)過去の異性関係
・・・以前にも,当時交際していた20歳の女子大学生との別れ話を巡るトラブルとなり,女性の父親らしき者から被告に対して抗議と善処を求める手紙が職場に送られるなどしていた。刑事責任と民事責任は、要件効果が異なりますが、淫行の法的責任について共通する考え方が読み取れるかと思います。
淫行とされた日の出来事だけでなく、数か月前から、数か月後まで、どのような言動があったのか、また、相手女性との連絡内容や連絡方法、別の異性関係の様子なども影響し得ることが分かります。また、18歳未満かどうかの認識についても、単に知っていたかどうか、というだけでなく、知り得たのか、知るべく努力したのか、という様々な間接事実も影響することが分かります。
4、まとめ
親御さんから抗議を受けているということです。淫行条例違反になるかどうかは、御本人の認識だけでなく、第三者からみた様々な客観的な事情も影響しますので、「18歳未満とは知らなかったから大丈夫」というような自己判断は危険です。淫行条例違反は社会的法益に関する罪ですから、親告罪ではなく、告訴が無くても立件できる刑罰法規ですが、事実上被害者となる相手女性や親御さんの意思は重要です。親御さんが怒っておられるなら謝罪が必要でしょうし、刑事事件化してしまったり、職場の関係で不利益を受けないために、何らかの示談の可能性を探ることも有益でしょう。これらの問題に経験のある弁護士に御相談なさり、円満な解決を図ることをお勧めいたします。
以上です。