同居の恋人によるDVと保護命令

刑事|保護命令制度の概要|手続き|被害者と加害者の利益対立

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文・判例

質問:

私には、都内某所のアパートで同居している年上の彼氏がおりました。始めの頃は、仲睦まじく生活していたのですが、彼が転職したことを切っ掛けに朝帰りをするようになり、その事で喧嘩が絶えなくなってしまいました。私が彼の朝帰りについて注意をすると、彼は次第に私に暴力を振るうようになったため、私はやむなく当該アパートを出て、友人の家に一時的に住まわせてもらうことにしました。その後しばらくして、彼から「逃げやがって許さない。絶対に見つけ出してやる。」というメッセージが送られてきました。私の友人達にも、私の居所を聞いて回っているようです。

私は怖くなって警察に相談したところ、警察から彼に対し、私に近寄らないようにと注意をしてくれました。しかし、彼から暴力を受けた際の診断書がないと、暴行罪や傷害罪での立件は難しい、メッセージの送信が繰り返し行われたわけではなく、ストーカー規制法違反として立件することも難しいということで、被害届を受理してもらうことはできませんでした。

このような状況の中、彼が友人の家に現れたり、私にメッセージを送ってきたりすることを防ぐ手段はないのでしょうか。いつか彼が友人の家に現れて、また暴力を振るってくるのではないかなどと思うと、夜も怖くて眠れません。彼から暴力を受けた際にできた痣の写真や、彼の暴力を友達に相談した際のメッセージのやり取り等は残っています。

回答:

交際相手からの暴力を防ぐ手段としては、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「DV防止法」といいます。)10条に基づく保護命令が考えられます。ストーカー規制法が恋愛感情の伴った付きまとい行為を対象とするのに対して、DV防止法は暴力行為を防止するための法律ですから、付きまとい行為がない場合でも将来的に暴力が行使されるおそれがある場合には適用になります。

この保護命令の種類としては、①接近禁止命令、②電話等禁止命令、③子への接近禁止命令、④親族等への接近禁止命令、⑤退去命令の5つが挙げられます。

相談者様の場合で言えば、①接近禁止命令(6か月間、申立人の身辺につきまとい、又は、その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないことを命ずる内容の保護命令)、②電話等禁止命令(①の接近禁止命令の期間中、無言電話、又は、緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話を掛け、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは、電子メールを送信すること等を禁止する内容の保護命令)、⑤退去命令(2か月間、申立人と共に生活の本拠としている住居から退去すること及びその住居の付近を徘徊してはならないことを命ずる内容の保護命令)の申立てを検討することになろうかと思います。この保護命令に違反した場合には、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(同法29条)に処せられることになりますから、効果があります。

従前は、「配偶者」のみが同法の保護の対象とされていましたが、平成26年1月の法改正により、「生活の本拠を共にする交際相手」も同法の保護の対象に含まれることになりました(同法28条の2)。ここでいう「生活の本拠を共にする」とは、被害者と加害者が生活の拠り所としている主たる住居を共にしていることを意味しますが、本件のように、一時的にご友人のご自宅に避難しているような場合も、「生活の本拠を共にする」場合に含まれます。

また、保護命令は、裁判所において申立てが認められた上で、相手方に対する告知が行われることにより、その効力を生じることになります(同法15条2項)。この点警察が直接担当するストーカー防止法とは異なります。

裁判所において申立てが認められるための要件は、㋐配偶者等から身体に対する暴力や生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対して害を加える旨を告知してする脅迫)を受けたこと、㋑配偶者等からの身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことです(DV防止法10条1項柱書)。特に、㋑配偶者等からの身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことの要件について、実務上、単に将来暴力を振るうおそれがあるというだけでは足りず、従前配偶者が暴力を振るった頻度、暴力の態様及び被害者に与えた傷害の程度等の諸事情を考慮して、配偶者が被害者に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高い、という必要があります。

本件でこれを見るに、交際相手から「逃げやがって許さない。絶対に見つけ出してやる。」というメッセージが届いているところ、当該メッセージは、直接的に生命又は身体に対して害を加える旨を告知したものではないものの、従前の暴力の態様も斟酌し、配偶者が被害者に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高いとして、㋑配偶者等からの身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいといえる可能性は十分にあると考えられます。

したがって、本件は、適切な主張・立証を行えば、保護命令の申立てが認められる可能性が十分にある事案です。

なお、DV被害に遭われており、未だ避難先を確保することができていない方は、まずは、各都道府県の配偶者暴力相談支援センターに問い合わせ、安全の確保を図ってください。都内で言えば、東京ウィメンズプラザ(03-5467-2455)や東京都女性相談センター(03-5261-3110(多摩支所:042-522-4232))等が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たしています。

保護命令に関する関連事例集参照。

解説:

1 DV防止法の概要

⑴ 配偶者からの暴力は、犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害であることから、平成13年4月、配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るため、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「DV防止法」といいます。)が制定されました。

その後、同法は、平成16年5月、平成19年7月、平成26年1月の法改正を経て、令和元年6月、児童虐待防止対策及び配偶者からの暴力の被害者の保護対策の強化を図るため、被害者の保護に当たり、相互に連携協力を図るべき機関として児童相談所を明記する等の改正が行われています。

⑵ ここでいう「配偶者」は、婚姻届をしている法律上の夫婦ですが、事実婚(内縁関係)の場合や既に離婚している場合(配偶者から暴力等を受けた後に婚姻関係を解消し、引き続き暴力等を受けた場合)を含みます(DV防止法1条3項)。また、配偶者だけでなく生活の本拠を共にする交際相手の場合にも、同法の規定が準用されることになります(同法28条の2)。事実婚、内縁関係とは言えない同居も含むということです。

「生活の本拠を共にする交際相手からの暴力」については、「外部からの発見・介入が困難であり、かつ、継続的になりやすい」ということが認められ、ストーカー規制法や刑法による救済が困難であり、配偶者からの暴力の被害者と同様の救済の必要性が認められることから、平成26年1月の法改正により、「準用」という形でDV防止法の対象となりました。

「生活の本拠を共にする」とは、被害者と加害者が生活の拠り所としている主たる住居を共にしていることを意味します。本件のように、現状では一時的にホテルや実家、友人の自宅に避難していたり、婦人相談所で一時保護を受けていたりする場合も、「生活の本拠を共にする」場合に含まれます。

そして、「生活の本拠を共にする」に当たるか否かは、住民票上の住所によって形式的・画一的に定まるものではなく、共同生活の実態から外形的・客観的に判断されることになります。具体的な判断に当たっては、住民票の記載、賃貸借契約の名義、公共料金の支払名義等の資料を参照します。住民票上の住所が同じであれば、生活上の本拠を共にする、という要件は認められやすくなるといえるでしょう。仮にこれらの資料がない場合も、写真、電子メール、関係者の陳述等から生活の実態を認定し、「生活の本拠を共にする」と判断することになります。

なお、元「生活の本拠を共にする交際相手」の場合の取扱いについては、生活の本拠を共にする交際相手から暴力等を受けた後に生活の本拠を共にする関係を解消し、引き続き暴力等を受けたときは、「配偶者」の場合と同様に適用対象になるとされています(以下、配偶者や生活の本拠を共にする交際相手を纏めて「配偶者等」といいます。)。

⑶ DV防止法でいう「暴力」とは、配偶者等からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいいます(DV防止法1条1項)。そして、「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」とは、いわゆる精神的暴力又は性的暴力のことであり、刑法上の脅迫に当たるような言動もこれに該当します。

⑷ DV防止法による施策としては、①配偶者暴力支援センターにおける相 談又は相談機関の紹介、カウンセリング、被害者及び同伴者の緊急時における安全の確保及び一時保護、被害者の自立生活促進のための情報提供その他の援助、保護命令制度の利用についての情報提供その他の援助、被害者を居住させ保護する施設の利用についての情報提供その他の援助(同法3条)、②婦人相談員による相談や必要な指導(同法4条)、③婦人保護施設における被害者の保護(同法5条)、④保護命令制度(同法10条)等が挙げられます。

④保護命令制度を利用する場合、配偶者等が被害者に対し、身体に対する暴力や生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫)を加えた場合に限り、これを利用することができるとされており(同法10条1項)、①乃至③と比較して要件はひとつ厳格となっています。

同法では、都道府県は、当該都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするとされているほか、市町村は、当該市町村が設置する適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするよう努めるとされています。

例えば、都内で言えば、東京ウィメンズプラザ(03-5467-2455)や東京都女性相談センター(03-5261-3110(多摩支所:042-522-4232))等が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たしています。DV被害に遭われており、未だ避難先を確保することができていない方は、まずは、各都道府県の配偶者暴力相談支援センターにお問い合わせいただき、安全の確保を図ってください。

現在、相談者様はご友人のご自宅に一時的に避難することができているということですので、次項では、保護命令制度について、詳しく解説させていただきます。

2 保護命令制度の概要

⑴ 保護命令の種類としては、①接近禁止命令、②電話等禁止命令、③子への接近禁止命令、④親族等への接近禁止命令、⑤退去命令の5つが挙げられます(DV防止法10条)。

ア ①接近禁止命令

①接近禁止命令は、6か月間、申立人の身辺につきまとい、又は、その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないことを命ずる内容の保護命令です。

イ ②電話等禁止命令

②電話等禁止命令は、①の接近禁止命令の期間中、(a)面会の要求、(b)行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又は、知り得る状態に置くこと、(c)著しく粗野又は乱暴な言動、(d)無言電話、又は、緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話を掛け、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは、電子メールを送信すること、(e)緊急やむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に、電話を掛け、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は、電子メールを送信すること、(f)汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又は、知り得る状態に置くこと、(g)名誉を害する事項を告げ、又は、知り得る状態に置くこと、(h)性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくは、知り得る状態に置き、又は、性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくは、知り得る状態に置くことのいずれの行為も禁止する内容の保護命令です。

ウ ③子への接近禁止命令

③子への接近禁止命令は、①の接近禁止命令の期間中、申立人の同居している子の身辺につきまとい、又は、その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないことを命ずる内容の保護命令です。当該保護命令は、配偶者等が申立人と同居している子を連れ戻す疑いがあるなどの事情があり、子の身上を監護するために申立人が配偶者等と面会せざるを得ない事態が生じるおそれがある場合に、申立人の生命又は身体に対する危険を防止するために発せられることになります。なお、当該子が15歳以上のときは、子の同意がある場合に限られます。

エ ④親族等への接近禁止命令

④親族等への接近禁止命令は、①の接近禁止命令の期間中、申立人の親族その他申立人と社会生活において密接な関係を有する者の身辺につきまとい、又は、その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないことを命ずる内容の保護命令です。配偶者等が親族等の住居に押し掛けて著しく粗野又は乱暴な言動を行っていることなどから、申立人がその親族等に関して配偶者等と面会せざるを得ない事態が生じるおそれがある場合に、申立人の生命又は身体に対する危険を防止するために発せられることになります。

オ ⑤退去命令

最後に、⑤退去命令は、2か月間、申立人と共に生活の本拠としている住居から退去すること及びその住居の付近を徘徊してはならないことを命ずる内容の保護命令です。

カ 保護命令に違反した場合の効果

これらの保護命令に違反した場合、配偶者等に対し、刑事罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)が加えられることになります(同法29条)。

相談者様の場合で言えば、①接近禁止命令、②電話等禁止命令、⑤退去命令の申立てを検討することになろうかと思います。

⑵ 接近禁止命令等の保護命令が発令されるためには、㋐配偶者等から身体に対する暴力や生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対して害を加える旨を告知してする脅迫)を受けたこと、㋑配偶者等からの身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことの2つの要件を充たす必要があります(DV防止法10条1項柱書)。

㋑配偶者等からの身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことの要件について、東京高裁平成14年3月29日決定は、保護命令に違反した場合の制裁の重大性に着目して、「単に将来暴力を振るうおそれがあるというだけでは足りず、従前配偶者が暴力を振るった頻度、暴力の態様及び被害者に与えた傷害の程度等の諸事情から判断して、配偶者が被害者に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高い場合をいう」旨を判旨し、判断枠組みを示しています。なお、当該裁判例では、夫の暴力を契機として別居が開始されて以降、夫が妻に暴力を振るったという事実は認められず、夫が妻に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高いとはいえないとして、保護命令の申立てが却下されました。末尾に判決文を引用していますので参考にしてください。

本件について検討するに、交際相手から暴力を受けた際にできた痣の写真や、交際相手の暴力を友達に相談した際のメッセージのやり取り等が存在するのであれば、㋐配偶者等から身体に対する暴力や生命等に対する脅迫を受けたことについては、証明することができるでしょう。また、交際相手からの「逃げやがって許さない。絶対に見つけ出してやる。」というメッセージがは、直接的に生命又は身体に対して害を加える旨を告知したものではないものの、従前の暴力の態様等も斟酌し、配偶者が被害者に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高いとして、㋑配偶者等からの身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことの要件のついても、証明できる可能性は十分にあると考えられます。

⑶ 上記のとおり、保護命令には六か月という期間が存在し、これが満了すると、その効力は失われることになりますが、再度、保護命令の申立てをすることもできます。

もっとも、再度の保護命令の申立ては、新たな事件として審理されることになるため、当該申立ての段階でも、㋑配偶者等からの身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことを証明する必要があります。再度の保護命令の申立てが認められる典型例としては、例えば、配偶者等が申立人の親族に対し、「保護命令が終わったら痛めつけてやる。」などと発言している場合が挙げられます。

また、退去命令については、前回の退去命令の期間中に申立人がやむを得ない事情(申立人の責めに帰することのできない事由)で住居から転居できなかったような場合に限り、再度の申立てが認められます。他方で、裁判所における審理の結果、退去命令を発令すると、配偶者等の生活に特に著しい支障を生ずると認められる場合には、再度の申立てが認められないこともあります。

なお、保護命令が発令されるまでには一定の期間を要しますので、当該期間を考慮して、再度の保護命令の申立てを行う必要がありますので、この点、注意が必要です。

3 保護命令制度の具体的な手続き

まず、保護命令の申立先となる裁判所は、①相手方となる配偶者等の住所(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所)の所在地を管轄する地方裁判所、②申立人の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所、③相手方となる配偶者等からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫が行われた地を管轄する地方裁判所のいずれかとなります(DV防止法11条)。

次に、保護命令の申立てに当たっては、申立先となる裁判所に対し、次の資料を提出します。

(a)申立書2部(正本・副本)

(b)申立手数料の収入印紙1000円

(c)郵便切手2260円

(d)法律上又は事実上の夫婦であることを証明する資料(例えば、申立人及び相手方の戸籍謄本、住民票)1部、又は、申立人と相手方との関係が生活の本拠を共にする交際であることを証明する資料(例えば、申立人及び相手方の住民票、生活の本拠における交際時の写真、メール又は手紙、住居所における建物の登記事項証明書又は賃貸借契約書の写し、電気料金・水道料金・電話料金の支払請求書の写し)2部

(e) 暴力・脅迫を受けたことを証明する資料(例えば、診断書、受傷部位の写真、本人や第三者の陳述書)2部

(f) 相手方から今後身体的暴力を振るわれて生命、身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことを証明する資料(例えば、本人や第三者の陳述書、相手方からのメール又は手紙)2部等

申立後の具体的な手続きの流れとしては、まず始めに、裁判官による申立人面接が行われるのが通例となっています。申立人面接の終了後、通常、1週間程が経った後に、相手方の意見聴取のための審尋期日が設けられます(同法14条1項)。この審尋期日には、申立人が出席する必要はありません。裁判所は、相手方の言い分を確認し、証拠に照らして保護命令を発令するかどうかを決します。早ければ、相手方の出頭した審尋期日に保護命令が言い渡されますが、事案によっては、再度の申立人面接を行う場合もあります。また、保護命令を発令するかどうかを判断するために数日間を要する場合もあります。そして、保護命令の効力は、相手方に対する告知によって生じることになります(同法15条2項)。

4 まとめ

以上のとおり、本件は、適切な主張・立証を行えば、保護命令の申立てが認められる可能性が十分にある事案といえます。

ただ、やはり、交際相手が生活の本拠を共にする者であることや、交際相手からの身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことを証明するに当たっては、相応のハードルがあることは否定できないため、お近くの法律事務所でご相談いただき、保護命令の申立てのご依頼を検討されることをお勧めいたします。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文・判例

【配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律】

(定義)

第1条

1 この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項及び第二十八条の二において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。

2 この法律において「被害者」とは、配偶者からの暴力を受けた者をいう。

3 この法律にいう「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含み、「離婚」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が、事実上離婚したと同様の事情に入ることを含むものとする。

(配偶者暴力相談支援センター)

第3条

1 都道府県は、当該都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするものとする。

2 市町村は、当該市町村が設置する適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするよう努めるものとする。

3 配偶者暴力相談支援センターは、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のため、次に掲げる業務を行うものとする。

① 被害者に関する各般の問題について、相談に応ずること又は婦人相談員若しくは相談を行う機関を紹介すること。

② 被害者の心身の健康を回復させるため、医学的又は心理学的な指導その他の必要な指導を行うこと。

③ 被害者(被害者がその家族を同伴する場合にあっては、被害者及びその同伴する家族。次号、第六号、第五条、第八条の三及び第九条において同じ。)の緊急時における安全の確保及び一時保護を行うこと。

④ 被害者が自立して生活することを促進するため、就業の促進、住宅の確保、援護等に関する制度の利用等について、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助を行うこと。

⑤ 第四章に定める保護命令の制度の利用について、情報の提供、助言、関係機関への連絡その他の援助を行うこと。

⑥ 被害者を居住させ保護する施設の利用について、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助を行うこと。

4 前項第三号の一時保護は、婦人相談所が、自ら行い、又は厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行うものとする。

5 配偶者暴力相談支援センターは、その業務を行うに当たっては、必要に応じ、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るための活動を行う民間の団体との連携に努めるものとする。

(婦人相談員による相談等)

第4条

婦人相談員は、被害者の相談に応じ、必要な指導を行うことができる。

(婦人保護施設における保護)

第5条

都道府県は、婦人保護施設において被害者の保護を行うことができる。

(保護命令)

第10条

1 被害者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫をいう。以下この章において同じ。)を受けた者に限る。以下この章において同じ。)が、配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合にあっては配偶者からの更なる身体に対する暴力(配偶者からの身体に対する暴力を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。第十二条第一項第二号において同じ。)により、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力(配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。同号において同じ。)により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者。以下この条、同項第三号及び第四号並びに第十八条第一項において同じ。)に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第二号に掲げる事項については、申立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る。

① 命令の効力が生じた日から起算して六月間、被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この号において同じ。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないこと。

② 命令の効力が生じた日から起算して二月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近をはいかいしてはならないこと。

2 前項本文に規定する場合において、同項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して六月を経過する日までの間、被害者に対して次の各号に掲げるいずれの行為もしてはならないことを命ずるものとする。

① 面会を要求すること。

② その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

③ 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。

④ 電話をかけて何も告げず、又は緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。

⑤ 緊急やむを得ない場合を除き、午後十時から午前六時までの間に、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールを送信すること。

⑥ 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

⑦ その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

⑧ その性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくはその知り得る状態に置くこと。

3 第一項本文に規定する場合において、被害者がその成年に達しない子(以下この項及び次項並びに第十二条第一項第三号において単に「子」という。)と同居しているときであって、配偶者が幼年の子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、第一項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して六月を経過する日までの間、当該子の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この項において同じ。)、就学する学校その他の場所において当該子の身辺につきまとい、又は当該子の住居、就学する学校その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。ただし、当該子が十五歳以上であるときは、その同意がある場合に限る。

4 第一項本文に規定する場合において、配偶者が被害者の親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者(被害者と同居している子及び配偶者と同居している者を除く。以下この項及び次項並びに第十二条第一項第四号において「親族等」という。)の住居に押し掛けて著しく粗野又は乱暴な言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、第一項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して六月を経過する日までの間、当該親族等の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この項において同じ。)その他の場所において当該親族等の身辺につきまとい、又は当該親族等の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。

5 前項の申立ては、当該親族等(被害者の十五歳未満の子を除く。以下この項において同じ。)の同意(当該親族等が十五歳未満の者又は成年被後見人である場合にあっては、その法定代理人の同意)がある場合に限り、することができる。

(管轄裁判所)

第11条

1 前条第一項の規定による命令の申立てに係る事件は、相手方の住所(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

2 前条第一項の規定による命令の申立ては、次の各号に掲げる地を管轄する地方裁判所にもすることができる。

① 申立人の住所又は居所の所在地

② 当該申立てに係る配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫が行われた地

(保護命令の申立て)

第12条

1 第十条第一項から第四項までの規定による命令(以下「保護命令」という。)の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない。

① 配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた状況

② 配偶者からの更なる身体に対する暴力又は配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後の配偶者から受ける身体に対する暴力により、生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立ての時における事情

③ 第十条第三項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情

④ 第十条第四項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情

⑤ 配偶者暴力相談支援センターの職員又は警察職員に対し、前各号に掲げる事項について相談し、又は援助若しくは保護を求めた事実の有無及びその事実があるときは、次に掲げる事項

イ 当該配偶者暴力相談支援センター又は当該警察職員の所属官署の名称

ロ 相談し、又は援助若しくは保護を求めた日時及び場所

ハ 相談又は求めた援助若しくは保護の内容

二 相談又は申立人の求めに対して執られた措置の内容

2 前項の書面(以下「申立書」という。)に同項第五号イからニまでに掲げる事項の記載がない場合には、申立書には、同項第一号から第四号までに掲げる事項についての申立人の供述を記載した書面で公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第五十八条ノ二第一項の認証を受けたものを添付しなければならない。

(迅速な裁判)

第13条

裁判所は、保護命令の申立てに係る事件については、速やかに裁判をするものとする。

(保護命令事件の審理の方法)

第14条

1 保護命令は、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより保護命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

2 申立書に第十二条第一項第五号イからニまでに掲げる事項の記載がある場合には、裁判所は、当該配偶者暴力相談支援センター又は当該所属官署の長に対し、申立人が相談し又は援助若しくは保護を求めた際の状況及びこれに対して執られた措置の内容を記載した書面の提出を求めるものとする。この場合において、当該配偶者暴力相談支援センター又は当該所属官署の長は、これに速やかに応ずるものとする。

3 裁判所は、必要があると認める場合には、前項の配偶者暴力相談支援センター若しくは所属官署の長又は申立人から相談を受け、若しくは援助若しくは保護を求められた職員に対し、同項の規定により書面の提出を求めた事項に関して更に説明を求めることができる。

(保護命令の申立てについての決定等)

第15条

1 保護命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。ただし、口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる。

2 保護命令は、相手方に対する決定書の送達又は相手方が出頭した口頭弁論若しくは審尋の期日における言渡しによって、その効力を生ずる。

3 保護命令を発したときは、裁判所書記官は、速やかにその旨及びその内容を申立人の住所又は居所を管轄する警視総監又は道府県警察本部長に通知するものとする。

4 保護命令を発した場合において、申立人が配偶者暴力相談支援センターの職員に対し相談し、又は援助若しくは保護を求めた事実があり、かつ、申立書に当該事実に係る第十二条第一項第五号イからニまでに掲げる事項の記載があるときは、裁判所書記官は、速やかに、保護命令を発した旨及びその内容を、当該申立書に名称が記載された配偶者暴力相談支援センター(当該申立書に名称が記載された配偶者暴力相談支援センターが二以上ある場合にあっては、申立人がその職員に対し相談し、又は援助若しくは保護を求めた日時が最も遅い配偶者暴力相談支援センター)の長に通知するものとする。

5 保護命令は、執行力を有しない。

(この法律の準用)

第28条の2

第二条及び第一章の二から前章までの規定は、生活の本拠を共にする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く。)をする関係にある相手からの暴力(当該関係にある相手からの身体に対する暴力等をいい、当該関係にある相手からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が当該関係を解消した場合にあっては、当該関係にあった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含む。)及び当該暴力を受けた者について準用する。この場合において、これらの規定中「配偶者からの暴力」とあるのは「第二十八条の二に規定する関係にある相手からの暴力」と読み替えるほか、次の表の上欄に掲げる規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。

第二条 被害者 被害者(第二十八条の二に規定する関係にある相手からの暴力を受けた者をいう。以下同じ。)

第六条第一項 配偶者又は配偶者であった者 同条に規定する関係にある相手又は同条に規定する関係にある相手であった者

第十条第一項から第四項まで、第十一条第二項第二号、第十二条第一項第一号から第四号まで及び第十八条第一項 配偶者 第二十八条の二に規定する関係にある相手

第十条第一項 離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合 第二十八条の二に規定する関係を解消した場合

第29条

保護命令(前条において読み替えて準用する第十条第一項から第四項までの規定によるものを含む。次条において同じ。)に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第30条

第十二条第一項(第十八条第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)又は第二十八条の二において読み替えて準用する第十二条第一項(第二十八条の二において準用する第十八条第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定により記載すべき事項について虚偽の記載のある申立書により保護命令の申立てをした者は、十万円以下の過料に処する。

《参考判例》

(東京高裁平成14年3月29日決定)

第1 抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙保護命令に対する即時抗告の申立書(写し)記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断

1 本件疎明資料及び審尋の全趣旨によると、次の事実が一応認められる。

(1) 相手方(昭和36年2月13日生)は、フィリピン国出身の女性であるが、日本のクラブでホステスとして稼働していた際、客として来店していた抗告人(昭和27年5月20日生)と知り合い、平成3年3月28日に婚姻をした。抗告人と相手方との間には、長女花子(平成2年12月25日生)がいる。

(2) 抗告人は、結婚後、相手方及び長女とともに、数年間フィリピン国及びアメリカ合衆国に滞在していたが、そのころ、抗告人は、フィリピン国において、相手方に暴行を振るって傷害を負わせたことがあった。

(3) 抗告人等は、平成8年ころ、日本に戻り、抗告人は、タクシー運転手として稼働するようになり、また、相手方は、クラブのホステスとして稼働するようになったが、その後、荒川区教育委員会の委嘱を受けて英語講師として稼働するようになった。なお、相手方は、平成11年1月19日、日本に帰化をした。

(4) 抗告人と相手方とは、平成13年1月13日夜、自宅において抗告人の給与額等をめぐって口論となり、抗告人が相手方の身体を蹴ったりするなどの暴力を振るった。相手方は、翌14日、東京女子医科大学附属第2病院で受診し、外傷性頚部症候群及び全身打撲と診断され、左側胸部痛があるとして、上記病院には、同年1月中に数回通院した。その後も、相手方は、抗告人及び長女と同居をしていた。

(5) 抗告人と相手方とは、平成14年1月2日夜、自宅において相手方の行動及び抗告人の給与額等をめぐって口論となり、抗告人が相手方の手をつかんで相手方を戸外に引っ張り出した。その後、相手方は、翌3日、荒川警察署に相談に行き、抗告人から「殴られ、蹴る」という暴力を振るわれたと述べたが、けがの症状は特になかった。また、抗告人は、同年2月18日まで病院に受診に行くことはなかった。

(6) 相手方は、平成14年1月2日から抗告人及び長女と別居している。抗告人は、別居後、相手方の居場所を探すなどの行動はとっていない。

(7) 相手方は、平成14年 1月23日、抗告人に対し、東京家庭裁判所に離婚(夫婦関係調整)調停事件の申立てをした。

2 相手方は、平成14年1月2日の件につき、配偶者暴力に関する保護命令申立書(以下「申立書」という。)において、抗告人が「激しく殴打し」、平成13年1月13日と同様の暴行を加えたと主張する。そして、荒川警察署長から提出された「配偶者からの暴力相談等対応票」と題する書面によると、前記のとおり、相手方が、平成14年1月3日に荒川警察署で相談した際にも、「殴られ、蹴る」との暴力を振るわれたと述べた。しかし、前記のとおり、上記書面には、けがの症状につき「特になし」と記載されており、相手方は、平成14年1月2日の件では、病院で受診しておらず、診断書を提出していない。また、相手方は、当審の審尋において、平成14年1月2日の件につき、抗告人と口論となり、抗告人から「家から出なさい。」と言われたのに、相手方が出なかったので、抗告人から手提げ鞄とジャンバーをぶつけられ、鞄は相手方の右肩に、ジャンバーは相手方の顔に当たり、また、手を捻られて家から引っ張り出されたが、抵抗をしなかったので、けがをせず、病院に行っていないと陳述した。さらに、抗告人は、原審の審尋において、平成14年1月2日の件につき、相手方に暴力行為をしたことはなく、口論になり、「出ていけ。」と言って、相手方の手足を引っ張って外に出しただけであると陳述し、また、当審の審尋においては、相手方に暴力を振るったことはなく、相手方の手足を引っ張って外に出したこともないと陳述した。そして、11歳の長女は、平成14年1月2日の件につき、抗告人が相手方に暴力を振るったことを否定する書面を作成し、提出している。

以上によると、平成14年1月2日の件につき、抗告人による暴力の態様に関する相手方の陳述に変遷がある上、これを裏付ける客観的な疎明資料がないので、暴力に関する相手方の上記陳述は、直ちに信用することができず、相手方が申立書で主張する抗告人の暴力の事実について、他に疎明があるとするに足りる資料はない。したがって、平成14年1月2日の件については、前記1で認定したとおり、抗告人が相手方の手をつかんで相手方を戸外に引っ張り出した限度で疎明があるというべきである。

3 ところで、保護命令は、「被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律10条)に発令されることになるが、この保護命令に違反した場合には、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(同法29条)に処せられることに照らすと、上記発令要件については、単に将来暴力を振るうおそれがあるというだけでは足りず、従前配偶者が暴力を振るった頻度、暴力の態様及び被害者に与えた傷害の程度等の諸事情から判断して、配偶者が被害者に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高い場合をいうと解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記1の認定事実によると、抗告人は、平成8年以前にフィリピン国滞在中に相手方に暴力を振るって傷害を負わせ、また、平成13年1月13日に抗告人が相手方の身体を蹴ったりするなどの暴力を振るって抗告人に外傷性頚部症候群及び全身打撲の傷害を負わせているが、平成14年1月2日には、抗告人が相手方の手をつかんで相手方を戸外に引っ張り出したことを超えて、抗告人が相手方に傷害を負わせたということはできず、その後に、相手方に暴力を振るったという事実もない。

したがって、以上の事情によれば、抗告人が相手方に対して更に暴力を振るって相手方の生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高いということはできないというべきである。

4 よって、相手方の本件保護命令の申立ては、その発令要件についての疎明がないから、理由がなく、これを却下すべきであるところ、これを認容した原決定は不当であるから、これを取り消し、保護命令申立費用及び抗告費用は、相手方に負担させることとし、主文のとおり決定する。