メンズエステでのわいせつ行為と逮捕の可能性
刑事|不同意性交等罪|不同意わいせつ罪|令和5年7月13日施行の刑法改正|口淫性交、肛門性交等の内容|処罰の拡大化
目次
質問:
42歳の会社員です。先日、風営法の許可を得ていないメンズエステ店を利用し、コースメニューの中から、マイクロビキニという露出度の高いオプションを選択しました。過去の経験上、このような過激なサービスを提供するお店は、射精を含む性的サービスを提供している場合が多く、つい調子にのってしまい、女性が嫌がっているにもかかわらず、無理やり押し倒して胸を触り、最終的には口淫を強いてしまいました。女性は激怒し、警察に通報すると騒ぎ立てたため、怖くなってお店から逃げ出してしまいました。今後、私はどうなってしまうのでしょうか。
回答:
1 昨今、風営法の許可を受けずに、またホームページ上は性的サービスを提供しない旨を記載しているにもかかわらず、実際は、射精を含む性的サービスを提供するメンズエステ(通称:メンエス)が濫立しております。この種のお店は、通常の賃貸マンションの一室で営まれていることが多く、利用客においては、お忍びで入店する背徳感や、どのようなサービスが提供されるのかという期待も相まって人気を博す一方、正規の風俗店とは異なりサービス内容が画一化されていないことから、当事者の間で齟齬が生じ、トラブルに発生することが間々あります。
2 あなたの行為に成立する犯罪について、女性の意に反して、胸を触り、さらには口淫を強いたとのことですから、不同意わいせつ罪(刑法176条1項)と、不同意性交等罪(同177条)が成立します。両者は併合罪となりますが、通常は重い不同意性交等罪で立件されるでしょう。
3 あなたは店舗から慌てて逃げだしたとのことですが、被害女性が警察に通報した場合、電話番号やLINE履歴からあなたの特定自体はそう難しくはなく、犯罪自体は重い罪責ですから、突然の逮捕の可能性も否定できないところです。
4 あなたが行った行為が間違いないのであれば、弁護士に依頼して警察に出頭の上、身柄拘束を回避するとともに、早急に被害女性との示談交渉を進めるべきです。
5 お困りの場合は、お近くの法律事務所にご相談ください。
6 メンズエステ等に関する関連事例集参照。
解説:
1 成立する犯罪について
まずあなたの行為によって成立する犯罪を解説します。
⑴ 胸を触った行為について
相手の意に反して胸を触ったことで、不同意わいせつ罪が成立する可能性があります(刑法176条1項1号)。犯罪の要件は、「暴行」により、同意しない意思を形成する必要があるところ、ここでいう「暴行」とは、被害者の抵抗を著しく困難にする程度のもので足り、より具体的には「正当の理由なく他人の意思に反してその身体髪膚に力を加えることであり、その力の大小強弱を問わない」(大判大13年10月22日刑集3-749)とされていることから、体を抑えたり、着衣を引っ張ったりする程度の有形力の行使で、「暴行」たり得ます。
あなたは被害女性を押し倒してしまったとのことですから、「暴行」が成立してしまうことは争い難く、また胸部を触れることも「わいせつな行為」にあたることは明らかですから、不同意わいせつ罪が成立するおそれがあります。
⑵ 口腔性交について
次に相手の意に反して口淫させた行為について、不同意性交等が成立する可能性がございます。
すなわち犯罪の要件は、不同意わいせつ罪と同様に、「暴行・脅迫」によって同意をしない意思を形成する必要があるところ、不同意わいせつの行為に及んだ流れで、口腔性交を犯したのであれば、被害女性の不同意の意思が継続していたと考えるのが自然です。また口腔性交も不同意性交等罪に包摂されますので、不同意性交等罪が成立するおそれがあります。
⑶ 同意があったことを誤信したとの弁解について
本件のみならず性犯罪においては「同意の上での行為であったと思った」という弁解が考えられます。
被害者が自由な意思決定による真意の承諾をしたものと誤信したときは、故意を欠くことになり、犯罪は成立しません。
もっとも誤信の有無については、特に本件のように犯行を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を自ら行った場合に、一般的には、承諾があるような状況にはないと考えられ、真意の承諾があると誤信したと認められるには、特別の客観的事情の存在が必要とされており(例えば、そのような強制的な態様での性交に合意していたことを示すやりとりの記録等)、実務上は相当程度厳しい主張と言わざるを得ません。
⑷ 法改正による処罰範囲の変化について
令和5年7月13日施行の刑法改正により、従来の強制わいせつ罪・強制性交等罪は、不同意わいせつ・性交等罪へと改められました。改正前後での処罰範囲の相違についても一言言及します。
結論から述べると、改正によって処罰範囲が拡大したわけではないものの、改正後の方が立件が用意になったもの考えられます。
不同意わいせつ・性交等罪の保護法益は、個人の性的自由でありますから、性犯罪の本質的な要素は、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」といえます。法改正の趣旨は、このような性犯罪の本質的な要素に照らして、処罰範囲を明確化・画一化する点にあり、条文上も「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」(法176条1項本文、177条1項本文)と規定しました。
そして被害者がそのような状態にあったかどうかの判断を行いやすくするため、その原因となり得る行為や事由について、同項1乃至8号で具体的に列挙しました。改正前は、これらの原因行為・事由は、「暴行」・「脅迫」、「心神喪失」・「抗拒不能」と抽象的に定められていたわけですから、より具体化されたものといえます。
そのため改正前と比して、処罰範囲が拡大したというわけではないものの、実際上は、処罰対象が明確化され、また原因行為・事象はより具体的に規定され、改正前は起訴をためらわれた事案についても、立件が用意になったといえます(参考:法務省HP(https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html#Q2-1))。
⑸ 両罪の関係について
不同意わいせつ罪と不同意性交等罪は、それぞれ別個の行為となりますから、併合罪(刑法45条)となります。もっとも一連の流れで行為に及んでいることから、通常は重い不同意性交等罪のみで立件されることが多いです。
2 身柄拘束の可能性
身柄拘束の危険性について、不同意性交等罪は、5年以上の有期懲役刑と、極めて重い処罰が規定され、原則として執行猶予にはならない刑期となっていますから、もしこのまま対応を放置した場合は、警察が突如として自宅に臨場して身柄拘束される可能性が高いといえます。
3 身柄拘束された場合の流れ
逮捕後の流れについて、逮捕後72時間以内に勾留の要否が決せられ,引き続いて勾留(10日間)並びに勾留期間の延長(最長で10日間)がなされる可能性があります(合計23日間)。そして、その期間満了時に、検察庁が起訴をするかどうかを決定します。
あなたは民間の会社員ですから、警察から職場に連絡がなされることは通常ありませんが、23日間の欠勤の説明自体が難しく、また報道のリスクもあることから、このような社会的な不利益を避けるためにも、身柄拘束を回避する対応が必要です。
4 具体的な解決方法
犯罪の成立が争い難い状況であれば、こちらから被害者に対して連絡を取り、早急に示談を成立させるという選択肢があります。
現在、強制性交罪は親告罪(被害者からの告訴がなければ処罰できない犯罪)ではありませんが、実際に被害者による被害申告が為されなければ捜査自体が開始されませんし、仮に告訴されてしまっている場合でも、示談により告訴が取り下げられれば、不起訴処分となる可能性が非常に高いため、早い段階で被害者に接触し、示談の申し入れをすることは、逮捕や処罰の危険を避けることに繋がります。
ただしご本人による被害者への接触は、二次被害や証拠隠滅行為とみなされて却って、逮捕を誘引してしまう結果ともなりかねません。また、示談については示談金の支払いが伴い金額の交渉等も必要になりますし、示談しても再度金s年を要求される危険もあります。そのような危険を避けるためには、同種事案の経験の多い弁護士に相談し、事件に関する正確な見通しを立てた上で、慎重に示談の申し入れを進める必要が大きいでしょう。
5 結語
本件のような事例は、相手方への対応が遅れると、突然の逮捕、処罰に繋がり易い事案です。一方で、迅速な対応ができれば、示談成立により不起訴処分となる可能性も比較的高い事案です。
同種事案の経験ある弁護士に相談の上適切かつ安全な対応を取ることをお勧め致します。
以上