未成年者との性行為において成立する犯罪
刑事|令和5年7月刑法改正|不同意性交罪|16歳未満の者との性交|相手方の年齢認識を誤った場合の基準
目次
質問:
私は,27歳の会社員です。先日,SNSで知り合った女性と会い,当日そのまま性行為をしました。相手の女性の見た目が若かった為,一応行為前に年齢を確認したのですが,女性は,18歳と言っていました。当日は,女性が親から呼び戻された為,夜,家の近くまで車で送り届けました。
その後,私は女性と交際しようと思って何度かメール等で連絡を取っていたのですが,2週間ほどして,女性からの返信が途絶えました。
今になって心配になってきたのですが,女性の発言が嘘で,実は18歳未満であった場合,私の行為は犯罪になるのでしょうか。
仮に犯罪になる場合,どのように対応したら良いのでしょうか。
回答:
1 性犯罪については、令和5年7月13日に改正刑法が施行されたため、事件がそれ以前か以後か、そして相手女性の年齢により、成立する罪が大きく変わります。以下では、事件が改正後であることを前提に解説致します。
2 まず、相手の女性が18歳未満の場合、各都道府県の青少年健全育成条例違反の罪が成立する可能性が高いです。これは、判断能力の未熟な青少年の保護や、社会的風俗を保護するための規定ですので、相手が性行為に同意していたか否かは無関係です。同罪で処罰される場合、初犯であれば30万円程度の罰金刑となることが多いですが、捜査開始時に逮捕に至る例も多いところです。
3 また、仮に18歳未満の相手との性交時に対価を供与していた場合、児童買春(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反)として重い罪が成立することになります。同罪で処罰される場合も、初犯であれば罰金刑のことが多いですが、逮捕に至る可能性はさらに大きいです。
4 そして、相手の女性が16歳未満であった場合、不同意性交罪(刑法177条3項、1項)が成立してしまいます。これは、改正前の強制性交罪(さらに過去の改正前の強姦罪)と同じ類型の罪に属するものであり、法定刑も5年以上の有期懲役とされる、非常に重い犯罪です。判断能力が未熟な少年を保護する趣旨ですので、相手が性行為に同意していたか否かは関係ありません。同罪で立件される場合は、基本的に逮捕、勾留される可能性が非常に高いと言えます。
5 相手の女性が18歳以上であっても、相手が同意しない意思を表明することが困難であったことに乗じて性行為をした認められる場には、不同意性交罪として、前記4と同じ処罰を受ける場合があります。典型的なのが、アルコールの影響を受けていた場合などです。
6 なお、相手の女性に対して年齢を確認したところ18歳であるとの回答があったということで、18歳未満という認識、犯罪の故意がなかったという弁解が考えられますが、いずれの犯罪についても、年齢を知らなかったことに過失があった場合には,罪を免れない旨の規定をおいています。どのような場合に過失がないといえるかは不明確ですが、実務では大変厳しい注意義務が課せられており、単に口頭で相手に年齢を確認するだけでは足りず、客観的な、例えば免許証等の確認まで求められています。
7 法改正の直後は、捜査機関が積極的な立件を試みる傾向が強いです。本件のように,突然相手からの連絡が無くなった場合,既に両親が事態を把握し,被害届を警察に提出しており,突如として逮捕されてしまうケースも多くみられます。
いずれの罪が成立する場合でも、放置するのではなく、相手と接触を図って様子を見て、必要な場合は速やかに被害者又はその親権者と示談をするなどして、適切な対処をすれば、逮捕や処罰の不利益を回避できる可能性は十分に存在します。ご不安な点があれば、直ちに弁護士に相談して、いかなる対応を取るべきか、具体的な助言を受けることをお勧め頂います。
8 なお、性行為時に撮影をした場合には、新たに成立した性的姿態等撮影罪や、児童ポルノ製造の罪、各都道府県の迷惑防止条例違反の罪などが成立する危険もあります。これらの点については、事例集639番、 1414番、 1719番等をご参照ください。
9 未成年との性交に関する関連事例集参照。
解説:
1 成立し得る犯罪について
(1)青少年健全育成条例違反
ア 処罰の規定
相手の女性が18歳未満であった場合,各都道府県で制定されている青少年健全育成条例違反(淫行条例とも呼ばれます。)の罪が成立する可能性が高いです。
東京都の例を挙げると,「青少年の健全な育成に関する条例」では,18歳未満の青少年(同2条),「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。(同18条の6)」と規定されており,同条項に違反した場合,二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられることになります(同法24条の3)。
イ みだらな行為の意義
同種条例において処罰対象となる「みだらな性交又は性交類似行為」の意味について,判例は下記のとおり判示しております。
(最高裁昭和60年10月23日・福岡県青少年健全育成条例違反事件)
「「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。」
つまり,同最高裁判例によれは,処罰の対象とするには,当該行為が単に半倫理的かつ不純な性行為というだけでは不十分であって,青少年の未成熟に乗じた不当な手段により行う等の悪質な態様でなければなりません。その為,「例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等」については,処罰の対象とはなりません。
本件でも,仮に仮に相手の少女との真摯な交際関係が存在すれば,「みだらな性交」には該当しない可能性があります。
しかし,本件のように,会って当日性交に及んだ事例等では,真摯な交際関係を認められるのは困難でしょう。少なくとも,事件発覚後に真摯な交際を改めて申し入れている等の事情が必要となるでしょう。
原則としては,「みだらな性行為」に該当することを想定した対応をすべきといえます。
ウ 刑事処分の内容
青少年健全育成条例違反で捜査が開始されるパターンは、相手女性が警察に補導されて発覚する、相手女性の保護者が警察に通報する、サイバーパトロールで事案を補足される、等のケースが多いです。
初犯であれば、最終的には30万円程度の罰金刑となることが多いですが、捜査が実施される場合、警察が逮捕令状を取得し、逮捕の上で捜査に及ぶことも多いです。
逮捕される場合は、当然、事前の予告なしに警察官が自宅等に来訪することになります。そのため女性の年齢が18歳未満である可能性が高場合には、下記3で述べるような対策を準備するべきでしょう。
(2)児童買春罪
また、仮に18歳未満の相手との性交時に対価を供与していた場合、児童買春(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反)として重い罪が成立することになります。
同法4条では、「児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。」と規定されています。
同罪で処罰される場合も、初犯であれば罰金刑のことが多いですが、児童買春の罪は、(1)の青少年健全育成条例違反よりも重い罪であるため、より逮捕等の身体拘束に至るケースが多い事件です。
(3)不同意性交罪
ア 相手が16歳未満であった場合
相手の女性が16歳未満であった場合、不同意性交罪(刑法177条3項、1項)が成立してしまいます。
刑法177条3は,16歳未満の者に対し、性交等をした者は、第一項(不同意性交罪)と同様とする,と規定しています。ここでいう「性交等」とは,「性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」を意味します。
この規定は,いわゆる性交同意年齢に達していない判断能力が未熟な少年を保護する趣旨であり、年齢及び行為のみを要件としているため,性行為等を行うことに相手が同意していた否かは無関係です。令和5年の法改正以前は,性交同意年齢は13歳でしたが,法改正により年齢が引き上げられました。
これは、改正前の強制性交罪(さらに過去の改正前の強姦罪)と同じ類型の罪に属するものであり、法定刑も5年以上の有期懲役とされる、非常に重い犯罪です。
そのため,本罪で立件される場合は、逮捕、勾留される可能性が非常に高いと言えます。さらに起訴された場合は,法律上の減刑事由がない限り,原則として実刑判決(実際に刑務所で服役する罰)を受けることとなりました。
法改正の結果,以前は条例違反として罰金刑で済んでいた事例(例えば15歳の中学3年生との性行為)が,全て原則懲役刑の重大事件として処断されることになったのです。
そのため,万が一,相手の女性が16歳未満である可能性がある場合には,直ちに適切な対応を取る必要があるでしょう。
イ 不同意類型に当てはまる場合
相手の女性が18歳以上であっても、相手が同意しない意思を表明することが困難であったことに乗じて性行為をした認められる場には、不同意性交罪として、前記4と同じ処罰を受ける場合があります。
令和5年の改正法施行以前は,18歳以上の女性との性行為が処罰されるのは,基本的に被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行や脅迫を用いた場合に限られていましたが,改正後は,下記で述べるような類型や,これらに類する行為又は事由により、相手が性行為に同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態で性行為をした場合には,従前の強制性交罪と同じ処罰を受けることとなりました。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
これらの類型は,改正前の準強制性交罪や等に相当する事案を,より具体的に規定したものとされていますが,改正により,さらに適用範囲が拡大する危険は拭えません。性行為前にアルコールを摂取させていた場合(三号)や,部屋に連れ込んですぐに性行為に及んだ場合(五号)などは,注意する必要があるでしょう。
2 未成年であることに気付かなかった点について
なお,上記の各罪は,いずれも相手方が一定の年齢未満であることを構成要件としているため,あなたが相手の年齢を知らなかった場合,故意が否定され,犯罪として成立しないことになります。
もっとも,(1)の条例違反については,多くの場合,年齢を知らなかったことに過失があった場合には,罪を免れない旨の規定をおいています。
例えば東京都健全育成条例の場合,「当該青少年の年齢を知らないことを理由として、(略)規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。」としています。
つまり,相手の年齢を知らなかっただけでは,罪を免れることはできず,「知らなかったことにつき過失が無い」ことを認定してもらう必要があります。
この点,条例違反の場合の年齢確認義務につき,どの程度の確認行為まで行うことが要請されているかについては,明確ではありません。
参考となるのは,児童福祉法に関する裁判例です。児童福祉法は,条例とほぼ同じ文言で,児童に対する罪の年齢知情につき過失を処罰する規定を置いています。この児童福祉法の裁判例等によると,年齢確認の過失の有無の判断については,児童本人や仲介者などの自称する年齢を信じるだけでは不十分であり、児童の戸籍などによつて生年月日を調査し、あるいは親許の照会をして年齢を確かめるとか、一般に確実性のある調査確認の方法を一応つくすことが必要であるとされています(長崎家裁昭和34年12月10日等参照)。
その為,児童の疑いがあるものと性行為をする為には,このような確認を取ってから行うのが無難でしょう。
もっとも,児童福祉法がその罪につき年齢確認義務を置いているのは,その対象が児童の使用者であり,その地位に基づく高度な責任が存在すると考えられる為です。その為,何の特殊な関係性にもない人物が当事者である条例違反の場合にまで,児童の使用者と同レベルの年齢確認義務を科すことは,不当とも考えられます。
この点につき,明示的に示した裁判例等は特にありませんが,使用者たる地位には無い点,少なくとも一定の年齢確認を行った点等を強く主張すれば,年齢知情の点についての無過失が認められる可能性は十分に存在すると言えるでしょう。当該主張をする為には,どのような経緯で年齢確認をしたか,相手との会話をできる限り明確に証拠化する必要があります。
場合によっては,弁護人面前調書の作成等も検討すべきでしょう。
もっとも,本件のように,相手女性に口頭で確認したという程度では,年齢確認の点において過失有りと認定されてしまう可能性はやはり高いでしょう。その為,以下で述べるとおり,ある程度条例違反の成立も念頭に置いた活動を行う必要があります。
3 予想される展開と考えられる弁護活動について
ア 以上を踏まえ,今後の予想される展開と,処罰を回避する為に行うべき弁護活動について解説致します。
仮に相手が18歳未満の青少年であり,その親が警察に相談したり,相手青少年が警察に補導される等して携帯の連絡先を警察がチェックしたりすれば,あなたが上記の罪の被疑者となり事件化する可能性は高いといえます。
しかし,処罰の対象となる状況であっても,相手青少年の保護者との間で正式に示談合意を締結すれば,仮に事件になったとしても,不起訴処分となり,前科がつくことを回避することができる場合もあります。
この点,(1)健全育成条例違反や,特に(2)児童買春罪は,特定の被害者を保護する法律では無く,社会風俗一般を保護する規定であるとの理由から,担当する検察官によっては,示談が成立しても処罰することを強行に主張されてしまう可能性もあります。
そのような場合には,相手青少年には近づかないという不接近誓約書や,公共機関(弁護士会等)に対する寄付を行う等,追加の弁護活動を検討する必要があります。
また合わせて,上記「みだらな性行為」の定義や,年齢知情の点について,法律の解釈の面や,事実経過を詳細に主張する必要もあります。
このような主張・追加の弁護活動を説得的に行うことによって,一反,検察官が罰金刑を選択しようとしても,逆転で不起訴処分となる事例もあります。
イ 不同意性交罪についても,同様に被害者との示談が,処罰を回避するためには最も必要な活動です。不同意性交罪は,法律上の親告罪(被害者の告訴がなければ処罰できない犯罪)ではないことから示談をしても必ずしも起訴を回避できるものではありませんが,多くの事案では,適切な被害弁償により示談が成立していれば,事件として起訴される可能性は低いです。
ウ また,これらの未成年相手の刑事事件は,逮捕等に至ることも非常に大きい事案です。本件のように,突然相手からの連絡が無くなった場合,既に両親が事態を把握し,被害届を警察に提出しており,突如として逮捕されてしまうケースも多くみられます。
一方,警察が逮捕に動く前に先んじて捜査機関に自ら出頭(自首)したり,被害者との示談を成立させたりすることができれば,逮捕自体を回避できる場合も多いです。
その為,相手の年齢につき不安がある場合には,可能な限り早急に弁護士に相談する等し,場合によっては警察に対する自首,逮捕回避の為の上申等を依頼すると良いでしょう。
4 まとめ
未成年に対する性犯罪は,担当する検察官や弁護人によって,起訴,不起訴が非常に別れやすい類型の事件です。
また,法改正の直後は、捜査機関が積極的な立件を試みる傾向が強いです。本件のように,突然相手からの連絡が無くなった場合,既に両親が事態を把握し,被害届を警察に提出しており,突如として逮捕されてしまうケースも多くみられます。
突然の逮捕や,前科等の不利益を回避する為には,まず早め早めの対策を心掛け,迅速かつ適切な対応を取ることが重要です。
まずは専門家に適切な方策と対応を相談することをお勧め致します。
以上