造作買取請求権の行使と建物明渡義務の履行|同時履行の抗弁権はあるか

民事|造作買取請求権|最高裁昭和29年3月11日判決|買取請求権は同意で排除できるので強行規定ではない(借地借家法33条、37条)

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

私は、元々、古い日本家屋や歴史ある建造物が好きだったのですが、10年ほど前に思い切って脱サラして、古民家をリノベーションしてレストランを営むことにし、古民家の所有者の方との間で、建物賃貸借契約を締結しました。その際、私は、所有者の方に対し、自分が古民家レストランを営むことを予定しており、設計図を示して、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式を備え付ける必要があることを伝え、その了解を得ていました。この点は、契約書にも明記されています。

開店直後は、真新しさもあって、お店も繁盛していたのですが、次第に客足も遠のき、ここ数年は赤字経営が続いていたため、建物賃貸借の契約期間が満了するタイミングで、お店を閉めることにしました。その上で、私は、借金をして設備投資を行っていたことから、少しでも資金を回収したいと考え、所有者の方に対し、設備一式の買取りを請求しました。ところが、所有者の方から、買取りなんてとんでもない、むしろ設備一式を撤去して早く出て行けと言われてしまいました。どうやら、所有者の方は、リノベーション済みの貸店舗物件として、既に入居者の募集を開始しているようです。

私は、所有者の方に対し、設備一式の買取りを請求することができないのでしょうか。所有者の方が設備一式の買取りに応じてくれないのであれば、建物の明渡しに応じたくはないのですが、そのような対応をしても問題ないのでしょうか。なお、契約書には造作の買い取り請求をしないとかスケルトンの状態にして返すなどの条項はありません。

回答:

まず前提として、相談者様は、古民家の所有者との間で、建物賃貸借契約を締結しているので、借地借家法の適用を受けることになります(同法1条)。なお、相談者様は、古民家レストランを営むことを目的としていますが、建物利用の目的が居住用であるか、事業用であるかは問われません。

その上で、借地借家法は、建物賃貸借が期間満了又は解約の申入れによって終了する場合、建物賃借人が建物賃貸人に対し、建物賃貸人の同意を得て建物に備え付けた畳、建具その他の造作や、建物賃貸人から買い受けた造作を時価で買い取るよう請求することができると規定しています(同法33条1項)。

ここでいう「造作」については、判例上、「建物に附加せられた物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるもの」と定義されています(最高裁昭和29年3月11日判決)。例えば、テーブルやイス等の家具類は、独立性が極めて高く、たとえこれらが床に固定されていたとしても、容易に取外し可能で、取り外しても価値が減じることは想定されないため、「造作」には当たりません。逆に、その物が建物に付合してしまった(その物が建物に結合して、分離することができない状態となってしまった)場合にも、建物賃借人の所有には属さないことになるため、「造作」には当たりません。

本件では、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式が「造作」に当たるかが問題となります。この点、古民家の所有者が、リノベーション済みの貸店舗物件として、既に入居者の募集を開始している、との事情に鑑みれば、少なくとも現時点においては、古民家は、居住用物件ではなく、貸店舗物件として取り扱われるのが相当といえるため、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式は、建物の使用に客観的便益を与えるものといえるでしょう。これに加え、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式が古民家から独立しているものの、設置方法や重量等から、その取外しに相当の労力や費用を要し、これらを取り外すと、その価値が大幅に減じられるということであれば、その設備一式は「造作」に当たり、相談者様は、古民家の所有者に対し、造作買取請求権を行使して、その設備一式を時価で買い取るよう請求することができることになるでしょう。

もっとも、建物賃借人であった者は、判例上、同時履行の抗弁権(民法533条参照)又は留置権(同法295条参照)により、建物所有者が造作の買取代金を支払うまでの間、建物自体の明渡しを拒むことはできないとされているため(最高裁昭和29年7月22日判決参照)、相談者様は、古民家の所有者が、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式の買取代金が支払われないことを理由に、古民家の明渡しを拒むことはできません。

関連事例集1217番参照。

造作買取請求権に関する関連事例集参照。

解説:

1 借地借家法の概要

⑴ 従前、借家法や借家法という法律が存在しましたが、同法に対しては、借地権や建物賃借権の永続性・長期性を画一的に保障するだけでは、今日の多様な土地利用関係や建物利用関係に対応することができない、との指摘がなされていました。そこで、借地借家法が平成3年10月4日に公布され、平成4年8月1日に施行されました。同法の施行時に借地法や借家法は廃止されました。

借地借家法は、「建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定める」ことを目的とした法律であり(同法1条)、建物所有を目的とする地上権や土地の賃借権、建物の賃借権に適用されます。居住用であるか、事業用であるかは問われません。

⑵ 借地借家法による借地借家制度改正のポイントとしては、①借地法や借家法等の実質的改正・一本化、②借地権の存続期間、③定期借地権の創設(その後の法改正で、定期借家権も創設されています。)、④期限付建物賃貸借の創設、⑤正当事由の具体化・明確化、⑥地代等増減請求事件における調停前置主義の導入、⑦転借地関係の法制度の整備・明確化の7つが挙げられます。

以下では、借地借家制度改正のポイントの中でも特筆すべき事項として、③定期借地権や定期借家権の創設、⑤正当事由の具体化・明確化について、簡単に説明します。

まず、③定期借地権や定期借家権の創設については、従前、正当事由制度(借地権設定者や借家権設定者は、自己使用の必要性等の正当事由がなければ、賃貸借契約の更新を拒絶することができない、という制度)の導入により、土地所有者や建物所有者は土地や建物を貸すことに消極的になり、たとえ貸す場合であっても、半永久的に返ってこないことを見越して、高額の権利金を要求するという傾向が生じていました。他方、土地や建物の借り手の側としても、必ずしも半永久的な賃貸を望んでいるわけではなく、むしろ、権利金が低額で済むのであれば、短期間の賃貸借であっても構わないという場合も少なくないと考えられました。そうした実情を踏まえ、借地借家法により、始めに定められた契約期間が満了することで、借地関係や借家関係が終了し、その後の更新はない、という定期借地権や定期借家権が創設されることになりました(同法22条、38条)。

次に、⑤正当事由の具体化・明確化については、従前、土地所有者や建物所有者が土地や建物を貸すことに消極的になっている一因として、正当事由制度が抽象的で不明確であることが挙げられていました。そこで、借地借家法は、借地法や借家法における正当事由制度を改め、これをより具体的で明確な規定としました。具体的には、正当事由があるか否かは、(a)土地や建物の使用を必要とする事情のほか、(b)土地や建物の賃貸借に関する従前の経過、(c)土地や建物の利用状況及び(d)土地や建物の現況並びに(e)土地や建物の賃貸人が土地や建物の明渡しの条件として又は土地や建物の明渡しと引換えに土地や建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して決せられることになります(借地借家法6条、28条)。

2 造作買取請求権について

⑴ 建物賃借人が建物に備え付けた畳、建具その他の造作や、建物賃貸人から買い受けた造作は、建物賃借人の所有に属する物であるため、建物賃貸人は、賃貸借契約の終了時に、賃貸人に対し、原状回復義務の履行として(民法621条参照)、造作の撤去を求めることができることになりそうです。

もっとも、かかる帰結は、造作が取り外してしまえば、ほとんど価値がなくなってしまう場合が多いことからすれば、社会経済上も妥当ではありません。また、必ず備え付けた造作を自ら撤去しなければならないということであると、建物賃借人による費用投下を鈍らせ、ひいては、建物利用を停滞させることにも繋がりかねません。

そこで、借地借家法は、建物賃貸借が期間満了又は解約の申入れによって終了する場合、建物賃借人が建物賃貸人に対し、建物賃貸人の同意を得て建物に備え付けた畳、建具その他の造作や、建物賃貸人から買い受けた造作を時価で買い取るよう請求することができると規定しました(同法33条1項)。

⑵ア 上記のとおり、造作買取請求権の対象となるのは、建物賃貸人の「同意」を得て建物に備え付けた畳、建具その他の「造作」や、建物賃貸人から買い受けた「造作」に限られます。建物賃借人に無断で建物に備え付けた畳、建具その他の造作は、造作買取請求権の対象から外れます。

イ ここでの建物賃貸人の「同意」は、ある程度柔軟に捉えられており、備え付ける前のものでも、後のものでも差支えなく、明示であるか、黙示であるかも問われません。

また、契約又は目的物の性質によって定まる用法に従った建物利用のために客観的に必要不可欠な造作は、賃貸借契約の締結の中に、その備え付けの同意が含意されていると見ることができます。それ以外の造作については、建物賃貸人がその備え付けの事実を知りながら、あえて異議を述べなかった場合には、事後的かつ黙示の同意があるものと認めて良いでしょう。

ウ 「造作」については、判例上、「建物に附加せられた物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるもの」と定義されています(最高裁昭和29年3月11日判決)。

例えば、テーブルやイス等の家具類は、独立性が極めて高く、たとえこれらが床に固定されていたとしても、容易に取外し可能で、取り外しても価値が減じることは想定されないため、「造作」には当たりません。逆に、その物が建物に付合してしまった(その物が建物に結合して、分離することができない状態となってしまった)場合にも、建物賃借人の所有には属さないことになるため、「造作」には当たりません。この場合は、造作買取請求権の問題ではなく、有益費償還請求権(その物の客観的価値を増加するために支出した費用の償還を求めるができる権利)の問題となります(民法608条2項参照)。

なお、建物賃借人が個人的な趣味として備え付けたような物も、建物の使用に客観的便益を与えるものとはいえ

ないため、「造作」には当たりません。

⑶ 本件では、まず、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式を備え付けることにつき、建物賃貸人の「同意」があったかが問題となります。この点、相談者様は、古民家の所有者(建物賃貸人)に対し、自身が古民家レストランを営むことを予定しており、設計図を示して、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式を備え付ける必要があることを伝え、その了解を得ていたということですので、その設備一式を備え付けることにつき、古民家の所有者(建物賃貸人)の「同意」があったものと認められます。その旨が契約書にも明記されているということですので、証拠関係としても十分といえるでしょう。

次に、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式が「造作」に当たるかが問題となります。この点、古民家の所有者が、リノベーション済みの貸店舗物件として、既に入居者の募集を開始している、との事情に鑑みれば、少なくとも現時点においては、古民家は、居住用物件ではなく、貸店舗物件として取り扱われるのが相当といえるため、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式は、建物の使用に客観的便益を与えるものといえるでしょう。これに加え、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式が古民家から独立しているものの、設置方法や重量等から、その取外しに相当の労力や費用を要し、これらを取り外すと、その価値が大幅に減じられるということであれば、その設備一式は「造作」に当たるものと認められることになるでしょう。なお、古民家の所有者が、リノベーション済みの貸店舗物件として、既に入居者の募集を開始していた、という事実を立証するための証拠として、賃貸物件の募集チラシ等を予め入手しておいた方が良いでしょう。

以上より、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式が古民家から独立しているものの、設置方法や重量等から、その取外しに相当の労力や費用を要し、これらを取り外すと、その価値が大幅に減じられるということであれば、相談者様は、古民家の所有者に対し、造作買取請求権を行使して、その設備一式を時価で買い取るよう請求することができることになるでしょう。

なお、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式が古民家から独立したものといえるか、その取外しに相当の労力や費用を要し、これらを取り外すと、その価値が大幅に減じられることになるか、という点については、現況を実際に確認してみない限りは、その見通しをお伝えすることは困難と言わざるを得ませんので、お近くの法律事務所でご相談いただき、弁護士に実際に確認してもらうことをお勧めします。

(4)なお、造作買取請求権については、新法では、特約で排除することが認められ(新法33条、37条)、これは旧借家法の時代の契約であっても同様とされています(新法附則4条本文)。そのため、問題となる造作買い取り請求権についてはこれを排除する契約書が多くなると予想されます。

3 造作買取請求権の行使と建物明渡義務の履行との関係について

建物賃借人であった者は、判例上、同時履行の抗弁権(民法533条参照。契約の一方当事者において、他方当事者が債務の履行を提供するまでの間、自身の債務の履行を拒絶することができる権利。)又は留置権(同法295条参照。他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまでの間、その物を留置することができる権利。)により、建物所有者が造作の買取代金を支払うまでの間、造作の明渡しを拒むことはできるものの、建物自体の明渡しを拒むことはできないとされています(最高裁昭和29年7月22日判決参照)。

学説からは、造作の明渡しを拒むことはできるものの、建物自体の明渡しを拒むことはできないとすると、建物賃借人であった者は、一旦、造作を取り外して、建物所有者が造作の買取代金を支払うまでの間、これを保管しなければならないことになるが、造作を取り外せば、その価値が減じられてしまうため、造作買取請求権を認めた意義が没却されることになる、といった強い批判も根強くありますが、判例は、造作代金債権は、あくまで造作に関して生じた債権であって、建物に関して生じた債権ではない、との理由から、上記のとおり、同時履行の抗弁権や留置権の成立を否定しています。

そのため、相談者様は、古民家の所有者が、店舗用の調理台、空調、ボイラー、ダクト等の設備一式の買取代金が支払われないことを理由に、古民家の明渡しを拒むことはできません。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文・判例

【借地借家法】

第1条(趣旨)

この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。

第6条(借地契約の更新拒絶の要件)

前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

第22条(定期借地権)

1 存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第一項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。

2 前項前段の特約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第三十八条第二項及び第三十九条第三項において同じ。)によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなして、前項後段の規定を適用する。

第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

第33条(造作買取請求権)

1 建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。

2 前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。

第38条(定期建物賃貸借)

1 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。

2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

3 第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

4 建物の賃貸人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供することができる。この場合において、当該建物の賃貸人は、当該書面を交付したものとみなす。

5 建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。

6 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。

7 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。

8 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

9 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。

《参考判例》

(最高裁昭和29年3月11日判決)

上告代理人弁護士田中徳一の上告理由第一点について。

上告人が大正一三年一〇月一日本件建物を借受け同年同月二七日借家権及び造作代名義で一四、〇〇〇円、昭和二年一二月五日及び同年同月一九日の二回に造作権利増金名義で各一、二五〇円宛計二、五〇〇円を被上告人の前主に交付したこと並びに上告人がその後昭和一六年七月一八日まで十数年間本件建物を賃借使用したことは、原判決が適法に確定したところである。従つて、右金員が原判決の認定したように、本件賃貸借の設定によつて賃借人の享有すべき建物の場所、営業設備等有形無形の利益に対して支払われる対価の性質を有するものである限り、上告人が前述のように既に十数年間も本件建物を賃借使用した以上は、格段な特約が認められない本件では、賃貸借が終了しても右金員の返還を受け得べきものでないこというまでもないものといわなければならない。それ故所論第一点の第一は採用し難い。また、同第二の寄託であるとの主張並びに同第三の代金であるとの主張は、既に原判決が適格なる証拠又は明認すべき資料なしとして排斥したところであり、同第二、第三の論旨は、結局原判決の認定を非難するか又は原判決の認定に副わない事実関係を前提とする法令違反の主張に帰し、いずれも上告適法の理由として採用することはできない。

同第六点について。

借家法五条にいわゆる造作とは、建物に附加せられた物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるものを云い、賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため、特に附加した設備の如きを含まないと解すべきであつて、これと同趣旨に出でた原判示は正当であり、論旨は異る見解の下に原判決の事実認定を非難するものであつて、採用することはできない。

同第三点乃至第五点(同第二点は存在しない)について。

同第三点は、原審が適法になした事実の認定並びに理由の判示を非難するに過ぎないものであり、同第四点は、前点を前提とする単なる法令違反の主張であり、同第五点は、原審の認定しない事実を前提とする法令違反の主張であつて、すべて、最高裁判所における民事上告特例法一号乃至三号のいずれにも該当しないし、また、同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとも認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(新潟地裁昭和62年5月26日判決)

(本訴請求について)

一 請求の原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告会社の主張する本件造作等について検討する。

まず、本件建物についての被告と訴外鳥忠との間の賃貸借契約と、被告と原告会社との間の本件賃貸借契約を締結した経緯について検討してみるに、〈証拠〉によると次の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 被告は個人で農業兼不動産業を営む者であるが、昭和五三年末ころから、被告の父親と新潟市内で大衆割烹店を経営する訴外鳥忠の役員との間で、訴外鳥忠がファミリー・レストランの経営をするため、その営業用の建物を建築して貸して欲しいと頼まれ、最初は断つたが、昭和五四年四月一九日ころ、訴外鳥忠と被告との間で、被告が訴外鳥忠の設計に従つて本件建物を建築し、その所有権は被告のものとなること、使用目的はレストラン営業とし、内装は、訴外鳥忠が自己の費用で行うこと、賃料は一か月金八五万円(その後営業開始までの間の一か月は金六〇万円とすることで合意ができた)、賃貸期間は、昭和五四年八月一日から同六四年七月三一日(契約書中には、昭和六三年七月三一日と記載があるが、これはタイプの間違いであること)までの一〇か年間とする賃貸借契約を締結し、その趣旨の契約書(乙第七号証)を作成したこと、その契約書中には、第四条で賃料については、右の契約時から五年間は据置きとし、その後三年間は一割増しの賃料、以後三年毎に従前賃料の一割増の賃料とする、第五条で右契約の保証金は金一〇〇〇万円を契約締結と同時に賃貸人(契約書には、賃借人となつているが誤記であろう)に支払い、契約終了時には、賃貸人は賃借人に無利息で右金員を返還する、第六条で事由の如何を問わず、賃借人が一〇年の賃借期限に満たない時点で右賃貸借契約を解約するときには、賃貸人は、保証金返還の義務を免責される。ただし、賃貸人の責に帰すべき事由により賃借人が解約する場合には、この限りではない。

第七条、第一〇条で賃借人は、賃借建物を善良なる管理者の注意をもつて管理し、店舗内部の保守、管理、修理費用を負担する。第九条で、賃借人が営業上必要とする店舗の模様替、造作変更等については、事前に賃貸人の文書による承諾を得たうえで実施すること、

第一五条で賃借人は賃貸人の文書による承諾がなければ、賃借建物の転貸、賃借権の譲渡をすることはできないとの趣旨の契約内容の合意がなされていること、

(2) 被告と訴外鳥忠間の本件建物についての賃貸借契約中、保証金に関する部分は、本件建物の建築は、設計は訴外鳥忠の発注で行うこととして、その建築費用は被告において負担することとなつたことから、そのために被告が同意しなければならない必要な金額の調達がかなり高額となり、そのため被告はその負担費用等を担保する目的のために訴外鳥忠の了解を得て設けられた条項であること、

(3) 被告は昭和五四年七月ころ本件建物を新築し、同月二五日付で所有権の保存登記をなした。本件建物は、鉄骨平家建瓦葺店舗で、その形状からすると住居用に使用するには不適といわざるを得ないという建築様式であること、そこで、訴外鳥忠は、昭和五四年八月一日ころから、本件建物で大衆割烹として営業を開始したが、同年一二月末ころからは客足が遠のき、そのために営業不振の状況となり、閉店のやむなきとなつたこと、

(4) 訴外鳥忠は、昭和五五年五月ころ、被告に対し、訴外鳥忠に代つて新たな賃借人として原告会社に本件建物を賃借させて欲しい旨申出をし被告としては、原告会社の本店が山形県鶴岡市にあり、新潟県の業者でないこと等から最初は断つたが、結局訴外鳥忠が、原告会社と被告との間の賃貸借契約に連帯保証人となることを条件にして、昭和五五年七月一四日、被告と原告会社との間で本件建物について、賃借人を訴外鳥忠から原告会社に交替することとなつたこと、本件賃貸借契約の内容として、その契約書(乙第八号証)には次のように合意がなされていること、

『第一条 甲(賃貸人たる被告、以下同じ)は後記物件目録記載の建物(以下単に賃貸建物という)を月額賃料金六〇万円、期間は昭和五五年八月一日から昭和六二年七月三一日までの七ヶ年と定めて乙(賃借人たる原告会社、以下同じ)に賃貸し、乙はこれを賃借する。

第二条 乙は賃貸建物をレストラン(食堂)営業の目的に使用するものとし、これ以外の用途に使用するときは甲の書面による同意を得なければならない。

第三条 乙は毎月の賃料を前月末日までに甲の指定する銀行口座に振込んで支払う。

第四条 賃料については、本契約の始期より四ケ年は据置くものとし、その後三年間は一割増しの賃料とする。

尚、契約を更新する場合の賃料額は別途協議して定める。

第五条 乙は本件契約の保証金として金一〇〇〇万円を契約締結と同時に甲に支払う(従前丙《訴外鳥忠、以下同じ》が甲に預託していた契約保証金を乙のために振替える)。

右保証金には利息を付さない。

第六条 事由の如何を問わず、乙が第一条の七ヶ年に満たない時点で本契約を解約するときは、甲は前項の保証金の内金七〇〇万円の返還義務を免責される。

但し、甲の責に帰すべき事由により、乙が解約する場合はこの限りではない。

第七条 本契約が期間満了により終了したときは、甲は乙に第五条の保証金を全額返還する。

第八条 前記第五条の保証金は乙の賃料支払をはじめ契約不履行及び不法行為によつて甲に与えることのある一切の金員支払義務を担保する。

第九条 乙は契約期間中、賃貸建物の内、店舗内部の保守、管理、修理費用を負担する。

右以外の管理、修理費用及び公租公課は甲の負担とする。

第一〇条 省略

第一一条 乙が営業上必要とする店舗の模様替、造作変更等については、乙の費用において行なうものとする。

又、乙は右工事を事前に甲に通知し、文書による承諾を得なければならない。

第一二条ないし第一六条は省略

第一七条 乙は甲の文書による承諾がなければ、賃借権の譲渡、転貸をすることができない。

第一八条 契約を終了したときは、乙は建物を原状に復して甲に返還しなければならない。

但し、甲の承諾を得て当時の現状で甲に明渡すこともできる。

第一九条 乙が本件契約の途上において解約を申し出るときは、乙は内部造作に対する一切の権利を放棄する。

但し、甲に責のある場合はこの限りではない。

第二〇条は省略

第二一条 丙は右二〇ケ条にわたる甲、乙間の約定を承認し、ここに右約定により乙が負担する一切の債務を連帯保証する。

第二二条 甲、乙及び丙は右約定に定めのない事項については相互に誠実に協議し、契約の継続に努めるものとする。』

(5) そこで原告会社は、昭和五五年七月一四日の契約により、本件建物を賃料一か月金六〇万円、賃借期間昭和五五年八月一日から同六二年七月三一日までの七年間との約定で賃借することとし、そこで、レストラン「かに船」との商号で営業を開始したがその後の営業活動が思わしくないため、昭和五九年九月末日をもつて、本件賃貸借契約を解約した(この事実は当事者間に争いがない)。

三(一) 本訴請求の原因(四)の事実および本件建物には、当初の賃借人である訴外鳥忠が、昭和五四年八月ころ、レストラン用店舗として、本件鳥忠の造作工事を施工した事実は当事者間に争いがない。

(二) 本件建物の内装工事は、前項(1)で認定のとおり、訴外鳥忠が施工することに賃貸人たる被告は同意していること、そして、その後本件建物について、賃借人が訴外鳥忠から原告会社に交替することを承諾していること、証人阿部秀夫の証言によると、原告会社は、訴外鳥忠から本件鳥忠の造作を賃借人の交替の際金一五〇〇万円で譲り受けたことが認められる。更に弁論の全趣旨によると被告は、右譲渡の金額はわからないと述べているが、原告会社が従来どおり、本件鳥忠の造作を使用収益することについてはなんら異議を述べていないことが認められる。

四(一) 〈証拠〉によると次の事実が認められる。

(1) 訴外鳥忠は、被告から本件建物を賃借するにあたり、内装はすべて訴外鳥忠が施工することとし、そこで、訴外株式会社高橋組に請負わせて、本件建物について、いわゆる訴外鳥忠の造作として、「①外構工事②家具工事③木製建具工事④塗装工事⑤内装工事⑥看板工事⑦電気工事⑧給排水衛生ガス工事⑨冷暖房工事⑩厨房設備工事等を施工し、その費用は総額三〇〇〇万円程度かかつたこと、その後原告会社は、訴外鳥忠から、その造作設備一切を総額金一五〇〇万円で買い受けたこと、

(2) 原告会社が本件において、借家法五条にいう造作として主張する物件は、別紙物件目録(二)①ないし⑨記載の本件造作等であり、これらは、すべて、訴外鳥忠が被告から本件建物を賃借する際、被告の同意(明示と黙示を含む)を得て設置したものであること、

(3) 原告会社が、本件建物を被告から賃借した後、本件店舗の造作設備等の改装工事なし、その都度被告の同意を得たとの事実は認めることはできないし、被告と原告会社との間の本件賃貸借契約によると賃借物の模様替、造作変更については事前の文書による承諾が必要とされているが、右事実を証する文書は提出されていないこと、

(二) そうすると、本件において、原告会社が借家法五条にいう造作買取請求権の対象として、その買取を主張できる物件は訴外鳥忠が被告の同意を得て、本件建物に設置した本件鳥忠の造作物件に限られるということができる。そして、原告会社において主張する本件造作等の各物件が本件訴外鳥忠の造作と一致するか否かについて疑問の余地がないわけでもないが、本件訴訟の提起後における当事者双方の合意により、本件造作等の各物件のみが、原告会社が訴外鳥忠から買受けた物件であり、これについてのみ、いわゆる買取請求権を行使したとするということで更に検討を進めることとする。

五 そこで、本件建物についての本件造作等について検討する。

(一) 借家法第五条による建物賃借人の造作買取請求権にいう造作とは、「建物に附加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便宜を与えるものをいう。」(昭和二九年三月一一日最高裁判決・民集八巻三号、六七二頁参照)と解すべきである。

このことは、賃貸人が賃貸借契約の終了により建物の返還を受けたうえで、その本来の使用方法に従つて利用できる場合に限る必要はない。なぜなら、借家法に定める造作買取請求権は、不動産の利用に関し、資本投下の結果が有形的に独立の存在を有しない場合に肯定される有益費償還請求権の趣旨をも活用したうえで、賃借人たる借家人を保護し、借家人が投下した資本を回収することを可能ならしめる趣旨に解釈するのが妥当であるというべきである。

そうすると、造作として、仮に一体の設備があり、各部品は独立した物として分離が可能であるが、それが一つの設備の中に組みこまれている場合、そして、それらの設備が建物に附加され、建物の使用に客観的な便益を与えているような場合には、一式の設備として買取請求権の対象となることがあるものと解し、それらはその時価によつて評価するのが相当というべきである。

しかしながら、賃借人がその建物の利用にあたり特殊の目的のために使用することとして、特にその建物に附加した設備等は含まれないというべきである。

(二) 本件における本件造作等は、被告と訴外鳥忠との間の賃貸借契約において、訴外鳥忠が、賃貸人である被告の同意を得て設置した物件であり、それらを原告会社が被告の承諾のもとに訴外鳥忠から買受けて使用してきたものである。

(三) そこで原告会社の主張する本件造物等の本件①ないし⑨の各物件について、個々的に検討を加えることとする。

〈証拠〉を総合すると次の各事実が認められ、その事実によると本件造物等の本件①ないし⑨の各物件についてそれぞれ、次のように認定することができる。

(1) 本件①の厨房、調理用品等一式(甲第六号証の九ないし一二、甲第一〇号証の(1)ないし(50)、乙第一九号証の一九ないし三四の各写真参照)は、大衆割烹を営業目的とする訴外鳥忠が設置したものであり、その物自体は本件建物を使用して割烹やレストラン等の飲食業を営むについてはその物の存在は建物の使用に客観的な便益を与える物ということができる。それは、本件建物の使用目的がレストラン経営のために建築され、その形状も居住用建物としては不適当であることを考慮すると、本件①の物件の調理台、レンジ、食器棚(ただし、冷蔵庫は借家法五条にいう造作にはあたらない)、等は、建物に固定されており、かつ、割烹料理を営む業種についてしか利用できないというものでないかぎりは、レストラン用店舗としての本件建物の客観的用途からみて、借家法五条にいう造作と解するのが相当である。

(2) 本件②広告塔(甲第六号証の三の写真参照)は、コンクリート基礎付で、本件建物より離れて敷地の東隅の部分に設置されており、レストラン経営を目的として建築された本件建物の賃貸借であつても、常に必らずしも必要なものとはいえないし、賃借人がその建物を特殊の目的に使用するために特に附加した設備ということができ、そうすると造作には含まれないと解する。

(3) 本件③の冷凍庫およびその収納小屋(甲第一〇号証の(51)の写真参照)は、訴外鳥忠が、被告の同意を得て、収納小屋の設置とともに、これに適合した冷凍庫を据え付け固定したものであり、それには、本件建物から配管等が連結されており、その収去は著しく困難であることが認められるが、この冷凍庫を収納した小屋は、賃借建物である本件建物に建て増し部分として建築したものであり、本件建物とは別個の建物と認めるのが相当であり、冷凍庫が重量があり、その収去が困難であるとの一事をもつて、建物に附加した造作と認めることはできない。

(4) 本件④の燃料地下タンク一式(乙第一九号証の四〇の写真参照)は、屋外にあり、本件建物に連結されているが、タンク自体は本件建物の建ている敷地部分に埋めこまれてあり、地上部分にも付属の部品のあることも認められるが、右タンク自体を右土地から分離することは物理的に不可能ということができ、これは、まさに土地の一部と解するのが相当であり、従つて、造作と認めることは相当でない。

(5) 本件⑤の立像(小便小僧像)は、それ自体で独立性があるということができ、造作と解すべきではない。

(6) 本件⑥の空調、ボイラー、ダクト等設備一式(甲第一〇号証の(52)ないし(59)、乙第一九号証の三五ないし三九の各写真参照)は、個々の部品の中には、それぞれ独立性を持つている物も認められるが、電気や水道の引込工事等が造作と認められるとするならば、本件⑥の空調、ボイラー、ダクト等の設備一式は、現在の住生活を考慮し、本件建物が営業用の店舗であることも併せ考えると、いわゆる造作と解するのが相当である、

(7) 本件⑦の花壇工事(甲第六号証の二、乙第一九号証の三および四の各写真参照)は、本件建物とは別個の物というべきであり、例えば庭木、庭石、看板や店の日除け等と同じように考えると、これらは、本件建物に附加し、建物の使用に客観的便益を与えるものとはいうことはできず、従つて造作と解することは相当でない。

(8) 本件⑧の客室仕切り、食卓、イス等(甲第六号証の四ないし八、乙第一九号証の七ないし一六の各写真参照)は、食卓やイス等は、床に固定させられてはいるが、これらは、動産として移動が可能であり、従つて、家具什器と同様に独立性を有しているということができ、いわゆる造作と解することは相当でない。しかし、客室の仕切りその他の畳敷きの部分については、造作と解するのが相当である。

(9) 本件⑨の本件建物内装および設備工事一切(甲第一〇号証の(60)ないし(63)、乙第一九号証の四一ないし四四の各写真参照)は、壁の付設物、吊り照明器具を除き(これらは、いずれも取りはずしが出来るし、その点での独立性を有し、それらの物が、本件建物の使用に客観的便益を与える物とはいえない)その余の電気などの引込設備等は、附加された建物に便益を与える物ということができ、いわゆる造作に該当するということができる。

(四) 以上を総括すると、本件建物における造作は、本件①の厨房、調理用品等一式、本件⑥の空調、ボイラー、ダクト等設備一式、本件⑧の食卓と椅子を除くその他の部分、本件⑨のうち電気の引込工事等が、借家法五条にいういわゆる造作にあたると解すべきであり、その他の物件は、借家法五条にいう造作には該当しないものというべきである。

(五) そうすると、次に、賃借人たる原告会社が主張する本件造作等のうち、法律上造作と認められる物件について、その時価の検討に入らなければならない。時価算定の時期は、本件賃貸借契約の終了時である昭和五九年九月三〇日における時価によるのが相当である。

(1) 〈証拠〉によると次の事実が認められる。

(イ) 原告会社は、訴外鳥忠から、本件造作等を含め、当時訴外鳥忠が大衆割烹店の開店のために必要として施工した諸設備一式(これらすべてを原告会社は造作という)を一五〇〇万円で買い受けたこと、しかし、右造作と称する物のうちで、当裁判所が借家法五条にいう造作と認めた物件の各価格を算定するについては、訴外鳥忠が請負工事として注文をし、その際、工事の見積書として昭和五四年六月当時に訴外鳥忠に対して提出された書類(甲第四号証の一)によると、本件造作等の本件①の厨房、調理用品等一式については、当初の施工工事の際の見積りとしては(甲第四号証の一の見積書四〇ページから四六ページ参照)合計金六五〇万円となつており、本件造作等の本件⑥の空調、ボイラー、ダクト等設備一式については、その見積りは(同見積書二八ページから三九ページ参照)合計金九九〇万三三四〇円となつており、本件造作等の本件⑧の客室仕切り、食卓、イス等については、食卓、イス等はボルトで固定されているが、これらを除いて、その見積りは(同見積書の六ページ参照)木製建具工事として合計金八一万三〇〇〇円となつており、本件造作等の本件⑨の本件建物内装および設備工事の一切としての一部として電気設備関係の見積りは(同見積書の一〇ページから一九ページ参照)幹線動力設備、電灯コンセント設備照明器具設備、電話配管設備、放送配管設備を含め合計金四八〇万円となつていること、

そして右の各金額の単純合計額は、金二二〇一万六三四〇円となる。

(ロ) しかしながら、右金額で示される各物件の中には、借家法五条にいう造作に含まれない物件もあり、それらの価額を控除することにして、借家法五条にいう造作について、施工工事の発注時の価額を算定し、それを本件における造作買取請求権行使の時の時価を算定する基準とすることは、現時点においては、到底不可能といわざるを得ない。

(ハ) そこで、当裁判所としては、本件賃貸借契約における賃借人たる原告会社が、その所有に属する借家法五条にいう造作として、その買取請求権を行使した時点で、その各物件の時価は、原告会社が訴外鳥忠から買い受けた価格とその中で当裁判所が造作と認めなかつた物等その他の諸事情をも考慮し、大雑把にいつて、金二〇〇万円と算定するをもつて相当と認める。

六 原告会社の主張する保証金の返還請求について検討する。

(一) 原告会社が被告に対し、昭和五九年七月二五日到達の書面で、同年九月末日をもつて、本件賃貸借契約による借家権を放棄する旨の意思表示をなしたこと、原告会社は、右通告期限の同年九月三〇日に、原告会社が主張している本件造作等を本件建物内にそのまま存置したまま、被告に本件建物の鍵を交付して本件建物を明渡したことは、当事者間に争いがない。

(二) 原告会社の本件賃貸借契約による賃借権の放棄にあたり、右契約の契約条項(契約書第六条)により、原告会社は、被告に対して、金一〇〇〇万円の保証金のうち金三〇〇万円の返還請求権を有し、これを被告も認めており、更に原告会社は、被告に対し、昭和五九年二月に被告との間で成立した賃料支払契約により、被告に対し、金八〇万円の支払義務を有していること、従つて、右被告の賃料支払債権による金八〇万円と、原告会社の被告に対する金三〇〇万円の保証金返還債権とを互いに相殺し、その結果、原告会社は、被告に対し、金二二〇万円の支払を求める債権を有していることは、被告の認めるところである。

(三) 被告の原告会社に対する保証金返還債務の履行期は、返還時期につき特約などの認められない本件においては、本件賃貸借契約の終了時である昭和五九年九月三〇日以後であるということができる。従つて、原告会社は、被告に対してその翌日である同年一〇月一日からは遅延損害金の支払を請求することができるというべきである。

(四) 被告は、保証金の返還債務を認めながらもこれに対し、右保証金の支払いをしないのは、原告会社が本件賃貸借契約の終了にあたり、本件建物の原状回復義務を完全に履行しなかつたためと主張するが、それも単なる清掃が充分でなかつたとの主張(ただし、原告会社は清掃のうえ明渡したと主張している)であり、それが、本件保証金の支払をしないことの法律上の主張と解することはできない。

もつとも、被告が更に主張する、原告会社の原状回復義務の中には、原告会社が主張し、被告がこれを争つている本件造作等の存置による原状回復義務違反があるとの主張も考えられるが、右の主張については、後述のとおり、被告の右主張は採用のかぎりではない。

(五) 原告会社は、被告との間の本件賃貸借契約に関する賃借権の放棄により、原告会社から被告に対して支払つた保証金一〇〇〇万円のうち金七〇〇万円については賃貸人である被告において支払義務が免責される条項の適用は、借家法の趣旨に反する暴利行為であり、公序良俗に違反して無効と解すべきであるとして縷々主張するが、被告と訴外鳥忠との関係、被告と原告会社との関係、その他本件賃貸借契約締結に至る諸事情を考慮すると本件における保証金(その実態はいわゆる敷金と解される)の額と、その不返還の特約には、公序良俗違反と断ずべき事情があつたと認めることは相当でないというべきである。従つてこの点に関する原告会社の主張は採用できない。

(反訴請求について)

七 反訴請求の原因(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。

八 そこで、本件建物についての本件賃貸借契約の終了により、原告会社が、原状回復義務を履行したか否かが問題となるのでその点につき検討する。

(一)(1) 本件建物内等に、本件賃貸借契約の終了後の翌日である昭和五九年一〇月一日から同六一年八月八日までの間に、本件造作等である本件①ないし⑨の物件が存置されてあつたこと、昭和六一年八月八日に、本件①⑤⑧⑨(ただし、本件⑧については食卓とイス等、本件⑨については照明器具等)を収去したことは、当事者間に争いがない。

(2) 本件造作等として、別紙物件目録記載の本件①⑥⑧⑨(①⑧⑨については、いずれも一部)の物件が、いわゆる借家法五条にいう造作と認めるのが相当であるとすると、原告会社は、右各物件について、借家法五条によりいわゆる形成権である造作買取請求権を行使し、それにより、右各造作は、本件建物の賃貸人である被告の所有に帰することとなる。

そして、右造作については、本件賃貸借契約の終了後の昭和五九年九月三〇日に、売主たる原告会社によるその引渡義務も履行しているということができる。

(二) これに対して、本件建物の賃貸人である被告は、原告の主張する本件造作等について、本件①⑥⑧⑨の物件を含めてそれらはすべて借家法五条にいう造作ではないと争い、それらが本件建物内に存置してある状況のもとでは、賃貸借契約の終了による賃借人の義務である原状回復義務を果していないとしていること、しかも、右各物件を本件建物内から排除するにはかなりの費用がかかることを理由として、右各物件が原告会社の所有であるから、被告としては、容易に手を触れることはできないし、そのため、右各物件の存置は、所有者としての被告の本件建物の利用を妨害し、少なくとも本件建物に対する本件賃貸借契約が終了した日の翌日である昭和五九年一〇月一日から、当事者の合意が成立して、原告会社によつて、本件建物内の各物件の搬出等が終り、被告が主張する原状回復がなされた日である昭和六一年八月八日までの間は、被告において、本件建物の使用を妨げられ、それによるその間の賃料相当の損害金が発生しそれを請求できると主張する。

そこで検討するに、弁論の全趣旨によると、本件は、原告会社の造作買取請求権の行使をめぐつて、互いにその「造作」の意義と範囲について見解の対立が生じた(それ以前に本件賃貸借契約の終了にからんで新たに賃借人を交替するということでやりとりがあつた)ことによるものであり、原告会社は、本件建物に対する本件賃貸借契約の終了日をあらかじめ予告し、その日である昭和五九年九月三〇日に本件建物についての鍵を被告に手渡して、本件建物を明渡し、被告は、右鍵を受領したこと、しかし、右の明渡に際し、本件建物内には、原告会社が主張する本件造作等が存置され、右の物件については造作買取請求権を行使したからすべて右各物件は賃貸人たる被告の所有に帰したと主張していること、これに対して、被告は本件賃貸借契約の終了による賃借人の義務として、原状を回復すべき義務があるのに、それをなさず、本件建物内に存置された本件造作等は、借家法五条にいう造作にはあたらず、従つて本件造作等は原告会社の所有物として存置され、それによる被告の所有建物の使用を妨害しているとしていたこと、そして、その後本件における和解の席上で当事者双方の合意によつて、昭和六一年八月八日に原告会社は本件建物内の本件①の厨房、調理用品等一式(甲第一〇号証の一ないし五〇の写真参照)、本件⑨の室内の照明器具(甲第一〇号証の六〇ないし六三の写真参照)および本件⑧の室内のテーブルセツト(四人組)八組、同仕切り(乙第一九号証の一〇、同号証の一二の写真参照)をそれぞれ本件建物内より収去し、あとは法律上の問題として「造作」の定義の検討によつて解決することを委ねることとしたこと、そして、更に、本件建物の鍵を交付した時の状況については、賃借人たる原告会社の主張には、借家法五条に定める造作と認められない物件も含まれていて、それが造作でないとするなら、それらに対する所有権を放棄するとし、それらも含めてすべて造作であるとし、それによつて造作買取請求権を行使したことによつて右各物件に対する所有権はすべて賃貸人たる被告に移転したとして、いわゆる造作以外の物件については、そのまま放置したといわれても止むを得ない状況のもとで、本件賃貸借契約の終了日である昭和五九年九月三〇日に本件建物の鍵を被告に交付したことが認められる。

(三) 右の事情のもとで検討してみると、借家法五条にいう造作買取請求権の行使と、原告回復義務の履行との間には、まず造作買取請求権の行使が優先するものといわなければならない。なぜなら、そうでなければ、借家法で造作買取請求権を認めた趣旨は没却されることとなるからである。

そうすると、賃貸人たる被告は、賃借人に対する本件建物についての本件賃貸借契約の終了による原状回復請求権の行使として、賃借人にその義務の履行を求め、それがないため自己の所有建物を使用収益すべき権利が妨害されたとすることは、賃貸人たる被告が、本件建物についての本件賃貸借契約の終了日に、本件建物の鍵を賃借人たる原告会社から受領して、本件建物を自由に利用できる状況となつた以上、賃借人に対し、その妨害の程度の如何によつては原状回復義務の不履行を理由とする損害の発生の主張をすることはできないこともありうるものというべきである(ただ、しかし、借家法五条にいう造作と認められない物件による所有権の侵害はあることが認められるが、その侵害の程度によりその排除に要する費用およびそれによる損害の発生は、後日金銭賠償請求をもつてすれば解決できる問題であるというべきである。)そこで賃借人たる原告会社の本件における妨害の程度について検討を加えると、収去に困難と思われる本件造作等のうち本件③の冷凍庫および同収納小屋については、それが本件家屋に建増しになつただけで、賃貸借契約の対象物であり、被告の所有権の本体である本件建物の利用にいずれ他日収去できる可能性のある右収納小屋等の存在は直ちに影響を及ぼすものとは考えられずその収去についても専門家に依頼すれば容易に可能であるといえること、そして、更に、収去については、本件造作等のうち本件②の広告塔、本件⑤の立像についても、同様にいうことができる。(そして、それに要した費用およびそれによる損害の賠償は当然に賃借人に請求できる。)そうだとすると、本件建物についての本件賃貸借契約が終了し、その賃借物の返還がなされて、自己の支配下にある本件建物とそれに付属している本件造作等の各物件について、一時的に自己の費用で収去し(それは後日賃借人に請求できる)そのうえで、自己の使用、収益が可能であるとして、それを求めることが、本件における賃貸人たる被告にとつて酷な要求ということができるであろうか。当裁判所としては、それについては消極であるといわざるを得ない。

(四) そうだとすると、本件建物について、本件賃貸借契約が終了して、本件建物についての鍵の交付を受けた賃貸人たる被告は、右契約終了後は、自己の責に帰すべき事由によつて本件建物の使用をしなかつたというべきであり、その間の本件建物を使用できなかつたことを理由とする損害金の発生による損害賠償を賃借人たる原告会社に対して求めることは信義則上からいつて許されないものというべきである。

(五) そうだとすると、原告会社が、借家法五条にいう造作を除くその余の本件造作等による本件建物の利用を妨げたとする被告の本件反訴請求は理由がないことに帰する。

九 そうすると、原告会社は、被告に対して、本訴請求として本件賃貸借契約の終了による保証金残額金二二〇万円の返還請求と、借家法五条にいう造作買取請求権の行使による売買代金請求として金二〇〇万円の合計金四二〇万円の支払いと右金員に対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭和五九年一〇月二八日から支払済みに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので、正当としてこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、他方被告が原告会社に対する反訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担については、本訴、反訴を通じ、民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言については、同法第一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

以上